説明

コーティング材料

【課題】細胞の接着・非接着性を制御し、材料表面の生体適合性を向上させることが可能な医用材料表面のコーティング材料を提供する。
【解決手段】遺伝子組み換えゼラチンを含む医用材料表面のコーティング材料であり、特に、該遺伝子組み換えゼラチンが、天然のコラーゲンのアミノ酸配列との相同性が80%以上であるコーティング材料。該遺伝子組み換えゼラチンとしては、コラーゲンに特徴的なGXY部分を有し、分子量が2 KDa以上100 KDa以下であることが好ましい。該医用材料としては、血管内治療に用いる材料、特に、ステント又は人工血管であり、該医用材料表面が、セグメント化ポリウレタン、ポリエチレンテレフタレート、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、乳酸―グリコール酸の共重合体、ステンレス、又はニッケルであり、抗癌剤パクリタキセル等の医薬が封入されているものが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遺伝子組み換えゼラチンを用いた医用材料表面のコーティング材料に関する。
【背景技術】
【0002】
再生医療に代表される高度先端医療において、種々の医用材料が検討されている。特に、人工血管や人工組織体、人工臓器用の材料として、しばしば合成高分子や金属化合物が用いられている。しかし、通常、これらの材料は用途に応じた設計が行われているわけではなく、汎用の合成高分子を医療用のグレードとして用いているのが現状である。
【0003】
一般に合成高分子は細胞接着性に乏しく、材料表面を血管内皮細胞により被覆するには、材料表面に細胞接着性の高いタンパク質をコートや固定することが行われている。通常、コラーゲンやコラーゲンの変性タンパク質であるゼラチンが用いられている。しかしながら、これらの材料を用いても血管内皮細胞の接着が十分ではなく、より細胞接着性の高い材料が必要とされている。
【0004】
さらに、材料と生体との作用は、材料―生体の界面で生起される。材料表面の生体適合化は材料設計において、非常に重要な位置を占めている。
【0005】
血液との接触表面の生体適合化としては、表面の親水性化、抗血栓性のアルブミンやヘパリンの固定、線溶系タンパク質のウロキナーゼの固定や血管内皮細胞による被覆が行われている。
【0006】
一方で、心筋梗塞等の血管の疾患の治療後、血管の再狭窄を防ぐステントが用いられている。しかしながら、しばしば再狭窄が起こり、再度処置を必要とする。近年、薬剤放出型ステントが注目されている。すなわち、ステントの外側に抗癌剤や免疫抑制剤を含む材料でコートした薬剤放出型ステントが開発されている。該ステントでは、血管の過修復を防ぐことにより血管の再狭窄を防いでいる。該ステントのコーティング材料として、薬剤を貯蔵し、一定期間薬剤を放出することに加え、細胞が材料に接着、増殖しないことが必要とされているが、高い生体適合性を持ちながらこの特性を有する材料は実用化にはいたっていない。
【0007】
また、生体高分子は一般に生体組織から抽出したものを用いているため、(1)生体由来の感染症や不純物による炎症の恐れがあり、(2)分子量や構造等、材料の性質を一定にするのが困難であり、(3)用途に応じた適切な修飾といった精密な設計が困難であるといった問題がある。
【0008】
近年、遺伝子工学の手法の目覚しい進歩により、大腸菌や酵母に遺伝子を導入することによるタンパク質の合成が行われている。該手法により、種々の遺伝子組み換えコラーゲン様タンパク質が合成(例えばEP0926543B、WO02/052342、EP1063565B、WO2004/085473、EP1014176A、米国特許6,992,172号など)されているが、これを医用材料表面の生体適合化へ応用することについては検討されていない。
【0009】
【特許文献1】EP0926543B
【特許文献2】WO02/052342
【特許文献3】EP1063565B
【特許文献4】WO2004/085473
【特許文献5】EP1014176A
