説明

ササエキス含有育毛剤組成物

【課題】優れた育毛・養毛効果および脱毛予防効果を発揮し、安全に使用できる育毛剤組成物を提供する。
【解決手段】繊維芽細胞増殖因子5(FGF−5)作用は、毛母細胞において毛の成長を阻害し毛周期を成長期から退行期へ移行させる作用を有する。ササから高圧圧搾法で得られたエキスのうち、共沸分留における残留液からのササエキス調製品はそのFGF−5作用を阻害する活性を有する。したがってその調製品を1種以上含有する育毛剤組成物は、
毛母細胞の増殖を維持し、直接的に毛の成長を促進する作用する成分を含有するために、優れた育毛・養毛効果を発揮する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維芽細胞増殖因子5作用を阻害するササエキス調製品を含有する育毛剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、開発されてきた育毛・養毛剤の多くは、発毛を阻害する過剰皮脂分泌を抑制したり、頭皮などの血行不良を解消したり、あるいは男性ホルモンの作用を抑制することにより発毛を促すことを狙いとしている。他方、マツエキスに見られるように古来より植物由来の発育毛剤が存在しており、その育毛作用の実体は明らかでないが、民間療法として用いられてきた。このように多数の育毛・養毛剤が存在しているが、薄毛・脱毛に対して普遍的に効果を示すものは今のところ存在せず、薄毛・脱毛の種類による効果の個人差も大きい。
【0003】
ところで毛は一定の速さで絶えず成長するのではなく、成長期と休止期を繰返しながら成長する。成長期から休止期までの毛の成長と脱毛のサイクル(毛周期)は、身体部位および人間の場合には毛1本ごとに相違する。かかる毛母細胞の毛周期に影響を与える物質
の一つとして、変換成長因子(TGF)βは、毛周期を成長期から退行期、休止期へ移行させる作用を示す。その作用を抑制するアンタゴニストが見出され、新規な育毛成分として提案されている。
【0004】
本発明者らは、上記TGFβとは異なるサイトカイン、繊維芽細胞増殖因子5(以下、「FGF−5」ともいう。)の生物活性にも毛周期の制御があることを見出した。FGF−5タンパク質は、多彩な生理作用を示す繊維芽細胞増殖因子(FGF)ファミリーに属する。本発明者らの研究により、FGF−5は、毛の成長を阻害し、毛周期を成長期から退行期へ移行させる作用を有していることが明らかとなった。(非特許文献1〜3参照)

【0005】
さらに本発明者らは、植物からFGF−5活性を阻害する物質を効率よく探索するスクリーニング方法ならびにその育毛作用をインビトロおよびインビボで評価する方法を提案した(特許文献1)。
【0006】
このような現状から、高齢化と多ストレスの社会を反映して薄毛・脱毛に対し、普遍的に効果を発揮する育毛・養毛剤のニーズは、依然としてまた今後も高い。育毛成分として、育毛効果を有効に発揮するとともに、安全な天然素材から得られ、しかも製造コストを抑制できる育毛作用物質が望まれている。
【特許文献1】特願2004−293788号
【非特許文献1】Ozawa K, Suzuki S, Asada Mら J.Biol.Chem. 273:29262-29271 (1998)
【非特許文献2】Suzuki S, Kato T, Takimoto Hら J. Invest. Dermatol.111:963-972(1998)
