説明

ゴキブリ殺虫剤

【課題】
本発明は、幼若ホルモン類縁物質として得られる新規なゴキブリ殺虫有効成分を用いてゴキブリを完全に殺虫駆除し得る著効を有する殺虫剤を提供することを課題とするものである。
【解決手段】
幼若ホルモン類縁物質であるファルネソールを新規なゴキブリ殺虫有効成分とし、液体担体、溶解助剤、及び噴射剤を混合することによって、ゴキブリに対して噴霧して殺虫することができる、優れたゴキブリ殺虫剤を、解決手段とするものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特にゴキブリを駆除するための、新規な有効成分を含有する殺虫剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、殺虫剤において、幼若ホルモンを利用したものが公知であり、例えば、幼若ホルモンとして、ピリプロキシフェン、フェノキシカルブ、メソプレン、4−クロロー2−(2−クロロー2−メチルプロピル)−5−(6−ヨード−3−ピリジルメトキシ)ピリダジン−3(2H)−オン又はヒドロプレンを用い、5−アミノー3−シアノー1−(2,6−ジクロロー4−トリフルオロメチルフェニル)−4−トリフルオロメチルスルフィニルピラゾールとの混合物を有効成分として使用するもの(例えば、特許文献1参照。)が公知である。
【0003】
しかしながら、上記発明に係る殺虫剤は、合成品である幼若ホルモンとともに合成材料を更に使用することから、自然環境に対してよいとは決していえないものである。
【0004】
また、一方で、ゴキブリが赤痢菌、チフス菌、コレラ菌、ポリオウイルス等の病原体を媒介し、腸炎や食中毒等を引き起こす原因となることからすると、ゴキブリの防除であっても、単にゴキブリを忌避させるのではなく、完全に殺虫する効力を有することが必要である。
【0005】
そして、ゴキブリに対して噴射することによって完全に殺虫する効力を有することができた上で、ゴキブリがその場にいない場合には、散布することによって、ゴキブリを忌避する効力を併せ持っていれば、更に便利で都合が良いものとなる。
【0006】
このため、本出願人は、特にゴキブリの殺虫に適した幼若ホルモン及びその類縁物質について研究を行った。ここで、前記幼若ホルモンとは、脱皮ホルモンとともに幼虫脱皮を起こさせ、幼若ホルモンの分泌が停止して脱皮ホルモンのみの存在下で蛹化、成虫化を生じるもので、昆虫類の幼虫期の発育に大きく作用するホルモンである。この幼若ホルモンを多量に付与することで、いつまでも幼虫の状態が続いたり、変態異常を生じて死ぬことが知られている。幼若ホルモン及びその類縁物質としては、非環式セスキテルペン骨格を含むもの、複素環を有するもの等多岐にわたり、昆虫類に対する生理活性は、昆虫の種類、僅かな官能基の差異や分子量、立体配座等によって大きく異なるものである。
【0007】
そして、本出願人は、公知な種々の幼若ホルモン及びその類縁物質について試行を重ねる中で、チャイロコメノゴミムシダマシの糞から抽出単離され、該チャイロコメノゴミムシダマシの奇形の発生や成長障害について弱いながらも活性な成分が開示されていたことから(非特許文献1参照。)、当該幼若活性成分についても研究し、ゴキブリの殺虫試験等を行った結果、当該抽出単離された成分が、ゴキブリの殺虫について非常に有用であることを見出したのである。
【0008】
【特許文献1】特開2003−95827号公報
【非特許文献1】生理活性天然物化学第2版(東京大学出版会)第159頁第17行乃至第23行
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、特にゴキブリを完全に殺虫し得る著効を有する殺虫剤を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、ファルネソールを有効成分として含有するゴキブリ殺虫剤を、課題を解決するための手段とする。
【発明の効果】
【0011】
請求項1に係る発明によれば、新規なゴキブリ殺虫成分であるファルネソールを用いることによって、ゴキブリに対する優れた生理活性を利用して極めて強力な殺虫力を発揮することができる。