【特許文献6】米国特許6,992,172号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、細胞の接着・非接着性を制御し、材料表面の生体適合性を向上させることが可能な医用材料表面のコーティング材料を提供することを解決すべき課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討した結果、遺伝子組み換えゼラチンを医用材料表面のコーティング材料として用いることによって、効果的な細胞接着性の向上を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
即ち、本発明によれば、遺伝子組み換えゼラチンを含むことを特徴とする医用材料表面のコーティング材料が提供される。
好ましくは、該遺伝子組み換えゼラチンは、天然のコラーゲンのアミノ酸配列との相同性が80%以上である。
好ましくは、該遺伝子組み換えゼラチンはコラーゲンに特徴的なGXY部分を有し、分子量が2 KDa以上100 KDa以下である。
好ましくは、該遺伝子組み換えゼラチンはコラーゲンに特徴的なGXY部分を有し、分子量が10 KDa以上90 KDa以下である。
好ましくは、遺伝子組み換えゼラチンは天然コラーゲンの部分配列の繰り返しである。
【0013】
好ましくは、該医用材料は生体内で用いる材料である。
好ましくは、該医用材料は血管内治療に用いる材料である。
好ましくは、該医用材料は、ステント又は人工血管である。
好ましくは、該医用材料表面は、セグメント化ポリウレタン、ポリエチレンテレフタレート、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、乳酸―グリコール酸の共重合体、ステンレス、又はニッケルである。
【0014】
好ましくは、本発明のコーティング材料には、薬剤が封入されている。
好ましくは、該薬剤は、抗炎症剤、抗菌剤、抗生剤、抗癌剤、又は免疫抑制剤である。
好ましくは、該薬剤は、抗抗癌剤、又は免疫抑制剤である。
好ましくは、該薬剤はパクリタキセル、ドセタキセル、シスプラチン、ラパマイシン、タクロリムスである。
好ましくは、該薬剤は、サイトカイン、ホルモン、ポリペプチド、又は核酸である。
【0015】
好ましくは、該遺伝子組み換えゼラチンは架橋されている。
好ましくは、該架橋はアルデヒド類、縮合剤、又は酵素により施される。
好ましくは、該薬剤の封入または医用材料表面のコーティングの際に有機フッ素化合物を用いる。
【発明の効果】
【0016】
本発明を実施することにより、(1)細胞の接着性の制御、(2)生体内分解性の設計、(5)強度の制御、および(6)組織接着性の設計が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
本発明で用いる遺伝子組み換えゼラチンとしては、例えばEP1014176A2、US6992172、WO2004-85473に記載のものを用いることができるが、これらに限定されるものではない。また、該生体高分子は部分的に加水分解されていてもよい。該ゼラチンは生体由来のコラーゲンの配列とのアミノ酸同一性が40%であればよく、より好ましくは50%以上である。より好ましくは80%以上、最も好ましくは90%以上である。ここで言うコラーゲンとは天然に存在するものであればいずれであっても構わないが、好ましくはI型、II型、III型、IV型、およびV型である。より好ましくは、I型、II型、III型である。別の形態によると、該コラーゲンの由来は好ましくは、ヒト、ウシ、ブタ、マウス、ラットである。より好ましくはヒトである。
【0018】
本発明で用いる遺伝子組み換えゼラチンの等電点は、好ましくは5〜10であり、より好
ましくは6〜10であり、さらに好ましくは7〜9である。
【0019】
遺伝子組み換えゼラチンは、好ましくはコラーゲンに特徴的なGXY部分を有し、分子量