【非特許文献3】Suzuki S, Ota Y, Ozawa K, Imamura T J.Invest. Dermatol. 114: 456-463 (2000)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者らは、FGF−5作用の研究過程で、この作用を阻害する活性を持つ物質が優れた効果を発揮する育毛剤として利用できるとの着想を得て、毛成長に抑制的に働くFG
F−5作用に対し、阻害作用を有するか、またはアンタゴニストとなる物質を見出すべく、鋭意研究を進めてきた。その結果、本発明者らは特定の植物抽出物がその目的に合致することを見出しており、さらに従来から提供され、使用されているササエキス製品の中で、特定の調製品についてもFGF−5作用の阻害活性のあることを見出し、本発明を完成した。
【0008】
本発明は、そのような特定のササエキス調製品を含有する育毛剤組成物を提供することを目的とする。すなわちFGF−5による毛周期制御機構に基づく、優れた育毛・養毛効果を発揮し、しかもほとんど副作用のない育毛剤組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の育毛剤組成物は、繊維芽細胞増殖因子5の阻害活性を有するササエキス調製品を少なくとも有効成分として含有することを特徴としている組成物である。
前記ササエキス調製品は、ササ原料からササエキスを調製する過程で生成する抽出液を共沸分留した際の残留液である。
【0010】
前記ササエキスが、チシマザサエキスまたはクマザサエキスであることが好ましい。
前記ササエキス調製品がK-3、K-4、NK-3およびNK-4からなる群より少なくとも1種選択されることが望ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明の育毛剤において有効成分の一つとして含有されるササエキスの特定調製品には、FGF−5作用を阻害する活性があることが示された。そのFGF−5作用とは毛母細胞において、毛の成長を阻害し毛周期を成長期から退行期へ移行させる作用である。
【0012】
本発明の上記抽出物を含有する育毛剤組成物は、毛母細胞増殖に直接的に作用する成分を含有するために、優れた育毛・養毛効果および脱毛予防効果を発揮する。その有効成分が植物からの抽出物であり、古来より食品添加物、医薬成分として使用されているため、安全に使用できてほとんど副作用がない。
【0013】
〔発明の具体的説明〕
育毛とは、「現在ある髪の毛を健康に保ち、抜け毛を防ぎ、強い髪にする」ことである(日本毛髪業協会による育毛の定義)。本発明における育毛作用も基本的にはこのような作用を指し、より具体的には、例えば毛髪の太さ、色艶や光沢が改善され、その作用が顕著な場合の例として、頭皮のすでに脱毛している部分に頭髪が再び見られるようになる(いわゆる発毛)ことなどを含めた、広義の作用をいう。また、本発明の育毛物質とは、以下に述べるような、そのような育毛作用に対する有効成分、またはそうした成分を含有する物質のことである。「FGF−5S様活性」とは、FGF−5を阻害するFGF−5Sと同等または類似の阻害作用をいう。
【0014】
以下、本発明を、ササエキス調製品、FGF−5の阻害、阻害活性によるスクリーニング、育毛剤組成物について詳細に説明する。
ササエキス調製品
「ササエキス調製品」とは、ササエキスとしての各種調製品の総称である。「ササエキス」は、チシマザサ、Sasa kurilensis(Rupr.)またはクマザサ、Sasa veitdin(Carr.
