説明

ゴム組成物の混練方法及び混練設備

【課題】混練時の温度条件を一定にしてゴム組成物の物性のバラツキを小さくすることを可能にしたゴム組成物の混練方法及び混練設備を提供する。
【解決手段】ミキサー1の混練部2内に一対のローター3,3を備えると共に、混練部2内に高温気体を導入するための気体導入路11を設けた混練設備を用い、ゴム組成物の混練を複数のバッチに分けて反復的に連続して行う方法であって、長時間停止後の初回混練時に、混練部2内に高温気体を導入することにより、混練部2を連続混練時の混練開始温度と同じ温度まで予熱し、その予熱状態からゴム組成物の混練を開始する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリカ及びシランカップリング剤を配合してなるゴム組成物を混練する場合に好適なゴム組成物の混練方法及び混練設備に関し、さらに詳しくは、混練時の温度条件を一定にしてゴム組成物の物性のバラツキを小さくすることを可能にしたゴム組成物の混練方法及び混練設備に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ゴム補強用充填剤として、カーボンブラックの替わりにシリカが使用されるようになっている。シリカをゴム組成物に配合するに際し、ゴム中へのシリカ粒子の分散を良くするためにシランカップリング剤を添加するのが一般的である。このようなシリカ配合のゴム組成物を混練する場合、シランカップリング剤の反応を制御することが重要である(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
ところで、ゴム組成物の混練設備として、一対のローターを備えた密閉式のミキサーが広く普及している(例えば、特許文献2参照)。そのため、シリカ配合のゴム組成物の混練にも密閉式のミキサーを使用することが望まれている。そこで、シランカップリング剤の反応を十分に行うために、密閉式のミキサーのローター速度を可変にし、温度を一定に保つようにローター速度を調整したり、或いは、密閉式のミキサーを使用しつつ分散用の混練ステップと反応用の混練ステップとを組み合わせることが行われている。
【0004】
また、密閉式のミキサーを用いてゴム組成物を混練する場合、ゴム組成物の混練を複数のバッチに分けて反復的に連続して行うのが一般的である。初回以降の連続混練時においては、ミキサーの温調手段の設定とローター速度の調整によって温度条件を一定に保つことが可能である。しかしながら、長時間停止後の初回混練時にはミキサーの温度が低下しているため、連続混練時と同じ混練条件を設定した場合、初回混練時のゴム組成物の到達温度が相対的に低くなり、混練されたゴム組成物の物性にバラツキを生じるという問題がある。また、初回混練時の温度条件を連続混練時の温度条件と同じにするために、ローター速度を調整したり、混練時間を延長することが考えられるが、この場合も混練条件がバッチ毎に異なるためゴム組成物の物性にバラツキを生じる原因となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−175208号公報
【特許文献2】特開平9−220718号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、混練時の温度条件を一定にしてゴム組成物の物性のバラツキを小さくすることを可能にしたゴム組成物の混練方法及び混練設備を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するための本発明のゴム組成物の混練方法は、ミキサーの混練部内に一対のローターを備えると共に、前記混練部内に高温気体を導入するための気体導入路を設けた混練設備を用い、ゴム組成物の混練を複数のバッチに分けて反復的に連続して行う方法であって、長時間停止後の初回混練時に、前記混練部内に高温気体を導入することにより、前記混練部を連続混練時の混練開始温度と同じ温度まで予熱し、その予熱状態からゴム組成物の混練を開始することを特徴とするものである。
【0008】
