説明

サンプリング方法及びサンプリング装置

【課題】分析前処理が不要であり、エアロゾル混合ガス中の全粒子、多環芳香族炭化水素の量だけでなく、その種類も把握できるサンプリング方法を提供する。
【解決手段】粒子を含んだエアロゾル混合ガスsgを希釈し、希釈後のエアロゾル混合ガスagから粒子およびガスを捕集して分析するサンプリング方法において、希釈後のエアロゾル混合ガスagを石英フィルタからなる粒子画分捕集用フィルタ3mに通して全粒子を捕集すると共に、粒子除去後のガスmgを吸着剤を有するガス画分捕集部材5mに通して全ガス(除粒子)中の多環芳香族炭化水素を捕集する方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粒子を含んだエアロゾル混合ガスを希釈し、希釈後のエアロゾル混合ガスから全粒子及びガスを同時に捕集して分析するサンプリング方法及びサンプリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ディーゼル排気ガス(ディーゼル排ガス、あるいは排ガス)は、粒子状物質とガス状物質の混合体であることが知られている。粒子はディーゼル粒子状物質(Diesel Particulate Matter)(以下DEP、あるいはPMと略す)と呼ばれ、重量で排出規制されている。ガス状物質には濃度が規制されているNO、NO2 、CO、CO2 などと、濃度が規定されていないアルデヒド、ケトン、ギ酸、アセチレン、ジカルボニル、飽和脂肪酸が含まれている。DEPは52℃以下に冷却した排ガスをテフロン(登録商標)コーティング石英フィルタに通過させることにより得られたものと定められている。
【0003】
DEPは元素状炭素を核として持つことが多いが、沸点の高い炭化水素からなる場合もあり、簡単に言うと燃料や潤滑油の未燃成分である。このDEPは、有機溶媒に溶解する有機溶媒可溶性成分(Soluble Organic fraction)(以下SOFと略す)と、有機溶媒には溶解しない硫酸塩および硝酸塩、元素状炭素、金属などの有機溶媒不可溶成分(Insoluble Organic fraction)(以下ISOFと略す)とが複雑に混合している集合体である。また、その組成については燃料や潤滑油、エンジン種の影響を強く受けることが知られている。多環芳香族炭化水素は、DEPのコアとなっている元素状炭素の周囲に吸着する性質があり、そのほとんどがDEP中に存在すると報告されている。
【0004】
一方、ガス状物質中の多環芳香族炭化水素の量は、その煩雑な前処理のために報告がほとんどなく、そのため粒子中とガス中の多環芳香族炭化水素量を比較している研究例・報告例も極少である。
【0005】
厳密にガス状物質中の多環芳香族炭化水素を定量するためには、DEPだけでなく、フィルタ通過後のDEPが取り除かれたガスのサンプリングも行わなければならないが、通常は行われていないのが現状である。確実にガス中の多環芳香族炭化水素も定量したい場合に用いられるガス用捕集材の例としてウレタンフォームがあり、フィルタの後ろにウレタンフォームが来るように設計されたサンプリングシステムを用意する必要がある。
【0006】
従来法による多環芳香族炭化水素の定量には、分析装置に注入する前の前処理操作が必要である。前処理操作とは、抽出、クリーンアップ、濃縮、乾固、再溶解を指す。DEP捕集用フィルタは折りたためるため、それほど大きな抽出容器は必要ないが、ウレタンフォームはかさばるため、かなり大きな抽出器を用意しなければならない。
【0007】
また、使用する抽出用有機溶媒としてよく用いられているジクロロメタンの使用量も多くなり、加熱による大気環境への蒸発放出も大きい。最終的にはPMフィルタもウレタンフォームも別々の容器で有機溶媒を用いてそれぞれ抽出し、SOFを取り出す作業が必要である。この抽出操作は主に2つの方法が用いられている。1つは超音波抽出法であり、もう1つはソックスレ抽出法である。
【0008】
