説明

コーティング体

【課題】固体酸化物形燃料電池のセルの空気極側のインターコネクタ(SUS材料)の表面がコーティング膜で覆われたコーティング体であって、温度変化の激しい環境下に置かれてもコーティング膜の剥離が発生し難いものを提供すること。
【解決手段】スピネル型結晶構造を有する遷移金属酸化物(MnCo)を構成する各金属元素(Mn,Co)の粉末がコーティング膜の出発原料とされる。この粉末の混合物を含むペーストの膜がインターコネクタの表面に形成された状態でペーストを焼成して、コーティング膜が形成される。このコーティング体では、コーティング膜とインターコネクタとの境界部にて、インターコネクタに近い側から順に、Crを含んで構成されるクロミア層、Mn,Co,Fe,Cr,及びOの元素を含んで構成される第1層、及び、Mn,Co,Fe,及びOの元素を含んで構成される第2層が介在している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電部材の表面がコーティング膜で覆われたコーティング体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
固体酸化物形燃料電池(Solid Oxide Fuel Cell:SOFC)のセル(単電池)は、固体電解質と、固体電解質と一体的に配置された燃料極と、固体電解質と一体的に配置された空気極とを備えている。このSOFCのセルに対して、燃料極に燃料ガス(水素ガス等)を供給するとともに空気極に酸素を含むガス(空気等)を供給することにより、下記(1)、(2)式に示す化学反応が発生する。これにより、燃料極と空気極との間に電位差が発生する。
(1/2)・O+2e−→O2− (於:空気極) …(1)
+O2−→HO+2e−
(於:燃料極) …(2)
【0003】
SOFCでは、通常、燃料極と空気極のそれぞれに集電用の導電性接続部材(以下、インターコネクタと呼ぶ。)が接合剤により接合・固定され、それぞれのインターコネクタを介して前記電位差に基づく電力が外部に取り出される。以下、特に、空気極とインターコネクタとの接合に着目する。
【0004】
従来、空気極とインターコネクタとを接合して空気極とインターコネクタとを電気的に接続する接合剤として、高価なPt材料が用いられてきた。コスト低減のため、Pt材料の代替材料として、メタル系では銀系材料、セラミック系では導電性セラミック材料が考えられる。例えば、特許文献1では、空気極とインターコネクタとを強固に接合する導電性セラミック材料として、La−Sr−Co−Fe系ペロブスカイト型複合酸化物が挙げられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−339904号公報
【発明の概要】
【0006】
ところで、空気極側のインターコネクタの材料として、通常、Fe及びCrを含むフェライト系ステンレス鋼(フェライト系SUS材料)等が使用される。この場合、SOFCの作動中(即ち、高温雰囲気(例えば、800℃))において、SUS材料の表面からCrが放出され、放出されたCrがSUS材料の周りに拡散していく現象が発生する。以下、この現象を「Cr拡散」と呼ぶ。
【0007】
Cr拡散により拡散するCrが空気極の表面に付着すると、上記(1)式にて表される空気極での反応に寄与し得る空気極の表面積が減少し、この反応の速度が低下し得る。この結果、SOFCの出力密度が低下する等の問題(所謂、空気極のCr被毒)が生じ得る。係る「空気極のCr被毒」の程度を抑制するためにはCr拡散を抑制する必要がある。Cr拡散を抑制するため、SUS材料の表面をコーティング膜で覆うことが考えられる。
【0008】
本発明者は、係るコーティング膜の材料として、スピネル型結晶構造を有する遷移金属酸化物(例えば、MnCo、CuMn)に注目している。導電性のスピネル型酸化物は、上述したペロブスカイト型酸化物に比して導電性は若干劣るものの、焼結性に優れる特徴を有する。
【0009】
係るスピネル系材料がコーティング膜の材料として用いられる場合、SUS材料の表面にコーティング膜の前駆体であるペーストの膜が形成された状態でペーストが焼成される。これにより、スピネル系材料からなる焼結体である導電性コーティング膜によって空気極側のインターコネクタの表面(即ち、SUS材料の表面)が覆われたコーティング体が得られる。
【0010】
空気極側のインターコネクタの雰囲気温度は、SOFCの起動・停止により、常温(SOFC停止状態)からSOFCの作動温度(例えば、700〜800℃)である高温までの間で大きく変動し得る。即ち、上記コーティング体は、温度変化の激しい環境下に置かれる。一般に、コーティング体が温度変化の激しい環境下に置かれると、コーティング膜が剥離する現象が発生し得る。以上より、上記コーティング体では、Cr拡散量が少ないことが要求されることに加え、温度変化の激しい環境下に置かれてもコーティング膜の剥離が発生し難いことも要求される。
【0011】
本発明者は、スピネル系材料を有するコーティング膜により導電部材(Fe及びCrを含む金属からなる)の表面(の一部又は全部)が覆われたコーティング体であって、温度変化の激しい環境下に置かれてもコーティング膜の剥離が発生し難いものを見出した。
【0012】
即ち、本発明に係るコーティング体は、FeとCrを含む金属(例えば、フェライト系ステンレス鋼)からなる導電部材と、化学式AB(ただし、A:Mn,Cuから選択される少なくとも1種類の金属元素、B:Co,Mnから選択される少なくとも1種類の金属元素)で表されるスピネル型結晶構造を有する遷移金属酸化物を含んで構成され前記導電部材の表面(の一部又は全部)を覆うコーティング膜とを備える。
【0013】
