説明

コーティング用組成物およびそれを用いた表示装置

【課題】得られる膜の耐クラック性、硬度、塗布性のすべてを満足するコーティング用組成物、およびこれを用いた表示装置を提供する。
【解決手段】(a)RSi(OR’)で表される2官能性シラン1モルに対して、RSi(OR’)で表される3官能性シランを3.5〜10モル含有するシラン混合物を加水分解および縮合させることによって得られるシロキサンポリマー、(b)1気圧における沸点が130℃以上であるアルコール系溶剤、(c)20℃における水に対する溶解度が50g/100mL以下、1気圧における沸点が160℃以下、20℃における蒸気圧が1.3kPa以下の全てを満たすエステル系溶剤を含有し、(b)成分100に対し(c)成分の含有量が10〜100重量部であるコーティング用組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はシロキサンポリマーを含有したコーティング用組成物、およびそれを用いた表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、アルコキシシランを加水分解・縮合することによって得られるシロキサンポリマーを含有したコーティング用組成物は種々提案されており、半導体や液晶表示素子などの不純物の拡散防止、絶縁、表面の平坦化膜、バッファーコート膜などとして用いられている。しかし、従来のコーティング用組成物を用いて、TFTが形成された基板上の凹凸を平坦化する場合、コーティング用組成物から得られる膜の耐クラック性、硬度、塗布性のすべてをバランス良く満足できないことが問題であった。
【0003】
例えば、耐クラック性を向上させ、厚膜が必要なときにも好適に用いられるシリカ系コーティング用組成物として、2官能性シランと3官能性シランをブレンドしたコーティング用組成物が開示されている(特許文献1、2参照)。しかし、硬度、塗布性と耐クラック性を両立する組成物は得られていなかった。
【0004】
また、スピンオングラス(SOG)や樹脂材料からなる平坦化絶縁膜を用いたアクティブマトリックス型有機EL表示装置が提案されている(特許文献3、4参照)。しかし、平坦化絶縁膜の材料組成に関する詳細な技術については開示されていない。
【0005】
溶剤組成については、耐水性、耐薬品性、耐クラック性、耐熱性、撥水性、耐候性および各種基材との密着性に優れた塗膜を形成させることのできるコーティング用組成物として、3官能性オルガノシラン、オルガノポリシロキサンおよび/または2官能性オルガノシラン、金属アルコレートおよびその誘導体、親水性有機溶媒、および水からなる混合物が開示されている(特許文献5参照)。しかし、疎水性のシロキサンポリマーと溶剤との相溶性が悪く、ハジキなどの塗布性不良、塗膜均一性が悪い、保存安定性が悪いなどの問題があった。
【0006】
さらに、シラン化合物、エチレングリコールモノメチルエーテル等に代表される溶剤、疎水性有機溶剤からなる膜形成用組成物が開示されている(特許文献6参照)。しかし、シラン化合物の加水分解・縮合に用いられる触媒として、得られるポリマーが3次元網目構造になりやすい塩基性触媒が用いられており、耐クラック性、塗布性に問題があった。さらに、開示されているポリマーの製法は加水分解・縮合後にpHを7以下に調整する工程があり、製造工程が繁雑になる。
【0007】
また、アルコキシシラン化合物等を加水分解縮合して得られるシロキサン樹脂と、アルキレングリコールアルキルエステルまたはアルキレングリコールアルキルアセテートからなる第1の溶媒成分、及び、アルキレングリコールモノアルキルエーテルからなる第2の溶媒成分を備えるシリカ系被膜形成用組成物、さらに、溶媒成分として必要に応じてアルコール系溶媒を含んでも良いことが開示されている(特許文献7参照)。しかし、親水性のアルコール系成分に対する疎水性のアルキレングリコールアルキルアセテート(エステル)の割合が、アルコール系成分100重量部に対して10重量部未満や100重量部を越えると、塗膜の塗布均一性が劣る問題があった。
【特許文献1】特開平6−346025号公報(第2〜3頁)
【特許文献2】特開平7−331172号公報(第2〜3頁)
【特許文献3】特開2001−356711号公報(第2〜3頁)
【特許文献4】特開2001−102165号公報(第2〜3頁)
【特許文献5】特開平5−140507号公報(第2頁)
【特許文献6】特開2002−285085号公報(第2、7頁)
【特許文献7】特開2003−253203公報(第2頁、第6頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、膜の耐クラック性、硬度、塗布性のすべてが良好な特性を奏するコーティング用組成物、およびこれを用いた表示装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち本発明は、(a)RSi(OR’)で表される2官能性シラン1モルに対して、RSi(OR’)で表される3官能性シランを3.5〜10モル含有するシラン混合物を加水分解および縮合させることによって得られるシロキサンポリマー、(b)1気圧における沸点が130℃以上であるアルコール系溶剤、(c)20℃における水に対する溶解度が50g/100mL以下、1気圧における沸点が160℃以下、20℃における蒸気圧が1.3kPa以下の全てを満たすエステル系溶剤を含有するコーティング用組成物であって、(b)成分100重量部に対して(c)成分の含有量が10〜100重量部であることを特徴とするコーティング用組成物である。ここで、R、Rは水素、アルキル基、アルケニル基、アリール基およびそれらの置換体から選ばれる少なくとも1種であり、R’はアルキル基、アルコキシアルキル基、アリール基および加水分解基から選ばれる少なくとも1種である。
【発明の効果】
【0010】
本発明のコーティング用組成物から得られた膜は、耐クラック性、硬度、塗布性のすべてが優れており、特にTFT用の平坦化膜として有用である。また本発明の組成物から得られた膜を平坦化膜として用いた有機EL表示装置は、良好な発光特性を有している。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明はシロキサンポリマーを含有したコーティング用組成物であり、半導体装置の拡散防止膜、絶縁膜、バッファーコート膜、平坦化膜、液晶表示装置や有機EL表示装置の保護膜などの用途に好適に用いられるコーティング用組成物である。また薄膜トランジスタ(TFT)の凹凸を覆うように設けられ、アクティブマトリックス駆動方式の表示装置において、保護膜、平坦化膜、防湿膜、耐薬品性膜として用いられるコーティング用組成物、およびそれを用いた液晶表示装置や有機EL表示装置に用いられるものである。
【0012】
本発明で用いられる(a)シロキサンポリマーは、RSi(OR’)で表される2官能性シラン1モルに対して、RSi(OR’)で表される3官能性シランを3.5〜10モル含有するシラン混合物を加水分解および縮合させることによって得られる。
【0013】
、Rは水素、アルキル基、アリール基、アルケニル基、およびそれらの置換体から選ばれる少なくとも1種を表わし、それぞれ、同一でも、異なっていても良い。R’はアルキル基、アルコキシアルキル基、アリール基および加水分解基より選ばれる少なくとも1種を表わし、それぞれ、同一でも、異なっていても良い。
【0014】
、Rの具体例としては、炭素数1〜6のものが好ましく、水素;メチル基、エチル基、プロピル基などのアルキル基;フェニル基、トリル基、ナフチル基などのアリール基;ビニル基、アリル基などのアルケニル基、および、トリフルオロメチル基、3−グリシドキシプロピル基、3−アミノプロピル基などのアルキル基、アリール基、アルケニル基を有する置換基が挙げられるが、これらに限定されず、また、それらは同一であっても異なっていてもよい。
【0015】
また、R’の具体例としては、メトキシ基、エトキシ基などのアルキル基、メトキシメチル基、メトキシエチル基、エトキシメチル基、エトキシエチル基などのアルコキシアルキル基、クロロ、ブロモなどのハロゲン、アセトキシル基などの加水分解基、フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基などのアリール基が挙げられるが、これらに限定されず、また、それらは同一であっても異なっていてもよい。これらシラン化合物の具体例としては、以下のものが挙げられる。
