説明

ゴムシート部材に塗布した防着液の乾燥方法および装置

【課題】ラックバーに蛇行させて掛け渡したゴムシート部材のU字状下端部に防着液が溜まることを防止して、防着液を迅速かつ確実に乾燥させる防着液の乾燥方法および装置を提供する。
【解決手段】ゴムシート部材Rが掛け渡された複数のラックバー2を、乾燥装置1に設置された押上げ体5の上方で、ガイドレール3に沿って、ゴムシート部材Rの長手方向先端側に移動させることにより、ゴムシート部材RのU字状下端部の幅方向一部を押上げてこの下端部に傾斜面Sを形成し、この傾斜面Sによってゴムシート部材Rの表面上の余分な防着液Lを流下させた状態にしてゴムシート部材Rに付着した防着液Lを乾燥させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴムシート部材に塗布した防着液の乾燥方法および装置に関し、さらに詳しくは、乾燥工程でラックバーに蛇行させて掛け渡したゴムシート部材のU字状下端部に防着液が溜まることを防止して、防着液を迅速かつ確実に乾燥させることができる防着液の乾燥方法および装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
混合機等により混練された後、シーティングされたゴムシート部材は、折り重ねて一時保管等する際に、未加硫ゴムなので接触した部分どうしが強固に付着しまうため防着液を塗布している。防着液を塗布する工程では、塗布した防着液を乾燥させる際に、必要スペースを抑制するために、ゴムシート部材を複数のラックバーに掛け渡して蛇行させて保持した状態にしている。ところが、蛇行させて保持しているとゴムシート部材のU字状下端部に余分な防着液が溜まり、溜まった防着液は乾燥工程で十分に乾燥させることができなくなる。防着液の乾燥が不十分なゴムシート部材が、混練りや押出し等の次工程で使用されると、ゴムの膨張や押出しサイズ不良等の不具合が生じる。
【0003】
このような防着液の乾燥不良を防止するため、乾燥工程においてゴムシート部材のU字状下端部の位置を上下移動させる方法が提案されている(特許文献1参照)。この提案では、U字状下端部の上下移動に伴なって、U字状下端部に溜まった防着液が新たなU字状下端部に移るので、上下移動を繰り返すことにより溜まった余分な防着液を徐々に乾燥させることができる。しかしながら、溜まっている防着液の量が多い場合には完全に乾燥させることはできず、また、短時間で完全に乾燥させることは困難であった。
【特許文献1】特開平6−55536号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、乾燥工程でラックバーに蛇行させて掛け渡したゴムシート部材のU字状下端部に防着液が溜まることを防止して、防着液を迅速かつ確実に乾燥させることができる防着液の乾燥方法および装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するため本発明のゴムシート部材に塗布した防着液の乾燥方法は、防着液を塗布したゴムシート部材を、複数のラックバーに掛け渡し蛇行させた状態で保持して乾燥工程を通過させることにより防着液を乾燥させるゴムシート部材に塗布した防着液の乾燥方法において、前記ゴムシート部材が掛け渡された複数のラックバーを、乾燥工程に設置された押上げ体の上方でゴムシート部材の長手方向先端側に移動させることにより、ゴムシート部材のU字状下端部の幅方向一部を押上げてこの下端部に傾斜面を形成し、この傾斜面によってゴムシート部材の表面上の余分な防着液を流下させてゴムシート部材に付着した防着液を乾燥させることを特徴とするものである。
【0006】
ここで、前記押上げ体を、ゴムシート部材の長手方向先端側ほど高くして、前記複数のラックバーをゴムシート部材の長手方向先端側に移動させることにより、前記傾斜面の形状を変化させることもできる。前記複数のラックバーにゴムシート部材を掛け渡す前に、ゴムシート部材を厚さ方向に貫通する切込みを、ゴムシート部材の長手方向に断続的に形成することもできる。この場合には、例えば、前記切り込みを形成した部分を、前記押上げ体により押し上げる。
【0007】
本発明のゴムシート部材に塗布した防着液の乾燥装置は、防着液を塗布したゴムシート部材を、掛け渡して蛇行させた状態で保持する複数のラックバーを備えたゴムシート部材に塗布した防着液の乾燥装置において、前記複数のラックバーの下方位置に、前記保持されたゴムシート部材のU字状下端部の幅方向一部を押上げる押上げ体を設置するとともに、前記複数のラックバーを、掛け渡されるゴムシート部材の長手方向先端側および後端側に移動可能に構成したことを特徴とするものである。