ここにおいて、前記導電部材は、例えば、固体電解質、前記固体電解質と一体的に配置されるとともに燃料ガスと接触して前記燃料ガスを反応させる燃料極、及び前記固体電解質と一体的に配置されるとともに酸素を含むガスと接触して前記酸素を含むガスを反応させる空気極を備えた固体酸化物形燃料電池のセルにおける前記空気極と、外部の導電部材と、を電気的に接続するインターコネクタである。
【0014】
本発明に係るコーティング体の特徴は、以下の点にある。即ち、前記コーティング膜と前記導電部材との境界部には、厚さが1〜7μmであり且つA,B,Fe,Cr,及びOの元素を含んで(のみから)構成される第1層であって、第1層内のCr濃度の範囲が前記導電部材内のCr濃度の平均値に対して0.1〜0.5倍の範囲にある第1層が介在している。ここで、「Cr濃度」とは、Cr(クロム)の質量濃度、或いは体積濃度である。
【0015】
より具体的には、前記境界部における前記第1層よりも前記導電部材に近い側には、厚さが1〜5μmであり且つCrを含んで(のみから)構成されるクロミア層であって、クロミア層内のCr濃度の最大値が前記導電部材内のCr濃度の平均値に対して1.5〜4倍の範囲にあるクロミア層が介在している。ここで、前記クロミア層の厚さの数値(1〜5μm)は、コーティング体作製直後(固体酸化物形燃料電池の組立完了直後)、若しくは、コーティング体が固体酸化物形燃料電池の作動温度相当の高温雰囲気に曝される延べ時間(固体酸化物形燃料電池の延べ作動時間)が100時間以内の条件下での値である。なお、クロミア層の厚さは、前記高温雰囲気に曝される延べ時間(固体酸化物形燃料電池の延べ作動時間)が増大するにつれて増大していく。
【0016】
また、前記境界部における前記第1層よりも前記コーティング膜に近い側には、厚さが3〜10μmであり且つA,B,Fe,及びOの元素を含んで(のみから)構成される第2層であって、第2層内のCr濃度の最大値が前記第1層内のCr濃度の最小値よりも小さい(ゼロを含む)第2層が介在している。
【0017】
また、上記本発明に係るコーティング体における前記コーティング膜は、共連続構造を有するとともに、複数の結晶面が表面に露呈する球状の粒子であって前記結晶面の輪郭を構成する複数の辺のうちで長さが1μm以上の辺を有する(1つ又は複数の)粒子を含む、という特徴を有する。ここで、「共連続構造」とは、セラミック粒子が集合して隣り合う粒子の接点同士が焼結により繋がった点接触的な構造ではなく、2以上の(太い)腕部が延びる基部が3次元的(立体的)に多数配置され、異なる前記基部から延びる前記腕部同士が3次元的(立体的)に互いに接続し合うことで多数の前記基部が前記腕部を介して3次元的(立体的)に(ネットワーク状に)互いに連結された構造を指す。共連続構造内において基部及び腕部を除いた領域には3次元的(立体的)に(ネットワーク状に)連続する空隙(気孔)が形成されている。共連続構造は、三次元網目構造と言い換えることもできる。また、前記コーティング膜において前記粒子が複数含まれている場合、各粒子が、結晶面の輪郭を構成する複数の辺のうちで長さが1μm以上の辺を有することが好ましい。
【0018】
前記共連続構造において、多数の基部同士を互いに連結する腕部の太さは、0.3〜2.5μmであることが好ましい。前記粒子の直径は、5〜80μmであることが好ましい。また、前記遷移金属酸化物は、MnCo、及びCuMnのうちの1つを含むことが好ましい。
【0019】
このようなスピネル系材料からなるコーティング膜は、A,及びBの元素の粉末の混合物を含むペーストの膜が前記導電部材の表面に形成された状態で前記ペーストを焼成することで形成され得る。このように、出発原料としての前記各金属元素の粉末を焼成時に酸化させることでスピネル系材料からなるコーティング膜が形成される場合、焼成温度を比較的低温(例えば、700〜900℃)に設定しても、コーティング膜(焼結体)が十分に緻密化され得る。
【0020】
以上の特徴を有する本発明に係るコーティング体では、特に、温度変化の激しい環境下においてコーティング膜の剥離が発生し難いことが見出された。
【0021】
上記本発明に係るコーティング体における前記コーティング膜では、前記遷移金属酸化物に加えて貴金属が含まれていてもよい。貴金属としては、例えば、Pt,Agが挙げられる。コーティング膜に貴金属を含ませることにより、コーティング膜そのものの電気抵抗を小さくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の実施形態に係る「SOFCのセルの空気極側のインターコネクタがコーティング膜で覆われたコーティング体」を含むSOFCのセルを示した模式図である。
【図2】図1に示したコーティング体の拡大断面図である。
【図3】本発明の実施形態に係るコーティング体に含まれるコーティング膜を走査電子顕微鏡で1000倍に拡大して観察した様子を示した図である。
【図4】本発明の実施形態に係るコーティング体に含まれるコーティング膜を走査電子顕微鏡で5000倍に拡大して観察した様子を示した図である。
【図5】本発明の実施形態に係るコーティング体に含まれるコーティング膜を走査電子顕微鏡で10000倍に拡大して観察した様子を示した図である。
【図6】本発明の実施形態に係るコーティング体に含まれるコーティング膜を走査電子顕微鏡で5000倍に拡大して観察した様子を示した図である。
【図7】本発明の実施形態に係るコーティング体に含まれるコーティング膜を走査電子顕微鏡で10000倍に拡大して観察した様子を示した図である。
【図8】本発明の実施形態に係るコーティング体におけるインターコネクタとコーティング膜との境界部近傍の断面を電子放射型分析電子顕微鏡で2000倍に拡大して観察して得られた画像の一例である。
【図9】図8に示す画像における境界部を含む一部の画像である。
【図10】図9に示す画像に対応する箇所について酸素のマッピングを行った結果を示す画像である。
