説明

コンバイン

【課題】トランスミッションや脱穀機等の作業機の配置を大幅に変更することなく直列型の油圧−機械式無段変速装置を搭載するコンバインを提供することを目的とする。
【解決手段】ポンプ入力軸である走行ポンプ軸12とモータ出力軸である走行モータ軸14とが同一軸線上となるように油圧ポンプである走行ポンプ20と油圧モータである走行モータ30とを配置し、油圧ポンプである走行ポンプ20のシリンダブロック24と油圧モータである走行モータ30のシリンダブロック24とを一体的に構成した油圧−機械式無段変速装置である走行用HMT10を具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンバインに関する。詳しくは、コンバインの油圧−機械式無段変速装置の配置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、油圧ポンプと油圧モータとを油圧回路で接続して構成される油圧式無段変速装置(HST)を搭載したコンバインが知られている。例えば、特許文献1に記載の如くである。このようなコンバインは、作業状態に応じて任意の走行速度に変更することができるため操作性や作業性に優れている。一方、油圧式無段変速装置(HST)は、エンジンから出力される回転動力を油圧ポンプによって油圧力に変換した後に再び油圧モータによって回転動力に変換する為、エンジン出力の変換効率が低い点で不利であった。
【0003】
そこで、油圧ポンプのポンプ入力軸と油圧モータのモータ出力軸とが同一軸線上となるように油圧ポンプと油圧モータとを直列に配置した直列型の油圧−機械式無段変速装置(HMT)が知られている。直列型の油圧−機械式無段変速装置(HMT)は、油圧回路が形成された油圧ポンプのシリンダブロックと前記油圧モータのシリンダブロックとを一体的に形成してポンプ入力軸に設けたものである。このように構成することで、直列型の油圧−機械式無段変速装置(HMT)は、油圧力を変換した回転動力とエンジンの回転動力とを、歯車機構を介することなく合成して出力可能となる。これにより、直列型の油圧−機械式無段変速装置(HMT)は、エンジン出力の効率を向上させることができる。
【0004】
しかし、直列型の油圧−機械式無段変速装置(HMT)は、油圧ポンプと油圧モータとを軸方向に直列に配置するため、油圧式無段変速装置(HST)に比べて軸方向に大きくなる。従って、コンバインに直列型の油圧−機械式無段変速装置(HMT)を搭載するには、トランスミッションや脱穀機等の作業機の配置を大幅に変更する必要があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−185566号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、トランスミッションや脱穀機等の作業機の配置を大幅に変更することなく直列型の油圧−機械式無段変速装置を搭載するコンバインを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段を説明する。
【0008】
即ち、請求項1においては、油圧ポンプと油圧モータとをポンプ入力軸とモータ出力軸とが同一軸線上となるように配置し、前記油圧ポンプのシリンダブロックと前記油圧モータのシリンダブロックとを一体的に構成した油圧−機械式無段変速装置を具備するコンバインにおいて、前記油圧−機械式無段変速装置をトランスミッションの左右一側面に配置するものである。
【0009】
請求項2においては、前記油圧−機械式無段変速装置は、運転操作部の下方の空間に配置されることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明の効果として、以下に示すような効果を奏する。
【0011】
請求項1においては、脱穀機等の作業機が多数積載されている機体フレーム後方に油圧−機械式無段変速装置を配置する必要がない。よって、エンジン、トランスミッション及び脱穀機等の配置を変更することなく油圧−機械式無段変速装置を搭載することができる。
【0012】
請求項2においては、油圧−機械式無段変速装置を配置するための空間を容易に確保することができる。よって、エンジン、トランスミッション及び脱穀機等の配置を変更することなく油圧−機械式無段変速装置を積載することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施の一形態に係るコンバインの側面図。
【図2】本発明の実施の一形態に係るコンバインの回転動力伝動機構図。
【図3】本発明の実施の一形態に係るコンバインに搭載される油圧−機械式無段変速装置の概略断面図。
