説明

サファイア基板の加工方法

【課題】表面粗さを0.01μm以下に効率よく仕上げることができるサファイア基板の加工方法を提供する。
【解決手段】サファイアインゴットから切り出され表面および裏面が加工されてうねりが除去されるとともに均一な厚みに形成され表面に光デバイス層が積層されるサファイア基板の加工方法であって、サファイア基板の裏面側を研磨装置のチャックテーブルに保持し、サファイア基板の表面をシリカ粒子をゴム材で固めて構成した研磨パッドによって乾式研磨し、面粗さを0.01μm以下に仕上げる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面に光デバイス層が積層される基板となるサファイア基板の加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光デバイス製造工程においては、略円板形状であるサファイア基板の表面にn型窒化物半導体層およびp型窒化物半導体層からなる光デバイス層が積層され格子状に形成された複数のストリートによって区画された複数の領域に発光ダイオード、レーザーダイオード等の光デバイスを形成して光デバイスウエーハを構成する。そして、光デバイスウエーハをストリートに沿って切断することにより光デバイスが形成された領域を分割して個々の光デバイスを製造している。(例えば、特許文献1参照。)
【0003】
サファイア基板は、サファイアインゴットから切り出された後、ラッピング、ポリッシング等の加工を施すことによって均一な厚みに形成され、その後表面をケミカルメカニカルポリッシング(CMP)加工することにより、表面粗さを0.01μ以下の平滑面に形成される。このように平滑面に形成されたサファイア基板の表面にn型窒化物半導体層およびp型窒化物半導体層からなる光デバイス層が積層して形成される。(例えば、特許文献2参照。)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第2859478号
【特許文献2】特開2006−347776号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
而して、サファイアインゴットから切り出されラッピング、ポリッシング等の加工を施すことによって均一な厚みに形成されたサファイア基板の表面をケミカルメカニカルポリッシング(CMP)加工によって表面粗さを0.01μm以下に仕上げるには相当の加工時間を要するとともに遊離砥粒、化学的なエッチング液およびこれらの廃棄処理を要し生産性が悪いという問題がある。
【0006】
本発明は上記事実に鑑みてなされたものであり、その主たる技術課題は、表面粗さを0.01μm以下に効率よく仕上げることができるサファイア基板の加工方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記主たる技術課題を解決するため、本発明によれば、サファイアインゴットから切り出され表面および裏面が加工されてうねりが除去されるとともに均一な厚みに形成され表面に光デバイス層が積層されるサファイア基板の加工方法であって、
サファイア基板の裏面側を研磨装置のチャックテーブルに保持し、サファイア基板の表面をシリカ粒子をゴム材で固めて構成した研磨パッドによって乾式研磨し、面粗さを0.01μm以下に仕上げる、
ことを特徴とするサファイア基板の加工方法が提供される。
【0008】
サファイア基板の表面側を研磨装置のチャックテーブルに保持し、サファイア基板の裏面を上記研磨パッドによって乾式研磨し、加工歪を除去することが望ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によるサファイア基板の裏面側を研磨装置のチャックテーブルに保持し、サファイア基板の表面をシリカ粒子をゴム材で固めて構成した研磨パッドによって乾式研磨するので、研磨パッドのシリカ(SiO2)とサファイア(AlO3)が反応して粉末状のムライト(SiO2AlO3)が生成されことにより、サファイア基板の被加工面の面粗さを0.01μm以下の平滑面に短時間で形成することができる。しかも、本発明による研磨工具は乾式研磨するので、CMPのように遊離砥粒、化学的なエッチング液およびこれらの廃棄処理が不要となり、生産性を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明によるサファイア基板の加工方法によって加工されるサファイアインゴットから切り出され表面および裏面が加工されて均一な厚みに形成されたサファイア基板の斜視図。
【図2】本発明によるサファイア基板の加工方法を実施するための研磨装置の要部斜視図。
【図3】本発明によるサファイア基板の加工方法における表面研磨工程の説明図。
