ゴム物品補強用金属コード及びゴム物品
【課題】 コードの圧縮剛性の低下を抑制しつつ、コード内部へのゴム材の浸透度を向上させることができるゴム物品補強用金属コード及びゴム物品を提供する。
【解決手段】 ゴム物品補強用金属コード7は、コアフィラメント9と、このコアフィラメント9を包囲するようにコアフィラメント9に対して螺旋状に撚り合わされた5本のアウターシースフィラメント10とを備えている。コアフィラメント9及びアウターシースフィラメント10の線径は、実質的に同一径である。各アウターフィラメント10間には、適度な空隙が形成されている。コアフィラメント9には、各アウターシースフィラメント10の撚りピッチよりも細かいピッチを有する2次元の波付け部12が形成されている。各アウターシースフィラメント10には、そのような細かい波付け部12は形成されていない。
【解決手段】 ゴム物品補強用金属コード7は、コアフィラメント9と、このコアフィラメント9を包囲するようにコアフィラメント9に対して螺旋状に撚り合わされた5本のアウターシースフィラメント10とを備えている。コアフィラメント9及びアウターシースフィラメント10の線径は、実質的に同一径である。各アウターフィラメント10間には、適度な空隙が形成されている。コアフィラメント9には、各アウターシースフィラメント10の撚りピッチよりも細かいピッチを有する2次元の波付け部12が形成されている。各アウターシースフィラメント10には、そのような細かい波付け部12は形成されていない。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用タイヤ等といったゴム物品の補強材として使用されるゴム物品補強用金属コード、及びゴム物品補強用金属コードを備えたゴム物品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来のゴム物品補強用金属コードとしては、例えば特許文献1に記載されているものが知られている。この文献に記載のゴム物品補強用金属コードは、芯線と、この芯線に螺旋状に撚り合わされた複数の側線とからなり、芯線及び各側線を形成する複数の素線の少なくとも1本には、素線の軸方向に沿った屈曲部が繰り返し設けられている。この金属コードでは、屈曲部が形成された素線と屈曲部が形成されていない素線との間には隙間が形成されることになるので、金属コードをゴム材で被覆したときに、当該隙間から金属コードの内部にゴム材が十分に充填されるようになる。
【特許文献1】特開平5−24408号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
例えば自動車用タイヤのゴム物品補強用金属コードに求められる要件としては、ゴム浸透度とコーナリング特性に影響を与える圧縮剛性とに優れていることが挙げられる。しかし、最近多用されているゴム物品補強用金属コードでは、上記2つの特性を両立させることが困難である。例えば、上記従来技術のゴム物品補強用金属コードにおいては、ゴム材の浸透度は向上するが、全ての素線に屈曲部を形成していない金属コードに比べて圧縮剛性が低下するという問題がある。その理由としては、素線に屈曲部を形成すると、屈曲部の腹部が外側に現れる部分が存在し、この部分が圧縮負荷に対して弱くなるからである。また、ゴム材の浸透度を最優先するあまり、屈曲部の高さを大きくした場合には、屈曲部の腹部が外側にあるか内側にあるかに関係なく、金属コードの全長に亘って圧縮剛性が低下してしまう。
【0004】
本発明の目的は、コードの圧縮剛性の低下を抑制しつつ、コード内部へのゴム材の浸透度を向上させることができるゴム物品補強用金属コード及びゴム物品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明のゴム物品補強用金属コードは、少なくとも1本のコアフィラメントと、コアフィラメントを包囲するようにコアフィラメントに対して螺旋状に撚り合わされた複数本のアウターシースフィラメントとを備え、少なくとも1本のコアフィラメントには、アウターシースフィラメントの螺旋ピッチよりも細かいピッチを有する波付け部が設けられており、各アウターシースフィラメント間には空隙が形成されており、コアフィラメントの本数をm、アウターシースフィラメントの本数をnとしたときに、m+3≦n≦m+6を満足していることを特徴とするものである。
【0006】
このように本発明においては、少なくとも1本のコアフィラメントに、アウターシースフィラメントの螺旋ピッチ(ゴム物品補強用金属コードの撚りピッチ)よりも細かいピッチを有する波付け部を設けることにより、コアフィラメントとアウターシースフィラメントとの間には適度な隙間が形成されることになる。このため、ゴム物品補強用金属コードをゴム材で被覆するときに、コアフィラメントとアウターシースフィラメントとの間の隙間にゴム材が浸入するため、金属コードの内部にゴム材が充填(浸透)されやすくなる。このとき、全てのアウターシースフィラメント間に空隙を形成することにより、コアフィラメントと各アウターシースフィラメントとの間の隙間にゴム材がほぼ均等に且つ十分浸入するようになる。これにより、金属コードの内部にゴム材が効果的に充填されるようになる。
【0007】
また、各アウターシースフィラメントには波付け部を設けないようにすることで、金属コードが圧縮力(圧縮負荷)を受けても、アウターシースフィラメントが金属コードの圧縮剛性に対して影響を与えることは殆ど無い。ところで、コアフィラメントには波付け部が設けられているので、金属コードが圧縮力を受けると、コアフィラメントの波付け部が外側に挫屈しやすくなるが、コアフィラメントは複数本のアウターシースフィラメントで包囲されているので、当該波付け部の挫屈はアウターシースフィラメントで受け止められることになる。このとき、アウターシースフィラメントの本数nがコアフィラメントの本数mよりも1本または2本多いだけだと、アウターシースフィラメントに対するコアフィラメントの露出領域が広くなるため、アウターシースフィラメントによるコアフィラメントの受け止め作用を有効に発揮させることは困難である。一方、アウターシースフィラメントの線径とコアフィラメントの線径とを同等とするためには、アウターシースフィラメントの本数nをコアフィラメントの本数mよりも7本以上多くすることはできない。そこで、アウターシースフィラメントの本数nをコアフィラメントの本数mよりも3〜6本だけ多くすることにより、コアフィラメントにおいてアウターシースフィラメントに覆われる領域が広くなる。これにより、コアフィラメントの波付け部の挫屈はアウターシースフィラメントで十分に受け止められるので、金属コードの圧縮剛性の低下が抑制される。
【0008】
好ましくは、波付け部を有するコアフィラメントの撚込み係数をλc、アウターフィラメントの撚込み係数をλsとしたときに、0.999≦λc/λs≦1.005を満足している。
【0009】
波付け部を有するコアフィラメントの撚込み係数をλcとアウターフィラメントの撚込み係数λsとの比率(λc/λs)としては、1.0が好ましい。しかし、製造条件にばらつきがあったり、ゴム材の浸透度を考慮してコアフィラメントに細かいピッチを有する波付け部を設けているので、λc/λsに余裕をもたせることが必要である。このとき、撚込み係数λcと撚込み係数λsとが異なり過ぎると、圧縮応力に対してだけでなく、引張応力に対しても、金属コードとしての一体感(まとまり)が無くなる。そこで、0.999≦λc/λs≦1.005を満足させることにより、金属コードが圧縮力または引張力を受けても、金属コードとしての一体感が確保されるようになるため、金属コード全体としての耐久性が向上する。
【0010】
このとき、コアフィラメントの撚込み係数λc及びアウターシースフィラメントの撚込み係数λsは、1.0018〜1.0095の範囲内であることが好ましい。
【0011】
コアフィラメントの撚込み係数λcを1.0018以上とすることにより、コアフィラメントに形成される細かい波付け部の波の高さが十分確保されるようになる。これにより、コアフィラメントとアウターシースフィラメントとの間の隙間にゴム材がより浸入しやすくなるため、金属コードの内部にゴム材が更に十分に充填されるようになる。また、アウターシースフィラメントの撚込み係数λcを1.0018以上とすることにより、アウターシースフィラメントの端末部のばらけが抑えられるため、複数本のアウターシースフィラメントの撚線状態を確実に維持することができる。さらに、コアフィラメントの撚込み係数λc及びアウターシースフィラメントの撚込み係数λcとを1.0095以下とすることにより、金属コードの圧縮剛性の低下を更に抑制することができる。
【0012】
また、好ましくは、コアフィラメントの本数mは1〜3本である。この場合には、ゴム物品補強用金属コードの外形寸法の増大が抑えられるため、ゴム物品補強用金属コードをゴム材で被覆するときに、ゴム材の使用量を必要以上に増やさなくて済む。
【0013】
さらに、好ましくは、コアフィラメントの線径をdc、アウターシースフィラメントの線径をdsとしたときに、0.92≦dc/ds≦1.08を満足している。
【0014】