が2 KDa以上100 KDa以下である。より好ましくは2.5 KDa以上95KDa以下である。より好ましくは5 KDa以上90 KDa以下である。最も好ましくは、10 KDa以上90KDa以下である。コラーゲンに特徴的なGXY部分とは、ゼラチン・コラーゲンのアミノ酸組成および配列における、他のタンパク質と比較して非常に特異的な部分構造である。この部分においてはグリシンが全体の約3分の1を占め、アミノ酸配列では3個に1個の繰り返しとなっている。グリシンは最も簡単なアミノ酸であり、分子鎖の配置への束縛も少なく、ゲル化に際してのヘリックス構造の再生に大きく寄与している。X,Yであらわされるアミノ酸はイミノ酸(プロリン、オキシプロリン)が多く含まれ、全体の10%〜45%を占める。
【0020】
好ましくは、該遺伝子組み換えゼラチンが脱アミン化されていない。
好ましくは、該遺伝子組み換えゼラチンはプロコラーゲンおよびプロコラーゲンを有さない。
好ましくは、該遺伝子組み換えゼラチンは天然コラーゲンをコードする核酸により調製された実質的に純粋なコラーゲン用材料である。
【0021】
本発明で用いる遺伝子組み換えゼラチンは当然生体適合性や非感染性には優れている。
また、本発明で用いる遺伝子組み換えゼラチンは天然のものに比して均一であり、配列が決定されているので、強度、分解性においても後述の架橋等によってブレを少なく精密に設計することが可能である。
【0022】
一般にポリペプチドにおいて、細胞接着シグナルとして働く最小アミノ酸配列が知られている(例えば、株式会社永井出版発行「病態生理」Vol.9、No.7(1990年)527頁)。この中で、接着する細胞の種類が多いという点で、アミノ酸一文字表記で現わされる、RGD配列、LDV配列、REDV配列、YIGSR配列、PDSGR配列、RYVVLPR配列、LGTIPG配列、RNIAEIIKDI配列、IKVAV配列、LRE配列、DGEA配列、及びHAV配列の配列が好ましく、さらに好ましくはRGD配列、YIGSR配列、PDSGR配列、LGTIPG配列、IKVAV配列及びHAV配列、特に好ましくはRGD配列である。この最小アミノ酸配列の含有量は、細胞接着・増殖性の観点から、1分子中3〜50個が好ましく、さらに好ましくは4〜30個、特に好ましくは5〜20個である。本発明の遺伝子組み換えゼラチンにおいてはこれらの配列を制御して発現させることにより、所望の細胞接着性を得ることができる。
【0023】
該遺伝子組み換えゼラチンの配列相同性の高い天然コラーゲンの種類は本発明を実施可能である限りは特に既定はない。一般に、必要とされる配列の種類は治療用途により大きく異なる。すなわち、それぞれの組織に必要なコラーゲンの配列に近いものが望ましい。例えば、軟骨を治療する材料表面の場合はII型コラーゲンの配列であることが望ましい。血管であれば、外膜はI型、内膜はIV型であることが望ましい。
【0024】
該遺伝子組み換えゼラチン単独では性能が不十分である場合は、他の材料と混合や複合化を行っても構わない。例えば、種類の異なる遺伝子組み換えゼラチンや他の生体高分子や合成高分子と混合しても構わない。生体高分子としては、多糖、ポリペプチド、タンパク質、核酸、抗体等があげられる。好ましくは、多糖、ポリペプチド、タンパク質である。多糖、ポリペプチド、タンパク質としては例えば、コラーゲン、ゼラチン、アルブミン、フィブロイン、カゼインが挙げられる。さらにこれらは必要に応じて部分的に化学修飾を施されていても構わない。例えば、ヒアルロン酸エチルエステルを用いてもよい。多糖としては、例えば、ヒアルロン酸やヘパリンに代表されるグリコサミノグリカン、キチン、キトサンが挙げられる。さらに、ポリアミノ酸の例としては、ポリーγ―グルタミン酸が挙げられる。
【0025】
本発明で用いる遺伝子組み換えゼラチンは用途に応じて、化学的に修飾することができる。化学的な修飾としては、遺伝子組み換えゼラチンの側鎖のカルボキシル基やアミノ基への低分子化合物あるいは各種高分子(生体高分子(糖、タンパク質)、合成高分子、ポリアミド)の導入や、遺伝子組み換えゼラチン間の架橋が挙げられる。該遺伝子組み換えゼラチンへの低分子化合物の導入としては、例えばカルボジイミド系の縮合剤が挙げられる。
【0026】
