説明

コーティング適用装置およびコーティング適用方法

【課題】 電子ビーム物理蒸着装置における溶融池とコーティングされる部品との距離を自動制御により一定に保ち、コーティングのばらつきを減少させる装置を提供する。
【解決手段】 電子ビーム物理蒸着装置10のチャンバ12内に配置された部品Pが回転シャフト16によって固定され、セラミックインゴットCからの気化物質Vが蒸着される。装置10は、インゴットCを受けるように構成されたるつぼ18と、るつぼ内にインゴットCを供給するドライブと、インゴットCを融解し気化させる電子ビームガン30を含む。温度センサ32がるつぼ18内の溶融池Mの位置を監視するとともに、制御装置34が検知された溶融池Mの位置に対応してインゴットCの供給速度を自動調節し、溶融池の高さを一定に保つことにより部品に適用されるコーティングのばらつきを減少させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概ね、部品にセラミックコーティングを適用する装置に関する。さらに具体的には、本発明は航空機エンジンに使用されるタービン部品に、例えばサーマルバリアコーティングなどのコーティングを適用する電子ビーム物理蒸着(EB‐PVD)装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電子ビーム物理蒸着法は、一般的にエンジンの高圧タービンセクションに使用される航空機エンジン部品に金属やセラミックのコーティングを適用するように用いられる。コーティングは高温ガス流に対するサーマルバリアを提供し、タービンエンジンがより高いガス経路温度で運転することを可能にして運転効率を向上させる。コーティングの均一性や品質は、サーマルバリアコーティング性能、ひいては航空機エンジン部品の耐久性にとって重要である。
【0003】
電子ビーム物理蒸着法は一般的に真空チャンバ内で行われる。コーティング材料、一般的にセラミックは、インゴットとして固体の形で提供され、円形経路をもつ冷却るつぼ内へと供給される。コーティングされる部品は、るつぼの上方で回転される。電子ビームがセラミックインゴットの露出端を加熱して、るつぼの円形経路内に溜まる溶融池を形成させる。その後材料が溶融池から気化し、気化物質がチャンバを満たし、部品表面上で凝縮してコーティングを形成する。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
部品と溶融池との距離がコーティングの品質に直接影響を及ぼす。したがって、コーティングが部品に均一に適用されるように、るつぼ内の溶融池の位置に関して溶融池の高さが一定であることが重要である。セラミックインゴットは一定の割合では融解しない。したがって、セラミックインゴットの供給速度が変化しない限り、溶融池の高さを一定に保つのは難しい。現行の方法では、溶融池の高さはオペレータによって手動で調節される。オペレータが溶融池の高さを目視で監視し、それに応じて供給速度を調節する。結果的に、コーティング作業間のみならず、オペレータ間でもコーティングのばらつきが存在する。
【0005】
溶融池の高さを一定の値に維持することが可能で、これにより部品‐溶融池間距離を一定に保ちコーティング工程のばらつきを減少させる自動システムが必要である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は部品にコーティングを適用する装置に関し、インゴットを受けるように構成されたるつぼと、るつぼ内にインゴットを供給するドライブ機構と、インゴットの一部を融解させ、溶融池を形成させた後に気化させるエネルギー源と、を含む。センサがるつぼ内の溶融池の位置を監視するとともに制御装置に接続されている。制御装置は溶融池の検知された位置に相関してインゴットの供給速度を変化させる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
図1は、部品Pにコーティングを適用する電子ビーム物理蒸着装置10の略図である。装置10は、密閉されたチャンバ12と、減圧源14と、回転シャフト16と、るつぼ18と、モータ20と、チェーンドライブ22と、ギア24と、スクリュードライブ26と、プラットフォーム28と、電子ビームガン30と、温度センサ32と、制御装置34と、を含んでなる。図示の実施例はセラミックコーティングの応用例を示すが、本発明はこれに限定されないことを理解されたい。
【0008】
