説明

ゴム組成物及びそれをビードフィラーとして用いた空気入りタイヤ

【課題】高硬度を維持しつつ、加硫ゴムの耐熱老化性及び耐屈曲疲労性に優れたゴム組成物を提供する。
【解決手段】(A)少なくとも1種の硫黄加硫可能なジエン系ゴム100重量部、 (B)カーボンブラック20〜130重量部 (C)ノボラック型変性フェノール系樹脂1〜30重量部、並びに (D)式(I):


(式中、Rは置換もしくは非置換のC2〜C20のアルキレン基又はオキシアルキレン基を示し、nは1〜20の数である)の有機スルフィド化合物0.1〜20重量部を含むゴム組成物並びにそれをビードフィラーとして用いた空気入りタイヤ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はゴム組成物及びそれをビードフィラーとして用いた空気入りタイヤに関し、更に詳しくは特定の有機スルフィド加硫剤を配合した、耐熱老化性及び耐屈曲疲労性が改善されたゴム組成物並びにそれをビードフィラーとして用いた空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
空気入りタイヤのビードフィラーに用いるゴム組成物は自動車の操縦安定性の観点からノボラック型フェノールなどの硬化性樹脂を配合して高硬度化する手法が取られている(特許文献1参照)。しかしながら、かかる高硬度化に伴なって、使用時に著しい架橋構造変化が起こり、ゴムの耐屈曲疲労性が悪化し、ビードフィラーにクラックが入って空気入りタイヤに不具合が生じるおそれがある。
【0003】
【特許文献1】特開2006−152043号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従って、本発明の目的は、高硬度を維持しながら、加硫ゴムの耐熱老化性を改善すると共に耐屈曲疲労性に優れたゴム組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に従えば、(A)少なくとも1種の硫黄加硫可能なジエン系ゴム100重量部、
(B)カーボンブラック20〜130重量部、
(C)ノボラック型変性フェノール系樹脂1〜30重量部、並びに
(D)式(I):
【化1】