【0012】
請求項2に係る発明によれば、液体担体がファルネソールの溶解助剤を含有する構成とすることによって、薬液の懸濁化や層分離を生じずに、安定した状態で、殺虫剤として使用することができる。
【0013】
請求項3に係る発明によれば、メチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコールからなる群から選ばれる一種以上のアルコールを溶解助剤とすることで、薬液の懸濁化や層分離を生じずに、安定した状態で、殺虫剤として使用することができる。
【0014】
また、請求項4に係る発明によれば、ファルネソールによる非常に強力な殺虫力を得るとともに、界面活性剤の添加によってファルネソールの濃度を低減することができることから、製造コストを低減し、安価で優れた殺虫剤を提供することができる。
【0015】
さらに、請求項5に示す発明によれば、当該殺虫具からゴキブリに対して最も効果的な液体噴射を実現するに際して、有効成分であるファルネソールによってゴキブリを速やかに殺虫することはもとより、溶解助剤である低級アルコールが、その揮発性の高さによって、液体噴射後速やかに、薬液の揮発を促し、駆除後もべたつきにくいものとすることでき、一般家庭等においても非常に使いやすいものとすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明は、幼若ホルモンの類縁物質であるファルネソールを新規な殺虫有効成分として、アルコール水溶液を溶解助剤を含む液体担体としたゴキブリ用の殺虫剤とすることで、ゴキブリに対して使用することにより、確実に殺虫することのできるゴキブリ殺虫剤と、該ゴキブリ殺虫剤を噴射し、少量の噴射でゴキブリを殺虫するゴキブリ殺虫具を、提供する目的を達成した。
【実施例】
【0017】
(試験1)
以下に、本発明に係るファルネソールを含有する殺虫剤に対して行った試験について示す。尚、ファルネソール単体では水に対して不溶であることから、溶解助剤を含む液体担体であるアルコール水溶液に対して、ファルネソールを溶解している。また、本実施例ではアルコールとしてエチルアルコールを使用している。
【0018】
試験方法としては、容積50mlビーカーに供試虫(チャバネゴキブリ)を一匹入れ、ファルネソールを含有するエチルアルコール水溶液とした薬液0.5mlを供試虫に滴下した後、直ちに別容器に移し、5分以内の死亡の有無を確認した。薬液中のファルネソール濃度とエチルアルコール濃度とを変化させて行い、上記条件で、雄5匹、雌5匹を使用して夫々行い、死亡率を算出した。
【表1】

【0019】
先ず、ファルネソールを全く含有しない場合では、溶解助剤であるエチルアルコールの濃度が40%で、40%の死亡率、エチルアルコールの濃度が80%の場合には死亡率80%、エチルアルコール濃度が100%即ち、溶解助剤が液体担体を兼ねる場合には死亡率100%となり、エチルアルコールの濃度上昇とともにおおむね死亡率も上昇し、エチルアルコールのみでも高濃度の場合には、高い殺虫効果が認められた。これは、公知のアルコールの殺虫特性である。
【0020】
そして、上記のように死亡率40%となる十分な死亡率を発揮しない40%エチルアルコール溶液に対して、ファルネソールを0.3重量%含有する場合には60%の殺虫率、ファルネソールを0.5重量%含有する場合には100%の殺虫率を得ることができた。
【0021】
このことから、溶解助剤であるエチルアルコールを含む水溶液に対して、相対的に極めて僅かな量のファルネソールを添加することによって、極めて高い殺虫効果を得られることが判明した。
【0022】
(試験2)
次に、幼若ホルモンの類縁物質であるファルネソールと、一般的なセスキテルペン類である、β―ファルネセン、カリオフィレンアルコール、カリオフィレン、ロンギフォレンとの殺虫効果比較試験を行った。
【0023】