【図4】本発明の実施の別形態に係るコンバインの回転動力伝動機構図。
【図5】本発明の実施の一形態に係るコンバインのトランスミッションを示す斜視図。
【図6】本発明の実施の一形態に係るコンバインのトランスミッションの配置を示す斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
まず、本発明の一実施形態に係るコンバイン1の全体構成について説明する。なお、以下の説明では矢印F方向をコンバイン1の前方向として前後方向を規定し、矢印R方向をコンバイン1の右方向として左右方向を規定し、矢印U方向を上方向として上下方向を規定して説明する。
【0015】
図1に示すように、コンバイン1においては、機体フレーム2が左右一対のクローラ式走行装置3によって支持されている。圃場の穀稈を刈り取りながら取り込む刈取部4が、機体フレーム2の前部に昇降調節可能に装着されている。刈取部4により刈り取られた穀稈を脱穀する脱穀部5が、機体フレーム2の左上部に配置されている。脱穀部5により脱穀された処理物を選別する選別部6が、脱穀部5の下部に配置されている。選別部6により選別された穀粒を貯留する穀粒タンク7が、機体フレーム2の右部に配置されている。穀粒タンク7に貯溜された穀粒を外部へ排出する排出オーガ7aが、機体フレーム2の右側後部に配置されている。
【0016】
運転操作部8は、コンバイン1を操作するためのものである。運転操作部8は、機体フレーム2の右側前部に設けられる。運転操作部8は操縦席や変速操作具、操向操作具を含む操作具類や、ステップ等を有し、キャビン8aによって覆われる。運転操作部8は、操縦席に操縦者を着座させ、操作具類により操縦者が各部の装置を操作することができるように構成される。
【0017】
エンジン9は機体フレーム2の右側前部である穀粒タンク7の前方に配置される。エンジン9は動力を各部の装置にトランスミッション100や適宜の伝動機構を介して供給し、エンジン9により各部の装置を駆動させることができるように構成される。
【0018】
トランスミッション100は、エンジン9の動力がクローラ式走行装置3や、刈取部4等へ供給される前に当該動力を変速するものである。トランスミッション100は、機体フレーム2の右側前部に設けられ(図6参照)、エンジン9の前方に配置される。
【0019】
次に、図2及び図3を用いてトランスミッション100の構成について具体的に説明する。
【0020】
図2に示すように、トランスミッション100は、直列型の油圧−機械式無段変速装置で構成される走行用無段変速装置(以下、走行用HMT10という。)、前後進切換装置50、副変速装置60、油圧式無段変速装置で構成される操向用無段変速装置(以下、操向用HST70という。)、伝動機構90、ミッションケース100aを具備する。トランスミッション100は、ミッションケース100aに走行用HMT10、前後進切換装置50、副変速装置60、操向用HST70、操向用出力伝動装置80、伝動機構90等が収容又は配置される。
【0021】
ここで、図3を用いて走行用HMT10について詳細に説明する。
【0022】
走行用HMT10は、エンジン9の動力を作動油を介して無段階に変速するものである。走行用HMT10は、ミッションケース100a上部の右側方に突出するように配置される(図5参照)。走行用HMT10は、可変容量型の走行ポンプ20、固定容量型の走行モータ30、油圧サーボ機構40等を具備する。
【0023】
走行ポンプ20は、走行モータ30に作動油を供給するものである。走行ポンプ20は、走行ポンプ軸12、入力側ハウジング21、斜板保持部材22、入力側斜板23、シリンダブロック24、入力側プランジャ25・25・・・、入力側タイミングスプール26・26・・・、入力側スプールカム27等によって構成される。
【0024】
また、走行モータ30は、作動油の油圧力、及び走行モータ軸14の回転動力により走行モータ軸14を回動させるものである。走行モータ30は、シリンダブロック24、出力側プランジャ31・31・・・、出力側タイミングスプール32・32・・・、出力側スプールカム33、出力側斜板34等によって構成される。
【0025】
走行ポンプ軸12は、一側に入力プーリ11が接続され、途中部にシリンダブロック24が相対回転不能に接続され、他側に入力側斜板23が相対回転不能に接続される。走行ポンプ軸12には、入力プーリ11を介してエンジン9からの回転動力が伝動される。
【0026】
シリンダブロック24は、走行ポンプ軸12とスプライン嵌合により相対回転不能に固定されており、シリンダブロック24と走行ポンプ軸12が一体的に回転する構成としている。
