説明

サガラメを利用した化粧品類及び該化粧品類を用いた海藻療法又は海洋療法

【課題】機能性成分を含有するサガラメを利用し、サガラメと清浄でミネラル豊富な海洋深層水とを併用することにより、人間の皮膚にやさしい化粧品類を提供する。
【解決手段】アルギン酸を乾燥重量の30%以上含有するサガラメ又は該サガラメの抽出物と、2価イオンを含む海洋深層水の原水又は該原水からつくられる逆浸透膜水、濃縮水、減塩水、イオン交換水、電気透析水及び深層水塩よりなる群から選ばれた少なくとも一つと、を含むことを特徴とするサガラメの化粧品類。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機能性成分を含有するサガラメを利用した化粧品類及び該化粧品類を用いた海藻療法又は海洋療法に関するものであり、さらに詳しくは、サガラメと清浄でミネラル豊富な海洋深層水とを併用してなる、人間の皮膚にやさしい化粧品類及び該化粧品類を用いた海藻療法又は海洋療法に係るものである。なお、本発明において用いられるサガラメは、天然資源には依存せず、地球温暖化の原因である二酸化炭素を固定することが可能な陸上養殖により培養されたものである。
【0002】
本出願における「化粧品類」とは、パック、パウダー、ローション、クリーム、ソープ、シャンプー、化粧水、石鹸、入浴剤、軟膏、貼付剤等の顔面を含む人間の皮膚に化粧用に塗布ないし貼付されるものをいう。
【0003】
本出願における「海藻療法」とは、海藻を粉末状になし、これを温めた海水でペースト状にしてなるものを人間の皮膚に塗布するようにした療法であって、「アルゴテラピー」とも呼ばれている。
【0004】
本出願における「海洋療法」とは、海岸で海岸気候と海水、海泥、海藻等を用いて行なう療法であって、「タラソテラピー」とも呼ばれている。
【背景技術】
【0005】
現代は、健康・美容が求められる時代であり、皮膚にやさしい化粧品類への期待は高まっている。特に、自然の素材を使用した化粧品類に対する強い需要がある。従来、化粧品類において、所定の薬効を付与するために薬効剤が添加されている。近年は、化粧品類に対する添加物として保湿・美白・抗酸化・細胞賦活等の機能を有する海藻が注目されており、さらには海藻療法(アルゴテラピー)も流行化するなど、海藻が利用される場合が多くなっている。それらに利用される海藻は、コンブ類やトロロコンブ類等の天然で多量に生息するもの、もしくはオキナワモズク・ワカメ等の海中養殖されたもので、その種類は限られている。近年は単一製品より多種多様製品のニーズがあり、利用可能な機能性成分を多く保有する新たな海藻の種類が求められているところである。
【0006】
一方、化粧品類において、ミネラルも注目される成分の一つである。ミネラルは、炭水化物、タンパク質、脂質、ビタミンとともに、人間が生きて行く上で必要な栄養素である。ミネラル不足は、皮膚表皮・体内の免疫作用を低下させ、又はアトピーや成人病の発症等に影響するため、ミネラル成分への注目度は高い。特に化粧品類として、保湿効果や感触効果等が大きく期待されている。
【0007】
また、サガラメを利用する先行技術としては、下記のものが開示されている。
【0008】
(イ)サガラメをβ-グルカン素材として利用するもの(特開2008-248133号公報)
【0009】
(ロ)サガラメを最終糖化産物生成阻害剤として利用するもの(特開2008-214246号公報)
【0010】
(ハ)サガラメをアルドース還元酵素阻害剤として利用するもの(特開2008-214245号公報)
【0011】
(ニ)サガラメを毛乳頭細胞増殖促進剤として利用するもの(特開2007-131571号公報)
【0012】
(ホ)サガラメをウレアーゼ阻害剤として利用するもの(特開2006-241039号公報)
【0013】
(ヘ)サガラメをプロリルエンドペクチターゼ阻害剤として利用するもの(特開2006-96709号公報)
【0014】
(ト)サガラメをβ-グルクロニダーゼ阻害剤として利用するもの(特開2006-45188号公報)
【0015】
(チ)サガラメを血管新生抑制剤として利用するもの(特開2006-22033号公報)
【0016】