)Rehd. (Gramineae)の葉からエタノール溶液にて抽出して得られるエキスなどを一括し
ていう。チシマザサ、Sasa kurilensis(Rupr.)もクマザサに含めることもある。クマザサは温帯から亜熱帯にかけて生息する笹の一種で、日本でも家の周りなどに自生する植物である。したがって本発明では、チシマザサ、クマザサなどを含め、一括して「ササ」という。
【0015】
ササは民間薬として広く用いられた伝統あるハーブであり、薬用植物原料として古来より防腐・抗菌の目的で用いられてきた。また食品添加物(香料・着色料)としても認可されている。このようにササは、抗菌、抗ウィルス作用を持つ安全な天然素材として有用である。
【0016】
本発明の育毛剤組成物は、ササエキスの特定の調製品に繊維芽細胞増殖因子5(FGF−5)作用の阻害活性を有することに基づいたものである。FGF−5作用の阻害活性は、FGF−5S様活性でもある。FGF−5阻害物質と考えられる成分がおそらくこのササエキスの特定調製品中に1種(または複数)含有されることによる。また、市場に供給
されているササエキス製品には、調製工程および/または調製条件が相違するために、多
種類の調製品がある。
【0017】
例えば、チシマザサから、チシマザサエキスを高圧圧搾法により調製する工程を図1に示す。抽出操作を進めるに従い、経てきた工程が相違する各種のエキスが得られる。調製された各エキスのうち、本発明者の探索により上記FGF−5阻害活性を有するもの、有しないものとに分かれることが判明した。
【0018】
繊維芽細胞増殖因子5(FGF−5)の阻害
本発明者らの研究により、FGF−5は、毛の成長を阻害し、毛周期を成長期から退行期へ移行させる作用を有していることが明らかにされている。一方、毛包の根元にある毛乳頭は、毛母細胞の増殖や分化を調節することにより毛の成長を制御している。退行期になると毛母細胞は消失してしまうが、毛乳頭細胞は活動が低下するもののその数は減らない。次の成長期には、毛乳頭細胞が再び活性化し、その作用によって毛母細胞が新たに増殖・分化し始める。毛乳頭細胞そのものは変わっていないため、前の成長期と同じ太さの毛を作ることができる。したがって、成長期から退行期・休止期に移る引き金の役割を担っているFGF−5の作用を何らかの方法で抑制すれば、成長期だけが延長される。成長期をこのように長くする物質は、優れた育毛・養毛効果を発揮すると期待される。
【0019】
実際、成長期の毛胞に大量に発現するFGF−5の短鎖形分子であるFGF−5Sは、FGF−5に対しアンタゴニスト活性を示すことにより、成長期から退行期への移行を遅らせ、毛成長を促進することが、本発明者らにより報告された。FGF−5Sに似たアンタゴニスト活性を持つ1種または複数の物質が、優れた育毛・養毛効果を発揮すると予想
される。
【0020】
FGF−5阻害活性を指標とする育毛作用スクリーング
・培養細胞を用いるイン・ビトロ評価
本発明の育毛剤組成物に使用されるササエキス調製品に育毛作用があるかどうかを判別するためにイン・ビトロ評価を行なった。本評価は、スクリーニングの対象であるササエキス調製品が、培養細胞の増殖を促進するFGF−5作用を阻害するかどうかを測定することを骨子としている。そのイン・ビトロ評価では、FGF−5感受性の、すなわちFGF−5を添加することにより増殖が促進される培養細胞を使用する。例えばFR-Ba/F3細胞が好ましい。
【0021】
具体的な手順として、FGF−5に対して感受性のあるFR-Ba/F3細胞を、10%ウシ胎児血清を含む培養液中で培養する。たとえば96穴培養用プレートに播き換え、培養液にFGF−5、適当に希釈した評価試料(ササエキス調製品)またはベヒクルを添加して培養する。あるいは、上記細胞が培養されているFGF−5含有培養液に、評価対象の試料を添加することによってもよい。ここで添加する用量としては、使用する細胞、培養条件等により異なるが、培養液中の濃度として1ng〜10mg/mlが好ましく、調製品の用量