このようにコアフィラメントの線径dcとアウターシースフィラメントの線径dsとの差を8%以内とすることにより、生産性の高いバンチ撚り方式の撚線機を用いてゴム物品補強用金属コードを製造する際に、コアフィラメント及びアウターシースフィラメントの残留トーションのばらつきを抑えることができる。この場合には、ゴム物品補強用金属コードとしての残留トーションの経時変化が抑制されるため、後工程に与える影響を軽減することができる。
【0015】
また、本発明のゴム物品は、上述したゴム物品補強用金属コードと、ゴム物品補強用金属コードを被覆するゴム材とを備えることを特徴とするものである。
【0016】
このように上記のゴム物品補強用金属コードを具備することにより、上述したように、ゴム物品補強用金属コードをゴム材で被覆するときに、コアフィラメントとアウターシースフィラメントとの間の隙間にゴム材が浸入しやすくなるため、金属コードの内部にゴム材が十分に浸透されるようになる。また、金属コードが圧縮力を受けた時に生じるコアフィラメントの波付け部の挫屈は、細かい波付け部が形成されていないアウターシースフィラメントで十分に受け止められるので、金属コードの圧縮剛性の低下が抑制される。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、ゴム物品補強用金属コードの圧縮剛性の低下を抑制しつつ、ゴム物品補強用金属コードの内部へのゴム材の浸透度を向上させることができる。金属コード内へのゴム材の浸透度が高くなることにより、例えばゴム材の内部に浸入した水分による金属コードのさびの発生及び促進が抑制されるので、ゴム物品補強用金属コード及びゴム物品の耐久性を向上させることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明に係るゴム物品補強用金属コード及びゴム物品の好適な実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0019】
図1は、本発明に係るゴム物品補強用金属コードの一実施形態を備えたゴム物品として車両用タイヤを示す断面図である。図1(a)は乗用車用タイヤの断面図であり、図1(b)はトラック及びバス用タイヤの断面図である。
【0020】
図1(a)に示す車両用タイヤ(乗用車用タイヤ)1はタイヤ本体2を備え、タイヤ本体2は、トレッド部3と、このトレッド部3の両端からタイヤ径方向内側に延びる1対のサイドウォール部4とを有している。タイヤ本体2の内部には、カーカス5及び2層のベルト部6が埋設されている。カーカス5は、例えば複数層の繊維線からなり、トレッド部3から各サイドウォール部4にかけて設けられている。ベルト部6は、トレッド部3におけるカーカス5のタイヤ径方向外側に設けられている。
【0021】
図1(b)に示す車両用タイヤ(トラック及びバス用タイヤ)1は、図1(a)に示す車両用タイヤよりも太いタイヤ本体2を備えている。このタイヤ本体2の内部には、カーカス5及び4層のベルト部6が埋設されている。カーカス5は、例えば複数本の金属線からなっている。
【0022】
ベルト部6は、図2に示すように、複数本のゴム物品補強用金属コード7を並列に配置した状態で、これらのゴム物品補強用金属コード7をゴム材8により一括して被覆してなるものである。ゴム物品補強用金属コード7は、車両用タイヤ1の補強材として使用されるものである。ゴム材8としては、タイヤ本体2を形成するゴムよりも接着性の良いものを使用するのが望ましい。
【0023】
図3はゴム物品補強用金属コード7の斜視図であり、図4はゴム物品補強用金属コード7の断面図である。各図において、ゴム物品補強用金属コード7は、コアフィラメント9と、このコアフィラメント9を包囲するようにコアフィラメント9に対して螺旋状に撚り合わされた5本のアウターシースフィラメント10とを備えている。コアフィラメント9及びアウターシースフィラメント10の表面には、ベルト部6のゴム材8との接着性を高めるためにブラス(Cu−Zn合金)等のめっきが施されている。
【0024】
ここで、コアフィラメント9の線径をdc、アウターシースフィラメント10の線径をdsとしたときに、0.92≦dc/ds≦1.08を満足しているのが好ましく、コアフィラメント9の線径dcとアウターシースフィラメント10の線径dsが同一径であるのが最も好ましい。なお、上記の関係を満たす場合には、コアフィラメント9の線径dcとアウターシースフィラメント10の線径dsは、実質的に同一径であるとする。なお、これらの線径dc,dsは、例えば0.23mm程度である。
【0025】
このとき、コアフィラメント9の本数(1本)に対してアウターシースフィラメント10の本数は5本であるため、各アウターフィラメント10間には、適度な隙間W(例えば0.06mm)を有する空隙11が形成されることとなる。この空隙11は、ゴム物品補強用金属コード7をゴム材8で被覆する際に、金属コード7の内部にゴム材8を浸入させる部分となる。
【0026】
コアフィラメント9には、図5に示すように、各アウターシースフィラメント10の螺旋ピッチ(撚りピッチ)よりも細かいピッチを有する2次元の波状の型付け部(波付け部)12が形成されている。なお、アウターシースフィラメント10の撚りピッチは、例えば12.5mmであり、波付け部12のピッチは、例えば4.5mmである。各アウターシースフィラメント10には、そのような細かい波付け部12は形成されていない。
【0027】
このように各アウターフィラメント10間に所定の空隙11がそれぞれ設けられていることに加え、コアフィラメント9に細かい波付け部12を設けることにより、コアフィラメント9と各アウターシースフィラメント10との間には適度な隙間13が形成されることになる。このため、ゴム材8によりゴム物品補強用金属コード7を被覆する際に、コアフィラメント9と各アウターシースフィラメント10との間にゴム材8が容易にかつ均等に浸透するようになる。これにより、ゴム物品補強用金属コード7の内部にゴム材8が十分に充填される。
【0028】
ところで、仮にアウターシースフィラメント10に細かい波付け部が形成されていると、ゴム物品補強用金属コード7が長手方向の圧縮力を受けたときに、波付け部が金属コード7の外側に膨れて挫屈し、金属コード7の長手方向に働く圧縮力に対する剛性(圧縮剛性)の低下につながる。しかし、各アウターシースフィラメント10には、コアフィラメント9と異なり、そのような細かい波付け部が形成されていないので、アウターシースフィラメント10自体が金属コード7の圧縮剛性に対して影響を与えることは殆ど無い。
【0029】
ただし、コアフィラメント9には波付け部12が設けられているので、ゴム物品補強用金属コード7が長手方向の圧縮力を受けると、コアフィラメント9の波付け部12が金属コード7の外側に挫屈しやすくなる。しかし、コアフィラメント9の周りには複数本のアウターシースフィラメント10が配置されているので、波付け部12の挫屈は各アウターシースフィラメント10で受け止められるようになる。
【0030】
このとき、コアフィラメント9の線径dcとアウターシースフィラメント10の線径dsは実質的に同一径であり、しかもアウターシースフィラメント10の本数は5本であるため、コアフィラメント9においてアウターシースフィラメント10に覆われる領域が多くなり、コアフィラメント9の露出領域が少なくなる。これにより、コアフィラメント9の波付け部12の挫屈はアウターシースフィラメント10で十分に受け止められるので、結果的にゴム物品補強用金属コード7の圧縮剛性の低下が抑制される。
【0031】
また、ゴム物品補強用金属コード7においては、コアフィラメント9の撚込み係数をλc、アウターシースフィラメント10の撚込み係数をλsとしたときに、下記の関係を満足するように構成されているのが好ましい。
1.0018≦λc≦1.0095 …(A)
1.0018≦λs≦1.0095 …(B)
0.999≦λc/λs≦1.005 …(C)
【0032】
ここで、コアフィラメント9及びアウターシースフィラメント10は、撚り合わせ構造となっているため、撚る前のまっすぐな状態のフィラメント(素線)よりも短くなる。この撚りによるフィラメントの長さの短縮が撚込みであり、その短縮率を一般的に撚込み率という。ただし、ここでは便宜上、撚り合わせ前長さに対する撚り合わせ後長さの比率を撚込み係数として使用することにする。
【0033】
つまり、図6に示すように、コアフィラメント9の撚り状態での長さをLc1、コアフィラメント9の撚る前の長さ(素線長)をLc2としたとき、コアフィラメント9の撚込み係数λcは、下記(D)式で表される。そこで、例えば引っ張り試験により撚り合わせ後のコアフィラメント9を直線になるように引っ張って、コアフィラメント9の素線長を求め、下記(D)式を用いてコアフィラメント9の撚込み係数λcを得る。
【数1】
【0034】
また、同様に、アウターシースフィラメント10の撚り状態での長さをLs1、アウターシースフィラメント10の撚る前の長さ(素線長)をLs2としたときに、アウターシースフィラメント10の撚込み係数λsは、下記(E)式で表されるが、実際にはアウターシースフィラメント10を1本毎に測定することはなく、アウターシースフィラメント10の撚り合わせ状態において、ゴム物品補強用金属コード7のコード径及び撚りピッチを測定して、撚り角αs(図7参照)を算出し、下記(F)式で表されるのが実用的である。
