説明

サルコイドーシスの治療薬と治療方法

全身性肉芽腫症の一つであるサルコイドーシスの治療薬や、サルコイドーシスの治療方法を提供するものである。塩酸ミノサイクリン、クリンダマイシン等のプロピオニバクテリウム・アクネス(Propionibacterium acnes)を標的とした抗生物質を有効成分とするサルコイドーシスの治療薬を調製する。また、このサルコイドーシスの治療薬をサルコイドーシス患者に投与してサルコイドーシスを治療する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、プロピオニバクテリウム・アクネス(Propionibacterium acnes)を標的とした抗生物質を有効成分とするサルコイドーシスの治療薬や、かかる治療薬をサルコイドーシス患者に投与するサルコイドーシスの治療方法に関する。
【背景技術】
サルコイドーシスは、最も良く知られた、全身性肉芽腫症の一つであるが、多くの集中的な研究にも関わらず、その病因は100年以上も解明されていない(例えば、N.Engl.J.Med.336,1224−1234,1997参照)。肺は、最も一般的に影響をうける臓器であり、肺肉芽腫性炎症は処置されないまま放置されると、ガス交換が妨害され、しばしば回復不能な線維化に陥り、予後不良である。継続した肺の炎症又は線維症を伴う長期的な呼吸障害の発生は、一般の人々に非常に多く見られる。肺は常に病原体を含む風媒性物質にさらされており、多くの研究者が原因となりうる伝播性病原体、及びその肺肉芽腫形成機序への関与を特定すべく研究を続けている(例えば、Clin.Exp.Allergy.31,543−554,2001,Curr.Opin.Pulm.Med.8,435−440,2002参照)。
臨床的及び免疫病理学的類似点のため、最も一般的なマイコバクテリアの感染症である結核がサルコイドーシスに関与しているかもしれないと考えられている。しかしながら、バクテリア培養システム及び組織学的手法、並びにポリメラーゼ連鎖反応法(PCR)の利用にも関わらず、ヒト結核菌(Mycobacterium tuberculosis)及びサルコイドーシスの関係については議論中である(例えば、非特許文献Am.J.Respir.Crit.Care Med.156,1000−1003,1997,Hum.Pathol.28,796−800,1997,Thorax.51,530−533,1996参照)。Propionibacterium acnes(P.acnes)は、皮膚又は粘膜表面に常在する嫌気性胞子非形成型グラム陽性桿菌であるが(例えば、Manual of Clinical Microbiology,587−602,1995参照)、近年、サルコイドーシスの原因抗原の有力候補であることが示唆されている(例えば、Lancet.361,1111−1118,2003参照)。定量的PCRを使ったいくつかの研究により、サルコイドーシス患者の縦隔又は表在性リンパ節(LNs)におけるP.acnesゲノムのレベルは、対象者のそれに比べて顕著に高いということが明らかになり、このことは患者体内においてP.acnesによる「内因性感染」がある可能性を示唆している(例えば、Lancet.354,120−123,1999,J.Clin.Microbiaol.40,198−204,2002,J.Pathol.198,541−547,2002参照)。
肺肉芽腫形成の誘因となる過程では、風媒性又は血液由来の抗原が肺に定着し、マクロファージ(貪食細胞)又は樹状細胞(DCs)(例えば、Am.J.Respir.Cell Mol.Biol.26,671−679,2002参照)のような抗原提示細胞(APCs)が、貪食やその後の抗原提示のためにそれらの抗原を集積して取り囲むと考えられている(例えば、The Lung.Vol.1.2395−2409,1997参照)。この見解に基づいて、肺肉芽腫のいくつかの動物モデル、特にマウスの住血吸虫症モデルにおいて、抗原を肺に留めるための抗原塞栓術を用いた方法が提案されている(例えば、Am.J.Pathol.158,1503−1515,2001,J.Immunol.166,3423−3439,2001参照)。しかしながら、肺間質における長期的な抗原の堆積は実地肺臨床には不適合であり、又、血液由来抗原の播種が肺肉芽腫の全症例の原因になるとは考えにくい。
本発明の課題は、全身性肉芽腫症の一つであるサルコイドーシスの治療薬やサルコイドーシスの治療方法を提供することにある。
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意研究し、以下(1)〜(7)の知見を得て、本発明を完成するに至った。
(1)抗P.acnesモノクローナル抗体を用いた健常マウス肺の免疫染色により、無菌とされてきた正常下気道肺に主にマクロファージに貪食されているP.acnesが存在することがわかった。
(2)P.acnesの16sリボゾーマルRNAのプライマーを用いたRT−PCRにより、健常下気道肺にP.acnesが検出され、(1)をサポートする結果となった。
(3)正常肺所属リンパ節についても(2)と同様にP.acnesが検出された。また、リンパ球増殖アッセイによりP.acnes特異的な免疫反応も認められた。
(4)正常マウスに対するP.acnes感作CD4陽性T細胞の経静脈的移入実験により、肺・肝肉芽腫が形成された。
(5)上記(4)の応用モデルとしてマウスにP.acnesの肺外(足床)反復免疫(400μg・二週間隔)を行ったところ、胸膜直下・気管支血管周囲束優位に分布するTh1型の肉芽腫が形成された。これらのマウスは抗原投与量依存的に血清カルシウム・ACEレベルが上昇し、BAL(気管支肺胞洗浄)リンパ球のCD4/8比は血清カルシウム値に正の相関をもっていた。また、肺外病変として、肝肉芽腫・CD4陽性T細胞の赤脾髄への異常集積もみられた。これらの結果は肺サルコイドーシスの免疫組織学的特徴に酷似するものであった。