チャンバ12内に部品Pが示されており、回転シャフト16によって支持されている。モータ20、チェーンドライブ22、ギア24、スクリュードライブ26、およびプラットフォーム28を含んでなるドライブシステムにより、セラミックインゴットCがるつぼ18内へと上方へ供給される。プラットフォーム28が上方へと運ばれるに従い、セラミックインゴットCをるつぼ18内へと上昇させる。
【0009】
電子ビームガン30は、セラミックインゴットCの上端部に向けられた電子ビームEを発生させ、セラミックインゴットCの一部を融解させてセラミック溶融池Mを形成させる。気化物質Vがセラミック溶融池Mから蒸発して蒸気雲VCを形成し、その後部品P上で凝縮されてこの部品P上にコーティングを形成する。
【0010】
本実施例では、セラミックインゴットCの上端を融解するように電子ビームEが用いられる。しかしながら、溶融池を形成すべくセラミックインゴットを加熱するようにその他の様々なエネルギー源が使用されうることを理解されたい。
【0011】
以下に更に詳しく述べるように、温度センサ32がセラミック溶融池Mを監視するとともに制御装置34に接続されて、るつぼ18内のセラミック溶融池Mの高さを示す信号を送る。また制御装置34がモータ20と接続されて、検知された溶融池高さの関数としてセラミックインゴットCのるつぼ18内への供給速度を制御する。
【0012】
セラミックインゴットCのセラミック溶融池Mからの気化物質Vにより形成されたコーティングはサーマルバリアコーティングである。この一般的な目的は、コーティングされる部品内部への熱流を減少させ(この部品はまた、部品内の内部流路を通流する冷却空気によっても冷却されうる)、これにより部品を高温環境から保護することである。航空機エンジンに使用されるタービンコンポーネントは2500〜3000°Fに達するガス温度にさらされる。エンジンの運転効率を向上させるためには高いガス温度が不可欠である。
【0013】
高い運転温度のため、コーティング材料は低熱伝導率をもつ必要がある。公知の一般的に使用されるセラミック材料は、イットリア安定化ジルコニア(YSZ)である。セラミックコーティングを適用する前に、金属ボンド層などの別の層が部品P上にコーティングされうる。
【0014】
図1の電子ビーム物理蒸着装置には、単一のるつぼ内へと供給されている2段重ねのセラミックインゴットCが示されている。しかしながら、複数のるつぼおよびインゴットを使用する装置が本発明の範囲に含まれることを理解されたい。
【0015】
図2は、図1に示す電子ビーム物理蒸着装置10に用いられる実施例のるつぼの斜視図である。るつぼ18は望ましくは銅でつくられるとともに概ね円筒状であるが、るつぼ18はその他の材料からつくられうるとともにその他の形状がとられうることを理解されたい。るつぼ18は円形経路36を有するとともに、口径38を画定する。口径38はセラミックインゴットCの直径とほぼ等しいもしくは若干大きく、セラミックインゴットCが円形経路36内へと延びる。
【0016】
るつぼ18は、外壁40と、内壁42と、中空内部44(外壁40と内壁42との間の空間を画定する)と、水インレット46と、水アウトレット48と、を有する。インレット46は、冷却水がるつぼ18の中空内部44を通して循環しうるように配置される。アウトレット48は冷却水を中空内部44の外へと移動させるように用いられる。
【0017】
図3は、図1に示す装置に使用されるるつぼの断面図であり、セラミックインゴットCが円形経路36を通してるつぼ18内へと供給されている。図3は、外壁40と、内壁42と、中空内部44を循環する冷却水50と、温度センサ32A〜32Eと、を示す。セラミックインゴットCの上端に電子ビームEが照射されると、インゴットCの一部が融解し、セラミック溶融池Mが形成される。溶融池高さHは、るつぼ18の円形経路36内部におけるセラミック溶融池Mの上面の垂直方向の位置を表す。
【0018】
電子ビームEはセラミックインゴットCの上端の上を前後に移動してインゴットC上にラスタパターンを形成する。電子ビームガン30は、インゴットC上の前後移動に加え、もしくはこれに代えて、インゴットC上に様々なパターンを形成するようにプログラムが可能である。電子ビームEのセラミックインゴットCとの接触によりインゴットCが融解して、セラミック溶融池Mが形成される。図3に示すように、セラミック溶融池Mはるつぼ18の冷却された内壁42と接触するため幾分半月状である。
【0019】