本発明で用いる架橋剤は本発明を実施可能である限りは特に限定はなく、化学架橋剤でも酵素でもよい。化学架橋剤としては、例えば、ホルムアルデヒド、グルタルアルデヒド、カルボジイミド、シアナミドなどが挙げられる。好ましくは、ホルムアルデヒド、グルタルアルデヒドである。
さらに、遺伝子組み換えゼラチンの架橋としては、光反応性基を導入したゼラチンへの光照射、あるいは光増感剤の存在化での光照射によるものが挙げられる。光反応性基としては、例えば、シンナミル基、クマリン基、ジチオカルバミル基、キサンテン色素、カンファキノンが挙げられる。
【0027】
酵素による架橋を行う場合、酵素としては、遺伝子組み換えゼラチン鎖間の架橋作用を有するものであれば特に限定されないが、好ましくはトランスグルタミナーゼおよびラッカーゼ、最も好ましくはトランスグルタミナーゼを用いて架橋を行うことができる。トランスグルタミナーゼで酵素架橋するタンパク質の具体例としては、リジン残基およびグルタミン残基を有するタンパク質であれば特に制限されない。トランスグルタミナーゼは、哺乳類由来のものであっても、微生物由来のものであってもよく、具体的には、味の素(株)製アクティバシリーズ、試薬として発売されている哺乳類由来のトランスグルタミナーゼ、例えば、オリエンタル酵母工業(株)製、Upstate USA Inc.製、Biodesign International製などのモルモット肝臓由来トランスグルタミナーゼ、ヤギ由来トランスグルタミナーゼ、ウサギ由来トランスグルタミナーゼなど、ヒト由来の血液凝固因子(Factor XIIIa、Haematologic Technologies, Inc.社)などが挙げられる。
【0028】
遺伝子組み換えゼラチンの架橋には生体高分子の溶液と架橋剤を混合する過程とそれらの均一溶液の反応する過程の2つの過程を有する。
【0029】
本発明において生体高分子を架橋剤で処理する際の混合温度は、溶液を均一に攪拌できる限り特に限定されないが、好ましくは0℃〜40℃であり、より好ましくは0℃〜30℃であり、より好ましくは3℃〜25℃であり、より好ましくは3℃〜15℃であり、さらに好ましくは3℃〜10℃であり、特に好ましくは3℃〜7℃である。
【0030】
生体高分子と架橋剤を攪拌した後は温度を上昇させることができる。反応温度としては架橋が進行する限りは特に限定はないが、生体高分子の変性や分解を考慮すると実質的には0℃〜60℃であり、より好ましくは0℃〜40℃であり、より好ましくは3℃〜25℃であり、より好ましくは3℃から15℃であり、さらに好ましくは3℃〜10℃であり、特に好ましくは3℃〜7℃である。
【0031】
本発明によりコーティング材料として用いる構造物の形態は特に規定はないが、例えばスポンジ、フィルム、不織布、ファイバー(チューブ)、粒子、メッシュなどが挙げられる。形状はいずれの形状でも適用可能であるが、例えば角錐、円錐、角柱、円柱、球、紡錘状の構造物および任意の型により作成した構造物が挙げられる。好ましくは、角柱、円柱、紡錘状の構造物および任意の型により作成した構造物である。より好ましくは、角錐、円錐、角柱、円柱である。最も好ましくは角柱、円柱である。
【0032】
該構造物の大きさは特に限定されないが、スポンジ、不織布であれば好ましくは500 cm四方以下である。好ましくは100 cm以下である。特に好ましくは50 cm以下である。最も好ましくは10 cm以下である。ファイバー(チューブ)であれば、ファイバーまたはチューブの直径(または一辺)は1 nm以上10 cm以下である。好ましくは1 nm以上1 cm以下である。より好ましくは1 nm以上100 μmである。特に好ましくは1 nm以上1μm以下である。最も好ましくは1 nm以上10 nm以下である。また、長さは特に限定されるものではないが、好ましくは10 μm以上100 m以下である。より好ましくは100 μm以上10 m以下である。さらに好ましくは1 mm以上1 m以下である。最も好ましくは1 cm以上30 cm以下である。粒子であれば、好ましくは1 nmから1 mm、より好ましくは10 nmから200 μm、さらに好ましくは50 nmから100 μm、特に好ましくは100 nmから10μmである。