超音波抽出法は、ソックスレ抽出法の簡便法として用いられている。利点としては抽出時間が短い(10分×3回など1時間以内)、抽出容器がビーカーなどの汎用な実験器具でよいという点があげられる。欠点としては、抽出効率のばらつきがあげられる。それに対し、ソックスレ抽出法の利点としては、抽出効率のばらつきが少ない点があげられ、欠点としては抽出時間が1〜2日程度かかることと、専用の抽出システムが必要であることがあげられる。
【0009】
これらの抽出操作が終了後、抽出液の固体を取り除くため0.5μm以下のフィルタを通し、多環芳香族炭化水素の分析において感度を向上させるための濃縮操作に入る。濃縮法としては、窒素ガス吹き付け法、エバポレーター法、減圧遠心分離法がある。濃縮操作は1時間半程度必要である。この操作によって乾固後、分析装置に注入するため、分析装置に合わせた溶媒への転溶工程が必要である。転溶をもって前処理操作が完了する。
【0010】
最終的に、0.5mL程度になったSOFを蛍光検出器付き高速液体クロマトグラフなどの分析装置に注入すると、注入したSOFのスペクトルが標準物質と同じ時間に出現するため、定性、標準物質の濃度との比較を行うことで定量が可能である。多環芳香族炭化水素を定量するのに最も感度が高い分析装置は、化学発光検出器付き高速液体クロマトグラフだという報告がある。
【0011】
従来技術としては、図5に示すサンプリング装置51を用い、排気管52から排ガスを取り出し、その排ガスをマイクロトンネル53で希釈し、さらにテフロン(登録商標)コーティングガラス繊維フィルタ54を有する2個並列のフィルタホルダ55に通す方法がある。
【0012】
その後、従来技術では、多環芳香族炭化水素定量までの分析前処理を含め、図6に示すような複雑で多数の工程が必要である。従来法を用いた場合のDEP中多環芳香族炭化水素の定量には、分析前処理に3日、分析・解析(定量)・フィルタ秤量で2日、計5日を要する合計12もの工程が必要であった。
【0013】
なお、この出願の発明に関連する先行技術文献情報としては、次のものがある。
【0014】
【特許文献1】特開2005−248792号公報
【特許文献2】特開2002−161729号公報
【特許文献3】特開2005−274475号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
多環芳香族炭化水素の健康影響に関しては非常に微量でありながら発癌性が高いことが報告されているにもかかわらず、最新のディーゼルトラック、乗用車に付加されているディーゼルパティキュレートフィルタ(Diesel Particulate Filter)などでDEPを除去しても、環境中にどの程度の多環芳香族炭化水素が放出されているのかが不明である。ディーゼルパティキュレートフィルタ装着により凝集モード(Accumulation Mode)と呼ばれる粒径範囲のDEPは激減するが、それらを装着しても通過してしまう100nm以下、特に数十nm以下の超微小粒子、およびガス中の多環芳香族炭化水素の全量を把握することは、非常に困難であるのが現状である。
【0016】
また、ディーゼルパティキュレートフィルタを装着する、しないにかかわらず、100nm以下の超微小粒子自体が健康に悪影響を持つという報告が世界中で増大してきており、ディーゼルエンジンを搭載した車両において、排ガス中の100nm以下の超微小粒子およびガス中の多環芳香族炭化水素の量を把握することは最重要課題であると位置づけられている。
【0017】
もともと、ディーゼル排ガス全量中の粒子状物質に含まれる多環芳香族炭化水素と除粒子ガス(粒子状物質を除去した後のガス)に含まれる多環芳香族炭化水素を両方とも定量するためには、それぞれ別容器で抽出する必要があり、操作が煩雑なため、従来は粒子状物質中の多環芳香族炭化水素しか定量されておらず、粒子とガス中の比率などが明らかにされていなかった。
【0018】
そこで、本発明の目的は、分析前処理が不要であり、エアロゾル混合ガス中の全粒子、多環芳香族炭化水素の量だけでなく、その種類も把握できる、各種捕集部材に適合したサンプリング方法及びサンプリング装置を提供することにある。