【0016】
2官能性シランとしては、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、メチルフェニルジメトキシシラン、メチルビニルジメトキシシラン、メチルビニルジエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、3−クロロプロピルメチルジメトキシシラン、3−クロロプロピルメチルジエトキシシラン、シクロヘキシルメチルジメトキシシラン、ヘプタデカフルオロデシルメチルジメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルジメトキシシラン、オクタデシルメチルジメトキシシラン、ジメチルジアセトキシシラン、ジフェニルジアセトキシシラン、ジメチルジクロロシラン、ジエチルジクロロシラン、ジフェニルジクロロシラン、メチルフェニルジクロロシラン、メチルビニルジクロロシラン、オクタデシルメチルジクロロシラン、ヘプタデカフルオロデシルメチルジクロロシランなどが挙げられる。
【0017】
3官能性シランとしては、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、オクタデシルトリメトキシシラン、オクタデシルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、トリフルオロメチルトリメトキシシラン、トリフルオロメチルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−クロロプロピルトリメトキシシラン、3−(N,N−ジグリシジル)アミノプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシシプロピルトリメトキシシラン、ヘプタデカフルオロデシルトリメトキシシラン、トリデカフルオロオクチルトリメトキシシラン、トリフルオロプロピルトリメトキシシラン、メチルトリス(2−メトキシエトキシ)シラン、フェニルトリス(2−メトキシエトキシ)シラン、メチルトリアセトキシシラン、フェニルトリアセトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、メチルトリクロロシラン、フェニルトリクロロシラン、ビニルトリクロロシラン、オクタデシルトリクロロシラン、ヘプタデカフルオロデシルトリクロロシラン、トリデカフルオロオクチルトリクロロシラントリフルオロプロピルトリクロロシランなどが挙げられる。
【0018】
また、シラン化合物は、RSi(OR’)で表される2官能性シラン1モルに対して、Si(OR20で表される4官能性シランを5モル以下含有することもできる。R20はメチル基、エチル基、フェニル基を表わし、それぞれ同一でも、異なっていても良い。ただし、4官能性シランの使用は、膜の緻密性を向上させる利点がある反面、耐クラック性の低下に繋がるため、より好ましくは1モル以下である。
【0019】
4官能性シランとしては、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラフェノキシシランなどが挙げられる。
【0020】
本発明においては、2官能性シラン1モルに対して、3官能性シランを3.5〜10モル含有するシラン混合物を用いる。
【0021】
2官能性シラン1モルに対して3官能性シランが0.3モル以下である場合には、直鎖状のシロキサンポリマーとなり、コーティング後、通常の300〜500℃の加熱によっては硬化せず、膜を形成することができない。また、3官能性シランが0.3モルよりも多く3.5モル未満の範囲では、膜形成は可能となるものの分子量が低いため、膜の硬度が低い、耐熱性が低い、塗布性が悪い、耐薬品性が低いなどの問題がある。一方、3官能性シランが10モルを越えると、耐クラック性が不十分になる、耐湿性が低下する問題がある。したがって、2官能性シラン1モルに対して、3官能性シランが3.5モル以上10モル以下の範囲の場合のみ、耐クラック性、硬度、塗布性のすべてを満足することができる。
【0022】
また、TFT基板の製造工程では平坦化膜を熱処理形成後に、200℃以上450℃以下の熱処理があるため、これらの熱処理を施してもクラックを発生しないことが求められる。熱処理温度は、より好ましくは250℃以上420℃以下、さらに好ましくは300℃以上420℃以下である。基板上に塗布、加熱処理した後の塗膜の残留応力が高いほど、塗膜のクラックや剥がれ、基板の反りを引き起こす。6インチのシリコンウエハ上に熱処理後の膜厚が1μmとなるように形成した場合、クラックを発生させないためには、特に350℃以上420℃以下の温度で残留応力が45MPa以下であることが好ましい。より好ましくは40MPa以下である。
【0023】
さらに、Rがフェニル基であるシラン化合物を30モル%以上70モル%以下含むことが好ましい。Rがフェニル基であるシラン化合物が70モル%よりも多い場合には、膜に白濁が生じたり、紫外光の透過率が低下する。また、30モル%よりも少ない場合には、耐クラック性が低下する。
【0024】
これらのシラン混合物に水を加え、加水分解および部分縮合させることにより、シロキサンポリマーが得られる。
【0025】
反応は無溶媒でも良いが、通常は溶媒中で行なわれる。溶媒は有機溶媒が好ましく、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、3−メチル−3−メトキシ−1−ブタノールなどのアルコール類、エチレングリコール、プロピレングリコールなどのグリコール類、エチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジエチルエーテルなどのエーテル類、メチルイソブチルケトン、ジイソブチルケトンなどのケトン類、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドなどのアミド類、エチルアセテート、エチルセロソルブアセテート、3−メチル−3−メトキシ−1−ブタノールアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートなどのアセテート類、トルエン、キシレン、ヘキサン、シクロヘキサンなどの芳香族あるいは脂肪族炭化水素のほか、γ−ブチロラクトン、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルスルホキシドなどを挙げることができる。溶媒の量は任意に選択可能であるが、RSi(OR’)で表される2官能性シランと、RSi(OR’)で表される3官能性シランの総量1重量部に対して、0.1〜3重量部の範囲で用いるのが好ましい。
【0026】
また、シリカ系コーティング用組成物から得られる膜の脱ガス量を低減するために、シラン化合物を加水分解する際に副生するアルコールの沸点が低いことが好ましく、RSi(OR’)、および、RSi(OR’)のR’がメチル基もしくはエチル基であることが好ましい。さらに好ましくは、R’がメチル基である。
【0027】
得られたシロキサンポリマーの構造については、29Si−NMR、より好ましくはH−29Si−二次元NMR法(HMBC法)を用いることにより、分析することができる。
【0028】
分析条件としては、例えば、29Si−NMRについては以下の通りである。
観測周波数 53.671MHz、
観測範囲 15015Hz、
データポイント 16834、
測定モード SGNNE(1Hゲーテッドデカップル、29Si定量モード)、
パルス幅 5.5μsec(29Si 30°パルス)
積算繰り返し 75sec、
積算回数 4096回、
溶媒 CDCl
試料濃度 50wt%、
緩和試薬 アセチルアセトンクロム(III)塩(10−2mol/kg)、
測定温度 室温である。
【0029】
H−NMRについては、以下の通りである。
測定周波数 270.167MHz、
観測範囲 4000Hz、
データポイント 16384、
測定モードSGNON(Hシングルパルス)、
パルス幅 9.0μsec、
積算繰り返し 7sec、
積算回数 32回、
試料濃度 原液(希釈なし)、
測定温度 室温である。
【0030】