【0008】
ここで、前記押上げ体を、ゴムシート部材の長手方向先端側ほど高くなるように形成することもできる。前記複数のラックバーに掛け渡す前のゴムシート部材に対して、厚さ方向に貫通する切込みを、ゴムシート部材の長手方向に断続的に形成する切込み手段を設けることもできる。この場合、例えば、前記切込みを形成した部分と、前記押上げ体により押上げる位置とを、ゴムシート部材の幅方向で一致するように設定する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、防着液を塗布したゴムシート部材を複数のラックバーに掛け渡して蛇行させた状態で保持して乾燥工程を通過させる際に、この複数のラックバーを、押上げ体の上方でゴムシート部材の長手方向先端側に移動させてゴムシート部材のU字状下端部の幅方向一部を押上げ、この下端部に形成された傾斜面によってゴムシート部材の表面上の余分な防着液を流下させるので、U字状下端部に余分な防着液が溜まることがない。これにより、ゴムシート部材に付着して残った必要量の防着液を迅速かつ確実に乾燥させることが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明のゴムシート部材に塗布した防着液の乾燥方法および装置を図に示した実施形態に基づいて説明する。
【0011】
図1に例示するように、混合機等により混練された後、シーティングされた帯状のゴムシート部材Rは、長手方向に、防着液を貯留したディッピング槽8を備えた防着液の塗布工程を経て、後工程になる乾燥工程に搬送される。塗布工程では、ゴムシート部材Rがディップ槽8の防着液Lにドブ漬けされる。防着液Lは、未加硫ゴムどうしの付着を防止する液体であり、公知のものである。
【0012】
本発明のゴムシート部材に塗布した防着液の乾燥装置1(以下、乾燥装置1という)は、乾燥工程に配置されている。図2〜図4に例示するように、この乾燥装置1は、防着液Lを塗布したゴムシート部材Rを掛け渡して蛇行させた状態で保持する複数のラックバー2を備えている。また、ゴムシート部材Rに塗布した防着液Lを強制的に乾燥させる図示しないファンを備えている。
【0013】
複数のラックバー2は、掛け渡されるゴムシート部材Rの長手方向先端側および後端側に移動可能になっている。ゴムシート部材Rの長手方向先端側、後端側とは、それぞれゴムシート部材Rの搬送方向下流側、上流側を意味する。
【0014】
具体的には、それぞれのラックバー2の一端部が、ゴムシート部材Rの長手方向先後端側に向かって延設されたガイドレール3に移動可能に保持され、駆動モータ4によってゴムシート部材Rの長手方向先端側および後端側に移動するようになっている。ラックバー2を移動させる構造はこれに限定されるものではない。
【0015】
さらに、この複数のラックバー2の下方位置には、押上げ体5が固設されている。押上げ体5は、複数のラックバー2に掛け渡されて蛇行した状態で保持されたゴムシート部材RのU字状下端部の幅方向一部を押上げるように機能する。
【0016】
この実施形態の押上げ体5は、図3、図4に例示するように断面が三角形状であり、図2に例示するようにゴムシート部材Rの長手方向先端側ほど高くなるように形成されている。押上げ体5の頂点は、ゴムシート部材Rの幅方向中央部に位置するように設定されている。
【0017】
また、押上げ体5の下方には、防着液Lを回収する回収タンク6が設けられている。回収タンク6は配管10を介して防着液作製タンク7に接続され、防着液作製タンク7は、配管10を介してディップ槽8に接続されている。それぞれの配管10にはポンプが備わっている。
【0018】
この実施形態では、ディップ槽8と乾燥装置1との間に切込み手段となる一対のカッターローラ9が設けられている。このカッターローラ9は、ゴムシート部材Rを厚さ方向に挟むように対向して配置され、一方のカッターローラ9には切欠き9aが設けられている。これにより、ゴムシート部材Rがカッターローラ9の間を通過すると、厚さ方向に貫通する切込みCが、ゴムシート部材Rの長手方向に断続的に形成される。
【0019】
切込み手段は、この構造に限定されるものではなく、複数のラックバー2に掛け渡す前のゴムシート部材Rに対して、厚さ方向に貫通する切込みCを、ゴムシート部材Rの長手方向に断続的に形成できればよい。したがって、切込み手段をディップ槽8よりもゴムシート部材Rの搬送方向上流側に設けることもできる。