また、シリンダブロック24は、走行ポンプ軸12の軸線方向に往復動する入力側プランジャ25・25・・・及び出力側プランジャ31・31・・・と、同じく軸線方向に往復動する入力側タイミングスプール26・26・・・及び出力側タイミングスプール32・32・・・を収容している。
【0027】
入力側プランジャ25・25・・・は、走行ポンプ軸12の軸線に対する傾斜角度を後述する油圧サーボ機構40により変更可能な入力側斜板23(可動斜板)と、斜板面23aにおいて当接している。出力側プランジャ31・31・・・は、前記軸線に対して所定の傾斜角度を成す出力側斜板34と、斜板面34aにおいて当接している。
入力側斜板23の軸線に対する傾斜角度を変更することにより、入力側プランジャ25・25・・・が往復動する振幅量が変化するため、往復動に伴って吸入及び排出する作動油量が変化する。入力側プランジャ25・25・・・と出力側プランジャ31・31・・・はシリンダブロック24内の油路により連通しているため、作動油量の変化は出力側プランジャ31・31・・・へと伝達される。出力側プランジャ31・31・・・の往復動する振幅量は変化しないため、出力側プランジャ31・31・・・へ供給される作動油量の変化によって、出力側プランジャ31・31・・・が当接している出力側斜板34の回転数を可変とする構成としている。
【0028】
すなわち、走行用HMT10は、走行ポンプ軸12に入力されるエンジン9による一定の入力回転を、入力側斜板23の斜板面23aの軸線に対する傾斜角度を変更することにより、出力側斜板34の回転数を所望する回転数に調整しつつ回転出力を行うことができる。
【0029】
出力側斜板34は、出力側プランジャ31を往復動させる力(即ち、シリンダブロック24内に形成された油圧回路内の作動油の圧力)を後述する走行モータ軸14等の回転動力に変換するものである。
また、出力側斜板34は走行ポンプ軸12が貫通する貫通孔が設けられた略円筒形状の部材であり、その前部には斜板面34aが形成されている。斜板面34aには出力側プランジャ31の突出端が当接する。斜板面34aは走行ポンプ軸12の軸線に対して所定の傾斜角を成している。
【0030】
出力側斜板34の後端には出力ケース13が固定され、出力側斜板34と出力ケース13が一体的に回転する構成としている。なお、出力側斜板34と走行ポンプ軸12との間には軸受が介装されるので、出力側斜板34は走行ポンプ軸12と相対回転可能である。出力ケース13には、略円柱状に形成された走行モータ軸14が連結され、走行用HMT10において変速された動力は当該走行モータ軸14を介して出力される。
【0031】
油圧サーボ機構40は、入力側斜板23の傾斜角度を変更するものである。油圧サーボ機構40は、入力側ハウジング21に前後方向に形成されたシリンダ41と、シリンダ41において前後方向に往復摺動可能に内挿されるピストン42と、当該ピストン42の後端部に固設される掛止部材43等で構成されている。
【0032】
ピストン42の前端部には拡径部42aが形成される。ピストン42の拡径部42aによってシリンダ41内部の空間が2つに仕切られることにより、拡径部42aの前後に2つの油室が形成される。当該2つの油室は、図示しないサーボスプールを介して図示しないチャージポンプと接続される。そして、前記2つの油室にチャージポンプが供給する作動油の方向を切り換えることにより、ピストン42を任意の動作量で前後方向に往復摺動可能としている。
【0033】
掛止部材43は、平面視略U字状に形成したものである。掛止部材43は、ピストン42の後端部(突出端部)に固設されている。掛止部材43は、入力側斜板23の一端部(左端部)に設けられた円柱状の掛止部23bを掛止する。
【0034】
上述の如く構成された走行用HMT10において、コンバイン1の操作レバー等の操作に基づいてピストン42が前後方向に往復摺動されると、掛止部材43及び掛止部23bを介して入力側斜板23の傾斜角度が変更される。これによって、走行用HMT10による変速比を変更(変速)することができる。本実施形態に係る走行用HMT10においては、ピストン42が最も前方に位置している場合には走行モータ軸14は回転せず、コンバイン1の速度は0となり、ピストン42が後方に摺動するにつれて走行モータ軸14の回転数が高くなり、コンバイン1が増速するものとする。つまり、走行用HMT10は、走行モータ軸14が一方向にのみ回転可能に構成される。
【0035】
図2に示すように、前後進切換装置50は、走行用HMT10の走行モータ軸14から出力される回転動力の回転方向を反転させるものである。前後進切換装置50は、ミッションケース100a内部に収容される。前後進切換装置50は、前後進切換軸51、前進クラッチ52、後進クラッチ53等を具備する。