(6)上述のサルコイドーシス様肺肉芽腫形成において、健常肺に常在するP.acnesが重要であることを示すために、反復免疫の開始一週間前にP.acnes生菌を前投与し、肉芽腫形成の増幅の有無をみた。すると、投与菌量依存的に肉芽腫形成が増幅しBAL細胞数も増加した。
(7)上記(6)と同様の目的で、P.acnesに対する抗菌操作が肺肉芽腫形成にあたえる影響をみた。P.acnesに対して抗菌作用の分かっている塩酸ミノサイクリン・クリンダマイシンの投与群ではPBS投与群に比し、BAL総細胞・CD4陽性細胞数が減少しており、肉芽腫形成も抑制されていた。
【発明の開示】
すなわち本発明は、(1)プロピオニバクテリウム・アクネス(Propionibacterium acnes)を標的とした抗生物質を有効成分とすることを特徴とするサルコイドーシスの治療薬や、(2)プロピオニバクテリウム・アクネス(Propionibacterium acnes)を標的とした抗生物質が、ペニシリン系抗生物質、セファロスポリン系抗生物質、マクロライド系抗生物質、リンコマイシン系抗生物質、テトラサイクリン系抗生物質から選ばれる1種又は2種以上の抗生物質であることを特徴とする(1)記載のサルコイドーシスの治療薬や、(3)プロピオニバクテリウム・アクネス(Propionibacterium acnes)を標的とした抗生物質が、塩酸ミノサイクリン、クリンダマイシン、アンピシリン又はクラリスロマイシンであることを特徴とする(1)又は(2)記載のサルコイドーシスの治療薬に関する。
また本発明は、(4)プロピオニバクテリウム・アクネス(Propionibacterium acnes)を標的とした抗生物質をサルコイドーシス患者に投与することを特徴とするサルコイドーシスの治療方法や、(5)プロピオニバクテリウム・アクネス(Propionibacterium acnes)を標的とした抗生物質が、ペニシリン系抗生物質、セファロスポリン系抗生物質、マクロライド系抗生物質、リンコマイシン系抗生物質、テトラサイクリン系抗生物質から選ばれる1種又は2種以上の抗生物質であることを特徴とする(4)記載のサルコイドーシスの治療方法や、(6)プロピオニバクテリウム・アクネス(Propionibacterium acnes)を標的とした抗生物質が、塩酸ミノサイクリン、クリンダマイシン、アンピシリン又はクラリスロマイシンであることを特徴とする(4)又は(5)記載のサルコイドーシスの治療方法に関する。
【図面の簡単な説明】
第1図は、健常マウス肺の肺胞におけるP.acnesの存在を示す実験の結果を示す写真である。
a,b 正常マウス肺の肺胞におけるP.acnesの免疫染色(茶色)。拡大率を大きくしたP.acnes含有細胞。スケールバー;5μm(a)、20μm(b)。
c〜e P.acnes(茶色)及びF4/80(青)の二重染色(c)、P.acnes(茶色)及びCD11c(青)の二重染色(d)、P.acnes(茶色)及びDEC205(青)の二重染色(e)。F4/80提示細胞のみがP.acnesを貪食する。スケールバー、20μm。
f 健常マウスの下気道肺におけるP.acnesの検出。P.acnes生菌から抽出した全RNAを陽性コントロールとして使用し、正常な末梢血単核細胞を陰性コントロールとして使用した。示されているデータは3回以上の独立した実験の代表例からとったものである。n=5。マウスに#1−5の番号をふった。
第2図は、正常末梢LNs内のP.acnesに対する免疫応答の結果を示す写真である。
a 正常末梢LNsのP.acnesの16sリボゾーマルRNAの検出。P.acnes生菌から抽出した全RNAを陽性コントロールとして使用した。示されているデータは3回以上の独立した実験の代表例からとったものである。
b P.acnes及びコントロール抗原に反応する白血球増殖アッセイ。白いバー、刺激受けず;黒いバー、P.acnes刺激受けた;ストライプバー、OVA−刺激受けた。示されているデータは3回以上の独立した実験の代表例からとった。n=7。データは平均値±平均値標準誤差。*、P<0.05;**、P<0.01、刺激受けていないグループ及びOVA−刺激受けたグループの両グループに対して。
第3図は、P.acnes感作ヘルパーT細胞の養子移植の結果を示す写真である。
a,b H&E染色はP.acnes感作CD4陽性細胞を第14日目に注射されたマウスの肺(a)及び肝臓(b)の肉芽腫を示している。
c,d a及びbに対応する、未感作CD4陽性細胞を注射されたマウスの肺(c)及び肝臓(d)をそれぞれ示す。スケールバー、100μm。
第4図は、P.acnes反復免疫付与の結果を示す写真である。
a H&E染色が、3回免疫付与されたマウスの肺の主に末梢(上パネル)及び気管支周囲血管により(下パネル)における多数の肺肉芽腫を示した。スケールバー、100μmB。気管支;L、リンパ管;V、肺血管。
b,c 肺肉芽腫の細胞構成。肉芽腫の末梢のCD4陽性T細胞(茶色)、肉芽腫中央のF4/80陽性(b)及びCD11c陽性(c)細胞(両方青色)。スケールバー、100μm。d 肺肉芽腫におけるTh1/2サイトカイン発現。IFN−γを発現し、IL−4(いずれも赤色)は発現しなかった肉芽腫CD4陽性細胞(緑色)。CD4陽性IFN−γ陽性細胞(黄色)は、CD4陽性細胞の層の周辺であった。e〜i BAL数及び細胞構成、血清カルシウムレベル、及びACE活性。全BAL細胞(e)及びBAL内リンパ球数(f)は、免疫付与の頻度が上がると上昇し、CD4/8比(g)及び血清カルシウムレベル(h)は、二回免疫付与されたグループにおいて最大で、2回以上の免疫付与を受けたグループの血清ACE活性(i)は増加した。n=5.データは平均値±平均値標準誤差(hを除く)。示されているデータは3回以上の独立した実験の代表例からとった。j,k 高頻度の免疫付与が、多数の肝臓肉芽腫(j)及び赤脾髄におけるCD4陽性T細胞(矢印)の異常な集積(k)を誘発した。試料は免疫付与が9回行われたマウスから入手した。スケールバーはそれぞれ、100、50μm。RP,赤脾髄;WP,白脾髄。