しかるに、上記(イ)〜(チ)のいずれにおいても、サガラメとしての成分について言及したものはなく、各々サガラメとしての効果を考慮すれば未だ充分とは言い難い。さらに、それらは、健康機能食品用の素材のためであったり、糖尿病合併症である網膜症・腎症・神経障害・虚血性心疾患・脳血管障害などの予防または治療のためであったり、動脈硬化症・アルツハイマー病・老化・炎症反応等の予防または治療のためであったり、発毛や毛髪成長促進のためであったり、胃炎・肝性昏睡等各種疾患の予防や治療のためであったり、脳機能障害に対する予防や治療のためであったり、生体内の有害もしくは不要物質の生体外への代謝排泄を促進させるためであったり、癌の増殖・移転や糖尿病性網膜症や慢性関節リウマチ等の予防や治療のためのものに他ならない。換言すれば、上記(イ)〜(チ)のいずれにおいても、皮膚にやさしいものである旨の言及はなく、人にやさしい化粧品類として提案されているものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】特開2008-248133号公報
【特許文献2】特開2008-214246号公報
【特許文献3】特開2008-214245号公報
【特許文献4】特開2007-131571号公報
【特許文献5】特開2006-241039号公報
【特許文献6】特開2006-96709号公報
【特許文献7】特開2006-45188号公報
【特許文献8】特開2006-22033号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
機能性成分を保有する新たな海藻による化粧品類が期待されている。ところが、新たな種類の海藻を利用する場合において、通常多量に生息しないものや分布がまばらなものを多くまとめて入手することは困難である。さらには、天然の海藻資源は、近年磯焼け等により減少傾向にあり、持続的に利用するように十分配慮する必要があり、さらに天然資源は地球温暖化に係る二酸化炭素の吸収に貢献しており、その利用には十分な考慮が必要である。
【0019】
一方、イオン性のミネラル成分は水に溶けた状態となっていることから、近年の工場排水・生活排水等による水の汚染により、水の安全性が脅かされ安心できない状態となっている。化粧品類として安心安全でミネラル豊富な水が求められている。
【0020】
本発明は、これらの問題を解決するために、機能性成分を含有するサガラメを利用し、サガラメと清浄でミネラル豊富な海洋深層水とを併用することにより、人間の皮膚にやさしい化粧品類を提供することを目的とする。
【0021】
さらに、本発明は、前記サガラメは、天然資源には依存せず、地球温暖化の原因である二酸化炭素を固定することが可能な陸上養殖により培養されたものを利用することにより、天然資源と地球環境にやさしい化粧品類を提供することを目的とする。
【0022】
加えて、本発明は、前記化粧品類を用いた海藻療法又は海洋療法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0023】
上記課題を解決するために、本発明は、下記のごときサガラメを利用した化粧品類及び該化粧品類を用いた海藻療法又は海洋療法を提供する。
【0024】
(1)アルギン酸を乾燥重量の30%以上含有するサガラメ又は該サガラメの抽出物と、
2価イオンを含む海洋深層水の原水と、該原水からつくられる逆浸透膜水、濃縮水、減塩水、イオン交換水、電気透析水及び深層水塩とよりなる群から選ばれた少なくとも一つと、
を含むことを特徴とするサガラメの化粧品類(請求項1)。
因みに、請求項1の第2パラグラフにおいては、「群」は、2価イオンを含む海洋深層水の原水と、2価イオンを含む海洋深層水の原水からつくられる逆浸透膜水と濃縮水と減塩水とイオン交換水と電気透析水と深層水塩とよりなるものであり、この群から選ばれた少なくとも一つが用いられる。
【0025】
(2)前記サガラメは、胞子体又はその一部を培養水で成熟させて遊走子を放出させ、該遊走子から得た配偶体を成熟誘導し精子と卵とを得て、該精子と卵とを受精させて得た胞子体を培養してなる、人工管理下で養殖されたものである(請求項2)。
【0026】
(3)前記サガラメは、海洋深層水で養殖されたものである(請求項3)。
【0027】
(4)前記サガラメを乾燥させた後に細かくし、これを容器内の水に浸漬して水溶性成分を抽出し、得られた抽出物に対し海洋深層水の電気透析水を該抽出物の30〜50重量%加えて撹拌してなる粘性が増した溶液を含むサガラメの化粧品類。
