説明

コーティング組成物及び車両内装材

【解決手段】合成樹脂エマルジョンの固形分100質量部に対して、リン及び窒素を含有するノンハロゲン系難燃剤粒子表面を疎水性無機酸化物微粒子で被覆したノンハロゲン系難燃剤の一種又は二種以上を1〜300質量部添加してなるコーティング組成物。
【効果】本発明のコーティング組成物は、従来のハロゲン系難燃剤を含むコーティング剤の物性を損なうことのない新規なノンハロゲン系難燃剤を含むコーティング剤となり得、特にカーシート、カーマット、天井材などの車両内装材に有効に用いられるものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内装材等のコーティング材料に関するもので、特にカーシート(seat)、カーマット、天井材などの車両内装材のコーティング剤として利用されるコーティング組成物、及びこの組成物でコーティングされた車両内装材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、カーシート、カーマット、天井材などの車両内装材に使用されているコーティング剤には、難燃性を付与するためにデカブロモジフェニルエーテル等のハロゲン系難燃剤が使用されていた。近年、環境の問題から、ハロゲン系難燃剤の代わりにノンハロゲン系難燃剤を使用することが求められている。ところが、ノンハロゲン系難燃剤は、ハロゲン系難燃剤と比べて、難燃性に劣る又は耐水性に劣る等の欠点を持っている。
これらの問題を解決するために、ポリリン酸アンモニウム等の水可溶性ノンハロゲン系難燃剤を被覆剤によってカプセル化することが試みられており、特開平9−13037号公報(特許文献1)には、被覆剤としてポリアミド樹脂、アクリル系樹脂又はスチレン系樹脂が開示されているが、得られた難燃剤の耐水性は不十分である。
【0003】
また、特開平10−110083号公報(特許文献2)、特開2003−171878号公報(特許文献3)には、ポリリン酸アンモニウムの表面をメラミン樹脂等で処理することにより、アクリル系エマルジョンに安定に混和できると開示されており、確かに、エマルジョンへの混和性は改善されるが、処理膜の硬化度が低いと、基材(布)への塗布・乾燥した後のコーティング面の耐水性は改善されない。例えば、コーティング面が水に触れるとヌメリ感が出る等の問題点が指摘されている。また、処理剤の硬化度を高くすると、上記問題は改善されるが、ホルムアルデヒドが検出され、環境問題となる。
一方、ノンハロゲン系難燃剤として、上記ポリリン酸アンモニウム以外に、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム等の金属水酸化物、又はリン酸エステルが挙げられるが、ハロゲン系難燃剤と比べて、難燃性に劣ることが指摘されている。
従って、従来のハロゲン系難燃剤を含むコーティング剤の物性を損なうことのないノンハロゲン系難燃剤を含むコーティング剤の開発が求められている。
【0004】
【特許文献1】特開平9−13037号公報
【特許文献2】特開平10−110083号公報
【特許文献3】特開2003−171878号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、コーティング組成物、特にカーシート、カーマット、天井材などの車両内装材に使用され、かつ従来のハロゲン系難燃剤を含むコーティング剤の物性を損なうことのないノンハロゲン系難燃剤を含む新規な車両内装剤用コーティング組成物、及びこの組成物でコーティングされた車両内装材を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討した結果、合成樹脂エマルジョンに、特定のノンハロゲン系難燃剤粒子表面を特定の疎水性無機酸化物微粒子で被覆したノンハロゲン系難燃剤を特定量添加することにより、従来のハロゲン系難燃剤を含むコーティング剤と同等の物性を有するノンハロゲン系難燃剤を含有する新規なコーティング組成物が得られ、カーシート、カーマット、天井材などの車両内装材のコーティング剤として好適に使用し得ることを見出し、本発明をなすに至った。
【0007】