第5図は、肉芽腫形成に対するP.acnesコロニー常在量の影響を示す写真である。
a P.acnesによる免疫付与を3回行ったマウスのBAL細胞総数。n=5。データは平均値±平均値標準誤差。示されているデータは3回以上の独立した実験の代表例からとった。
b H&E染色による組織学的所見。スケールバー、100μm。
第6図は、本発明の抗生物質投与によるサルコイドーシスの治療効果を示す写真である。
a,b P.acnesによる免疫付与を3回行ったマウスの全BAL細胞(a)、CD4陽性T細胞(b)。n=4〜6。データは平均値±平均値標準誤差。*、P<0.05;**、P<0.01(各PBS処置グループに対して)。示されているデータは3回以上の独立した実験の代表例からとった。
c H&E染色による組織学的所見。スケールバー、100μm。
第7図は、P.acnesの肺外免疫を3回受けるマウスに対し、ペニシリン系:アンピシリン(ABPC)、セフェム系:セファゾリンナトリウム(CEZ)、アミノ配糖体系:硫酸ゲンタマイシン(GM)、ホスホマイシン系:ホスホマイシン(FOM)、マクロライド系:クラリスロマイシン(CAM)についてのBAL(気管支肺胞洗浄)中のCD4陽性細胞数比を調べた結果を示す図である。また、MINO short、CLDM shortとして短期間投与群(肉芽腫誘導モデルマウスの処置後一ヶ月後(最終免疫時)より抗生物質投与)についてのBAL中CD4陽性細胞数を調べた結果を示す図である。
第8図は、抗生物質投与によって肺内の常在P.acnesが減少していることを示すPCRデータを示す写真である。
第9図は、抗生物質投与により非特異的な免疫抑制現象が起こっているかどうかを調べた結果を示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
本発明のサルコイドーシスの治療薬としては、P.acnesを標的とした抗生物質を有効成分と治療薬であれば特に制限されるものではなく、また、本発明のサルコイドーシスの治療方法としては、P.acnesを標的とした抗生物質をサルコイドーシス患者に投与する治療方法であれば特に制限されるものではなく、ここでサルコイドーシスとは、サルコイド症、ベック類肉腫、ベニエー・ベック・シャウマン病、血管類狼瘡などとも呼ばれる多臓器にわたる肉芽腫性疾患をいう。
上記P.acnesを標的とした抗生物質としては、P.acnesに対して抗菌活性を有する化学物質であればどのような物質でもよく、アモキシシリン(Amoxicillin、AMPC)、アモキシシリン・クラブラン酸(Amoxicillin/Clavulanate、AMPC/CVA)、アスポキシシリン(Aspoxicillin、ASPC)、ベンジルペニシリン(Benzylpenicillin、PCG)、アンピシリン(Ampicillin、ABPC)、バカンピシリン(Bacampicillin、BAPC)、シクラシリン(Ciclacillin、ACPC)、ピペラシリン(Piperacillin、PIPC)等のペニシリン系抗生物質や、セフジトレンピポキシル(Cefditoren Pivoxil、CDTR−PI)、セフェタメトピボキシル(Cefetamet pivoxil hydrochoride、CEMT−PI)、セフジニル(Cefdinir、CFDN)、セフィキシム(Cefixime、CFIX)、セフカペンピボキシル(cefcapene pivoxil、CFPN−PI)、セフポドキシムプロキセチル(cefpodoxime proxetil、CPDX−PR)等のセフェム系抗生物質や、ファロペネムナトリウム(Faropenem、FRPM)、イミペネム・シラスタチン(Imipenem/Cilastatin、IPM/CS)、メロペネム(Meropenem、MEPM)、パニペネム/ベタミプロン(Panipenem/Betamipron、PAPM/BP)等のαラクタム系抗生物質や、セプタジダイム(Ceftazidime、CAZ)、セファロチン(Cefalotin、CET)、セファゾリン(Cefazolin、CEZ)、セフォチアム(Cefotiam、CTM)、セフォタキシム(Cefotaxime、CTX)、セフォペラゾン(Cefoperazone、CPZ)、セフチゾキシム(Ceftizoxime、CZX)、セフメノキシム(Cefmenoxime、CMX)、セフピロム(Cefpirome、CPR)、セフェピム(Cefepime、CFPM)、セフォゾプラン(Cefozopran、CZOP)等のセファロスポリン系抗生物質や、クリンダマイシン(Clindamycin、CLDM)、リンコマイシン(Lincomycin、LCM)、エリスロマイシン(Erythromycin、EM)、クラリスロマイシン(Clarithromycin、CAM)、ロキタマイシン(Rokitamycin、RKM)等のマクロライド・リンコマイシン系抗生物質や、ミノサイクリン(Minocycline、MINO)、ドキシサイクリン(Doxycycline、DOXY)等のテトラサイクリン系抗生物質や、キノロン(quinolone)、クロラムフェニコール(chloramphenicol、CP)、リファマイシン(rifamycin、RFM)、スルホンアミド(sulfonamide、SA)薬、コトリモキサゾール(cotrimoxazole)、オキサゾリジノン(oxazolidinone)等や、ロキシスロマイシン(Roxithromycin、RXM)、バンコマイシン(Vancomycin、VCM)等の抗菌性抗生物質や、スパルフロキサシン(Sparfloxacin、SPFX)、シプロフロキサシン(Ciprofloxacin、CPFX)、レボフロキサシン(Levofloxacin、LVFX)トスフロキサシン(Tosufloxacin、TFLX)、フレロキサシン(Fleroxacin、FLRX)等の合成抗菌剤を挙げることができるが、これらの中でもクリンダマイシン、ミノサイクリン(塩酸ミノサイクリン)、アンピシリン、クラリスロマイシンが好ましい。