【数2】
【数3】
ただし、(F)式において、Lsは、撚り合わせ前のアウターシースフィラメント10の長さに相当し、Psは、コード7の撚りピッチ、即ち撚り合わせ後のアウターシースフィラメント10の長さに相当する。
【0035】
このとき、上述したように、コアフィラメント9には細かい波付け部12が形成され、アウターシースフィラメント10には細かい波付け部が形成されていない。このため、図6に示すように、コアフィラメント9の撚り状態での長さLc1とアウターシースフィラメント10の撚り状態での長さLs1とが等しくても、コアフィラメント9の素線長Lc2はアウターシースフィラメント10の素線長Ls2よりも長くなる。
【0036】
ここで、コアフィラメント9の撚込み係数λcを1.0018以上とすることにより、コアフィラメント9に形成される細かい波付け部11の波の高さが最適化される。これにより、ゴム材8によりゴム物品補強用金属コード7を被覆する際に、コアフィラメント9とアウターシースフィラメント10との間の隙間13にゴム材8が一層浸透しやすくなる。
【0037】
また、アウターシースフィラメント10の撚込み係数λcを1.0018以上とすることにより、アウターシースフィラメント10の撚り角αs(図7参照)が必要以上に小さくならずに済むため、アウターシースフィラメント10の端末部のばらけが抑えられる。これにより、各アウターシースフィラメント10の撚線状態を確実に維持することができる。
【0038】
さらに、コアフィラメント9の撚込み係数λcとアウターシースフィラメント10の撚込み係数λcとを1.0095以下とすることにより、コアフィラメント9の撚り角(m=1につき無し)及びアウターシースフィラメント10の撚り角θs(図7参照)が必要以上に大きくならずに済むため、金属コード7の圧縮剛性の低下をより確実に抑制することができる。
【0039】
また、コアフィラメント9の撚込み係数λcとアウターシースフィラメント10の撚込み係数λsとが異なり過ぎると、ゴム物品補強用金属コード7が長手方向の圧縮力または引張力を受けたときに、金属コード7としての一体感(まとまり)が無くなってしまう。コアフィラメント9の撚込み係数λcとアウターシースフィラメント10の撚込み係数λsとの関係として、0.999≦λc/λs≦1.005を満足させることにより、金属コード7が長手方向の圧縮力または引張力を受けても、金属コード7としての一体感が十分確保されるようになる。これにより、ゴム物品補強用金属コード7の耐久性が向上する。
【0040】
ゴム物品補強用金属コード7は、図8に示すようなバンチ撚り方式の撚線機14によって製造される。
【0041】
具体的には、サプライボビン15から繰り出されたコアフィラメント9は、1対の歯車16aからなる型付け装置16により2次元に細かく波付けされた状態で繰り出され、ガイドプレート19の中心穴へ導かれる。また、5つのサプライボビン18からそれぞれ繰り出された各アウターシースフィラメント10は、ガイドプレート19の周囲穴を通って撚り合わせ装置17の撚り口ダイス20に送られる。そして、撚り口ダイス20において、コアフィラメント9の周りに5本のアウターシースフィラメント10の螺旋状の撚り合わせが開始される。このとき、コアフィラメント9及び各アウターシースフィラメント10は、まとめて束ねた状態で、ねじりを与えながら撚られる。これにより、コアフィラメント9及び5本のアウターシースフィラメント10からなるゴム物品補強用金属コード7が得られる。そして、このゴム物品補強用金属コード7は、引取キャプスタン21を介して巻取ボビン22に巻き取られる。
【0042】
このようなバンチ撚り方式の撚線機14を使用する場合、コアフィラメント9の線径dcとアウターシースフィラメント10の線径dsとが異なっていると、コアフィラメント9及びアウターシースフィラメント10の単位長さ当たりのねじり量が一定であっても、コアフィラメント9及びアウターシースフィラメント10の永久歪み量が異なることになる。このため、金属コード7としての残留トーションは0でも、コアフィラメント9及びアウターシースフィラメント10がそれぞれ持つ残留トーションは、全く逆で異なる値を示す。この値の差は、両者の線径差が大きいほど顕著となる。この場合には、金属コード7としての残留トーションが経時変化を起こし、後工程において種々のトラブルを起こす可能性がある。
【0043】
コアフィラメント9の線径dcとアウターシースフィラメント10の線径dsとの関係を、上述したように0.92≦dc/ds≦1.08となるように構成することにより、コアフィラメント9及びアウターシースフィラメント10の単位長さ当たりのねじり量に対するコアフィラメント9及びアウターシースフィラメント10の永久歪み量をほぼ同等とすることができる。この場合には、コアフィラメント9及びアウターシースフィラメント10がそれぞれ持つ残留トーションの差が少なくなるため、金属コード7としての残留トーションの経時変化が抑制されるようになる。これにより、金属コード7としての残留トーションが安定化するため、後工程において種々のトラブルを起こすことを防止できる。
【0044】
以上のように本実施形態によれば、ゴム物品補強用金属コード7の内部へのゴム材8の浸透度の向上と、ゴム物品補強用金属コード7の圧縮剛性低下の抑制とを両立させることができる。
【0045】
このようにゴム物品補強用金属コード7の内部へのゴム材8の浸透度が高くなるので、車両用タイヤ1のベルト部6内への水分の入り込みによる金属コード7のさびの発生及び促進を抑えることができる。また、コアフィラメント9とアウターシースフィラメント10との擦れを低減することもできる。これにより、ゴム物品補強用金属コード7の腐食等を抑制し、当該金属コード7及び車両用タイヤ1の耐久性を高くすることが可能となる。
【0046】
また、ゴム物品補強用金属コード7の圧縮剛性の低下が抑制されるので、車両用タイヤ1を装着した車両のコーナリング特性を向上させることができる。
【0047】
本発明に係るゴム物品補強用金属コードの他の実施形態を図9及び図10により説明する。図中、上述した実施形態と同一または同等の部材には同じ符号を付し、その説明を省略する。
【0048】
図9は、本実施形態のゴム物品補強用金属コードの斜視図であり、図10は、そのゴム物品補強用金属コードの断面図である。各図において、本実施形態のゴム物品補強用金属コード30は、コアフィラメント31,32と、これらのコアフィラメント31,32を包囲するようにコアフィラメント31,32に対して螺旋状に撚り合わされた7本のアウターシースフィラメント33とを備えている。
【0049】
コアフィラメント31,32同士は、互いに撚り合わせた状態となっている。また、各アウターシースフィラメント33は、コアフィラメント31,32を包むようにしてその外層で撚り合わせた状態となっている。ここで、コアフィラメント31,32の撚りピッチは、各アウターシースフィラメント33の撚りピッチよりも短いのが望ましい。
【0050】
コアフィラメント31,32及びアウターシースフィラメント33の材料・寸法は、上述したコアフィラメント9及びアウターシースフィラメント10と同様である。このとき、コアフィラメント31,32に対してアウターシースフィラメント33の本数は7本であるため、各アウターフィラメント33間には、適度な空隙34が形成されることとなる。
【0051】
コアフィラメント31には、コアフィラメント31,32の撚りピッチ及び各アウターシースフィラメント33の撚りピッチよりも細かいピッチを有する2次元の波付け部35が形成されている。コアフィラメント32及び各アウターシースフィラメント33には、そのような細かい波付け部35は形成されていない。
【0052】
また、ゴム物品補強用金属コード30において、コアフィラメント31,32の撚込み係数をλc、各アウターシースフィラメント33の撚込み係数をλsとしたときに、上述した(A)〜(C)の関係を満足するように構成されているのが好ましい。このとき、コアフィラメント31,32の撚込み係数λcの算出は、上述した実施形態におけるアウターシースフィラメント10の撚込み係数λsの算出と同様の方法で行う。
【0053】
このようなゴム物品補強用金属コード30は、図11に示すような撚線機60によって製造される。撚線機60は、コアフィラメント31,32を撚り合わせるコア撚り合わせ部61を有している。このコア撚り合わせ部61では、サプライボビン15から繰り出されたコアフィラメント31が型付け装置16により2次元に細かく波付けされた状態で、ガイドプレート62を通ると共に、サプライボビン63から繰り出されたコアフィラメント32がガイドプレート62を通る。そして、ダイス64においてコアフィラメント31,32同士の撚り合わせが開始され、撚り合わせた状態でコアフィラメント31,32が導出される。
【0054】