従って、本発明は、合成樹脂エマルジョンの固形分100質量部に対して、リン及び窒素を含有するノンハロゲン系難燃剤粒子表面を疎水性無機酸化物微粒子で被覆したノンハロゲン系難燃剤の一種又は二種以上を1〜300質量部添加してなるコーティング組成物、及びこの組成物をコーティングした車両内装材を提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明のコーティング組成物は、従来のハロゲン系難燃剤を含むコーティング剤の物性を損なうことのない新規なノンハロゲン系難燃剤を含むコーティング剤となり得、特にカーシート、カーマット、天井材などの車両内装材に有効に用いられるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明のコーティング組成物は、合成樹脂エマルジョンの固形分100質量部に対して、リン及び窒素を含有するノンハロゲン系難燃剤粒子表面を疎水性無機酸化物微粒子で被覆したノンハロゲン系難燃剤(以下、疎水性無機酸化物微粒子被覆ノンハロゲン系難燃剤という)の一種又は二種以上を1〜300質量部添加して得られるものである。
【0010】
本発明に用いられる合成樹脂エマルジョンとしては、塩化ビニル樹脂系エマルジョン、(メタ)アクリル酸エステル樹脂系エマルジョン、スチレン/アクリル酸エステル共重合体系エマルジョン、ウレタン樹脂系エマルジョン、シリコーン樹脂系エマルジョン、フッ素樹脂系エマルジョン、エポキシ樹脂系エマルジョン、エチレン/酢酸ビニル共重合体系エマルジョン、SBRやNBR等のゴム系エマルジョン等のエマルジョンなどが挙げられ、これらの一種又は二種以上が使用される。より好ましくは、(メタ)アクリル酸エステル樹脂系エマルジョン、スチレン/アクリル酸エステル共重合体系エマルジョン、ウレタン樹脂系エマルジョン、エチレン/酢酸ビニル共重合体系エマルジョン、SBRやNBR等のゴム系エマルジョンが用いられる。なお、本発明において、(メタ)アクリル酸エステル樹脂とは、アクリル酸エステル樹脂又はメタクリル酸エステル樹脂であることを示す。
上述した合成樹脂エマルジョンは、乳化重合により合成してもよいし、市販されている合成樹脂エマルジョンを使用してもよい。
【0011】
市販されている合成樹脂エマルジョンとしては、(メタ)アクリル酸エステル樹脂系エマルジョンでは、日信化学工業(株)製のビニブラン2598、東亞合成(株)製のアロンA−104等が、スチレン/アクリル酸エステル共重合体系エマルジョンでは、日信化学工業(株)製のビニブラン2590、クラリアントポリマー(株)製のモビニール975A等が、ウレタン樹脂系エマルジョンでは、大日本インキ化学工業(株)製のハイドランHW−311、HW−301、三洋化成工業(株)製のパーマリンUA−150等が、エチレン/酢酸ビニル共重合体系エマルジョンでは、住友化学工業(株)製のスミカフレックス400、752、クラレ(株)製のパンフレックスOM−4000等が、ゴム系エマルジョンでは、日本エイアンドエル(株)のナルスターSR−100、SR−112、日本ゼオン(株)製のNipol 1561等がそれぞれ挙げられるが、この限りではない。
【0012】
また、上述した合成樹脂エマルジョンを乳化重合で得る場合、ラジカル重合で合成することが一般的である。この場合、原料の単量体としては、ラジカル重合能を有する不飽和基含有単量体を使用する。
【0013】
不飽和基含有単量体としては、エチレン、プロピレン及び塩化ビニル、塩化ビニリデン等の塩素含有単量体類、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のカルボン酸ビニル単量体類、スチレン、α−メチルスチレン等の芳香族ビニル単量体類、1,3−ブタジエン、2−メチル−1,3−ブタジエン等の共役ジエン系単量体類、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸メチル等のエチレン性不飽和モノカルボン酸エステル類、イタコン酸ジメチル、マレイン酸ジエチル、マレイン酸モノブチル、フマル酸モノエチル、フマル酸ジブチル等のエチレン性不飽和ジカルボン酸エステル類、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸等のエチレン性不飽和モノカルボン酸類、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸等のエチレン性不飽和ジカルボン酸類、グリシジルメタクリレート等のエポキシ基含有単量体類、2−ヒドロキシエチルメタクリレート等のアルコール性水酸基含有単量体類、メトキシエチルアクリレート類のアルコキシル基含有単量体類、アクリロニトリル等のニトリル基含有単量体類、アクリルアミド等のアミド基含有単量体類、ジメチルアミノエチルメタクリレート等のアミノ基含有単量体類、ジビニルベンゼン、アリルメタクリレート等の1分子中にエチレン性不飽和基を2個以上有する単量体等が挙げられる。