【0020】
切込みCの大きさは、例えば、幅が1mm〜10mm程度であり、長さや切込みCどうしの間隔は適宜決定する。尚、本発明の切込みCとは、ゴムシート部材Rを厚さ方向に貫通する貫通穴も含むものである。
【0021】
次に、この乾燥装置1を用いた本発明の防着液の乾燥方法を説明する。
【0022】
まず、図1に例示するように、シーティングされた帯状のゴムシート部材Rがディップ槽8の防着液Lの中を通過して長手方向先端側に搬送されてくる。防着液Lの中を通過したゴムシート部材Rの表面には、必要量以上の防着液Lが塗布された状態になっている。
【0023】
次いで、このゴムシート部材Rを一対のカッターローラ9の間を通過させる。これにより、ゴムシート部材Rには、厚さ方向に貫通する切込みCが長手方向に断続的に形成される。切込みCは、ゴムシート部材Rの幅方向中央部に1列形成することが好ましいが、幅方向の任意の位置に形成することもできる。また、切込みCを形成しないようにすることもできる。
【0024】
次いで、ゴムシート部材Rは、乾燥装置1に搬送されてくる。乾燥装置1では、ファンが稼働され、図2に例示するように一定の長さのゴムシート部材Rが、ゴムシート部材Rの幅方向に延びる複数のラックバー2に掛け渡されて蛇行した状態で保持される。
【0025】
そのため、保持されたゴムシート部材Rの下端部はU字状になる。このU字状下端部の幅方向一部は、押上げ体5により押上げられた状態になる。ゴムシート部材Rにはまだ余分な防着液Lが付着しているので、この余分な防着液Lは、U字状下端部に流れ落ちて集まる。
【0026】
そして、図5に例示するように、それぞれのラックバー2を、ゴムシート部材Rを蛇行した状態で保持したまま、押上げ体5の上方でゴムシート部材Rの長手方向先端側に移動させる。即ち、この際には、ラックバー2に掛け渡されたゴムシート部材Rとラックバー2とは相対的に移動せずに、両者を一体的にゴムシート部材Rの長手方向先端側に移動させる。
【0027】
図3、図4に例示するように、ゴムシート部材Rの幅方向中央部が押上げ体5により押上げられ、ゴムシート部材Rの下端部には傾斜面Sが形成される。ゴムシート部材Rの下端部に集まった余分な防着液Lは、傾斜面S上を流れ落ちてゴムシート部材Rの幅方向外側から流下する。
【0028】
そのため、ゴムシート部材RのU字状下端部に余分な防着液Lが溜まることがない。本発明では積極的に傾斜面Sを形成するで、余分な防着液Lが多い場合にも短時間で流下させることができる。したがって、ゴムシート部材Rに付着して残った必要量の防着液Lを迅速かつ確実に乾燥させることが可能になる。
【0029】
また、押上げ体5がゴムシート部材Rの長手方向先端側ほど高くなるように形成されているので、複数のラックバー2をゴムシート部材Rの長手方向先端側に移動させることにより、傾斜面Sの形状が変化する。そのため、より確実に余分な防着液Lを流下させることができる。
【0030】
この実施形態では、ゴムシート部材Rの長手方向に断続的に切込みCを形成しているので、この切込みCからも余分な防着液Lを流下させることができる。また、切込みCによってゴムシート部材Rが曲がり易くなるので、急傾斜の傾斜面Sを形成することができ、より迅速に余分な防着液Lを除去することが可能になる。したがって、切込みCを形成した場合には、切込みCを形成した部分と、押上げ体5により押上げる位置とを、ゴムシート部材Rの幅方向で一致するように設定するとよい。
【0031】
流下した防着液Lは、回収タンク6に回収されて配管10を通じて防着液作製タンク7に送られる。防着液作製タンク7からは、配管10を通じて防着液Lがディップ槽8に供給されるので、防着液Lを無駄なく再利用する構成になっている。
【0032】
防着液Lの乾燥が完了した後は、乾燥装置1の下流側の駆動ローラ等を稼働させてゴムシート部材Rを乾燥装置1から送り出し、折り畳んて積層した状態でストックする。その後、新たに乾燥させる一定長さのゴムシート部材Rを複数のラックバー2に掛け渡して同様の工程を行なう。
【0033】
押上げ体5は、複数のラックバー2によって保持されたゴムシート部材RのU字状下端部の幅方向一部を押上げることができればよく、他の構造を採用することも可能である。例えば、ゴムシート部材Rの長手方向で一定の高さの押上げ体5にしてもよく、単なる棒状の押上げ体3を採用することもできる。
【0034】
また、図6、図7に例示するように、回転する円形の押上げ体5を用いることもできる。それぞれの押上げ体5は、同一半径の円形体であり、支持フレーム5bに突出された支軸5aに回転可能に支持されている。それぞれの支軸5aは、ゴムシート部材Rの長手方向先端側ほど高い位置に設定されている。