また、7つのサプライボビン18からそれぞれ繰り出された各アウターシースフィラメント33は、コアフィラメント31,32と共にガイドプレート19を通って撚り合わせ装置17の撚り口ダイス20に送られる。そして、撚り口ダイス20において、コアフィラメント31,32の周りに7本のアウターシースフィラメント10の螺旋状の撚り合わせが開始され、ゴム物品補強用金属コード30が得られる。
【0055】
以上のような本実施形態においては、各アウターフィラメント33間に適度な空隙34を形成し、更にコアフィラメント31に細かい波付け部35を形成することで、コアフィラメント31,32間、コアフィラメント31と各アウターシースフィラメント33との間に隙間36を形成するようにしたので、ゴム物品補強用金属コード30の内部にゴム材を十分に充填させることができる。
【0056】
また、細かい波付け部が形成されていない7本のアウターシースフィラメント33を、コアフィラメント31,32を包むように螺旋状に撚り合わせたので、ゴム物品補強用金属コード30が長手方向の圧縮力を受けたときに、コアフィラメント31の波付け部35の挫屈がアウターシースフィラメント33で確実に受け止められる。これにより、ゴム物品補強用金属コード30の圧縮剛性の低下を抑制することができる。
【0057】
なお、本実施形態では、コアフィラメント31のみに細かい波付け部35を形成したが、そのような波付け部35をコアフィラメント31,32にそれぞれ形成しても良い。
【0058】
本発明に係るゴム物品補強用金属コードの更に他の実施形態を図12及び図13により説明する。図中、上述した実施形態と同一または同等の部材には同じ符号を付し、その説明を省略する。
【0059】
図12は、本実施形態のゴム物品補強用金属コードの斜視図であり、図13は、そのゴム物品補強用金属コードの断面図である。各図において、本実施形態のゴム物品補強用金属コード40は、コアフィラメント41と、2本のコアフィラメント42と、これらのコアフィラメント41,42を包囲するようにコアフィラメント41,42に対して螺旋状に撚り合わされた8本のアウターシースフィラメント43とを備えている。
【0060】
コアフィラメント41,42同士は、互いに撚り合わせた状態となっている。また、各アウターシースフィラメント43は、コアフィラメント41,42を包むようにしてその外層で撚り合わせた状態となっている。各アウターフィラメント43間には、適度な空隙44が形成された状態となっている。
【0061】
各コアフィラメント42には、コアフィラメント41,42の撚りピッチ及び各アウターシースフィラメント43の撚りピッチよりも細かいピッチを有する2次元の波付け部45が形成されている。コアフィラメント41及び各アウターシースフィラメント43には、そのような細かい波付け部45は形成されていない。
【0062】
以上のような本実施形態においても、ゴム物品補強用金属コード40の内部にゴム材を十分に充填させることができると共に、ゴム物品補強用金属コード40の圧縮剛性の低下を抑制することができる。
【0063】
なお、本実施形態では、3本のコアフィラメントのうちの2本(コアフィラメント42)に細かい波付け部45を形成したが、そのような波付け部45を、3本のコアフィラメントのうちの1本のみに形成しても良いし、3本全てのコアフィラメントに形成しても良い。
【0064】
以上、本発明に係るゴム物品補強用金属コードの好適な実施形態について幾つか説明してきたが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。
【0065】
例えば上記実施形態では、少なくとも1本のコアフィラメントに2次元の波付け部を形成したが、当該コアフィラメントに3次元の波付け部を形成しても良い。なお、3次元の波付け部の形成は、図8及び図11に示す撚線機における1対の歯車16aの代わりに、専用の回転波付け装置を用いて行う。このような3次元の波付け部が形成されたコアフィラメントを有するゴム物品補強用金属コードを図14に示す。
【0066】
図14(a)に示すゴム物品補強用金属コード50は、3次元の波型付け部が形成されたコアフィラメント51と、4本のアウターシースフィラメント52とを備えている。図14(b)に示すゴム物品補強用金属コード50は、3次元の波型付け部が形成された2本のコアフィラメント51と、8本のアウターシースフィラメント52とを備えている。図14(c)に示すゴム物品補強用金属コード50は、3次元の波型付け部が形成された3本のコアフィラメント51と、9本のアウターシースフィラメント52とを備えている。
【0067】
また、上記実施形態のゴム物品補強用金属コードでは、使用するコアフィラメントを3本以下としたが、コアフィラメントの本数をm、アウターシースフィラメントの本数をnとしたときに、m+3≦n≦m+6を満たすように構成されていれば良い。ただし、コアフィラメントを4本以上とすると、ゴム物品補強用金属コードの寸法が大きくなる。このため、ゴム物品補強用金属コードをゴム材で被覆するときに、ゴム材の使用量が増大するだけでなく、ゴム物品補強用金属コードの中心部の空隙が大きくなるので、当該空隙にゴム材を浸透させるには波付け部の波の高さを大きくする必要がある。従って、コアフィラメントの本数mとしては、3本以下であるのが好ましい。
【0068】
さらに、上記実施形態は、ゴム物品補強用金属コードを車両用タイヤ1のタイヤ本体2の中に埋設するものであるが、本発明のゴム物品補強用金属コードは、車両用タイヤの他に、搬送ベルトやホース等といったゴム物品の補強材としても適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】本発明に係るゴム物品補強用金属コードの一実施形態を備えたゴム物品として車両用タイヤを示す断面図である。
【図2】図1に示すベルト部の拡大断面図である。
【図3】図1に示すゴム物品補強用金属コードの斜視図である。
【図4】図3に示すゴム物品補強用金属コードの断面図である。
【図5】図3に示すコアフィラメントの側面図である。
【図6】図3に示すコアフィラメント及びアウターシースフィラメントを撚る前後の状態を示す図である。
【図7】図3に示すアウターシースフィラメントの撚り角を示す図である。
【図8】図3に示すゴム物品補強用金属コードを製造するためのバンチ撚り方式の撚線機を示す概略図である。
【図9】本発明に係るゴム物品補強用金属コードの他の実施形態を示す斜視図である。
【図10】図9に示すゴム物品補強用金属コードの断面図である。
【図11】図9に示すゴム物品補強用金属コードを製造するためのバンチ撚り方式の撚線機を示す概略図である。
【図12】本発明に係るゴム物品補強用金属コードの更に他の実施形態を示す斜視図である。
【図13】図12に示すゴム物品補強用金属コードの断面図である。
【図14】本発明に係るゴム物品補強用金属コードの実施形態の変形例を示す断面図である。
【符号の説明】
【0070】
1…車両用タイヤ(ゴム物品)、6…ベルト部(ゴム物品)、7…ゴム物品補強用金属コード、8…ゴム材、9…コアフィラメント、10…アウターシースフィラメント、11…空隙、12…波付け部、30…ゴム物品補強用金属コード、31,32…コアフィラメント、33…アウターシースフィラメント、34…空隙、35…波付け部、40…ゴム物品補強用金属コード、41,42…コアフィラメント、43…アウターシースフィラメント、44…空隙、45…波付け部、50…ゴム物品補強用金属コード、51…コアフィラメント、52…アウターシースフィラメント。
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用タイヤ等といったゴム物品の補強材として使用されるゴム物品補強用金属コード、及びゴム物品補強用金属コードを備えたゴム物品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来のゴム物品補強用金属コードとしては、例えば特許文献1に記載されているものが知られている。この文献に記載のゴム物品補強用金属コードは、芯線と、この芯線に螺旋状に撚り合わされた複数の側線とからなり、芯線及び各側線を形成する複数の素線の少なくとも1本には、素線の軸方向に沿った屈曲部が繰り返し設けられている。この金属コードでは、屈曲部が形成された素線と屈曲部が形成されていない素線との間には隙間が形成されることになるので、金属コードをゴム材で被覆したときに、当該隙間から金属コードの内部にゴム材が十分に充填されるようになる。
【特許文献1】特開平5−24408号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
例えば自動車用タイヤのゴム物品補強用金属コードに求められる要件としては、ゴム浸透度とコーナリング特性に影響を与える圧縮剛性とに優れていることが挙げられる。しかし、最近多用されているゴム物品補強用金属コードでは、上記2つの特性を両立させることが困難である。例えば、上記従来技術のゴム物品補強用金属コードにおいては、ゴム材の浸透度は向上するが、全ての素線に屈曲部を形成していない金属コードに比べて圧縮剛性が低下するという問題がある。その理由としては、素線に屈曲部を形成すると、屈曲部の腹部が外側に現れる部分が存在し、この部分が圧縮負荷に対して弱くなるからである。また、ゴム材の浸透度を最優先するあまり、屈曲部の高さを大きくした場合には、屈曲部の腹部が外側にあるか内側にあるかに関係なく、金属コードの全長に亘って圧縮剛性が低下してしまう。