【0033】
構造物の厚さについては特に限定されないが、好ましくは1 nm以上である。より好ましくは、10 nm以上である。より好ましくは100 nm以上である。より好ましくは1 μm以上である。さらに好ましくは10 μm以上である。最も好ましくは100 μm以上である。
【0034】
該構造物を作製する溶媒は特に限定されないが、好ましくは水、有機フッ素化合物である。より好ましくは、水、炭素数10以下の有機フッ素化合物である。より好ましくは水、炭素数10以下のエステル基、エーテル基、ケトン基、カルボン酸基、シアノ基、ヒドロキシル基、フェノール基、ベンジル基、ビニル基、塩化物、臭化物を含む有機フッ素化合物、より好ましくは、水、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロー2−プロパノール(HFIP)、2,2,2−トリフルオロエタノール(TFE)、ヘキサフルオロアセトン、トリフルオロ酢酸、ペンタフルオロプロピオン酸である。さらに好ましくは、水、HFIP、TFE、ヘキサフルオロアセトンである。最も好ましくは、水、HFIP、TFEである。
【0035】
これらの溶媒は混合溶媒として用いることができる。水または有機フッ素化合物が1%以上含まれていれば良い。より好ましくは10%以上、さらに好ましくは50%以上である。最も好ましくは、80%以上である。
【0036】
該遺伝子組み換えゼラチンはその他の合成高分子との混合物としても利用することができる。好ましくは、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、およびそれらの共重合体、ポリ(ε―カプロラクトン)、ポリ(ヒドロキシアルカノエート)(PHA)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリウレタン、ポリメチレンカーボネート、グリセロール、ポリエチレングリコール、ヒアルロン酸ベンジルエステル、ヒアルロン酸エチルエステル、アセチルセルロースである。
【0037】
コーティングする基材の材質としては特に規定はないが、実質的には金属、合成高分子、生体高分子である。より好ましくは、ニッケル、鉄、チタン、ポリエステル、ポリアミド、ポリウレタン、ポリカーボネート、ポリエーテル、ビニルポリマー、フッ素含有ポリマー、ポリペプチド、多糖である。より好ましくは、ニッケル、鉄、チタン、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、およびそれらの共重合体、ポリ(ε―カプロラクトン)、ポリ(ヒドロキシアルカノエート)(PHA)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリウレタン、ポリメチレンカーボネート、グリセロール、ポリエチレングリコール、ヒアルロン酸ベンジルエステル、ヒアルロン酸エチルエステル、アセチルセルロース、ポリスチレン、ポリビニルアルコール、ポリテトラフルオロエチレン、コラーゲン、ゼラチン、アルブミンである。さらに好ましくは、PET、ポリウレタン、セグメント化ポリウレタン、ポリテトラフルオロエチレン、コラーゲンである。該材料はそれら単独であってもそれらの複合体あってもよい。
【0038】
該合成高分子の分子量は特に限定することはないが、実質的には1KDa以上10MDa以下である。好ましくは5 KDa以上500 KDa以下である。最も好ましくは10 KDa以上100 KDa以下である。さらに、該合成高分子は架橋および化学修飾が施されていても構わない。
【0039】
本発明で用いる遺伝子組み換えゼラチンには、必要に応じて添加剤を加えてもよい。添加剤の例としては、薬剤、色素剤、柔軟剤、保湿剤、増粘剤、界面活性剤、防腐剤、香料、pH調整剤が挙げられる。
【0040】