は希釈倍率を変えて少なくとも数点設定するのが好ましい。
【0022】
一定期間培養した後、該細胞の増殖の程度を測定する。各ウェルに市販のセルカウンティングキットを添加し、一定時間、たとえば1〜24時間、好ましくは2〜8時間、具体的
には3時間培養した後、FGF−5依存的なFR-Ba/F3細胞増殖をいずれの濃度で阻害するかどうかを調べてもよい。上記培養細胞の増殖が抑制されれば、添加した試料が、FGF−5による細胞増殖の刺激作用を阻害したこととなる。阻害の程度は、最大阻害の50%阻
害濃度で比較できる。たとえば、マイクロプレートリーダーを用いて細胞数を数えることにより細胞増殖を調べることができる。あるいはそれぞれの細胞に細胞増殖の指標となる物質(チミジンなど)を加え、その取り込みを見ることによって効果を判定してもよい。増殖の程度の比較には、被検物質の代わりにベヒクルを含むものを対照とする。そうしたFGF−5作用を阻害する活性は、ベヒクルを投与した対照群に対する細胞増殖の相対割合(たとえば%)として示される。
【0023】
・動物モデルを用いるイン・ビボ評価
スクリーニングにおけるイン・ビボ評価は、動物、好ましくは毛周期を強制同調させたマウスモデルに試料を塗布投与することによる。次いで適切な観察時期に毛包の形態などを測定して、育毛剤成分の候補となり得るササエキス調製品について、その発毛・育毛効果を評価する。
【0024】
ササエキス調製品が発毛・育毛効果を有すると判定されるためには、毛周期の成長期を実際に延長するか、あるいは退行期への移行を遅らせることが必要であり、これらは、具体的に次のようにして確認される。塗布する部位は、毛周期の同調が維持される限り特に限定されるものではない。評価方法における操作を容易にする観点からは、動物の背部周辺が好ましい。その用量は1ng〜10mg乾燥重量/個体/1回程度が好ましい。この作業は1回のみでも、数回繰り返してもよい。
【0025】
毛周期が休止期にあるマウス背部を抜毛し、成長期を誘導する。成長期の開始からササエキス調製品(たとえば50%エタノール溶液)を、通常は、1日1回塗布する。成長期の
開始から塗布作業を開始し、最終塗布の翌日、マウスの皮膚を採取して薄切切片を作成し、毛包の形態、大きさを比較する。具体的には、光学顕微鏡下にて観察した皮膚切片像は、写真撮影およびコンピュータへの画像データの取り込みを行なって、切片中の毛包の形態および大きさを比較する。
【0026】
対照群であるベヒクル(たとえば50%エタノール)塗布群では、毛包が短く既に退行期
に移行しているのに対し、当該エキスの塗布群では、毛包が長く成長期が持続しており、毛周期が成長期から退行期へ移行するのを遅延させていることを確認できれば、発毛・育毛効果があると判断できる。
【0027】
・育毛作用の評価
ササからエキスを抽出する場合、通常、高圧圧搾、ブランチング、加水分解などの処理を行なうことにより、各種のエキス調製品が生成する。そうした処理を経て得られた液体成分は、さらに共沸分留される(図1)。この共沸分留によって留出液と分留後に残った残留液とに分かれる。本発明者は、図1に示されるササエキス調製品それぞれについて、
上記の育毛作用の評価を行った。その結果、共沸分留において生成する残留液にFGF−5作用を阻害する活性があることを見出した。それ以外のエキス調製品にはそうした活性が認められなかった。したがって、ササ原料からササエキスを調製する過程で生成する抽出液を共沸分留した際の残留液が、育毛剤組成物の有効成分として利用できる。育毛剤組成物に加えられるササエキス調製品は、図1のK-3、K-4、NK-3およびNK-4からなる群より少なくとも1種選択されることが望ましい。
【0028】
FGF−5阻害活性があると認定されたササエキス調製品は、そのままでも本発明に係る育毛剤、化粧料に有効成分として含有させることは可能である。保存、育毛剤の形態など、製剤化の要件を考慮すると、さらに減圧濃縮、希釈、ろ過などの処理を適宜行なって用いてもよい。あるいは、抽出した溶液を、濃縮、噴霧乾燥、凍結乾燥などの処理を行なって乾燥物としてもよい。