また、耐クラック性の向上を目的として、下記に示した1種以上のポリシロキサン(線状ポリシロキサン)を添加することもできる。
【0031】
【化1】

【0032】
、Rは、それぞれ同じでも異なっていても良く、水素、炭素数1〜6のアルキル基、フェニル基、炭素数1〜6のアシル基、およびそれらが置換された有機基を表す。R、R、R、Rはそれぞれ同じでも異なっていてもよく、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、アルケニル基およびこれらの基を有する置換基を表す。pは1〜1000の範囲である。
【0033】
、Rの具体例としては、水素、メチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基などのアルキル基、フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基などのアリール基、ホルミル基、アセチル基、マロニル基、ベンゾイル基、シンナモイル基などのアシル基が挙げられる。
【0034】
、R、R、Rの具体例としては、炭素数は1〜10までが好ましく、メチル基、エチル基、プロピル基などのアルキル基、メトキシ基、エトキシ基などのアルコキシ基、フェニル基、トリル基、キシル基、ナフチル基などのアリール基、ビニル基、アリル基、アクリロイルオキシプロピル基などのアルケニル基、およびトリフルオロメチル基、トリフルオロメチルエチル基、3−グリシドキシプロピル基、3−アミノプロピル基などのアルキル基、アリール基、アルケニル基のそれぞれが含まれる置換基、および水素が挙げられる。また(a)シロキサンポリマーとの相溶性の観点から、R、R、R、Rの上記に示された線状ポリシロキサン中におけるフェニル基含有率が好ましくは1〜100モル%、さらに好ましくは3〜70モル%であることが好ましい。フェニル基が少ないと相溶性が悪くなる。またフェニル基含有率が耐クラック性に向上に大きな効果を有する。
【0035】
上記に示された式中のpは、(a)シロキサンポリマーとの相溶性の観点から、好ましくは1〜1000、さらに好ましくは2〜100、さらに好ましくは、3〜50であることが好ましい。pが1000より大きいと、膜に白濁が生じたり、可視光線の透過率が低下したりする。
【0036】
上記に示された線状シロキサンの具体例としては、1,1,3,3−テトラエトキシ−1,3−ジメチルシロキサン、1,1,3,3−テトラメチル−1,3−ジエトキシジシロキサン、ゲレスト社製シラノール末端ポリジメチルシロキサンである“DMS−S12”(分子量400〜700の分布を持つ)、“DMS−S15”(分子量1500〜2000の分布を持つ)、“DMS−S21”(分子量4200)、“DMS−S27”(分子量18000)、“DMS−S31”(分子量26000)、“DMS−S32”(分子量36000)、“DMS−S33”(分子量43500)、“DMS−S35”(分子量49000)、“DMS−S38”(分子量58000)、“DMS−S42”(分子量77000)、ゲレスト社製シラノール末端ジフェニルシロキサン−ジメチルシロキサンコポリマーである“PSD−0332”(分子量35000、ジフェニルシロキサンを2.5−3.5モル%共重合している)、“PDS−1615”(分子量900〜1000の分布を持つ、ジフェニルシロキサンを14〜18モル%共重合している)、さらには“PDS−9931”(ゲレスト社製シラノール末端ポリジフェニルシロキサン、分子量1000〜1400の分布を持つ)などが挙げられるがこれに限定されない。
【0037】
本発明では、(a)シロキサンポリマーに、少なくとも2種類の溶剤を添加する。2種類の溶剤は、(b)親水性のアルコール系溶剤と(c)疎水性のエステル系溶剤をブレンドして用いることにあり、沸点、水に対する溶解度、蒸気圧などの特定の範囲を満たす特定の溶剤を選択する。
【0038】
本発明における(b)成分としては、1気圧における沸点が130℃以上であるアルコール系溶剤である。130℃未満の場合、塗布したときの溶剤の乾燥が速く、スジを引いたり、ムラが発生したりなど、塗布性に問題が生じる。さらに、1気圧における沸点が130℃以上250℃以下、より好ましくは150℃以上230℃以下であることが好ましく、かつ1価のアルコールがより好ましい。2価以上の多価アルコールは、1分子中のアルコール性水酸基の数が多いため、コーティング用組成物中の他の成分との相互作用が強く、反応やゲル化等を起こして保存安定性に劣る場合がある。(b)成分は反応溶媒として用いることもできるし、反応後に希釈などを目的として添加しても良いが、反応溶媒として用いることが好ましい。
【0039】
(b)成分の具体例としては、1−ペンタノール、イソペンチルアルコール、1−ヘキサノール、2−メチル−1−ペンタノール、4−メチル−2−ペンタノール、2−エチル−1−ブタノール、1−ヘプタノール、2−ヘプタノール、3−ヘプタノール、1−オクタノール、2−オクタノール、2−エチル−1−ヘキサノール、1−ノナノール、3,5,5−トリメチル−1−ヘキサノール、1−デカノール、1−ウンデカノール、ベンジルアルコール、シクロヘキサノール、1−メチルシクロヘキサノール、2−メチルシクロヘキサノール、3−メチルシクロヘキサノール、4−メチルシクロヘキサノール、α−テルピオネール、エチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、2−ブテン−1,4−ジオール、2−メチル−2,4−ペンタンジオール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、3−メチル−3−メトキシブタノール、2−n−ブトキシエタノール、1,2,6−ヘキサントリオール、エチレングリコールモノエチルエーテル、2−(メトキシメトキシ)エタノール、エチレングリコールイソプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノイソアミルエーテル、エチレングリコールモノヘキシルエーテル、エチレングリコールモノフェニルエーテル、α−フリルカルビノール、テトラヒドロフルフリルアルコール、ジエチレングリコール、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコール、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジアセトンアルコール、3−クロロ−1,2−プロパンジオール、1,3−ジクロロ−2−プロパノール、3−ヒドロキシプロピオニトリル、アセトンシアノヒドリン、2−アミノエタノール、2−(ジメチルアミノ)エタノール、2−(ジエチルアミノ)エタノール、イソプロパノールアミン、乳酸メチル、乳酸エチル、乳酸ブチル、乳酸ペンチル、サリチル酸メチル、などが挙げられる。これら溶剤は、単独で用いても良いし、2種類以上を混合して用いても良い。
【0040】
本発明における(c)成分としては、20℃における水に対する溶解度が50g/100mL以下、1気圧における沸点が160℃以下、20℃における蒸気圧が1.3kPa以下の全てを満たすエステル系溶剤である。(c)成分は反応溶媒として用いることもできるし、反応後に希釈などを目的として添加しても良いが、希釈溶媒として後から添加することが好ましい。
【0041】
水に対する溶解度が50g/100mLより大きい場合は、疎水性の効果が弱く、シロキサンポリマーの相溶性が低下する。より好ましくは水に対する溶解度が20g/mL以下である。
【0042】
また、1気圧における沸点が160℃以下が好ましく、より好ましくは150℃以下である。一般に沸点が高いほど蒸気圧は低くなる傾向があるが、本発明においては沸点が比較的低く、かつ蒸気圧も低いことが重要である。20℃における蒸気圧が1.3kPa以下が好ましく、より好ましくは0.67kPa以下のものである。蒸気圧が低いことにより、スピン塗布時など室温において作業するときには、比較的蒸発しにくいため良好な塗布性を示す。また、沸点が低いことにより、プリベークなど加温するときには容易に溶剤を蒸発させることができるという効果を有する。
【0043】
(c)成分の具体例としては、酢酸n−ブチル、酢酸sec−ブチル、酢酸n−ペンチル、酢酸イソペンチル、酢酸sec−ペンチル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートなどが挙げられる。これら溶剤は、単独で用いても良いし、2種類以上を混合して用いても良い。