本発明の医用材料表面のコーティング材料には薬剤を封入することができる。薬剤は生理活性成分である。具体的には経皮吸収剤、局所治療剤、経口治療剤、化粧品成分、サプリメント成分が挙げられる。薬剤の具体例としては、抗炎症剤、抗菌剤、抗生剤、免疫抑制剤、抗酸化剤、抗癌剤、ビタミン、核酸、抗体が挙げられる。特に好ましくは抗炎症剤である。抗炎症剤としては、ステロイド系、非ステロイド系のいずれを用いても構わない。抗炎症剤の例としては、例えば、アスピリン、アセトアミノフェン、フェナチセン、インドメタシン、ジクロフェナクナトリウム、ピロキシカム、フェノプロフェンカルシウム、イブプロフェン、マレイン酸クロルフェニラミン、ジフルニサル、リン酸デキサメタゾンナトリウム、パクリタキセル、ドセタキセル、5-フルオロウラシル、トポテンシン、シスプラチン、ラパマイシン、タクロリムス、シクロスポリンが挙げられる。ビタミンとしては水溶性、脂溶性ともに用いられる。該ビタミンの具体例としては、例えば、ビタミンA、ビタミンB群、ビタミンC,ビタミンD群、ビタミンE、ビタミンKが挙げられる。以上、具体的な薬剤を列挙したが、本発明で用いる遺伝子組み換えゼラチンを使用する限りは、上記に挙げる薬剤に限定されることはない。
【0041】
薬剤の封入は、医用材料表面のコーティングと同時、コーティング後のいずれであってもよい。例えば、薬剤を含む遺伝子組み換えゼラチン溶液をコートすることにより、得られるコーティング層に薬剤を封入することができる。また、別の方法として、遺伝子組み換えゼラチンコーティング層を作製した後、薬剤を含む溶液を浸漬させることにより、該薬剤をコーティング層に封入することができる。
【0042】
以下の実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は実施例によって限定されるものではない。
【実施例】
【0043】
実施例1: 遺伝子組み換えゼラチンの合成
性質の異なる遺伝子組み換えゼラチンを、EP-A-0926453、EP-A-1014176、WO01/34646の記載に従って合成した。RGD配列(細胞接着シグナルとして働く最小アミノ酸配列)を含むゼラチン(RGD-gelatin (WO2004/085473の配列番号2であらわされるもの))、およびRGD配列を全く含まないゼラチン(HU, HU3, HU4, P, P4,総称してn-RGD-gelatin)を得た。
【0044】
名称:HU(配列番号1)
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【0045】
名称:HU3(配列番号2)
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【0046】
名称:HU4(配列番号3)
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【0047】
名称:P(配列番号4)
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【0048】
名称:P4(配列番号5)
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【0049】
実施例2:ゼラチン架橋フィルムの作製
ブタ皮膚酸処理ゼラチン(PSKゼラチン、ニッピ社製)または遺伝子組み換えゼラチン(HU4, CBT, P, P4,RGD-gelatin)(0.26%)および化合物(CH2=CH-SO2-(CH2)2−SO2−CH=CH2)(0.016%)を含む水溶液5mLを型(12 cm x 7 cm)に流し込み、一晩静置し、架橋ゼラチンフィルム(フィルム1)を作製した。
一方、上記ゼラチン(0.1%)とグルタルアルデヒド(0.002%)含むPBS溶液(5 mL)を型(12 cm x 7 cm)に流し込み、一晩静置し、架橋フィルムを得た。該架橋フィルムを50 mMグリシン溶液に浸漬させ、未反応のアルデヒド基を失活させた後、水にて洗浄し、グルタルアルデヒド架橋ゼラチンフィルム(フィルム2)を得た。
【0050】
実施例3:架橋ゼラチンフィルムの細胞接着性
