説明

ゴム組成物

【課題】比誘電率および誘電損失を充分に低減させたゴム組成物を提供する。
【解決手段】誘電損失が15%以下の圧電材料を含有し、誘電損失が15%以下であるゴム組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴム組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
圧電材料は、電圧を印加すると伸縮し、逆に、力を加えると電圧が発生するという効果を有するため、電気−機械エネルギーを変換するアクチュエーターなどに応用され、日常生活におけるブザー、インクジェットプリンタ(インクの噴出制御)、遮音、センサ部品、電子部品、タイヤ、家電製品など、多岐にわたって利用されているたとえば、携帯電話などのモバイル機器では、実装基板に多くのコンデンサーが内蔵されている。コンデンサーを基板に内蔵できれば、実装基板の面積を小さくすることができ、モバイル機器をより小型化することができる。しかし、従来のコンデンサーの主材料は無機物のセラミックスからつくられているため、そのまま基板に内蔵することは困難であった。そこで、高誘電率圧電材料を樹脂(エポキシ、ポリイミドなど)に添加した高分子複合材料の開発が行われている。しかし、このような高分子は脆性を示し、フレキシブルプリント基板などの柔軟性が要求される部材には適用することはできない。
【0003】
柔軟性の高い高分子材料として、ゴムがあげられるが、従来行われている混練りでは、圧電材料とゴムとの間、または圧電材料の粒子間に空間電荷層が形成され、誘電損失が増大するなどの問題がある。
【0004】
特許文献1には、ゴム成分および圧電材料を所定量含有することで、グリップ性能を向上させたトレッド用ゴム組成物が開示されている。しかし、混練りする際に前処理をまったくしていないため、誘電損失に関し、本発明が示すような低い範囲に抑制することができなかった。そのため、分極操作が困難となり、圧電性を発現させることができないという問題があった。
【0005】
【特許文献1】特開2004−352759号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、比誘電率および誘電損失を充分に低減させたゴム組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、誘電損失が15%以下の圧電材料を含有し、誘電損失が15%以下であるゴム組成物に関する。
【0008】
前記圧電材料の一次粒子の平均粒子径は、10μm以下であることが好ましい。
【0009】
前記圧電材料は、乾燥処理されていることが好ましい。
【0010】
前記ゴム組成物は、(A)ゴム成分を有機系溶媒または水系溶媒に溶解させて溶液を得る工程、および(B)該溶液に圧電材料を添加して撹拌する工程を含有するウェットマスターバッチの製造方法により得られるウェットマスターバッチを用いることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ゴム成分および所定の圧電材料を含有することで、比誘電率および誘電損失を充分に低減させたゴム組成物を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明のゴム組成物は、ゴム成分および圧電材料を含有する。
【0013】
ゴム成分としては、とくに制限はなく、たとえば、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ブタジエンゴム(BR)、エポキシ化天然ゴム(ENR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、クロロプレンゴム(CR)、エチレンプロピレンゴム(EPM)、ブチルゴム(IIR)、ハロゲン化ブチルゴム(X−IIR)、シリコーンゴム(Q)、フッ素ゴム(FKM)、アクリルゴム(ACM)などがあげられ、これらのゴム成分は、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0014】
圧電材料とは、弾性エネルギーと電気エネルギーとを可逆的に変換できるものであり、たとえば、チタン酸バリウム(BaTiO3)、チタン酸ストロンチウム(SrTiO3)、ニオブ酸リチウム(Li2NbO3)、チタン酸リチウム(LiTiO3)、チタン酸鉛(PbTiO3)、チタン酸バリウム鉛((Ba、Pb)TiO3)、チタン酸バリウムカルシウム((Ba、Ca)TiO3)、ニオブ酸カリウムナトリウム((K、Na)NbO3)、ニオブ酸カリウムリチウム((K、Li)NbO3)、チタン酸ジルコン酸鉛(Pb(Zr、Ti)O3)などの圧電セラミックス、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、ヨウ素化ポリ酢酸ビニル、ポリウレアなどの高分子圧電体などがあげられる。