【0044】
組成物中の(b)成分に対する(c)成分の割合は、(b)成分100重量部に対して、(c)成分10〜100重量部、より好ましくは10〜70重量部、特に好ましくは20〜50重量部である。(c)成分の量が10重量部未満や100重量部を越えると、塗膜の塗布均一性が劣る。
【0045】
コーティング用組成物中の(b)成分、(c)成分は、ガスクロマトグラフィー、液体クロマトグラフィーなどの一般的な分離分析方法を用いて同定することが可能である。さらに、例えば「溶剤ハンドブック(講談社;浅原照三ほか編)」などで調べることにより、同定された溶剤の沸点、水に対する溶解度、蒸気圧などの物性値を知ることができる。
【0046】
組成物中の水の含有量は、0.1〜2重量%、より好ましくは0.1〜1.5重量%、特に好ましくは0.1〜1重量%であることが、上記塗布均一性を更に向上させるために好ましい。加える水はイオン交換水が好ましい。水の量は任意に選択可能であるが、シラン1モルに対して、1.0〜4モルの範囲で用いるのが好ましい。
【0047】
本発明の(a)シロキサンポリマーを製造するに際し、触媒を用いることが好ましい。より好ましくは、酸性触媒を用いることである。塩基性触媒を用いると3次元架橋構造を取りやすく、ポリマーの二次元構造が球状となるため、段差被覆性に劣る。本発明では、酸性触媒を用いることにより、ポリマーの2次元構造がより線状となるため、段差被覆性に優れる。本発明で使用できる酸性触媒としては、塩酸、硫酸、酢酸、トリフルオロ酢酸、リン酸、多価カルボン酸あるいはその無水物、イオン交換樹脂などの酸触媒などが挙げられる。
【0048】
また、本発明の(a)シロキサンポリマーの反応温度は、反応系の凝固点から沸点の範囲で通常選択されるが、沸点以上の温度で加圧状態で反応することも可能である。高分子量のシロキサンポリマーを得るには、還流下で1〜100時間行うのが好ましい。そのほかシロキサンポリマーの重合度を上げるために、再加熱を行うことも可能である。
【0049】
本発明のコーティング用組成物において、溶剤はアルコキシシランの加水分解により副生したアルコールを実質的に含まない。従って、反応溶液からアルコキシシランの加水分解により副生するアルコール、すなわち、メタノール、あるいはエタノールを除去する必要がある。除去する方法としては特に限定されないが、アルコキシシランを加熱させて反応させている時に、蒸発してくる副生したアルコールおよび水を冷却管を通して留去する方法、あるいは、メチルイソブチルケトン、ジイソブチルケトン、ジエチルエーテルなどの疎水性有機溶剤を用いて反応溶液からシロキサンポリマーを抽出し、その有機層を水洗する方法である。塗布性、保存安定性の向上のためには、副生したアルコールを除去するほか、反応溶液から水、あるいは触媒をも除去することができる。得られたシロキサンポリマーに実質的に副生アルコールが含まれないことは、ガスクロマトグラフィー、液体クロマトグラフィーなどの分離分析手法を用いて、コーティング用組成物に対して0.1%以下、より好ましくは0.01%以下であることを確認することにより可能である。
【0050】
膜の硬度、高温高湿耐性を向上させる目的で、金属アルコキシド、あるいは該金属アルコキシドから誘導される金属キレート化合物を添加することもできる。これら化合物は、膜の硬化温度を下げる効果がある。これにより、本発明のコーティング用組成物を硬化させる温度が300℃以下であっても、高温高湿耐性に優れた硬化膜を得ることができる。
【0051】
本発明において用いられる金属アルコキシドは、M(OR”)mで表される。Mはチタン、ジルコニウム、またはアルミニウムの金属原子である。R”は同一もしくは異なっていても良く、それぞれ水素、アルキル基、アリール基、アルケニル基、およびこれらの基を有する置換基から選ばれる少なくとも1種を表わす。また、mは金属原子Mの原子価を意味する。
【0052】
Mはチタン、ジルコニウム、またはアルミニウムの金属原子である。ボロン、マグネシウムなどは、反応性がシリコンアルコキシドと同程度であるために低温硬化に効果がない、あるいは、反応性が極端に高すぎて実用的でない。チタン、ジルコニウム、アルミニウムのアルコキシド化合物を用いた場合、被膜の硬化温度を下げる効果があり、高温高湿耐性に優れた被膜を得ることができる。さらに、ジルコニウムを用いた場合は、被膜の強靱性の向上に非常に有効であることから、特にジルコニウムアルコキシド、あるいはジルコニウムアルコキシドのキレート化合物を用いるのが好ましい。
【0053】
R”は、水素、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基などのアルキル基、フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基などのアリール基、ビニル基、アリル基、エチニル基などのアルケニル基、アセチル基、β−メトキシエトキシ基などの置換アルキル基などが挙げられる。具体例としては、テトライソプロポキシチタン、テトラノルマルブトキシチタン、テトライソプロポキシジルコニウム、テトラノルマルブトキシジルコニウム、トリイソプロポキシアルミニウム、トリノルマルブトキシアルミニウムなどが挙げられる。
【0054】
また、本発明において用いられる金属キレート化合物は、M(OR”)mで表される金属アルコキシドから誘導される金属キレート化合物である。金属キレート化合物は、金属アルコキシドにキレート剤を反応させることにより容易に得られ、下記に示されるようなものが好ましい。
【0055】
【化2】

【0056】
Mはチタン、ジルコニウム、またはアルミニウムの金属原子である。R11は同一もしくは異なっていても良く、それぞれ水素、アルキル基、アリール基、アルケニル基、およびこれらの基を有する置換基から選ばれる少なくとも1種を表す。R12は同一もしくは異なっていても良く、それぞれ水素、アルキル基、アリール基、アルケニル基、アルコキシ基およびこれらの基を有する置換基をから選ばれる少なくとも1種を表す。また、sは金属原子Mの原子価、tは0〜(s−1)である。
【0057】
キレート剤の例としては、アセチルアセトン、ベンゾイルアセトン、ジベンゾイルメタンなどのβ−ジケトン、アセト酢酸エチル、ベンゾイル酢酸エチルなどのβ−ケト酸エステルなどを用いることができる。
【0058】
金属アルコキシドは種々の化学理論量のキレート化剤と反応して相当する金属キレート化合物となるため、用いるキレート化剤の量は金属アルコキシド1モルに対して、0.1〜10モルの範囲で、成分(a)であるシロキサンポリマーの反応性に応じて決めることが好ましい。すなわち、成分(a)の反応性が低い場合には、金属アルコキシドあるいは低配位の金属キレート化合物を用いることができるが、成分(a)の反応性が高い場合には、より加水分解安定性が高い高配位の金属キレート化合物を用いるのが好ましい。
【0059】
金属アルコキシド、または金属キレート化合物の混合の割合は、シロキサンポリマー100重量部に対して0.1〜20重量部が好ましく、より好ましくは0.5〜5重量部である。混合方法としては、常温での混合した後、1時間〜1日程度の放置、あるいは沸点以下での加熱処理を行うのが好ましい。
【0060】
また、本発明のコーティング用組成物は、膜の絶縁性能の観点から、クロム、鉄、ニッケル等の重金属、リチウム、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属、カルシウム、マグネシウム等のアルカリ土類金属、塩素、臭素等のハロゲンなどの元素含有濃度が低いことが望ましい。具体的には、コーティング用組成物中における該元素類の濃度が1ppm以下、好ましくは100ppb以下、より好ましくは、10ppb以下である。
【0061】
本発明に用いられる塗布液は、予めろ過によりパーティクルを除去して用いられる。ろ過フィルターの材質としては、四フッ化ポリエチレン(PTFE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、ポリプロピレン(PP)、ナイロン66等がありいずれのフィルターを用いても良い。フィルター孔径としては1μm、0.5μm、0.2μm、0.1μm、0.07μm、0.05μm、0.03μm等が用いられる。
