説明

ゴム組成物及びそれを用いたタイヤ

【課題】低ロス性及び耐摩耗性を大幅に向上させたゴム組成物を提供する。
【解決手段】ジエン系ゴムラテックスに極性基含有ヒドラジド化合物を添加して得られる変性ジエン系ゴム(A)を少なくとも含むゴム成分に、充填剤(B)と、特定構造のシランカップリング剤(C)とを配合してなるゴム組成物である。前記変性ジエン系ゴム(A)は、ラジカル発生剤の存在下で前記ジエン系ゴムラテックスを空気酸化した後、前記極性基含有ヒドラジド化合物を付加させてなるゴム組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴム組成物及び該ゴム組成物を用いたタイヤに関し、特には、低ロス性及び耐摩耗性に優れたゴム組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
昨今、自動車の低燃費化に対する要求が強くなりつつあり、転がり抵抗の小さいタイヤが求められている。そのため、タイヤのトレッド等に使用するゴム組成物として、tanδが低く(以下、低ロス性とする)、低発熱性に優れたゴム組成物が求められている。また、トレッド用のゴム組成物においては、低ロス性に加え、耐摩耗性に優れることも求められる。これに対して、ゴム組成物の低ロス性及び耐摩耗性を改良するには、ゴム組成物中のカーボンブラックやシリカ等の充填剤とゴム成分との親和性を向上させることが有効である。
【0003】
例えば、ゴム組成物中の充填剤とゴム成分との親和性を向上させ、充填剤による補強効果を向上させるために、末端変性により充填剤との親和性を向上させた変性ゴムや、官能基含有単量体を共重合させて充填剤との親和性を向上させた変性ゴム等が開発されている。
【0004】
また、ゴム組成物の低ロス性を向上させるには、ゴム組成物に充填剤としてシリカ等の無機充填剤を配合することが有効である。しかしながら、充填剤としてシリカ等の無機充填剤を配合した場合、カーボンブラックを配合したゴム組成物よりも、耐摩耗性が低下するため、低ロス性と耐摩耗性との両方を向上させることは難しい。これに対して、シリカ等の無機充填剤を配合したゴム組成物の耐摩耗性を向上させるためには、シランカップリング剤をゴム組成物に添加することが有効である(下記特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−231416号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、ゴム成分と充填剤の親和性を向上させるために変性ゴムを使用しても、ゴム組成物の低ロス性と耐摩耗性との向上効果は必ずしも十分とはいえず、更なる改善の余地が有った。また、シリカ等の無機充填剤とシランカップリング剤とを併用しても、この場合もやはり、ゴム組成物の低ロス性と耐摩耗性との向上効果は十分とはいえず、更なる改善の余地が有った。
【0007】
そこで、本発明の目的は、上記従来技術の問題を解決し、低ロス性及び耐摩耗性を大幅に向上させたゴム組成物を提供することにある。また、本発明の他の目的は、かかるゴム組成物を用いた低燃費性及び耐摩耗性に優れたタイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記目的を達成するために鋭意検討した結果、特定の変性ジエン系ゴムを少なくとも含むゴム成分に特定のシランカップリング剤を配合してゴム組成物を調製することで、ゴム組成物の低ロス性及び耐摩耗性が著しく向上することを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
即ち、本発明のゴム組成物は、
・ジエン系ゴムラテックスに極性基含有ヒドラジド化合物を添加して得られる変性ジエン系ゴム(A)を少なくとも含むゴム成分に、
・充填剤(B)と、
・下記一般式(1):
【化1】

[式中、R1は−Cl、−Br、R6O−、R6C(=O)O−、R67C=NO−、R67N−又は−(OSiR67m(OSiR567)(ここで、R6及びR7は、それぞれ独立して水素原子又は炭素数1〜18の一価の炭化水素基である)であり、R2はR1、水素原子又は炭素数1〜18の一価の炭化水素基であり、R3はR1、R2又は−[O(R8O)a0.5−基(ここで、R8は炭素数1〜18のアルキレン基で、aは1〜4の整数である)であり、R4は炭素数1〜18の二価の炭化水素基であり、R5は炭素数1〜18の一価の炭化水素基であり、x、y及びzは、x+y+2z=3、0≦x≦3、0≦y≦2、0≦z≦1の関係を満たす数である]で表されるシランカップリング剤(C)と
を配合してなることを特徴とする。
【0010】
本発明のゴム組成物において、前記変性ジエン系ゴム(A)は、ラジカル発生剤の存在下で前記ジエン系ゴムラテックスを空気酸化した後、前記極性基含有ヒドラジド化合物を付加させてなることが好ましい。
【0011】
本発明のゴム組成物において、前記変性ジエン系ゴム(A)は、重量平均分子量が200,000以上であることが好ましい。
【0012】
本発明のゴム組成物の好適例においては、前記極性基含有ヒドラジド化合物の極性基が、アミノ基、イミノ基、ニトリル基、アンモニウム基、イミド基、アミド基、ヒドラゾ基、アゾ基、ジアゾ基、ヒドロキシル基、カルボキシル基、カルボニル基、エポキシ基、オキシカルボニル基、含窒素複素環基、含酸素複素環基、スズ含有基及びアルコキシシリル基からなる群から選択される少なくとも一種である。
【0013】
本発明のゴム組成物において、前記変性ジエン系ゴム(A)は、前記ジエン系ゴムラテックス中のジエン系ゴム分子に前記極性基含有ヒドラジド化合物を0.01〜5.0質量%付加させてなることが好ましい。
【0014】
本発明のゴム組成物の他の好適例においては、前記ゴム成分中の前記変性ジエン系ゴム(A)の割合が10質量%以上である。この場合、本発明の効果が顕著に現れる。
【0015】
本発明のゴム組成物は、前記充填剤(B)として、シリカを含むことが好ましい。ここで、該シリカの配合量は、前記ゴム成分100質量部に対して3〜60質量部であることが好ましい。また、前記シランカップリング剤(C)の配合量は、該シリカの配合量の1〜30質量%であることが好ましい。
【0016】