本発明のサルコイドーシスの治療薬は、サルコイドーシスの予防薬としても用いることができ、有効成分であるP.acnesを標的とした抗生物質を医薬用の治療剤として用いる場合は、薬学的に許容される通常の担体、結合剤、安定化剤、賦形剤、希釈剤、pH緩衝剤、崩壊剤、可溶化剤、溶解補助剤、等張剤などの各種調剤用配合成分を添加することができる。これら治療剤は、経口的又は非経口的に投与することができ、例えば粉末、顆粒、錠剤、カプセル剤、シロップ剤、懸濁液等の剤型で経口的に投与することができ、あるいは、例えば溶液、乳剤、懸濁液等の剤型にしたものを注射の型で非経口投与することができる他、スプレー剤の型で鼻孔内投与及び経気道投与することもできる。
経口的に投与する製剤の場合、薬理学的に許容される担体としては、慣用の各種有機あるいは無機担体物質が用いられ、例えば錠剤には乳糖、デンプン等の賦形剤、タルク、ステアリン酸マグネシウム等の滑沢剤、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルピロリドン等の結合剤、カルボキシメチルセルロース等の崩壊剤等を配合することができ、懸濁液製剤には生理的食塩水アルコール等の溶剤、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール等の溶解補助剤、ステアリルトリエタノールアミン、ラウリル硫酸ナトリウム、レシチン等の懸濁化剤、グリセリン、D−マンニトール等の等張化剤、リン酸塩、酢酸塩、クエン酸塩等の緩衝剤などを配合することができる。また必要に応じて、防腐剤、抗酸化剤、着色剤、甘味剤などの製剤添加物を配合することもできる。非経口的に投与する製剤の場合、蒸留水、生理的食塩水等の水溶性溶剤、サリチル酸ナトリウム等の溶解補助剤、塩化ナトリウム、グリセリン、D−マンニトール等の等張化剤、ヒト血清アルブミン等の安定化剤、メチルパラベン等の保存剤、ベンジルアルコール等の局麻剤を配合することができる。
また、本発明のサルコイドーシスの治療薬の投与量は、疾病の種類、患者の体重や年齢、投与形態、症状等により適宜選定することができるが、例えば成人に投与する場合、有効成分であるP.acnesを標的とした抗生物質およびそれらの薬学的に許容される塩を通常1回量として約0.001〜500mg、好ましくは1〜50mgであり、この量を1日1回〜3回投与するのが望ましい。本発明のサルコイドーシスの治療薬を非経口的に投与するには、たとえば、静脈内投与、皮下投与、筋肉内投与、骨髄腔内投与、経粘膜投与及び経気道投与などを挙げることができるが、静脈内投与や皮下投与及び経気道投与が好ましい。
【実施例1】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの例示に限定されるものではない。
(結果)
[健常マウス肺の肺胞におけるP.acnesの存在]
P.acnesに対する既存の免疫反応があるのならば、健常肺においてP.acnesを検出することが可能なはずである。従って本発明者らは、健常なC57BL/6マウスから採取された新鮮凍結肺切片上で、P.acnesの存在について免疫組織化学的な検討を行った。2〜5の円形顆粒(round granules)が集合するP.acnes陽性染色像を観察した。これらは全て、肺細胞により貪食され、その肺細胞の大半は肺胞に隣接していた(図1a,b)。二重免疫染色により、P.acnes陽性細胞が、CD11c(図1d)又はDEC205(図1e)といった樹状細胞マーカーではなく、既知のマクロファージマーカーであるF4/80(図1c)を発現することが明らかになった(Blood.95,138−146,2000、J.Immunol.166,2071−2079,2001)。さらに、上部気道を除去した、正常な肺のRT−PCR分析により、P.acnes−ゲノムの存在が明らかになり(図1f)、免疫染色の結果をサポートする結果となった。
[定常状態の局所リンパ節におけるリンパ球のP.acnesに対する特異的免疫応答]
末梢APCsは、定常状態においても、提示のために抗原を所属リンパ節に輸送する(Nature.392,245−252,1998、J.Immunol.167,6756−6764,2001)、また、P.acnesは、皮膚又は口腔及び腸の粘膜表面に常在する(Manual of Clinical Microbiology.587−602,1995)。正常肺リンパ節におけるP.acnes特異的免疫反応をテストするため、本発明者らは先ず、RT−PCRにより、他のリンパ節と同様に正常肺リンパ節にもP.acnesゲノムが存在することを証明した(図2a)。本発明者らはその後、これらLNsにおいて、P.acnesに対して特異的な免疫反応が確立されているかをテストし、肺所属リンパ節のリンパ球が、鼠径部、肝臓、及び膵臓のリンパ節細胞と同様に、P.acnesに反応して特異的に増殖することを見出した(図2b)。
[肺及び肝臓の肉芽腫は、未処置マウスへのP.acnes感作T細胞の経静脈的養子移植により、誘発される]