【0062】
本発明のコーティング用組成物は、基板上に塗布し、乾燥、加熱処理することによって、硬化膜となる。組成物を基板へ塗布する方法、乾燥、加熱処理の手段は特に限定されず、公知の方法を用いても良い。
【0063】
用いる基板は、ガラス、シリコン、セラミック、金属、プラスチックなどが挙げられる。また、これらを下地基板にしてSiO、Si、Cr、Al、Cu、Mo、MoNd、Ti、W、TiW、Au、ITOなどをスパッタ、CVDや蒸着で成膜したもの、およびこれら材質からなるTFT基板などの素子付き基板のことである。ここで、TFTとは表示装置を駆動させるスイッチング素子としての薄膜トランジスタのことである。これらの基板は段差のない平滑なものであっても良いし、0.1〜3μmの段差があるものを用いても良い。
【0064】
コーティング用組成物の加熱処理後の膜厚は、0.1〜5μmが好ましく、段差基板の場合は段差に対して0.5倍〜10倍の膜厚、より好ましくは1倍〜5倍である。
【0065】
コーティング用組成物を塗布する方法としては、スピンコート、スリットアンドスピンコート、スリットコート、ロールコート、スプレーコート、ディップコートなどが挙げられる。また、インクジェットを用いた塗布方法を用いることもできる。
【0066】
塗布後の膜を乾燥する方法としては、ホットプレート、赤外線照射、あるいはオーブンを用いて、乾燥温度を50〜200℃、乾燥時間を1分〜3時間、乾燥後の膜厚を0.5〜5μmとすることが好ましい。
【0067】
次いで加熱処理を行うが、これは、塗布したコーティング用組成物を加熱し、加水分解および縮合反応を進行させ、脱水・脱アルコールを行う工程である。加熱温度は、200℃以上450℃以下、好ましくは250℃以上420℃以下、さらに好ましくは300℃以上のである。加熱方法は、オーブンやホットプレート、UV照射、赤外線照射などが挙げられる。加熱雰囲気は、窒素やアルゴンなどの不活性ガス、あるいは酸素を含んだ空気中でも好ましく用いられる。加熱処理後の硬化膜の脱ガスを低減させるには、脱ガスの原因となる硬化膜中の残留物をより効果的に熱分解することができるので、空気中で処理することが好ましい。
【0068】
本発明の組成物から得られる硬化膜の硬度は、鉛筆引っかき試験や、微少圧縮試験機によるヴィッカース硬さとして評価できる。2官能性シラン1モルに対して、3官能性シランが3.5モル未満になると、ポリマーの分子量が低下し、塗膜の硬度が低下する。金属アルコキシド、あるいは該金属アルコキシドから誘導される金属キレート化合物を添加する場合、本発明では、3官能性シランが7モル以上10モル以下のとき鉛筆硬度は「3H」、3.5モル以上7モル未満のとき「2H」、1モル以上3.5モル未満のとき「H」、1モル未満では「F〜B」を示す。前記金属アルコキシド、あるいは該金属アルコキシドから誘導される金属キレート化合物を添加しない場合は、各硬度は1ランクずつ軟らかい方向にシフトし、例えば、3官能性シランが7モル以上10モル以下のときは「2H」、3.5モル以上7モル未満のとき鉛筆硬度は「H〜F」を示す。
【0069】
TFT用平坦化膜に用いられる膜は、少なくとも「H」以上、より好ましくは「2H」以上の硬度が求められる。従って本発明では、金属アルコキシド等を添加する場合は3官能性シランが2官能性シラン1モルに対して少なくとも3.5モル以上であることが好ましく、金属アルコキシド等を添加しない場合は3官能性シランが2官能性シラン1モルに対して少なくとも3.5モル以上、より好ましくは7モル以上10モル以下であることが好ましい。
【0070】
本発明のコーティング用組成物は、2官能性シランを用いているため、3官能性シランや4官能性シランのみを用いた場合に比べて膜が硬化しにくいことがあり、このとき膜硬化剤を用いても良い。膜硬化剤は、熱によって酸、あるいは塩基を発生する化合物、および、光によって酸、あるいは塩基を発生する化合物が好ましい。具体的には、熱あるいは光によって酸を発生する化合物は、ベンゾイントシレート、ベンゾインメシレート、ピロガロールトリトシレート、ピロガロールトリメシレート、トリ(ニトロベンジル)フォスフェート、トリアニソインフォスフェート、ジアリールヨードニウム塩、トリアリールスルホニウム塩などが挙げられる。熱あるいは光によって塩基を発生する化合物は、ニトロベンジルシクロヘキシルカルバメート、ジ(メトキシベンジル)ヘキサメキレンジカルバメートなどが挙げられる。これらの化合物の使用量としては、シロキサンポリマーに対して、0.01〜20重量%であることが好ましく、より好ましくは0.1〜10重量%である。
【0071】
さらに、本発明のコーティング用組成物は、膜硬化剤のほか、必要に応じて、粘度調整剤、界面活性剤、着色剤、ガラス質形成剤、無機酸化物粒子などを含有することができる。これらの含有量としては、シロキサンポリマー100重量部に対して、0.01〜20重量部であることが好ましく、より好ましくは0.1〜10重量部である。
【0072】
ここで、粘度調整剤とは、増粘材、減粘材、ゲル化剤、安定化剤などを指し、例えば、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸プロピレングリコールエステル、カルボキシメチルセルロースナトリウム、カルボキシメチルセルロースカルシウム、デンプングリコール酸ナトリウム、デンプンリン酸エステルナトリウム、ポリアクリル酸ナトリウム、メチルセルロース、グアーガム、カジブビーンガム、タラガム、タマリンドシードガム、アラビアガム、トラガントガム、カラヤガム、アルギン酸、カラギナン、キサンタンガム、ジエランガム、カードラン、ペリチン、キチン、キトサン、キトサミンなどが挙げられる。
【0073】
界面活性剤としては、例えば、カルボン酸塩、スルホン酸塩、硫酸エステル塩、リン酸エステル塩などの陰イオン界面活性剤、脂肪族アミン塩、塩化ベンザルコニウム塩、塩化ベンゼトニウム、ピリジニウム塩、イミダゾリニウム塩などの陽イオン界面活性剤、カルボキシベタイン型、アミノカルボン酸塩、イミダゾリニウムベタイン、レシチン、アルキルアミンオキサイドなどの両性界面活性剤、ポリエオキシエチレンアルキルエーテル、単一鎖長ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレン2級アルコールエーテル、ポロキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンステロールエーテル、ポリオキシエチレンラノリン誘導体、アルキルフェノールホルマリン縮合物の酸化エチレン誘導体、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックコポリマー、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル(エーテル型)、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンヒマシ油および硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸アルカノールアミド硫酸塩(エーテルエステル型)、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、エチレングリコール脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル(エステル型)、脂肪酸アルカノールアミド、ポリオキシエチレン脂肪酸アミド、ポロキシエチレンアルキルアミン(含窒素型)、フッ素系界面活性剤などが挙げられる。
【0074】
着色剤としては、例えば、塩基性や酸性の水溶性、アゾ系、アンスラキノン系、ペリレン系、酸化物、硫化物、フェロシアン化物、クロム酸塩などの染料、硫酸塩、炭酸塩、珪酸塩、炭素、金属粉、アゾ系、縮合アゾ系、インジゴ系、フタロシアニン系、アンスラキノン系、キノフタロン系、ペリレン系、ペリノン系、ジオキサジン系、ジアリライド系、イソインドリノン系、金属錯塩などの顔料が挙げられる。
【0075】
ガラス質形成材としては、水溶性アルカリ金属ケイ酸塩などが挙げられる。
【0076】