試験方法としては、容積50mlのビーカーに供試虫であるチャバネゴキブリを一匹入れ、殺虫成分として、ファルネソール、β―ファルネセン、カリオフィレンアルコール、カリオフィレン、ロンギフォレンの夫々について、0.5重量%濃度とした40重量%エチルアルコール水溶液0.5mlを、供試虫に滴下した。直ちに別容器に移し、5分以内の死亡の有無を確認した。試験は、雄5匹、雌5匹について、夫々行い死亡率を算出した。結果を以下、表2に示す。
【表2】

【0024】
以上の結果から明らかなように、ファルネソールの殺虫効果は一般的なセスキテルペン類と比較して、極めて高く、セスキテルペンアルコールであるカリオフィレンアルコールと比較した場合でも、2倍の死亡率を確認することができ、非常に殺虫力が高いことが判明した。
【0025】
(試験3)
更に、ファルネソールの異性体であるネロリドール、植物油であるエレミ油及びベチバー油を夫々有効物質として用いた試験として、容積50mlのビーカーに供試虫を一匹入れ、前記有効物質0.5重量%濃度としたエチルアルコール40重量%水溶液0.5mlを供試虫であるチャバネゴキブリに滴下した後、直ちに別容器に移し、5分以内の死亡の有無を確認した。試験は、雄5匹、雌5匹について、夫々行い死亡率を算出した。結果を以下、表3に示す。
【表3】

【0026】
以上の結果より、幼若ホルモンとしての特性を示すファルネソールは、ファルネソールの異性体や、植物油等と比べ、非常に優れたゴキブリに対する殺虫効果を発揮することが判明した。
【0027】
(試験4)
次に、ファルネソールを殺虫成分として、メチルアルコール、プロピルアルコールを液体担体に含有させて使用した場合について、試験を行った。
試験方法としては、容積50mlビーカーに供試虫を一匹入れ、ファルネソール0.5重量%を含有するメチルアルコール40重量%水溶液、及び、ファルネソール0.5重量%を含有するプロピルアルコール40重量%水溶液とした薬液の夫々について、0.5mlを供試虫に滴下した後、直ちに別容器に移し、5分以内の死亡の有無を確認した。薬液中のファルネソール濃度とエチルアルコール濃度とを変化させて行い、上記条件で、雄5匹、雌5匹を使用して夫々行い、死亡率を算出した。供試虫は、チャバネゴキブリ、ワモンゴキブリについて夫々行った。結果を以下表4に示す。
【表4】

【0028】
上記表4に示すように、ファルネソール0.5重量%を含有するメチルアルコール40重量%水溶液、及び、ファルネソール0.5重量%を含有するプロピルアルコール40重量%水溶液のいずれの場合についても、チャバネゴキブリ、ワモンゴキブリの双方について、100%の死亡率を得ることができた。
【0029】
以上のように、アルコールとしては、上記実施例で開示したエチルアルコールに限らず、一価低級アルコールであるメチルアルコール、プロピルアルコールを用いた場合の有効性について確認できた。尚、本発明においては、他のアルコール類、ケトン類、炭化水素類、エステル類、エーテル類においても、ファルネソールの溶解助剤として利用可能なものがあると推察される。また、本実施例におけるエチルアルコールは、それ自体が公知の殺虫特性を有するとともに、人体や環境に対する影響、経済性等の総合的な観点からみても、非常に有用である。
【0030】
以上、試験1乃至試験4によれば、本発明に係るゴキブリ殺虫剤は、ファルネソールを有効成分として用いることによって、殺虫剤自体の安全性を確保しつつ、極めて強力な殺虫力を発揮することができることが確認できた。
【0031】
また、液体担体に対して、種々の公知な界面活性剤を、添加剤として、必要に応じて使用することができる。界面活性剤は、ゴキブリ殺虫に有効であること自体は、一般的に知られており、天然に存在し人体に影響を与えない界面活性剤を本発明に係るゴキブリ殺虫剤に対して更に添加することで、人体や環境に影響の少ないゴキブリ殺虫剤の性質を確保することができるとともに、ゴキブリ殺虫剤の製造コストを大幅に低減することができる。
【0032】
このことから、次に、界面活性剤を併用した場合について、以下に示す試験5を行い、その有用性について検討した。
【0033】
(試験5)