【0036】
前後進切換軸51は、前進クラッチ52及び後進クラッチ53を支持するものである。前後進切換軸51は、前進クラッチ52及び後進クラッチ53を軸方向に摺動可能、かつ前後進切換軸51に対して相対回転不能に支持する。前後進切換軸51の一側端は、ミッションケース100aの左側面を貫通してミッションケース100aの外部に突出するように構成される。ミッションケース100aの前後進切換軸51が貫通している部分には、オイルシールを保持するオイルシールケース100bが形成される。これにより、当該部分からミッションケース100a内部の潤滑油が漏れることを防止している。前後進切換軸51の一端部には、PTOプーリ54が固設される。すなわち、前後進切換軸51は、PTO軸に回転動力を電動している。
【0037】
前進クラッチ52は、走行モータ軸14からの回転動力を前後進切換軸51に選択的に伝動又は遮断するものである。前進クラッチ52は、走行モータ軸14と連動連結される。前進クラッチ52は、走行モータ軸14からの回転動力をクラッチ板の摩擦力を介して前後進切換軸51に伝動又は遮断することができるように構成される。
後進クラッチ53は、走行モータ軸14からの回転動力を前後進切換軸51に選択的に伝動又は遮断するものである。後進クラッチ53は、走行モータ軸14とアイドルギア55を介して連動連結される。後進クラッチ53は、アイドルギア55によって反転されて伝動される走行モータ軸14からの回転動力を、クラッチ板の摩擦力を介して前後進切換軸51に伝動又は遮断することができるように構成される。
また、前後進切換装置50は、前進クラッチ52及び後進クラッチ53が走行用HMT10の走行モータ軸14からの回転動力を前後進切換軸51に伝動しない中立位置を有する。
【0038】
上述の如く構成された前後進切換装置50において、コンバイン1の操作レバー等の操作に基づいて前進クラッチ52が接続された場合、走行モータ軸14からの回転動力は、前後進切換軸51から適宜の伝動機構を介してPTOプーリ54及びクローラ式走行装置3に伝動される。この結果、コンバイン1は前進する。
コンバイン1の操作レバー等の操作に基づいて後進クラッチ53が接続された場合、走行用HMT10の走行モータ軸14からの回転動力は、反転されて前後進切換軸51から適宜の伝動機構を介してPTOプーリ54及びクローラ式走行装置3に伝動される。この結果、コンバイン1は後進する。
コンバイン1の操作レバー等の操作に基づいて、前進クラッチ52及び後進クラッチ53が中立位置に設定された場合、走行モータ軸14からの回転動力は、遮断されてPTOプーリ54及びクローラ式走行装置3に伝動されない。この結果、コンバイン1はエンジン9からの動力によって前後進しない。
【0039】
副変速装置60は、走行モータ軸14から伝動される回転動力の回転速度を多段変速するものである。副変速装置60は、ミッションケース100a内部に収容される。副変速装置60は、副変速軸61、変速クラッチ62等を具備する。
【0040】
副変速軸61は、変速クラッチ62を支持するものである。副変速軸61は、変速クラッチ62を軸方向に摺動可能、かつ副変速軸61に対して相対回転不能に支持する。副変速軸61の一端には、駐車ブレーキ63が接続される。駐車ブレーキ63は、副変速軸61に制動力を付加する。駐車ブレーキ63は、副変速軸61に対して選択的に制動力を付加することで副変速軸61を制動可能にしている。副変速軸61は、後述する伝動機構90の分岐軸97に連動連結される。
【0041】
変速クラッチ62は、前後進切換軸51からの回転動力を副変速軸61に選択的に伝動又は遮断するものである。変速クラッチ62は、前後進切換軸51と連動連結される。変速クラッチ62は、前後進切換軸51からの回転動力をクラッチ板の摩擦力を介して副変速軸61に伝動又は遮断することができるように構成される。
【0042】
上述の如く構成された副変速装置60において、コンバイン1の操作レバー等の操作に基づいて、変速クラッチ62が接続されると、前後進切換軸51からの回転動力は、所定の速度に変速されて副変速軸61から分岐軸97及び適宜の伝動機構を介してクローラ式走行装置3に伝動される。この結果、コンバイン1は所定の速度に変速される。
【0043】
操向用HST70は、作動油を介してエンジン9の動力を無段階に変速するものである。操向用HST70は、ミッションケース100aの右側面であって走行用HMT10の下方に配置される。操向用HST70は、可変容積型の操向ポンプ70P、固定容積型の操向モータ70M、操向ポンプ斜板等から構成される。操向用HST70は、操向ポンプ70Pと操向モータ70Mとが互いに流体接続される。
【0044】