【0028】
(5)前記いずれかのサガラメの化粧品類を用いることを特徴とする海藻療法又は海洋療法。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、機能性成分を含有するサガラメと、清浄でミネラル豊富な海洋深層水とを併用することにより、人間の皮膚にやさしい化粧品類を提供することができる。該化粧品類は、実用性に優れた効果を有するものである。
【0030】
後述の如く、光、温度等の環境条件等により、アルギン酸含有量が乾燥重量の30%未満のサガラメも存在するが、アルギン酸を乾燥重量の30%以上含有するサガラメ又は該サガラメの抽出物を用いたときには、サガラメの機能性を効率的に化粧品類に使用することができる。
【0031】
さらに、前記サガラメが人工管理下で養殖されたものである場合、天然資源に依存しなくてよく、地球温暖化の原因である二酸化炭素も固定することが可能となり、天然資源と地球環境にやさしい化粧品類の提供が可能となる。
【0032】
また、前記サガラメを乾燥させた後に細かくし、これを容器内の水に浸漬して水溶性成分を抽出し、得られた抽出物に対し海洋深層水の電気透析水を該抽出物の30〜50重量%加えて撹拌してなる粘性が増した溶液を含むサガラメの化粧品類は、人間の皮膚に更にやさしい、一層好ましいものである。
【0033】
因みに、当該得られた抽出物に加えられる海洋深層水の電気透析水が該抽出物の30重量%未満である場合には、粘性が弱すぎ、これが50重量%を越す場合には粘性が強すぎるため、これらいずれの場合にも好ましい化粧品類は得られない。
【0034】
請求項1〜4の化粧品類を用いた海藻療法(アルゴテラピー)および海洋療法(タラソテラピー)は、病気の治療・予防・健康増進に役立つ療法であり、人にやさしい療法である。さらに、従来の療法においては天然資源や地球環境に配慮したものはなかったが、人工管理下で養殖されたサガラメを用いた海藻療法又は海洋療法は、天然資源にやさしく、地球環境にやさしいものである。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】図1は、実施例5の溶液をコットン片に含ませて人間の顔面の右半分に貼付し、湿布している状態を示す図面代用写真である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
本発明は、サガラメもしくはその抽出物を含む化粧品類を提供する。
【0037】
サガラメ(Eisenia arborea)とは、褐藻類コンブ科アラメ属の海藻であり、アルギン酸、フコイダン、マンニトール、ラミナラン、βグルカン等の多糖類や、フロロタンニン等のポリフェノール類や、フロロタンニン類や、クロロフィルa、c、フコキサンチン等の色素類や、グルタミン酸、等の機能性成分を含む海藻である。特に、サガラメは粘着成分であるアルギン酸やフコイダン等の粘液多糖を多く含有する。サガラメは皮膚の色・つや・張りをよくし、新陳代謝を活発にし、身体の抵抗力を高め、美容や老化防止に適する。
【0038】
オキナワモズクはアルギン酸をほとんど含まず、さらにはコンブ・トロロコンブ・ワカメ・アラメ・ヒジキと比較して、サガラメのアルギン酸含有量は多い(表1)。これらのことから、サガラメはアルギン酸含有量トップクラスの海藻といえる。このように健康成分や美肌成分等が含まれるサガラメを化粧品類の素材として利用することは大変有効であり、皮膚にやさしい化粧品類、すなわち人にやさしい化粧品類を提供できる。サガラメはアラメ属褐藻ではあるものの、トロロメとも呼ばれるほど粘着性が強く、明らかにアラメ(
Eisenia bicyclis )とは異なるものであり、他の褐藻類とも異なるものである。
【0039】
サガラメは胞子体、配偶体、遊走子、精子、卵等どのステージでも使用できる。サガラメ胞子体の全体あるいは少なくとも根、茎、葉等の一部位を含み、生状態でも乾燥状態でも可能で、さらには切り刻んだり、すり潰したりしてもよく、固形体、液状体、粉状体、ペースト状態、シャーベット状態等いかなる状態でもよい。
【0040】