【図11】図9に示す画像に対応する箇所についてマンガンのマッピングを行った結果を示す画像である。
【図12】図9に示す画像に対応する箇所についてコバルトのマッピングを行った結果を示す画像である。
【図13】図9に示す画像に対応する箇所について鉄のマッピングを行った結果を示す画像である。
【図14】図9に示す画像に対応する箇所についてクロムのマッピングを行った結果を示す画像である。
【図15】図9に示す画像に対応する箇所についての厚さ方向に対するCr濃度の推移を示すグラフである。
【図16】比較例に係るコーティング膜を走査電子顕微鏡で5000倍に拡大して観察した様子を示した図である。
【図17】比較例に係るコーティング膜を走査電子顕微鏡で10000倍に拡大して観察した様子を示した図である。
【図18】比較例に係るコーティング体におけるインターコネクタとコーティング膜との境界部近傍の断面を電子放射型分析電子顕微鏡で2000倍に拡大して観察して得られた画像の一例である。
【図19】図18に示す画像における境界部を含む一部の画像である。
【図20】図19に示す画像に対応する箇所について酸素のマッピングを行った結果を示す画像である。
【図21】図19に示す画像に対応する箇所についてマンガンのマッピングを行った結果を示す画像である。
【図22】図19に示す画像に対応する箇所についてコバルトのマッピングを行った結果を示す画像である。
【図23】図19に示す画像に対応する箇所について鉄のマッピングを行った結果を示す画像である。
【図24】図19に示す画像に対応する箇所についてクロムのマッピングを行った結果を示す画像である。
【図25】図19に示す画像に対応する箇所についての厚さ方向に対するCr濃度の推移を、図15に示した推移と比較しながら示すグラフである。
【図26】熱サイクル試験に対する耐久性評価用のサンプルの構成を示した模式図である。
【図27】Cr拡散量の評価に使用される試験装置の模式図である。
【図28】Cr拡散量の評価結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
(構成)
図1は、本発明の実施形態に係る「SOFCのセルの空気極側のインターコネクタがコーティング膜で覆われたコーティング体」とセルの空気極とが接合剤により接合された接合体の一例を示す。図1に示す接合体では、SOFCのセル100は、燃料極110と、燃料極110の上に積層された電解質120と、電解質120の上に積層された反応防止層130と、反応防止層130の上に積層された空気極140と、からなる積層体である。このセル100を上方からみた形状は、例えば、1辺が1〜10cmの正方形、長辺が5〜30cmで短辺が3〜15cmの長方形、又は直径が10cmの円形である。
【0024】
燃料極110(アノード電極)は、例えば、酸化ニッケルNiOとイットリア安定化ジルコニアYSZとから構成される多孔質の薄板状の焼成体である。燃料極110の厚さT1は0.3〜3mmである。セル100の各構成部材の厚さのうち燃料極110の厚さが最も大きく、燃料極110は、セル100の支持基板として機能している。
【0025】
電解質120は、YSZから構成される緻密な薄板状の焼成体である。電解質120の厚さT2は3〜30μmである。
【0026】
反応防止層130は、セリアからなる緻密な薄板状の焼成体である。セリアとしては、具体的には、GDC(ガドリニウムドープセリア)、SDC(サマリウムドープセリア)等が挙げられる。反応防止層130の厚さT3は3〜20μmである。なお、反応防止層130は、セル作製時、又はSOFCの作動中のセル100内において、電解質120内のジルコニウムと空気極140内のストロンチウムとが反応して電解質120と空気極140との間の電気抵抗が増大する現象の発生を抑制するために、電解質120と空気極140との間に介装されている。
【0027】
空気極140(カソード電極)は、ベース層141と、最外層142との2層からなる。ベース層141は、ランタンストロンチウムコバルトフェライトLSCF(La0.6Sr0.4Co0.2Fe0.8)からなる多孔質の薄板状の焼成体である。最外層142は、マンガンを含むペロブスカイト構造を有する多孔質の薄板状の焼成体である。最外層142は、例えば、ランタンストロンチウムマンガナイトLSM(La0.8Sr0.2MnO)、ランタンマンガナイトLM(LaMnO)等から構成される。空気極140において、ベース層141の厚さT41は5〜50μmであり、最外層142の厚さT42は5〜50μmである。
【0028】
なお、空気極140が2層となっているのは、LSMよりもLSCFの方が活性が高くて上記(1)式に示す化学反応の反応速度が速いという事実、並びに、LSCFよりもLSMの方がスピネル系材料を有する接合剤との接合強度が大きいという事実に基づく。即ち、空気極140内での上記(1)式に示す化学反応の反応速度を大きくし、且つ、空気極と接合剤との接合強度を大きくするために、空気極140が2層とされている。
【0029】
なお、上記の例ではベース層141がLSCF層の1層から構成されているが、ベース層141が複数の層から構成されてもよい。例えば、ベース層141が、反応防止層130の上に積層されたLSCF層(空気極)と、そのLSCF層の上に積層された(即ち、LSCF層と最外層(LSM層)142との間に介装された)ランタンストロンチウムコバルトLSC(La0.8Sr0.2CoO)層(集電層)との2層から構成されてもよい。更に、LSC層と最外層(LSM層)142との間にLSCF層(熱応力緩衝層)が介装されてもよい(即ち、ベース層141が3層から構成されてもよい)。また、空気極の材料として、LSCFに代えて、LSC、ランタンストロンチウムフェライトLSF(La0.8Sr0.2FeO)、ランタンニッケルフェライトLNF(LaNi0.6Fe0.4)等が使用されてもよい。