操向ポンプ70Pは、操向モータ70Mに作動油を供給するものである。操向ポンプ70Pは、操向ポンプ軸71、操向ポンプ本体72、操向ポンプ容積調整手段73等から構成される。操向ポンプ軸71はエンジン9と連動連結され、操向ポンプ本体72は操向ポンプ軸71に相対回転不能に支持される。操向ポンプ容積調整手段73は、図示しない可動斜板と制御軸とを有し、該制御軸にて前記可動斜板を傾転させることにより操向ポンプ70Pの容積量を変更することができる。
【0045】
操向モータ70Mは、作動油の油圧により操向モータ軸75を回動させるものである。操向モータ70Mは、操向モータ本体74、操向モータ軸75、図示しない固定斜板から構成される。操向モータ本体74は操向ポンプ本体72と流体接続され、操向モータ軸75に相対回転不能に支持される。図示しない固定斜板は、操向モータ70Mの容積量を固定することができるように、操向モータ本体74に設けられる。
【0046】
こうして、操向用HST70では、操向ポンプ70Pの駆動時に、前記可動斜板の傾転に応じて操向ポンプ70Pの容積量が変更されることによって、操向ポンプ70Pから操向モータ70Mへ吐出される作動油の吐出量及び吐出方向が変更され、操向モータ軸75の回転方向が正又は逆方向に変更されるとともに、回転数が無段階に変更される。
【0047】
操向用出力伝動装置80は、操向用HST70の回転動力を後述の伝動機構90に選択的に伝動又は遮断するものである。操向用出力伝動装置80は、ミッションケース100a内部に収容される。操向用出力伝動装置80には、操向入力軸81、共通軸82、第一操向用出力ギヤ列83a、第二操向用出力ギヤ列83b、操向ブレーキ84、操向クラッチ85等が備えられる。
【0048】
操向入力軸81は、操向モータ70Mの操向モータ軸75と連動連結される。操向入力軸81の一端には、操向ブレーキ84が接続される。
操向ブレーキ84は、操向モータ軸75に制動力を付加するものである。操向ブレーキ84は、操向入力軸81に対して絶えず制動力を付加し、操向モータ軸75の回転動力が所定値以上となると回動するように構成される。
【0049】
共通軸82は、操向クラッチ85を支持するものである。共通軸82は、操向クラッチ85を軸方向に摺動可能、かつ共通軸82に対して相対回転不能に支持する。
操向クラッチ85は、操向入力軸81の回転動力を共通軸82に選択的に伝動又は遮断するものである。操向クラッチ85は、操向入力軸81と連動連結される。操向クラッチ85は、操向入力軸81からの回転動力をクラッチ板の摩擦力を介して共通軸82に伝動又は遮断することができるように構成される。
【0050】
第一操向用出力ギヤ列83a及び第二操向用出力ギヤ列83bは、共通軸82からの回転動力を後述する伝動機構90に伝動するものである。第一操向用出力ギヤ列83a及び第二操向用出力ギヤ列83bは、共通軸82に連動連結される。
また、第一操向用出力ギヤ列83aは、第一遊星ギヤ機構90aの回転軸95にアイドルギアを介して連動連結される。第二操向用出力ギヤ列83bは、第二遊星ギヤ機構90bの回転軸95に連動連結される。従って、第一遊星ギヤ機構90aの回転方向と第二遊星ギヤ機構90bの回転方向とは、互いに反対方向に設定される。第一操向用出力ギヤ列83a及び第二操向用出力ギヤ列83bの伝動比は同一に設定される。
【0051】
上述の如く構成された操向用出力伝動装置80において、コンバイン1の操作レバー等の操作に基づいて、操向クラッチ85が接続されると、操向入力軸81からの回転動力は、共通軸82から第一遊星ギヤ機構90aと第二遊星ギヤ機構90bとを介して左右一対のクローラ式走行装置3に伝動される。この結果、各クローラ式走行装置3が互いに反対方向に回転、もしくは互いに異なる速度で回転し、コンバイン1は操向される。
【0052】
伝動機構90は、走行用HMT10及び操向用HST70からの回転動力を一対のクローラ式走行装置3に伝動するものである。伝動機構90は、ミッションケース100a内部に収容される。伝動機構90は、一対の遊星ギヤ機構、即ち第一遊星ギヤ機構90a及び第二遊星ギヤ機構90b等から構成される。
【0053】
第一遊星ギヤ機構90aは、一方のクローラ式走行装置3に回転動力を伝動するものである。第一遊星ギヤ機構90aは、サンギヤ91、複数の遊星ギヤ92・92・・・、キャリア93、インターナルギヤ94から構成される。第一遊星ギヤ機構90aは、サンギヤ91が回転軸95に固定され、サンギヤ91を同心状に囲繞するようにインターナルギヤ94が配置される。各遊星ギヤ92は、サンギヤ91の外歯とインターナルギヤ94の内歯とに噛合するように介装され、キャリア93に回転自在に軸支される。そして、キャリア93は、第一出力軸96aの一側端に固定される。第一出力軸96aの他側端は、ミッションケース100aの左側面を貫通してミッションケース100aの外部に突出するように構成される。また、第一出力軸96aの他側端は、左側のクローラ式走行装置3に接続される。