実施例2にて作製したフィルム(フィルム1)を角型に切り抜き(1.2 x 1.2 cm)、12穴細胞培養皿に置いた。該フィルム上にウシ血管内皮細胞を播種し(細胞密度:1.0 x 104cells/mL、1 mL)、インキュベーター内にて培養した。3時間、1日、3日、7日後の細胞を位相差顕微鏡にて観察すると、HU4, P, P4フィルムでは細胞は接着せず、RGD-gelatin、酸処理ゼラチン表面には細胞の接着を認めた。HU4, P, P4は細胞非接着性マトリックスとして、RGD-gelatinは細胞接着性マトリックスとして利用可能であるといえる。
一方、グルタルアルデヒド架橋ゼラチンフィルム(フィルム2)を用いた場合も上記フィルム1を用いた場合と同様の結果となった。
【0051】
【表1】

【0052】
実施例4:血管内皮細胞被覆化フィルムの抗血栓性
実施例3にて作製した血管内皮細胞被覆ゼラチンフィルム(RGD-gelatin, ブタ皮膚酸処理)上にヒト血液を垂らし、凝固するまでの時間を計測することにより抗血栓性を評価した。RGD-gelatinより作製したフィルムではブタ皮膚酸処理ゼラチンに比べ、有意の抗血栓性を示した。
【0053】
実施例5:生体内分解性
遺伝子組み換えゼラチン(HU3, HU4, RGD-gelatin, P4, V3, fibrogen-100Kda(RhG100-001, fibrogen社製))またはブタ皮膚ゼラチン(PSPゼラチン、ニッピ社製)(10%)を含むPBS溶液にグルタルアルデヒド(0.4%)を混合し、1.5 mLのチューブ(φ=8 mm)に1mL加え、一晩静置することでゼラチンゲルを作製した。該チューブにサーモライシン400μL(濃度:5μM)加えた。該チューブをローテーターにて回転し、所定時間後のゲルの高さの減少量を測定した。P4を除き、いずれのゲルも時間の経過に従ってゲルが分解した。RGD-gelatinを除き、遺伝子組み換えゼラチンも、ブタ皮膚ゼラチンも同程度の分解性であった。RGD-gelatinはブタ皮膚ゼラチンに比べて高い分解性を示した。
【0054】
遺伝子組み換えゼラチンの種類により、分解性の制御が可能となったと言える。すなわち、所望の用途の分解性に調節可能と言える。
【0055】
実施例6:薬剤の封入
該遺伝子組み換えゼラチン(100 mg/mL)およびパクリタキセル(1 mg/mL)を含む1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロ-2プロパノール(HFIP)溶液または2,2,2-トリフルオロエタノール(TFE)溶液をポリプロピレン上で塗布(20 cmx10 cm、厚さ:1 mm)した。該フィルムを乾燥機(温度:50℃、湿度:95%)に7日静置し、続いて3日間自然乾燥することで、溶媒を除去し、パクリタキセル封入ゼラチンフィルムを得た。
【0056】
該フィルム中のHFIP、TFE量はゼラチン重量当たり、0.001%以下であった。また、薬剤放出型ステントに用いられているパクリタキセルは疎水性の薬剤であり、通常親水性基材に封入するのは困難であるが、該フィルムに封入されたパクリタキセルは析出せず、微分散状態を維持した。
【0057】
実施例7:パクリタキセル含有フィルムの作製
実施例2にて作製した架橋遺伝子組み換えゼラチンフィルム上に、パクリタキセルを含むHFIP溶液(1 mg/mL)を塗布し(厚さ:1 mm)、該フィルム中に溶液を浸漬させることで、該フィルム中にパクリタキセルを封入させた。実施例6の手法によりHFIPを除去し、パクリタキセルを封入した架橋ゼラチンフィルムを得た。
【0058】
実施例8:薬剤封入フィルム上での細胞接着性
実施例7にて作製したパクリタキセル封入架橋ゼラチンフィルム上にウシ大動脈由来血管平滑筋細胞を播種、培養すると、いずれのフィルム上にも細胞は接着せず、死滅した。
【0059】
実施例9:合成高分子表面のコーティング