【0014】
上記乳化重合には、公知のあらゆる乳化重合法を採用することができる。上記単量体及びその他の重合助剤(例えば、アルキル硫酸エステル塩等の乳化剤、過硫酸アンモニウム等の重合開始剤、メルカプタン類等の連鎖移動剤、炭酸ソーダ等のpH調整剤、各種消泡剤など)を初期に一括添加してもよいし、連続に添加してもよいし、その一部を重合中に連続又は分割して添加してもよい。
【0015】
上記乳化重合に用いられる乳化剤としては、下記(1)〜(4)の界面活性剤が挙げられ、これらの界面活性剤の一種又は二種以上が使用される。
(1)アニオン系界面活性剤、例えばアルキル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、脂肪酸塩、ジアルキルスルホコハク酸塩、アルキルリン酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルリン酸エステル塩等の界面活性剤。
(2)ノニオン系界面活性剤、例えばポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレン誘導体、グリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレンアルキルアミン、アルキルアルカノールアミド、又はアセチレンアルコール、アセチレングリコール及びそれらのエチレンオキサイド付加物の界面活性剤。
(3)カチオン系界面活性剤、例えばアルキルトリメチルアンモニウムクロライド、ジアルキルジメチルアンモニウムクロライド、アルキルベンジルアンモニウムクロライド、アルキルアミン塩等の界面活性剤。
(4)分子中にラジカル重合能を有する二重結合を持つ重合性界面活性剤、例えばアルキルアリルスルホコハク酸塩、メタアクリロイルポリオキシアルキレン硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンノニルプロペニルフェニルエーテル硫酸エステル塩等の重合性界面活性剤。
【0016】
これら界面活性剤の使用量は、上記単量体に対して、通常は0.3〜20質量%、好ましくは0.5〜10質量%である。
【0017】
上記乳化重合に用いられる重合開始剤としては、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム等の過硫酸塩、2,2’−ジアミジノ−2,2’−アゾプロパンジ塩酸塩、アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ化合物、クメンハイドロパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、過酸化水素等の過酸化物などが挙げられる。また、公知のレドックス系開始剤、例えば過硫酸カリウムと亜硫酸水素ナトリウム等も挙げられる。重合開始剤の使用量は、上記単量体に対して、通常は0.1〜5質量%、好ましくは0.2〜2質量%である。
【0018】
上記乳化重合を行う重合温度は、通常10〜90℃、好ましくは50〜80℃であり、重合時間は、通常3〜20時間である。この重合は、窒素ガス等の不活性ガスの雰囲気中で行うことが好ましい。
【0019】
本発明のコーティング組成物に用いられる難燃剤は、リン及び窒素を含有するノンハロゲン系難燃剤粒子表面を疎水性無機酸化物微粒子で被覆したノンハロゲン系難燃剤である。
【0020】
リンのみを含有する難燃剤としては、例えば、リン酸エステル等が挙げられるが、ハロゲン系難燃剤と比べると難燃性に劣るものであり、本発明者は、難燃元素として、リンと窒素の両者を含有する難燃剤を選択することにより、難燃効果が向上することを見出したものである。
【0021】