【0030】
インターコネクタ200(前記「導電部材」に対応)は、フェライト系SUS材料(Fe,Crを含むフェライト系ステンレス鋼)からなる導電部材である。上述した「Cr拡散」による「空気極のCr被毒」を抑制するため、図2に示すように、インターコネクタ200の表面の全面は、コーティング膜210で覆われている。これにより、インターコネクタ200がコーティング膜210で覆われたコーティング体が形成されている。なお、インターコネクタ200の表面の一部(特に、空気極140の最外層142に面する(最外層142の方を向いている)一部)のみがコーティング膜210で覆われていてもよい。
【0031】
コーティング膜210は、スピネル型結晶構造を有する遷移金属酸化物から構成される焼成体である。遷移金属酸化物は、化学式AB(ただし、A:Mn,Cuから選択される少なくとも1種類の金属元素、B:Co,Mnから選択される少なくとも1種類の金属元素)で表され、例えば、MnCo、CuMn等から構成される。コーティング膜210の厚さTCは5〜150μmである。コーティング膜210に、Pt,Ag等の貴金属が含まれていてもよい。コーティング膜210に貴金属を含ませることにより、コーティング膜210そのものの電気抵抗を小さくすることができる。
【0032】
複数の同形の(コーティング膜210で覆われた)インターコネクタ200のそれぞれの接合部(即ち、コーティング膜210の一部)とセル100の空気極140の最外層142(即ち、LSM層等)の接合部とが、接合剤300により接合され且つ電気的に接続されている。
【0033】
接合剤300は、メタル系材料、又は導電性セラミック材料から構成される焼成体である。メタル系材料としては、銀系材料等、導電性セラミック材料としては、La−Sr−Co−Fe系ペロブスカイト型複合酸化物等が考えられる。接合剤300の層の厚さTAは20〜500μmである。
【0034】
(製造方法)
次に、図1に示した接合体の製造方法の一例について説明する。先ず、セル100の製造方法の一例について説明する。
【0035】
燃料極層110は、以下のように製造された。即ち、NiO粉末60重量部とYSZ粉末40重量部が混合され、この混合物にバインダーとしてポリビニルアルコール(PVA)が添加されてスラリーが作製された。このスラリーがスプレードライヤーで乾燥・造粒され、燃料極用の粉末が得られた。この粉末が金型プレス成形法により成形され、その後、電気炉で空気中にて1400℃で3時間焼成されて、燃料極110が製造された。
【0036】
電解質120は、以下のように燃料極110の上に形成された。即ち、YSZ粉末に水とバインダーが加えられ、この混合物がボールミルで24時間混合されてスラリーが作製された。このスラリーが、燃料極110上に塗布・乾燥され、電気炉で空気中にて1400℃で2時間共焼結されて、燃料極110上に電解質120が形成された。なお、燃料極110の上に後に電解質120となる膜を形成するに際し、テープ積層法、印刷法等が用いられてもよい。
【0037】
反応防止層130は、以下のように電解質120の上に形成された。即ち、GDC粉末に水とバインダーが加えられ、この混合物がボールミルで24時間混合されてスラリーが作製された。このスラリーが、電解質120上に塗布・乾燥され、電気炉で空気中にて1350℃で1時間焼成されて、電解質120上に反応防止層130が形成された。なお、電解質120の上に後に反応防止層130となる膜を形成するに際し、テープ積層法、印刷法等が用いられてもよい。また、反応防止層130が共焼結により形成されてもよい。
【0038】
空気極140のベース層141は、以下のように反応防止層130の上に形成された。即ち、LSCF粉末に水とバインダーが加えられ、この混合物がボールミルで24時間混合されてスラリーが作製された。このスラリーが、反応防止層130上に塗布・乾燥され、電気炉で空気中にて1000℃で1時間焼成されて、反応防止層130上に空気極140が形成された。
【0039】
最外層142は、以下のようにベース層141の上に形成された。即ち、LSM粉末に水とバインダーが加えられ、この混合物がボールミルで24時間混合されてスラリーが作製された。このスラリーが、ベース層141上に塗布・乾燥され、電気炉で空気中にて1000℃で1時間共焼結されて、ベース層141上に最外層142が形成された。以上、セル100の製造方法の一例について説明した。
【0040】
インターコネクタ200は、Fe,Crを含むフェライト系SUS材料を機械加工等により所定の形状に加工することにより作製された。同形のインターコネクタ200が複数準備された。
【0041】
各インターコネクタ200の表面の全面に対するコーティング膜210の形成は、以下のように達成された。スピネル系材料がMnCoである場合を例にとって説明する。先ず、出発原料としてのマンガンMnの金属粉末とコバルトCoの金属粉末とが1:2のモル比率で秤量され混合された。金属粉末の粒径は0.5〜5μmであり、平均粒径は2μmであった。Pt,Ag等の貴金属の粉末が加えられてもよい。この混合物に、必要に応じてバインダーとしてエチルセルロース、溶剤としてテルピネオールが加えられ、この混合物が乳鉢で混合されてコーティング用のペーストが作製された。このコーティング用ペーストが、ディッピング等の手法を用いて各インターコネクタ200の表面の全面に塗布された。その後、このコーティング用ペーストが100℃で1時間乾燥された後、空気中にて比較的低い850℃で1時間焼成された。これにより、各インターコネクタ200の表面の全面に、焼結体であるコーティング膜210が形成された。
【0042】