無機酸化物粒子としては、シリカ、アルミナ、ジルコニア、シリカ・アルミナ等からなる微粒子を用いることが挙げられる。シリカ系粒子として、多孔質粒子や内部に空洞を有する中空粒子を用いると、耐擦傷性に優れるとともに、密着性、スクラッチ強度がより優れた被膜を形成できる。また、屈折率を低くすることも可能となる。中空シリカ粒子の平均粒子径は0.5〜200nmの範囲が好ましい。この範囲であれば、レイリー散乱による光の反射を防止して透明性の低下を抑制するとともに、中空シリカ粒子の凝集を防ぐことができる。
【0077】
本発明における耐クラック性とは、基板に塗布、乾燥、加熱処理を行った後に、光学顕微鏡下で観察されるクラックの発生に対する耐性を意味し、クラックが発生しないことが求められる。耐クラック性のテストを行う際には、基板に段差のない平滑なものを用いても良いし、0.3〜2μmの段差があるものを用いても良い。加熱処理後のコーティング用組成物の膜厚は、0.3〜4μmが好ましい。
【0078】
耐クラック性と膜の残留応力には相関があり、残留応力が小さいほど耐クラック性は向上する。残留応力とは、塗膜の付いていない基板をリファレンスとして塗膜付きの基板を熱処理したときに発生する内部応力のことである。測定には薄膜応力測定装置を用いる。ここで、薄膜応力測定装置の測定原理が、レーザー光を基板に当て、その反射角度をリファレンスと比較して内部応力を換算するため、基板にはレーザー光を反射できる鏡面の金属基板、または鏡面の金属膜で覆われている基板を用いることが好ましい。基板としては鏡面仕上げのシリコンウエハ、アルミニウム膜付基板などが好ましく用いられる。加熱処理後の内部応力を測定するには、薄膜応力測定装置内で塗膜付き基板を加熱処理し、25℃まで冷却して残留応力を読みとるか、薄膜応力測定装置外で加熱処理を行い(例えばオーブンやホットプレートを用いる)、25℃にて応力を測定する方法などがある。ここで熱処理とは、乾燥後の加熱処理、高温アニール処理など、加熱するあらゆる工程のことである。
【0079】
一般にTFT素子は、素子の信頼性向上を目的として、平坦化膜の加熱処理工程以降に300℃以上の高温アニール処理を施す必要がある。従来のシリカ系コーティング剤を平坦化膜として用いると、高温アニール処理時のためにクラックがより発生し易かった。これは、シリカ系コーティング剤を塗布・加熱処理すると、アルコキシシランが加水分解および縮合するため塗膜に内部応力が生じ、さらに350℃以上の高温アニール処理をすると塗膜中の有機基の熱分解が進行するため、内部応力がさらに増大することが原因とされる。
【0080】
本発明では、高温アニール処理後の塗膜の残留応力が45MPa以下のときにクラックは発生しない。特に、350℃以上420℃以下の温度で加熱処理を行った後の塗膜の残留応力が45MPa以下であると、クラックが生じない。
【0081】
本発明における塗布性は、基板上に塗布したときにハジキ、ピンホール、基板端からのヒケ(後退)などの有無によって評価される。2官能性シラン1モルに対して、3官能性シランが3.5モル未満になると、ポリマーの疎水性が高くなり、基板に塗布したときにエッジ部分からの後退、ハジキが発生するなど、基板に対する塗布性が低下する。また、必要に応じて本発明のコーティング用組成物と基板との塗れ性を向上させる目的で、界面活性剤、乳酸エチルなどのエステル類、エタノールなどのアルコール類、シクロヘキサノン、メチルイソブチルケトンなどのケトン類、テトラヒドロフラン、ジオキサンなどのエーテル類を混合しても良い。また、二酸化ケイ素、二酸化チタンなどの無機粒子、あるいはポリイミドの粉末などを添加することもできる。
【0082】
また、スピンコート法で塗布する際の塗布性を向上させるために、20℃における蒸気圧が100Pa以下の有機溶剤を含有させることもできる。特に、スピンコートの後に減圧乾燥工程を導入する場合に特に好ましく用いられる。具体的な例としては、ジプロピレングリコールモノメチルエール、ジプロピレングリコールモノメチルエールアセテート、N−メチル−2−ピロリドン、1,3−ブチレングリコール、プロピレングリコールモノブチルエーテルが挙げられる。
【0083】
上記の特性に加えて、TFT用平坦化膜としては平坦化性や高温高湿耐性が求められる。平坦化性とは段差埋め込み性のことであり、段差を有する基板に塗布したときに、塗布前の段差に対する塗布後の段差の関係から評価されるものである。平坦化性のテストでは、0.3〜2μmの段差を有する基板を用い、コーティング用組成物を基板に塗布、乾燥、加熱処理をし、0.1〜10μmの膜厚を形成し、塗布前の段差Aμmに対して塗布後の埋め込まれた段差Bμmとしたときの、次の式に示した平坦化率Pで評価する。
【0084】
P=(A−B)/A×100
平坦化率Pは50%以上、より好ましくは70%以上である。
【0085】
また、本発明における高温高湿耐性とは、高温高湿条件下でのコーティング膜の耐性のことを表す。具体的には、高温高湿条件(例えば、121℃、2.0×10Pa、100%RH)に曝露した後、クラックや剥離などが観察されないことが好ましい。
【0086】
以下に、本発明のコーティング用組成物を平坦化膜として用いたTFT基板を作製し、その基板上に有機EL素子を作製した表示装置について説明する。
【0087】
液晶や有機ELディスプレイの表示素子を駆動するための薄膜トランジスタ(Thin Film Transistor、以下TFTと記す)を設けるアクティブマトリックス型の表示装置は、基板上に設けられたTFTおよび配線を覆う状態で平坦化膜が設けられ、この平坦化膜上に表示素子が設けられている。また、表示素子と配線とは、平坦化膜に形成されたコンタクトホールを介して接続されている。本発明のコーティング用組成物は、この平坦化膜として用いることができる。
【0088】
図1に示す表示装置は、基板6上に、ボトムゲート型またはトップゲート型のTFT1が行列状に設けられており、このTFT1を覆う状態で絶縁膜3が形成されている。また、この絶縁膜3上にTFT1に接続された配線2が設けられている。さらに絶縁膜3上には、配線2を埋め込む状態で平坦化膜4が設けられている。平坦化膜4には、配線2に達するコンタクトホール7が設けられている。そして、このコンタクトホール7を介して、配線2に接続された状態で、平坦化膜4上に表示素子(例えば有機EL素子)が設けられている。この有機EL素子は、ガラス基板6と反対側から発光光を放出するトップエミッション型でも良いし、基板6側から光を取り出すボトムエミッション型であっても良い。このようにして、各有機EL素子にこれを駆動するためのTFT1を接続したアクティブマトリックス型の有機EL表示装置が得られる。
【0089】
本発明のコーティング用組成物は、半導体装置のバッファコート、平坦化膜、液晶ディスプレーの保護膜のほか、層間絶縁膜、導波路形成用材料、位相シフター用材料、各種保護膜として用いることができる。
【実施例】
【0090】
以下実施例等をあげて本発明を説明するが、本発明はこれらの例によって限定されるものではない。なお、実施例中のコーティング用組成物の評価は以下の方法である。
【0091】
<評価方法>
耐クラック性(クラック数)
4インチのシリコンウエハ上に、コーティング用組成物を塗布し、空気フロー下で300℃×1時間の熱処理行った。その後、アニール処理として400℃×1時間の熱処理をさらに行った。硬化後の膜厚は0.8μmとなるようにした。得られた硬化膜を光学顕微鏡下(ニコン(株)製、AFX−2)で観察し、4インチシリコンウエハ上にあるクラックの個数を数えた。なお、顕微鏡観察には10倍の接眼レンズと10倍の対物レンズを用い、顕微鏡下でひび割れと確認できるものをクラックとして数えた。
【0092】
残留応力
4インチのシリコンウエハ上に、コーティング用組成物を塗布、乾燥させた。その後、ケーエルエー・テンコール社製の薄膜応力測定装置FLX−2908内において、窒素フロー下で400℃×1時間の熱処理行った後、室温まで冷却し、室温における応力を測定した。硬化後の膜厚は0.8μmとなるようにした。
【0093】
塗布性(不良な塗布面積の割合)
4インチのシリコンウエハ上に、コーティング用組成物を塗布し、塗膜にハジキ、ピンホール、基板端からのヒケ(後退)などがないかを観察した。塗布後の膜厚は1μmとなるようにした。4インチシリコンウエハの面積に対し、上記塗布不良により塗布ができなかった面積の割合を算出した。この割合は、ウエハ全面に塗布できた場合、0%を示す。
【0094】
鉛筆硬度