また、本発明のタイヤは、上記のゴム組成物を用いたことを特徴とし、好ましくは、重荷重用タイヤである。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、特定の変性ジエン系ゴム(A)を少なくとも含むゴム成分に充填剤(B)と特定のシランカップリング剤(C)とを配合してなり、低ロス性及び耐摩耗性に著しく優れるゴム組成物を提供することができる。また、かかるゴム組成物を用いた低燃費性及び耐摩耗性に著しく優れたタイヤを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、本発明を詳細に説明する。本発明のゴム組成物は、ジエン系ゴムラテックスに極性基含有ヒドラジド化合物を添加して得られる変性ジエン系ゴム(A)を少なくとも含むゴム成分に、充填剤(B)と上記一般式(1)で表されるシランカップリング剤(C)とを配合してなる。本発明のゴム組成物において、ゴム成分として用いる変性ジエン系ゴム(A)は、極性基含有ヒドラジド化合物由来の極性基を有するため、充填剤(B)に対する親和性に優れる。また、本発明のゴム組成物において、シランカップリング剤(C)は、変性ジエン系ゴム(A)と充填剤(B)との親和性を更に向上させることができる。そして、変性ジエン系ゴム(A)とシランカップリング剤(C)とを使用して得られる親和性の向上効果は、変性ジエン系ゴム(A)の使用による親和性の向上効果と、シランカップリング剤(C)の使用による親和性の向上効果の和よりも大きい。そのため、本発明のゴム組成物においては、変性ジエン系ゴム(A)とシランカップリング剤(C)とを併用することで、ゴム成分と充填剤の親和性が従来に比べて大幅に向上しており、その結果として、低ロス性及び耐摩耗性に著しく優れる。また、シランカップリング剤(C)を用いることで、加工性を向上させることができる。
【0019】
本発明のゴム組成物のゴム成分は、上記変性ジエン系ゴム(A)を少なくとも含み、該変性ジエン系ゴム(A)のみから構成されていてもよい。ここで、本発明のゴム組成物のゴム成分中の上記変性ジエン系ゴム(A)の割合は、10質量%以上であることが好ましい。ゴム成分の10質量%以上が上記変性ジエン系ゴム(A)の場合、低ロス性及び耐摩耗性の向上効果が顕著に現れる。なお、本発明のゴム組成物のゴム成分は、上記変性ジエン系ゴム(A)以外のゴム成分を含んでもよく、変性ジエン系ゴム(A)以外のゴム成分としては、未変性のジエン系ゴム、例えば、天然ゴム(NR)、スチレン-ブタジエン共重合体ゴム(SBR)、ポリブタジエンゴム(BR)、ポリイソプレンゴム(IR)、ブチルゴム(IIR)、エチレン-プロピレン共重合体等が挙げられる。
【0020】
本発明のゴム組成物に用いる変性ジエン系ゴム(A)は、ジエン系ゴムラテックスに極性基含有ヒドラジド化合物を添加して得られる。ここで、ジエン系ゴムラテックスとしては、天然ゴムラテックス、ポリイソプレンゴムラテックス、スチレン−ブタジエン共重合体ゴムラテックス、ポリブタジエンゴムラテックス、アクリロニトリル−ブタジエンゴムラテックス、クロロプレンゴムラテックス等が挙げられる。該ジエン系ゴムラテックスは、1種単独で用いても、2種以上を混合して用いてもよい。これらの中でも、天然ゴムラテックスが好ましい。
【0021】
上記天然ゴムラテックスとしては、フィールドラテックス、アンモニア処理ラテックス、遠心分離濃縮ラテックス、界面活性剤や酵素で処理した脱蛋白ラテックス、前記のものを組み合わせたものなど、いずれも使用することができる。副反応を少なくするためには、天然ゴムラテックスの純度を上げて使用することが好ましい。
【0022】
上記変性ジエン系ゴム(A)は、上記ジエン系ゴムラテックスを酸化した後、上記極性基含有ヒドラジド化合物をジエン系ゴムの分子鎖の末端に付加させてなることが好ましい。ゴム分子の鎖状分子運動を考慮すると、極性基が分子末端に存在する変性ゴムの方が、極性基が分子鎖中に存在する変性ゴムよりも、充填剤との相互作用を高めることができる。なお、合成ゴムの場合は、合成の過程で分子末端に極性基を導入することが容易であるが、天然ゴムの場合は、分子末端に極性基を導入することが難しいため、上記の方法は、天然ゴムラテックスを使用する場合に、特に有効である。
【0023】
上記ジエン系ゴムラテックスの酸化は、公知の方法で行うことができる。例えば、特開平8−81505号公報に従って、有機溶剤に1〜30質量%の割合で溶解した上記ジエン系ゴムラテックスを金属系酸化触媒の存在下で空気酸化することによって上記ジエン系ゴムラテックスの酸化を行うことができる。ここで、空気酸化を促進するために用いられる金属系酸化触媒の好適な金属種は、コバルト、銅、鉄等であり、これらの塩化物や有機化合物との塩や錯体が金属系酸化触媒として用いられる。なかでも塩化コバルト、コバルトアセチルアセトナート、ナフテン酸コバルト等のコバルト系触媒が好適である。
【0024】
上記有機溶媒としては、それ自体がゴムと反応せず、また容易に酸化されることがなく、ゴムを溶解するものであればよく、種々の炭化水素系溶媒、芳香族炭化水素系溶媒、有機ハロゲン系溶媒等が好適に用いられる。炭化水素系溶媒としては、例えばヘキサン、ガソリン等が使用可能である。芳香族炭化水素系溶媒としては、例えばトルエン、キシレン、ベンゼン等が使用可能である。有機ハロゲン系溶媒としては、例えばクロロホルム、ジクロロメタン等が使用可能である。中でも芳香族炭化水素系のトルエンを用いるのが好適である。また、それらとアルコール等との混合溶媒を用いることも可能である。
【0025】
また、特開平9−136903号公報に記載されているように、上記ジエン系ゴムラテックスにカルボニル化合物を添加し、ジエン系ゴムラテックスを空気酸化することによって、ジエン系ゴムラテックスの酸化を行うことができる。ジエン系ゴムラテックスに添加するカルボニル化合物は、ゴム分に関係なくラテックス容量に対して20容量%(V/V%)以下、好ましくは0.5〜10容量%となるように添加するのが適当である。カルボニル化合物の濃度が上記範囲を超えても問題はないが、反応性を高めないばかりか、経済的に不利となるおそれがある。ここで、カルボニル化合物の好適な例としては、種々のアルデヒド類、ケトン類等が挙げられる。
【0026】