【0004】
本発明の目的は、コードの圧縮剛性の低下を抑制しつつ、コード内部へのゴム材の浸透度を向上させることができるゴム物品補強用金属コード及びゴム物品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明のゴム物品補強用金属コードは、少なくとも1本のコアフィラメントと、コアフィラメントを包囲するようにコアフィラメントに対して螺旋状に撚り合わされた複数本のアウターシースフィラメントとを備え、少なくとも1本のコアフィラメントには、アウターシースフィラメントの螺旋ピッチよりも細かいピッチを有する波付け部が設けられており、各アウターシースフィラメント間には空隙が形成されており、コアフィラメントの本数をm、アウターシースフィラメントの本数をnとしたときに、m+3≦n≦m+6を満足していることを特徴とするものである。
【0006】
このように本発明においては、少なくとも1本のコアフィラメントに、アウターシースフィラメントの螺旋ピッチ(ゴム物品補強用金属コードの撚りピッチ)よりも細かいピッチを有する波付け部を設けることにより、コアフィラメントとアウターシースフィラメントとの間には適度な隙間が形成されることになる。このため、ゴム物品補強用金属コードをゴム材で被覆するときに、コアフィラメントとアウターシースフィラメントとの間の隙間にゴム材が浸入するため、金属コードの内部にゴム材が充填(浸透)されやすくなる。このとき、全てのアウターシースフィラメント間に空隙を形成することにより、コアフィラメントと各アウターシースフィラメントとの間の隙間にゴム材がほぼ均等に且つ十分浸入するようになる。これにより、金属コードの内部にゴム材が効果的に充填されるようになる。
【0007】
また、各アウターシースフィラメントには波付け部を設けないようにすることで、金属コードが圧縮力(圧縮負荷)を受けても、アウターシースフィラメントが金属コードの圧縮剛性に対して影響を与えることは殆ど無い。ところで、コアフィラメントには波付け部が設けられているので、金属コードが圧縮力を受けると、コアフィラメントの波付け部が外側に挫屈しやすくなるが、コアフィラメントは複数本のアウターシースフィラメントで包囲されているので、当該波付け部の挫屈はアウターシースフィラメントで受け止められることになる。このとき、アウターシースフィラメントの本数nがコアフィラメントの本数mよりも1本または2本多いだけだと、アウターシースフィラメントに対するコアフィラメントの露出領域が広くなるため、アウターシースフィラメントによるコアフィラメントの受け止め作用を有効に発揮させることは困難である。一方、アウターシースフィラメントの線径とコアフィラメントの線径とを同等とするためには、アウターシースフィラメントの本数nをコアフィラメントの本数mよりも7本以上多くすることはできない。そこで、アウターシースフィラメントの本数nをコアフィラメントの本数mよりも3〜6本だけ多くすることにより、コアフィラメントにおいてアウターシースフィラメントに覆われる領域が広くなる。これにより、コアフィラメントの波付け部の挫屈はアウターシースフィラメントで十分に受け止められるので、金属コードの圧縮剛性の低下が抑制される。
【0008】
好ましくは、波付け部を有するコアフィラメントの撚込み係数をλc、アウターフィラメントの撚込み係数をλsとしたときに、0.999≦λc/λs≦1.005を満足している。
【0009】
波付け部を有するコアフィラメントの撚込み係数をλcとアウターフィラメントの撚込み係数λsとの比率(λc/λs)としては、1.0が好ましい。しかし、製造条件にばらつきがあったり、ゴム材の浸透度を考慮してコアフィラメントに細かいピッチを有する波付け部を設けているので、λc/λsに余裕をもたせることが必要である。このとき、撚込み係数λcと撚込み係数λsとが異なり過ぎると、圧縮応力に対してだけでなく、引張応力に対しても、金属コードとしての一体感(まとまり)が無くなる。そこで、0.999≦λc/λs≦1.005を満足させることにより、金属コードが圧縮力または引張力を受けても、金属コードとしての一体感が確保されるようになるため、金属コード全体としての耐久性が向上する。
【0010】
このとき、コアフィラメントの撚込み係数λc及びアウターシースフィラメントの撚込み係数λsは、1.0018〜1.0095の範囲内であることが好ましい。
【0011】
コアフィラメントの撚込み係数λcを1.0018以上とすることにより、コアフィラメントに形成される細かい波付け部の波の高さが十分確保されるようになる。これにより、コアフィラメントとアウターシースフィラメントとの間の隙間にゴム材がより浸入しやすくなるため、金属コードの内部にゴム材が更に十分に充填されるようになる。また、アウターシースフィラメントの撚込み係数λcを1.0018以上とすることにより、アウターシースフィラメントの端末部のばらけが抑えられるため、複数本のアウターシースフィラメントの撚線状態を確実に維持することができる。さらに、コアフィラメントの撚込み係数λc及びアウターシースフィラメントの撚込み係数λcとを1.0095以下とすることにより、金属コードの圧縮剛性の低下を更に抑制することができる。
【0012】
また、好ましくは、コアフィラメントの本数mは1〜3本である。この場合には、ゴム物品補強用金属コードの外形寸法の増大が抑えられるため、ゴム物品補強用金属コードをゴム材で被覆するときに、ゴム材の使用量を必要以上に増やさなくて済む。
【0013】
さらに、好ましくは、コアフィラメントの線径をdc、アウターシースフィラメントの線径をdsとしたときに、0.92≦dc/ds≦1.08を満足している。
【0014】
このようにコアフィラメントの線径dcとアウターシースフィラメントの線径dsとの差を8%以内とすることにより、生産性の高いバンチ撚り方式の撚線機を用いてゴム物品補強用金属コードを製造する際に、コアフィラメント及びアウターシースフィラメントの残留トーションのばらつきを抑えることができる。この場合には、ゴム物品補強用金属コードとしての残留トーションの経時変化が抑制されるため、後工程に与える影響を軽減することができる。
【0015】
また、本発明のゴム物品は、上述したゴム物品補強用金属コードと、ゴム物品補強用金属コードを被覆するゴム材とを備えることを特徴とするものである。
【0016】
このように上記のゴム物品補強用金属コードを具備することにより、上述したように、ゴム物品補強用金属コードをゴム材で被覆するときに、コアフィラメントとアウターシースフィラメントとの間の隙間にゴム材が浸入しやすくなるため、金属コードの内部にゴム材が十分に浸透されるようになる。また、金属コードが圧縮力を受けた時に生じるコアフィラメントの波付け部の挫屈は、細かい波付け部が形成されていないアウターシースフィラメントで十分に受け止められるので、金属コードの圧縮剛性の低下が抑制される。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、ゴム物品補強用金属コードの圧縮剛性の低下を抑制しつつ、ゴム物品補強用金属コードの内部へのゴム材の浸透度を向上させることができる。金属コード内へのゴム材の浸透度が高くなることにより、例えばゴム材の内部に浸入した水分による金属コードのさびの発生及び促進が抑制されるので、ゴム物品補強用金属コード及びゴム物品の耐久性を向上させることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明に係るゴム物品補強用金属コード及びゴム物品の好適な実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0019】
図1は、本発明に係るゴム物品補強用金属コードの一実施形態を備えたゴム物品として車両用タイヤを示す断面図である。図1(a)は乗用車用タイヤの断面図であり、図1(b)はトラック及びバス用タイヤの断面図である。
【0020】
図1(a)に示す車両用タイヤ(乗用車用タイヤ)1はタイヤ本体2を備え、タイヤ本体2は、トレッド部3と、このトレッド部3の両端からタイヤ径方向内側に延びる1対のサイドウォール部4とを有している。タイヤ本体2の内部には、カーカス5及び2層のベルト部6が埋設されている。カーカス5は、例えば複数層の繊維線からなり、トレッド部3から各サイドウォール部4にかけて設けられている。ベルト部6は、トレッド部3におけるカーカス5のタイヤ径方向外側に設けられている。
【0021】
図1(b)に示す車両用タイヤ(トラック及びバス用タイヤ)1は、図1(a)に示す車両用タイヤよりも太いタイヤ本体2を備えている。このタイヤ本体2の内部には、カーカス5及び4層のベルト部6が埋設されている。カーカス5は、例えば複数本の金属線からなっている。
【0022】
ベルト部6は、図2に示すように、複数本のゴム物品補強用金属コード7を並列に配置した状態で、これらのゴム物品補強用金属コード7をゴム材8により一括して被覆してなるものである。ゴム物品補強用金属コード7は、車両用タイヤ1の補強材として使用されるものである。ゴム材8としては、タイヤ本体2を形成するゴムよりも接着性の良いものを使用するのが望ましい。
