説明

コーヒーまたは茶の抽出方法

【課題】コーヒーや茶を工業レベルで製造する際、90℃以上の温水で抽出される事が多い。90℃よりも低温で抽出すると抽出液の香りが改善されることは従来より知られているが、風味の良いコーヒー又は茶を抽出する為に抽出温水の温度を下げると抽出速度、抽出効率の低下を招き生産上好ましくない。本発明は生産効率の低下を招くことなく風味の良いコーヒーまたは茶を効率よく抽出する方法を提供することを課題とする。
【解決手段】コーヒー又は茶を抽出する為に平均エステル化度が2以下であるポリグリセリン脂肪酸エステルもしくはショ糖脂肪酸エステル存在下で30℃〜90℃の温水を用いることで上記課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はコーヒーまたは茶の抽出方法に関するものである。詳しくは平均エステル化度が2以下であるポリグリセリン脂肪酸エステルまたはショ糖脂肪酸エステル存在下で30℃〜90℃の温水を用いて風味の良いコーヒーまたは茶を効率よく抽出する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
コーヒーや茶は最も普及している飲料のひとつである。一般家庭や喫茶店で楽しむことを始めとして、缶、ペットボトル、紙パック、瓶、など様々な形態にて販売流通されており、我々の生活に無くてはならない飲料となっている。
コーヒーや茶を工業レベルで製造される際、90℃以上の温水で抽出される事が多い。90℃よりも低温で抽出すると抽出液の香りが改善されることは従来より知られているが、抽出速度及び抽出効率の低下が認められることより、工業的に90℃以下での抽出は事実上行われていない。
これら製造上の問題を解決する方法として、焙煎したコーヒー豆に対して水ないし加温水を加えて抽出し、コーヒー飲料を製造する方法であって、前記コーヒー豆を水と混合し、湿潤状態で粉砕したものを抽出器に充填し、低温の抽出温度にて抽出して第1の抽出液を製造する第1抽出工程、第1の抽出液を得た後の前記コーヒー豆を中温の抽出温度にて抽出して第2の抽出液を製造する第2抽出工程、及び第2の抽出液を得た後の前記コーヒー豆を高温の抽出温度にて抽出して第3の抽出液を製造する第3抽出工程を有するコーヒー飲料の製造方法が特開2007−300807公報に開示されている(例えば、特許文献1参照。)。しかしながらこの方法では収率が22%と低く、工業レベルにおいて効率がよい製造方法であるとはいえない。
コーヒー豆を所望の粒度に挽いた抽出原料に、所定の抽出時間内に所定量の熱湯を注ぎコーヒー抽出液を抽出する際に、少なくとも抽出初期である抽出時間の前半1/3の期間内には、90〜80℃の熱湯を抽出原料に注ぐと共に、抽出時間内の全熱湯量を調整し、得られるコーヒー抽出液中の可溶性固形分の濃度を1〜2重量%とすることを特徴とするコーヒー抽出液の製造方法が特開平8−252065に開示されている(例えば、特許文献2参照。)。しかしながら、この方法は製造を考える際、工程が複雑であり実用的ではない。また、抽出に要する時間が通常より長くなっており、製造効率的にはマイナスであると言わざるを得ない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−300807号公報
【特許文献2】特開平8−252065号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
風味の良いコーヒー又は茶を抽出する為抽出温水の温度を下げると抽出速度、抽出効率の低下を招き生産上好ましくない。本発明は生産効率の低下を招くことなく風味の良いコーヒーまたは茶を効率よく抽出する方法を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討する中で、ポリグリセリン脂肪酸エステルまたはショ糖脂肪酸エステル存在下の温水で抽出することで上記課題を解決できることを見出した。
【0006】