4インチのシリコンウエハ上に、コーティング用組成物を塗布、乾燥した後、空気フロー下で300℃×1時間の熱処理行った。硬化後の膜厚は0.8μmとなるようにした。得られた硬化膜を鉛筆引っかき試験により評価した(JIS−K5400)。
以下に示す実施例、比較例で用いた各溶剤の特性を表1、2に示す。
【0095】
【表1】

【0096】
【表2】

【0097】
実施例1
成分(a):ジメチルジメトキシシラン(以下DMDMとする。分子量120.22)126.21g(1.1モル)、メチルトリメトキシシラン(以下MTMとする。分子量136.22)715.05g(5.3モル)、フェニルトリメトキシシラン(以下PTMとする。分子量198.29)1041.08g(5.3モル)のシラン混合物を3−メチル−3−メトキシブタノール(MMB)2360.18gに溶解し、これに、水642.60g(35.7モル)、リン酸10.04g(0.1モル)を攪拌しながら加えた。得られた溶液を加熱し、還流させながら、3時間反応させた。
【0098】
成分(b):テトラブトキシジルコニウム44.32g(0.12モル)をMMB180.99g(0.16モル)に溶解し、これにアセト酢酸エチル75.16g(0.58モル)を撹拌しながら加えた。得られた溶液を室温で1時間撹拌しながら、反応させた。
【0099】
次に、成分(a)900gに、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)277gを加えて撹拌し、さらに成分(b)74.2gを混合して、室温にて2時間撹拌し、均一な溶液とした。得られた溶液を、MMB70重量部とPGMEA30重量部の混合溶媒を用いて、固形分濃度を22%に調整して、コーティング用組成物を得た。この組成物の耐クラック性、残留応力、塗布性、硬度を評価したところ、クラックは認められず、残留応力44.3MPa、鉛筆硬度3H、塗布性は良好であった。
【0100】
実施例2
実施例1において、成分(a)のDMDMを252.42g(2.1モル)とした以外は実施例1と同様にしてコーティング用組成物を得た。この組成物の耐クラック性、残留応力、塗布性、硬度を評価したところ、クラックは認められず、残留応力39.5MPa、鉛筆硬度2H、塗布性は良好であった。
【0101】
実施例3〜17
各成分を表3の通りとした以外は、実施例1と同様にしてコーティング用組成物を得た。シランモノマーは表3中のモル数に従い、その他の成分についてはシランモノマーの総モル数に対する実施例1における割合で算出して添加した。評価結果も表3に示した。
【0102】
比較例1
成分(a):MTMを1362g(10モル)、PTMを1982g(10モル)のアルコキシシランを4000gのMMBに溶解し、これに、リン酸水溶液(水を1080g(60モル)、リン酸17g(0.17モル)を撹拌しながら加えた。得られた溶液を100℃のオイルバスで加熱し、低沸点物を留出させながら、2時間反応させた。その後、さらに130℃のオイルバスで加熱し、低沸点物を留出させながら、2時間反応させた。得られた溶液をMMBを用いて、濃度30%に調整した。
【0103】
成分(b):テトラブトキシジルコニウム369g(1モル)を1500gのMMBに溶解し、これにアセト酢酸エチル648g(5モル)を撹拌しながら加えた。得られた溶液を室温で1時間撹拌しながら、反応させた。
【0104】
次に、成分(a)650gと成分(b)50gを混合して、室温にて2時間撹拌し、均一な溶液とし、さらにMMBを用いて、固形分濃度を25%に調整して、コーティング用組成物を得た。
【0105】
このコーティング用組成物の耐クラック性、残留応力、塗布性、硬度を評価したところ、クラックが認められ、残留応力も59.5MPaと大きかった。一方、鉛筆硬度は4Hと硬く、塗布性は良好であった。
【0106】
比較例2〜4
各成分を表4の通りとした以外は、実施例1と同様にしてコーティング用組成物を得た。シランモノマーは表4中のモル数に従い、その他の成分についてはシランモノマーの総モル数に対する実施例1における割合を算出して添加した。評価結果も表4に示した。
【0107】
比較例5
DMDMを120.2g(1モル)、MTMを272.4g(2モル)、PTMを198.3g(1モル)の混合物をメタノール100gに溶解し、これに、水270g(15モル)、塩酸3.6g(0.1モル)を撹拌しながら加えた。得られた溶液を加熱し、還流させながら、8時間反応させた。その後、この溶液をイオン交換樹脂1kgを充填したカラムに通し、水および触媒を除去し、得られた有機層を濃縮して、シロキサンポリマーを得た。このシロキサンポリマーをブチルセロソルブにポリマー濃度20重量%になるように溶解し、さらに、トリ(ニトロベンジル)フォスフェートをポリマーに対して、0.1重量%添加し、コーティング用組成物を得た。
【0108】
このコーティング用組成物の耐クラック性、残留応力、塗布性、硬度を評価したところ、2官能性シランの割合が多いために鉛筆硬度が「F」と軟らかく、また塗布性も不良であった。一方、クラックは認められず、残留応力も41MPaと小さかった。
【0109】
比較例6
DMDMを172.8g(1.4モル)、MTMを456.4g(3.4モル)、PTMを190.1g(1モル)の混合物をプロピレングリコールモノメチルエーテル(以下、PGMEとする)936.5gに溶解し、これに、水285.1g(15.8モル)、リン酸8.2g(0.1モル)を撹拌しながら加えた。得られた溶液を加熱し、還流させながら、3時間反応させた。
【0110】
得られたシロキサンポリマーをPGMEにポリマー濃度48重量%になるように溶解し、コーティング用組成物を得た。
【0111】
このコーティング用組成物の耐クラック性、残留応力、塗布性、硬度を評価したところ、2官能性シランの割合が多いために鉛筆硬度が「F」と軟らかく、また塗布性も不良であった。一方、クラックは認められず、残留応力も37MPaと小さかった。
【0112】
比較例7
エチレングリコールモノエチルエーテル(EGEE)21.8gに水32.4g、塩酸2gを溶解し、これにMTM68g(0.5モル)、フェニルトリエトキシシラン(以下PTEとする)、24g(0.1モル)を混合したものを撹拌しながら加え、コーティング用組成物を得た。
【0113】
このコーティング用組成物の耐クラック性、残留応力、塗布性、硬度を評価したところ、クラックが認められ、残留応力も58.3MPaと大きかった。一方、鉛筆硬度は「3H」と硬く、塗布性も良好であった。
【0114】
比較例8
還流冷却器、攪拌機を備えた反応機に、MTM100g(0.73モル)、DMDM30g(0.25モル)、エチルアセトアセテートアルミニウムジイソプロピレート(川研ファインケミカル(株)製、ALCH)4g、イソプロピルアルコール125gおよび水28gを加え、60℃に加熱して5時間反応させ、コーティング用組成物を得た。
【0115】
得られた組成物が疎水性有機溶剤を含有しないために、相溶性が悪く、塗布性が低かった。また、酸性触媒が添加されていないために、シロキサンポリマーが充分に重合せず、金属キレート剤を添加しているにも関わらず、鉛筆硬度が「H」であった。一方、クラックは認められず、残留応力は36.5MPaと小さかった。
【0116】
比較例9
石英製セパラブルフラスコに、蒸留エタノール470.9g、イオン交換水226.5gと25%水酸化テトラメチルアンモニウム水溶液17.2gを入れ、均一に撹拌した。この溶液にMTM44.9g(0.3モル)とテトラエトキシシラン(以下TEとする。分子量208.33)68.6g(0.3モル)の混合物を添加した。溶液を55℃に保ったまま、2時間反応を行った。この溶液に20%硝酸水溶液50gを添加し、十分撹拌した後、室温まで冷却した。この溶液にプロピレングリコールモノプロピルエーテル400gを加え、その後、50℃のエバポレーターを用いて溶液を10%(完全加水分解縮合物換算)となるまで濃縮し、その後、マレイン酸の10%プロピレングリコールモノプロピルエーテル溶液10gを添加した。
【0117】
得られた反応液中の溶剤組成がプロピレングリコールモノプロピルエーテル/酢酸エチル=99.5/0.5となるよう酢酸エチルを添加した。この溶液を0.2μm孔径のテフロン(登録商標)製フィルターでろ過を行いコーティング用組成物を得た。
【0118】