ファルネソールを液体担体である水及び溶解助剤であるエチルアルコールと混合してなる40重量%エチルアルコール水溶液に対して、界面活性剤として、オレイン酸カリウム(日本油脂株式会社製ノンサールOK−1)、脂肪酸アルカノールアミド(ヤシ油脂肪酸ジエタノールアミド(第一工業製薬株式会社製ダイヤノールCDE)、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート(第一工業製薬株式会社製ソルゲンTW−80)、ポリオキシエチレンアルキルエーテル(松本油脂製薬株式会社製アクチノールF−12)を夫々添加して液剤を調製した。
【0034】
容積50mlのビーカーに供試虫(チャバネゴキブリ)を一匹入れ、ファルネソールを含有するエチルアルコール水溶液とした薬液0.5mlを供試虫に滴下した後、直ちに別容器に移し、5分以内の死亡の有無を確認した。試験は、雄5匹、雌5匹について、夫々行い死亡率を算出した。
【表5】

【0035】
以上の結果に示すように、40重量%エチルアルコール水溶液中において、ファルネソールの濃度が0.5重量%未満であっても、界面活性剤の使用により十分な殺虫力を発揮できることが明確となった。具体的には、オレイン酸カリウム、脂肪酸アルカノールアミド、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレートのいずれにおいても、夫々ファルネソール濃度が0.3重量%でも、3.0重量%添加することで、100%の死亡率を得ることができ、また、脂肪酸アルカノールアミド、ポリオキシエチレンアルキルエーテルについては、1.0重量%程度の低濃度であってもオレイン酸カリウムと略同等かそれ以上の殺虫力を有することが明らかとなった。
【0036】
以下に、オレイン酸カリウムとファルネソールの濃度を変化させた場合の死亡率について、詳細に示す。
【表6】

【0037】
以上のように、オレイン酸カリウムを用いた場合には、40重量%エチルアルコール水溶液中、ファルネソール濃度0.2%以上、且つオレイン酸カリウム1.0%以上とした場合、及び、ファルネソール濃度0.1%以上、且つオレイン酸カリウム3.0%以上とした場合に、100%の死亡率を得ることができた。
【0038】
上記結果より、40重量%エチルアルコール水溶液中においてファルネソール含有量が0.2重量%以上となる本殺虫剤中に、界面活性剤として、オレイン酸カリウムが1.0重量%以上の含有率で含まれる場合は、特に有用なゴキブリ殺虫剤とすることができることが判明した。
【0039】
また、当該40重量%エチルアルコール水溶液中では、ファルネソール濃度が0.2重量%乃至0.25重量%程度、オレイン酸カリウム濃度が1.0重量%乃至2.5重量%程度の含有率となる処方とすることによって、ゴキブリに対して著効を有するとともに、非常に製造コストを低減した殺虫剤とすることができる。
【0040】
以上のように、界面活性剤を配合することで、各構成成分のみの効果と比べて殺虫力を高めることができ、更には、ファルネソールの配合比を低く押えることでより安価なゴキブリ殺虫剤とすることができ、殺虫力、経済性において非常に優れた殺虫剤を提供することが可能である。
【0041】
(試験6:準実地試験)
次に、準実地試験として、ファルネソール、オレイン酸カリウムを含有するエタノール40重量%のゴキブリ殺虫薬液において、各成分を変化させた処方で調製し、ゴキブリ殺虫薬液を300mlのハンドスプレーに充填し、幅約23cm、奥行き17cm、深さ8cmのポリプロピレン容器に供試虫であるチャバネゴキブリ1匹を入れ、該供試虫の体に対してハンドスプレーで1ショット噴射した。以下の操作を供試虫の雄10匹、雌10匹に対して繰返し行なった。この結果、全ての供試虫について全て即死させることができた。
【0042】
尚、当該試験6において用いた、液体ハンドスプレーに所定処方のゴキブリ殺虫薬剤を充填して形成される本発明の実施例に係るゴキブリ殺虫具は、300ml容器の上部に、手動ポンプを利用した液体噴射器を備えたものであり、ノズルの形状が直線状に噴射可能な形状と、分散噴霧する形状と、噴射不可能とする形状とを切替使用できるものである。
【0043】