即ち、本発明は平均エステル化度が2以下であるポリグリセリン脂肪酸エステルまたはショ糖脂肪酸エステル存在下で30℃〜90℃の温水を用いて、特殊な製造設備などを用いず風味の良いコーヒーまたは茶を迅速且つ高効率にて抽出する方法に関する。
【発明の効果】
【0007】
本発明の方法によりコーヒー又は茶は効率よく抽出され、且つ風味も良好であった。また本発明の方法によるコーヒー又は茶抽出液を用いた飲料は風味よく、且つ安定性も良好であった。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の対象となるコーヒーまたは茶とは工業的に使用されるものであれば特に限定されるものではないが、例えばコーヒー豆はアラビカ種、ロブスタ種、リベリカ種等があり、これらを単独で、あるいは複数ブレンドして使用することが出来る。また、コーヒー豆は粉砕して使用されるが、この粉砕条件についても特に制限されるものではない。
【0009】
コーヒー豆の焙煎条件については特に制限されるものではない。コーヒー豆は抽出される際焙煎されるが、このときの焙煎度合いをL値として管理される。L値とは色差計による測定値であり、L値が低いもの(色が濃いもの)は深煎り、L値が高いもの(色が薄いもの)は浅煎りとなる。本発明の技術を用いれば何れのL値であっても迅速且つ高効率にて風味の良いコーヒー抽出することが可能であるが、L値が低いコーヒー豆、特にL値22以下のコーヒー豆の方がより効率が高い傾向にあるため好ましい。茶については例えば煎茶、番茶、玉露茶、ほうじ茶等の緑茶、ウーロン茶、紅茶等の醗酵茶、麦茶などが挙げられる。
【0010】
本発明の対象となるポリグリセリン脂肪酸エステルについては一般的に使用されるものであれば特に制限を受けるものではない。ポリグリセリン脂肪酸エステルとはグリセリンが重合したポリグリセリンと脂肪酸をエステル化することからなり、ポリグリセリンと脂肪酸とのエステル化は、当該分野で公知の方法に従って行われる。例えばアルカリ触媒下、酸触媒下、あるいは無触媒下にて、常圧もしくは減圧下エステル化することができる。また、ポリグリセリンと脂肪酸の混合量を変更することにより種々の性質をもつポリグリセリン脂肪酸エステルを調製することができる。例えば、親水性の界面活性剤に使用するためのポリグリセリン脂肪酸エステルを得る場合、ポリグリセリンの水酸基価と脂肪酸の分子量から計算により等モルになるように重量を計算してポリグリセリンと脂肪酸を仕込めばよく、親油性の界面活性剤に使用するためのポリグリセリン脂肪酸エステルを得る場合、脂肪酸のモル数を増加させればよい。得られたポリグリセリン脂肪酸エステルは使用される製品の使用上の要求によってさらに精製してもよい。精製の方法は公知のいかなる方法でもよく特に限定するものではない。たとえば、活性炭や活性白土などにて吸着処理したり、水蒸気、窒素などをキャリアーガスとして用いて減圧下脱臭処理を行ったり、あるいは酸やアルカリを用いて洗浄を行ったり、分子蒸留を行ったりして精製してもよい。
【0011】
ポリグリセリン脂肪酸エステルの構成ポリグリセリンの重合度については特に制限を受けるものではないが、平均重合度が2〜20、好ましくは4〜10、更に好ましくは10である。
【0012】
ポリグリセリン脂肪酸エステル又はショ糖脂肪酸エステルの構成脂肪酸はラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸から選ばれる1種又は2種以上であることが好ましく、ミリスリン酸、パルミチン酸、ステアリン酸から選ばれる1種又は2種以上であることが更に好ましい。
【0013】
本発明の対象となるポリグリセリン脂肪酸エステルまたはショ糖脂肪酸エステルは、モル平均エステル化度が2.0以下であることが好ましく、1.5以下であれば更に好ましい。モル平均エステル化度は、ポリグリセリン脂肪酸エステルまたはショ糖脂肪酸エステルのモル平均のエステル化度を表す。純度100%の場合、モノエステルでは1、ジエステルでは2となる。混合物の場合、その重量比による平均がモル平均エステル化度となる。例えばエステル化度1のポリグリセリン脂肪酸エステルが50重量%、エステル化度2ポリグリセリン脂肪酸エステルが50重量%の構成である場合、平均エステル化度はその重量平均の1.5となる。