上記アルデヒド類としては、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、n−ブチルアルデヒド、n−バレルアルデヒド、カプロアルデヒド、ヘプタアルデヒド、フェニルアセトアルデヒド、ベンズアルデヒド、トルアルデヒド、ニトロベンズアルデヒド、サリチルアルデヒド、アニスアルデヒド、バニリン、ピペロナール、メチルバレルアルデヒド、イソカプロアルデヒド、パラホルムアルデヒド等が挙げられる。
【0027】
上記ケトン類としては、アセトン、メチルエチルケトン、メチルn−プロピルケトン、ジエチルケトン、イソプロピルメチルケトン、ベンジルメチルケトン、2−ヘキサノン、3−ヘキサノン、イソブチルメチルケトン、アセトフェノン、プロピオフェノン、n−ブチロフェノン、ベンゾフェノン、3−ニトロ−4’−メチルベンゾフェノン等が挙げられる。
【0028】
上述したカルボニル化合物を上記ジエン系ゴムラテックスに添加することによって空気酸化を行うことができるが、特開平9−136903号公報に記載されているように、空気酸化を促進するためにラジカル発生剤の存在下で空気酸化を行うのが特に好ましい。ラジカル発生剤としては、過酸化物系ラジカル発生剤、レドックス系ラジカル発生剤、アゾ系ラジカル発生剤等が好適に用いられる。
【0029】
上記過酸化物系ラジカル発生剤としては、過酸化ベンゾイル、過酸化ジ−t−ブチル、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過酸化水素、過酸化ラウロイル、ジイソプロピルペルオキシカルボナート、ジシクロヘキシルペルオキシカルボナート等が使用できる。
【0030】
上記レドックス系ラジカル発生剤としては、クメンヒドロキシペルオキシドとFe(II)塩、過酸化水素とFe(II)塩、過硫酸カリウム又は過硫酸アンモニウムと亜硫酸ナトリウム、過塩素酸ナトリウムと亜硫酸ナトリウム、硫酸セリウム(IV)とアルコール、アミン又は澱粉、過酸化ベンゾイルや過酸化ラウロイル等の過酸化物とジメチルアニリン、tert−ブチルハイドロパーオキサイドとテトラエチレンペンタミン等が使用できる。
【0031】
上記アゾ系ラジカル発生剤としては、アゾビスイソブチロニトリル、アゾビスイソ酪酸メチル、アゾビスシクロヘキサンカルボニトリル、アゾビスイソブチルアミジン塩酸塩、4,4’−アゾビス−4−シアノ吉草酸等が使用できる。
【0032】
上述のラジカル発生剤は、上記ジエン系ゴムラテックス中に溶解又は分散させて用いられる。ここで、ラジカル発生剤の添加量は、ジエン系ゴム固形分に対して0.01〜5質量%の範囲が好ましく、0.05〜1質量%の範囲が更に好ましい。ラジカル発生剤の濃度が上記範囲より低いと空気酸化の速度が遅く実用的でない。一方、ラジカル発生剤の濃度が上記範囲を超えると、分子鎖切断が進み、分子量の低下に伴い、ゴム組成物としての低ロス性、耐摩耗性が悪化するおそれがある。
【0033】
空気酸化では、溶液を空気と均一に接触させることが望ましい。空気との接触を均一にする手法は特に限定されないが、例えば振盪フラスコ中で振盪させるほか、攪拌や空気を吹き込むバブリング等により容易に行うことができる。空気酸化を進める温度は、通常、室温〜100℃で行われるが、特に限定されるものではない。反応は、通常1〜5時間程度で終了する。
【0034】
また、特開2001−261707号公報の記載に従って、ジエン系ゴムラテックスにオゾン含有ガスを吹き込み、オゾンの酸化作用でジエン系ゴムラテックスの酸化を行うこともできる。この方法では、過酸化水素の添加により、分解反応が促進される。
【0035】
本発明においては、上記の手法によって、上記ジエン系ゴムラテックスを酸化した後、極性基含有ヒドラジド化合物を添加することが好ましい。ここで、後述するように、ジエン系ゴムラテックスを酸化して得られた酸化ジエン系ゴムラテックスに極性基含有ヒドラジド化合物を添加してもよいし、又は得られた酸化ジエン系ゴムラテックスを凝固して得られた酸化ジエン系ゴムに極性基含有ヒドラジド化合物を添加してもよい。
【0036】
上記手法で得られた酸化ジエン系ゴムラテックスは、ジエン系ゴム分子鎖の末端にカルボニル基を有する。一方、極性基含有ヒドラジド化合物は、高い反応性を有するため、酸化ジエン系ゴムラテックス又は該酸化ジエン系ゴムラテックスを凝固して得られた酸化ジエン系ゴム中のジエン系ゴム分子末端のカルボニル基と容易に反応する。そのため、酸化ジエン系ゴムラテックス又は酸化ジエン系ゴムに極性基含有ヒドラジド化合物を添加することで、高価な触媒を用いることなく、ジエン系ゴム分子末端に、簡便かつ安価に極性基を導入することができる。
【0037】
上記極性基含有ヒドラジド化合物としては、分子内に少なくとも一つの極性基を有するヒドラジド化合物であれば特に制限されない。ここで、極性基としては、アミノ基、イミノ基、ニトリル基、アンモニウム基、イミド基、アミド基、ヒドラゾ基、アゾ基、ジアゾ基、ヒドロキシル基、カルボキシル基、カルボ二ル基、エポキシ基、オキシカルボニル基、含窒素複素環基、含酸素複素環基、スズ含有基、アルコキシシリル基などを好適に挙げることができる。これらの極性基含有ヒドラジド化合物は、それぞれ単独で、又は2種以上組み合わせて用いることができる。
【0038】
上記アミノ基含有ヒドラジド化合物としては、1分子中に第1級、第2級及び第3級アミノ基から選ばれる少なくとも1つのアミノ基を有するヒドラジド化合物が挙げられる。これらのアミノ基含有ヒドラジド化合物は、それぞれ単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0039】
第1級アミノ基含有ヒドラジド化合物としては、2−アミノアセトヒドラジド、3−アミノプロパンヒドラジド、4−アミノブタンヒドラジド、2−アミノベンゾヒドラジド、4−アミノベンゾヒドラジド等が挙げられる。
【0040】
第2級アミノ基含有ヒドラジド化合物としては、例えば、2−(メチルアミノ)アセトヒドラジド、2−(エチルアミノ)アセトヒドラジド、3−(メチルアミノ)プロパンヒドラジド、3−(エチルアミノ)プロパンヒドラジド、3−(プロピルアミノ)プロパンヒドラジド、3−(イソプロピルアミノ)プロパンヒドラジド、4−(メチルアミノ)ブタンヒドラジド、4−(エチルアミノ)ブタンヒドラジド、4−(プロピルアミノ)ブタンヒドラジド、4−(イソプロピルアミノ)ブタンヒドラジド、2−(メチルアミノ)ベンゾヒドラジド、2−(エチルアミノ)ベンゾヒドラジド、2−(プロピルアミノ)ベンゾヒドラジド、2−(イソプロピルアミノ)ベンゾヒドラジド、4−(メチルアミノ)ベンゾヒドラジド、4−(エチルアミノ)ベンゾヒドラジド、4−(プロピルアミノ)ベンゾヒドラジド、4−(イソプロピルアミノ)ベンゾヒドラジド等が挙げられる。