ここで直線的に噴射可能なノズル形状を選択した場合には、1ショット(噴射レバーを1回引く操作)で約1mlを噴射し、その直線的な噴射によって殺虫薬剤を特定のゴキブリ個体に効率良く付着させることができ、多量の殺虫薬液を用いずともファルネソールによる優れた殺虫力によって、容易にゴキブリを殺虫することができる。
【0044】
尚、本実施例のゴキブリ殺虫薬剤の処方は、上記各試験によって有用性の高さが顕著であった40重量%エチルアルコール水溶液中に、ファルネソール濃度が0.2重量%程度、オレイン酸カリウム濃度が1.0重量%程度の含有率となる処方を用いている。
【0045】
また、本発明において使用したファルネソールは、広く天然物中に極微量含まれる性質のものであり、その一方で人工的にも合成されている。本発明の実施例においては、調合香料の原料として一般に販売されているシムライズ株式会社製、株式会社クラレ製のファルネソール(いずれも商品名FARNESOL)を使用している。
【0046】
そして、使用に際しては、容器の手動ポンプの動作レバーを握り込むことによって当該動作レバーを操作し、容器中の液状のゴキブリ殺虫剤を汲み上げて、液体噴射器によって当該ゴキブリ殺虫剤を線状に液体を噴射するものである。尚、液体噴射器による噴射は、線状に噴射する場合のみならず、霧状に噴射するものであってもよい。
【0047】
ゴキブリに対する噴射量は非常に僅かでよく、容易にゴキブリを殺虫することができる。当該形態によって、ファルネソールを主成分とするゴキブリ殺虫剤を、ゴキブリに対して直接噴霧可能として、家庭内等での利便性をより一層向上させることができる。
【0048】
尚、本実施例におけるゴキブリ殺虫薬剤は、上記実施例に限定されるものではなく、本発明に開示される有用性が認められる範囲で処方を変更することができる。例えば、処方として、ファルネソール濃度0.2重量%、オレイン酸カリウム1.0重量%、及びファルネソールの溶解助剤を含有する液体担体として、40重量%のエチルアルコール水溶液を有する組成等とすることができる。
【0049】
特に、試験5の結果からもわかるように、40重量%エチルアルコール水溶液を溶解助剤を含む液体担体とした場合、ファルネソール濃度が0.2重量%乃至0.25重量%、オレイン酸カリウム濃度が1.0重量%乃至2.5重量%の含有率となる処方とすれば、ゴキブリに対して著効を有するとともに、非常に製造コストを低減した殺虫剤とすることができる。
【0050】
尚、液体ハンドスプレーである当該実施例に係るゴキブリ殺虫具に用いる薬剤について、以下の内容で試験を行った。
【0051】
(試験7)
40%エタノール水溶液に、ファルネソールを薬剤全体量に対して0.1%、0.2%、0.3%、0.5%となる量を夫々添加して薬液300mlを調製し、これらを液体スプレー容器に充填し、縦23cm、横17cm、深さ8cmのポリプロピレン容器に供試虫であるチャバネゴキブリを1匹入れ、ゴキブリに対して直接1ショット噴射した。この操作を、各薬液ごとに、ゴキブリの雄10匹、雌10匹について繰返して行い、噴射直後に死亡したゴキブリの比率を算出した。以下表7に結果を示す。
【表7】

【0052】
以上のように、エタノール濃度が40%である場合、ファルネソール濃度が0.2%を超えると、ゴキブリの死亡率が急激に向上し、ファルネソール濃度が0.3%でゴキブリの死亡率が100%に達する結果が得られた。
【0053】
尚、試験1と比べ、同じ処方であるにもかかわらず死亡率が高いのは、試験1では薬液0.5mlを供試虫に滴下するものであったのに対し、本試験では、ゴキブリに対する噴射量が約1ml程度であったことによるものであると考えられる。
【0054】
本発明に係るゴキブリ殺虫具は、上記のように、ゴキブリ殺虫具から薬液を噴射する際に、一般的にゴキブリの上方から噴射を行うが、ゴキブリが素早く動くことと、ゴキブリの気門が腹の部分にあることから、幅広く拡散するように噴霧するノズルとせず、水鉄砲のように、線状若しくはストリーム状に噴射するノズルを備えることによって、噴射した薬液の床面からの跳ね返りでゴキブリの腹部に当該薬液を付着させることができ、非常に効率良く殺虫することが可能となる。