【図4】本発明によるサファイア基板の加工方法における保護部材貼着工程の説明図。
【図5】本発明によるサファイア基板の加工方法における裏面研磨工程の説明図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明によるサファイア基板の加工方法の好適な実施形態について、添付図面を参照して詳細に説明する。
図1には、本発明によるサファイア基板の加工方法によって加工されるサファイア基板の斜視図が示されている。図1に示すサファイア基板2は、サファイアインゴットから切り出された後、表面2aおよび裏面2bがラッピング、ポリッシング等の加工が施されてうねりが除去されるとともに均一な厚み(例えば、400μm)に形成されている。このように形成されたサファイア基板2の表面2aにn型窒化物半導体層およびp型窒化物半導体層からなる光デバイス層を積層して形成するためには、表面2aの面粗さを0.01μm以下の平滑面に仕上げる必要がある。
【0012】
以下、上記サファイア基板2の表面2aを面粗さが0.01μm以下に効率よく加工する加工方法について説明する。
図2には、本発明によるサファイア基板の加工方法を実施するための研磨装置の要部斜視図が示されている。図2に示す研磨装置3は、被加工物を保持するチャックテーブル31と、該チャックテーブル31に保持された被加工物を研磨する研磨手段32を具備している。チャックテーブル31は、上面に被加工物を吸引保持し図2において矢印31aで示す方向に回転せしめられる。研磨手段32は、スピンドルハウジング321と、該スピンドルハウジング321に回転自在に支持され図示しない回転駆動機構によって回転せしめられる回転スピンドル322と、該回転スピンドル322の下端に装着されたマウンター323と、該マウンター323の下面に取り付けられた研磨工具324とを具備している。この研磨工具324は、円板状の基台325と、該基台325の下面に装着された研磨パッド326とからなっており、基台325がマウンター323の下面に締結ボルト327によって取り付けられている。なお、研磨パッド326は、シリカ粒子をゴム材で固めて構成した研磨パッドを用いることが重要である。この研磨パッド326は、例えば粒径が50μm以下のシリカ(SiO2)粒子と粒径が500μm以下のニトリルゴム(NBR)粒子を重量比で95〜70:5〜30の割合で混合し、このシリカ(SiO2)粒子とニトリルゴム(NBR)粒子との混合物を200〜1200N/cm2の成型圧力で圧縮成型した状態で、150〜190℃の焼結温度で4〜10時間焼結することによって形成すことができる。また、研磨パッド326は、直径が被加工物としてのサファイア基板2の直径より大きい値に形成されている。
【0013】
上述した研磨装置3を用いて上記サファイア基板2の表面2aを研磨するには、図2および図3に示すようにチャックテーブル31の上面(保持面)に上記サファイア基板2の裏面2b側を載置する。そして、図示しない吸引手段によってチャックテーブル31上にサファイア基板2を吸着保持する(サファイア基板保持工程)。従って、チャックテーブル31上に保持されたサファイア基板2は、表面2aが上側となる。このようにチャックテーブル31上にサファイア基板2を吸引保持したならば、チャックテーブル31を図2および図3において矢印31aで示す方向に例えば60rpmで回転しつつ、研磨手段32の研磨工具324を図2および図3において矢印324aで示す方向に例えば1200rpmで回転せしめて図3に示すように研磨パッド326を被加工面であるサファイア基板2の表面2aに接触せしめ、所定の圧力(例えば、100N)で押圧して乾式研磨する(表面研磨工程)。この表面研磨工程においては、研磨パッド326とサファイア基板2は、互いの回転中心が偏芯した状態で研磨パッド326の研磨面(下面)がサファイア基板2の被加工面である表面2aの全面に接触するように位置付けられる。このように、シリカ(SiO2)粒子をゴム粒子で固めた研磨パッド326によってサファイア(AlO3)基板2を研磨すると、シリカ(SiO2)とサファイア(AlO3)が反応して粉末状のムライト(SiO2AlO3)が生成されことにより、サファイア基板2の表面2aが研磨され、表面2aに生成された加工歪が除去されるとともに、表面2aは面粗さが0.0002μm以下の平滑面に形成することができる。本発明者等の実験によると、上述した表面研磨工程を実施することにより1分間に0.6μm(0.6μm/分)研磨することができ、サファイア基板の表面から3μm研磨すると面粗さを0.0002μmの平滑面に形成することができた。従って、上述した表面研磨工程を5分間実施することによりサファイア基板の表面を面粗さが0.0002μmの平滑面に仕上げることができる。一方、CMPは加工速度が0.06μm/分であるため、サファイア基板の表面を3μmCMP加工するために50分の加工時間を要する。このように本発明による研磨加工を実施することにより、加工時間をCMPの10分の1に短縮することができる。