【0019】
また、本発明の他の目的は、エアロゾル混合ガス中に含まれる多環芳香族炭化水素と、除粒子ガスに含まれる多環芳香族炭化水素とを両方とも定量するための、分析前処理が不要なサンプリング方法及びサンプリング装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明は上記目的を達成するために創案されたものであり、請求項1の発明は、粒子を含んだエアロゾル混合ガスを希釈し、希釈後のエアロゾル混合ガスからガスを捕集して分析するサンプリング方法において、希釈後のエアロゾル混合ガスを石英フィルタからなる粒子画分捕集用フィルタに通して全粒子を捕集すると共に、粒子除去後の全ガスを吸着剤を有するガス画分捕集部材に通して多環芳香族炭化水素を捕集するサンプリング方法である。
【0021】
請求項2の発明は、希釈後のエアロゾル混合ガスの一部を分流し、分流したエアロゾル混合ガス中の粒子を分級した後、これを石英フィルタからなる第2粒子画分捕集用フィルタに通して所定粒径以下の超微小粒子を捕集すると共に、超微小粒子除去後のガスを吸着剤を有する第2ガス画分捕集部材に通して多環芳香族炭化水素を捕集する請求項1記載のサンプリング方法である。
【0022】
請求項3の発明は、前記エアロゾル混合ガスとしてディーゼルエンジンの排気ガスを用いる請求項1または2記載のサンプリング方法である。
【0023】
請求項4の発明は、粒子を含んだエアロゾル混合ガスを希釈し、希釈後のエアロゾル混合ガスからガスを捕集して分析するサンプリング装置において、希釈後のエアロゾル混合ガスに含まれる全粒子を捕集する石英フィルタからなる粒子画分捕集用フィルタと、粒子除去後のガス中に含まれる多環芳香族炭化水素を捕集する吸着剤を有するガス画分捕集部材とを備えたサンプリング装置である。
【0024】
請求項5の発明は、前記エアロゾル混合ガスが流れる混合ガス流路に、前記エアロゾル混合ガスを取り出すための取り出し流路を接続し、その取り出し流路に前記エアロゾル混合ガスを希釈するための希釈手段を設け、その希釈手段と前記粒子画分捕集用フィルタ間の取り出し流路に分岐流路を接続し、その分岐流路の下流側に所定粒径以下の粒子のみを透過可能とする分級装置を設け、その分級装置の下流側に、分流したエアロゾル混合ガスから所定粒径以下の超微小粒子を捕集する石英フィルタからなる第2粒子画分捕集用フィルタと、超微小粒子除去後のガス中に含まれる多環芳香族炭化水素を捕集する吸着剤を有する第2ガス画分捕集部材とを設けた請求項4記載のサンプリング装置である。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、分析前処理が不要であり、エアロゾル混合ガス中の全粒子、多環芳香族炭化水素の量だけでなく、その種類も把握できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明の好適な実施形態を添付図面にしたがって説明する。まず、本発明の好適な実施形態であるサンプリング方法で使用するサンプリング装置を説明する。
【0027】
図1は、本発明の好適な実施形態を示すサンプリング装置の概略図である。
【0028】
図1に示すように、本実施形態に係るサンプリング装置(フィルタサンプリングシステム)1は、粒子を含むエアロゾル混合ガスsgが流れる混合ガス流路2に接続されて使用される。本実施形態では、エアロゾル混合ガスsgの一例としてディーゼルエンジンの排気ガスを用い、混合ガス流路2の一例としてディーゼルエンジンに接続される排気管を用いた例で説明する。
【0029】
このサンプリング装置1は、希釈後のエアロゾル混合ガスagから全粒子を捕集する石英フィルタからなる第1粒子画分捕集用フィルタ3mを有する第1フィルタホルダ4mと、第1粒子画分捕集用フィルタ3mと対にして設けられ、粒子除去後のガスmgから多環芳香族炭化水素を捕集する吸着剤(捕集剤)を有する第1ガス画分捕集部材(除粒子後のガスの第1捕集装置)5mとを備えて主に構成される。