本発明者らは次に、P.acnes感作T細胞を経静脈的に移入すると、正常肺及び正常肝にも肉芽腫が形成されるかどうかを検定した。本発明者らは、P.acnesの免疫付与が繰返し行われた足床(footpad)の所属リンパ節から、P.acnes感作CD4陽性T細胞を入手し、正常なマウスの尾静脈に注射した。2×10のT細胞移植の2週間後、本発明者らは、肺及び肝臓の類上皮細胞及び単核細胞の集合体としての肉芽腫の変化を観察した(図3a,b)。一方対照実験において未感作T細胞の養子移植はそのような結果を生み出さなかった(図3c,d)。
[P.acnesの反復免疫付与により、肺サルコイドーシスに酷似する肺肉芽腫が誘発される]
上記移植モデルの応用モデルとして、本発明者らは足床経由の反復免疫付与により、正常マウス肺に経循環的なP.acnes感作T細胞の供給を、継続的に誘導した。特徴的な肉芽腫が、主にこのように処置されたマウスの肺の胸膜下、及び気管支血管周囲(peribronchovascular)領域に形成された(図4a)。免疫組織化学的な分析により、肉芽腫は、中核原提示細胞、及び周辺部のCD4陽性T細胞から成ることが明らかになった(Am.J.Respir.Cell Mol.Biol.26,671−679,2002)(図4b,c)。さらに、これらCD4陽性T細胞は、IL−4ではなく、IFN−γを発現したことから、肉芽腫はTh1型(図4d)であることが示唆されている。本発明者らはBAL細胞の数を数えることにより、肉芽腫の病変の程度を予測することができた。BAL液中の全白血球及びリンパ球の合計数の増加は、投与回数に伴って増加したが(図4e,f)、二回注射されたグループの中では、CD4/8細胞の比が最も大きかった(図4g)。
この実験的モデルで得られた結果は、サルコイドーシス患者の特徴と合致したため、本発明者らは血清カルシウムレベル及びACE(アンギオテンシン転換酵素)活性を評価することにより、それらの血清学的類似性を検証した(N.Engl.J.Med.336,1224−1234,1997、Lancet.361,1111−1118,2003、Diagnosis of Disease of the CHEST Vol.1,1533−1583,1999)。血清カルシウムは2回注射されたグループで最も増加し(図4h)、ACE活性は抗原投与量依存的に増加した(図4i)。サルコイドーシスにおいて、しばしば病変がみられる肝臓及び脾臓の免疫組織化学的分析により、頻繁に免疫付与されていたマウスにおいて、肝臓に多数の肉芽腫(図4j)及び、脾臓の赤脾髄にCD4陽性T細胞の異常な蓄積が見られた。
[健常肺的常在P.acnesが増加すると肺肉芽腫形成が増進される]
正常な肺に常在するP.acnesが肺肉芽腫をもたらすのであれば、その数量が病変の程度に影響するはずである。この仮説を検証するために、本発明者らは、免疫付与の前の健常マウス肺にP.acnes生菌を前投与した。気管内単独投与により肉芽腫が誘発される可能性を排除するために、本発明者らは、実験の初期段階及び最終段階のいずれにおいてもコントロールの肺に肉芽腫が存在していないことを確認した。3回の免疫付与の後に回収されたBAL内の白血球の総数は前投与されたP.acnesの数量依存的に増加し(図5a)、肉芽腫病変の組織学的検討の結果はこの所見と一致した(図5b)。
[抗生物質治療はマウスサルコイドーシス肺の肉芽腫病変を軽減する]
常在するP.acnesの重要性をさらに評価するために、本発明者らは、抗菌性物質である塩酸ミノサイクリン(MINO)及びクリンダマイシン(CLDM)を用いて健常肺に常在するP.acnesの数を免疫付与に先立って減らした(J.Eur.Acad.Dermatol.Venereol.15,51−55,2001、Semin.Cutan.Med.Surg.20,139−143,2001)。3回目の免疫付与から2週間後、MINO−及びCLDM−処置マウスには、BAL白血球総数の大幅な減少が見られた(図6a);これら2グループのCD4陽性BAL細胞数はそれぞれ、53.5%及び42.1%減少した(図6b)。組織学的検証により、肉芽腫の病変の減少も明らかになった(図6c)。
また、上記塩酸ミノサイクリン及びクリンダマイシンと同様に、ペニシリン系:アンピシリン(ABPC)、セフェム系:セファゾリンナトリウム(CEZ)、アミノ配糖体系:硫酸ゲンタマイシン(GM)、ホスホマイシン系:ホスホマイシン(FOM)、マクロライド系:クラリスロマイシン(CAM)についてのBAL(気管支肺胞洗浄)中のCD4陽性細胞数比を調べた。また、MINO short、CLDM shortとして短期間投与群(肉芽腫誘導モデルマウスの処置後一ヶ月後(最終免疫時)より抗生物質投与)についても調べた。結果を図7に示す。図7は、コントロール(PBS)群を100とした%表示で示されている。その結果、前述のMINO(53.5%改善)、CLDM(42.1%改善)に加え、ABPC(46.1%改善)、CAM(48.3%改善)、CLDM short(74.3%改善)投与群において、BAL白血球総数の大幅な減少が見られた。GMでは効果が見られなかったが、これはGMが元来P.acnesに対して低感受性であることと合致する。
[抗生物質投与により肺内常在のP.acnesゲノムは減少する]
抗生物質によりマウス肺内常在のP.acnesが減少するかについて、PBSをコントロールとするPCRで調べた結果を図8に示す。その結果、MINO及びCLDMを用いた場合にP.acnesが減少することがわかった。また、GMを用いた場合、MINOやCLDMを用いた場合と比較して、P.acneはそれほど減少しなかったが、これはGMが元来P.acnesに対して低感受性であることと合致するものであり、図7に示すBALの結果と呼応している。
[肉芽腫病変の改善は抗生物質の抗菌作用によりもたらされる]
サルコイドーシスに対して抗生物質としての機能を有するMINOとMONOとが、非特異的な免疫抑制現象を引き起こしているかにつき調べた。MINO及びCLDMが耳腫脹の大きさや膵臓値を改善するかにつき調べた結果を図9に示す。その結果、コントロールであるPBSと顕著な差はみられなかった。このことから、肉芽腫病変の改善が、純粋な抗生物質の抗菌作用によりもたらされたことがわかった。