【0014】
なお、上述した表面研磨工程が実施されたサファイア基板2は、上述したように表面2aを研磨すると表面2a側が凹状に反り返る傾向があるため、裏面2bも研磨して加工歪みを除去することが望ましい。このサファイア基板2の裏面2bを研磨するは、上記図2に示す研磨装置3を用いて実施する。なお、サファイア基板2の裏面2bを研磨するに際しては、上述したサファイア基板2の表面2aを保護するために、図4に示すようにサファイア基板2の表面2aに保護テープ4を貼着する(保護部材貼着工程)。
【0015】
次に、図5に示すようにチャックテーブル31の上面(保持面)にサファイア基板2の表面2aに貼着された保護テープ4側を載置する。そして、図示しない吸引手段によってチャックテーブル31上に保護テープ4を介してサファイア基板2を吸着保持する。従って、チャックテーブル31上に保持されたサファイア基板2は、裏面2bが上側となる。このようにチャックテーブル31上に保護テープ4を介してサファイア基板2を吸引保持したならば、上記表面研磨工程と同様にチャックテーブル31を図5において矢印31aで示す方向に例えば60rpmで回転しつつ、研磨手段32の研磨工具324を図5において矢印324aで示す方向に例えば1200rpmで回転せしめて図5に示すように研磨パッド326を被加工面であるサファイア基板2の裏面2bに接触せしめ、所定の圧力(例えば、100N)で押圧して乾式研磨する(裏面研磨工程)。なお、この裏面研磨工程も上記表面研磨工程と同様に、研磨パッド326とサファイア基板2は、互いの回転中心が偏芯した状態で研磨パッド326の研磨面(下面)がサファイア基板2の被加工面である裏面2bの全面に接触するように位置付けられる。この結果、サファイア基板2の裏面2bが研磨され裏面2bに生成された研削歪が除去されるとともに、上記表面2aと同様に裏面2bは面粗さが0.0002μm以下の平滑面に形成される。このように、裏面研磨工程を実施してサファイア基板2の裏面2bに生成された加工歪を除去することにより、サファイア基板2に反り返りが発生ことを防止できる。
【0016】
以上のようにして表面および裏面が研磨されたサファイア基板2は、表面に光デバイス層を積層して形成する光デバイス層形成工程に搬送される。
【0017】
上述したサファイア基板の加工方法においては、サファイア基板の裏面側を研磨装置のチャックテーブルに保持し、サファイア基板の表面をシリカ粒子をゴム材で固めて構成した研磨パッドによって乾式研磨するので、研磨パッドのシリカ(SiO2)とサファイア(AlO3)が反応して粉末状のムライト(SiO2AlO3)が生成されことにより、サファイア基板の表面の面粗さを0.01μm以下の平滑面に短時間(CMPの10分の1)で形成することができる。しかも、本発明による研磨工具は乾式研磨するので、CMPのように遊離砥粒、化学的なエッチング液およびこれらの廃棄処理が不要となり、生産性を向上することができる。本発明者等の実験によると、面粗さが0.0002μmに仕上がったサファイア基板の被加工面をシリカ粒子を研磨剤としてCMP加工すると、10秒程度の短時間でサファイア基板の被加工面の面粗さを0.0001μmに仕上げることが確認された。従って、本発明による加工方法とCMPを併用しても5分10秒の加工時間でサファイア基板の被加工面を0.0001μmの面粗さに仕上げることができる。
【符号の説明】
【0018】
2:サファイア基板
3:研磨装置
31:研磨装置のチャックテーブル
32:研磨手段
324:研磨工具
326:研磨パッド
4:保護テープ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
サファイアインゴットから切り出され表面および裏面が加工されてうねりが除去されるとともに均一な厚みに形成され表面に光デバイス層が積層されるサファイア基板の加工方法であって、
サファイア基板の裏面側を研磨装置のチャックテーブルに保持し、サファイア基板の表面をシリカ粒子をゴム材で固めて構成した研磨パッドによって乾式研磨し、面粗さを0.01μm以下に仕上げる、
ことを特徴とするサファイア基板の加工方法。
【請求項2】
サファイア基板の表面側を研磨装置のチャックテーブルに保持し、サファイア基板の裏面を該研磨パッドによって乾式研磨し、加工歪を除去する、請求項1記載のサファイア基板の加工方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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