【0041】
第3級アミノ基含有ヒドラジド化合物としては、例えば、N,N−ジ置換アミノアルキルヒドラジド化合物、N,N−ジ置換ベンゾヒドラジド化合物等が挙げられる。これらの化合物としては、2−(ジメチルアミノ)アセトヒドラジド、2−(ジエチルアミノ)アセトヒドラジド、3−(ジメチルアミノ)プロパンヒドラジド、3−(ジエチルアミノ)プロパンヒドラジト、3−(ジプロピルアミノ)プロパンヒドラジド、3−(ジイソプロピルアミノ)プロパンヒドラジド、4−(ジメチルアミノ)ブタンヒドラジド、4−(ジエチルアミノ)ブタンヒドラジド、4−(ジプロピルアミノ)ブタンヒドラジド、4−(ジイソプロピルアミノ)ブタンヒドラジド、2−(ジメチルアミノ)ベンゾヒドラジド、2−(ジエチルアミノ)ベンゾヒドラジド、2−(ジプロピルアミノ)ベンゾヒドラジド、2−(ジイソプロピルアミノ)ベンゾヒドラジド、4−(ジメチルアミノ)ベンソヒドラジド、4−(ジエチルアミノ)ベンゾヒドラジド、4−(ジプロピルアミノ)ベンゾヒドラジド、4−(ジイソプロピルアミノ)ベンゾヒドラジド等が挙げられる。
【0042】
また、アミノ基の代わりに含窒素複素環基であってもよく、その含窒素複素環基としては、ピロール、ヒスチジン、イミダソール、トリアゾリジン、トリアゾール、トリアジン、ピリジン、ピリミジン、ピラジン、インドール、キノリン、プリン、フェナジン、プテリジン、メラミン等が挙げられる。なお、含窒素複素環は、他のへテロ原子を環中に含んでいてもよい。ここで、含窒素複素環基としてピリジル基を有するヒドラジド化合物としては、イソニコチノヒドラジド、ピコリノヒドラジドが挙げられる。これら含窒素複素環基含有ヒドラジド化合物は、一種単独で用いてもよく、二種以上を組み合せて用いてもよい。
【0043】
上記ニトリル基を有するヒドラジド化合物としては、2−ニトロアセトヒドラジド、3−ニトロプロパンヒドラジド、4−ニトロブタンヒドラジド、2−ニトロベンゾヒドラジド、4−ニトロベンゾヒドラジド等が挙げられる。これらのニトリル基含有ヒドラジド化合物は一種単独で用いてもよく、二種以上を組み合せて用いてもよい。
【0044】
上記ヒドロキシル基含有ヒドラジド化合物としては、1分子中に少なくとも1個の第1級、第2級又は第3級ヒドロキシル基を含有するヒドラジド化合物が挙げられる。このようなヒドロキシル基含有ヒドラジド化合物としては、2−ヒドロキシアセトヒドラジド、3−ヒドロキシプロパンヒドラジド、4−ヒドロキシブタンヒドラジド、2−ヒドロキシベンゾヒドラジド、4−ヒドロキシベンゾヒドラジドが挙げられる。これらのヒドロキシル基含有ヒドラジド化合物は一種単独で用いてもよく、二種以上を組み合せて用いてもよい。
【0045】
上記カルボキシル基を含有するヒドラジド化合物としては、3−カルボキシプロパンヒドラジド、4−カルボキシブタンヒドラジド、2−安息香酸ヒドラジド、4−安息香酸ヒドラジド等が挙げられる。これらカルボキシル基含有ヒドラジド化合物は、一種単独で用いてもよく、二種以上を組み合せて用いてもよい。
【0046】
上記エポキシ基を有するヒドラジド化合物としては、2−(オキシラン−2−イル)アセトヒドラジド、3−(オキシラン−2−イル)プロパンヒドラジド、3−(テトラヒドロ−2H−ピラン−4−イル)プロパンヒドラジド等が挙げられる。これらエポキシ基含有ヒドラジド化合物は、一種単独で用いてもよく、二種以上を組み合せて用いてもよい。
【0047】
上記スズ含有基を有するヒドラジド化合物としては、3−(トリブチルスズ)プロパンヒドラジド、3−(トリメチルスズ)プロパンヒドラジド、3−(トリフェニルスズ)プロパンヒドラジド、3−(トリオクチルスズ)プロパンヒドラジド、4−(トリブチルスズ)ブタンヒドラジド、4−(トリメチルスズ)ブタンヒドラジド、4−(トリフェニルスズ)ブタンヒドラジド、4−(トリオクチルスズ)ブタンヒドラジド、2−(トリブチルスズ)ベンゾヒドラジド、4−(トリブチルスズ)ベンゾヒドラジド、2−(トリメチルスズ)ベンゾヒドラジド、4−(トリメチルスズ)ベンゾヒドラジド、2−(トリオクチルスズ)ベンゾヒドラジド、4−(トリオクチルスズ)ベンゾヒドラジド等のスズ含有ヒドラジド化合物を挙げることができる。これらスズ含有ヒドラジド化合物は、一種単独で用いてもよく、二種以上を組み合せて用いてもよい。
【0048】
上記アルコキシシリル基を含有するヒドラジド化合物としては、2−(トリメトキシシリル)アセトヒドラジド、2−(トリエトキシシリル)アセトヒドラジド、3−(トリメトキシシリル)プロパンヒドラジド、3−(トリエトキシシリル)プロパンヒドラジド、4−(トリメトキシシリル)ブタンヒドラジド、4−(トリエトキシシリル)ブタンヒドラジド、2−(トリメトキシシリル)ベンゾヒドラジド、2−(トリエトキシシリル)ベンゾヒドラジド、4−(トリメトキシシリル)ベンゾヒドラジド、4−(トリエトキシシリル)ベンゾヒドラジド等が挙げられる。これらアルコキシシリル基含有ヒドラジド化合物は、一種単独で用いてもよく、二種以上を組み合せて用いてもよい。
【0049】
極性基含有ヒドラジド化合物の添加方法としては、下記の通り3つ挙げられる。第1の方法では、上記酸化反応したジエン系ゴムラテックスを凝固、粉砕し、クラム化した後、上記極性基含有ヒドラジド化合物を添加する。その後、例えば、ミキサー、押出機、混練機(プリブレーカー)等を用いて混練を行い、乾燥した変性ジエン系ゴムを得ることができる。
【0050】
第2の方法では、上記酸化反応したジエン系ゴムラテックスを凝固、粉砕、乾燥した後、上記極性基含有ヒドラジド化合物を添加する。例えば、乾燥後の固形の酸化ジエン系ゴムへの極性基含有ヒドラジド化合物溶液の添加をミキサー、押出機、混練機等により行う工程が挙げられ、好ましくは、分散性向上の点から混練磯で混合することが好ましい。
【0051】