リン及び窒素を含有するノンハロゲン系難燃剤粒子としては、リン酸グアニジン、リン酸アンモニウム、リン酸メラミン、ポリリン酸アンモニウム、メラミン表面処理ポリリン酸アンモニウム、ケイ素化合物表面処理ポリリン酸アンモニウム等の難燃剤が挙げられ、これらの一種又は二種以上が使用される。より好ましくは、ポリリン酸アンモニウムが用いられる。なお、ポリリン酸アンモニウムとしては市販品を使用することができる。また、難燃剤粒子として平均粒子径3〜25μm、特に5〜18μmのものを用いることが好ましい。なお、本発明において、平均粒子径は、例えばレーザー光回折法などにより粒度分布測定装置等を用いて、重量平均値(又はメジアン径)などとして求めることができる。また、ケイ素化合物表面処理ポリリン酸アンモニウムは、カルボキシル基又はアミノ基等の官能基を含有するアルコキシシラン又はその部分加水分解物で、ポリリン酸アンモニウムを液中乾燥法によりコーティング処理又は被覆処理したものが好ましい。
【0022】
上記リン及び窒素を含有するノンハロゲン系難燃剤粒子表面を疎水性無機酸化物微粒子で被覆することにより、良好な撥水性が発現するという効果が得られるものである。
【0023】
本発明で使用される疎水性無機酸化物微粒子は、疎水性の(疎水基を有している)無機酸化物ならば特に限定されず、疎水性の酸化ケイ素、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化アルミニウム、酸化セリウム等が挙げられる。特に好適には疎水性の酸化ケイ素(シリカ)がコスト面や性能の面で最も好ましい。
【0024】
用いるシリカは、大別してハロゲン化ケイ素の分解により得る方法やケイ砂を加熱還元した後、空気により酸化して得る方法等に代表される乾式法シリカとケイ酸ナトリウムを硫酸等の鉱酸により直接分解して得る方法に代表される湿式法シリカの2種類がある。また、アルコキシシランの加水分解によって得られるゾルゲル法シリカでもよく、どのシリカも、ヘキサメチルジシラザン等のオルガノシラザン類、メチルトリメトキシシラン等のオルガノアルコキシシラン、オルガノハイドロジェンポリシロキサン等のオルガノポリシロキサンなどの疎水化表面処理剤によって処理されて、メチル基などのアルキル基等の疎水基を持っていればよい。
【0025】
疎水性の目安としては、疎水化度という尺度で45以上(好ましくは45〜70)の値を示すことが好ましい。ここで疎水化度とは、下記方法によるメタノール滴定試験により求められる。水に添加されたシリカ微粒子が湿潤されたときの、メタノールと水との混合物中におけるメタノールの百分率により表される値で、この数値が大きいほど疎水性が高く、数値が小さいほど親水性が高いことを示す。
疎水化度測定
(1)500ml三角フラスコに試料0.2gを秤量する。
(2)イオン交換水50mlを(1)に加えスタラーにて撹拌する。
(3)撹拌したままビュレットよりメタノールを滴下させ、試料の全量がイオン交換水
に懸濁されたときの滴下量を読む。
(4)次式より疎水化度を求める。
疎水化度=(メタノール滴定量ml)
×100/(メタノール滴定量ml+イオン交換水量ml)
【0026】
また、疎水性シリカ等の疎水性の無機酸化物微粒子の平均粒子径は、リン及び窒素を含有するノンハロゲン系難燃剤粒子を充分コーティングする大きさがよく、0.001〜5μmの範囲が好ましい。更には0.001〜2μmの範囲がより好ましく、その形状は真球状でも不定形状でもよく、特に限定はされない。
【0027】
また、ノンハロゲン系難燃剤粒子への疎水性無機酸化物微粒子の被覆方法としては、ノンハロゲン系難燃剤粒子100質量部に対し、0.1〜20質量部、好ましくは1〜10質量部の疎水性無機酸化物微粒子をボールミル、V型混合機、リボン型混合機、スクリュウ混合機等の混合機を利用した高速撹拌手段(約100〜5,000rpm)によりノンハロゲン系難燃剤粒子の表面に疎水性無機酸化物微粒子を被覆させる。
【0028】
疎水性無機酸化物微粒子で被覆したノンハロゲン系難燃剤は、平均粒子径が3〜35μm、特に5〜20μmであることが好ましい。また、本発明においては上記疎水性無機酸化物微粒子被覆ノンハロゲン系難燃剤の一種又は二種以上を使用することができる。
【0029】
合成樹脂エマルジョンと、リン及び窒素を含有するノンハロゲン系難燃剤粒子表面を疎水性無機酸化物微粒子で被覆したノンハロゲン系難燃剤の混合割合は、構成樹脂エマルジョンの固形分100質量部に対して1〜300質量部であり、より好ましくは5〜200質量部である。難燃剤が1質量部未満であると難燃効果が充分でなく、300質量部を超えると塗膜の実用強度が得られなくなるし、コストが高くなる。
【0030】