【0030】
混合ガス流路2には、混合ガス流路2からエアロゾル混合ガスsgの一部を取り出すための配管からなる取り出し流路6が接続される。取り出し流路6の上流部には、取り出したエアロゾル混合ガスsgを希釈するための第1希釈手段7mが設けられる。
【0031】
第1希釈手段7mは、取り出したエアロゾル混合ガスsgの温度を下げ、後述する分級装置12で安定して分級すると共に、後述する分析装置で検出できる範囲で粒子やガスを捕集する(例えば、分析する粒子やガスの滞留時間をかせぐ)ためのものである。また、第1希釈手段7mは、大気中にエアロゾル混合ガスsgが放出された場合と同じような状態を再現し、エアロゾル混合ガスsg中のDEPを現実に即して取り出しやすくする役目もある。
【0032】
この第1希釈手段7mは、エアロゾル混合ガスsgに混ぜる希釈空気aを取り出し流路6内に導入するための第1空気用流路8mと、その下流側に接続されるマイクロトンネル9とからなる。本実施形態では、第1希釈手段7mにおけるエアロゾル混合ガスsgの希釈率DRpを、10〜40にした。
【0033】
マイクロトンネル9の下流側となる取り出し流路6には、第1フィルタホルダ4mが接続され、その下流側には第1ガス画分捕集部材5mが接続される。ここで画分(fraction)とは、ある集合体から一部分を分画して取り出した部分集合体のことをいう。
【0034】
第1粒子画分捕集用フィルタ3mとして石英フィルタを用いたのは、従来のテフロン(登録商標)コートしたガラス繊維フィルタ(耐熱性:350℃)に比べ、耐熱性が1000℃と高く、粒子分析時に加熱することにより、吸着していた成分を脱着させてその成分の分析も行うことができるからである。
【0035】
本実施形態では、第1粒子画分捕集用フィルタ3mで全粒子を捕集するため、ステンレス製フィルタホルダ内にφ70mmの石英フィルタからなる第1粒子画分捕集用フィルタ3mを設けて第1フィルタホルダ4mを構成した。
【0036】
第1ガス画分捕集部材5mとしては、図4に示すようなTENAX(商品名)管41を用いる。TENAX管41は、管径6mm(φ6mm)、内径4mm(φ4mm)の硬質ガラス管に、吸着剤を充填したものである。
【0037】
本実施形態では、吸着剤として、TENAX(商品名)をベースにした弱極性のポーラスポリマービーズからなる粒状のTENAX−TA(商品名)を用いた。
【0038】
このTENAX−TAは、図3に示すように、2,6−ジフェニル−パラ−フェニレンオキサイド(Diphenyl-p-Phenylene Oxide)樹脂であり、最高使用温度が350℃である。TENAX−TAは、表1に示すように、従来の吸着剤として用いられる活性炭と比較して非多孔質のため適度な保持力を有し、ガス中高沸点成分を吸着するのに適切なものである。
【0039】
【表1】

【0040】
図1に示すように、取り出し流路6の下流端には、混合ガス流路2を流れるエアロゾル混合ガスsgを取り出し流路6に吸引して導くための第1ポンプ10mが接続される。
【0041】
さらにサンプリング装置1では、第1希釈手段7mと第1粒子画分捕集用フィルタ3m間の取り出し流路6に、希釈後のエアロゾル混合ガスagを所定の分流比で分流させるための配管からなる分岐流路6bが接続される。
【0042】
取り出し流路6と分岐流路6bの接続部jより下流側には、希釈後のエアロゾル混合ガスagを所定の流量で取り出し、かつ2次希釈のための希釈空気aを導入する第2希釈手段7bが設けられる。
【0043】
この第2希釈手段7bは、マスフローコントローラ(MFC)11と、そのMFC11に接続され、希釈後のエアロゾル混合ガスagに混ぜる希釈空気aをMFC11内に導入するための第2空気用流路8bとからなる。
【0044】
接続部jの下流側となる分岐流路6bには、所定粒径以下の粒子のみを分岐流路6bの下流側に透過可能とする(2次希釈後のエアロゾル混合ガス2ag中の粒子を分級する)(例えば、粒径2〜150nmの粒子を切り出す)分級装置(分級器)12が設けられる。本実施形態では、分級装置12として、静電微分型モビリティアナライザ(nano DMA)(例えば、商品名TSI Model−3085)を用いた。