即ち、出発原料としてスピネル系材料を構成する各金属元素の粉末が使用され、この粉末が焼成時に酸化させられることで、スピネル系材料からなるコーティング膜210が形成された。ペーストの焼成温度が比較的低くてもペーストが十分に焼き締まるのは、各金属元素の粉末の酸化反応(=発熱反応)に起因して発生する熱により粉末表面の温度が局所的に上昇してスピネル型結晶(複合酸化物の結晶)が合成・成長していくことに基づくと考えられる。
【0043】
接合剤300による最外層142と(コーティング膜210で覆われた)インターコネクタ200との接合は以下のように達成された。接合剤の材料が銀系材料である場合を例にとって説明する。先ず、Ag粉末に水とバインダーが加えられ、この混合物がボールミルで混合されて接合用のペーストが作製された。セル100の空気極140の最外層142(即ち、LSM層)の表面と(コーティング膜210で覆われた)インターコネクタ200の接合部とにこの接合用ペーストが塗布され、最外層142と(コーティング膜210で覆われた)インターコネクタ200とが貼り合わされた。その後、このペーストが100℃で1時間乾燥された後、空気中にて850℃で1時間焼成されることで、焼結体である接合剤300が形成された。
【0044】
この接合剤300により、最外層142とインターコネクタ200とが接合され且つ電気的に接続された。以上、図1に示した上記実施形態に係る「SOFCのセルの空気極側のインターコネクタがコーティング膜で覆われたコーティング体」とセルの空気極との接合体の製造方法の一例について説明した。
【0045】
(コーティング膜の特徴)
次に、上記実施形態に係るコーティング膜210、即ち、スピネル系材料(MnCo)を構成する各金属元素の粉末(出発原料)が焼成時に酸化させられて形成されたコーティング膜の特徴について図3〜図7を参照しながら説明する。図3はコーティング膜210の表面を走査型電子顕微鏡(SEM)で1000倍に、図4、図6は5000倍に、図5,図7は10000倍に拡大して観察した様子(SEM画像)を示す。
【0046】
図4、図5から理解できるように、このコーティング膜210は、「共連続構造」を有しているといえる。そして、「共連続構造」において、多数の「基部」(2以上の腕部が延びる部分)を3次元的(立体的)に互いに連結する「腕部」の太さは、0.3〜2.5μmであった。ここで、「腕部の太さ」は、本例では、以下のように算出された。即ち、先ず、SEM画像より、共連続構造を呈する部位が10箇所任意に抽出された。抽出された部位の画像から測長された腕部の太さのデータが各部位につき3点収集された。得られた計30点のデータに基づき「腕部の太さ」が算出された。なお、「共連続構造」が形成されるのは、上述した「ペースト焼成中における酸化反応に起因する熱によるスピネル型結晶の成長作用」に関係があるものと考えられる。
【0047】
また、図3、図6、及び図7から理解できるように、このコーティング膜210は、複数の結晶面が表面に露呈する球状の複数の粒子を含んでいる。これらの粒子は、「共連続構造」中に散在している。これら複数の粒子の直径は5〜80μmである。ここで、「粒子の直径」としては、本例では、SEM画像より確認できる、球状の粒子の中心を通る粒子内の直線距離(直径に対応する長さ)のうちで最も長いものが採用された。加えて、その複数の粒子のうちで、結晶面の輪郭を構成する複数の辺のうちで長さが1μm以上の辺を有する粒子が少なくとも1つ以上含まれている(図7を参照)。なお、係る「粒子」が形成されるのも、上述した「ペースト焼成中における酸化反応に起因する熱によるスピネル型結晶の成長作用」に関係があるものと考えられる。
【0048】
このように、上記実施形態では、出発原料として金属を使用するとともに熱処理時の反応熱を利用して上記特徴を有するコーティング膜が合成されている。これに代えて、出発原料として有機金属が使用されてもよい。例えば、マンガンを含む有機金属としては、ジ−i−プロポキシマンガン(II)(化学式:Mn(O-i-C))が、コバルトを含む有機金属としては、ジ−i−プロポキシコバルト(II)(化学式:Co(O-i-C))が、銅を含む有機金属としては、ビス(ジビバロイルメタナト)銅(化学式:Cu(C1118))が使用され得る。
【0049】
(コーティング膜とインターコネクタとの境界部の特徴)
次に、上記実施形態に係るコーティング体(図2を参照)におけるコーティング膜210とインターコネクタ200との境界部の特徴について説明する。以下、コーティング膜210を構成するスピネル系材料としてMnCoが使用され、インターコネクタ200の材料として日立金属(株)製のSOFC用フェライト系ステンレス鋼(SUS):ZMG232L(商品名)が使用された場合を例にとって説明する。
【0050】
図8は、この境界部の近傍の断面を電子放射型分析電子顕微鏡で2000倍に拡大して観察して得られた画像の一例である。この境界部に含まれる元素について分析が行われた。以下、その結果を示す。図9は、図8に示す画像における境界部を含む一部の画像である。図9に示す画像に対応する箇所について元素分析(元素マッピング)が行われた。図10〜図14はそれぞれ、O(酸素)のマッピング、Mn(マンガン)のマッピング、Co(コバルト)のマッピング、Fe(鉄)のマッピング、及び、Cr(クロム)のマッピングを行った結果を示す。図10〜図14において、画像の白黒色は元素濃度を表し、白黒色が薄い方(白色の方)が元素濃度が大きく、白黒色が濃い方(黒色の方)が元素濃度が小さいことを示す。なお、これらの画像、及び分析結果は、日本電子株式会社製の電界放射型分析電子顕微鏡(JXA−8500F)を用いて取得された。
【0051】