【0015】
通常、圧電材料を混練りする際には、圧電性を付与するという理由から、ポーリング処理などにより、分極させることが好ましい。一方、あらかじめポーリング処理済みの圧電材料を混練りする際には、混練り温度および加硫温度をキュリー点以下で実施しなければ、ポーリングが解除されてしまうため、キュリー点以下で混練りおよび加硫を行うことが好ましい。しかし、何も処理しない場合、混練り中に圧電材料の一次凝集体または二次凝集体中に空壁が生じ、電場による分極処理時に誘電損失が増大してしまい、分極させるのが困難となってしまう。そこで、圧電材料は、あらかじめ表面吸着水を取り除くことにより、誘電損失を極限まで低減させたものであることが好ましい。表面吸着水を取り除く方法としては、とくに制限されるわけではないが、たとえば、乾燥処理などがあげられる。
【0016】
乾燥処理で圧電材料の表面吸着水を取り除く場合、乾燥温度は100℃以上が好ましい。乾燥温度が100℃未満では、吸着水を取り除く効率が悪い傾向がある。
【0017】
乾燥処理で圧電材料の表面吸着水を取り除いた場合、乾燥処理後の表面吸着水の吸着量は10%以下が好ましく、5%以下がより好ましい。表面吸着水の吸着量が10%をこえると、誘電損失が増大してしまう傾向がある。
【0018】
圧電材料の誘電損失は15%以下、好ましくは10%以下である。圧電材料の誘電損失が15%をこえると、ゴム組成物自身の誘電損失が15%以上となるため、熱損失が大きくなり、実用に耐え得ない。
【0019】
圧電材料の一次粒子の平均粒子径は10μm以下が好ましく、6μm以下がより好ましく、5μm以下がさらに好ましい。圧電材料の平均粒子径が10μmをこえると、引張物性や耐摩耗性が悪化する傾向がある。また、コーター法により厚膜コンポジットを成形する際に、圧電材料が有機マトリックスより欠落し、均質なものを得にくい傾向もある。また、圧電材料の平均粒子径は0.1μm以上が好ましく、0.5μm以上がより好ましく、1μm以上がさらに好ましい。
【0020】
圧電材料の体積分率は、ゴム組成物中に1%以上が好ましく、5%以上がより好ましい。圧電材料の体積分率が1%未満では、圧電材料を配合することによる効果が得られない傾向がある。また、圧電材料の体積分率は99%以下が好ましく、90%以下がより好ましい。圧電材料の体積分率が99%をこえると、ゴム組成物の柔軟性が損なわれる傾向がある。
【0021】
本発明のゴム組成物には、他にも、補強用充填剤を含有することができる。
【0022】
補強用充填剤としては、カーボンブラック、シリカ、一般式mM・xSiOy・zH2O(Mはアルミニウム、マグネシウム、チタン、カルシウムおよびジルコニウムからなる群から選ばれる金属、該金属の酸化物、水酸化物および炭酸塩ならびに該金属の酸化物および水酸化物の水和物からなる群から選ばれる少なくとも1種であり、m、x、yおよびzは定数)で表される無機充填剤があげられ、これらの充填剤はとくに制限はなく、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0023】
補強用充填剤の含有量は、ゴム成分100重量部に対して1重量部以上が好ましく、10重量部以上がより好ましい。補強用充填剤の含有量が1重量部未満では、補強性が劣る傾向がある。また、補強用充填剤の含有量は200重量部以下が好ましく、150重量部以下がより好ましい。補強用充填剤の含有量が200重量部をこえると、加工性が悪化する傾向がある。
【0024】
本発明のゴム組成物には、前記ゴム成分、圧電材料、補強用充填剤以外にも、ゴム工業で通常用いられる配合剤、たとえば、老化防止剤、オイル、カップリング剤、ステアリン酸、酸化亜鉛、加硫剤または架橋剤、加硫促進剤または架橋促進剤などを必要に応じて適宜含有することができる。
【0025】
本発明のゴム組成物のマトリックスゴムの体積抵抗率は、圧電材料の体積抵抗率に対して±103Ω・cm以内であることが好ましく、±102Ω・cm以内であることがより好ましい。マトリックスゴムの体積抵抗率が該範囲内にないと、分極が困難な傾向がある。
【0026】
本発明のゴム組成物は、タイヤ、アクチュエーター、フレキシブルな高誘電電気回路基板など、多岐の用途に使用することができる。
【実施例】
【0027】