【0055】
更に、ゴキブリの体表面は油で覆われているため、通常の水製剤ではゴキブリの体表で薬剤をはじく傾向があるところ、本願発明に係るゴキブリ殺虫剤によれば、界面活性剤成分の添加により粘度が向上するとともにゴキブリの体表の油に対して親和性を向上させ、体表に対するファルネソールの付着を非常に容易とすることができる。
【0056】
また、当該噴射ノズルから線状の噴射を行うことによって、噴射による圧力若しくはゴキブリの体に対する浸透等の作用が大きくはたらくことも殺虫効果を向上させる要因であると考えられる。
【0057】
更に、アルコールが添加されていることによって、製剤の安定性が確保されるとともに、噴射によって床面に付着した薬液の速乾性を、向上させることができる。
【0058】
尚、本発明においては、エアゾールとしての利用は、噴射剤の添加が必要となるだけでなく、噴射剤の添加が殺虫効果の低下を招来する虞があり、また一般的に、エアゾールの利用が使用後のガスの廃棄処理等や保管時の安全性において問題があり、更に、広範な範囲へガスが飛散することから、本発明に対して適用することは好ましくない。
【0059】
また、他の実施例に係る殺虫具に使用する、オレイン酸カリウムを処方として含む殺虫薬剤を用いた試験8を行った。尚、試験8−1では供試虫としてチャバネゴキブリ、試験8−2では供試虫としてワモンゴキブリを使用した。
【0060】
(試験8−1)
供試虫であるチャバネゴキブリを雌雄各5個体に対して、ファルネソール0.25重量%、ノンサールOK−1,12.5重量%(オレイン酸カリウム2.5重量%に相当)、エタノール40重量%、水47.25重量%の処方とした殺虫薬液を用いた。ここで、ノンサールOK−1はオレイン酸カリウム20重量%水溶液である。
幅約40cm、奥行60cm、深さ11cmのポリプロピレン製パットに供試虫を放ち、薬液をカルマ社製ハンドスプレーを備えた容器に入れ、ハンドスプレーのノズルをストリーム(略直線状に噴射する)位置に併せ、供試虫一匹について1ショットの割合で噴射した(十分に薬剤が付着しない場合は更に1ショット噴射した。)。
当該操作を供試虫10匹に対して行なった結果、約1分で全ての供試虫は死亡した。
【0061】
(試験8−2)
供試虫であるワモンゴキブリの雌5個体に対して、ファルネソール0.25重量%、ノンサールOK−1,12.5重量%(オレイン酸カリウム2.5重量%に相当)、エタノール40重量%、水47.25重量%の処方とした殺虫薬液を用いた。
幅約40cm、奥行60cm、深さ11cmのポリプロピレン製パットに供試虫を放ち、薬液をカルマ社製ハンドスプレーを備えた容器に入れ、ハンドスプレーのノズルをストリーム(略直線状に噴射する)位置に併せ、供試虫に一匹について3ショットの割合で噴射した(十分に薬剤が付着しない場合は更に1ショット噴射した。)。
この結果、約1分で全ての供試虫は死亡した。
【0062】
(忌避試験)
本発明においては、ファルネソールが非常に優れた殺虫力を発揮するが、殺虫力を確保できた上で、忌避効果の有無についても、検討を行った。
【0063】
(試験9)
8cm四方のベニヤ板を上下に配置し、該ベニヤ板間に空間を形成してなるベニヤ製シェルターにおける上下内面に、ファルネソール5重量%を含有する40重量%エタノール溶液0.640mlを塗布し、乾燥後、縦17cm、横23cm、深さ8.5cmのポリプロピレン製コンテナーである併置試験装置内の端に設置し、前記ベニヤ製シェルターの内部中央に水と飼料とを配置した処理区を作成し、供試虫としてチャバネゴキブリを前記併置試験装置内に放ち、24時間放置した。
【0064】
また、ブランクテストとして、上記ベニヤ製シェルターと同様のベニヤ製シェルターにおける上下内面にエタノール溶液のみを塗布し、上記ベニヤ製シェルターと同様に、併置試験装置内の端に設置し、前記ベニヤ製シェルターの内部中央に水と飼料とを配置した無処理区を作成し、供試虫を前記併置試験装置内に放ち、24時間放置した(以上、併置試験)。
【0065】