第3の方法では、上記酸化反応したジエン系ゴムラテックス中に、水及び必要に応じて乳化剤を加えたものの中に上記極性基含有ヒドラジド化合物を加え、所定の温度で攪拌して反応させる。上記極性基含有ヒドラジド化合物の酸化ジエン系ゴムラテックスへの添加に際しては、予め酸化ジエン系ゴムラテックス中に乳化剤を加えておくか、あるいは極性基含有ヒドラジド化合物を乳化した後、酸化ジエン系ゴムラテックスに加える。必要に応じて有機過酸化物を添加することもできる。使用し得る乳化剤としては、特に限定されないが、ノニオン系の界面活性剤、例えばポリオキシエチレンラウリルエーテル等が挙げられる。このようにして極性基含有ヒドラジド化合物を添加し、反応させて得られた変性ジエン系ゴムラテックスを凝固、乾燥することによって、変性ジエン系ゴムを得ることができる。
【0052】
なお、上述した3つの方法において、酸化ジエン系ゴムラテックス又は変性ジエン系ゴムラテックスを凝固するのに用いる凝固剤としては、特に限定されるものではないが、ギ酸、硫酸等の酸や、塩化ナトリウム等の塩が挙げられる。また、酸化ジエン系ゴムラテックス又は変性ジエン系ゴムラテックスの乾燥は、真空乾燥機、エアドライヤー、ドラムドライヤー等の乾燥機を用いて行うことができる。
【0053】
上記のようにして得られた変性ジエン系ゴムは、ジエン系ゴムの分子鎖の末端に、下記一般式(2):
【化2】

(式中、R9は、置換基としてアミノ基、イミノ基、ニトリル基、アンモニウム基、イミド基、アミド基、ヒドラゾ基、アゾ基、ジアゾ基、ヒドロキシル基、カルボキシル基、カルボ二ル基、エポキシ基、オキシカルボニル基、スズ含有基、アルコキシシリル基からなる群から選ばれる極性基を少なくとも1種有する炭素数1〜4の置換アルキル基、置換基として該極性基を少なくとも1種有する置換フェニル基、又は含窒素複素環基及び含酸素複素環基からなる群から選ばれる少なくとも1種の極性基である)で表される極性基含有官能基を有する。なお、上記一般式(2)中のR9は上述したような極性基含有ヒドラジド化合物のヒドラジド基以外の部分に由来するものである。
【0054】
また、上記変性ジエン系ゴム(A)を、カーボンブラックやシリカ等の充填剤(B)と配合したとき、加工性を低下させずに低ロス特性や耐摩耗性を向上させるという目的を考えると、ジエン系ゴムの各分子にまんべんなく少量の極性基が導入されることが重要であるため、上記変性ジエン系ゴム(A)において極性基含有ヒドラジド化合物の付加量は、上記ジエン系ゴムラテックス中のジエン系ゴム分子(ゴム成分)に対し0.01〜5.0質量%の範囲が好ましく、0.01〜1.0質量%の範囲が更に好ましい。
【0055】
また、上記変性ジエン系ゴム(A)は、ゴム組成物として、優れた低ロス性及び耐摩耗性を確保する観点から、ゲル浸透クロマトグラフィーで測定したポリスチレン換算重量平均分子量が200,000以上であるのが好ましく、400,000以上であるのが更に好ましい。
【0056】
本発明のゴム組成物は、充填剤(B)を含む。ここで、充填剤(B)の配合量は、特に限定されるものではないが、上記ゴム成分100質量部に対して5〜100質量部の範囲が好ましく、10〜70質量部の範囲が更に好ましい。充填剤(B)の配合量が5質量部未満では、充分な補強性が得られない場合があり、一方、100質量部を超えると、加工性が悪化する場合がある。
【0057】
本発明のゴム組成物に用いる充填剤(B)としては、カーボンブラック及び無機充填剤が挙げられ、ここで、無機充填剤としては、シリカ及び下記式(3):
nM・xSiOy・zH2O ・・・ (3)
[式中、Mは、アルミニウム、マグネシウム、チタン、カルシウム及びジルコニウムからなる群から選ばれる金属、これらの金属の酸化物又は水酸化物、及びそれらの水和物、またはこれらの金属の炭酸塩から選ばれる少なくとも一種であり;n、x、y及びzは、それぞれ1〜5の整数、0〜10の整数、2〜5の整数、及び0〜10の整数である]で表される無機化合物が挙げられる。これら充填剤(B)は、一種単独で用いてもよし、二種以上を混合して用いてもよい。
【0058】
上記カーボンブラックとしては、GPF、FEF、SRF、HAF、ISAF、SAFグレードのもの等が挙げられる。また、上記シリカとしては、湿式シリカ、乾式シリカ及びコロイダルシリカ等が挙げられる。更に、上記式(3)の無機化合物としては、γ−アルミナ、α−アルミナ等のアルミナ(Al23);ベーマイト、ダイアスポア等のアルミナ一水和物(Al23・H2O);ギブサイト、バイヤライト等の水酸化アルミニウム[Al(OH)3];炭酸アルミニウム[Al2(CO3)3]、水酸化マグネシウム[Mg(OH)2]、酸化マグネシウム(MgO)、炭酸マグネシウム(MgCO3)、タルク(3MgO・4SiO2・H2O)、アタパルジャイト(5MgO・8SiO2・9H2O)、チタン白(TiO2)、チタン黒(TiO2n-1)、酸化カルシウム(CaO)、水酸化カルシウム[Ca(OH)2]、酸化アルミニウムマグネシウム(MgO・Al23)、クレー(Al23・2SiO2)、カオリン(Al23・2SiO2・2H2O)、パイロフィライト(Al23・4SiO2・H2O)、ベントナイト(Al23・4SiO2・2H2O)、ケイ酸アルミニウム(Al2SiO5、Al4・3SiO4・5H2O等)、ケイ酸マグネシウム(Mg2SiO4、MgSiO3等)、ケイ酸カルシウム(Ca2SiO4等)、ケイ酸アルミニウムカルシウム(Al23・CaO・2SiO2等)、ケイ酸マグネシウムカルシウム(CaMgSiO4)、炭酸カルシウム(CaCO3)、酸化ジルコニウム(ZrO2)、水酸化ジルコニウム[ZrO(OH)2・nH2O]、炭酸ジルコニウム[Zr(CO3)2]、各種ゼオライトのように電荷を補正する水素、アルカリ金属又はアルカリ土類金属を含む結晶性アルミノケイ酸塩等を挙げることができる。
【0059】
本発明のゴム組成物においては、上記充填剤(B)の中でも、低ロス性を向上させる観点から、シリカを使用することが好ましい。ここで、該シリカの配合量は、上記ゴム成分100質量部に対して3〜60質量部の範囲が好ましい。シリカの配合量がゴム成分100質量部に対して3質量部以上であれば、耐摩耗性を十分に向上させることができ、一方、60質量部を超えると、加工性が悪化することもある。
【0060】