図10〜図14から理解できるように、コーティング膜210とインターコネクタ200との境界部には、3つの層が介在している。3つの層のうちインターコネクタ200に最も近い層(インターコネクタ200と接する層)には、主としてCr,Oが含まれる。即ち、この層は、クロミア(Cr)を含む(又はのみからなる)層であるといえる。以下、この層を「クロミア層」と呼ぶ。3つの層のうち真ん中の層は、Mn,Co,Fe,Cr,Oを含む(又はのみからなる)層である。以下、この層を「第1層」と呼ぶ。3つの層のうちコーティング膜210に最も近い層(コーティング膜210と接する層)は、Mn,Co,Fe,Oを含む(又はのみからなる)層である。以下、この層を「第2層」と呼ぶ。
【0052】
第1、第2層は、スピネル系材料(MnCo)とステンレス鋼(FeとCrを含む)とが反応して得られる反応層であるといえる。これら第1、第2層は、インターコネクタ200の表面に上述の「コーティング用のペースト」の膜が形成された状態で同ペーストが850℃で熱処理される際に形成されたものと推測される。
【0053】
クロミア層の厚さは1〜5μmであり、第1層の厚さは1〜7μmであり、第2層の厚さは3〜10μmであった。なお、各層の厚さは、上述した電子顕微鏡の画像、及び、上述した元素分析の結果を示す画像を分析することで算出された。
【0054】
また、クロミア層、並びに、第1、第2層のそれぞれのCr濃度について分析が行われた。Cr濃度とは、層内におけるCr(クロム)元素の体積濃度、或いは質量濃度である。以下、その結果を示す。図15は、図8に太い白矢印で示すように分析箇所をインターコネクタ200(SUS)側からコーティング膜210(MnCo)側に向けて厚さ方向に沿って走査しながらCrについての元素分析を行った結果の一例を示すグラフである。図15における縦軸はCr元素の回折強度を表す。Cr元素の回折強度は、Cr元素の濃度と等価である。なお、この分析結果も、日本電子株式会社製の電界放射型分析電子顕微鏡(JXA−8500F)を用いて取得された。
【0055】
図15から理解できるように、クロミア層内のCr濃度の最大値はインターコネクタ200内のCr濃度よりも大きく、第1層内のCr濃度の範囲はインターコネクタ200内のCr濃度より小さい領域で推移している。より具体的には、クロミア層内のCr濃度の最大値は、インターコネクタ200内のCr濃度の平均値に対して1.5〜4倍の範囲にあった。第1層内のCr濃度(最小値〜最大値の範囲)は、インターコネクタ200内のCr濃度の平均値に対して0.1〜0.5倍の範囲にあった。また、第2層内のCr濃度の最大値は第1層内のCr濃度の最小値より小さかった(ゼロを含む)。
【0056】
以上、コーティング膜210を構成するスピネル系材料としてMnCoが使用された場合における「コーティング膜210とインターコネクタ200との境界部」の特徴について説明した。コーティング膜210を構成するスピネル系材料として化学式AB(ただし、A:Mn,Cuから選択される少なくとも1種類の金属元素、B:Co,Mnから選択される少なくとも1種類の金属元素)で表されるMnCo以外の材料(例えば、CuMn)が使用された場合についても、コーティング膜210とインターコネクタ200との境界部に、上記と同じ特徴を有する3つの層が形成されることが確認されている。例えば、スピネル系材料としてCuMnが使用された場合、第1層は、Cu,Mn,Fe,Cr,Oを含む(又はのみからなる)層となり、第2層は、Cu,Mn,Fe,Oを含む(又はのみからなる)層となる。
【0057】
(作用・効果)
次に、上記実施形態に係るコーティング体、即ち、スピネル系材料を構成する各金属元素の粉末を出発原料として形成されたコーティング膜210によりインターコネクタ200が覆われたコーティング体の作用・効果について説明する。この作用・効果を説明するため、比較例として、予め合成されたスピネル系材料の粉末を出発原料として形成されたコーティング膜によりインターコネクタが覆われたコーティング体を導入する。以下、先ず、比較例について説明する。
【0058】
<比較例>
比較例に係るコーティング膜は、以下のように形成された。先ず、所定の手順にて合成されたスピネル系材料(MnCo)がポットミルで粉砕され、スピネル系材料(複合酸化物)の粉末が得られた。この粉末の粒径は0.2〜2μmであり、平均粒径は0.5μmであった。この粉末に、必要に応じてバインダーとしてエチルセルロース、溶剤としてテルピネオールが添加されてコーティング用のペーストが作製される。そして、このペーストがインターコネクタの表面の全面に塗布され、このペーストが100℃で1時間乾燥される。その後、空気中にて高温の1000℃で1時間焼成されることで、焼結体である比較例に係るコーティング膜が形成された。
【0059】
なお、比較例の場合、上記実施形態のようにペーストの焼成温度を低くするとペーストが十分に焼き締まらない。これは、比較例の場合、既に酸化された酸化物のペーストが使用されているので、上記実施形態と異なり、ペーストの焼成中にて酸化反応に起因する熱によるスピネル型結晶の成長作用が望めないことに基づく。
【0060】
図16、図17はそれぞれ、比較例に係るコーティング膜の表面を走査電子顕微鏡(SEM)で5000倍、10000倍に拡大して観察した様子を示す。図16、図17から理解できるように、この比較例に係るコーティング膜では、上述した「粒子」や「共連続構造」は見られず、これに代えて、出発原料の粉末が単純に集合・焼結した構造が見られた。
【0061】
図18は、比較例に係るコーティング体におけるコーティング膜とインターコネクタとの境界部の近傍の断面を電子放射型分析電子顕微鏡で2000倍に拡大して観察して得られた画像の一例である。この境界部に含まれる元素について分析が行われた。以下、その結果を示す。図19は、図18に示す画像における境界部を含む一部の画像である。図19に示す画像に対応する箇所について元素分析(元素マッピング)が行われた。図20〜図24はそれぞれ、O(酸素)のマッピング、Mn(マンガン)のマッピング、Co(コバルト)のマッピング、Fe(鉄)のマッピング、及び、Cr(クロム)のマッピングを行った結果を示す。なお、これらの画像、及び分析結果は、上記実施形態の場合と同様、日本電子株式会社製の電界放射型分析電子顕微鏡(JXA−8500F)を用いて取得された。