【実施例2】
(考察)
生物は常に異種抗原にさらされているが、肺の下気道は不可侵の無菌空間であり、病原体の肺への侵入が肺の疾患を引き起こすと考えられてきた。この前提に基づき、肺疾患の動物モデルは、気管、鼻腔、又は抗原塞栓肺血管を経由した抗原の強制的投与に立脚していた(Am.J.Pathol.158,1503−1515,2001、J.Immunol.166,3423−3439,2001、Nature.392,245−252,1998、Immunology.108,352−364,2003)。しかしながら、臨床医は病原菌への明らかな曝露のない原因不明の肺疾患、特に間質性肺疾患にしばしば直面している。従って本発明者らは、ある一定の条件下で病原体となりうる生物が健常肺に常在するのかもしれないと推測した。
P.acnesが健常者の皮膚及び粘膜表面に分布し、尋常性ざ瘡(acnevulgaris)の病原となり(Semin.Cutan.Med.Surg.20,139−143,2001)また実験モデルにおいて肉芽腫形成(J.Exp.Med.193,35−49,2001、J.Exp.Med.195,1257−1266,2002)を顕著に誘導することから、P.acnesは病原菌の有力候補と見られている。実際、先行の報告は、P.acnesとサルコイドーシスの関係を強調している(Lancet.354,120−123,1999、J.Clin.Microbiol.40,198−204,2002)。上述のように、本発明者らは免疫染色により正常なマウスの肺胞細胞のP.acnesを同定した(図1a,b)。これらP.acnes含有細胞は、CD11c又はDEC205ではなくF4/80を発現しており、肺において抗原を貪食し、抗原情報を樹状細胞へ伝播するというマクロファージの既知の知見と一致している(図1c〜e)(Am.J.Respir.Crit.Care Med.162,S151−S156,2000、Immunology.81,343−351,1994)。健常肺に、P.acnesを貪食している抗原提示細胞(APCs)が存在するという引き続いて、本発明者らは正常なマウスの肺所属リンパ節におけるP.acnesに対する免疫反応の存在を調べた。確かに、正常な肺リンパ節のリンパ球はP.acnes特異的な増殖を示しており(図2b)、このことは、これらの細胞が定常状態において既に肺由来のAPCによりP.acnesに対する免疫応答を確立していることを示唆している。
本発明者らは次に、P.acnes感作Tリンパ球が、人工的な抗原定着化(antigen−anchoring)がなくても肺の炎症を引き起こすと仮定した。P.acnes感作CD4陽性T細胞の未処置マウスへの養子移植は、肺及び肝の肉芽腫変化をもたらした(図3a)。このことはP.acnesに感作した肺外リンパ節のCD4陽性T細胞は、経循環的に正常な肺に流入することによって肉芽腫形成を誘導し得ることを示している。従って本発明者らは、正常マウスに、継続的なP.acnes肺外感作をすることでP.acnes感作T細胞が継続的に供給され、慢性的な肺肉芽腫形成が起こると仮定した。これらのマウスには、胸膜下、胸膜、及び血管周囲領域などのリンパに富む領域(Scientific Foundations,Vol.1,2395−2409,1997)に特徴的な肺肉芽腫が見られ(図4a)、典型的な肉芽腫(Scientific Foundations,Vol.2,2395−2409,1997)(図4b,c)及びTh1サイトカインの発現が見られた(図4d)。これらの特徴は肺サルコイドーシスの特徴と酷似している(N.Engl.J.Med.336,1224−1234,1997、Curr.Opin.Pulm.Med.8,435−440,2002、Diagnosis of Disease of the CHEST Vol.1,1533−1583,1999)。また、モデルマウスではBAL内CD/CD8細胞比の増加(図4g)に加えて、ACE活性の増加(図4i)及びカルシウムレベルの上昇(図4h)が認められた。これらの所見は、サルコイドーシス患者の血清カルシウムレベル及びBAL CD4/CD8比の正の相関を示した先行研究と一致している(Am.J.Med.110,687−693,2001)。さらに、本発明者らは、サルコイドーシスにおいて頻繁に影響を受けている肝臓と脾臓について、このモデルマウスにおいても同様の肺外病変を見出した(図4j,k)(N.Engl.J.Med.336,1224−1234,1997、Lancet.361,1111−1118,2003、Diagnosis of Disease of the CHEST Vol.1,1533−1583,1999)。以上より、P.acnes反復免疫付与モデルには、サルコイドーシス患者との著しい類似性が認められた。
P.acnes感作T細胞の経循環的な肺内への流入は肉芽腫の形成を誘発しうるので(図3a)、P.acnesを貪食している肺APCと肺リンパ節内T細胞の相互作用は肉芽腫の発生に不可欠であると考えた。この点を確認するために、健常肺内に常在するP.acnesの総量の変化が肺肉芽腫形成に影響を与えるか否かを調べた。予想通り、抗菌性物質治療によりP.acnesを減少させると、肺の肉芽腫病変が減少したのに対して、P.acnesの肺内前投与は、肺の病変を悪化させた(図6a,b)。これらの結果は、常在しているP.acnesが、肺外P.acnes感作により肺肉芽腫形成に極めて重要な役割を果たしているばかりでなく、肺サルコイドーシス治療としての抗菌性物質による除菌療法の臨床的有用性の可能性も示唆している。