【0045】
このnano DMAは、二重円筒状となっており、中央に位置するロッドには負の電圧を印加してある。粒子を外側のスリットから導入すると、正の電荷を持つ粒子がロッドに引き寄せられる。ロッドの電圧を変えることで、ピーク分級粒子径を50〜150nm程度の範囲で変えることができる。その原理を利用すると、特定サイズの粒子のみを下部に設けたスリットから取り出し分級できる。
【0046】
すなわちnano DMAは、2次希釈後のエアロゾル混合ガス2agから特定サイズ以外(本実施形態では、粒径100nmを超える)粒子を排出し、特定サイズ(本実施形態では、粒径100nm以下)の粒子と、分級後のエアロゾル混合ガスg11とを、分岐流路6bの下流側に流す。
【0047】
第2希釈手段7bの役目は、主に排ガス温度を下げるための希釈を行うための第1希釈手段7mとは異なる。この第2希釈手段7bは、超微小粒子の安定的な測定のための希釈を行うもの、すなわち希釈により測定精度の安定化を図るためのものである。
【0048】
本実施形態では、分級装置12に分岐流路6bを介して第2希釈手段7bを間接接続したが、分級装置12に第2希釈手段7bを直接接続してもよい。
【0049】
分級装置12の下流側となる分岐流路6bには、分級後のエアロゾル混合ガスg11から所定粒径以下の超微小粒子を捕集する石英フィルタからなる第2粒子画分捕集用フィルタ3bを有する第2フィルタホルダ4bが設けられる。第2粒子画分捕集用フィルタ3bは、基本的には第1粒子画分捕集用フィルタ3mと同じ特性を有する。
【0050】
本実施形態では、第2粒子画分捕集用フィルタ3bで粒径100nm以下の超微小粒子を捕集するため、ステンレス管内に、たとえばφ20mmの石英フィルタからなる第2粒子画分捕集用フィルタ3bを設けて第2フィルタホルダ4bを構成した。
【0051】
第2フィルタホルダ4bの下流側となる分岐流路6bには、超微小粒子除去後のガスbgから多環芳香族炭化水素を捕集するTENAXなどの吸着剤を有する第2ガス画分捕集部材(除粒子後のガスの第2捕集装置)5bが、第2粒子画分捕集用フィルタ3bと対にして設けられる。
【0052】
分岐流路6bの下流端には、希釈後のエアロゾル混合ガスagを分岐流路6bに吸引して導くための第2ポンプ10bが接続される。
【0053】
次に、図1および図2を用いて、本発明の好適な実施形態であるサンプリング方法を、サンプリング装置1の動作と共に説明する。
【0054】
図1および図2に示すように、サンプリングに先立ち、あらじめ第1粒子画分捕集用フィルタ3mと第1粒子画分捕集用フィルタ3bについて、捕集前フィルタ焼きだし・秤量を行う。焼きだしは少なくとも400℃以上が好ましい(S1)。
【0055】
ディーゼルエンジンに混合ガス流路2を接続し、ディーゼルエンジンを運転する。この状態で第1ポンプ10mと第2ポンプ10bを運転する。また、MFC11で分岐流路6bの流量を一定にし、さらに流量計で分岐流路6bの流量を確認しておく。
【0056】
まず、混合ガス流路2を流れるエアロゾル混合ガスsgは、混合ガス流路2から取り出し流路6に導入され、第1希釈手段7mで1次希釈されて温度が下がり、全粒子(DEP)が通過する。この時点で、粒径が100nm以下の超微小粒子も含有されている。1次希釈後のエアロゾル混合ガスagは、接続部jで所定の分流比で分流され、下流側の取り出し流路6と分岐流路6bに所定量ずつ流される。
【0057】
下流側の取り出し流路6に流れたエアロゾル混合ガスagは、第1フィルタホルダ4mを通過し、その第1粒子画分捕集用フィルタ3mで全粒子(DEPを含む)が捕集される(ディーゼル粒子フィルタ捕集)(S2)。その後、第1ガス画分捕集部材5mで粒子除去後のガスmgに含まれている所定成分(ここでは、多環芳香族炭化水素や脂肪族炭化水素)を捕集する。
【0058】