本発明のゴム組成物は、上記一般式(1)で表されるシランカップリング剤(C)を含む。本発明のゴム組成物においては、該シランカップリング剤(C)を用いることにより、ゴム組成物の加工時の作業性が向上すると共に、低ロス性及び耐摩耗性を大幅に向上させることが可能となる。
【0061】
上記一般式(1)において、R1は−Cl、−Br、R6O−、R6C(=O)O−、R67C=NO−、R67N−又は−(OSiR67m(OSiR567)であり、R2はR1、水素原子又は炭素数1〜18の一価の炭化水素基であり、R3はR1、R2又は−[O(R8O)a0.5−基であり、R4は炭素数1〜18の二価の炭化水素基であり、R5は炭素数1〜18の一価の炭化水素基であり、x、y及びzは、x+y+2z=3、0≦x≦3、0≦y≦2、0≦z≦1の関係を満たす数である。ここで、R6及びR7は、それぞれ独立して水素原子又は炭素数1〜18の一価の炭化水素基であり、また、R8は炭素数1〜18のアルキレン基であり、aは1〜4の整数である。
【0062】
上記一般式(1)において、炭素数1〜18の一価の炭化水素基としては、炭素数1〜18のアルキル基、炭素数2〜18のアルケニル基、炭素数6〜18のアリール基、炭素数7〜18のアラルキル基等を挙げることができる。ここで、上記アルキル基及びアルケニル基は直鎖状、枝分かれ状、環状のいずれであってもよく、前記アリール基及びアラルキル基は、芳香環上に低級アルキル基などの置換基を有していてもよい。
【0063】
上記アルキル基及びアルケニル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、デシル基、ドデシル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、ビニル基、プロぺニル基、アリル基、ヘキセニル基、オクテニル基、シクロペンテニル基、シクロヘキセニル基等が挙げられる。また、前記アリール基としては、フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基等が挙げられる。さらに、前記アラルキル基としては、ベンジル基、フェネチル基、ナフチルメチル基等が挙げられる。
【0064】
また、上記一般式(1)において、R8で表される炭素数1〜18のアルキレン基は、直鎖状、枝分かれ状、環状のいずれであってもよいが、特に直鎖状のものが好適である。ここで、直鎖状のアルキレン基としては、メチレン基、エチレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基、ペンタメチレン基、ヘキサメチレン基、オクタメチレン基、デカメチレン基、ドデカメチレン基等が挙げられる。
【0065】
また、上記一般式(1)において、R4で表される炭素数1〜18の二価の炭化水素基としては、炭素数1〜18のアルキレン基、炭素数2〜18のアルケニレン基、炭素数5〜18のシクロアルキレン基、炭素数6〜18のシクロアルキルアルキレン基、炭素数6〜18のアリーレン基、炭素数7〜18のアラルキレン基を挙げることができる。前記アルキレン基及びアルケニレン基は、直鎖状、枝分かれ状のいずれであってもよく、前記シクロアルキレン基、シクロアルキルアルキレン基、アリーレン基及びアラルキレン基は、環上に低級アルキル基などの置換基を有していてもよい。ここで、R4としては、炭素数1〜6のアルキレン基が好ましく、特に直鎖状アルキレン基、例えばメチレン基、エチレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基、ペンタメチレン基、ヘキサメチレン基が好ましい。
【0066】
上記一般式(1)で表されるシランカップリング剤(C)としては、3−ヘキサノイルチオプロピルトリエトキシシラン、3−オクタノイルチオプロピルトリエトキシシラン、3−デカノイルチオプロピルトリエトキシシラン、3−ラウロイルチオプロピルトリエトキシシラン、2−ヘキサノイルチオエチルトリエトキシシラン、2−オクタノイルチオエチルトリエトキシシラン、2−デカノイルチオエチルトリエトキシシラン、2−ラウロイルチオエチルトリエトキシシラン、3−ヘキサノイルチオプロピルトリメトキシシラン、3−オクタノイルチオプロピルトリメトキシシラン、3−デカノイルチオプロピルトリメトキシシラン、3−ラウロイルチオプロピルトリメトキシシラン、2−ヘキサノイルチオエチルトリメトキシシラン、2−オクタノイルチオエチルトリメトキシシラン、2−デカノイルチオエチルトリメトキシシラン、2−ラウロイルチオエチルトリメトキシシラン等が挙げられる。これらシランカップリング剤(C)は、一種単独で用いてもよし、二種以上を混合して用いてもよい。
【0067】
上記シランカップリング剤(C)の配合量は、上記充填剤(B)の配合量の1〜30質量%の範囲が好ましく、2〜25質量%の範囲が更に好ましく、5〜15質量%の範囲が特に好ましい。シランカップリング剤(C)の配合量が充填剤(B)の配合量の1〜30質量%の範囲であれば、変性ジエン系ゴム(A)に対する充填剤(B)の分散性を十分に向上させて、ゴム組成物の低ロス性及び耐摩耗性を十分に向上させることができる。
【0068】
また、上記充填剤(B)としてシリカを使用する場合、上記シランカップリング剤(C)の配合量は、上記シリカの配合量の1〜30質量%の範囲が好ましい。シランカップリング剤(C)の配合量がシリカの配合量の1〜30質量%の範囲であれば、変性ジエン系ゴム(A)に対するシリカの分散性を十分に向上させて、ゴム組成物の低ロス性及び耐摩耗性を十分に向上させることができる。
【0069】
本発明のゴム組成物には、上記変性ジエン系ゴム(A)、充填剤(B)、シランカップリング剤(C)の他に、ゴム工業界で通常使用される配合剤、例えば、老化防止剤、軟化剤、ステアリン酸、亜鉛華、加硫促進剤、加硫剤等を、本発明の目的を害しない範囲内で適宜選択して配合することができる。これら配合剤としては、市販品を好適に使用することができる。本発明のゴム組成物は、少なくとも変性ジエン系ゴム(A)を含むゴム成分に、充填剤(B)及びシランカップリング剤(C)と、必要に応じて適宜選択した各種配合剤とを配合して、混練り、熱入れ、押出等することにより製造することができる。
【0070】