サルコイドーシスの原因は現在に至るまで不明とされている。主に皮質ステロイドによる免疫抑制療法が、この疾患に対して50年以上も用いられてきたが、慢性的な肺サルコイドーシスに対するステロイド治療の長期的な効果については、未だに議論中であり(Lancet.361,1111−1118,2003)、治療後の再発率の高さがしばしば臨床的問題となっている(Chest.111,623−631,1997)。本実施例においては、肺サルコイドーシスと著しく類似している新規のマウス肺肉芽腫モデルを作製した。本発明者らが提示したように、もしP.acnesが健常者肺にも存在するのであれば、サルコイドーシス患者について報告されているような、独特の遺伝的背景をもつ人間においては(N.Engl.J.Med.336,1224−1234,1997、Lancet.361,1111−1118,2003、J.Immunol.167,6756−6764,2001)、尋常性ざ瘡のような肺外の領域においてもP.acnesの過剰な感作に引き続いて、肺の病変がおきる可能性がある。従って、この病原体の根絶は、サルコイドーシスの従来の免疫抑制治療に先駆けて考慮されるべきである。本発明者らはこの新しい肺サルコイドーシスの見解が更なる研究に値し、新規の治療戦略の基礎を提供することを提言する。
【実施例3】
(材料と方法)
[マウス]
5〜7週齢の雌のC57BL/6Jマウスを、日本クレア社(日本、静岡県)又は日本エスエルシー社(日本、東京都)から入手し、東京大学医学系研究科分子予防医学教室の動物用施設内で、特定病原体除去(SPF)条件下においた。全ての動物実験は、東京大学の指針に従って行った。
[免疫染色]
以下の抗−マウスモノクローナル抗体(mAbs)を使用した。
CD4(クローン;RM4−5)、ビオチン化IFN−γ(XMG1.2)、ビオチン化IL−4(BVD6−24G2)−以上全てBD PharMingen社製(カリフォルニア、サンディエゴ)−、ビオチン化F4/80(CI:A3−1)、CD11c(N418)−以上いずれもSerotec社製(イギリス、オックスフォード)−、DEC−205(NLDC−145;BMA Biomedical社製Augst,Switzerland)、及び原形質膜のリポテイコ酸認識用のP.acnesに対するマウスmAb(J.Exp.Med.193,35−49,2001)。
2次抗体として、アルカリフォスファターゼ標識化抗ラットIgG抗体(Jackson ImmunoResearch Laboratories社製、West Grove,Pennsylvania)、アルカリフォスファターゼ標識化抗ハムスターIgG抗体(Cederlane社製、Ontario,Canada)又はアビジン(ニチレイ社製、東京、日本)、及びペルオキシダーゼ標識化抗ラットIg抗体(BioSource社製、Camarillo,California)、又はペルオキシダーゼ標識化抗マウスIg抗体(DAKO社製、Carpinteria,California)を使用した。
一重及び二重の免疫染色を間接的免疫アルカリフォスフォターゼ及び免疫ペルオキシダーゼ法により行った(J.Exp.Med.183,1865−1878,1996)。二重免疫染色については、アセトン固定化6μm新鮮凍結組織切片を抗CD4抗体に続いて、Alexa Fluor 488抗ラットIg抗体(Molecular Probes社製、Eugene,Oregon)を用いてインキュベートした。次いで、ビオチン化IFN−γ又はビオチン化IL−4を用いてインキュベートし、さらに、Alexa594−結合アビジン(Molecular Probes社製)を用いてインキュベートし、蛍光顕微鏡観察により観察した(Clin.Immunol.97,33−42,2000)。
[RT−PCR]
1μgの全RNAサンプルを肺、並びにSPFマウスの肺、肝臓、皮膚及び膵臓の所属リンパ節試料から、トライゾル(Invitrogen社製、Groningen,the Netherlands)を用いて、製造者の指示通りに単離した。その後RNAサンプルをcDNAへ逆転写し、増幅した(J.Exp.Med.193,35−49,2001、J.Clin.Invest.102,1933−1941,1998)。P.acnesの16sリボソームRNAのPCR産物を、2.5%のアガロースゲル上で電気泳動した。臭化エチジウム染色により可視化されたバンドは各mRNA産物の予想されたサイズであった。P.acnesのオリゴヌクレオチドプライマーを文献(J.Clin.Microbiol.40,198−204,2002)記載に準じて設計した:forward、5’−GCGTGAGTGACGGTAATGGGTA−3’(配列番号1);reverse、5’−TTCCGACGCGATCAACCA−3’(配列番号2)。実験中のP.acnesのコンタミネーションは、バッファーコントロールでチェックした。内部標準としてのGAPDHのプライマーは、文献(J.Exp.Med.193,35−49,2001)記載のものを用いた。PCR条件は:95℃で5分間加温した後、95℃で30秒、58℃で60秒、72℃で60秒のサイクルを40サイクル繰返し、最後に72℃で10分間加温した。
[抗原特異的増殖アッセイ]
インビトロでの細胞増殖アッセイを、文献(J.Exp.Med.193,35−49,2001)記載の方法に準じて行った。すなわち、通常マウスの気管支周囲、腋窩、鼠径、肝臓、膵臓のリンパ節細胞(105細胞/190μl/ウェル)を、抗原(P.acnes及びOVA;10μg/培養液10μl)を用いて37℃で72時間刺激した。インキュベーション後、細胞増殖をPremix WST−1細胞増殖測定システム(タカラバイオ社製、滋賀、日本)を用いて、製造者の指示通りに測定した。
[P.acnes感作ヘルパーT細胞の養子移植]