【0062】
図20〜図24から理解できるように、コーティング膜210とインターコネクタ200との接合部には、2つの層が介在している。2つの層のうちインターコネクタ200に最も近い層(インターコネクタ200と接する層)には、Cr,Oが含まれる。即ち、この層は、クロミア(Cr)を含む(又はのみからなる)層であるといえる。即ち、この層は、上述の「クロミア層」に対応する。2つの層のうちコーティング膜210に最も近い層(コーティング膜210と接する層)は、Mn,Co,Fe,Oを含む(又はのみからなる)層である。即ち、この層は、上述の「第2層」に対応する。即ち、比較例では、上記実施形態におけるクロミア層、及び第2層に対応する層がそれぞれ形成される一方で、上記実施形態における第1層に対応する層が形成されない。
【0063】
クロミア層の厚さは1〜5μmであり、第2層の厚さは3〜10μmである。なお、各層の厚さの測定は、上記実施形態の場合と同様に行われた。
【0064】
また、比較例におけるクロミア層、及び第2層のそれぞれのCr濃度について分析が行われた。図25は、図18に太い白矢印で示すように分析箇所をインターコネクタ(SUS)側からコーティング膜(MnCo)側に向けて厚さ方向に沿って走査しながらCrについての元素分析を行った結果の一例を示した図15に対応するグラフである。図25において、図15に示した結果の一例が破線で示されている。なお、この分析結果も、日本電子株式会社製の電界放射型分析電子顕微鏡(JXA−8500F)を用いて取得された。
【0065】
図25から理解できるように、上記実施形態と同様、クロミア層内のCr濃度の最大値は、インターコネクタ200内のCr濃度よりも大きく、具体的には、インターコネクタ200内のCr濃度の平均値に対して1.2〜2.5倍の範囲にあった。また、第2層内のCr濃度の最大値はインターコネクタ200内のCr濃度の平均値に対して十分に小さかった(ゼロを含む)。
【0066】
<熱サイクル試験に対する耐久性の評価>
本発明者は、比較例に係るコーティング体よりも本実施形態に係るコーティング体が、熱サイクル試験に対するコーティング膜の耐久性が良好であること(コーティング膜が剥離し難いこと)を見出した。熱サイクル試験とは、雰囲気温度を所定のパターンで強制的に変動させる試験である。以下、このことを確認した試験について説明する。
【0067】
この試験では、本実施形態に係るコーティング体及び比較例に係るコーティング体のそれぞれに対して、コーティング膜の材質、コーティング膜の出発原料である粉末の平均粒径、及びコーティング膜形成時の焼成温度(熱処理温度)の組み合わせが異なる複数のサンプル(試験片)が作製された。具体的には、表1に示すように、18種類の水準(組み合わせ)が準備された。そして、各水準に対して5つのサンプルが作製された。表1において、出発原料がスピネル系材料を構成する各金属元素の粉末(金属粉末)であるもの(水準1〜8,12〜15)が本実施形態に対応し、出発原料が予め合成されたスピネル系材料の粉末(セラミック粉末)であるもの(水準9〜11,16〜18)が比較例に対応する。
【0068】
【表1】

【0069】
図26に示すように、これらのサンプルでは、上方からみた形状がセル100を上方からみた形状と同じ板状の1枚のインターコネクタ200の表面全域がコーティング膜により覆われている。これらのサンプルにおいて、コーティング膜の厚さTCは50μm、インターコネクタの厚さTBは450μmで一定とされた。また、これらのサンプルを上方からみた形状は、直径が5cmの円形とされた。
【0070】
各サンプルが熱サイクル試験に供された。熱サイクル試験では、大気雰囲気において、「雰囲気温度が常温から750℃まで30分をかけて昇温され、その後、750℃から常温まで30分をかけて降温される」パターン(=1サイクル)が100回繰り返された。熱サイクル試験終了後、各サンプルのコーティング膜の剥離の有無が確認された。この確認は目視、及び光学顕微鏡で行われた。この結果を表2に示す。
【0071】
【表2】

【0072】
表2から理解できるように、本実施形態に係るコーティング体の方が比較例に係るコーティング体よりも熱サイクル試験に対するコーティング膜の耐久性が良好である、ということができる。
【0073】
<Cr拡散量の評価>
本発明者は、比較例に係るコーティング体と本実施形態に係るコーティング体との間において、Cr拡散量に大きな差異がないことを確認した。以下、このことを確認した試験について説明する。
【0074】
この試験では、図27に示すように、石英管からなる管状電気炉が試験装置として使用された。この管状電気炉内にサンプル(試験片)が収容された状態で、この石英管の上流側から、マスフローコントローラで流量が制御された酸化ガス(加湿空気、加湿温度は10℃)が送り込まれた。
【0075】
これにより、サンプルが高温の酸化雰囲気に曝される。そして、上述の「Cr拡散」によりCrの蒸気として拡散した成分が、電気炉外(石英管の下流側)でCrとして凝縮され、凝縮されたCrが石英管の内壁に付着する。試験終了後、石英管の内壁に付着したCrが溶出・回収され、回収されたCrの重量に基づいてCr拡散量が算出された。
【0076】
酸化ガスの流量は300sccmとされた。これは、事前の予備検討から、酸化ガスの流量によってCr拡散量が異なる傾向があること、並びに、本試験装置では反応系において「Cr拡散」が律速となるのに必要な酸化ガス流量が300sccm以上であること、が判明していたことに基づく。なお、単位:「sccm」とは、標準状態(大気圧、25℃)における「cc/min」である。