セラミックインゴットCの燃焼速度すなわち融解速度は、ある程度、インゴットC上の電子ビームEのラスタパターンに相関して、あるいは電子ビームガン30が古くなるに従いその出力のばらつきに相関して変化しやすい。セラミックインゴットCの融解速度のばらつきのため、セラミック溶融池Mからの気化物質Vの蒸発速度もまた変化しやすい。蒸発速度が増加すると、溶融池表面(すなわち、溶融池高さH)はるつぼ18内で下に移動する。蒸発速度が減少すると、セラミックインゴットCがるつぼ18内に継続的に供給されるため、溶融池表面はるつぼ18内で上に移動する。溶融池表面が上に移動するか下に移動するかはいずれにせよ、溶融池高さHが変化するため、部品‐溶融池間距離は変化し、したがって部品Pに適用されるコーティングの一貫性が変化してしまう。
【0020】
るつぼ18内の溶融池高さを一定に保つため、インゴットCの供給速度は、インゴットCの融解速度の変動を補償するように継続的に調節されなければならない。溶融池高さHはオペレータにより目視で監視されることが可能で、溶融高さの変化をなくす、もしくは最小限に抑えるべく供給速度を変化させるようにオペレータは必要に応じてモータを調節する。しかしながら、これによりオペレータの間で、あるいは同じオペレータでもコーティング作業間にさえばらつきが生じる。温度センサ32A〜32Eからの信号を用いて、モータ20、ひいては、るつぼ18へのセラミックインゴットCの供給速度を制御する処理を自動化することにより、一定した溶融池高さをより効果的に維持することが可能となる。
【0021】
図3に示す実施例では、温度センサ32A〜32Eは、外壁40を通して内壁42に接触するようにるつぼ18内に差し込まれた複数の熱電対である。熱電対32A〜32Eは内壁42に沿って垂直方向に互いに間隔を介する。各々の熱電対32A〜32Eは内壁42に沿った特定領域の温度を検出する。熱電対32A〜32Eによって検知された温度の差に基づき溶融池高さHが制御装置34によって決定され、モータ20の速度を調節するように用いられることが可能である。
【0022】
この具体的な実施例では、5つの熱電対32A〜32Eが示されている。しかしながら、任意の数の熱電対が本発明の範囲に含まれることを理解されたい。熱電対は、セラミック溶融池Mの深さ分と固体インゴットCとを垂直方向に包含するのに十分な数でなければならず、固体インゴットCとセラミック溶融池Mとの境界領域を測定するために十分に近接した間隔とする必要がある。熱電対の数や用いられる熱電対の間隔は、るつぼ18内に一定した溶融池高さを維持するための制御の限界に依存する。制御限界が厳しくなるに従い、追加の熱電対が必要となる。使用される熱電対の種類により計測される温度精度が決定される。
【0023】
温度センサ32A〜32Eは制御装置34と接続され、この制御装置34は、るつぼ18の内壁42に沿った温度勾配に基づいてセラミック溶融池Mの位置を決定するコンピュータプログラムを備えたコンピュータでもよい。各々のセンサ32A〜32Eの計測温度に基づいて、制御装置34が溶融池高さHを決定する。溶融池高さHをるつぼ18内の垂直方向に一定の位置に保つために制御装置34がモータ20の速度を調節し、るつぼ18内へのセラミックインゴットCの供給速度を変化させる。セラミック溶融池Mから蒸発している気化物質が少ないために溶融池高さHがるつぼ18内で上昇し始めると、制御装置34は供給速度を減少させる。一方、セラミック溶融池Mから蒸発している気化物質が多いために溶融池高さHがるつぼ18内で下降し始めていることを制御装置34が特定すると、制御装置34は供給速度を増加させる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の溶融池高さ制御を含む、電子ビーム物理蒸着法を用いたコーティング適用装置の図。
【図2】図1に示す装置に用いられる実施例のるつぼの斜視図。
【図3】図1の電子ビーム物理蒸着装置に用いられるるつぼおよびインゴットを示す断面図。
【符号の説明】
【0025】
10…電子ビーム物理蒸着装置
12…チャンバ
16…回転シャフト
18…るつぼ
20…モータ
30…電子ビームガン
32…温度センサ
34…制御装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インゴットを受けるように構成されたるつぼと、
前記るつぼ内に前記インゴットを所定の供給速度で供給するドライブ機構と、
前記インゴットを加熱し、前記インゴットの一部を融解させ、溶融池を形成させた後に蒸発させる加熱手段と、
前記るつぼ内の前記溶融池の位置を監視する複数のセンサと、
前記溶融池の前記検知された位置に相関して前記供給速度を制御する制御装置と、
を備えてなる部品へのコーティング適用装置。
【請求項2】
前記るつぼ内の前記溶融池の位置が実質的に一定となるように前記制御装置が前記供給速度を変化させることを特徴とする請求項1に記載のコーティング適用装置。
【請求項3】
