説明

コーティング組成物、熱交換器、空気調和機

【課題】 従来のコーティング組成物により形成されたコーティング膜では、防汚性能と親水性の両方を満足することはできず、また有機酸の吸着量が多かった。
【解決手段】 この発明のコーティング組成物は、シリカ微粒子と、フッ素樹脂粒子と、を含有し、物品表面に形成されるコーティング膜が、シリカ微粒子から成るシリカ膜中にフッ素樹脂粒子がシリカ膜の表面から部分的に露出するように点在して成り、シリカ膜の露出面積がフッ素樹脂粒子の露出面積よりも大きいものであるとともに、当該コーティング組成物に含まれるナトリウムの量が、シリカ微粒子の含有量に対する重量比で0.5%以下とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、物品の表面にコーティング膜を形成するコーティング組成物に関し、特に空気調和機に用いられる熱交換器のように水に曝される物品表面へのコーティングに適したコーティング組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
室内外で使用される各種物品の表面には、粉塵、埃、油煙や煙草のヤニ等、様々な汚れが固着する。そのため、これを抑制し得る方法が各種提案されている。例えば、粉塵の汚れの固着を抑制するために、物品の表面に帯電防止剤をコーティングし、粉塵の静電気的な固着を防止する方法が知られている。また、油煙のような親油性の汚れの固着を抑制するために、物品の表面に撥油性のフッ素樹脂をコーティングして、親油性の汚れが固着するのを防止したり、また除去し易くしたりする方法が知られている。
【0003】
しかしながら、これらの方法では、コーティングにより物品表面に形成したコーティング膜が剥離したり、汚れの固着を防止する性能が劣化したりして、長期間の防汚性能が維持できないという問題があった。そこで、親水性部分と疎水性部分とが微小領域で相互に独立して露出する表面を形成させることによって長期間に渡って防汚性能を維持する方法が試みられている。
【0004】
一例として、官能基を有する重合体と、親水性微粒子と、金属アルコキシドと、溶媒と、を含むコーティング組成物を物品表面に塗付することにより、親水性部分と疎水性部分とから成るミクロ相分離構造を有する樹脂塗膜で物品表面を被覆する方法がある。(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
また、空気調和機に用いられる熱交換器の表面にコーティングするものとしては、結露水の水滴の付着を防止することを目的として、表面層に光触媒性酸化物と撥水性フッ素樹脂が微視的に分散され、外気と接するように露出して成り、層の表面は水との接触角θが90度以上である防汚性コーティング組成物がある。(例えば、特許文献2、3参照)。
【0006】
また、同様に熱交換器の表面にコーティングするものとして、シリカ層中に微視的に分散された光触媒性酸化物と撥水性フッ素樹脂から表面層が形成され、光触媒性酸化物の量が表面層中において10〜80重量%、撥水性フッ素樹脂の量が表面層中において20〜60重量%の防汚性コーティング組成物がある。(例えば、特許文献4参照)。
【0007】
また、防汚の観点ではないが、熱交換器の表面の親水性を向上させるために、トリエタノールアミン溶液や炭酸ナトリウム溶液やアンモニア水溶液で熱交換器表面をコーティングし、凝縮水(結露水)の接触角θを10度以下とするものがある。(例えば、特許文献5参照)。
【0008】
【特許文献1】特開2003−160681号公報
【特許文献2】特開平10−132483号公報
【特許文献3】特開平10−47890号公報
【特許文献4】特開2001−88247号公報
【特許文献5】特開2000−74593号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
空気調和機に使用される熱交換器のように、水に曝される物品表面に形成されるコーティング膜には、汚損物質の固着を抑制する防汚性能とともに、巨視的には表面で水が水滴とならずに広がるような高い親水性が必要である。しかしながら、従来のコーティング組成物は、防汚性能と巨視的な親水性の両方を満足できるものとは言い難かった。
【0010】
特許文献1に示されるコーティング組成物は、樹脂製部品の表面への汚れの固着を防止するためのものであり、防汚性能は得られるものの、高い初期親水性、および長期に渡ってその高い親水性を継続する親水持続性は得られるものではなかった。
【0011】
また、特許文献2〜4に示されるコーティング組成物は、光触媒性酸化物へ光を照射することにより生じる光励起によって部分的に親水性を呈するようにするものであり、光照射が十分でない場合には良好な防汚性能が得られないという問題があった。そして、水との接触角が90度以上のコーティング膜であって、汚れの固着とともに、水滴の付着をも防止するものであり、表面で水が水滴とならずに広がるような巨視的な親水性は得られるものではなかった。
【0012】
また、特許文献5に示される熱交換器用のコーティング組成物は、表面にOH基を多数含むことによって、水との接触角θが10度以下となるように親水性を向上させているが、従来から一般的に熱交換器用のコーティング組成物として使用されてきたポリエステルやアクリルエステル樹脂の混合物である有機系樹脂によるコーティングと同様に、巨視的な親水性には優れるものの、防汚性能は得られなかった。
【0013】
この発明は、上記のような問題を解決するためになされたものであり、空気調和機の熱交換器のように水に曝される物品に対して、防汚性能、初期の親水性、および長期の親水持続性に優れたコーティング膜を形成するコーティング組成物、そのコーティング組成物を用いて、熱交換効率を高く維持することができる熱交換器および空気調和機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
この発明に係るコーティング組成物は、物品の表面にコーティング膜を形成するコーティング組成物であって、シリカ微粒子と、フッ素樹脂粒子と、を含有し、コーティング膜が、シリカ微粒子から成るシリカ膜中にフッ素樹脂粒子がシリカ膜の表面から部分的に露出するように点在して成り、シリカ膜の露出面積がフッ素樹脂粒子の露出面積よりも大きいものであるとともに、当該コーティング組成物に含まれるナトリウムの量が、シリカ微粒子の含有量に対する重量比で0.5%以下であるものである。
【発明の効果】
【0015】
この発明に係るコーティング組成物は、親水性汚損物質と疎水性汚損物質の両方に対して優れた防汚性能を発揮するとともに、初期の親水性と長期の親水持続性に優れ、さらにカルボン酸の吸着量を抑制できるコーティング膜を物品の表面に形成することができる効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
実施の形態1.
以下、この発明によるコーティング組成物に関して、図に基づいて説明する。実施の形態1に示すこの発明のコーティング組成物20によりコーティングされる物品の実施例として、ここでは空気調和機に使用される熱交換器を用いる。ただし、このコーティング組成物20は、コーティング対象が熱交換器に限定さるものではなく、後述するように他の物品への適用も可能である。
【0017】
図1は、この発明のコーティング組成物20が被コーティング物である熱交換器の金属製フィン9にコーティングされ、コーティング膜3が形成された状態での断面を示す説明のための概念図である。図2は、図1におけるコーティング組成物20によるコーティング膜3の部分のみを示した概念図で、図3は、図1もしくは図2のコーティング膜3の上面を見た概念図である。図1〜3においては、いずれもコーティング組成物20が乾燥されコーティング膜3を形成している状態を示している。そして、図4はコーティング組成物20でコーティングされた熱交換器30を示す模式図である。
【0018】
この発明のコーティング組成物20は、乾燥された状態において、シリカ(二酸化珪素)微粒子1から成る親水性を示すシリカ膜4中に疎水性を示すフッ素樹脂粒子2が点在し、シリカ膜4から全部でなく部分的に露出した構成のコーティング膜3が形成されるものである。
【0019】
このコーティング組成物20は、シリカ微粒子1が分散された水(分散液)と、フッ素樹脂粒子2が分散された水(分散液)とを混合することによって得られるもので、コーティング膜3が形成される前は水分中にシリカ微粒子1やフッ素樹脂粒子2が分散された液の状態であり、物品表面にその分散液(コーティング溶液)を塗布したり、物品をその分散液中に浸漬させたりした後で、乾燥させ水分を除去することにより、コーティング膜3が物品表面に形成されるものである。コーティング膜3におけるシリカ膜4は、珪素Siと酸素Oの結合が続き、表面にOH基を有する膜となる。
【0020】
なおここでは、図2に示すように、コーティング組成物20により物品表面に形成された被覆層をコーティング膜3と呼ぶ。コーティング膜3は、シリカ微粒子1から成るシリカ膜4中にフッ素樹脂粒子2が点在するとともに、フッ素樹脂粒子2がシリカ膜4の表面から全部でなく部分的に露出されている状態となっているものである。また、ここでは基本的にコーティング組成物20は、上記した分散液の状態である一般的にコーティング溶液と呼ばれている状態を指すものとする。
【0021】
このコーティング組成物20に用いるシリカ微粒子1の平均粒径(平均粒子径)は、光散乱法により測定した場合、15nm以下、好ましくは4〜12nmのものとする。粒径は光散乱法により測定できる。このように極めて小さい平均粒径を有するシリカ微粒子1は、水に分散したコーティング溶液の状態では、水と接している全表面部分が平衡して水に半ば溶解した状態になっており(接する表面部分が水とシリカの中間的性質の物質となっており)、コーティング組成物20が乾燥されると、この半ば溶解した状態のシリカ成分が、シリカ微粒子1同士をつなぐバインダー(粒子を固める結合剤)として働くため、特別なバインダーを添加しなくとも、乾燥後にはシリカ微粒子1同士が凝集し固化し易くなる。そのため、クラックが入りにくいなど強度的に優れたシリカ膜4、ひいてはコーティング膜3を得ることができる。
【0022】
平均粒径が4〜15nmの範囲内にあるシリカ微粒子1では、1つのシリカ微粒子1について、シリカ微粒子1重量のおおよそ15〜30%の重量に相当する表面部分が、コーティング溶液において、半ば水に溶解した状態となっている。しかし、平均粒径が15nmを超えるシリカ粒子の場合、平均粒径が大きくなるほど、シリカ微粒子1の重量に対するコーティング溶液における水に半ば溶解した状態のシリカ成分の重量は少なくなり、バインダーとしての作用が得られなくなってくるため、形成されるコーティング膜3が十分な強度を有さず、クラックが入り易いなどコーティング膜としては好ましくない。そのため、別途バインダーを添加する必要が生じてくる。
【0023】
逆に、平均粒径が4nm未満のシリカ粒子の場合では、コーティング溶液において、半ば水に溶解した状態のシリカ成分の割合が高くなりすぎて、コーティング溶液中でシリカ粒子同士が凝集してしまうなど、コーティング組成物20としての安定性が得られなくなる。また、乾燥後に形成されるシリカ膜4(コーティング膜3)の強度や後述する防汚性能も所望のものが得られなくなる。
【0024】