P.acnes感作CD4陽性T細胞を、正常マウス及び3回免疫付与されたマウスの鼠径部より単離した。免疫付与は、熱死滅処理した400μgのP.acnes(ATCC11828、American Type Culture Collection製、Manassas,Virginia)とフロイント完全アジュバント(Difco社製、Detroit、Michigan)を、2週間隔で足床に皮下注射して実施した。CD4陽性細胞を、MACSシステム(Miltenyi Biotech社製、Bergisch Gladbach、Germany)を用いて製造者の指示通りに単離した。CD4陽性細胞集団の純度は94%以上で、免疫染色流動細胞計測法によって確認された通りであった。単離されたCD4陽性細胞(2×106細胞/PBS200μl)を、正常マウスの尾静脈に注射し、二週間後に肺を組織学的に分析した。
[気管支肺胞洗浄(BAL)細胞のフローサイトメトリー分析]
BAL細胞を2%のFCS(Sigma社製、St.Louis、Missouri)及び2mMのEDTAを含有する無菌PBS 0.8mlを5回注射することにより収集した。BAL白血球総数は血球計数器により計算した。BAL細胞を、EPICS Elite instrument(Beckman Coulter社製、Miami、Frolida)で分析する前、ラット抗マウスCD16/CD32(クローン;2.4G2)mAbを用いて、FcRを介する結合をブロックするためにプレインキュベートし、その後、いずれもBD PharMingen社製のFITC結合抗CD4(H129.19)mAb及びPE結合抗CD8α(53−6.7)mAbを用いて4℃で25分間インキュベートした。
[血清学的分析]
血清カルシウムレベルを、Fuji DRI−CHEM 5500V(Fuji Medical System社製、東京、日本)により測定し、アンジオテンシン変換酵素(ACE)活性をACE color(Fuji Medical System社製、東京、日本)により製造者の指示どおりに測定した。
[抗生物質治療]
塩酸ミノサイクリン(MINO)(Wyeth Ledele社製、東京、日本)及びクリンダマイシン(CLDM)(Pharmacia社製、東京、日本)を使用した。第一日目に133μgのMINO、及び1.6mgのCLDMを気管内投与(i.t.)する。その後、同用量の各抗生物質を免疫付与前の一週間、毎日腹腔内に投与(i.p.)したあと、腹腔内注射を週に3回行う。実験の間、マウスには上記と同量の各抗生物質を含有した水を与えた。同様に、アンピシリン(ABPC)、セファゾリンナトリウム(CEZ))、硫酸ゲンタマイシン(GM)、ホスホマイシン(FOM)、クラリスロマイシン(CAM)を使用し、これら抗生物質の一回投与量も同じく、成人常用最大量を体重換算して設定した。
[統計分析]
二つの要素、すなわち、要因の分散分析(ANOVA)及びFisher’s protected least significant differeneceを用いて、差異を評価した。0.05未満のP値(P.value<0.05)は統計的に有意であると判断した。
【産業上の利用可能性】
本発明によると、全身性肉芽腫症の一つであるサルコイドーシスの治療薬やサルコイドーシスの治療方法を提供することができる。
【配列表】


【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】

【図8】

【図9】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロピオニバクテリウム・アクネス(Propionibacterium acnes)を標的とした抗生物質を有効成分とすることを特徴とするサルコイドーシスの治療薬。
【請求項2】
プロピオニバクテリウム・アクネス(Propionibacterium acnes)を標的とした抗生物質が、ペニシリン系抗生物質、セファロスポリン系抗生物質、マクロライド系抗生物質、リンコマイシン系抗生物質、テトラサイクリン系抗生物質から選ばれる1種又は2種以上の抗生物質であることを特徴とする請求項1記載のサルコイドーシスの治療薬。
【請求項3】
プロピオニバクテリウム・アクネス(Propionibacterium acnes)を標的とした抗生物質が、塩酸ミノサイクリン、クリンダマイシン、アンピシリン又はクラリスロマイシンであることを特徴とする請求項1又は2記載のサルコイドーシスの治療薬。
【請求項4】
プロピオニバクテリウム・アクネス(Propionibacterium acnes)を標的とした抗生物質をサルコイドーシス患者に投与することを特徴とするサルコイドーシスの治療方法。
【請求項5】
プロピオニバクテリウム・アクネス(Propionibacterium acnes)を標的とした抗生物質が、ペニシリン系抗生物質、セファロスポリン系抗生物質、マクロライド系抗生物質、リンコマイシン系抗生物質、テトラサイクリン系抗生物質から選ばれる1種又は2種以上の抗生物質であることを特徴とする請求項4記載のサルコイドーシスの治療方法。
【請求項6】
プロピオニバクテリウム・アクネス(Propionibacterium acnes)を標的とした抗生物質が、塩酸ミノサイクリン、クリンダマイシン、アンピシリン又はクラリスロマイシンであることを特徴とする請求項4又は5記載のサルコイドーシスの治療方法。

【国際公開番号】WO2005/002623
【国際公開日】平成17年1月13日(2005.1.13)
【発行日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−511433(P2005−511433)
【国際出願番号】PCT/JP2004/009861
【国際出願日】平成16年7月2日(2004.7.2)
【出願人】(503360115)独立行政法人科学技術振興機構 (1,734)
【Fターム(参考)】