前記加熱手段が、前記インゴットを加熱する電子ビームを発生させる電子ガンであることを特徴とする請求項1に記載のコーティング適用装置。
【請求項4】
前記複数のセンサが、複数の熱電対であることを特徴とする請求項1に記載のコーティング適用装置。
【請求項5】
前記複数の熱電対が、前記るつぼ内にあるとともに前記るつぼの内壁に近接することを特徴とする請求項4に記載のコーティング適用装置。
【請求項6】
前記ドライブ機構が、前記インゴットを前記るつぼ内へと供給するように上昇させるスクリュードライブに連結されたモータであることを特徴とする請求項1に記載のコーティング適用装置。
【請求項7】
前記制御装置が、前記るつぼの内壁に沿った温度勾配に基づいて前記るつぼ内の前記溶融池の位置を測定するコンピュータプログラムを備えたコンピュータであることを特徴とする請求項1に記載のコーティング適用装置。
【請求項8】
前記るつぼが円形経路をもち、前記インゴットが前記円形経路を通して供給されることを特徴とする請求項1に記載のコーティング適用装置。
【請求項9】
前記るつぼが銅から作られることを特徴とする請求項1に記載のコーティング適用装置。
【請求項10】
前記るつぼの外壁と内壁との間の内部空間を通して冷却水が循環されることを特徴とする請求項1に記載のコーティング適用装置。
【請求項11】
インゴットを受けるように構成されたるつぼと、
前記るつぼ内に前記インゴットを所定の供給速度で供給するドライブ機構と、
前記インゴットに接触する電子ビームを発生させ、前記インゴットの一部を融解させ、溶融池を形成させた後に蒸発させる電子ビームガンと、
前記溶融池および前記インゴットに沿った様々な地点で温度を測定する温度センサと、
前記ドライブ機構および前記温度センサに接続されるとともに、前記温度に基づいて溶融池高さを決定し、前記溶融池高さに相関して前記ドライブを制御する制御装置と、
を備え、
前記溶融池高さによって、前記るつぼの内壁に沿った垂直方向の溶融池の位置が画定される部品へのコーティング適用装置。
【請求項12】
前記溶融池高さが実質的に一定に保たれるように前記制御装置が前記インゴットの供給速度を調節するように設定されることを特徴とする請求項11に記載のコーティング適用装置。
【請求項13】
前記温度センサが、前記るつぼの内壁に接触するように前記るつぼの外壁を通して差し込まれた複数の熱電対であることを特徴とする請求項11に記載のコーティング適用装置。
【請求項14】
前記ドライブ機構がモータを含み、前記制御装置が前記溶融池高さに相関して前記モータの速度を制御することを特徴とする請求項11に記載のコーティング適用装置。
【請求項15】
インゴットをるつぼ内へと供給するステップと、
溶融池を形成した後に蒸発するように前記インゴットの一部を加熱するステップと、
前記溶融池から蒸発する気化物質で部品をコーティングするステップと、
前記るつぼ内の温度勾配を検知するステップと、
前記るつぼ内の前記温度勾配に基づき、前記るつぼ内への前記インゴットの供給速度を制御するステップと、
を備えてなる部品へのコーティング適用方法。
【請求項16】
前記るつぼの内壁と外壁との間を通流する循環水を用いて前記るつぼを冷却するステップをさらに備えることを特徴とする請求項15に記載のコーティング適用方法。
【請求項17】
前記るつぼ内の温度勾配の検知が複数の熱電対によって行われることを特徴とする請求項15に記載のコーティング適用方法。
【請求項18】
前記るつぼ内の前記溶融池の位置を前記温度勾配に基づいて測定する制御装置に、前記温度勾配を伝達するステップをさらに備えることを特徴とする請求項15に記載のコーティング適用方法。
【請求項19】
前記インゴットの前記供給速度が変化するとともに前記溶融池の位置を実質的に一定に保つように制御されることを特徴とする請求項18に記載のコーティング適用方法。
【請求項20】
前記インゴットの一部の加熱が電子ビームにより実行されることを特徴とする請求項15に記載のコーティング適用方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−169787(P2007−169787A)
【公開日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2006−342686(P2006−342686)
【出願日】平成18年12月20日(2006.12.20)
【出願人】(590005449)ユナイテッド テクノロジーズ コーポレイション (581)
【氏名又は名称原語表記】UNITED TECHNOLOGIES CORPORATION
【Fターム(参考)】