また、シリカ微粒子1の粒径は、形成されるコーティング膜3の透明性等の外観特性にも影響を与える。平均粒径が15nm以下のシリカ微粒子1であれば、コーティング膜3により反射する光の散乱が小さくなるため、コーティング膜3の透明性が向上し、被コーティング物の色調や風合いの変化を抑え、被コーティング物の色調や風合いを損なわないようにすることができる。
【0025】
また、シリカ粒子として、平均粒径が15nm以下のシリカ微粒子1を使用することで、得られるコーティング膜3中のシリカ膜4が、緻密ではありながらシリカ微粒子1間に微細な空隙を有するものとなる。シリケートやゾルゲル法等で形成する微粒子を用いない従来から一般的なシリカ膜や、可溶性の有機や無機物からなるバインダーが添加されたシリカ膜と比較して、シリカ膜4は、薄く形成でき、またシリカ粒子によるシリカ膜4表面の凹凸を小さして平滑に形成することができるので、汚損物質が引っ掛かったりせず、防汚性能が高められる。
【0026】
コーティング組成物20におけるシリカ微粒子1の含有量は、コーティング組成物20に対して0.1〜5重量%としており、好ましくは0.3〜2.5重量%とする。この範囲の含有量(濃度)のコーティング組成物20を用い、浸漬やかけ塗り等で被コーティング物(例えば、熱交換器30)の表面に液膜を形成し、余剰のコーティング溶液を流し去ったり、強制的に排除したりして乾燥させる方法でコーティングを行うと、形成されるコーティング膜3の厚さは50〜500nm程度となり、シリカ膜4が凹凸のない均一な厚さとすることができ、被コーティング物表面の色調や風合いを損なうことがないコーティング膜3を形成することができる。
【0027】
シリカ微粒子1の含有量が0.1重量%未満であると、シリカ膜4が薄くなりすぎて部分的な欠損が生じ、被コーティング物の表面にコーティングできていない部分が発生してしまうといった不具合が起こることがあり、コーティング組成物20としては適さないものとなってしまう。
【0028】
一方、シリカ微粒子1の含有量が5重量%を超えると、シリカ膜4が厚くなりすぎて白濁膜となってしまい、被コーティング物表面の色調や風合いを損なうことになる。また、シリカ微粒子1自体の重量割合が大きいため、上記したコーティング溶液中の半ば水に溶解したシリカ成分によるバインダー作用が得難くなり、乾燥後のシリカ微粒子1同士の固化状態が弱くなって、シリカ膜4にクラックが入り易くなったり、剥離し易くなったりと強度的に劣るようになる。
【0029】
次に、このコーティング組成物20に用いられるフッ素樹脂粒子2について説明する。コーティング膜3において、シリカ膜4中に点在し、シリカ膜4から全部でなく部分的に露出しているフッ素樹脂粒子2の平均粒径(平均粒子径)は、50〜500nm、好ましくは100〜250nmであるものを用いる。粒径の測定は、光散乱法により可能である。このような範囲の粒径のものを使用することで、シリカ膜4の厚さよりも大きい粒径となり、形成されるコーティング膜3において、フッ素樹脂粒子2がシリカ膜4中に適度に分散し易く、コーティング膜3の表面に(シリカ膜4表面から)フッ素樹脂粒子2の部分的な露出がされ易くなり、所望するコーティング膜3の状態が得られるようになる。
【0030】
かかる平均粒径が50nm未満のフッ素樹脂粒子であると、コーティング溶液において、フッ素樹脂粒子同士が凝集、合一してしまうなど性状の安定性が得られなくなる。また形成されるコーティング膜3において、フッ素樹脂粒子2がシリカ膜4の表面から露出し難くなり、後述する防汚性能が得られないことにもなる。
【0031】
一方、平均粒径が500nmを超えるフッ素樹脂粒子であると、形成されるコーティング膜3において、シリカ膜4の表面から露出するフッ素樹脂粒子部分が大きくなる。そのようになると、コーティング膜3の表面に疎水性を示す部分の領域が大きくなりすぎ、後述する防汚性能が得られないことになる。またコーティング膜3表面の凹凸が大きくなりすぎ、汚損物質(汚れ)が引っかかり易くなって、付着した汚損物質が除去され難くなる。
【0032】
このコーティング組成物20が乾燥して被コーティング物の表面に形成されるコーティング膜3において、シリカ膜4の厚さは、フッ素樹脂粒子2の平均粒径よりも小さいものである。シリカ膜4の厚さをフッ素樹脂粒子2の平均粒径よりも薄く管理することで、形成されるコーティング膜3において、フッ素樹脂粒子2がシリカ膜4中に適度に分散し手点在し、シリカ膜4の表面から全部でなく部分的に露出し易くなり、所望するコーティング膜3の状態が得られる。
【0033】
例えば、平均粒径が150nmのフッ素樹脂粒子2を使用する場合では、シリカ膜4の厚さを100nm未満に管理する。すなわち、シリカ膜4の厚さをフッ素樹脂粒子2の平均粒径の2/3未満とするのである。このように、シリカ膜4を100nmより薄い薄膜に形成するためには、被コーティング物の表面でシリカ微粒子1が固化する以前に、強い気流で被コーティング物の表面のコーティング溶液をブローするとよい。このときのブロー速度やブロー時間、ブロー温度などの因子を調整することにより、シリカ膜4の厚さを管理することが可能となる。
【0034】
コーティング組成物20におけるシリカ微粒子1とフッ素樹脂粒子2との重量比(シリカ微粒子1の重量:フッ素樹脂粒子2の重量)は、60:40〜95:5としており、好ましくは75:25とする。このような範囲の重量比であれば、シリカ微粒子1(シリカ膜4)による親水性領域と、フッ素樹脂粒子2による疎水性領域とがバランスよく混在するコーティング膜3が常温での乾燥により得られる。この親水性領域と疎水性領域のバランスがよいことが、後述する防汚性能に影響する。
【0035】
これより、このコーティング組成物20によって形成されるコーティング膜3による防汚性能(防汚特性)について説明する。汚れとは、物品の表面に汚損物質が付着し、それが除去されずに物品表面に固着してしまうことである。そのため、汚損物質が物品の表面に固着しないようにする、またもし物品表面に汚損物質が付着したとしても、汚損物質が表面に固着することなく表面から容易に除去されることが、物品表面の汚れを防止することとなる。
【0036】
このように、汚損物質が表面に固着し難い特性、また仮に汚損物質が付着したとしても、表面に固着することなく表面から容易に離脱できる(除去される)特性を、防汚性能と呼ぶものとする。物品表面をコーティングすることで、物品表面がこの防汚性質に優れた状態にできるコーティング組成物(コーティング膜)を防汚性能が高い、もしくは防汚性能に優れたコーティング組成物(コーティング膜)と表現するものとする。なおここにおいて、付着とは、単純に表面に載っている状態も含めて、その後にその表面から比較的容易に除去できる状態を指し、固着とは、表面から容易には除去できない状態を指すものとして、区別して使用する。
【0037】
汚れを生じさせる汚損物質には、親水性汚損物質5と疎水性汚損物質6がある。親水性汚損物質5は、親水性を示す部分に付着し易く、疎水性を示す部分には付着し難い。そして、疎水性汚損物質6はその逆となる。親水性汚損物質5は、砂塵やほこり等であり、親水性汚損物質5と物品表面の親水性部分にそれぞれ存在する親水基(OH基)同士による静電的な結合により、もしくは、親水性汚損物質5と物品表面の親水性部分が近接することによる分子間力により、または、水等の液が介在して液架橋により、物品表面(コーティング膜表面も含む)の親水性部分に付着する。
【0038】
空気中に浮遊している親水性汚損物質5である砂塵は、大きさが数μm〜数十μmの微小な粒子である。また、同じく親水性汚損物質5であるほこりは、砂塵よりはるかに大きなもので、0.1mm〜5mmの大きさがある。このような親水性汚損物質5が、上記のような作用で物品表面の親水性部分に固着するためには、親水性汚損物質5と物品表面の親水性部分とが十分に密着できる(接触できる)だけの親水性部分の面積が存在しなければならない。
【0039】
しかし、この発明のコーティング組成物20により形成されるコーティング膜3は、親水性を示すシリカ膜4に疎水性を示すフッ素樹脂粒子2が適度に分散して点在しているため、砂塵をはじめとして親水性汚損物質5が安定して密着できるだけの連続した面積を有するシリカ膜4表面がほとんど存在しない。コーティング膜3の上に付着した親水性汚損物質5は、シリカ膜4から突出(露出)しているフッ素樹脂粒子2の表面の疎水性により、もしくは、突出しているフッ素樹脂粒子2の物理的な阻害により、シリカ膜4の表面とは十分に密着できない。このため、親水性汚損物質5は、容易に離脱してコーティング膜3に固着しない。
【0040】
また、シリカ膜4は、シリカ微粒子1から成るもの(バインダーの役目もシリカ微粒子1のシリカ成分が担っている)でシリカ微粒子1間に微細な空隙を有する多孔性の膜であるため密度が小さく、仮に親水性汚損物質5が近接しても、分子間力が小さく親水性汚損物質5を固着させ難い。
【0041】
さらに、シリカ微粒子1間に微細な空隙を有する多孔性のシリカ膜4であるため、仮に水等による液架橋が生じた場合にも、親水性汚損物質5とシリカ膜4表面間の水が、シリカ膜4の微細な空隙を通して除去され、液架橋が消失されるので、液架橋により親水性汚損物質5が固着することもない。
【0042】
このように、このコーティング組成物20により形成されるコーティング膜3は、親水性汚損物質5に対して、優れた防汚性能を発揮する。
【0043】
コーティング組成物20におけるシリカ微粒子1の量が、シリカ微粒子1とフッ素樹脂粒子2との重量比で95:5より多くなれば、コーティング膜3におけるシリカ膜4中に点在するフッ素樹脂粒子2の間隔が大きくなり、シリカ膜4に微小な砂塵など大きさが小さい親水性汚損物質5が安定して固着できる面積を有する露出表面部分が出現してしまい、親水性汚損物質5がシリカ膜4表面に固着する可能性が生ずる。
【0044】
一方で、点在するフッ素樹脂粒子2の間隔が大きく、フッ素樹脂粒子2に遮断されずに連続するシリカ膜4が広いと、シリカ膜4表面の吸湿性が向上することにより、コーティング膜3に帯電する電荷が漏洩し易くなるので、コーティング膜3表面の帯電を効率よく抑制できるという利点がある。物品表面が帯電すると、親水性、疎水性に関係なく空気中の汚損物質である微細な浮遊粒子が静電引力で引きつけられて物品表面に付着し易くなる。
【0045】
このコーティング組成物20では、シリカ微粒子1とフッ素樹脂粒子2との重量比を60:40〜95:5としているので、この範囲のコーティング組成物20で形成されるコーティング膜3のシリカ膜4においては、帯電を抑制できる連続性を有し、すなわちシリカ膜4が電荷を漏洩できる程度の連続する面積を有するような適度な間隔でフッ素樹脂粒子2が点在し、帯電による浮遊粒子(汚損物質)の付着を防ぐ効果がある。コーティング組成物20で物品表面をコーティングし、表面にコーティング膜3を形成することで、静電気に由来する汚れも防止することができるのである。
【0046】
コーティング組成物3におけるシリカ微粒子1の量が、シリカ微粒子1とフッ素樹脂粒子2との重量比で60:40より少なくなれば、シリカ膜4中にフッ素樹脂粒子2が点在する間隔が狭くなり、上記のような連続するシリカ膜4による帯電の抑制効果、それにより静電気に由来する汚れが防止できる効果を得難くなり、防汚性能が劣ってくる。
【0047】