実施例に基づいて、本発明を具体的に説明するが、本発明は、これらのみに限定されるものではない。
【0028】
以下に実施例および比較例で用いた各種薬品について説明する。
スチレンブタジエンゴム(SBR):JSR(株)製のSBR1502
カーボンブラック:キャボットジャパン(株)製のショウブラックN220
圧電材料:共立マテリアル(株)製のBaTiO3粉末(平均粒子径:1.2μm、キュリー点:120〜125℃)
ステアリン酸:日本油脂(株)製のステアリン酸
酸化亜鉛:三井金属鉱業(株)製の亜鉛華1号
硫黄:鶴見化学工業(株)製の粉末硫黄
加硫促進剤:大内新興化学工業(株)製のノクセラーNS(N−tert−ブチル−2−ベンゾチアジルスルフェンアミド)
圧電材料について、150℃の条件下で180分間乾燥処理後の各特性および乾燥処理前の各特性を測定した。
【0029】
(圧電材料の誘電特性)
ASTM D 3215にしたがい、アジレント・テクノロジー(Agilent Technolory)社製のプレシジョンLCRメータ(Agilent4284)を用いて、DCバイアスの印加なし、AC1.9〜2.0Vの条件下で、周波数1kHz〜1MHzの範囲内のインピーダンスを測定した。そして、測定値から、比誘電率(εr)および誘電損失を算出した。
【0030】
(圧電材料の体積抵抗率)
ケイスリー(Keithley)社製のエレクトロメータ(KEITHLEY617)を用いて、室温、測定電圧50V、印加時間30分間の条件下で、電気抵抗率を測定した。そして、測定値から、体積抵抗率を算出した。
【0031】
(圧電材料の表面吸着水の吸着量)
(株)リガク(RIGAKU)製の示唆熱天秤(TG−DTAシリーズ、TG8120)を用いて、大気圧雰囲気下で、20〜500℃の範囲内で測定した。
【0032】
圧電材料の評価結果を表1に示す。
【0033】
【表1】

【0034】
(実施例1および比較例1〜5のゴム組成物の作製)
表1の配合処方にしたがい、1.7Lの密閉型バンバリーミキサーを用いて、圧電材料、硫黄および加硫促進剤以外の薬品を150℃になるまで3〜5分間混練りし、混練り物を得た。得られた混練り物に圧電材料を添加し、60℃の条件下で3〜5分間混練りし、さらに、硫黄および加硫促進剤を添加して3〜5分間混練りすることで、実施例1および比較例1〜5のゴム組成物を得た。
【0035】
(実施例2のゴム組成物の作製)
まず、SBRを4%トルエン溶媒に溶解させ、SBRトルエン溶液を作製した。つぎに、表1の配合処方にしたがい、SBR以外の薬品を添加し、数時間撹拌して撹拌溶液を得た。次に、撹拌溶液をキャストすることでトルエン溶媒を除去し、キャストフィルムを得た。さらに、三本ロールを用いて、得られたキャストフィルムを室温の条件下で15分間混練りし、ウェットマスターバッチを得、該ウェットマスターバッチを実施例5のゴム組成物として使用した。
【0036】
(ゴム組成物の誘電特性)
圧電材料の誘電特性と同様の方法を用いて、DCバイアスの印加なし、AC1.9〜2.0Vの条件下で、周波数1kHz〜1MHzの範囲内のインピーダンスを測定し、比誘電率(εr)および誘電損失(%)を算出した。
【0037】
(ゴム組成物の体積抵抗率)
ケイスリー(Keithley)社製のエレクトロメータ(KEITHLEY617)を用いて、圧電材料の体積抵抗率と同様に、ゴム組成物の体積抵抗率を算出した。
【0038】
ゴム組成物の評価結果を表2に示す。
【0039】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘電損失が15%以下の圧電材料を含有し、
誘電損失が15%以下であるゴム組成物。
【請求項2】
圧電材料の一次粒子の平均粒子径が10μm以下である請求項1記載のゴム組成物。
【請求項3】
圧電材料が、乾燥処理されている請求項1または2記載のゴム組成物。
【請求項4】
(A)ゴム成分を有機系溶媒または水系溶媒に溶解させて溶液を得る工程、および
(B)該溶液に圧電材料を添加して撹拌する工程
を含有するウェットマスターバッチの製造方法により得られるウェットマスターバッチを用いた請求項1、2または3記載のゴム組成物。

【公開番号】特開2008−120950(P2008−120950A)
【公開日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−308365(P2006−308365)
【出願日】平成18年11月14日(2006.11.14)
【出願人】(000183233)住友ゴム工業株式会社 (3,458)
【出願人】(592216384)兵庫県 (258)
【Fターム(参考)】