本発明のコーティング組成物には、上記構成材料の他に、必要に応じて、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース等のセルロース系水溶性高分子、完全鹸化ポリビニルアルコール、部分鹸化ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸及びその塩、ポリメタクリル酸及びその塩、ポリアクリルアミド、アルカリ増粘型アクリルエマルジョン等の合成水溶性高分子、アンモニア、トリエチルアミン、水酸化ナトリウム等の塩基類、ポリエチレンワックス、消泡剤、レベリング剤、粘着付与剤、防腐剤、抗菌剤、防錆剤等を本発明の目的を損なわない範囲で配合することができる。
【0031】
本発明のコーティング組成物は、上記成分の所定量を常法に準じて均一に混合することにより調製することができる。得られたコーティング組成物は、固形分が30〜70質量%、特に40〜60質量%が好ましい。
【0032】
このようにして得られたコーティング組成物は、難燃効果を要する各種基材のコーティング剤として好適に用いることができ、特にカーシート、カーマット、天井材等の車両内装材のコーティング剤として適している。
【0033】
本発明のコーティング組成物を基材に塗布する場合、公知の塗布機、例えば、グラビアロールコーター、ナイフコーター、リバースロールコーター等を使用して塗布することができる。ここで、基材としては、ポリエステル、ナイロン製織物又は編物及びポリエステル、ポリプロピレン製不織布等を用いることができる。
【0034】
また、塗布する際、コーティング組成物をそのまま使用してもよいし、アルカリ増粘型アクリル系エマルジョン等の市販の増粘剤で適宜増粘して使用してもよい。この場合、B型粘度計により測定した25℃における粘度を10,000〜50,000mPa・s、特に20,000〜40,000mPa・sとすることが好ましい。
【0035】
コーティング組成物の塗布量は、通常乾燥状態で30〜600g/m2、好ましくは50〜500g/m2である。塗布後の乾燥条件としては、100〜180℃の温度で1〜10分間乾燥させることが好ましい。
【0036】
ここで、カーシート、カーマット、天井材等の車両内装材に求められる物性として、難燃性はもちろんだが、風合いも求められる。この風合いは、JIS L1079の45度カンチレバー法によって測定(剛軟度で表現)されるが、車両内装材の種類によって要求性能が異なる。即ち、カーシート等の場合は、柔らかい物が求められ、剛軟度は100以下が好ましい。一方、カーマット及び天井材等は、硬い物が求められ、剛軟度は100超が好ましい。一般的に、コーティング剤の塗布量は、カーシート等の場合は乾燥状態で30〜200g/m2の範囲が好ましく、カーマット及び天井材等の場合は乾燥状態で300〜600g/m2の範囲が好ましい。
【実施例】
【0037】
以下、調製例と、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。なお、下記の例において部及び%はそれぞれ質量部と質量%を示す。
【0038】
[調製例1]
撹拌機、還流冷却器と温度計を取り付けた3Lガラス製容器を用意し、窒素で空気置換を充分に行った。ガラス製容器にイオン交換水1,000部と、エマールO(花王(株)製:ラウリル硫酸ナトリウム)20部と、DKSNL−600(第一工業製薬(株)製:ポリオキシエチレンラウリルエーテル)30部を添加し、撹拌を開始した。
ガラス製容器の内温を80℃まで上昇させ、アクリル酸ブチル580部、アクリル酸エチル300部、アクリロニトリル100部及びアクリル酸20部の混合物と、過硫酸アンモニウム4部と、水50部の混合物を、それぞれ4hr連続追加した。その後、80℃で1hr反応させ、30℃まで冷却し、固形分が49.5%のアクリル酸エステル樹脂系エマルジョンを得た。
【0039】
[調製例2〜4]
調製例1と同様に乳化重合を行って、各種エマルジョンを得た。
【0040】
調製例1〜4の組成及び市販合成樹脂エマルジョンの組成を表1に示す。
【0041】
[調製例5]
ポリリン酸アンモニウム(クラリアント社製:ペコフレームTC204P、平均粒子径8μm)100部と比表面積120m2/gの乾式法シリカを窒素と水蒸気で希釈した状態のジメチルジクロロシランと500℃で接触させ、単位表面積当たりのカーボン換算量6.0〜7.0×10-5g/m3範囲の疎水化処理した疎水性シリカ(疎水化度45、平均粒子径1.6μm)10部をリボン型混合機に入れて1分間高速(1,000rpm)で撹拌混合処理を行った。その処理操作によりシリカで被覆された処理ポリリン酸アンモニウムを得た。この処理ポリリン酸アンモニウムをSEMにより観察したところ、シリカがポリリン酸アンモニウム粒子表面上に密に付着し、被覆されていることが確認できた。