【0029】
濃縮、乾燥、または水もしくは極性溶媒への再溶解といった操作、あるいはこれらの生理作用を損なわない範囲で、公知の方法により脱色、脱臭、脱塩などの精製処理、カラムクロマトグラフィーなどによる分画処理による精製をさらに行なってもよい。
【0030】
育毛剤組成物
発毛・育毛の生理メカニズムを担う毛乳頭細胞機能とこれを制御する分子の作用に立脚する育毛物質を有効成分に含む育毛・養毛剤でなければ、満足すべき発育毛効果を得られない。かかる観点から完成された本発明の育毛剤組成物は、上記のFGF−5の作用を阻害するササエキスを1種または2種以上、有効成分として含有する。本発明の育毛剤組成物は、含有する有効成分の作用が発毛の分子的機作に裏づけられており、しかもその成分が天然素材に由来するという特徴を有している。
【0031】
本発明の育毛剤組成物は、有効成分として選択された上記ササエキス調製品、1種また
は2種以上とともに、下記の成分を所定量、常法に従って混合などの操作を施すことによ
り製造することができる。
【0032】
育毛剤組成物全量に対する上記エキスの添加量は、育毛剤の形態、他の有効成分の有無、添加後の処理などにより異なる。液状の育毛剤全量に対するその量は、エキスの状態で、好適には0.001〜5.0重量%、より好ましくは0.1〜1重量%である。ここでエキスの状態とは、0.001%未満では、所期の発育毛促進効果が得られず、逆に5%を超えると、その効果は頭打ちであるにもかかわらず、コストが上昇するだけである。育毛剤組成物が、乳状、ゼリー状、ペースト状など半固形または流動状の場合には、ササエキス末などを上記上清の量に基づいて換算した割合で添加すればよい。
【0033】
本発明に係る育毛剤組成物は、液剤状、乳剤状、ゲル状、クリーム状、軟膏状、フォーム状、ミスト状、ジェル状など、種々の剤型をとり得る。
具体的には育毛剤組成物は、ヘアトニック、ヘアジェル、ヘアクリーム、ヘアトリーメントローション、ヘアフォーム、ヘアミスト、ヘアシャンプー、ヘアリンスなどの形態で提供される。
【0034】
本発明の育毛剤組成物には、上記必須成分の他に上記抽出物の作用を損なわない範囲で、油性成分、ヒアルロン酸、セラミドなどの保湿剤、α−トコフェロール、アスコルビン酸誘導体などの抗酸化剤、界面活性剤、紫外線吸収剤、局所刺激剤、毛包賦活剤、香料、色素、防菌防黴剤、pH調整剤、増粘剤、賦形剤、清涼剤などの一般的な育毛剤用添加物を任意に組み合わせて適宜、含有させることができる。さらにキレート化剤などの安定化剤、経皮吸収促進剤なども加えてもよい。
【0035】
また、頭皮状態の正常化に有効とされる他の育毛促進成分を併用することにより、育毛・養毛効果の相乗作用を図ることもできる。この目的には、常用の血行促進剤、抗脂漏剤、角質溶解剤などがある。
【0036】
本発明の育毛剤組成物は、症状や体質にかかわらず育毛を促進し、著しい抜毛の改善、治療、種々の脱毛症にも著効を発揮する。また適用の主な対象は、ヒトの頭髪であるが、
イヌ、ネコ、カナリヤ、インコといった愛玩動物の毛並み改善などにも使用できる。さらに毛を採取するか、毛皮を利用するメンヨウ、カシミヤ山羊、アルパカ、アンゴラウサギ、ミンク、キツネなどの動物にも適用して発育毛を促進し毛の色つやを良くすることで、毛または毛皮製品の品質を高める一助となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0037】
〔実施例〕
以下、本発明について実施例を挙げてさらに説明を加えるが、本発明がこのような実施例にのみに限定されるものではない。なお特にことわらない限り、%は、重量%である。
【実施例1】
【0038】
培養細胞を用いる、クマザサエキス中のFGF−5阻害物質の検出
使用したチシマザサエキス調製品は、図1に示されたK-1、K-2、K-3(上清)、
K-4(上清)、K-4(沈殿抽出上清)、NK-2、NK-3(上清)、NK-4(沈殿抽
出上清)である。
【0039】