本発明のタイヤは、上記ゴム組成物を用いたことを特徴とし、上記ゴム組成物をトレッドに用いることが好ましい。上記ゴム組成物をトレッドに用いたタイヤは、低ロス性及び耐摩耗性に優れる。また、本発明のタイヤは、好ましくは重荷重用タイヤである。重荷重用タイヤは、発熱し易いため高い低ロス性が求められる上、通常のタイヤよりも高い耐摩耗性が求められる。これに対して、上述した低ロス性及び耐摩耗性に優れるゴム組成物を用いたタイヤは、かかる重荷重用タイヤに求めらせる性能を十分に有するため、重荷重用タイヤとして特に好適である。なお、本発明のタイヤは、上述のゴム組成物をタイヤ部材のいずれかに用いる以外特に制限は無く、常法に従って製造することができる。また、該タイヤに充填する気体としては、通常の或いは酸素分圧を調整した空気の他、窒素、アルゴン、ヘリウム等の不活性ガスを用いることができる。
【実施例】
【0071】
以下に、実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明は下記の実施例に何ら限定されるものではない。
【0072】
<変性天然ゴムの製造例1>
(天然ゴムラテックスの変性反応工程)
フィールドラテックスをラテックスセパレーター[斎藤遠心工業製]を用いて回転数7500rpmで遠心分離して、乾燥ゴム濃度60%の濃縮ラテックスを得た。この濃縮ラテックス1000gを、撹拌機及び温調ジャケットを備えたステンレス製反応容器に投入し、1000gの水を加えた。その後、過硫酸カリウム9.0g、プロピオンアルデヒド3.0gを添加し、60℃、30時間攪拌しながら反応させることで酸化天然ゴムラテックスを得た。次に、ギ酸を加えることでpHを4.7に調整し凝固させた。この固形物をクレーパーで5回処理し、シュレッダーを通してクラム化した。
【0073】
(変性工程)
得られた凝固物の乾燥ゴム含有量を求めた後、乾燥ゴム量換算で600gの凝固物とイソニコチノヒドラジド3.0gのエマルジョン溶液を混練機(プレブレーカー)内で室温にて30rpmで2分間練りこみ、均一に分散させ、乾燥した変性天然ゴムAを得た。また、該変性天然ゴムAを石油エーテルで抽出し、さらにアセトンとメタノールの2:1混合溶媒で抽出することにより、未反応のヒドラジド化合物の分離を行ったところ、抽出物の分析から未反応のヒドラジド化合物は検出されず、よって該変性天然ゴムAにおけるイソニコチノヒドラジドの付加量は天然ゴムラテックス中のゴム成分に対して0.51質量%であった。また、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー[GPC:東ソー製HLC−8020、カラム:東ソー製GMH−XL(2本直列)、検出器:示差屈折率計(RI)]で単分散ポリスチレンを基準として、変性天然ゴムAのポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)を求めたところ、873,000であった。
【0074】
<変性天然ゴムの製造例2>
イソニコチノヒドラジド3.0gの代わりに、3−(ジメチルアミノ)プロパンヒドラジド3.0gを加え、それ以外は上記製造例1と同様にして変性天然ゴムBを得た。また、変性天然ゴムAと同様にして、変性天然ゴムBにおける極性基含有ヒドラジド化合物の付加量を分析し、重量平均分子量(Mw)を求めたところ、変性天然ゴムBにおける極性基含有ヒドラジド化合物の付加量は0.50質量%であり、また、変性天然ゴムBのポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)は906,000であった。
【0075】
<変性天然ゴムの製造例3>
フィールドラテックスにギ酸を加えることでpHを4.7に調整し凝固させた。この固形物をクレーパーで5回処理し、シュレッダーを通してクラム化した。この凝固物の乾燥ゴム含有量を求めた後、乾燥ゴム量換算で600gの凝固物とイソニコチノヒドラジド3.0gのエマルジョン溶液を混練機(プレブレーカー)内で室温にて30rpmで2分間練りこみ、均一に分散させ、乾燥した変性天然ゴムCを得た。また、該変性天然ゴムCを石油エーテルで抽出し、さらにアセトンとメタノールの2:1混合溶媒で抽出することにより、未反応のヒドラジド化合物の分離を行ったところ、抽出物の分析から未反応のヒドラジド化合物は検出されず、よって該変性天然ゴムCにおけるイソニコチノヒドラジドの付加量は天然ゴム原材料中の固形ゴム成分に対して0.5質量%であった。また、変性天然ゴムAと同様にして、重量平均分子量(Mw)を求めたところ、変性天然ゴムCのポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)は916,000であった。
【0076】
<天然ゴムの製造例>
フィールドラテックスにギ酸を加えpHを4.7に調整し、フィールドラテックスを凝固させた。このようにして得られた固形物をクレーパーで5回処理し、シュレッダーに通してクラム化した後、熱風式乾燥機により110℃で210分間乾燥して天然ゴムDを得た。また、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー[GPC:東ソー製HLC−8020、カラム:東ソー製GMH−XL(2本直列)、検出器:示差屈折率計(RI)]で単分散ポリスチレンを基準として、得られた天然ゴムのポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)を求めたところ、1,263,000であった。
【0077】
次に、表1に示す配合処方のゴム組成物を調製し、下記に示す方法で工場作業性及び低ロス性を評価した。また、該ゴム組成物をトレッドに用い、通常の加硫条件で加硫して、サイズ1000R20 14PRの重荷重用タイヤを作製し、下記に示す方法で耐摩耗性を評価した。結果を表1に示す。
【0078】
(1)工場作業性
工場でゴム組成物を混練りする際の作業性を評価し、作業性が比較例1よりも良好な場合を◎、作業性が比較例1と同等な場合を○、作業性が比較例1よりも若干劣る場合を△、作業性が比較例1よりも劣る場合を×とした。
【0079】
(2)低ロス性
上記ゴム組成物を145℃で33分間加硫して得た加硫ゴムに対し、粘弾性測定装置[レオメトリック社製]を用い、温度100℃、歪み5%、周波数15Hzで損失正接(tanδ)を測定した。tanδが小さい程、発熱性が小さく、低ロス性に優れることを示す。