【0035】
この押上げ体5を用いた場合にも上記実施形態と同様に、ゴムシート部材Rの下端部には傾斜面Sが形成され、余分な防着液Lは傾斜面S上を流れ落ちてゴムシート部材Rの幅方向外側から流下する。この押上げ体5を用いた場合には、ゴムシート部材Rを長手方向先端側に移動させる際に、移動するゴムシート部材Rの下端部が接触すると支軸5aを中心にして回転するので円滑な移動に寄与する。
【0036】
図7に例示するように、このゴムシート部材Rには、切込みCが形成されていないが、切込みCを形成することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】防着液の塗布工程および乾燥工程を例示する説明図である。
【図2】本発明の乾燥装置を例示する側面図である。
【図3】図2のA−A断面図である。
【図4】図3の一部拡大図である。
【図5】図2のラックバーを移動させた状態を例示する側面図である。
【図6】図2の押上げ体の変形例を示す側面図である。
【図7】図6のB−B断面図である。
【符号の説明】
【0038】
1 乾燥装置
2 ラックバー
3 ガイドレール
4 駆動モータ
5 押上げ体
5a 支軸
5b 支持フレーム
6 回収タンク
7 防着液作製タンク
8 ディップ槽
9 カッターローラ(切込み手段)
9a 切欠き
10 配管
R ゴムシート部材
C 切込み
S 傾斜面
L 防着液

【特許請求の範囲】
【請求項1】
防着液を塗布したゴムシート部材を、複数のラックバーに掛け渡し蛇行させた状態で保持して乾燥工程を通過させることにより防着液を乾燥させるゴムシート部材に塗布した防着液の乾燥方法において、前記ゴムシート部材が掛け渡された複数のラックバーを、乾燥工程に設置された押上げ体の上方でゴムシート部材の長手方向先端側に移動させることにより、ゴムシート部材のU字状下端部の幅方向一部を押上げてこの下端部に傾斜面を形成し、この傾斜面によってゴムシート部材の表面上の余分な防着液を流下させてゴムシート部材に付着した防着液を乾燥させるゴムシート部材に塗布した防着液の乾燥方法。
【請求項2】
前記押上げ体を、ゴムシート部材の長手方向先端側ほど高くして、前記複数のラックバーをゴムシート部材の長手方向先端側に移動させることにより、前記傾斜面の形状を変化させるようにした請求項1に記載のゴムシート部材に塗布した防着液の乾燥方法。
【請求項3】
前記複数のラックバーにゴムシート部材を掛け渡す前に、ゴムシート部材を厚さ方向に貫通する切込みを、ゴムシート部材の長手方向に断続的に形成する請求項1または2に記載のゴムシート部材に塗布した防着液の乾燥方法。
【請求項4】
前記切り込みを形成した部分を、前記押上げ体により押し上げるようにした請求項3に記載のゴムシート部材に塗布した防着液の乾燥方法。
【請求項5】
防着液を塗布したゴムシート部材を、掛け渡して蛇行させた状態で保持する複数のラックバーを備えたゴムシート部材に塗布した防着液の乾燥装置において、前記複数のラックバーの下方位置に、前記保持されたゴムシート部材のU字状下端部の幅方向一部を押上げる押上げ体を設置するとともに、前記複数のラックバーを、掛け渡されるゴムシート部材の長手方向先端側および後端側に移動可能に構成したゴムシート部材に塗布した防着液の乾燥装置。
【請求項6】
前記押上げ体を、ゴムシート部材の長手方向先端側ほど高くなるように形成した請求項5に記載のゴムシート部材に塗布した防着液の乾燥装置。
【請求項7】
前記複数のラックバーに掛け渡す前のゴムシート部材に対して、厚さ方向に貫通する切込みを、ゴムシート部材の長手方向に断続的に形成する切込み手段を設けた請求項5または6に記載のゴムシート部材に塗布した防着液の乾燥装置。
【請求項8】
前記切込みを形成した部分と、前記押上げ体により押上げる位置とを、ゴムシート部材の幅方向で一致するように設定した請求項7に記載のゴムシート部材に塗布した防着液の乾燥装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−115812(P2010−115812A)
【公開日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−289263(P2008−289263)
【出願日】平成20年11月11日(2008.11.11)
【出願人】(000006714)横浜ゴム株式会社 (4,905)
【Fターム(参考)】