第1フィルタホルダ4m、および第1ガス画分(粒子除去後のガスmg)中の多環芳香族炭化水素等を捕集するために選んだ吸着剤を充填した第1ガス画分捕集部材5mは、粒子除去後のガスmg中の全ガス中多環芳香族炭化水素等を捕集できるように設定される。このため、第1ガス画分捕集部材5mの下流側の取り出し用流路6には、粒子除去後のガスmg中に含まれる多環芳香族炭化水素等を含んだガスは流れない。
【0059】
一方、分岐流路6bに流れた1次希釈後のエアロゾル混合ガスagは、第2希釈手段7bで2次希釈されて温度がさらに下がるとともに、滞留時間がかせがれることで、粒径が100nm以下の超微小粒子(DEPを含む)が安定して存在する。その後、分岐流路6bに流れた2次希釈後のエアロゾル混合ガス2agは、分級装置12に導入されて粒子が分級され、100nm以下の超微小粒子のみを含む分級後のエアロゾル混合ガスg11になる。
【0060】
分級後のエアロゾル混合ガスg11は、第2フィルタホルダ4bを通過し、その第2粒子画分捕集用フィルタ3bで100nm以下の超微小粒子がすべて捕集される(ディーゼル粒子フィルタ捕集)(S2)。その後、第1ガス画分捕集部材5bで超微小粒子除去後のガスbgから多環芳香族炭化水素や脂肪族炭化水素を捕集する。
【0061】
これにより、
1)第1粒子画分捕集用フィルタ3mから、1次希釈後のエアロゾル混合ガスagの全粒子
2)第1ガス画分捕集部材5mから、粒子除去後のガスmgの除粒子ガス状物質(除粒子ガス中の多環芳香族炭化水素)
3)第2粒子画分捕集用フィルタ3bから、2次希釈後に分級されたエアロゾル混合ガスg11中の超微小粒子(100nm以下の超微小粒子)
4)第2ガス画分捕集部材5bから、超微小粒子除去後のガスbgの除超微小粒子ガス状物質(除超微小粒子ガス中の多環芳香族炭化水素)
を合わせた4画分のサンプルの定量がサンプリング可能となる。
【0062】
これら4つのサンプルは、加熱脱着式のガスクロマトグラフ質量分析装置(GC/MS)に導入し(S5)、200〜300℃に加熱した後、クライオフォーカス(濃縮のための冷却装置)に導入し、昇温しながらカラムクロマトグラフィー法を利用した標準物質との比較により定性、定量することが可能である。
【0063】
ここで、加熱脱着とは、含有している物質を加熱することで気化させる現象、すなわち吸着している物質を吸着剤の吸着界面から脱離させることをいう。
【0064】
また、GC/MSは、気化させても特性が変化しない有機化合物を対象に分離法としてガスクロマトグラフィーを、定性・定量法として質量分析法を組み合わせた分析装置である。GC/MSでは、試料を加熱気化後、ガスクロマトグラフィー法で成分を分離し、高真空の質量分析計に導入する。質量分析計内で分子がイオン化されると同時に、開裂を起こし、フラグメントイオンが生成する。このとき生じる分子イオンおよびフラグメントイオンは物質に特有であるため、その成分を定性・定量できる。
【0065】
分析工程をより詳細に説明すれば、S5に先立ち、1)、3)のサンプルについて、第1粒子画分捕集用フィルタ3mと第2粒子画分捕集用フィルタ3bを、捕集後フィルタ秤量した後(S3)、ある範囲のみSUS製ポンチで打ち抜くか、または短冊状にカットし(S4)、その全量または一部をガラスチューブに詰め、加熱脱着式のGC/MSに導入し(S5)、定量する(S6)。
【0066】
また、2)、4)のサンプルについては、既にTENAX管41に充填されている状態なので、そのままGC/MSに導入する(S5)ことが可能である。さらにGC/MS内において、2)、4)のサンプルの各TENAX管41をHeガスなどの不活性ガスでパージさせ、2)、4)のサンプルデータを得る。
【0067】
これら2)、4)のサンプルデータと、図4に示すように、あらかじめ指標用TENAX管41sに、既知濃度の標準溶液をマイクロシリンジ42で打ち込み、これをGC/MSに導入した後、GC/MS内においてHeガスなどの不活性ガスでパージさせて得られた指標データとを比較することで、定量する(S6)。
【0068】