もう一つの汚損物質である疎水性汚損物質6は、油煙やカーボン、煙草のヤニ等であり、汚れの原因となるものはこれらの中で微粒子として空気中に浮遊しているものである。その粒子径が5μm以下、多くは0.1〜0.3μmと親水性汚損物質5に比べて小さいものである。疎水性汚損物質6は、親水性を示す表面部分に対しては、表面に親水基や吸着した水分が存在するため、固着し難く、疎水性を示す表面部分には、固着し易い。このような疎水性汚損物質6が、物品表面に固着するのは、疎水性汚損物質6が疎水性を示す表面部分と密着することで生じる分子間力によるためである。
【0048】
このコーティング組成物20において疎水性を示すものは、上記の通り平均粒径が50〜500nmのフッ素樹脂粒子2である。フッ素樹脂粒子2は、物品表面で形成されるコーティング膜3においては、変形や合一により、単体の粒径よりも大きくなることも起こり得るが、汚れの原因となる疎水性汚損物質6の大きさと比べて同等か小さく、疎水性を示す表面部分を有するフッ素樹脂粒子2には、疎水性汚損物質6が、十分に密着できる面積が存在しない場合が多い。
【0049】
このような場合、互いに固着させるような分子間力が作用せず、疎水性汚損物質6は疎水性を示すフッ素樹脂粒子2に対して固着し難くなる。当然、疎水性汚損物質6は親水性を示すシリカ膜4には固着しないので、コーティング膜3は疎水性汚損物質に対しても高い防汚性能を発揮する。
【0050】
上記のようなフッ素樹脂粒子2の大きさ(粒径)が、疎水性汚損物質6の大きさに比べて同等か小さいことにより、疎水性汚損物質6がコーティング膜3のフッ素樹脂粒子2に十分に密着できずに固着に到る分子間力が作用しない、ということだけでは、疎水性汚損物質6が部分的にフッ素樹脂粒子2に密着し、分子間力の作用により部分的には固着する可能性がある。また、疎水性汚損物質6の方がフッ素樹脂粒子2よりも小さい場合もあり、互いが十分に密着できる面積がフッ素樹脂粒子2に存在することも起こり得る。
【0051】
しかし、このコーティング膜3は、上記以外にも疎水性汚損物質6をフッ素樹脂粒子2に固着させない他の作用を有しており、そのような部分的な固着、小さい疎水性汚損物質6の固着さえも起こり難くしている。その作用について、以下に説明する。
【0052】
このコーティング組成物20のフッ素樹脂粒子2は、フッ素樹脂の重合時や水への分散液の状態、およびシリカ微粒子1の分散液と混合されたコーティング溶液の状態において、添加される界面活性剤により表面が親水性を示す状態になっている。乾燥されコーティング膜3となった場合には、界面活性剤は剥離して、フッ素樹脂粒子2の表面は疎水性を示すようになるが、コーティング溶液中には、シリカ微粒子1が共存しているため、乾燥後に形成されるコーティング膜3のフッ素樹脂粒子2表面には、フッ素樹脂粒子2より粒径の小さいシリカ微粒子1がまばらに付着した状態になる。
【0053】
このように、フッ素樹脂粒子2の表面に親水基を有する(親水性を示す)シリカ微粒子1が散らばって付着しているために、フッ素樹脂粒子2の表面には疎水性汚損物質6の部分的な固着も、またフッ素樹脂粒子2よりも小さい疎水性汚損物質6の固着も起こり難いのである。フッ素樹脂粒子2の表面に部分的に親水基が導入されることで、フッ素樹脂粒子2と疎水性汚損物質6との密着を抑制する効果が得られるのである。そして、フッ素樹脂粒子2の表面に疎水性汚損物質6が付着しても、シリカ微粒子1が散らばって付着しているので、その付着は不安定で、容易に離脱できる。
【0054】
一方で、そのようにシリカ微粒子1がまばらに付着しているフッ素樹脂粒子2の表面であっても、シリカ微粒子1の大きさに比べるとはるかに大きい親水性汚損物質5に対しては、十分な疎水性としての効果を発揮し、親水性汚損物質5がフッ素樹脂粒子2の表面に固着することはない。また、フッ素樹脂粒子2は、柔軟な表面を有しているのだが、このようにシリカ微粒子1がまばらに付着することで、フッ素樹脂粒子2の表面が硬くなり、疎水性汚損物質5が密着し難くなる効果も得られる。
【0055】
また、フッ素樹脂自体が、従来からフッ素樹脂コーティングで知られているように、非常に表面エネルギーが小さく摩擦係数が低いため、疎水性を示すばかりでなく、撥油性も有しており、他の疎水性を示す樹脂に比べて、疎水性汚損物質6の固着が起こり難い性質を備えている。その点も、疎水性汚損物質6がフッ素樹脂粒子2に固着しない作用効果の一つである。
【0056】
このように、このコーティング組成物20により形成されるコーティング膜3は、疎水性汚損物質6に対しても、優れた防汚性能を発揮する。
【0057】
コーティング組成物20におけるフッ素樹脂粒子2の量が、シリカ微粒子1とフッ素樹脂粒子2との重量比で60:40より多くなると、コーティング膜3において露出するフッ素樹脂粒子2の疎水性を呈する部分の表面積が大きくなりすぎ、疎水性汚損物質6のコーティング膜3への固着が増す傾向が見られるようになる。そして、多数のフッ素樹脂粒子2の存在により、それらの一部が合一するなどして、コーティング膜3が白濁して、被コーティング物の表面の色調や風合いを損なうようになる。また、フッ素樹脂粒子2が合一すると、シリカ膜4の連続性が阻害されることにもなる。
【0058】
なお、シリカ膜厚さ4をフッ素樹脂粒子2に粒径よりも大きく(厚く)した場合には、新水性を呈するシリカ膜4がコーティング膜3の表面として広く露出することになり、親水性汚損物質5に対する防汚性能が劣る。さらに、フッ素樹脂粒子2のシリカ膜4中への分散が阻害され、フッ素樹脂粒子2がシリカ膜4から分離してシリカ膜4表面に析出し、フッ素樹脂粒子2同士が合一して塊となってしまい、その部分で局所的に新水性が悪化したり、疎水性汚損物質6が固着したりすることが起こり得る。そのため、上記したようにシリカ膜4の厚さは、フッ素樹脂粒子2の平均粒径よりも小さく(薄く)して、フッ素樹脂粒子2が、シリカ膜4中に適度に分散され、それぞれのフッ素樹脂粒子2がシリカ膜4から全部ではなく部分的に露出できるようにする。
【0059】
このコーティング組成物20におけるフッ素樹脂粒子2としては、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、FEP(テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体)、PFA(テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体)、ETFE(エチレン・テトラフルオロエチレン共重合体)、ECTFE(エチレン・クロロトリフルオロエチレン共重合体),PVDF(ポリフッ化ビニリデン)、PCTFE(ポリクロロトリフルオロエチレン)、PVF(ポリフッ化ビニル)等や、これらの共重合体もしくは混合物、またはこれらに他の樹脂を混合したものが使用できる。
【0060】
フッ素樹脂粒子2は、コーティング組成物20が製造される前に水に分散した分散液の状態である必要がある。分散させる方法は、懸濁重合や乳化重合により重合したフッ素樹脂粒子2を用い、界面活性剤を利用することで可能となる。水に分散した状態においては、フッ素樹脂粒子2の表面は疎水性が低い状態となっているが、これらが乾燥され固形物(コーティング膜3)となった状態にて、表面が疎水性を示すようになればよい。使用するフッ素樹脂としては上記の中で特に、PTFEとFEPが、分散液やコーティング溶液において凝集しないといった安定性に優れている点、また乾燥されコーティング膜3となった時の疎水性が高い点から好ましい。
【0061】
以上のように、このコーティング組成物20により物品表面に形成されるコーティング膜3は、親水性汚損物質5と疎水性汚損物質6の両方とも固着させず、また付着しても容易に離脱させることができるので、優れた防汚性能を発揮して、コーティングされた物品表面の汚れを防止することができる。後述する実施例(実験結果)においても、この発明によるコーティング組成物20の防汚性能が優れていることが証明されている。
【0062】
ここまでは、この発明によるコーティング組成物20の防汚性能を中心に述べてきた。この実施の形態では、コーティング組成物20による被コーティング物品の実施例として、水に曝される頻度の高い熱交換器を使用している。これはこの熱交換器が、表面に形成されるコーティング膜3に対して、防汚性能だけではなく、高い初期親水性と親水持続性をも要求している被コーティング物であり、このコーティング組成物20でコーティングするのに非常に適した被コーティング物品だからである。これより、このコーティング組成物20が、防汚性能だけでなく、初期親水性や親水持続性の点でも優れていることについて説明する。なお、ここで親水持続性とは、初期の親水性を大幅に悪化させることなく、時間が経過しても満足できる範囲に親水性を維持できる特性を言う。
【0063】
なお、ここまでに説明したように、このコーティング組成物20により物品表面に形成されたコーティング膜3は、優れた防汚性能を有しているので、水に曝される機会がなくもしくは少なく、コーティング膜3に対して特別に高い親水性を要求せず、防汚性能を主に要求している物品に対しても、その優れた防汚性能により、その物品表面の汚れを防止でき、要求される防汚について十分に応えることができる。
【0064】
このコーティング組成物20が、親水性や親水持続性の点でも優れていることについて説明するのに先立って、熱交換器30について図4を用いて説明する。熱交換器30は、このコーティング組成物30により表面をコーティングされており、表面にはコーティング膜3が形成されている。熱交換器30は、冷凍サイクルを備える空気調和機に用いられ、冷凍サイクルを流れる冷媒等の作動流体と、この熱交換器30を通過する空気とを熱交換するものである。
【0065】
その基本的な構成は、図4に示すように、互いが平行となるように配列された(並列する)複数の薄板状のフィン9と、それらのフィン9を貫通しながら複数列を成して挿設される金属製の配管10により構成されている。フィン9は平行に配列されることが一般的であるが、コルゲート型に配列されてもよい。フィン9は金属製であり、その素材として、アルミニウムが多く使用されている。また、配管10は、ここでは銅パイプを素材としている。
【0066】
配管10には冷凍サイクルを流れる冷媒等の作動流体が流れ、配管10および金属製フィン9を媒体として、その作動流体と、熱交換器30の近傍に配置される送風機(図示せず)によって導かれ、熱交換器30を通過する空気と、が熱交換を行う。この熱交換器30において、通過する空気から熱を奪って作動流体が蒸発し、通過する空気の温度が下がるような熱交換が行われる場合、例えばこの熱交換器30が、空気調和機において室内に設置される室内機に搭載され、室内を冷房もしくは除湿する運転が行われ、熱交換器30が蒸発器として機能した場合には、高温多湿であった空気が熱交換器30を通過することで低温空気に変換され、その過程で空気が露点に達するので、結露が生じ、その結露水がフィン9の表面に水滴11となって付着する。
【0067】
付着した水滴11は、最終的には重力によりフィン9表面を伝わって、熱交換器30に下方に配置されるドレンパン(水受け皿)12に落下し、そこに溜まる。そして、ドレンパン12から図示されない排水経路を通って屋外等の所定の場所に排出される。この結露した水滴11がフィン9の表面に付着している状況において、フィン9表面の親水性が低いと、付着する水滴11の接触角θが大きくなる。水滴11がある部分では、隣り合うフィン9とフィン9の間が水滴11分だけ実質的に幅が狭まってしまう。接触角θの大きさ次第では、隣り合うフィン9間をブリッジしてしまう、すなわち水滴11が隣り合うフィン9に跨って分断されることなく対向する両方のフィン9表面に付着した状態になってしまうこともある。