【0042】
[調製例6]
アミノ基含有シリコーンオリゴマーで表面処理したポリリン酸アンモニウム(信越化学工業(株)製:FRX−304、平均粒子径8μm)100部と比表面積120m2/gの乾式法シリカを窒素と水蒸気で希釈した状態のジメチルジクロロシランと500℃で接触させ、単位表面積当たりのカーボン換算量6.0〜7.0×10-5g/m3範囲の疎水化処理した疎水性シリカ(疎水化度45、平均粒子1.6μm)10部をリボン型混合機に入れて1分間高速(1,000rpm)で撹拌混合処理を行った。その処理操作によりシリカで被覆された有機ケイ素樹脂表面処理ポリリン酸アンモニウムを得た。この粒子をSEMにより観察したところ、シリカが有機ケイ素樹脂表面処理ポリリン酸アンモニウム粒子表面上に密に付着し、被覆されていることが確認できた。
【0043】
[調製例7]
ポリリン酸アンモニウム(BUDENHEIM社製:FR CROS S 10、平均粒子径8μm)100部に、直鎖のシリコーンオイル(信越化学工業(株)製:KF−96H)5部、トルエン100部を加え、これらを30分撹拌した後、減圧下でトルエンを除去し、粉砕器で粉砕して、平均粒子径10μmのシリコーン処理ポリリン酸アンモニウムを得た。
【0044】
[実施例1〜7、比較例1〜8]
ステンレス製容器に、調製例1〜4又は市販のエマルジョンを100部添加し、撹拌を開始した。その後、撹拌を続けながら、調製例5〜7又は市販のポリリン酸アンモニウムをラテムルASK(花王(株)製:界面活性剤)を用いて水に分散させた分散液(固形分60%)を規定量添加し、1時間撹拌を行った。その後、イオン交換水を添加して、固形分50±1%に調製し、次に増粘剤ボンコートV(大日本インキ化学工業(株)製:アルカリ増粘型アクリルエマルジョン)と25%アンモニア水を添加して30,000±3,000mPa・s(B型粘度計、25℃)に増粘させてコーティング剤を得た。
コーティング剤の組成を表2及び表3に示す。
【0045】
上記コーティング剤を400g/m2のポリエステル製織物及び700g/m2のポリプロピレン製不織布に、それぞれ規定量塗布し、130℃で5分間乾燥して、供試体を得た。
実施例、比較例で得られた供試体の縫目疲労、難燃性、耐水性、剛軟度、ホルムアルデヒド発生の有無を測定した。ここで、400g/m2のポリエステル製織物から得た供試体は、カーシート用として用い、縫目疲労、難燃性、耐水性、剛軟度、ホルムアルデヒド発生の有無、耐熱性を測定した。結果を表4に示す。一方、700g/m2のポリプロピレン製不織布から得た供試体は、カーマット用として用い、難燃性、耐水性、剛軟度、ホルムアルデヒド発生の有無、耐熱性を測定した。結果を表5に示す。
【0046】
測定方法及び判定基準は、以下の通りである。
1.縫目疲労
巾10cm、長さ10cmの試験片をタテ、ヨコ方向から各々2枚1組で2組とり、試験片の裏側に同じ大きさのスラブウレタンフォーム(密度:0.02g/cm3、厚み:5mm)と裏布(ナイロンスパンボンド不織布:40g/m2)をスラブウレタンフォームが中となるようにして添えたものの複合体2枚の表側を合わせて重ね、1辺の端から1cmの位置をミシン掛けし、タテ、ヨコ各々2組の試験片を作る。試験は、縫目疲労試験機(山口化学産業社製)に取り付けて、荷重3kg重で2,500回繰り返した後に3kg重の荷重を掛けた状態で目盛り付きルーペを用いて縫目疲労を測定する。
ここで、縫目疲労とは、繰り返し疲労によって荷重方向に移動したミシン糸に最も近い布内糸条とミシン糸との距離をさし、0.1mm単位で測定する。2ヶ所の測定の平均値をその試料の縫目疲労とする。
*判定基準
○:移動した距離が2.2mm以下
×:移動した距離が2.2mmを超える
【0047】
2.難燃性
米国自動車安全基準FMVS S−302の試験方法による。
*判定基準
(1)カーシートの場合
○:燃焼距離が38mm以下
×:燃焼距離が38mmを超える
(2)カーマットの場合
○:燃焼距離が38mm以下、燃焼時間が60秒以内、
又は燃焼速度が10cm/分以下
×:燃焼距離が38mmを超え、かつ燃焼時間が60秒を超え、
しかも燃焼速度が10cm/分を超える
【0048】
3.耐水性
コーティング剤塗布面上に直径5mmの水滴を落とし、コーティング剤塗布面にヌメリ感が出るかを調べる。