【0014】
本発明の対象となるポリグリセリン脂肪酸エステルまたはショ糖脂肪酸エステルは、DSC(示差走査熱量計)昇温時吸熱ピークが50℃以下であることが好ましく、45℃以下であれば更に好ましい。
【0015】
本発明におけるポリグリセリン脂肪酸エステルまたはショ糖脂肪酸エステルの使用方法は原料を抽出する際に存在していれば特に制限されるものではない。一例として、予め抽出原料に添加しておき、水または温水を加えて抽出する方法、予めポリグリセリン脂肪酸エステルまたはショ糖脂肪酸エステルを温水に加えた水溶液を作り、原料を抽出する方法が挙げられる。
【0016】
本発明の対象となるポリグリセリン脂肪酸エステルまたはショ糖脂肪酸エステルの使用量については特に制限されるものではない。ポリグリセリン脂肪酸エステルまたはショ糖脂肪酸エステルの使用される量は抽出される方法によって異なっており、予め抽出原料に添加される方法であれば抽出原料に対し0.01重量%〜5重量%が好ましく、0.05重量%〜1重量%であれば更に好ましい。0.01重量%以下であれば望まれる効果は得られず5重量%以上であれば風味的に好ましくない。予め温水に添加した水溶液を作る場合は0.001重量%〜0.5重量%が好ましく、0.005重量〜0.1重量%であれば更に好ましい。0.001重量%以下であれば望まれる効果は得られず0.5重量%以上であれば風味的に好ましくない。
【0017】
本発明におけるコーヒーまたは茶の抽出は30℃〜90℃の温水、好ましくは40℃〜90℃の温水、更に好ましくは40℃〜80℃の温水で行うことができる。
【0018】
このようにして得られたコーヒー又は茶抽出液は様々な分野に応用することが出来る。例えば缶、ペットボトル、紙パック、瓶等に充填した密封容器飲料、乾燥させたインスタントコーヒーやインスタントティー、常温または冷凍流通されるエキス等が挙げられる。
【0019】
本発明のコーヒーまたは茶を抽出する方法は、効果を高める目的にて他の乳化剤、安定剤、有機酸及び/又はその塩類を併用しても良い。乳化剤としてモノグリセリド、ポリグリセリン脂肪酸エステル(ただし、本発明のポリグリセリン脂肪酸エステルを除く)、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル(ただし、本発明のショ糖脂肪酸エステルを除く)、ソルビタン酸脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、レシチン、リゾレシチン、ステアロイル乳酸カルシウム、ポリソルベート、ユッカ抽出物、サポニン等があげられる。脂肪酸エステルを構成する脂肪酸は炭素数6〜22の飽和または不飽和の脂肪酸であり、例えばカプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、ベヘン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキドン酸、エルカ酸などがあげられる。安定剤としてカラギナン(κカラギーナン、ιカラギーナン、λカラギーナン)、寒天、ジェランガム、ネイティブジェランガム、カルボキシメチルセルロースナトリウム、アルギン酸ナトリウム、グルコマンナン、アルギン酸プロピレングリコールエステル、ローカストビーンガム、グアーガム、タラガム、タマリンドガム、キサンタンガム、ペクチン、結晶セルロース、食物繊維(難消化性デキストリン、ポリデキストロース、酵素分解グアーガム、水溶性大豆多糖類等)、澱粉、加工澱粉等があげられる。有機酸及び/又はその塩類としてはリン酸、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム、クエン酸、クエン酸ナトリウム、クエン酸カリウム、コハク酸、コハク酸ナトリウム、乳酸、乳酸ナトリウム、塩酸、塩酸ナトリウム、アスコルビン酸ナトリウム、エリソルビン酸ナトリウム、グルコン酸、グルコン酸ナトリウム、グルコン酸カリウム、フィチン酸。炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム等が挙げられる。