FGF−5に応答性のあるFR-Ba/F3細胞を、10%ウシ胎児血清を含む培養液中で培養した。96穴培養用プレート(グライナー社製)に、50,000細胞/ウェルで播き換え、培養液に0.3μg/mlのFGF−5、適当に希釈した被検物質(上記クマザサエキス調製品)およ
びベヒクルである50%エタノールを添加して3日間培養した。その後、各ウェルにセルカウンティングキット(和光純薬製)を添加し、2時間培養した後、マイクロプレートリーダーを用いて細胞増殖を調べた。その結果を表1に示す。IC50値が小さいものほど、FGF−5阻害作用が強い。
【0040】
K-3、K-4、NK-3、及びNK-4は、FGF−5依存的なFR-Ba/F3細胞増殖をいずれも低濃度で阻害した。これらの結果から、ササエキス調製品K-3、K-4、NK-3、
及びNK-4は、選択的にFGF−5阻害活性を持つことが示された。
【0041】
K-3、K-4、NK-3、及びNK-4は、すべて固液混在製品であるが、FGF−5阻害活性はこれらの遠心上清部分(K-3(上清)、K-4(上清)、及びNK-3(上清)
)、及びエタノール−水混液による抽出後の遠心分離上清部分(NK-4(沈殿抽出上清
))に存在した。このことは、FGF−5阻害活性を持つ成分が水溶性であり、上清部分にすべて溶出し、固体部分には存在していないことを意味する。なおK-3(上清)、K-4(上清)、NK-3(上清)、及びNK-4(沈殿抽出上清)の阻害活性に大きな差異はないが、K-3よりはK-4の方が、NK-3よりはNK-4の方がやや強力である傾向が観察された。
【0042】
【表1】

【実施例2】
【0043】
毛周期同調マウスを用いる塗布実験
毛周期が休止期にある8週齢のC3H/HeN雄性マウス(日本SLC社より購入)の背部を、手指を使って抜毛し、成長期を一斉に誘導した。誘導翌日から17、18、19、または20日間、実施例1でFGF−5阻害活性が認められたK-3(上清部)10容を50%エタノ
ール溶液90容に溶解した混合液を、1日1回、抜毛した部分の皮膚約2cm2に0.05ml/cm2
つ塗布した。対照群のマウスには、50%エタノールを1日1回、同様に塗布した。すなわち
抜毛後18日、19日、20日、21日飼育の4パターン(パターンごとに、被検物質群
と対照群を設定)で塗布を行なった。
【0044】
最終塗布の翌日、上記マウスをジエチルエーテル麻酔下放血により屠殺して、塗布部位の皮膚を採取した。採取した皮膚は10%ホルマリン水溶液で固定した後、エタノール脱水系列による処理、キシレンによる透徹を行ない、パラフィン包埋した。ミクロトームを用いて、毛包が上部から下部まで完全に見える方向に4μmの皮膚切片を作成し、シランコ
ートしたスライドグラス上で伸展させた。キシレンによる脱パラフィン処理、エタノール親水系列による処理後、ヘマトキシリンおよびエオシンにより、上記切片を染色し、エタノール脱水系列による処理、キシレンによる透徹を行なった後、エンテラン・ニューを用いて封入した。
【0045】
皮膚切片を光学顕微鏡下にて観察し、写真撮影、コンピュータへの画像データの取り込みを行なって、切片中の毛包の形態および大きさを比較した。その皮膚切片像を図2-1
および図2-2に示す。各切片像において、毛胞は真皮にある嚢状の毛球部から表皮へ向
かって伸びる構造物である。像の下部には、皮下(脂肪)組織が見られる。
【0046】
「成長期」延長効果の判定: 撮影した薄切切片画像中から切断が適切に行われた「適切な毛包」を選び出し、毛包の長さを測定した。「適切な毛包」とは、毛根部分から毛の皮膚表面開孔部まで一様に観察される毛包のことである。
【0047】
切片中の毛包の形態および大きさの観察結果から、対照群であるエタノール(ベヒクル)塗布群(図2-1)では、毛包が短く既に退行期に移行しているのに対して、上記ササ
エキスK-3の塗布群(図2-2)では、毛包は長く成長期が持続していた。
【0048】
表2および表3には、対照群およびK-3塗布群における、測定した毛包の本数を示す