【0023】
図3はゴム物品補強用金属コード7の斜視図であり、図4はゴム物品補強用金属コード7の断面図である。各図において、ゴム物品補強用金属コード7は、コアフィラメント9と、このコアフィラメント9を包囲するようにコアフィラメント9に対して螺旋状に撚り合わされた5本のアウターシースフィラメント10とを備えている。コアフィラメント9及びアウターシースフィラメント10の表面には、ベルト部6のゴム材8との接着性を高めるためにブラス(Cu−Zn合金)等のめっきが施されている。
【0024】
ここで、コアフィラメント9の線径をdc、アウターシースフィラメント10の線径をdsとしたときに、0.92≦dc/ds≦1.08を満足しているのが好ましく、コアフィラメント9の線径dcとアウターシースフィラメント10の線径dsが同一径であるのが最も好ましい。なお、上記の関係を満たす場合には、コアフィラメント9の線径dcとアウターシースフィラメント10の線径dsは、実質的に同一径であるとする。なお、これらの線径dc,dsは、例えば0.23mm程度である。
【0025】
このとき、コアフィラメント9の本数(1本)に対してアウターシースフィラメント10の本数は5本であるため、各アウターフィラメント10間には、適度な隙間W(例えば0.06mm)を有する空隙11が形成されることとなる。この空隙11は、ゴム物品補強用金属コード7をゴム材8で被覆する際に、金属コード7の内部にゴム材8を浸入させる部分となる。
【0026】
コアフィラメント9には、図5に示すように、各アウターシースフィラメント10の螺旋ピッチ(撚りピッチ)よりも細かいピッチを有する2次元の波状の型付け部(波付け部)12が形成されている。なお、アウターシースフィラメント10の撚りピッチは、例えば12.5mmであり、波付け部12のピッチは、例えば4.5mmである。各アウターシースフィラメント10には、そのような細かい波付け部12は形成されていない。
【0027】
このように各アウターフィラメント10間に所定の空隙11がそれぞれ設けられていることに加え、コアフィラメント9に細かい波付け部12を設けることにより、コアフィラメント9と各アウターシースフィラメント10との間には適度な隙間13が形成されることになる。このため、ゴム材8によりゴム物品補強用金属コード7を被覆する際に、コアフィラメント9と各アウターシースフィラメント10との間にゴム材8が容易にかつ均等に浸透するようになる。これにより、ゴム物品補強用金属コード7の内部にゴム材8が十分に充填される。
【0028】
ところで、仮にアウターシースフィラメント10に細かい波付け部が形成されていると、ゴム物品補強用金属コード7が長手方向の圧縮力を受けたときに、波付け部が金属コード7の外側に膨れて挫屈し、金属コード7の長手方向に働く圧縮力に対する剛性(圧縮剛性)の低下につながる。しかし、各アウターシースフィラメント10には、コアフィラメント9と異なり、そのような細かい波付け部が形成されていないので、アウターシースフィラメント10自体が金属コード7の圧縮剛性に対して影響を与えることは殆ど無い。
【0029】
ただし、コアフィラメント9には波付け部12が設けられているので、ゴム物品補強用金属コード7が長手方向の圧縮力を受けると、コアフィラメント9の波付け部12が金属コード7の外側に挫屈しやすくなる。しかし、コアフィラメント9の周りには複数本のアウターシースフィラメント10が配置されているので、波付け部12の挫屈は各アウターシースフィラメント10で受け止められるようになる。
【0030】
このとき、コアフィラメント9の線径dcとアウターシースフィラメント10の線径dsは実質的に同一径であり、しかもアウターシースフィラメント10の本数は5本であるため、コアフィラメント9においてアウターシースフィラメント10に覆われる領域が多くなり、コアフィラメント9の露出領域が少なくなる。これにより、コアフィラメント9の波付け部12の挫屈はアウターシースフィラメント10で十分に受け止められるので、結果的にゴム物品補強用金属コード7の圧縮剛性の低下が抑制される。
【0031】
また、ゴム物品補強用金属コード7においては、コアフィラメント9の撚込み係数をλc、アウターシースフィラメント10の撚込み係数をλsとしたときに、下記の関係を満足するように構成されているのが好ましい。
1.0018≦λc≦1.0095 …(A)
1.0018≦λs≦1.0095 …(B)
0.999≦λc/λs≦1.005 …(C)
【0032】
ここで、コアフィラメント9及びアウターシースフィラメント10は、撚り合わせ構造となっているため、撚る前のまっすぐな状態のフィラメント(素線)よりも短くなる。この撚りによるフィラメントの長さの短縮が撚込みであり、その短縮率を一般的に撚込み率という。ただし、ここでは便宜上、撚り合わせ前長さに対する撚り合わせ後長さの比率を撚込み係数として使用することにする。
【0033】
つまり、図6に示すように、コアフィラメント9の撚り状態での長さをLc1、コアフィラメント9の撚る前の長さ(素線長)をLc2としたとき、コアフィラメント9の撚込み係数λcは、下記(D)式で表される。そこで、例えば引っ張り試験により撚り合わせ後のコアフィラメント9を直線になるように引っ張って、コアフィラメント9の素線長を求め、下記(D)式を用いてコアフィラメント9の撚込み係数λcを得る。
【数1】
【0034】
また、同様に、アウターシースフィラメント10の撚り状態での長さをLs1、アウターシースフィラメント10の撚る前の長さ(素線長)をLs2としたときに、アウターシースフィラメント10の撚込み係数λsは、下記(E)式で表されるが、実際にはアウターシースフィラメント10を1本毎に測定することはなく、アウターシースフィラメント10の撚り合わせ状態において、ゴム物品補強用金属コード7のコード径及び撚りピッチを測定して、撚り角αs(図7参照)を算出し、下記(F)式で表されるのが実用的である。
【数2】
【数3】
ただし、(F)式において、Lsは、撚り合わせ前のアウターシースフィラメント10の長さに相当し、Psは、コード7の撚りピッチ、即ち撚り合わせ後のアウターシースフィラメント10の長さに相当する。
【0035】
このとき、上述したように、コアフィラメント9には細かい波付け部12が形成され、アウターシースフィラメント10には細かい波付け部が形成されていない。このため、図6に示すように、コアフィラメント9の撚り状態での長さLc1とアウターシースフィラメント10の撚り状態での長さLs1とが等しくても、コアフィラメント9の素線長Lc2はアウターシースフィラメント10の素線長Ls2よりも長くなる。
【0036】
ここで、コアフィラメント9の撚込み係数λcを1.0018以上とすることにより、コアフィラメント9に形成される細かい波付け部11の波の高さが最適化される。これにより、ゴム材8によりゴム物品補強用金属コード7を被覆する際に、コアフィラメント9とアウターシースフィラメント10との間の隙間13にゴム材8が一層浸透しやすくなる。
【0037】
また、アウターシースフィラメント10の撚込み係数λcを1.0018以上とすることにより、アウターシースフィラメント10の撚り角αs(図7参照)が必要以上に小さくならずに済むため、アウターシースフィラメント10の端末部のばらけが抑えられる。これにより、各アウターシースフィラメント10の撚線状態を確実に維持することができる。
【0038】
さらに、コアフィラメント9の撚込み係数λcとアウターシースフィラメント10の撚込み係数λcとを1.0095以下とすることにより、コアフィラメント9の撚り角(m=1につき無し)及びアウターシースフィラメント10の撚り角θs(図7参照)が必要以上に大きくならずに済むため、金属コード7の圧縮剛性の低下をより確実に抑制することができる。
【0039】
また、コアフィラメント9の撚込み係数λcとアウターシースフィラメント10の撚込み係数λsとが異なり過ぎると、ゴム物品補強用金属コード7が長手方向の圧縮力または引張力を受けたときに、金属コード7としての一体感(まとまり)が無くなってしまう。コアフィラメント9の撚込み係数λcとアウターシースフィラメント10の撚込み係数λsとの関係として、0.999≦λc/λs≦1.005を満足させることにより、金属コード7が長手方向の圧縮力または引張力を受けても、金属コード7としての一体感が十分確保されるようになる。これにより、ゴム物品補強用金属コード7の耐久性が向上する。
【0040】
ゴム物品補強用金属コード7は、図8に示すようなバンチ撚り方式の撚線機14によって製造される。
【0041】
具体的には、サプライボビン15から繰り出されたコアフィラメント9は、1対の歯車16aからなる型付け装置16により2次元に細かく波付けされた状態で繰り出され、ガイドプレート19の中心穴へ導かれる。また、5つのサプライボビン18からそれぞれ繰り出された各アウターシースフィラメント10は、ガイドプレート19の周囲穴を通って撚り合わせ装置17の撚り口ダイス20に送られる。そして、撚り口ダイス20において、コアフィラメント9の周りに5本のアウターシースフィラメント10の螺旋状の撚り合わせが開始される。このとき、コアフィラメント9及び各アウターシースフィラメント10は、まとめて束ねた状態で、ねじりを与えながら撚られる。これにより、コアフィラメント9及び5本のアウターシースフィラメント10からなるゴム物品補強用金属コード7が得られる。そして、このゴム物品補強用金属コード7は、引取キャプスタン21を介して巻取ボビン22に巻き取られる。