以下、本発明の態様を実施例によりさらに詳細に記載し開示するが、この実施例は、単なる本発明の例示であり、何ら限定を意味するものではない。
【実施例】
【0020】
実施例1〜9、比較例1〜5
粉砕したコーヒー豆(L値22)100gをネルに入れ、表1に記載された乳化剤溶液にて抽出を行った。抽出液がコーヒー豆の10倍量となったところで抽出は終了とした。
【0021】
【表1】

【0022】
〔風味の基準〕
◎:非常に良い
○:良い
△:普通
△×:やや悪い
×:悪い
評価の結果を表1に示す。
表1より本願技術により抽出を行ったコーヒー抽出液は抽出効率は高く、抽出時間も短縮でき、且つ良好な風味を有していた。
【0023】
実施例10〜12、比較例6〜8
紅茶葉100gをビーカーに入れ、表2に記載された乳化剤溶液2500gを加え、30分間攪拌を行った。抽出後300メッシュの篩を通して茶葉を取り除き抽出液とした。
【0024】
【表2】

【0025】
〔風味の基準〕
◎:非常に良い
○:良い
△:普通
△×:やや悪い
×:悪い
評価の結果を表2に示す。
表2より本願技術により抽出を行った紅茶抽出液は抽出効率は高く、抽出時間も短縮でき、且つ良好な風味を有していた。
【0026】
試験例1
実施例1〜9及び比較例1〜5にて得られたコーヒー抽出液:300g、牛乳:150g、グラニュー糖:60g、重曹:1.3g、ショ糖脂肪酸エステル(リョ−トーP−1670):0.5g、及びイオン交換水を加えて総量を1000gとした。調合されたコーヒー液を65℃まで加熱し、ホモジナイザーにて15MPaの圧力で均質化後、容器に充填して121℃、30分間殺菌することによりコーヒー飲料を得た。
【0027】
【表3】

【0028】
〔風味、クリーミング発生、沈澱発生の基準〕
◎:非常に良い
○:良い
△:普通
△×:やや悪い
×:悪い
評価の結果を表3に示す。
表3より本願技術により抽出を行ったコーヒー抽出液を用いたコーヒー飲料は風味よく、且つクリーミング、沈殿が少ない良好な安定性を示した。
【0029】
試験例2
実施例10〜12及び比較例6〜8にて得られた紅茶抽出液:200g、牛乳:250g、グラニュー糖:60g、クエン酸Na:0.5g、ショ糖脂肪酸エステル(リョ−トーP−1670):0.5g、及びイオン交換水を加えて総量を1000gとした。調合されたコーヒー液を65℃まで加熱し、ホモジナイザーにて15MPaの圧力で均質化後、UHT殺菌機にて143℃、30秒間殺菌し、容器に充填して紅茶飲料を得た。
【0030】
【表4】

【0031】
〔風味、クリーミング発生、沈澱発生の基準〕
◎:非常に良い
○:良い
△:普通
△×:やや悪い
×:悪い
評価の結果を表4に示す。
表4より本願技術により抽出を行った紅茶抽出液を用いた紅茶飲料は風味よく、且つクリーミング、沈殿が少ない良好な安定性を示した。
【産業上の利用可能性】
【0032】
以上本発明により、生産効率の低下を招くことなく風味の良いコーヒーまたは茶を効率よく抽出する方法を提供することが可能となり、産業上貢献大である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均エステル化度が2以下であるポリグリセリン脂肪酸エステルもしくはショ糖脂肪酸エステル存在下で30℃〜90℃の温水を用いることを特徴とする風味の良いコーヒーまたは茶の抽出方法。
【請求項2】
ポリグリセリン脂肪酸エステルもしくはショ糖脂肪酸エステルの構成脂肪酸がラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸から選ばれる1種または2種以上である請求項1記載の抽出方法。
【請求項3】
請求項1または2記載のポリグリセリン脂肪酸エステルもしくはショ糖脂肪酸エステルのDSCにおける昇温時吸熱ピーク温度が50℃以下であることを特徴とする請求項1または2記載の抽出方法。
【請求項4】
請求項1〜3いずれか記載の抽出方法によって得られた抽出液を含有する飲料