また、上記目的を達成するための本発明のゴム組成物の混練設備は、ミキサーの混練部内に一対のローターを備えると共に、前記混練部内に高温気体を導入するための気体導入路を設けたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明では、ミキサーの混練部内に一対のローターを備えると共に、混練部内に高温気体を導入するための気体導入路を設けた混練設備を用い、長時間停止後の初回混練時に、混練部内に高温気体を導入することにより、混練部を連続混練時の混練開始温度と同じ温度まで予熱し、その予熱状態からゴム組成物の混練を開始するので、ローター速度や混練時間等の混練条件を変更することなく、初回混練時の温度条件を連続混練時の温度条件に合わせることができる。そのため、混練時の温度条件を一定にしてゴム組成物の物性のバラツキを小さくすることができる。
【0010】
本発明において、混練設備に混練部から高温気体を回収するための気体回収路を設け、予熱時に気体導入路を介して混練部内に導入した高温気体を気体回収路を介して回収することが好ましい。これにより、高温気体がミキサーの混練部内を効率良く循環するため、予熱温度を容易に制御することができる。また、高温気体を回収することは消費エネルギーの削減にも寄与する。
【0011】
混練対象となるゴム組成物はシリカ及びシランカップリング剤を配合してなるゴム組成物であることが好ましい。シリカ配合のゴム組成物について、シリカのシラニゼーション反応のバラツキをバッチ間で小さくすることにより、ゴム組成物の物性のバラツキを小さくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施形態からなるゴム組成物の混練設備を概略的に示す断面図である。
【図2】本発明の実施形態からなるゴム組成物の混練方法における混練時間とミキサーの混練部の表面温度との関係を示すグラフである。
【図3】本発明の他の実施形態からなるゴム組成物の混練設備を概略的に示す断面図である。
【図4】従来例、実施例及び比較例における混練時間とミキサーの混練部の表面温度との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の構成について添付の図面を参照しながら詳細に説明する。図1は本発明の実施形態からなるゴム組成物の混練設備を示すものである。図1において、密閉式のミキサー1は、混練部2内に一対のローター3,3を備えている。混練部2の上部にはゴム組成物の投入口があり、該投入口が鉛直方向に進退自在のラム4で閉塞されるようになっている。一方、混練部2の下部には混練されたゴム組成物の排出口があり、該排出口に開閉自在のドロップドア5が設けられている。
【0014】
上記ミキサー1には、混練部2内に高温気体を導入するための気体導入路11と、混練部2から高温気体を回収するための気体回収路12とが付設されている。つまり、気体導入路11から供給される高温気体は混練部2を通って気体回収路12を介して回収されるようになっている。
【0015】
上述したゴム組成物の混練設備を用いてゴム組成物の混練を複数のバッチに分けて反復的に連続して行う場合、ラム4を開けて1バッチ目のゴム組成物をミキサー1の混練部2内に投入し、ラム4を閉めた状態で一対のローター3,3を回転させることにより、これらローター3,3と混練部2との間の剪断力に基づいて1バッチ目のゴム組成物を混練し、その後、1バッチ目のゴム組成物をドロップドア5から排出する。同様にして、2バッチ目以降のゴム組成物についても順次混練を行う。
【0016】
図2は本発明の実施形態からなるゴム組成物の混練方法における混練時間とミキサーの混練部の表面温度との関係を示すグラフである。本発明では、上述したゴム組成物の混練設備を用いてゴム組成物の混練を複数のバッチに分けて反復的に連続して行うにあたって、先ず、長時間停止後の初回混練時に、気体導入路11を介して混練部2内に高温気体を導入することにより、混練部2を連続混練時(2回目以降の混練時)の混練開始温度と同じ温度まで予熱し、その予熱状態から1バッチ目のゴム組成物の混練を開始する。
【0017】
つまり、図2においては、混練開始によりミキサー1の混練部2の表面温度が上昇し、混練が完了してゴム組成物が放出されるとミキサー1の混練部2の表面温度が降下するという温度変化が反復的に繰り返されているが、初回混練時の混練開始温度が連続混練時の混練開始温度と同じになるように初回混練時に予熱を行うのである。例えば、図2において、初回混練時の混練開始温度T1を予熱により連続混練時の混練開始温度T2,T3,T4と同じにするのである。但し、本発明においては、初回混練時の混練開始温度T1を予熱により連続混練時の混練開始温度T2〜T4に揃えるようにするが、厳密に一致させる必要はなく、例えば、連続混練時の混練開始温度の平均値に対する誤差が1℃以下であれば良い。