抽出に関しては、切り口からの粘液採取や、熱水による抽出等いかなる方法でもよく、抽出溶媒も水やアルコール等いかなるものでもよく、さらには抽出時の温度や酸アルカリ度合はいかなる環境下でもよい。抽出した成分はそのままでも濃縮してもよく、固形体、液状体、粉状体、ペースト状態、シャーベット状態等いかなる状態でもよい。
【0041】
化粧品類の配合形態は、特に限定されず、例えばパック、パウダー、ローション、クリーム、ソープ、シャンプー、化粧水、分散液、軟膏、液剤、エアゾール、貼付剤、石鹸、入浴剤等のいずれの形態の化粧料であっても、外用医薬品等であっても良い。
【0042】
化粧品類は、サガラメもしくはその抽出物と海洋深層水もしくはその成分とを含むことが好ましい。けだし、サガラメもしくはその抽出物と清浄でミネラル豊富な海洋深層水と併用することにより人間の皮膚にさらにやさしい化粧品類を提供できるからである。
【0043】
しかも、サガラメに多く含有されるアルギン酸は、カルシウムなどの2価イオンと反応してゲル化するため、海洋深層水に含まれるイオンと反応してゲル化させることができ、効率的に粘着度合いを高めることができるからである。海洋深層水の原水、それからつくられる濃縮水、減塩水、イオン交換水、電気透析水、深層水塩等が使用できる。
【0044】
本出願において、「海洋深層水」とは、海洋の水深100メートル以深から汲み上げたものをいう。
【0045】
海洋深層水中には80以上の元素が存在し、鉄や亜鉛等の必須微量元素や、カルシウム、カリウム、ナトリウム、マグネシウム等さまざまなミネラル成分が含まれている。
【0046】
海洋深層水は、海水における水深100メートル未満の表層水との比較において、下記の水質特性を有する。すなわち、海洋深層水は、病原菌や細菌数が少ない、有害な汚染物質が少ない等の‘清浄性’、硝酸塩、リン酸塩およびケイ酸塩などの無機栄養塩類に富む等の‘高栄養性’、周年を通して水温が低い‘低水温性’、水質の変動が小さく、物理・化学的および微生物学的に安定している‘水質安定性’等を備えている。例えば、水深350〜700mの駿河湾深層水では、生菌数は表層水の約100分の1、水温は約5〜10℃、無機栄養塩類の濃度は表層水の約3〜70倍である。
懸濁物質は、表層水で平均1.1(0.2〜2.0)mg/L、397m駿河湾深層水で平均0.8(0.3〜1.8)mg/L、687m駿河湾深層水で平均0.5(0.3〜0.9)mg/Lであり、駿河湾深層水で懸濁物質が少なかった。
CODは、表層水では0.5mg/L以上になることがあるが、駿河湾深層水中においては0.5mg/L未満と報告下限値であり、清浄性が確認された。
駿河湾深層水中において、環境省が提示した内分泌攪乱化学物質67種はすべて検出下限以下であった。
大腸菌群は、表層水において1個/mL検出されたことがあったが、駿河湾深層水中においては検出されなかった。
腸炎ビブリオは、表層水において1個/mL検出されたことがあったが、駿河湾深層水中においては検出されなかった。
「人の健康の保護に関する項目」、すなわち、カドミウム、全シアン、鉛、六価クロム、ヒ素、総水銀、PCB、ジクロロメタン、四塩化炭素、1,2‐ジクロロエタン、1,1‐ジクロロエチレン、シス1,2‐ジクロロエチレン、1,1,1‐トリクロロエタン、1,1,2‐トリクロロエタン、テトラクロロエチレン、1,3‐ジクロロプロペン、チウラム、シマジン、チオベンカルブ、ベンゼン、セレン、については駿河湾深層水中においてはすべて報告下限値を下回った。
環境ホルモンの1種と考えられるTBT、TPTは、駿河湾深層水中において検出されなかった。
駿河湾深層水は、「人の健康の保護に関する環境基準」、「水道法施行規則水質基準に関する省令の基準」を満たしており、清浄かつ安全性であることが示唆された。
【0047】