【0068】
図5は、水滴11の接触角θについて説明するための模式図であり、ここで接触角θとは、図5に示すように、結露してフィン9の表面に付着した水滴11のフィン9表面と接する部分における接線TLが、フィン9表面となす角度のことである。接触角θが小さいほど、すなわち0度に近づくほど、付着する水滴11がフィン9の表面に平たく広がるようになる。そして、親水性が高いとは、付着する水滴11が広がり易いことを意味し、すなわち、接触角θが小さい(0度に近づく)ほど、親水性が高い、もしくは親水性に優れることになる。図5において、(a)に示す水滴11よりも(b)に示す水滴11の方が、接触角θが小さい。また、親水持続性は、初期の接触角θが大幅に増加してしまうことなく、時間が経過しても満足できる範囲の接触角を維持できる特性と言うこともできる。
【0069】
付着する水滴11の接触角θが大きいほど、その水滴11がある部分での隣り合うフィン9とフィン9の実質的な幅が狭まるので、熱交換器を通過する空気の流れの妨げとなり、空気風路の圧力損失が増大することになって、その熱交換器の熱交換効率が低下する。そしてブリッジしてしまう場合では、その圧力損失は非常に大きくなり、熱交換器の熱交換効率は大幅に低下する。熱交換器の熱交換効率が低下すれば、空気を通過させる送風機の入力増加も加わって、その熱交換器を搭載する空気調和機の性能も低下することになる。
【0070】
また、水滴11が隣り合うフィン9間をブリッジしてしまうと、双方の付着面に、落下に対するフィン9との摩擦抵抗が作用することにより、容易に落下せず、すなわち排水性も悪化して、付着して空気の流れを阻害している時間が長くなるので、熱交換器の熱交換効率を一層低下させることになる。
【0071】
また、フィン9に付着して広がらずに接触角θが大きい水滴11は、送風機が作る空気の流れ(送風作用)によって、フィン表面9から離れ、空気の流れに水滴11のまま乗って流れる空気とともに飛んでしまう、所謂露飛び現象が発生し易くなる。空気調和機の室内機に配置された熱交換器からこのような露飛びが発生し、冷やされた調和空気とともに、室内に水滴11が吹き出されると、それが使用者の肌に直接当たれば、使用者は不快感を持つし、天井や壁面に吹き出された水滴11が付着し、それが長期的に続けば、その部分にカビや腐食が発生する問題が生じる。
【0072】
さらに、フィン9に付着した水滴11の接触角θが大きかったり、水滴11が隣り合うフィン9間をブリッジしたりして空気風路の圧力損失を増大させてしまうと、空気調和機の室内機のように、熱交換器の下流側に送風機としてクロスフローファンが配置されるものでは、室内機の吹き出し口において吹き出した空気が再び室内機に戻るように逆流して異音を発する問題が生じる。この異音はサージング音と呼ばれている。
【0073】
よって、熱交換器の特にフィン9は、熱交換器の熱交換効率を高く維持するとともに、特に空気調和機の室内機での露飛びや吹き出し空気の逆流による異音の発生を防止するために、高い親水性が要求されるのである。その要求に応えるために、従来ではアクリルを含むポリビニルアルコールなどの有機系樹脂をフィン9の表面にコーティングしていたが、この有機系樹脂によるコーティングは、後述する実施例(実験結果)に示すように防汚効果が得られるのではなかった。
【0074】
このコーティング組成物20は、シリカ微粒子1とフッ素樹脂粒子2との重量比が、60:40〜95:5の範囲内にあるので、コーティング組成物20により形成されるコーティング膜3においては、親水性を示すシリカ膜4の露出面積が、シリカ膜4中に点在してコーティング膜3の表面から部分的に露出するフッ素樹脂粒子2の露出面積に比べ十分に大きく、またフッ素樹脂粒子2が点在しているので、シリカ膜4はフッ素樹脂粒子2で分断されずに連続した広い面積を有した構成となっている。
【0075】
コーティング膜3がこのような構成であるため、このコーティング組成物20によりコーティングした熱交換器である熱交換器30は、フィン9表面にはこのコーティング膜3が形成されており、フィン9表面に結露した水滴11が付着した場合でも、シリカ膜4による連続した広い面積の親水性領域があるため、水滴11が非常に広がり易く、水滴11の接触角θを小さくすることができる。すなわち、コーティング膜3は付着した水滴11に対して高い親水性を示すことができる。そして、シリカ膜4はフッ素樹脂粒子2で分断されることなく連続しているので、接触角θの小さい水滴11は、シリカ膜4を伝って流下でき、排水性にも優れる。
【0076】
シリカ膜4に点在するフッ素樹脂粒子2が、合一してつながったり、互いが近接して配置されたり、露出する面積が大きかったり、不均一に分布して局所的に多数が配置されたりする状態であると、シリカ膜4の表面での水敵11の広がりが阻害されることになる。しかし、このコーティング組成物20によるコーティング膜3では、フッ素樹脂粒子2が適度に分散して点在する構成を実現することで、水が広がり易いという高い親水性の状態を維持したまま、汚損物質5、6の固着に関連する微視的な領域では、親水性を示す部分と疎水性を示す部分が共存した表面となり、親水性汚損物質5と疎水性汚損物質6の両方を固着させない高い防汚性能を発揮することができる。
【0077】
また、このような構成のコーティング膜3の表面は、水分の移動が容易であり、付着した水滴11が排水時に移動することにより、コーティング膜3の表面に付着した親水性汚損物質5や疎水性汚損物質6を浮き上がらせ、コーティング膜3の表面から遊離し水滴11の排水とともに、汚損物質5、6を除去できるという、防汚の点においても優れた効果が得られる。
【0078】
このコーティング組成物20でコーティングして、熱交換器30のフィン9の表面にコーティング膜3を形成する場合、図1に示すように、詳細には、金属製のフィン9が、その素材となる金属層8(フィン9がアルミニウム製であれば、アルミニウム層)にクロメート処理による腐食防止層7が形成されているもので、この腐食防止層7をコーティング膜3が被覆することになる。
【0079】
熱交換器30のフィン9に付着する水滴11の接触角θは、熱交換器30の熱交換効率の低下を抑制し、露飛びや、送風機により熱交換器30を通過後に吹き出される空気の逆流による異音の発生を防止するためには、40度以下に抑える必要がある。もちろん熱交換器30の熱交換効率低下を抑制する点においては、接触角θは小さい(0度に近い)ほど有効である。そして、後述するようにコーティング膜3の長期的に見ると親水性は少しずつ劣化するものであるため、劣化の程度を抑えるようにしても、空気調和機の寿命期間において常に接触角θを40度以下とするには、初期の接触角θ、すなわち空気調和機の使用開始時における接触角θは30度以下であることが望ましい。
【0080】
コーティング組成物20におけるシリカ微粒子1の量が、シリカ微粒子1とフッ素樹脂粒子2との重量比で50:50より多ければ、付着する水滴11の初期の接触角θは、この30度以下を満足でき、付着する結露水を平たく広げるとともに、容易にドレンパン12(水受け皿)へと排水できる。
【0081】
しかし、空気調和機には、10年以上の寿命が求められており、このような長期の寿命に対する親水性を考慮した場合、いくら初期の接触角θが満足できるレベルであっても、シリカ微粒子1は、少なからず付着した結露水(水滴)11に溶け出していくため、使用期間が長くなるほど接触角θは徐々に低下していく。後述する実施例(実験結果)に示すように、コーティング組成物20におけるシリカ微粒子1の量が、シリカ微粒子1とフッ素樹脂粒子2との重量比で50:50以下では、10年相当の流水試験を行った場合に、初期の接触角θに対して明確に接触角θが増加する傾向が認められる。
【0082】
後述する実施例(実験結果)に示すように、シリカ微粒子1の量が、シリカ微粒子1とフッ素樹脂粒子2との重量比で60:40以上、好ましくは75:25以上として、親水性を示すシリカ膜4の面積が、シリカ膜4中に点在してコーティング膜3の表面に露出するフッ素樹脂粒子2の面積に比べ十分に大きくした場合では、10年相当の水に曝される流水試験を行っても、接触角θの増加を満足できる範囲(40度以下)に抑制することができる。
【0083】
そして、コーティング膜3が空気調和機の商品寿命に相当する長期の親水持続性を確保することについては、上記したシリカ微粒子1とフッ素樹脂粒子2の重量比だけでなく、以下に説明する不純物として含まれることになるナトリウムの含有量(濃度)の調整も重要となる。
【0084】
コーティング組成物20を製造するにあたって、原料や添加物にすでに含まれていること等により、多少の不純物がコーティング組成物20に混入してしまうことは否定できない。混入する不純物が、シリカ微粒子1やフッ素樹脂粒子2を凝集させたり沈殿させたり、コーティング膜3の防汚性能やシリカ膜4の親水性、親水持続性に悪影響を与えるものでなければ、特段問題にする必要は無い。
【0085】
しかし、熱交換器30のようにコーティング膜3が水に曝される状況で使用される場合には、不純物としてナトリウム分が多く混入していると、シリカ膜4の親水持続性に悪影響を与えるので、コーティング組成物20にはナトリウム分の混入が少ないことが重要である。コーティング組成物20にナトリウム分が多いと、ナトリウムは水溶性で、付着した水滴11に積極的に溶けようとするため、ナトリウムの溶解に促進されることによってシリカ膜4から水滴11に溶け出すシリカの量が多くなるためである。この傾向は、後述する実施例で示すように顕著である。
【0086】
このため、コーティング組成物20にナトリウムが多く含まれてしまうと、付着する水へのシリカの溶解が促進され、シリカ膜4が親水性を損ない、水との接触角θが増加していく。すなわちそのようなコーティング膜は、親水持続性が満足できるものではないということになる。また、シリカ膜4による親水性とフッ素樹脂微粒子2による疎水性のバランスが変化していくことで、防汚性能まで劣化していく事態になり兼ねない。空気調和機が10年間使用される場合では、室内機に搭載される熱交換器30は、およそ1万リットル以上もの水に曝されることになるので、シリカ膜4が親水性を大きく損なう事態は阻止しなければならない。
【0087】
後述する実施例に示されるように、コーティング組成物20に含有されるナトリウムの量が、シリカ微粒子1の重量に対する比(重量比)で1.0%以上である(実施例1)と、親水性の劣化傾向(許容レベル以上の接触角θの増加)が認められ、ナトリウムのシリカ微粒子1に対する重量比を0.5%以下(実施例2)にすることで、1万リットル以上もの水に暴露された後であっても接触角θの増加を抑制して、接触角θを40度以下に維持することができる。実施例が示すように、より確実に接触角θを40度以下に維持するためには、ナトリウムのシリカ微粒子1に対する重量比を0.1%以下(実施例3)にすることが望ましい。コーティング組成物20に混入するナトリウムが、少なければ少ないほどよいのである。
【0088】