【0018】
このように長時間停止後の初回混練時に、混練部2内に高温気体を導入して混練部2を連続混練時の混練開始温度と同じ温度まで予熱し、その予熱状態からゴム組成物の混練を開始することにより、ローター速度や混練時間等の混練条件を変更することなく、初回混練時の温度条件を連続混練時の温度条件に合わせることができる。そのため、全てのバッチについて混練時の温度条件を一定にしてゴム組成物の物性のバラツキを小さくすることができる。
【0019】
本発明のゴム組成物の混練方法において、長時間停止後の初回混練時とは、少なくとも5分間の停止期間の後で混練を行う場合を意味する。混練設備を少なくとも5分間停止させた場合、ミキサー1の混練部2の温度低下が顕著になる。
【0020】
本発明において、高温気体とは、加熱された気体を意味するものであるが、その気体の温度は80℃〜250℃であることが好ましく、160℃〜240℃であることが更に好ましい。このような高温気体をミキサー1の混練部2に導入することで、ゴム組成物の加工点を直接過熱することができるため、短時間での予熱が可能となる。但し、高温気体の温度が低過ぎると短時間での予熱が困難になる。高温気体としては、空気、窒素、蒸気、過熱蒸気等を用いることが可能であるが、過熱蒸気は熱量が多く酸素を含まないため最も好ましい。高温気体が酸素を含んでいると、ミキサー1を酸化劣化させる要因となる。
【0021】
なお、通常のミキサーには冷却水による温調設備が備わっているので、その冷却水による温調設備を利用して予熱を行うことが考えられる。しかしながら、このような温調設備では、原理上、瞬時に温度を変更することができない。そのため、初回混練時に既存の冷却水による温調設備を利用して混練部2を連続混練時の混練開始温度と同じ温度まで予熱した場合、初回混練時の冷却効果が低下するため、全てのバッチについて同じ温度条件で混練を行うことができない。
【0022】
混練部2には気体導入路11の導入口を少なくとも1箇所設けるようにすれば良いが、例えば、6箇所設けることが望ましい(図3参照)。その場合、気体導入路11の導入口を混練部2の各ローター3の上下位置と側方位置に配置することにより、均一かつ短時間での予熱が可能となる。ラム4又はドロップドア5の開放により混練部2内の気体を排気することが可能であるため、気体回収路12は必ずしも必要ではない。しかしながら、高温気体の循環効率を高めると共に消費エネルギーを削減するために、気体回収路12の回収口を混練部2に少なくとも1箇所設けることが望ましい。特に、高温気体の循環を均一にするために、気体回収路12の回収口を混練部2の各ローター3に対応する位置に設けることが望ましい(図3参照)。
【0023】
混練対象となるゴム組成物は、特に限定されるものではないが、特にシリカ及びシランカップリング剤を配合してなるゴム組成物について上述の混練方法を適用した場合に顕著な作用効果が得られる。つまり、シリカ配合のゴム組成物ではシリカのシラニゼーション反応の進み具合により物性が大きく影響されるが、バッチ毎の温度条件を一定にすることにより、シラニゼーション反応のバラツキを小さくすることができる。シリカ配合のゴム組成物は、ゴム100重量部に対して、シリカを10〜120重量部、シランカップリング剤をシリカに対して4〜12重量%配合したものであると良い。勿論、ゴム組成物には、カーボンブラックに代表されるシリカ以外の補強用充填剤、軟化剤、加硫剤、加硫促進剤、老化防止剤等のゴム製造業界において使用される各種の添加剤を配合することができる。
【実施例】
【0024】
ゴム組成物の混練を複数のバッチに分けて反復的に連続して行うにあたって、初回混練時の予熱方法及び予熱条件を表1のように異ならせたゴム組成物の混練方法(従来例、実施例及び比較例)を実施した。なお、いずれの場合も、ミキサーには50℃の冷却水による温調設備を備えたものを使用した。
【0025】