サガラメは、人工管理下で養殖されたもの、すなわち、胞子体もしくはその一部を培養水で成熟させて遊走子を放出させ、該遊走子から得た配偶体を成熟誘導し、精子と卵とを得て、該精子と卵とを受精させて得た胞子体を培養することを内容とする養殖過程において得られたサガラメであることが好ましい。けだし、人工管理下で養殖されたサガラメは、まとめて多く入手することやサイズ等を揃えることが可能となり、さらには、天然資源に依存しておらず、地球温暖化の原因である二酸化炭素も固定することが可能となり、天然資源と地球環境とにやさしい化粧品類の提供が可能となるからである。サガラメの天然資源は、磯焼け等により減少傾向にあり、さらに天然資源は地球温暖化に係る二酸化炭素の吸収に貢献しているため、天然資源になるべく依存しない形態が望ましい。人工管理下での養殖としては海面養殖や陸上養殖の形態が望ましい。養殖により、天然資源とは別に二酸化炭素の吸収に貢献することが可能である。陸上養殖が一層好ましい。陸上養殖においては、より人工管理が徹底され、さらにはエアレーションにより天然資源とは別に二酸化炭素の吸収に貢献することが可能である。コンブ科海藻の炭素含有量は25〜35%程度であるため、仮に炭素含有量を30%として計算した場合、乾燥サガラメの生産量1000kg(300kg炭素)で1100kgの二酸化炭素を吸収することになる。
陸上養殖においては、遊走子、配偶体、胞子体等のサガラメの生長過程において、固着させずに浮遊状態で養殖することが好ましい。従来は、海藻を固着させて生産していたために、大量に生産するためには基質を構成する多数の容器が必要であり、容器の固着面積により生産量が制限を受けていた。さらには、商品として取り扱う場合には、基質から剥離するための多大な時間と労力を要していた。浮遊状態で生産することにより、このような課題が解決されるからである。
【0048】
サガラメは、下記の理由により、海洋深層水で養殖されたものであることが好ましい。
(a)海洋深層水で養殖されたサガラメは、天然のサガラメに比較して、アルギン酸含有量が多い(表1参照)。
(b)富栄養性の特徴を有する海洋深層水を利用するとサガラメの成長が早く効率的な養殖が可能である。例えば、本発明者が行なった測定によれば、サガラメ幼体の生長速度は、表層水で3.2mm/day、397m駿河湾深層水で3.7mm/day、687m駿河湾深層水で4.1mm/dayであり、駿河湾深層水で約1.2倍生長速度が速かった。
(c)サガラメを海洋深層水で養殖すれば、二酸化炭素の固定量も増加する。
(d)清浄な海洋深層水で養殖されたサガラメは、人にやさしい化粧品類を提供することができる。
【0049】
本発明は、さらに、上記化粧品類を利用した海藻療法(アルゴテラピー)および海洋療法(タラソテラピー)を提供する。上記化粧品類を利用すれば、病気の治療・予防・健康増進に役立つ療法、すなわち人にやさしい療法が可能となる。さらに、従来の療法においては天然資源や地球環境に配慮したものはなかったが、人工管理下で養殖されたサガラメを用いた海藻療法および海洋療法本療法は、天然資源にやさしく、地球環境にやさしいものである。特に、海洋療法において海洋深層水を利用することが好ましい。けだし、清浄でミネラル豊富な海洋深層水を利用することにより、病気の治療・予防・健康増進に一層役立つからである。
【0050】
本発明において用いるサガラメ(Eisenia arborea )は、好ましくは、海洋深層水で陸上養殖したものである。さらに、本発明において用いられる海洋深層水は、好ましくは、駿河湾の水深300〜700mから汲み上げたものである。
【0051】
以下、本願発明者がサガラメに含まれるアルギン酸の含有量を測定した結果について、説明する。
【0052】
サガラメに含まれるアルギン酸の含有量の測定には、駿河湾深層水を用いて陸上養殖したサガラメと、天然サガラメとを用いた。それぞれのサガラメについて、乾燥させたサンプルをミルで粉砕し、約1gを精秤したのち、50mM
硫酸を100ml加えて、硫酸化多糖類を2回抽出した。この残渣に1.0%炭酸ナトリウム水溶液を100ml加えてアルギン酸を2回抽出した。この抽出液を透析用チューブに入れて2日間透析した後、凍結乾燥し、得られた乾燥物の重量をアルギン酸量とした。
【0053】
その結果、深層水養殖したサガラメで38.8〜54.2 (平均46.4)%、天然サガラメで37.4〜47.4 (平均41.8)%のアルギン酸が含まれていた。他種の海藻類ではアルギン酸含有量が乾燥重量の17〜30%であり(引用文献1)、サガラメは他の海藻類よりも多量のアルギン酸が含まれていることがわかった(表1)。そして、深層水養殖したサガラメにおいては、さらにアルギン酸含有量が多いことが判明した。
【0054】
【表1】

引用文献1 山田信夫(2000)海藻の炭水化物と多糖類.(海藻利用の科学,山田信夫著).成山堂書店.東京.