このように、シリカ膜4の面積をシリカ膜4中に点在してコーティング膜3の表面に露出するフッ素樹脂粒子2の面積に比べ十分大きくし、コーティング組成物20に含まれるナトリウムの量をシリカ微粒子に対する重量比で、0.5%以下、好ましくは0.1%以下に管理することにより、空気調和機の寿命相当の水に曝された後においても、熱交換器30に付着する水滴(結露水)11の接触角θを40度以下に抑えられ、コーティング膜3に要求される親水持続性を満足させることができる。すなわち、結露水を早期に排水することができ、長い寿命期間においても、熱交換器の熱交換効率の低下を抑制し、露飛びや吹き出し空気の逆流による異音の発生を阻止することができる
【0089】
以上のように、コーティング膜3におけるシリカ膜4の面積が、シリカ膜4中に点在してコーティング膜3の表面に露出するフッ素樹脂粒子2の面積に比べ十分大きくなるようにして、コーティング組成物20に不純物として混入するナトリウムの量をシリカ微粒子に対する重量比で、0.5%以下、好ましくは0.1%以下に管理することにより、初期の親水性と長期の親水持続性に優れたコーティング膜3とすることができる。すなわち、コーティング膜3の表面に付着した水滴11の初期の接触角θを30度以下でき、また空気調和機の寿命相当の水に曝された後においても、コーティング膜3の表面に付着した水滴11の初期の接触角θを40度以下に維持することができる。
【0090】
また、ここまでに説明した防汚性能や親水性、親水持続性の点からは離れるが、コーティング組成物20に不純物として含まれるナトリウムが多いと、形成されるコーティング膜3が、有機酸を吸着し易くなる傾向が認められる。仮にコーティング膜3が、有機酸の一つであるCOOH基を持つカルボン酸を多く吸着すると、吸着された酸性のカルボン酸が、フィン9の表面に付着した結露水(水滴)11に溶け込み、付着した結露水11が、配管(銅パイプ)10の酸溶解発生点であるpH4(水素イオン指数が4)よりも酸性が強く(pH4未満に)なってしまうことが起こり得る。
【0091】
pH4未満の酸性が強い水滴11が、配管10である銅パイプに接すると、その接する部分が蟻の巣状腐食の起点となる可能性があり、その起点から腐食が進行して、銅パイプに穴があき、配管10を流れる冷媒等の作動流体が外部に漏れ出てしまう恐れがある。このような事態は、環境の保護の観点から、また作動流体の種類によっては、安全上の観点からも阻止しなければならいものである。カルボン酸の中でこのような蟻の巣状腐食を最ももたらす有機酸物質は、蟻酸(HCOOH)であり、この蟻酸は、壁紙等の建材やそれを接着する接着剤などに含まれるもので、室内にも比較的多く浮遊している。
【0092】
後述する実施例(実験結果)に示すように、ナトリウムのシリカに対する重量比率が30%程度と非常に高い水ガラス(別名を珪酸ソーダ、SiO2/Na2O)を使って、親水コーティングし、表面にコーティング膜を形成させた場合(比較例1)には、そのコーティング膜の蟻酸吸着量は、非常に多かった。具体的にはナトリウムのシリカに対する重量比が0.5%のコーティング組成物20によるコーティング膜3(実施例2)に比べて、単位面積あたりで25倍以上の量を吸着してしまうことが検証された。
【0093】
また、ナトリウムのシリカに対する重量比が0.5%を超えるコーティング溶液におけるコーティング膜(実施例1で重量比1.3%)でも、ナトリウムのシリカに対する重量比0.5%としたもの(実施例2)に比べて、3倍近く蟻酸の吸着量が多く、周囲の蟻酸の環境濃度によっては、付着した水滴(結露水)11がpH4未満に陥ることもあり得る。シリカに対するナトリウムの重量比が高いほど、単位面積あたりの蟻酸の吸着量は多くなるのは、蟻酸を含めてカルボン酸は酸性物質であるため、コーティング膜においてアルカリ性のナトリウムが、そのような酸性物質を吸着するためである。
【0094】
ナトリウムのシリカに対する重量比を0.5%以下にすることによって、周囲の蟻酸環境が環境濃度の最大値5ppmであったとしても、結露水11はpH4未満に陥ることはなく、結露水11による配管(銅パイプ)10の酸溶解は起こらない。ナトリウムのシリカに対する重量比を0.1%以下としたもの(実施例3)では、ナトリウムを全く含まないもの(比較例2)と蟻酸の吸着量は同じで、コーティング膜3の有無による蟻酸吸着量の増加は認められない程度となる。
【0095】
以上のように、コーティング組成物20に不純物として含まれるナトリウムの量をシリカ微粒子に対する重量比で、0.5%以下、好ましくは0.1%以下に管理することにより、形成されるコーティング膜3の蟻酸の吸着量を抑えることができ、熱交換器30の配管10である銅パイプの酸溶解の発生を回避することができる。詳細には、周囲の蟻酸環境が環境濃度の最大値5ppmであっても、フィン9に付着した水滴(結露水)11のpH値が4未満になることがなく、そのような結露水11であればたとえ銅パイプ10に接しても蟻の巣状腐食の起点となることはない。そのため、蟻酸を含むカルボン酸の吸着による銅パイプの腐食、そして腐食が進行することで銅パイプに穴が開くことによる作動流体の漏洩の発生を回避できる。
【0096】
コーティング膜が有機物蒸気を多く吸着すると、温度変化等でこれが徐放され、その環境下にいる人が、臭いで不快を気分となったり、めまいを起こしたりする恐れがある。αピネンや2エチル1ヘキサノールといった揮発性化学物質、ステアリン酸、パルミチン酸といった油や人間や化粧品などに起因する有機酸が吸着されると、被コーティング物やその周辺素材に腐食や変色を起こしやすくなったりする恐れもある。また、これらの有機酸が吸着されると、コーティング膜が撥水化する傾向も見られる。撥水化した熱交換器を調査すると、付着成分としてこれらの有機酸や揮発性化学物質が観察される。そのため、熱交換器においては、露飛びや吹き出し空気の逆流による異音(サージング音)の発生へと進む恐れがある。
【0097】
これらの対策としても、コーティング組成物20におけるナトリウムのシリカに対する重量比を0.5%以下に、望ましくは、0.1%以下にするのがよい。蟻酸同様に、形成されるコーティング膜3におけるアルカリ性のナトリウムの含有量を微量とすることで、酸性であるステアリン酸、パルミチン酸といった油系酸性ガスの吸着を削減できる。従来の有機樹脂系親水コーティングによるコーティング膜と比べると、油系酸性ガスの吸着量を10%〜50%程度削減することが可能である。また、αピネンや2エチル1ヘキサノールをはじめとする揮発性化学物質とコーティングした試験片を耐圧容器に入れた揮発性化学物質暴露試験においても、この発明のコーティング組成物20でコーティングした試験片の吸着量は、従来の有機樹脂系親水コーティングを施した試験片の吸着量に比べて10%〜50%程度削減することができた。
【0098】
この発明のコーティング組成物20の製造方法は、特に制限されることはないが、シリカ微粒子1の分散液と、フッ素樹脂粒子2の分散液と、を混合することによって容易に製造することができる。ここで、シリカ微粒子1の分散液は、15nm以下の平均粒径を有するシリカ微粒子1が水に分散されたもの、例えば、市販のコロイダルシリカを用いることができる。シリカ微粒子の分散液では、分散液中のシリカ微粒子1の体積比率が、20%以下であることが好ましい。体積比率が20%を超えると、シリカ微粒子1が凝集するなど分散液の安定性が低下してしまうことがあるためである。
【0099】
また、フッ素樹脂粒子2の分散液は、500nm以下の平均粒径を有するフッ素樹脂粒子2が水に分散されたもの、例えば、PTFEディスパージョンを用いることができる。なお、疎水性のフッ素樹脂粒子2をコーティング組成物20に凝集することなく均一に分散させるために、界面活性剤を加えてもよい。なお、どちらの分散液においても極性溶媒は水に限定されるものではない。
【0100】
それぞれの分散液に使用される水は、特に制限されることはないが、シリカ微粒子1やフッ素樹脂粒子2が凝集することなく分散して安定するために、カルシウムイオンやマグネシウムイオン等のイオン性不純物が少ないものがよい。2価以上のイオン性不純物が200ppm以下であることが望ましく、より望ましくは50ppm以下である。2価以上のイオン性不純物が多くなると、シリカ微粒子1やフッ素樹脂粒子2が凝集して沈殿したり、形成されるコーティング膜3の強度や透明性が低下したりする恐れが生じる。
【0101】
このコーティング組成物20は、有機溶剤を含まないので、安全で環境にやさしいものである。また、上記のように市販されている分散液を混合するだけで製造できるので、容易に低コストで製造できる利点がある。
【0102】
ただし、コーティング組成物20は、疎水性のフッ素樹脂粒子2の安定性確保や、被コーティング物品の材質に応じて、形成されるコーティング膜3の密着性向上やコーティング膜3の親水性の調整を図る観点から、界面活性剤や有機溶剤を添加してもよい。また、コーティング組成物20には、形成されるコーティング膜3の密着性や透明性、強度の向上、さらにはコーティング膜3の親水性の調整目的でカップリング剤やシラン化合物を添加してもよい。
【0103】
ここで、このコーティング組成物20に使用可能な界面活性剤としては、各種のアニオン系又はノニオン系の界面活性剤が挙げられる。かかる界面活性剤の中でも、ポリオキシプロピレン−ポリオキシエチレンブロックポリマーやポリカルボン酸型アニオン系界面活性剤等が、起泡性が低く使用し易いので好ましい。
【0104】
また、このコーティング組成物20に使用可能な有機溶剤としては、各種のアルコール系、グリコール系、エステル系、エーテル系等のものが挙げられる。
【0105】
また、このコーティング組成物20に使用可能なカップリング剤としては、3−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン等のアミノ系、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン等のエポキシ系、3−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン等のメタクリロキシ系やメルカプト系、スルフィド系、ビニル系、ウレイド系等が挙げられる。
【0106】
また、このコーティング組成物20に使用可能なシラン化合物としては、トリフルオロプロピルトリメトキシランやメチルトリクロロシラン等のハロゲン含有物、ジメチルジメトキシシランやメチルトリメトキシシラン等のアルキル基含有物、1,1,1,3,3,3−ヘキサメチルジシラザン等のシラザン化合物、メチルメトキシシロキサン等のオリゴマー等が挙げられる。
【0107】
以上の添加剤の含有量は、このコーティング組成物20の防汚性能や初期親水性、長期の親水持続性を損なわない範囲であれば、特に制限されることはなく、選択した添加剤に応じて適宜調整すればよい。
【0108】
この発明のコーティング組成物20の物品表面へのコーティング方法としては、特に制限されることはなく、従来から公知の方法を用いて行うことが可能であるが、コーティング組成物20を被コーティング物品表面に塗付した後、余剰のコーティング組成物20を気流で除去する方法が望ましい。余剰なコーティング組成物20が物品表面に滞留してしまうと、その部分に形成されるコーティング膜3が厚くなり、シリカ膜4にクラックが入り易くなるなど強度が低下したり、白濁して被コーティング物の色調や風合いを損なったりする恐れがある。
【0109】