このコーティング用組成物の耐クラック性、残留応力、塗布性、硬度を評価したところ、2官能性シランが含まれていないために、鉛筆硬度は「5H」と非常に硬く、また塗布性も良好であったが、一方、クラックが認められ、残留応力も63.1MPaと大きかった。
【0119】
比較例10
TEを182.4g(0.9モル)とメチルトリエトキシシラン(以下MTEとする。分子量178.3)を244.8g(1.4モル)とを、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート320gおよびプロピレングリコールモノプロピルエーテル707gの混合溶媒に溶解させた溶液中に、70%硝酸0.92gを溶解させた水162gを撹拌下で30分かけて滴下した。滴下終了後5時間反応させ、減圧下、温浴中で生成メタノールを留去してコーティング用組成物を得た。
【0120】
このコーティング用組成物の耐クラック性、残留応力、塗布性、硬度を評価したところ、2官能性シランが含まれていないために、鉛筆硬度は「5H」と硬く、また塗布性も良好であった。一方、クラックが認められ、残留応力も61.8MPaと大きかった。
【0121】
比較例11〜18
各成分を表4の通りとした以外は、実施例1と同様にしてコーティング用組成物を得た。シランモノマーは表4中のモル数に従い、その他の成分についてはシランモノマーの総モル数に対する実施例1における割合を算出して添加した。評価結果も表4に示した。
【0122】
【表3】

【0123】
【表4】

【0124】
なお、表3、4において、DPDMはジフェニルジメトキシシラン(分子量244.36)、EGBEAはエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート(分子量204.26)、MBAは3−メトキシブチルアセテート(分子量146.2)、MEAは2−メトキシエチルアセテート(分子量118.13)、TMAHはテトラメチルアンモニウムハイドロオキシド(分子量91.15)である。金属キレート化合物欄に記載の、[1]はテトラブトキシジルコニウムとアセト酢酸エチルから得られるキレート化合物、[2]はテトラ−n−ブチルジルコニウムとアセト酢酸エチルから得られるキレート化合物、[3]はエチルアセテートアルミニウムジイソプロピレートから得られるキレート化合物を示す。
【0125】
実施例18
実施例1で得られたコーティング組成物に、組成物全量に対して中空シリカ粒子(平均粒子径60nm)を5wt%添加した。得られたコーティング組成物を実施例1と同様にして、耐クラック性、残留応力、塗布性、硬度を評価したところ、クラックは認められず、残留応力30.5MPa、鉛筆硬度5H、塗布性は良好であった。中空粒子を添加することにより、得られる膜の硬度が高くなることが確認された。
【0126】
実施例19(TFTを用いた有機EL表示装置)
TFTを用いた有機EL表示装置の各構成要素の詳細を、製造工程順に示す(図1参照)。
ガラス基板6上にボトムゲート型のTFT1を形成し、このTFT1を覆う状態でSiからなる絶縁膜3を形成した。次に、この絶縁膜3に、ここでは図示を省略したコンタクトホールを形成した後、このコンタクトホールを介してTFT1に接続される配線2(高さ1μm)を絶縁膜3上に形成した。この配線2は、TFT1間または、後の工程で形成される有機EL素子とTFT1とを接続するためのものである。
【0127】
さらに、配線2の形成による凹凸を平坦化するために、配線2による凹凸を埋め込む状態で絶縁膜3上へ平坦化層4を形成した。絶縁膜3上への平坦化膜4の形成は、実施例1で得られたコーティング用組成物を基板上にスピン塗布し、ホットプレート上でプリベーク(100℃×3分)した後、空気フロー下において300℃で60分間の加熱処理を行った。得られたコーティング用組成物を塗布する際の塗布性は良好で、また得られた硬化膜にはクラックは認められなかった。さらに、配線2の平均段差は500nm、作製した平坦化膜の膜厚は800nmであり、平坦化率は75%と良好であった。
【0128】
次に、レジストを塗布、プリベークし、所望のパターンのマスクを介して露光し、現像した。このレジストパターンをマスクとして、四フッ化炭素/酸素の混合ガスを用いたドライエッチングによりパターン加工を行った。その後、レジスト剥離液(モノエタノールアミンとDMSOの混合液)を用いてレジストパターンを剥離した。
【0129】
次に、得られた平坦化膜4上に、ボトムエミッション型の有機EL素子を形成した。まず、平坦化膜4上に、ITOからなる下部電極を、コンタクトホール7を介して配線2に接続させて形成した。その後、レジストを用いたエッチングにより下部電極を所望のパターンにした。この下部電極は、有機EL素子の陽極に相当する。
【0130】
次に、下部電極の周縁を覆う形状の絶縁層を形成した。絶縁層には、ポジ型感光性のポリイミドを用いた。この絶縁層を設けることによって、下部電極とこの後の工程で形成する上部電極との間のショートを防止することができる。さらに、真空蒸着装置内で所望のパターンマスクを介して、正孔輸送層、有機発光層、電子輸送層を順次蒸着して設けた。次いで、基板上方の全面にAlから成る上部電極を形成した。
【0131】
以上のようにして、各有機EL素子にこれを駆動するためのTFT1が接続してなるアクティブマトリックス型の有機EL表示装置が得られた。駆動回路を介して電圧を印加したところ、良好な発光を示した。
【図面の簡単な説明】
【0132】
【図1】TFT基板の断面図
【符号の説明】
【0133】
1 TFT
2 配線
3 絶縁膜
4 平坦化膜
5 ITO
6 基板
7 コンタクトホール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)RSi(OR’)で表される2官能性シラン1モルに対して、RSi(OR’)で表される3官能性シランを3.5〜10モル含有するシラン混合物を加水分解および縮合させることによって得られるシロキサンポリマー、(b)1気圧における沸点が130℃以上であるアルコール系溶剤、(c)20℃における水に対する溶解度が50g/100mL以下、1気圧における沸点が160℃以下、20℃における蒸気圧が1.3kPa以下の全てを満たすエステル系溶剤を含有し、(b)成分100重量部に対して(c)成分の含有量が10〜100重量部であることを特徴とするコーティング用組成物。
(R、Rは水素、アルキル基、アルケニル基、アリール基およびそれらの置換体から選ばれる少なくとも1種であり、R’は同一もしくは異なっていても良く、アルキル基、アルコキシアルキル基、アリール基および加水分解基から選ばれる少なくとも1種である。)
【請求項2】
酸性触媒を含有することを特徴とする請求項1記載のコーティング用組成物。
【請求項3】
M(OR”)mで表される金属アルコキシド、金属アルコキシドから誘導される金属キレート化合物から選ばれた少なくとも1種を含有することを特徴とする請求項1記載のコーティング用組成物。
(Mはチタン、ジルコニウム、またはアルミニウムの金属原子を示す。R”は同一もしくは異なっていても良く、それぞれ水素、アルキル基、アリール基、アルケニル基、およびこれらの基を有する置換基から選ばれる少なくとも1種を表わす。また、mは金属原子Mの原子価を意味する。)
【請求項4】
前記金属アルコキシドがジルコニウムアルコキシドであることを特徴とする請求項3記載のコーティング用組成物。
【請求項5】
薄膜トランジスタ(TFT)が形成された基板上に設けられた平坦化膜と、平坦化膜上に設けられた表示素子を備えた表示装置であって、平坦化膜が請求項1〜4のいずれか記載のコーティング用組成物を有することを特徴とする表示装置。
【請求項6】
表示素子が有機エレクトロルミネッセンス素子であることを特徴とする請求項5記載の表示装置。

【図1】
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【公開番号】特開2006−137932(P2006−137932A)
【公開日】平成18年6月1日(2006.6.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−296011(P2005−296011)
【出願日】平成17年10月11日(2005.10.11)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】