従来例は、初回混練時に予熱を行っていない場合である。実施例は、混練部に繋がる気体導入路及び気体回収路を設けた混練設備を用い、初回混練時に、混練部内に200℃の過熱蒸気を30秒間導入することにより、混練部を連続混練時の混練開始温度と同じ温度まで予熱した場合である。比較例は、初回混練時に、冷却水温度を70℃に上昇させて10分間保持することにより、混練部を連続混練時の混練開始温度と同じ温度まで予熱した場合である。
【0026】
これら従来例、実施例及び比較例の混練方法において、初回混練開始時の混練部の表面温度、初回混練時の混練部の到達温度、3回目混練開始時の混練部の表面温度、3回目混練時の混練部の到達温度を測定し、その結果を表1に示した。また、各混練方法におけるミキサーの混練部の表面温度の変化を図4に示した。図4においては、従来例を一点鎖線にて示し、実施例を実線にて示し、比較例を破線にて示した。更に、各バッチで得られたゴム組成物の300%伸張時のモジュラス(M300)をJIS K6251に準拠して測定し、1バッチ目から3バッチ目までのモジュラスのバラツキ幅を求めた。そして、従来例のバラツキ幅を100とする指数にてモジュラスのバラツキを評価し、その結果を表1に併せて示した。この指数値が小さいほどモジュラスのバラツキが少ないことを意味する。
【0027】
【表1】

【0028】
この表1及び図4から判るように、実施例では、予熱により初回混練開始時の混練部の表面温度が連続混練開始時の混練部の表面温度と同じになっているため、初回混練時の混練部の到達温度が連続混練時の混練部の到達温度と同じになり、その結果、各バッチで得られたゴム組成物のモジュラスのバラツキが従来例に比べて小さくなっていた。
【0029】
一方、比較例では、予熱により初回混練開始時の混練部の表面温度が連続混練開始時の混練部の表面温度と同じになっているものの、その予熱に冷却水による温調設備を利用しているため、初回混練時の混練部の到達温度が連続混練時の混練部の到達温度よりも高くなり、その結果、各バッチで得られたゴム組成物のモジュラスのバラツキを小さくする効果が不十分であった。
【符号の説明】
【0030】
1 ミキサー
2 混練部
3 ローター
4 ラム
5 ドロップドア
11 気体導入路
12 気体回収路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ミキサーの混練部内に一対のローターを備えると共に、前記混練部内に高温気体を導入するための気体導入路を設けた混練設備を用い、ゴム組成物の混練を複数のバッチに分けて反復的に連続して行う方法であって、長時間停止後の初回混練時に、前記混練部内に高温気体を導入することにより、前記混練部を連続混練時の混練開始温度と同じ温度まで予熱し、その予熱状態からゴム組成物の混練を開始することを特徴とするゴム組成物の混練方法。
【請求項2】
前記混練設備に前記混練部から高温気体を回収するための気体回収路を設け、予熱時に前記気体導入路を介して前記混練部内に導入した高温気体を前記気体回収路を介して回収することを特徴とする請求項1に記載のゴム組成物の混練方法。
【請求項3】
混練対象となるゴム組成物がシリカ及びシランカップリング剤を配合してなるゴム組成物であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のゴム組成物の混練方法。
【請求項4】
ミキサーの混練部内に一対のローターを備えると共に、前記混練部内に高温気体を導入するための気体導入路を設けたことを特徴とするゴム組成物の混練設備。
【請求項5】
前記混練部から高温気体を回収するための気体回収路を設けたことを特徴とする請求項4に記載のゴム組成物の混練設備。
【請求項6】
混練対象となるゴム組成物がシリカ及びシランカップリング剤を配合してなるゴム組成物であることを特徴とする請求項4又は請求項5に記載のゴム組成物の混練設備。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−110748(P2011−110748A)
【公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−267349(P2009−267349)
【出願日】平成21年11月25日(2009.11.25)
【出願人】(000006714)横浜ゴム株式会社 (4,905)
【Fターム(参考)】