また、余剰のコーティング組成物20を乾燥させるために、乾燥時間が増加してしまう。乾燥時間の増加は、物品の製造工程上好ましくないだけでなく、乾燥中にフッ素樹脂粒子2が空気界面に集積して、得られるコーティング膜3の疎水性が強くなり、疎水性汚損物質6が固着し易くなって高い防汚特性が得られなくなる恐れが生じる。余剰のコーティング組成物20を気流で除去する方法であれば、余剰のコーティング組成物20を除去するだけでなく、気流により乾燥が促進される効果も得られ、シリカ膜4中にフッ素樹脂粒子2が適度に点在した良好なコーティング膜3が得られるという利点もある。
【0110】
このように気流で余剰のコーティング組成物20を被コーティング物品の表面から除去する場合、その気流の温度は、110℃以下、望ましくは90℃以下がよい。気流の温度が高すぎる場合、シリカ膜4が変質して形成されるコーティング膜3の疎水性が強くなる傾向があり、疎水性汚損物質6が固着し易くなって好ましくない。気流の温度の下限については、35℃以下であると乾燥時間が長くなり、上記の通り、製造工程上、そして得られるコーティング膜3の疎水性が強くなる恐れがあり、好ましくない。
【0111】
気流を吹き付ける時間についても、気流の温度や被コーティング物品の形状にも依存するため限定されるものではないが、単純な形状の物品では、2秒以上20秒以下が望ましい。微小な隙間や穴を有するような複雑な形状を有する物品については、5秒以上50秒以下が好ましい。時間が短ければ余剰のコーティング組成物20が残留しやすく、時間が長くかかりすぎる状態であると、上記の通り、製造工程上だけでなく、コーティング膜3の疎水性が強くなる恐れが生じ好ましくない。
【0112】
この発明のコーティング組成物20の被コーティング物表面への塗付方法は、特に制限されることはいが、浸漬、もしくはかけ塗り等、物品表面をコーティング組成物20で覆う方法で行うと、コーティングされていない部分がなく、また厚みにむらが少ない均一なコーティング膜3が形成でき、好ましい。浸漬やかけ塗りの方法では、物品表面をコーティング組成物20が欠陥なく覆うことができる。
【0113】
厚みにむらの少ないコーティング膜3とするために、上記した気流で余剰のコーティング組成物20を除去する方法も好ましいが、浸漬の場合には、コーティング溶液(コーティング組成物20)から被コーティング物品をゆっくり引き上げて、コーティング溶液の流れ落ちにより、余剰なコーティング組成物20を除去し、むらを抑制する方法、浸漬もしくはかけ塗りの場合には被コーティング物品を回転させるなどして、余剰のコーティング組成物20を振り切って除去する方法も好ましい。
【0114】
熱交換器30をこの発明のコーティング組成物20でコーティングする場合も、熱交換器30をコーティング溶液(コーティング組成物20)に浸漬させ、ゆっくりと引き上げることで、所定の間隔で多数並列している金属製フィン9の表面にもまんべんなく容易にコーティング組成物20で覆うことができる。
【0115】
上記した市販のコロイダルシリカは、そのままでは、ナトリウムのシリカに対する重量比が0.5%以上含まれている。入手性が良く安価な水ガラス(珪酸ソーダ)を原料として作られたシリカの分散液は、ナトリウムのシリカに対する重量比が0.5%以上あり、pH10前後(おおよそ8〜11の間)のアルカリ性である。このような分散液から不純物であるナトリウム分を抜くには、フッ素樹脂粒子2の分散液と混合した後のコーティング溶液を、もしくは混合前のシリカ微粒子1の分散液(例えば、コロイダルシリカ)を、強酸性陽イオン交換樹脂(カチオン樹脂とも呼ぶ)に通すことによって、ナトリウム分を水素置換することで可能である。ナトリウムイオンを水素イオンに交換するためには、水素型の交換樹脂を用いる。
【0116】
強酸性陽イオン交換樹脂は、スルホン酸基(−SO3H)を交換基として持つ。交換樹脂では塩酸、硫酸等の鉱酸と同様に解離して強酸性を示し、ナトリウムイオンやカルシウムイオンのような陽イオンを交換することができるもので、純水や軟水製造の水処理を始め、医薬品や食品の精製、触媒等広い分野で使用されている。全てのpH領域(0〜14)で使用でき、温度に対しても安定しており、100〜120℃の高温にも耐えることができる。交換基であるスルホン酸基(−SO3H)は強酸性であり、アルカリ側は勿論のこと、酸性の溶液中でもSO3(−)H(+)の形に解離する。
【0117】
このとき、−SO3を固定イオン、+Hを対イオンと呼び、Xを陽イオン交換樹脂の母体、Yをシリカ微粒子1の分散液の母体とすると、強酸性陽イオン交換樹脂は数1に示す式のようにして、シリカ微粒子1の分散液中のナトリウムイオンが水素イオンに置換され、ナトリウムの含有量(濃度)が減少する。
【0118】
【数1】

【0119】
pH8〜11のアルカリ性であるシリカ微粒子1の分散液を強酸性陽イオン交換樹脂によりナトリウムイオンを水素イオンに交換することで、pHが2〜3程度の酸性となる。このようにpHを目安としてナトリウムの減少具合を調整できる。シリカ微粒子1の分散液のpHを酸性に調整してから、コーティング溶液(コーティング組成物20)を調合すると、コーティング溶液中の不純物であるナトリウムの濃度を把握できるためよい。フッ素樹脂微粒子2の分散液と混合しコーティング溶液の状態にしてからイオン交換してもよいが、コーティング溶液は大部分が水で、pHが中性領域にあるので、イオン交換後のコーティング溶液からナトリウムの濃度を把握するのが難しい。なお、シリカ微粒子1の分散液もしくはコーティング組成物20からナトリウムを除去、低減させる方法は、陽イオン樹脂によるイオン交換に限定されるものではなく、それ以外の方法であってもよい。
【0120】
なお、このコーティング組成物20でコーティングする物品によっては、コーティング組成物20が乾燥して物品表面に形成されるコーティング膜3の親水性や密着性を向上させる観点から、物品表面に予め、コロナ処理、UV処理等の前処理を施してもよい。この発明のコーティング組成物20は、シリカ微粒子1が乾燥のみで固化するため、加熱などを必要せずに、フッ素樹脂粒子2をコーティング膜3の表面に露出させることが可能となる。
【0121】
図5に示す熱交換器30は、この発明のコーティング組成物20でコーティングし、表面にコーティング膜3が形成されている。上記したようにこのコーティング組成物20によるコーティング膜3は、親水性汚損物質5と疎水性汚損物質6の両方に対して防汚性能に優れているので、熱交換器30への汚損物質5、6の固着を防止でき、すなわち汚れを防ぐことができる。熱交換器30は、冷媒等の作動流体と熱交換する空気が通過していくので、汚損物質5、6の表面への固着は、空気の流れを遮って空気風路の圧力損失を増大させ、熱交換効率を低下させる原因となる。しかし、コーティング組成物20でコーティングしたこの熱交換器30は、汚損物質5、6の固着を防止できるので、汚損物質5、6の固着による熱交換効率の低下を阻止し、長期に渡って熱交換効率を高く維持することができる。
【0122】
また、上記したようにこのコーティング組成物20によるコーティング膜3は、初期の親水性と長期の親水持続性に優れているので、長期に渡って熱交換器30のフィン9表面に付着する結露水の水滴11が非常に広がり易く、水滴11の接触角θを小さくすることができる。接触角θが大きい水滴11や接触角θが大きいために隣り合うフィン9間をブリッジしてしまう水滴は、熱交換器30を通過する空気の流れを遮って空気風路の圧力損失を増大させ、熱交換器30の熱交換効率を低下させる。しかし、コーティング組成物20でコーティングしたこの熱交換器30は、長期に渡って付着する結露水の水滴11の接触角θを小さくでき、水滴11がブリッジすることもないので、付着した結露水による熱交換効率の低下を抑制し、長期に渡って熱交換効率を高く維持することができる。
【0123】
また、熱交換器30は、上記のように長期に渡ってフィン9表面に付着する結露水の水滴11の接触角θを小さくできるので、水滴11がフィン9表面から離間して通過する空気とともに流れ出す露飛びの発生や、空気風路の圧損増加によって起こり得る熱交換器30を通過して吹き出される空気の逆流による異音の発生を阻止することができる。また、付着する水滴11の接触角θを小さくできるので、隣り合うフィン9間での結露水のブリッジを阻止できる。ブリッジした結露水は、両方のフィン9に摩擦抵抗が作用するので、容易に落下できずに排水性が悪い。しかし、コーティング組成物20でコーティングしたこの熱交換器30は、結露水のフィン9間でのブリッジを阻止できるので、そのような排水性の悪化を回避でき、連続するシリカ膜4による高い排水性を阻害することがない。
【0124】
また、上記したようにこのコーティング組成物20によるコーティング膜3は、蟻酸を始めとするカルボン酸の吸着量が少なく、周囲の蟻酸環境が環境濃度の最大値5ppmであったとしても、付着する水滴11が銅パイプに酸溶解を発生させるpH4未満に陥ることはない。そのため、この熱交換器30では、フィン9の表面に付着する結露水がpH4未満になることがなく、たとえフィン9表面から銅パイプ(配管)10に結露水が伝わって銅パイプ10に結露水の水滴11が接しても、銅パイプ10に蟻の巣状腐食が発生することがない。コーティング組成物20でコーティングしたこの熱交換器30は、このような腐食により銅パイプ10に穴が開き、作動流体が漏洩してしまうという事態の発生を回避できる安全なものとなる。
【0125】
また、上記したようにこのコーティング組成物20によるコーティング膜3は、ステアリン酸、パルミチン酸といった油系酸性ガス(有機酸)の吸着量が少ない。有機酸の吸着が多いと露飛びや、熱交換器30を通過して吹き出される空気の逆流による異音の発生へと進む恐れがある。しかしコーティング組成物20でコーティングしたこの熱交換器30は、有機酸の吸着量が少ないので、露飛びや吹き出し空気の逆流による異音の発生を回避できるとともに、有機酸の吸着による腐食や変色や臭いの発生を阻止できる。
【0126】
図6は、この熱交換器30、すなわちコーティング組成物20でコーティングされた熱交換器を搭載した空気調和機の室内機40を示す斜視図である。図6において、熱交換器30は、筐体41内部に収納されている。同じく筐体41内部には、熱交換器30の下流側に、送風機であるクロスフローファン44が設置されている。筐体41の上部には、室内空気を吸い込む吸い込み口42が形成され、筐体41の下部には、吸い込み口42から吸い込まれた室内空気が熱交換器30を通過して熱交換された後の調和空気が吹き出される吹き出し口43が形成されている。
【0127】
熱交換器30は、くの字状の前面側部分と背面側部分とから成り、クロスフローファン44を覆うように配置されている。クロスフローファン44が回転することにより、その吸引作用により室内空気が吸い込み口42から吸い込まれ、熱交換器30を通過する。室内空気は熱交換器30を通過する際に、熱交換器30の配管10を流れる冷媒と熱交換し、調和空気となる。吸い込み口42から吸い込まれる室内空気に親水性汚損物質5や疎水性汚損物質6が含まれていても、熱交換器30の表面には、この発明のコーティング組成物20によるコーティング膜3が形成されているので、それらが固着することなく汚れが防止される。
【0128】