人工血管の素材として用いられているセグメント化ポリウレタンまたはポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム上に該遺伝子組み換えゼラチンを含むHFIP溶液(0.1%)を塗布し(厚さ:1 mm)、1時間自然乾燥した後、実施例6の手法によりHFIPを除去し、遺伝子組み換えゼラチンコートフィルムを得た。該フィルムの水接触角を測定すると、遺伝子組み換えゼラチンコーティングフィルムはいずれのゼラチンを用いても、未処理のフィルム、HFIP処理したフィルムに比べ、親水性化された。
【0060】
実施例10:金属表面のコーティング
ステントとして利用されているステンレス表面に該遺伝子組み換えゼラチンを含むHFIP溶液および水溶液(0.1%)を塗布(厚さ:1 mm)乾燥することにより、遺伝子組み換えゼラチンコーティング表面を作製することができた。
【0061】
遺伝子組み換えゼラチンを用いることにより、医用材料上に細胞の接着性、分解性の制御が可能であり、薬剤封入を制御でき、かつ生体適合性の高いコーティングを施すことが可能であるといえる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
遺伝子組み換えゼラチンを含むことを特徴とする医用材料表面のコーティング材料。
【請求項2】
該遺伝子組み換えゼラチンが、天然のコラーゲンのアミノ酸配列との相同性が80%以上である、請求項1に記載のコーティング材料。
【請求項3】
該遺伝子組み換えゼラチンがコラーゲンに特徴的なGXY部分を有し、分子量が2 KDa以上100 KDa以下である、請求項1又は2に記載のコーティング材料。
【請求項4】
該遺伝子組み換えゼラチンがコラーゲンに特徴的なGXY部分を有し、分子量が10 KDa以上90 KDa以下である、請求項1又は2に記載のコーティング材料。
【請求項5】
該遺伝子組み換えゼラチンが天然コラーゲンの部分配列の繰り返しである、請求項1から4の何れかに記載のコーティング材料。
【請求項6】
該医用材料が生体内で用いる材料である、請求項1から5の何れかに記載のコーティング材料。
【請求項7】
該医用材料が血管内治療に用いる材料である、請求項1から5何れかに記載のコーティング材料。
【請求項8】
該医用材料が、ステント又は人工血管である、請求項1から5の何れかに記載のコーティング材料。
【請求項9】
該医用材料表面が、セグメント化ポリウレタン、ポリエチレンテレフタレート、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、乳酸―グリコール酸の共重合体、ステンレス、又はニッケルである請求項1から8の何れかに記載のコーティング材料。
【請求項10】
薬剤が封入されている、請求項1から9の何れかに記載のコーティング材料。
【請求項11】
該薬剤が、抗炎症剤、抗菌剤、抗生剤、抗癌剤、または免疫抑制剤である、請求項10に記載のコーティング材料。
【請求項12】
該薬剤が、抗抗癌剤、又は免疫抑制剤である、請求項10又は11に記載のコーティング材料。
【請求項13】
該薬剤がパクリタキセル、ドセタキセル、シスプラチン、ラパマイシン、タクロリムスである、請求項10に記載のコーティング材料。
【請求項14】
該薬剤が、サイトカイン、ホルモン、ポリペプチド、又は核酸である、請求項10に記載のコーティング材料。
【請求項15】
該遺伝子組み換えゼラチンが架橋されている、請求項1から14の何れかに記載のコーティング材料。
【請求項16】
該架橋がアルデヒド類、縮合剤、又は酵素により施される、請求項15に記載のコーティング材料。
【請求項17】
該薬剤の封入または医用材料表面のコーティングの際に有機フッ素化合物を用いる、請求項1から16の何れかに記載のコーティング材料。

【公開番号】特開2009−5995(P2009−5995A)
【公開日】平成21年1月15日(2009.1.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−171365(P2007−171365)
【出願日】平成19年6月29日(2007.6.29)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】