【0049】
【表2】

【0050】
【表3】

【0051】
図3は、平均の毛包長(mm)により示される成長期延長効果を表す。
対照群であるエタノール(ベヒクル)塗布群では、毛包が次第に短くなって退行期に移行していくのに対して、上記ササエキスK-3の塗布群では、18日連続塗布(抜毛後飼
育19日間。図中で、D19)以降、平均毛包長は対照群より有意に長く維持され、成長期が持続する傾向にあった。これらの結果は、本発明の植物抽出物が、毛周期の成長期を延長しており、明らかに育毛活性を有することが示している。
【0052】
図4は、成長期から退行期への移行に伴う、「毛包長縮小」に対する、K-3の抑制、
すなわち脱毛防止効果を表すグラフである。17日連続塗布(抜毛後飼育18日間)における毛包長を100%として、塗布期間中の毛包長をその相対値で示す。上記ササエキスK-3の塗布群では、18日連続塗布(抜毛後飼育19日間。図中で、D19)以降、平均毛包長は対照群より有意に長く維持され、成長期が持続する傾向にあった。
【実施例3】
【0053】
ヘアートニック剤の調製
エタノール55重量部、ポリオキシエチレン(8)オレイルアルコールエーテル2重量部、精製水36重量部に実施例1のササエキス調製品、K-3、1重量部を混合配合する。さらに
常法に従い、メントールなどの香料、酢酸トコフェロールなどの抗酸化剤、サリチル酸などの保存剤、着色剤、pH調整剤を適量配合して、ヘアトニックタイプの育毛剤組成物を形成する。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】図1は、チシマザサから、チシマザサエキスの各製品を調製する製造工程図である。
【図2−1】図2-1は、抜毛後、対照試料(50%エタノール)を18日連続塗布した翌日(抜毛後飼育19日間)に採取したマウス皮膚の染色薄切切片の顕微鏡写真を示す。毛包が縮小し、毛は完全に退行期へ移行している。
【図2−2】図2-2は、抜毛後、ササエキスK-3を18日連続塗布した翌日(抜毛後飼育19日間)に採取したマウス皮膚の染色薄切切片の顕微鏡写真を示す。毛包は長く成長期が持続している。
【図3】図3は、平均の毛包長(mm)により示される成長期延長効果を表すグラフである。左側の棒が対照、右側の棒がササエキスK3を示す。
【図4】図4は、成長期から退行期への移行に伴う「毛包長縮小」に対する、K-3の抑制効果を表す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維芽細胞増殖因子5の阻害活性を有するササエキス調製品を、少なくとも有効成分として含有することを特徴とする育毛剤組成物。
【請求項2】
前記ササエキス調製品が、ササ原料からササエキスを調製する過程で生成する抽出液を共沸分留した際の残留液である、請求項1に記載の育毛剤組成物。
【請求項3】
前記ササエキスが、チシマザサエキスまたはクマザサエキスである、請求項1または2に記載の育毛剤組成物。
【請求項4】
前記ササエキス調製品が、K-3、K-4、NK-3およびNK-4からなる群より少なくとも1種選択される、請求項1または2に記載の育毛剤組成物。

【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図2−1】
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【図2−2】
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【公開番号】特開2007−238503(P2007−238503A)
【公開日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−63136(P2006−63136)
【出願日】平成18年3月8日(2006.3.8)
【出願人】(503167042)株式会社アドバンジェン (4)
【出願人】(501152134)株式会社花田 (1)
【Fターム(参考)】