(式中、Rは置換もしくは非置換のC2〜C20のアルキレン基又はオキシアルキレン基を示し、nは1〜20の数である)
の有機スルフィド化合物0.1〜20重量部
を含んでなるゴム組成物並びにそれをビードフィラーとして用いた空気入りタイヤが提供される。
【発明の効果】
【0006】
本発明に従えば、ジエン系ゴムに、カーボンブラック及びノボラック型変性フェノール系樹脂と共に、前記式(I)の有機スルフィド化合物を配合することにより、高硬度を維持しつつ、耐熱老化性及び耐屈曲疲労性に優れたゴム組成物を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明者らは、前記課題を解決すべく研究を進めた結果、ジエン系ゴムに、本発明者の知る限りでは新規な化合物である前記式(I)の有機スルフィド化合物を、必要に応じて硫黄などと共に、加硫剤として、カーボンブラック及びノボラック型変性フェノール系樹脂と共に、配合することにより前記目的を達成し得ることを見出した。
【0008】
本発明に係るゴム組成物に成分(A)として配合されるジエン系ゴムは各種ゴム組成物に配合することができる任意のジエン系ゴム、例えば天然ゴム(NR)、ポリイソプレンゴム(IR)、各種スチレン−ブタジエン共重合体ゴム(SBR)、各種ポリブタジエンゴム(BR)、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体ゴム(NBR)、ブチルゴム(IIR)などを単独又は任意のブレンドとして使用することができる。
【0009】
本発明に係るゴム組成物に成分(B)として配合されるカーボンブラックは、タイヤ用などのゴム組成物に配合することができる任意のカーボンブラックを用いることができる。カーボンブラックの配合量は、ジエン系ゴム100重量部に、20〜130重量部、好ましくは55〜115重量部配合する。この配合量が少ないと充分な硬度が確保されないため好ましくなく、逆に多いと破壊強度が低下したり発熱が大きくなるので好ましくない。
【0010】
本発明において(C)成分として使用するノボラック型変性フェノール系樹脂は、ジエン系ゴム100重量部に対して、1〜30重量部、好ましくは5〜20重量部配合する。この配合量が少ないと充分な硬度が得られないので好ましくなく、逆に配合量が多いと破壊強度が低下したり発熱が大きくなるので好ましくない。本発明において使用するノボラック型変性フェノール系樹脂は公知の樹脂であり、例えばスシライトレジンPR−12686R(住友ベークライト製)等の市販される樹脂が挙げられる。
【0011】
本発明に係るゴム組成物に加硫剤成分(D)として、単独又は硫黄などと共に、用いられる前記式(I)(式中、Rは前記定義の通りであり、nは1〜20、好ましくは1〜15の数である)の有機スルフィド化合物は、(i)式:HS−R−SH(式中、Rは前記定義の通りであり、具体的には置換もしくは非置換のC2〜C20、好ましくはC2〜C10のアルキレン基又はオキシアルキレン基を示す)のジチオール化合物(A)又はこのジチオール化合物(A)と式:MOR′(式中、Mはナトリウム、カリウムなどのアルカリ金属であり、R′はC1〜C10、好ましくはC1〜C5のアルキレン基を示す)との反応塩(B)のいずれかと、(ii)式:X2SO(式中、Xは、それぞれ独立に、塩素、臭素などのハロゲン基を示す)を反応(例えば室温で撹拌し、生成する塩を除去する)させることにより製造することができる。
【0012】
前記式(I)のRとしては、具体的には−CH2−CH2−O−CH2−CH2−O−CH2−CH2−、−(CH26−、−(CH24−、−(CH22−O−(CH22−、−(CH22−O−CH2−O−(CH22−であるのが好ましい。なお、式(I)の有機スルフィド化合物についての詳細は平成18年6月13日出願の特願2006−163457号明細書に記載の通りであり、引用によりこの明細書の内容を本明細書に組み入れるものとする。
【0013】
(D)成分である式(I)の有機スルフィド化合物はジエン系ゴム100重量部に対し0.1〜20重量部、好ましくは0.5〜10重量部配合する。この配合量が少ないと耐屈曲疲労性の改善効果が小さいので好ましくなく、逆に多いと未加硫ゴムの粘度低下が大きく、またブリードアウトにより加工性が悪化するので好ましくない。式(I)の有機スルフィド化合物は加硫剤として単独又は硫黄などの汎用の加硫剤と併用することができるが、耐久性の改善の点を考慮すれば加硫剤全重量の20〜80重量%使用するのが好ましい。
【0014】
本発明に係るゴム組成物には、前記した成分に加えて、シリカなどの他の補強剤(フィラー)、加硫(又は架橋)促進剤、各種オイル、老化防止剤、可塑剤などのタイヤ用、その他のゴム組成物用に一般的に配合されている各種添加剤を配合することができ、かかる添加剤は一般的な方法で混練して組成物とし、加硫又は架橋するのに使用することができる。これらの添加剤の配合量は本発明の目的に反しない限り、従来の一般的な配合量とすることができる。
【0015】
本発明に係るゴム組成物は、図1に模式的に示す典型的な空気入りタイヤのビードフィラーとして好適に用いることができ、従来の一般的な空気入りタイヤの製造ラインにそのまま使用することができる。
【実施例】
【0016】
以下、実施例によって本発明を更に説明するが、本発明の範囲をこれらの実施例に限定するものでないことはいうまでもない。
【0017】
製造例1:有機スルフィド化合物(I)の合成
ナスフラスコ中でナトリウムメトキシド11.85g(2.194×10-1モル)を無水メタノールに溶解し、0℃の氷浴にて冷却、撹拌しながら、2,2−エチレンジエタンジチオール(以下DMDO)20g(1.097×10-1モル)を滴下し、この溶液を2時間反応させた。次いで、得られた反応液に、チオニルクロライド13.05g(1.097×10-1モル)を滴下し、室温で2時間反応させた。得られた溶液からメタノールを減圧留去し、トルエン50gに再溶解した。次にこのトルエン溶液の濾過を行い、更に水洗を行い、生成した塩化ナトリウムを除去し、その後80℃減圧下でトルエンを留去し、目的とする有機スルフィド化合物(I)を得た(以下の反応式)参照)。得られた有機スルフィドの分子量をGPCで測定した結果、Mw=3500であった。チャートを図2に示す。NMR帰属は以下の通りであった。
1H−NMR(重クロロホルム)δ:2.9−3.2(4H,CH2Sx),3.6−3.7(4H,CH2O),3.7−3.8(4H,CH2O).
【0018】
【化2】