継続するクロスフローファン44の回転により、熱交換器30を通過後の調和空気は、クロスフローファン44の下流側でクロスフローファン44から吹き出し口43に到る吹き出し風路を通って、吹き出し口43から室内に吹き出される。吹き出し口43には、吹き出される調和空気の風向を調整する風向調整板が設置されており、吹き出される方向が調整される。吹き出し風路の上面を形成するノズルの背面側が、冷房や除湿運転時に蒸発器として機能する熱交換器30に付着して、熱交換器30から落下する結露水11を一時的に貯留するドレンパン12となっている。ドレンパン12に貯留した結露水は、図示されないドレンホースを通って、屋外に排出される。
【0129】
この室内機40は、コーティング組成物20によりコーティングされた熱交換器30を収納し、熱交換器30にて室内空気を冷媒と熱交換させているので、汚れが防止でき、長期に渡って清潔を維持できる。また、冷房運転や除湿運転時に熱交換器30に結露水が付着しても、結露水の接触角θが小さく、排水性も優れているので、調和空気とともに室内へ結露水が吹き出される露飛びの発生や、空気風路の圧損増加によって起こり得る熱交換器30を通過して吹き出される空気の逆流による異音、所謂サージング音の発生を回避できる。
【0130】
また、この室内機40は、収納する熱交換器30が、長期に渡って汚損物質5、6を固着させず、付着する結露水の接触角θを小さくすることができるから、熱交換器30を通過する空気の流れの圧力損失を生じさせず、長期に渡って熱交換効率を高く維持できるので、高効率な空気調和機となる。
【0131】
また、この室内機40は、収納する熱交換器30が、蟻酸を始めとするカルボン酸を吸着する量が少なく、配管10に蟻の巣状腐食を発生させることがないので、配管10に穴が開き冷媒が漏洩してしまうという事態になることはなく、安全で環境にやさしい空気調和機となる。また、熱交換器30が、カルボン酸を始めとする有機酸を吸着する量が少ないので、室内機40は、吹き出し口43から調和空気とともに、有機酸に起因する不快な臭いを吹き出すこともなく、有機酸に起因する腐食や変色も起こらない。
【0132】
また、図6においては図示していなが、一般的な空気調和機の室内機においては、吸い込み口と熱交換器の間に、エアフィルターを装着し、吸い込み口から吸い込まれた室内空気に含まれる汚損物質が熱交換器まで到達しないように、このエアフィルターでそのような汚損物質をなるべく捕捉するようにしているが、この室内機40では、熱交換器30がコーティング膜3により防汚性能に優れているので、エアフィルターの目を従来に比べて荒くすることできる。そのため、エアフィルターによる流入空気の圧力損失を低減できるので、空気調和機の効率を向上させることができる。
【0133】
なお、空気調和機として、室内機40にこの発明のコーティング組成物20によるコーティング膜3で表面を被覆した熱交換器30を適用した例を述べたが、屋外に設置される室外機の熱交換器に熱交換器30を適用し、室外機が熱交換器30を本体内部に収納するようにしてもよい。室内機か室外機のどちらか一方の熱交換器を、この発明のコーティング組成物20によりコーティングして表面にコーティング膜3を形成した熱交換器30としてもよいし、室内機、室外機の両方の熱交換器を熱交換器30としてもよい。また、冷蔵庫や車両用空気調和機や自動販売機等の室内、室外の区別の無い冷凍サイクルを用いた冷凍空調装置の熱交換器に適用してもよく、同様な効果が得られる。
【0134】
また、この発明のコーティング組成物20は、熱交換器30に限定されることなく、様々な物品の表面をコーティングすることができる。適用される物品としては、特に限定されることはないが、防汚性能に優れているので、使用場所が室内外に関らず、粉塵、油煙及び煙草のヤニ等の様々な汚れ(親水性汚損物質5や疎水性汚損物質6)が固着する恐れがある各種物品が挙げられる。
【0135】
また、初期の親水性および長期の親水持続性に優れるため、日常的に水に触れるもの、水をすくうもの、水に曝されるもの、表面に付着した水を排出するものへの適用にすると、防汚の効果だけでなく、高い親水性、排水性の効果も得られるので都合が良い。具体的な例としては、手についた水を飛ばすハンドドライヤー、貯めた水を平板ですくうディスク式加湿器、蒸気や油煙を吸い込む換気扇、トイレの便器、車の外塗装やミラー、車や建物の窓ガラス、浴室や洗面所の鏡、ガードミラー、建物の外壁や屋根、食器や台所用品や洗面用品などが挙げられる。
【実施例】
【0136】
以下、具体的な実施例を示すことにより、この発明のコーティング組成物20の詳細な実験結果および特性を説明する。なお、以下に示す実施例が、この発明の範囲を限定するものではない。コーティングして表面にコーティング膜を形成する試験片としては、熱交換器用のアルミニウム製のフィンを使用している。試験片のアルミ製フィンは、防蝕処理(素材のアルミニウム層にクロメート処理による腐食防止層を形成)が施されている。
【0137】
[実施例1〜3]
実施例1〜3では、純水に平均粒径6nmのシリカ微粒子を分散したコロイダルシリカ(触媒化成工業株式会社製、pH10)と、平均粒径150nmのフッ素樹脂粒子を純水に分散したPTFEディスパージョン(旭硝子株式会社製、pH10)とを撹拌混合した後、非イオン系界面活性剤(ポリオキシエチレンアルキルエステル)をさらに加えて撹拌混合することにより、表1に示す組成を有するコーティング組成物を調合した。コーティング組成物中の非イオン系界面活性剤の含有量は、0.05重量%であった。これらで試験片の表面をコーティングした。
【0138】
なお、コロイダルシリカは、PTFEディスパージョンとの混合に先立って、強酸性陽イオン交換樹脂(ダイヤイオンUBK08)とによるNaイオンの低減を図った。強酸性陽イオン交換樹脂の量を変えることで、低減の程度を変化させた。ナトリウムの含有量は、原子吸光分析にて測定した。イオン交換を実施する前のコロイダルシリカのナトリウム含有量は、シリカ微粒子に対する重量比で1.3%であったが、イオン交換を行ったものは、それぞれ0.5%と0.1%となった。そしてイオン交換を実施した後のコロイダルシリカのpH値は2.3であった。
【0139】
[比較例1、2]
比較例1では、従来から空気調和機の熱交換器に使用されている珪酸ソーダ(別名を水ガラス、SiO2/Na2O)を用いた新水コーティングを試験片に施した。比較例1のシリカに対するナトリウムの重量比は33%であった。また、比較例2では、同様に従来から空気調和機の熱交換器に使用されているポリビニルアルコール(別名をポバール、PVA)を用いた有機系の親水コーティングを試験片に施した。比較例2の有機系樹脂の親水コーティングには、シリカおよびナトリウムは含有されていない。
【0140】
【表1】

【0141】
各例の親水持続性を評価するために、コーティングされた試験片を、2L/分のイオン交換水の流水中に浸漬して放置し、所定時間後に取り出して乾燥した後で、水に対するの接触角θを測定した。その結果を表2に示す。接触角θは、接触角計(協和界面化学株式会社製DM100)により測定した。ここで流水13000Lをおおよその空気調和機の商品寿命と仮定した。長期間に渡って(13000Lで試験時間としては約108時間)流水が接触することにより、接触角θは大きくなる。
【0142】
これは、上記したように、ナトリウムが流水に溶解すると同時にシリカの溶解が促進されることと、シリカの溶解によりフッ素樹脂の撥水性の影響が大きくなるためである。空気調和機の市場品を参考とした場合、目安として、接触角θが40度以下であればまず露飛びは起こらないが、接触角θが60度以上では露飛びが起こる可能性が高い。
【0143】
表2に示されるように、ナトリウムの含有量が対シリカ重量比で1.3%である実施例1、同33%である比較例1では、流水に暴露後の接触角θが明確に増加している。一方、ナトリウム含有量が対シリカ重量比で0.5%である実施例2、同0.1%である実施例3は、ナトリウムを含まない比較例2と同様に接触角θの増加が少なく、13000Lの暴露後も接触角θは40度以下と、露飛びが起きない目安を満足している。
【0144】
表2が示す実験結果では、陽イオン交換樹脂を用いたナトリウムの低減効果により、ナトリウムの含有量(濃度)が少ないほど、親水性の低下が抑制できる、すなわち親水持続性が高いことが示されており、ナトリウムの含有量をシリカ微粒子に対する重量比で0.5%以下とすることで、接触角θ≦40度を満足する親水持続性を得ることができる。
【0145】
【表2】

【0146】
次に、各例の蟻酸の吸着量を評価するために、恒温恒湿に保持した所定の大きさの容器内で、コーティングされた試験片を所定の濃度の蟻酸溶液に暴露させた。所定時間暴露させた後で取り出し、水抽出イオンクロマトグラフ法にて、単位面積あたりの蟻酸の吸着量を測定した。その結果を表3に示す。なお、周囲環境が蟻酸環境基準値の最大値である5ppmであっても、理論的に問題の起こらない(フィンに付着した結露水のpH値が4未満になって銅パイプに蟻の巣状腐食を発生させない)目安は、15ng/cm2以下である。
【0147】
ナトリウムの含有量が対シリカ重量比で33%である比較例1では、300〜500ng/cm2と過剰に蟻酸を吸着している。また、ナトリウムの含有量が対シリカ重量比で1.3%である実施例1でも、同0.5%である実施例2の3倍程度となる33ng/cm2の蟻酸を吸着している。ナトリウムの含有量が対シリカ重量比で0.5%である実施例2、同0.1%である実施例3は、ナトリウム含まない比較例2と同様に蟻酸の吸着量が15ng/cm2以下と少なく、周囲環境が蟻酸環境基準値の最大値である5ppmであっても、熱交換器のフィンに付着した結露水のpH値が4未満にならず、冷媒が流れる銅パイプへの腐食形成の引き金となる危険性がない。
【0148】
表3に示す実験結果では、陽イオン交換樹脂を用いたナトリウム含有量(濃度)の低減効果により、蟻酸の吸着が抑制できることが示されており、ナトリウムの含有量をシリカ微粒子に対する重量比で0.5%以下することで、蟻酸の吸着量≦15ng/cm2を満足する耐吸着性を得ることができる。
【0149】
【表3】

【0150】
上記の表2、表3に示す実験結果から、初期親水性、親水持続性、耐吸着性の観点においては、実施例3および比較例2でコーティングするのが適当だと判断できる。続いて、防汚性を評価する。また、コーティング組成物の最適なシリカ微粒子とフッ素樹脂粒子の重量比(シリカ微粒子の重量:フッ素樹脂粒子の重量)を評価する。
【0151】
[実施例3〜8]
実施例3〜8では、最適なシリカ微粒子とフッ素樹脂粒子の重量比を見つけるために、ナトリウム含有量が対シリカ比で0.1%まで低減したpH2.3のコロイダルシリカ(平均粒径6nmのシリカ微粒子を含む)と、PTFEディスパージョン(平均粒径150nmのフッ素樹脂粒子を含む)とをそれぞれの比率を変化させて撹拌混合した後、非イオン系界面活性剤(ポリオキシエチレンアルキルエステル)をさらに加えて撹拌混合することにより、表4の重量比となるコーティング組成物を調合した。シリカ微粒子とフッ素樹脂粒子の重量比を30:70〜90:10の範囲で変化させた。なお、コーティング組成物中の非イオン系界面活性剤の含有量は、いずれも0.05重量%であった。
【0152】
[比較例2〜5]