この後、無処理区を除去し、さらに24時間放置後、シェルター内外の供試虫数から忌避率を求めた(以上、単独試験)。以下の表8に、結果を示す。
【表8】

【0066】
以上の通り、併置試験、単独試験のいずれにおいても、忌避率は100%であり、本実施例におけるゴキブリ殺虫剤は、忌避剤としても有効であることが判明した。
【0067】
また、このように、24時間に亘って忌避効果が発揮できる理由としては、溶解助剤であるアルコールが極めて揮発性が高いのに対して、ファルネソールは分子量が大きく、アルコールが揮発した後も、噴射場所に残留しやすい特性があるためと、推察される。
【0068】
(試験10)
15cm四方のベニヤ板を上下に配置し、該ベニヤ板間に空間を形成してなるベニヤ製シェルターにおける上下内面に、ファルネソール5重量%を含有する40重量%エタノール溶液2.2mlを塗布し、8時間乾燥後、縦26cm、横40cm、深さ15cmのポリプロピレン製コンテナーである併置試験装置内の端に設置し、前記ベニヤ製シェルターの内部中央に水と飼料とを配置した処理区を作成し、供試虫としてワモンゴキブリを、前記併置試験装置内に放ち、24時間放置した。
【0069】
また、ブランクテストとして、上記ベニヤ製シェルターと同様のベニヤ製シェルターにおける上下内面にエタノール溶液のみを塗布し、上記ベニヤ製シェルターと同様に、併置試験装置内の端に設置し、前記ベニヤ製シェルターの内部中央に水と飼料とを配置した無処理区を作成し、供試虫を前記併置試験装置内に放ち、24時間放置した。
【0070】
この後更に、無処理区を除去し、さらに24時間放置後、シェルター内外の供試虫数から忌避率を求めた(以上、単独試験)。以下の表9に、結果を示す。
【表9】

【0071】
以上に示すように、併置試験、単独試験のいずれにおいても、忌避率は100%であり、大型のワモンゴキブリにおいても、本発明においては、十分な忌避効果が得られることが判明した。
【0072】
尚、本発明においては、低級アルコールの濃度について、エチルアルコール40重量%を例として説明したが、本発明においては例えばエチルアルコールの濃度が40重量%未満或いは40重量%以上であっても、ファルネソールの溶解助剤として作用すれば、公知のアルコールによる殺虫効果を考慮する必要は無く、必要に応じてファルネソールの濃度を高くし、或いは、これに加えて界面活性剤の添加量を増加させることで、十分な殺虫力を得ることができる。しかしながら、エチルアルコール濃度40重量%とした場合には、ファルネソールの良好な溶解、製造コストの低減、優れた殺虫力とを全て兼ね備えた処方として実現することができ、非常に好ましい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ファルネソールを有効成分として含有することを特徴とするゴキブリ殺虫剤。
【請求項2】
液体担体と、ファルネソールの溶解助剤とを含有することを特徴とする請求項1記載のゴキブリ殺虫剤。
【請求項3】
溶解助剤は、メチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコールからなる群から選ばれる一種以上のアルコールであることを特徴とする請求項2記載のゴキブリ殺虫剤。
【請求項4】
溶解助剤がエチルアルコールであり、エチルアルコール含有量が40重量%以上で、ファルネソール含有量が0.1重量%以上であり、且つ、界面活性剤含有量が1.0重量%以上含有することを特徴とする請求項2記載のゴキブリ殺虫剤。
【請求項5】
ファルネソール及びアルコールを含有する殺虫薬液を、手動ポンプによる液体噴射器を備えた容器に充填してなるゴキブリ殺虫具。

【公開番号】特開2006−104126(P2006−104126A)
【公開日】平成18年4月20日(2006.4.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−293037(P2004−293037)
【出願日】平成16年10月5日(2004.10.5)
【出願人】(596005702)株式会社ナチュラルネットワーク (3)
【Fターム(参考)】