【0080】
(3)耐摩耗性
供試タイヤを悪路上で6000km走行させた後、タイヤの摩耗1mm当りの走行距離から、下記の式:
耐摩耗性指数=(供試タイヤの走行距離/摩耗量)/(比較例1のタイヤの走行距離/摩耗量)
により耐摩耗性指数を算出した。指数値が大きい程、摩耗が少なく、耐摩耗性に優れることを示す。
【0081】
【表1】

【0082】
【表2】

【0083】
*1 東ソー・シリカ(株)製、商標「ニプシルAQ」
*2 デグッサ社製、商標「Si69」、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド
*3 General Electric社製、商品名「NXTシラン」、3−オクタノイルチオプロピルトリエトキシシラン、(C25O)3Si−C36−S−CO−C715
*4 N−(1,3−ジメチルブチル)−N’−フェニル−p−フェニレンジアミン
*5 N,N’−ジシクロヘキシル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド
*6 ジフェニルグアニジン
*7 ジベンゾチアジルジスルフィド
【0084】
比較例1と比較例2〜4の結果から、天然ゴムに代えて変性天然ゴムを使用することで、低ロス性及び耐摩耗性を向上させることができ、また、比較例1と比較例5の結果から、汎用のシランカップリング剤に代えて一般式(1)で表わされるシランカップリング剤を使用することで、低ロス性及び耐摩耗性を向上させることができるが、低ロス性及び耐摩耗性の向上効果が小さいことが分かる。
【0085】
一方、比較例1と実施例1〜3の結果から、天然ゴムに代えて変性天然ゴムを使用しつつ、汎用のシランカップリング剤に代えて一般式(1)で表わされるシランカップリング剤を使用することで、低ロス性及び耐摩耗性を大幅に向上させることができ、また、その向上幅は、天然ゴムに代えて変性天然ゴムを使用した場合の向上幅(比較例2〜4参照)と、汎用のシランカップリング剤に代えて一般式(1)で表わされるシランカップリング剤を使用した場合の向上幅(比較例5参照)との和よりも大きく、変性ジエン系ゴム(A)とシランカップリング剤(C)とを組み合せて使用することで、相乗効果が得られることが分かる。
【0086】
また、実施例4〜5の結果から、ゴム成分中の変性ジエン系ゴム(A)の割合が10質量%以上の場合に、低ロス性及び耐摩耗性の向上効果が顕著に現れるため、ゴム成分中の変性ジエン系ゴム(A)の割合は10質量%以上が好ましいことが分かる。
【0087】
更に、比較例6と実施例6〜9の結果から、シランカップリング剤(C)の配合量が、シリカの配合量の1〜30質量%の範囲(実施例7及び8)で、低ロス性及び耐摩耗性の向上効果が顕著に現れるため、シランカップリング剤(C)の配合量はシリカの配合量の1〜30質量%の範囲が好ましいことが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジエン系ゴムラテックスに極性基含有ヒドラジド化合物を添加して得られる変性ジエン系ゴム(A)を少なくとも含むゴム成分に、充填剤(B)と、下記一般式(1):
【化1】

[式中、R1は−Cl、−Br、R6O−、R6C(=O)O−、R67C=NO−、R67N−又は−(OSiR67m(OSiR567)(ここで、R6及びR7は、それぞれ独立して水素原子又は炭素数1〜18の一価の炭化水素基である)であり、R2はR1、水素原子又は炭素数1〜18の一価の炭化水素基であり、R3はR1、R2又は−[O(R8O)a0.5−基(ここで、R8は炭素数1〜18のアルキレン基で、aは1〜4の整数である)であり、R4は炭素数1〜18の二価の炭化水素基であり、R5は炭素数1〜18の一価の炭化水素基であり、x、y及びzは、x+y+2z=3、0≦x≦3、0≦y≦2、0≦z≦1の関係を満たす数である]で表されるシランカップリング剤(C)とを配合してなるゴム組成物。
【請求項2】
前記変性ジエン系ゴム(A)は、ラジカル発生剤の存在下で前記ジエン系ゴムラテックスを空気酸化した後、前記極性基含有ヒドラジド化合物を付加させてなることを特徴とする請求項1に記載のゴム組成物。
【請求項3】
前記変性ジエン系ゴム(A)は、重量平均分子量が200,000以上であることを特徴とする請求項1に記載のゴム組成物。
【請求項4】
前記極性基含有ヒドラジド化合物の極性基が、アミノ基、イミノ基、ニトリル基、アンモニウム基、イミド基、アミド基、ヒドラゾ基、アゾ基、ジアゾ基、ヒドロキシル基、カルボキシル基、カルボニル基、エポキシ基、オキシカルボニル基、含窒素複素環基、含酸素複素環基、スズ含有基及びアルコキシシリル基からなる群から選択される少なくとも一種であることを特徴とする請求項1に記載のゴム組成物。
【請求項5】
前記変性ジエン系ゴム(A)は、前記ジエン系ゴムラテックス中のジエン系ゴム分子に前記極性基含有ヒドラジド化合物を0.01〜5.0質量%付加させてなることを特徴とする請求項1に記載のゴム組成物。
【請求項6】
前記ゴム成分中の前記変性ジエン系ゴム(A)の割合が10質量%以上であることを特徴とする請求項1に記載のゴム組成物。
【請求項7】
前記充填剤(B)として、シリカを含むことを特徴とする請求項1に記載のゴム組成物。
【請求項8】
前記シリカの配合量が、前記ゴム成分100質量部に対して3〜60質量部であることを特徴とする請求項7に記載のゴム組成物。
【請求項9】
前記シランカップリング剤(C)の配合量が、前記シリカの配合量の1〜30質量%であることを特徴とする請求項7に記載のゴム組成物。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれかに記載のゴム組成物を用いたタイヤ。
【請求項11】
重荷重用タイヤであることを特徴とする請求項10に記載のタイヤ。

【公開番号】特開2010−254931(P2010−254931A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−110008(P2009−110008)
【出願日】平成21年4月28日(2009.4.28)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】