【0042】
このようなバンチ撚り方式の撚線機14を使用する場合、コアフィラメント9の線径dcとアウターシースフィラメント10の線径dsとが異なっていると、コアフィラメント9及びアウターシースフィラメント10の単位長さ当たりのねじり量が一定であっても、コアフィラメント9及びアウターシースフィラメント10の永久歪み量が異なることになる。このため、金属コード7としての残留トーションは0でも、コアフィラメント9及びアウターシースフィラメント10がそれぞれ持つ残留トーションは、全く逆で異なる値を示す。この値の差は、両者の線径差が大きいほど顕著となる。この場合には、金属コード7としての残留トーションが経時変化を起こし、後工程において種々のトラブルを起こす可能性がある。
【0043】
コアフィラメント9の線径dcとアウターシースフィラメント10の線径dsとの関係を、上述したように0.92≦dc/ds≦1.08となるように構成することにより、コアフィラメント9及びアウターシースフィラメント10の単位長さ当たりのねじり量に対するコアフィラメント9及びアウターシースフィラメント10の永久歪み量をほぼ同等とすることができる。この場合には、コアフィラメント9及びアウターシースフィラメント10がそれぞれ持つ残留トーションの差が少なくなるため、金属コード7としての残留トーションの経時変化が抑制されるようになる。これにより、金属コード7としての残留トーションが安定化するため、後工程において種々のトラブルを起こすことを防止できる。
【0044】
以上のように本実施形態によれば、ゴム物品補強用金属コード7の内部へのゴム材8の浸透度の向上と、ゴム物品補強用金属コード7の圧縮剛性低下の抑制とを両立させることができる。
【0045】
このようにゴム物品補強用金属コード7の内部へのゴム材8の浸透度が高くなるので、車両用タイヤ1のベルト部6内への水分の入り込みによる金属コード7のさびの発生及び促進を抑えることができる。また、コアフィラメント9とアウターシースフィラメント10との擦れを低減することもできる。これにより、ゴム物品補強用金属コード7の腐食等を抑制し、当該金属コード7及び車両用タイヤ1の耐久性を高くすることが可能となる。
【0046】
また、ゴム物品補強用金属コード7の圧縮剛性の低下が抑制されるので、車両用タイヤ1を装着した車両のコーナリング特性を向上させることができる。
【0047】
本発明に係るゴム物品補強用金属コードの他の実施形態を図9及び図10により説明する。図中、上述した実施形態と同一または同等の部材には同じ符号を付し、その説明を省略する。
【0048】
図9は、本実施形態のゴム物品補強用金属コードの斜視図であり、図10は、そのゴム物品補強用金属コードの断面図である。各図において、本実施形態のゴム物品補強用金属コード30は、コアフィラメント31,32と、これらのコアフィラメント31,32を包囲するようにコアフィラメント31,32に対して螺旋状に撚り合わされた7本のアウターシースフィラメント33とを備えている。
【0049】
コアフィラメント31,32同士は、互いに撚り合わせた状態となっている。また、各アウターシースフィラメント33は、コアフィラメント31,32を包むようにしてその外層で撚り合わせた状態となっている。ここで、コアフィラメント31,32の撚りピッチは、各アウターシースフィラメント33の撚りピッチよりも短いのが望ましい。
【0050】
コアフィラメント31,32及びアウターシースフィラメント33の材料・寸法は、上述したコアフィラメント9及びアウターシースフィラメント10と同様である。このとき、コアフィラメント31,32に対してアウターシースフィラメント33の本数は7本であるため、各アウターフィラメント33間には、適度な空隙34が形成されることとなる。
【0051】
コアフィラメント31には、コアフィラメント31,32の撚りピッチ及び各アウターシースフィラメント33の撚りピッチよりも細かいピッチを有する2次元の波付け部35が形成されている。コアフィラメント32及び各アウターシースフィラメント33には、そのような細かい波付け部35は形成されていない。
【0052】
また、ゴム物品補強用金属コード30において、コアフィラメント31,32の撚込み係数をλc、各アウターシースフィラメント33の撚込み係数をλsとしたときに、上述した(A)〜(C)の関係を満足するように構成されているのが好ましい。このとき、コアフィラメント31,32の撚込み係数λcの算出は、上述した実施形態におけるアウターシースフィラメント10の撚込み係数λsの算出と同様の方法で行う。
【0053】
このようなゴム物品補強用金属コード30は、図11に示すような撚線機60によって製造される。撚線機60は、コアフィラメント31,32を撚り合わせるコア撚り合わせ部61を有している。このコア撚り合わせ部61では、サプライボビン15から繰り出されたコアフィラメント31が型付け装置16により2次元に細かく波付けされた状態で、ガイドプレート62を通ると共に、サプライボビン63から繰り出されたコアフィラメント32がガイドプレート62を通る。そして、ダイス64においてコアフィラメント31,32同士の撚り合わせが開始され、撚り合わせた状態でコアフィラメント31,32が導出される。
【0054】
また、7つのサプライボビン18からそれぞれ繰り出された各アウターシースフィラメント33は、コアフィラメント31,32と共にガイドプレート19を通って撚り合わせ装置17の撚り口ダイス20に送られる。そして、撚り口ダイス20において、コアフィラメント31,32の周りに7本のアウターシースフィラメント10の螺旋状の撚り合わせが開始され、ゴム物品補強用金属コード30が得られる。
【0055】
以上のような本実施形態においては、各アウターフィラメント33間に適度な空隙34を形成し、更にコアフィラメント31に細かい波付け部35を形成することで、コアフィラメント31,32間、コアフィラメント31と各アウターシースフィラメント33との間に隙間36を形成するようにしたので、ゴム物品補強用金属コード30の内部にゴム材を十分に充填させることができる。
【0056】
また、細かい波付け部が形成されていない7本のアウターシースフィラメント33を、コアフィラメント31,32を包むように螺旋状に撚り合わせたので、ゴム物品補強用金属コード30が長手方向の圧縮力を受けたときに、コアフィラメント31の波付け部35の挫屈がアウターシースフィラメント33で確実に受け止められる。これにより、ゴム物品補強用金属コード30の圧縮剛性の低下を抑制することができる。
【0057】
なお、本実施形態では、コアフィラメント31のみに細かい波付け部35を形成したが、そのような波付け部35をコアフィラメント31,32にそれぞれ形成しても良い。
【0058】
本発明に係るゴム物品補強用金属コードの更に他の実施形態を図12及び図13により説明する。図中、上述した実施形態と同一または同等の部材には同じ符号を付し、その説明を省略する。
【0059】
図12は、本実施形態のゴム物品補強用金属コードの斜視図であり、図13は、そのゴム物品補強用金属コードの断面図である。各図において、本実施形態のゴム物品補強用金属コード40は、コアフィラメント41と、2本のコアフィラメント42と、これらのコアフィラメント41,42を包囲するようにコアフィラメント41,42に対して螺旋状に撚り合わされた8本のアウターシースフィラメント43とを備えている。
【0060】
コアフィラメント41,42同士は、互いに撚り合わせた状態となっている。また、各アウターシースフィラメント43は、コアフィラメント41,42を包むようにしてその外層で撚り合わせた状態となっている。各アウターフィラメント43間には、適度な空隙44が形成された状態となっている。
【0061】
各コアフィラメント42には、コアフィラメント41,42の撚りピッチ及び各アウターシースフィラメント43の撚りピッチよりも細かいピッチを有する2次元の波付け部45が形成されている。コアフィラメント41及び各アウターシースフィラメント43には、そのような細かい波付け部45は形成されていない。
【0062】
以上のような本実施形態においても、ゴム物品補強用金属コード40の内部にゴム材を十分に充填させることができると共に、ゴム物品補強用金属コード40の圧縮剛性の低下を抑制することができる。
【0063】
なお、本実施形態では、3本のコアフィラメントのうちの2本(コアフィラメント42)に細かい波付け部45を形成したが、そのような波付け部45を、3本のコアフィラメントのうちの1本のみに形成しても良いし、3本全てのコアフィラメントに形成しても良い。
【0064】
以上、本発明に係るゴム物品補強用金属コードの好適な実施形態について幾つか説明してきたが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。