【0054】
第二遊星ギヤ機構90bは、他方のクローラ式走行装置3に回転動力を伝動するものである。第二遊星ギヤ機構90bは、サンギヤ91、複数の遊星ギヤ92・92・・・、キャリア93、インターナルギヤ94から構成される。第二遊星ギヤ機構90bは、サンギヤ91が回転軸95に固定され、サンギヤ91を同心状に囲繞するようにインターナルギヤ94が配置される。各遊星ギヤ92は、サンギヤ91の外歯とインターナルギヤ94の内歯とに噛合するように介装され、キャリア93に回転自在に軸支される。そして、キャリア93は、第二出力軸96bの一側端に固定される。第二出力軸96bの他側端は、ミッションケース100aの右側面を貫通してミッションケース100aの外部に突出するように構成される。また、第二出力軸96bの他側端は、右側のクローラ式走行装置3に接続される。
【0055】
分岐軸97は、第一走行用出力ギヤ列98aを介して第一遊星ギヤ機構90aに連動連結される。また、分岐軸97は、第二走行用出力ギヤ列98bを介して第二遊星ギヤ機構90bに連動連結される。
第一遊星ギヤ機構90aのインターナルギヤ94には、分岐軸97からの回転動力が第一走行用出力ギヤ列98aを介して伝動される。第二遊星ギヤ機構90bのインターナルギヤ94には、分岐軸97からの回転動力が第二走行用出力ギヤ列98bを介して伝動される。第一走行用出力ギヤ列98a及び第二走行用出力ギヤ列98bの各伝動方向及び伝動比は、互いに同一に設定される。
【0056】
第一遊星ギヤ機構90aのサンギヤ91には、第一操向用出力ギヤ列83aからの回転動力が回転軸95を介して伝動される。第二遊星ギヤ機構90bのサンギヤ91には、第二操向用出力ギヤ列83bからの回転動力が回転軸95を介して伝動される。
【0057】
上述の如く構成された伝動機構90において、走行用HMT10及び操向用HST70からの回転動力は、サンギヤ91及びインターナルギヤ94によって合成される。そして、合成された回転動力は、第一出力軸96a及び第二出力軸96bを介して左右のクローラ式走行装置3に伝動される。この結果、コンバイン1は走行、及び操向される。
【0058】
次に、トランスミッション100の動作態様について説明する。
【0059】
操向用HST70の操向モータ70Mが停止し、走行用HMT10の走行モータ30が駆動する場合、走行モータ30の回転動力が、走行モータ軸14から、前後進切換軸51、副変速軸61、分岐軸97、第一走行用出力ギヤ列98a及び第二走行用出力ギヤ列98b、第一遊星ギヤ機構90a及び第二遊星ギヤ機構90bのインターナルギヤ94、遊星ギヤ92、キャリア93の順に各部材に伝動され、ついで第一出力軸96a及び第二出力軸96bに伝動される。
【0060】
この回転動力の伝動によって、第一出力軸96aと第二出力軸96bとが同一回転数で回転され、ひいては左右の各クローラ式走行装置3に備えられた駆動輪3a・3bが同一回転方向に同一回転数で回転される。その結果、左右のクローラ式走行装置3が同一方向に同一速度で駆動され、機体の前後方向における直進走行が行われる。
【0061】
走行用HMT10の走行モータ30が停止し、操向用HST70の操向モータ70Mが駆動する場合、操向モータ70Mの回転動力が、操向モータ軸75から、操向用出力伝動装置80の操向入力軸81、共通軸82、第一操向用出力ギヤ列83a及び第二操向用出力ギヤ列83b、第一遊星ギヤ機構90a及び第二遊星ギヤ機構90bのサンギヤ91、遊星ギヤ92、キャリア93の順に各部材に伝動され、ついで第一出力軸96a及び第二出力軸96bに伝動される。
【0062】
この回転動力の伝動によって、第一出力軸96aと第二出力軸96bとが互いに反対方向に回転され、ひいては左右一方のクローラ式走行装置3の駆動輪3a又は3bが正又は逆方向へ回転され、左右他方のクローラ式走行装置3の駆動輪3a又は3bが逆又は正方向へ回転される。その結果、左右のクローラ式走行装置3が駆動され、その場で機体のスピンターン旋回が行われる。これにより、たとえば圃場や枕地での方向転換が可能とされる。
【0063】
走行用HMT10における走行モータ30が駆動するとともに、操向用HST70の操向モータ70Mが駆動する場合、走行モータ30から前後進切換装置50、副変速装置60等を介して伝動される回転動力と、操向モータ70Mから操向用出力伝動装置80を介して伝動される回転動力とが、第一遊星ギヤ機構90a及び第二遊星ギヤ機構90bでそれぞれ合成され後、第一出力軸96a及び第二出力軸96bに伝動される。