比較例3と4では、上記のナトリウム濃度を0.1%まで低減したpH2.3のコロイダルシリカと上記のPTFEディスパージョンとを単独でそれぞれ用いた。比較例5では、実施例8と同様の重量比でありながら、シリカ微粒子のコーティング組成物に対する重量比を高めて、すなわち微粒子の濃度を高くしてコーティング組成物を調合した。比較例2は、上記の通り従来から熱交換器に使用されているPVA(ポリビニルアルコール)を用いた有機系樹脂の親水コーティングであり、シリカもフッ素樹脂も含まない。
【0153】
【表4】

【0154】
各例のコーティング組成物を試験片に塗布し、エアブローにて余剰液を吹き飛ばす方法にて試験片にコーティング膜を形成し、形成されたコーティング膜の性状、初期接触角θおよび防汚性能をそれぞれ評価した。なお、エアブローは30m/sの流速とした。ここで、コーティング膜の性状は、目視観察により評価した。接触角θは、接触角計(協和界面化学株式会社製DM100)により測定した。防汚性能は、親水性汚損物質である砂塵の固着性、疎水性汚損物質であるカーボン粉塵の固着性を評価した。
【0155】
親水性汚損物質の固着性評価は、1〜3μmを中心粒径とするJIS関東ローム粉塵をエアーでコーティング表面(コーティング膜)に吹き付けることにより、赤色の関東ローム粉塵の固着による着色を目視観察にて五段階評価した。この評価において、関東ローム粉塵の固着がほとんどないものを1とし、関東ローム粉塵の固着が多いものを5と表記する。また、疎水性汚損物質の固着性評価は、油系のカーボンブラックをエアーでコーティング表面(コーティング膜)に吹き付けることにより、黒色のカーボンブラックの固着による着色を目視観察にて五段階評価した。この評価において、カーボンブラックの固着がほとんどないものを1とし、カーボンブラックの固着が多いものを5と表記する。その評価結果を表5に示す。
【0156】
【表5】

【0157】
表5に示すように、比較例4のコーティング組成物(シリカ微粒子を含有しないフッ素樹脂粒子のみのコーティング組成物)は、初期接触角θが90°と大きく親水性に劣るものであった。また、コーティング膜がかなり白濁しており、簡単に試験片の表面から剥離してしまった。また、比較例5のコーティング組成物(シリカ微粒子の含有量が多いコーティング組成物)では、厚みが不均一で白濁したコーティング膜となり、クラックが入って簡単に剥離してしまった。
【0158】
これに対して、実施例3〜8及び比較例2、3のコーティング組成物では、厚さが均一で薄いコーティング膜を形成することができた。実施例7は微白濁であったが、それ以外は透明な膜を形成できた。実施例8と比較例5を比べれば、同じシリカ微粒子とフッ素樹脂粒子の重量比であっても膜の性状は変化することがわかる。シリカ微粒子の含有量(濃度)が高めである(5重量%を超える)場合には、形成されるコーティング膜は、厚さが不均一で白濁する。
【0159】
防汚性能の観点から表5を見た場合では、比較例2〜5は、親水性汚損物質、疎水性汚損物質ともに固着量が多かった。特に、親水持続性が良好であった従来の熱交換器の有機系親水コーティングである比較例2は、親水性汚損物質、疎水性汚損物質とも固着量が多く、防汚性能を有していないことが示された。
【0160】
これに対して、実施例3〜8のコーティング組成物により形成されたコーティング膜は、いずれも親水性、疎水性の両方の汚損物質に対して優れた防汚性能を示した。ただし、フッ素樹脂粒子の重量比が高い実施例4(シリカ微粒子の重量:フッ素樹脂粒子の重量=30:70)では、疎水性汚損物質に対する防汚性能がやや劣る傾向がることがわかる。
【0161】
親水性と疎水性の両方の汚損物質に対して防汚性能を両立するものとして、シリカ微粒子に対するフッ素樹脂粒子の重量比率が、60:40〜85:15である実施例3、6、7が特に好ましい。更に詳細には重量比率が75:25である実施例3が最も好ましい。表5に示す実験結果から、シリカ微粒子とフッ素樹脂粒子との含有量(重量比率)を調整することにより、形成されるコーティング膜の巨視的な特性(親水性又は疎水性)を調整することができることがわかる。また、シリカ微粒子の重量比率が低い実施例4は、初期の接触角θが30°を超えているが、シリカ微粒子に対するフッ素樹脂粒子の重量比が60:40よりもシリカ微粒子の重量比率が高い場合には、初期の接触角θは20°よりも小さく親水性に優れている。
【0162】
また、実施例5〜7についての親水持続性を評価した。評価方法は、表2に示した実施例1〜3のときと同様で、試験片を、2L/分のイオン交換水の流水中に浸漬して放置し、所定時間後に取り出して乾燥した後で、付着している水の接触角を測定した。結果を表6に示す。シリカ微粒子に対するフッ素樹脂粒子の重量比が50:50である実施例5は、13000Lの水暴露後の接触角θは68度と明確に悪化しており、親水持続性に劣る。それに対して、同重量比が60:40の実施例6、同重量比が75:25である実施例7は、13000Lの水暴露後であっても、露飛びが起こらない目安である接触角θ≦40度を満足している。これより、親水持続性の観点からは、シリカ微粒子に対するフッ素樹脂粒子の重量比が60:40よりシリカ微粒子の比率が高い方がよく、詳細には同重量比が75:25である実施例3が最も好ましい。
【0163】
【表6】

【0164】
なお、実施例3〜8では、フッ素樹脂粒子の平均粒径が150nmであるのに対して、シリカ膜の平均厚さは、約100nmであり、フッ素樹脂粒子の平均粒径に比べて小さかった(薄かった)。エアブローが十分でなく、シリカ膜の厚さが1000nm程度と厚くなった場合には、初期接触角θが大きく、また親水持続性も劣っていて、接触角θは初期に比べて増加した。そして、親水性汚損物質、疎水性汚損物質の両方に対して防汚性能が劣っていた。以上のことから、少なくとも不純物であるナトリウムの含有量(濃度)、シリカ微粒子およびフッ素樹脂粒子の含有量、シリカ微粒子の重量とフッ素樹脂粒子の重量比、シリカ膜の厚さを適正に制御することが重要である。
【0165】
また、実施例3と比較例2とを動的接触角の観点で比較した。実施例3と比較例2のコーティングを施した試験片を垂直に立て、シリンジで20μL(マイクロリットル)の水滴を付着させ、付着後0.5分後の水滴移動距離を測定すると、実施例3は、比較例2に比べて約5倍程度の水滴落下速度を有しており、すばやく水を排水できた。また、水平に置いた試験片状で20μLの水滴が初期接触角θに到達するまでの時間を測定すると、比較例2が1秒程度かかるのに比べて、実施例3は0.01秒であり、瞬時に付着した水滴が広がる良好な親水性を示した。
【図面の簡単な説明】
【0166】
【図1】この発明のコーティング組成物が熱交換器のフィン表面にコーティングされ、コーティング膜が形成された状態の断面を示す概念図である。
【図2】図1のコーティング膜の部分のみを示した概念図である。
【図3】図1のコーティング膜の上面を見た概念図である。
【図4】この発明のコーティング組成物でコーティングされた熱交換器を示す模式図である。
【図5】フィンの表面に付着した水滴の接触角θを説明する模式図である。
【図6】この発明のコーティング組成物でコーティングされた熱交換器を搭載した空気調和機の室内機を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0167】
1 シリカ微粒子、2 フッ素樹脂粒子、3 コーティング膜、4 シリカ膜、5 親水性汚損物質、6 疎水性汚損物質、7 腐食防止層、8 金属層、9 金属製フィン、10 配管(銅パイプ)、11 水滴(結露水)、12 ドレンパン(水受け皿)、20 コーティング組成物、30 熱交換器、40 空気調和機の室内機、41 筐体、42 吸い込み口、43 吹き出し口、44 クロスフローファン(送風機)、θ 接触角。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
物品の表面にコーティング膜を形成するコーティング組成物であって、
シリカ微粒子と、
フッ素樹脂粒子と、を含有し、
前記コーティング膜が、前記シリカ微粒子から成るシリカ膜中に前記フッ素樹脂粒子が前記シリカ膜の表面から部分的に露出するように点在して成り、前記シリカ膜の露出面積が前記フッ素樹脂粒子の露出面積よりも大きいものであるとともに、
当該コーティング組成物に含まれるナトリウムの量が、前記シリカ微粒子の含有量に対する重量比で0.5%以下であることを特徴とするコーティング組成物。
【請求項2】
前記シリカ微粒子の含有量と前記フッ素樹脂粒子の含有量との重量比が、60:40〜95:5の範囲内にあることを特徴とする請求項1に記載のコーティング組成物。
【請求項3】
前記シリカ微粒子の平均粒径が、4〜15nmの範囲内であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のコーティング組成物。
【請求項4】
前記フッ素樹脂微粒子の平均粒径が、50〜500nmの範囲内であることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載のコーティング組成物。
【請求項5】
前記シリカ微粒子の含有量は、当該コーティング組成物に対して0.1〜5重量%であることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれかに記載のコーティング組成物。
【請求項6】
前記コーティング膜にあって、前記シリカ膜の平均厚さが、前記フッ素樹脂粒子の平均粒径より小さいことを特徴とする請求項1に記載のコーティング組成物。
【請求項7】
前記コーティング組成物が、前記シリカ微粒子の分散液と、前記フッ素樹脂粒子の分散液とが混合されて成るものであって、混合後に、強酸性陽イオン交換樹脂によりナトリウムが水素置換されることで、ナトリウムの含有量が、前記シリカ微粒子の含有量に対する重量比で0.5%以下となることを特徴とする請求項1に記載のコーティング組成物。
【請求項8】
前記コーティング組成物が、珪酸ソーダを原料とする前記シリカ微粒子の分散液と、前記フッ素樹脂粒子の分散液とが混合されて成るものであって、前記シリカ微粒子の分散液に含まれるナトリウムが混合前に強酸性陽イオン交換樹脂により水素置換されることで、ナトリウムの含有量が、前記シリカ微粒子の含有量に対する重量比で0.5%以下となることを特徴とする請求項1に記載のコーティング組成物。
【請求項9】
所定の間隔で配列される複数の金属製のフィンと、前記フィンを貫通しながら複数列を成して挿設される金属製の配管から構成される熱交換器であって、請求項1から請求項8に記載のいずれかのコーティング組成物によるコーティングが施され、少なくとも前記フィンの表面には前記コーティング組成物によりコーティング膜が形成されていることを特徴とする熱交換器。
【請求項10】
室内に設置される室内機と屋外に設置される室外機とを備えた空気調和機であって、前記室内機および前記室外機の少なくとも一方が請求項9に記載の熱交換器を収納していることを特徴とする空気調和機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−235338(P2009−235338A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−86678(P2008−86678)
【出願日】平成20年3月28日(2008.3.28)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】