【0065】
例えば上記実施形態では、少なくとも1本のコアフィラメントに2次元の波付け部を形成したが、当該コアフィラメントに3次元の波付け部を形成しても良い。なお、3次元の波付け部の形成は、図8及び図11に示す撚線機における1対の歯車16aの代わりに、専用の回転波付け装置を用いて行う。このような3次元の波付け部が形成されたコアフィラメントを有するゴム物品補強用金属コードを図14に示す。
【0066】
図14(a)に示すゴム物品補強用金属コード50は、3次元の波型付け部が形成されたコアフィラメント51と、4本のアウターシースフィラメント52とを備えている。図14(b)に示すゴム物品補強用金属コード50は、3次元の波型付け部が形成された2本のコアフィラメント51と、8本のアウターシースフィラメント52とを備えている。図14(c)に示すゴム物品補強用金属コード50は、3次元の波型付け部が形成された3本のコアフィラメント51と、9本のアウターシースフィラメント52とを備えている。
【0067】
また、上記実施形態のゴム物品補強用金属コードでは、使用するコアフィラメントを3本以下としたが、コアフィラメントの本数をm、アウターシースフィラメントの本数をnとしたときに、m+3≦n≦m+6を満たすように構成されていれば良い。ただし、コアフィラメントを4本以上とすると、ゴム物品補強用金属コードの寸法が大きくなる。このため、ゴム物品補強用金属コードをゴム材で被覆するときに、ゴム材の使用量が増大するだけでなく、ゴム物品補強用金属コードの中心部の空隙が大きくなるので、当該空隙にゴム材を浸透させるには波付け部の波の高さを大きくする必要がある。従って、コアフィラメントの本数mとしては、3本以下であるのが好ましい。
【0068】
さらに、上記実施形態は、ゴム物品補強用金属コードを車両用タイヤ1のタイヤ本体2の中に埋設するものであるが、本発明のゴム物品補強用金属コードは、車両用タイヤの他に、搬送ベルトやホース等といったゴム物品の補強材としても適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】本発明に係るゴム物品補強用金属コードの一実施形態を備えたゴム物品として車両用タイヤを示す断面図である。
【図2】図1に示すベルト部の拡大断面図である。
【図3】図1に示すゴム物品補強用金属コードの斜視図である。
【図4】図3に示すゴム物品補強用金属コードの断面図である。
【図5】図3に示すコアフィラメントの側面図である。
【図6】図3に示すコアフィラメント及びアウターシースフィラメントを撚る前後の状態を示す図である。
【図7】図3に示すアウターシースフィラメントの撚り角を示す図である。
【図8】図3に示すゴム物品補強用金属コードを製造するためのバンチ撚り方式の撚線機を示す概略図である。
【図9】本発明に係るゴム物品補強用金属コードの他の実施形態を示す斜視図である。
【図10】図9に示すゴム物品補強用金属コードの断面図である。
【図11】図9に示すゴム物品補強用金属コードを製造するためのバンチ撚り方式の撚線機を示す概略図である。
【図12】本発明に係るゴム物品補強用金属コードの更に他の実施形態を示す斜視図である。
【図13】図12に示すゴム物品補強用金属コードの断面図である。
【図14】本発明に係るゴム物品補強用金属コードの実施形態の変形例を示す断面図である。
【符号の説明】
【0070】
1…車両用タイヤ(ゴム物品)、6…ベルト部(ゴム物品)、7…ゴム物品補強用金属コード、8…ゴム材、9…コアフィラメント、10…アウターシースフィラメント、11…空隙、12…波付け部、30…ゴム物品補強用金属コード、31,32…コアフィラメント、33…アウターシースフィラメント、34…空隙、35…波付け部、40…ゴム物品補強用金属コード、41,42…コアフィラメント、43…アウターシースフィラメント、44…空隙、45…波付け部、50…ゴム物品補強用金属コード、51…コアフィラメント、52…アウターシースフィラメント。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1本のコアフィラメントと、
前記コアフィラメントを包囲するように前記コアフィラメントに対して螺旋状に撚り合わされた複数本のアウターシースフィラメントとを備え、
前記少なくとも1本のコアフィラメントには、前記アウターシースフィラメントの螺旋ピッチよりも細かいピッチを有する波付け部が設けられており、
前記各アウターシースフィラメント間には空隙が形成されており、
前記コアフィラメントの本数をm、前記アウターシースフィラメントの本数をnとしたときに、m+3≦n≦m+6を満足していることを特徴とするゴム物品補強用金属コード。
【請求項2】
前記波付け部を有する前記コアフィラメントの撚込み係数をλc、前記アウターフィラメントの撚込み係数をλsとしたときに、0.999≦λc/λs≦1.005を満足していることを特徴とする請求項1記載のゴム物品補強用金属コード。
【請求項3】
前記コアフィラメントの撚込み係数λc及び前記アウターシースフィラメントの撚込み係数λsは、1.0018〜1.0095の範囲内であることを特徴とする請求項2記載のゴム物品補強用金属コード。
【請求項4】
前記コアフィラメントの本数mは1〜3本であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項記載のゴム物品補強用金属コード。
【請求項5】
前記コアフィラメントの線径をdc、前記アウターシースフィラメントの線径をdsとしたときに、0.92≦dc/ds≦1.08を満足していることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項記載のゴム物品補強用金属コード。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項記載のゴム物品補強用金属コードと、
前記ゴム物品補強用金属コードを被覆するゴム材とを備えることを特徴とするゴム物品。
【請求項1】
少なくとも1本のコアフィラメントと、
前記コアフィラメントを包囲するように前記コアフィラメントに対して螺旋状に撚り合わされた複数本のアウターシースフィラメントとを備え、
前記少なくとも1本のコアフィラメントには、前記アウターシースフィラメントの螺旋ピッチよりも細かいピッチを有する波付け部が設けられており、
前記各アウターシースフィラメント間には空隙が形成されており、
前記コアフィラメントの本数をm、前記アウターシースフィラメントの本数をnとしたときに、m+3≦n≦m+6を満足していることを特徴とするゴム物品補強用金属コード。
【請求項2】
前記波付け部を有する前記コアフィラメントの撚込み係数をλc、前記アウターフィラメントの撚込み係数をλsとしたときに、0.999≦λc/λs≦1.005を満足していることを特徴とする請求項1記載のゴム物品補強用金属コード。
【請求項3】
前記コアフィラメントの撚込み係数λc及び前記アウターシースフィラメントの撚込み係数λsは、1.0018〜1.0095の範囲内であることを特徴とする請求項2記載のゴム物品補強用金属コード。
【請求項4】
前記コアフィラメントの本数mは1〜3本であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項記載のゴム物品補強用金属コード。
【請求項5】
前記コアフィラメントの線径をdc、前記アウターシースフィラメントの線径をdsとしたときに、0.92≦dc/ds≦1.08を満足していることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項記載のゴム物品補強用金属コード。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項記載のゴム物品補強用金属コードと、
前記ゴム物品補強用金属コードを被覆するゴム材とを備えることを特徴とするゴム物品。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2007−197861(P2007−197861A)
【公開日】平成19年8月9日(2007.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−16784(P2006−16784)
【出願日】平成18年1月25日(2006.1.25)
【出願人】(302061613)住友電工スチールワイヤー株式会社 (163)
【出願人】(504211429)栃木住友電工株式会社 (50)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年8月9日(2007.8.9)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年1月25日(2006.1.25)
【出願人】(302061613)住友電工スチールワイヤー株式会社 (163)
【出願人】(504211429)栃木住友電工株式会社 (50)
【Fターム(参考)】
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