【0077】
サンプルとしては、上述のZMG232L(商品名)からなる厚さが1mm、平面形状が一辺の長さ10mmの正方形の板体が使用された。即ち、このサンプルの表面積は240mmである。そして、コーティング膜が無いものと、表1に示した18種類の水準のうちMnCoからなるコーティング膜が形成されたもの(水準1〜8が本実施形態に対応し、水準9〜11が比較例に対応する)が準備された。そして、各水準に対して5つのサンプルが作製・評価された。
【0078】
試験温度は、700、750、800℃の3水準とされ、保持時間は1000時間とされた。Cr拡散量として、Crの形成速度、即ち、単位時間当たり・単位面積当たりに形成されるCrの重量(単位:Kg・m−2・s−1)が採用された。図28は、この評価結果を示す。図28では、各試験温度・各水準について、Cr拡散量の平均値が示されている。
【0079】
図28から理解できるように、コーティング膜が無いものに比して、MnCoからなるコーティング膜が形成されたものでは、Cr拡散量が大幅に減少している。一方、比較例に係るコーティング体(出発原料:セラミック粉末)と本実施形態に係るコーティング体(出発原料:金属粉末)との間において、Cr拡散量に大きな差異がない、ということができる。
【0080】
以上、スピネル系材料(MnCo等)を構成する各金属元素(Mn,Co等)の粉末を出発原料として形成されたコーティング膜を用いた本実施形態に係るコーティング体では、予め合成されたスピネル系材料(MnCo)の粉末を出発原料として形成されたコーティング膜を用いた比較例に係るコーティング体に比して、Cr拡散量が増大することなく熱サイクル試験に対するコーティング膜の耐久性が向上する。即ち、本実施形態に係るコーティング体によれば、コーティング膜の焼成温度を比較的低温(例えば、700〜900℃)に設定しても、ペーストが十分に焼き締まる。この結果、温度変化の激しい環境下に置かれてもコーティング膜の剥離が発生し難いコーティング体が得られる。
【符号の説明】
【0081】
100…セル、110…燃料極、120…電解質、130…反応防止層、140…空気極、141…ベース層、142…最外層、200…インターコネクタ、210…コーティング膜、300…接合剤

【特許請求の範囲】
【請求項1】
FeとCrを含む金属部材からなる導電部材と、
化学式AB(ただし、A:Mn,Cuから選択される少なくとも1種類の金属元素、B:Co,Mnから選択される少なくとも1種類の金属元素)で表されるスピネル型結晶構造を有する遷移金属酸化物を含んで構成され、前記導電部材の表面を覆うコーティング膜と、
を備えたコーティング体であって、
前記コーティング膜と前記導電部材との境界部には、厚さが1〜7μmであり且つA,B,Fe,Cr,及びOの元素を含んで構成される第1層であって、第1層内のCr濃度が前記導電部材内のCr濃度の平均値に対して0.1〜0.5倍の範囲にある第1層が介在している、コーティング体。
【請求項2】
請求項1に記載のコーティング体において、
前記境界部における前記第1層よりも前記導電部材に近い側には、厚さが1〜5μmであり且つCrを含んで構成されるクロミア層であって、クロミア層内のCr濃度の最大値が前記導電部材内のCr濃度の平均値に対して1.5〜4倍の範囲にあるクロミア層が介在している、コーティング体。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載のコーティング体において、
前記境界部における前記第1層よりも前記コーティング膜に近い側には、厚さが3〜10μmであり且つA,B,Fe,及びOの元素を含んで構成される第2層であって、第2層内のCr濃度の最大値が前記第1層内のCr濃度の最小値よりも小さい第2層が介在している、コーティング体。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3の何れか一項に記載のコーティング体において、
前記コーティング膜は、
A,及びBの元素の粉末の混合物を含むペーストの膜が前記導電部材の表面に形成された状態で前記ペーストを焼成することによって形成された、コーティング体。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4の何れか一項に記載のコーティング体において、
前記コーティング膜は、前記遷移金属酸化物に加えて貴金属を含んで構成された、コーティング体。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5の何れか一項に記載のコーティング体において、
前記導電部材は、
固体電解質、前記固体電解質と一体的に配置されるとともに燃料ガスと接触して前記燃料ガスを反応させる燃料極、及び前記固体電解質と一体的に配置されるとともに酸素を含むガスと接触して前記酸素を含むガスを反応させる空気極を備えた固体酸化物形燃料電池のセルにおける前記空気極と、外部の導電部材と、を電気的に接続するインターコネクタである、コーティング体。

【図1】
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【図2】
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【図15】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【公開番号】特開2011−99159(P2011−99159A)
【公開日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−256574(P2009−256574)
【出願日】平成21年11月9日(2009.11.9)
【出願人】(000004064)日本碍子株式会社 (2,325)
【Fターム(参考)】