【0064】
この回転動力の伝動によって、第一出力軸96a及び第二出力軸96bが互いに異なる回転数で回転され、ひいては左右の各クローラ式走行装置3の駆動輪3a・3bが互いに異なる回転数で回転される。その結果、左右のクローラ式走行装置3が速度差をもって駆動され、機体の走行と左又は右方向への旋回とが同時に行われる。なお、旋回方向及び旋回半径は左右のクローラ式走行装置3の速度差に応じて決定される。
【0065】
次に、図4を用いてトランスミッション100の別実施形態であるトランスミッション200の構成について説明する。なお、以下では、上述の実施形態に係るトランスミッション100と異なる点についてのみ説明し、トランスミッション100と略同一の構成の部材には同一の符号を付し、説明を省略する。
【0066】
図4に示すように、トランスミッション200は、直列型の油圧−機械式無段変速装置で構成される走行用無段変速装置(以下、走行用HMT10という。)、前後進切換装置50、副変速装置60、伝動機構190、ミッションケース200aを具備する。トランスミッション200は、ミッションケース200aに走行用HMT10、前後進切換装置50、副変速装置60、伝動機構190等が収容又は配置される。
【0067】
伝動機構190は、走行用HMT10及び操向用HST70からの回転動力を一対のクローラ式走行装置3に伝動するものである。伝動機構190は、ミッションケース200a内部に収容される。伝動機構190は、伝動軸191、左サイドクラッチ192、右サイドクラッチ193等から構成される。
【0068】
伝動軸191は、左サイドクラッチ192及び右サイドクラッチ193を支持するものである。伝動軸191は、左サイドクラッチ192及び右サイドクラッチ193を軸方向に摺動可能、かつ回転自在に支持する。伝動軸191は、副変速軸61に連動連結される。
【0069】
左サイドクラッチ192は、副変速軸61からの回転動力を第一出力軸96aに選択的に伝動又は遮断するものである。左サイドクラッチ192は、第一出力軸96aに連動連結される。左サイドクラッチ192は、副変速軸61からの回転動力をクラッチ板の摩擦力を介して伝動軸191に伝動又は遮断することができるように構成される。また、左サイドクラッチ192には、左クラッチブレーキ194が接続される。左クラッチブレーキ194は、左サイドクラッチ192を介して第一出力軸96aに制動力を付加する。左クラッチブレーキ194は、第一出力軸96aに対して回動力を遮断した場合に制動力を付加することで第一出力軸96aを制動可能にしている。
【0070】
右サイドクラッチ193は、副変速軸61からの回転動力を第二出力軸96bに選択的に伝動又は遮断するものである。右サイドクラッチ193は、第二出力軸96bに連動連結される。右サイドクラッチ193は、副変速軸61からの回転動力をクラッチ板の摩擦力を介して伝動軸191に伝動又は遮断することができるように構成される。また、右サイドクラッチ193には、右クラッチブレーキ195が接続される。右クラッチブレーキ195は、右サイドクラッチ193を介して第二出力軸96bに制動力を付加する。右クラッチブレーキ195は、第二出力軸96bに対して回動力を遮断した場合に制動力を付加することで第二出力軸96bを制動可能にしている。左サイドクラッチ192及び右サイドクラッチ193の伝動比は同一に設定される。
【0071】
上述の如く構成された伝動機構190において、コンバイン1の操作レバー等の操作に基づいて左サイドクラッチ192及び右サイドクラッチ193が接続された場合、副変速軸61からの回転動力は、第一出力軸96a及び第二出力軸96bを介して左右のクローラ式走行装置3に伝動される。この結果、コンバイン1は前進する。
コンバイン1の操作レバー等の操作に基づいて左サイドクラッチ192のみが接続された場合、副変速軸61からの回転動力は、第一出力軸96aを介して左側のクローラ式走行装置3のみに伝動される。この結果、コンバイン1は右方向に旋回する。
コンバイン1の操作レバー等の操作に基づいて右サイドクラッチ193のみが接続された場合、副変速軸61からの回転動力は、第二出力軸96bを介して右側のクローラ式走行装置3のみに伝動される。この結果、コンバイン1は左方向に旋回する。
コンバイン1の操作レバー等の操作に基づいて、左サイドクラッチ192及び右サイドクラッチ193が接続されない場合、副変速軸61からの回転動力は、遮断されてクローラ式走行装置3に伝動されないとともに、左サイドブレーキ及び右サイドブレーキによってクローラ式走行装置3が停止される。この結果、コンバイン1は停止する。