【0019】
実施例1〜2及び比較例1
サンプルの調製
表Iに示す配合において、加硫促進剤と加硫剤(硫黄及び有機スルフィド化合物(I))を除く成分を1.8リットルの密閉型ミキサーで5分間混練し、160±5℃に達したときに放出してマスターバッチを得た。このマスターバッチに加硫促進剤と加硫剤をオープンロールで混練し、ゴム組成物を得た。
【0020】
次に得られたゴム組成物を試験に適した形状の金型中で160℃で20分間加硫して加硫ゴムシートを調製し、以下に示す試験法で加硫ゴムの物性を測定した。結果は表Iに示す。
【0021】
ゴム物性評価試験法
硬度:熱老化前と熱老化後(80℃×96時間)についてJIS K6253に準拠して測定した。
【0022】
デマッチャ屈曲亀裂成長試験:JIS K6260に準拠し、予め切れ込みを入れた加硫ゴム試験片をチャック間65mm、ストローク10mm、屈曲速度300rpmにて屈曲させ、1万回屈曲ごとの亀裂の成長長さを測定し、亀裂がサンプル両端部まで達したときの回数を表に示した。
【0023】
【表1】

【0024】
表I脚注
*1:SIR−20
*2:日本ゼオン(株)製Nipol 1502
*3:三菱化学(株)製DIA HA(N2SA=74m2/g)
*4:昭和シェル(株)製デゾレックス3号
*5:正同化学工業(株)製酸化亜鉛3種
*6:日本油脂(株)製ビーズステアリン酸
*7:FLEXSYS社製SANTOFLEX 6PPD
*8:FLEXSYS社製SANTOCURE NS
*9:大内新興化学工業(株)製ノクセラーH
*10:住友ベークライト(株)製スシライトレジンPR−12686R(カシュー変性)
*11:アクゾノーベル社製クリステックスHS OT20
*12:製造例1参照
【0025】
表Iの結果から明らかなように、実施例1及び2は比較例1と同程度の初期硬度を有しながら、より優れた耐熱老化性及び屈曲疲労性を示す。
【産業上の利用可能性】
【0026】
以上の通り、本発明に従えば、ジエン系ゴムに、カーボンブラック及びノボラック型変性フェノール系樹脂と共に、前記有機スルフィド化合物を加硫剤として配合することにより高硬度かつ耐熱老化性及び耐屈曲疲労性に優れたゴム組成物を得ることができ、例えば空気入りタイヤのビードフィラー用コンパウンドとして使用することにより高硬度を維持しつつ、耐熱老化性及び耐屈曲疲労性に優れた空気入りタイヤを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明に係るゴム組成物を用いる空気入りタイヤのビードフィラーの使用部位を他の部位と共に模式的に示す典型的な空気入りタイヤの子午線半断面図である。
【図2】製造例1で得られた有機スルフィド化合物(I)のGPCチャート及び化学構造を示す図面である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)少なくとも1種の硫黄加硫可能なジエン系ゴム100重量部、
(B)カーボンブラック20〜130重量部、
(C)ノボラック型変性フェノール系樹脂1〜30重量部、並びに
(D)式(I):
【化1】

(式中、Rは置換もしくは非置換のC2〜C20のアルキレン基又はオキシアルキレン基を示し、nは1〜20の数である)
の有機スルフィド化合物0.1〜20重量部
を含んでなるゴム組成物。
【請求項2】
前記式(I)のRが−CH2−CH2−O−CH2−CH2−O−CH2−CH2−である請求項1に記載のゴム組成物。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のゴム組成物をビードフィラーとして用いた空気入りタイヤ。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−111078(P2008−111078A)
【公開日】平成20年5月15日(2008.5.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−296132(P2006−296132)
【出願日】平成18年10月31日(2006.10.31)
【出願人】(000006714)横浜ゴム株式会社 (4,905)
【Fターム(参考)】