【0055】
なお、光、温度等の環境条件等により、アルギン酸含有量が乾燥重量の30%未満のサガラメも存在する。
【0056】
以下、本発明の実施例について説明する。なお、本発明はこれらの実施例によって何ら限定されるものではない。
【実施例1】
【0057】
海洋深層水で浮遊培養したサガラメ胞子体を5mm幅に刻み、生重量の25倍量の65℃の湯(水道水使用)を入れたビーカー中に30分間浸漬し水溶性成分を抽出した。得られた抽出物に対し海洋深層水の原水を該抽出物の30〜50重量%加えて撹拌し、粘性が増した化粧品類たる溶液を得た。この溶液を腕の皮膚に塗布したところ、肌がすべすべになった。
【実施例2】
【0058】
海洋深層水で浮遊培養したサガラメ胞子体を24時間風乾させた後、該サガラメ胞子体を5mm幅に刻み、生換算重量の25倍量の90℃の湯(水道水使用)を入れたビーカー中に30分間浸漬し水溶性成分を抽出した。得られた抽出物に対し海洋深層水の電気透析水を該抽出物の30〜50重量%加えて撹拌し、粘性が増した化粧品類たる溶液を得た。この溶液を腕の皮膚に塗布したところ、肌がすべすべになった。
【実施例3】
【0059】
生のサガラメ胞子体25gを荒く刻んだ後、水を入れたビーカー中に30分間浸漬し水溶性成分を抽出した。この抽出物を容器の中に入れ、該抽出物に対し海洋深層水の電気透析水を該抽出物の30〜50重量%加えて撹拌し、粘性が増した化粧品類たる溶液を得た。この溶液を37℃の温水を満たした浴槽(160リットル)に浸した。その浴槽内で人間が入浴したところ、肌がすべすべになった。
【実施例4】
【0060】
サガラメ胞子体の乾燥体1gを手でもみほぐし、これにポットの湯(90℃)を50ml添加し、30分間浸漬し水溶性成分を抽出した。得られた抽出物に対し海洋深層水の電気透析水を該抽出物の30〜50重量%加え撹拌し、粘性が増した化粧品類たる溶液を得た。この溶液をコットン片に含ませて顔の右半分の肌に3分間湿布した(図1参照)。湿布後、水で洗い流した。その結果、湿布した右側の肌は湿布しなかった左側と比較してしっとりしていた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルギン酸を乾燥重量の30%以上含有するサガラメ又は該サガラメの抽出物と、
2価イオンを含む海洋深層水の原水と、該原水からつくられる逆浸透膜水、濃縮水、減塩水、イオン交換水、電気透析水及び深層水塩とよりなる群から選ばれた少なくとも一つと、
を含むことを特徴とするサガラメの化粧品類。
【請求項2】
前記サガラメは、胞子体又はその一部を培養水で成熟させて遊走子を放出させ、該遊走子から得た配偶体を成熟誘導し精子と卵とを得て、該精子と卵とを受精させて得た胞子体を培養してなる、人工管理下で養殖されたものであることを特徴とする請求項1に記載のサガラメの化粧品類。
【請求項3】
前記サガラメは、海洋深層水で養殖されたものであることを特徴とする請求項2に記載のサガラメの化粧品類。
【請求項4】
前記サガラメを乾燥させた後に細かくし、これを容器内の水に浸漬して水溶性成分を抽出し、得られた抽出物に対し海洋深層水の電気透析水を該抽出物の30〜50重量%加えて撹拌してなる粘性が増した溶液を含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のサガラメの化粧品類。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載のサガラメの化粧品類を用いることを特徴とする海藻療法又は海洋療法。

【図1】
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【公開番号】特開2010−215521(P2010−215521A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−60680(P2009−60680)
【出願日】平成21年3月13日(2009.3.13)
【出願人】(590002389)静岡県 (173)
【出願人】(507219686)静岡県公立大学法人 (63)
【Fターム(参考)】