【0072】
次に、図5及び図6を用いて機体フレーム2に対する走行用HMT10の配置について詳細に説明する。
【0073】
図5に示すように、トランスミッション100(200)の上方には、走行用HMT10が配置される。この際、走行用HMT10は、入力プーリ11がミッションケース100aの左側になるようにして、ミッションケース100a(200a)の右側方に突出するように配置される。また、トランスミッション100(200)の下方左側には、ミッションケース100a(200a)から突出した第一出力軸96aが配置され、トランスミッション100(200)の下方右側には、第二出力軸96bが配置されている。
【0074】
図6に示すように、トランスミッション100(200)は、機体フレーム2の右側前部に設けられる。機体フレーム2の右側前部には、四角形状に枠組みされた機体フレーム2の右側前部から、運転操作部8の大きさに合わせた矩形状の前フレーム2aが前方に延設される。更に、該前フレーム2aの前部及び右側部よりより上方に載置フレーム2bが延設される。該載置フレーム2b上には運転操作部8が載置される。この前フレーム2aと載置フレーム2bより囲まれた空間を空間Sとして、トランスミッション100(200)は、走行用HMT10の右側が空間Sに入り込むように機体フレーム2に配置される。つまり、トランスミッション100(200)の走行用HMT10は、運転操作部8の下方に構成される空間Sに配置される。
同時に、トランスミッション100(200)は、その下方左側から突出している第一出力軸96aが左側のクローラ式走行装置3に接続され、トランスミッション100(200)の下方右側から突出している第二出力軸96bが右側のクローラ式走行装置3に接続されるように配置される。
このように構成することで、走行用HMT10がトランスミッション100(200)の右側方に突出していても、走行用HMT10を搭載していないトランスミッション100(200)を配置する場合と、略同一の箇所にトランスミッション100(200)を配置することができる。
【0075】
以上の如く、コンバイン1は、ポンプ入力軸である走行ポンプ軸12とモータ出力軸である走行モータ軸14とが同一軸線上となるように油圧ポンプである走行ポンプ20と油圧モータである走行モータ30とを配置し、油圧ポンプである走行ポンプ20のシリンダブロック24と油圧モータである走行モータ30のシリンダブロック24とを一体的に構成した油圧−機械式無段変速装置である走行用HMT10を具備するコンバイン1において、前記油圧−機械式無段変速装置である走行用HMT10をトランスミッション100(200)の左右一側面に配置するものである。
このように構成することにより、脱穀機等の作業機が多数積載されている機体フレーム2後方に走行用HMT10を配置する必要がない。よって、エンジン9、トランスミッション100(200)及び脱穀機等の配置を変更することなく走行用HMT10を搭載することができる。
【0076】
また、油圧−機械式無段変速装置である走行用HMT10は、運転操作部8の下方の空間である空間Sに配置されるものである。
このように構成することにより、走行用HMT10を配置するための空間を容易に確保することができる。よって、エンジン9、トランスミッション100(200)及び脱穀機等の配置を変更することなく走行用HMT10を積載することができる。
【符号の説明】
【0077】
1 コンバイン
10 走行用HMT
12 走行ポンプ軸
14 走行モータ軸
20 走行ポンプ
24 シリンダブロック
30 走行モータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
油圧ポンプと油圧モータとをポンプ入力軸とモータ出力軸とが同一軸線上となるように配置し、前記油圧ポンプのシリンダブロックと前記油圧モータのシリンダブロックとを一体的に構成した油圧−機械式無段変速装置を具備するコンバインにおいて、
前記油圧−機械式無段変速装置をトランスミッションの左右一側面に配置するコンバイン。
【請求項2】
前記油圧−機械式無段変速装置は、
運転操作部の下方の空間に配置されることを特徴とする請求項1に記載のコンバイン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−86815(P2012−86815A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−237840(P2010−237840)
【出願日】平成22年10月22日(2010.10.22)
【出願人】(000006781)ヤンマー株式会社 (3,810)
【Fターム(参考)】