*判定基準
◎:ヌメリ感無く、塗布面に水滴浸透せず
○:ヌメリ感無し
△:ヌメリ感が少し有る
×:ヌメリ感が強い
【0049】
4.剛軟度(Softness)
JIS L1079(5.17A法)の45度カンチレバー法による。剛軟度が大きい程、供試体は硬く感じられる。
*判定基準
(1)カーシートの場合
○:剛軟度が100以下
×:剛軟度が100を超える
(2)カーマットの場合
○:剛軟度が100を超える
×:剛軟度が100以下
【0050】
5.ホルムアルデヒドの測定
2Lのテドラーバッグ(tedlar bag:ジュポン社の商品名)に50cm2の供試体を入れ、テドラーバッグ内部を窒素置換した後、密封する。このテドラーバッグを65℃の雰囲気中に2Hr放置した後、ガス検知管(ガステック社製:91L)でホルムアルデヒド発生の有無を測定する。
*判定基準
○:ホルムアルデヒドの発生無し
×:ホルムアルデヒドの発生有り
【0051】
6.耐熱性
各種コーティング剤を塗布したポリエステル製織物及びポリプロピレン製不織布を温度150℃で1時間熱処理した後、コーティング表面の変色程度を目視にて評価した。
Aランク:変色無し
Bランク:黄色変化有り
Cランク:著しい黄色変化有り
【0052】
【表1】

備考) St :スチレン
MMA:メタアクリル酸メチルエステル
BA :アクリル酸ブチルエステル
EA :アクリル酸エチルエステル
AN :アクリロニトリル
AA :アクリル酸
GMA:メタアクリル酸グリシジルエステル
【0053】
【表2】

備考) テラージュC−30:チッソ(株)製、メラミン被覆ポリリン酸アンモニウム
テラージュC−60:チッソ(株)製、メラミン・ホルムアルデヒド被覆ポリ
リン酸アンモニウム
【0054】
【表3】

【0055】
【表4】

【0056】
【表5】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
合成樹脂エマルジョンの固形分100質量部に対して、リン及び窒素を含有するノンハロゲン系難燃剤粒子表面を疎水性無機酸化物微粒子で被覆したノンハロゲン系難燃剤の一種又は二種以上を1〜300質量部添加してなることを特徴とするコーティング組成物。
【請求項2】
合成樹脂エマルジョンが、(メタ)アクリル酸エステル樹脂系エマルジョン、スチレン/アクリル酸エステル共重合体系エマルジョン、ウレタン樹脂系エマルジョン、エチレン/酢酸ビニル共重合体系エマルジョン及びゴム系エマルジョンから選ばれる一種又は二種以上である請求項1記載のコーティング組成物。
【請求項3】
リン及び窒素を含有するノンハロゲン系難燃剤粒子が、リン酸グアニジン、リン酸アンモニウム、リン酸メラミン、ポリリン酸アンモニウム、メラミン表面処理ポリリン酸アンモニウム及びケイ素化合物表面処理ポリリン酸アンモニウムから選ばれる一種又は二種以上である請求項1又は2記載のコーティング組成物。
【請求項4】
リン及び窒素を含有するノンハロゲン系難燃剤粒子が、ポリリン酸アンモニウムである請求項3記載のコーティング組成物。
【請求項5】
リン及び窒素を含有するノンハロゲン系難燃剤粒子が、ケイ素化合物で表面を処理したポリリン酸アンモニウムである請求項3記載のコーティング組成物。
【請求項6】
疎水性無機酸化物微粒子が、疎水性のシリカ微粒子であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項記載のコーティング組成物。
【請求項7】
疎水性無機酸化物微粒子で被覆したノンハロゲン系難燃剤の平均粒子径が3〜35μmである請求項1乃至6のいずれか1項記載のコーティング組成物。
【請求項8】
疎水性無機酸化物微粒子の平均粒子径が0.001〜5μmである請求項1乃至7のいずれか1項記載のコーティング組成物。
【請求項9】
請求項1乃至8のいずれか1項に記載された組成物をコーティングした車両内装材。

【公開番号】特開2007−186686(P2007−186686A)
【公開日】平成19年7月26日(2007.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−333063(P2006−333063)
【出願日】平成18年12月11日(2006.12.11)
【出願人】(000226666)日信化学工業株式会社 (40)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】