サンプリング装置1で分析できる多環芳香族炭化水素の例としては、ベンゾ(a)ピレン(Benzo[a]pyrene)、フェナンスレン(Phenanthrene)、クリセン(Chrysene)、ピレン(Pyrene)などがある。
【0069】
TENAX TA吸着(固体吸着)−加熱脱着法では、輸送・保管が困難な直接捕集法や、有害な試薬を使用する固体吸着−溶媒抽出法に比べ、有害な試薬を使用しない、輸送、保管が容易、試料全量を導入可能などの利点がある。
【0070】
このように、本実施形態に係るサンプリング方法は、一対の第1粒子画分捕集用フィルタ3mと第1ガス画分捕集部材5mを用い、1次希釈後のエアロゾル混合ガスagを第1粒子画分捕集用フィルタ3mに通して全粒子を捕集すると共に、粒子除去後のガスmgを第1ガス画分捕集部材5mに通して多環芳香族炭化水素等を捕集している。
【0071】
このため、本実施形態に係るサンプリング方法によれば、1次希釈後のエアロゾル混合ガスagの全流量分のDEP(上述した1)のサンプル)と、そのDEPを取り除いた後の多環芳香族炭化水素を含むガス(上述した2)のサンプル)とについて、その成分と定量分析が簡単にできる。
【0072】
しかも、本実施形態に係るサンプリング方法は、ディーゼルパティキュレートフィルタや、各粒子画分捕集用フィルタ3m,3b、各ガス画分捕集部材5m,5bなどの各種捕集部材に適合した方法である。
【0073】
また、本実施形態に係るサンプリング方法は、分級装置12と、一対の第2粒子画分捕集用フィルタ3bと第2ガス画分捕集部材5bとを用い、まず、1次希釈後のエアロゾル混合ガスagの一部を分流し、分流したエアロゾル混合ガスagを2次希釈後に分級している。その後、分級後のエアロゾル混合ガスg11を第2粒子画分捕集用フィルタ3bに通して100nm以下の超微小粒子を捕集すると共に、超微小粒子除去後のガスbgを第2ガス画分捕集部材5bに通して多環芳香族炭化水素等を捕集している。
【0074】
このため、本実施形態に係るサンプリング方法によれば、分級後のエアロゾル混合ガスg11中の100nm以下の超微小粒子(上述した3)のサンプル)と、その超微小粒子を取り除いた後の多環芳香族炭化水素を含むガス(上述した4)のサンプル)とについて、その成分と定量分析(特定粒子径における定量分析)も簡単にできる。
【0075】
つまり、本実施形態に係るサンプリング方法によれば、抽出、濃縮などの分析前処理操作を不要としつつ、1)全粒子、2)その全粒子を除いたガス、3)2〜150nmの超微小粒子、4)その超微小粒子を除いたガスの4画分の全成分を比較できる。
【0076】
また、本実施形態に係るサンプリング装置1によれば、本実施形態に係るサンプリング方法を簡単な構成で実現できる。
【0077】
したがって、本発明によれば、ディーゼル排ガスなどのエアロゾル混合ガスag中の全粒子、全ガスそれぞれに含有される多環芳香族炭化水素量を把握できるだけでなく、ヒトの健康影響において最重要課題となっているディーゼル排ガス中ナノ粒子画分とそのガス画分の多環芳香族炭化水素の種類および量を把握できる。
【0078】
本発明を利用すれば、例えば、これらの分析結果と、沿道でサンプリングしたナノ粒子リッチのサンプルとを対比させることで、自動車排ガス由来の多環芳香族炭化水素がどのくらいの比率で沿道に存在するのかを把握できる。
【0079】
また、後処理付きディーゼルエンジンを搭載したトラック、バス、乗用車などの車両では、後処理システムの種類(例えばディーゼルパティキュレートフィルタの種類)を変化させたときの多環芳香族炭化水素の排出量を明らかにすることができるため、環境中に有害な物質を排出させないような後処理システムの開発に生かすことができる。
【0080】
さらに、ディーゼル排ガスに含まれる物質は、ディーゼル燃料の種類、ディーゼルエンジンの燃焼室の構造、燃料の噴射時期、噴射工程、燃料の霧化、吸気温度などにより変化するため、本発明を利用してこれらの最適な形態を設計できる。
【図面の簡単な説明】
【0081】
【図1】本発明の実施形態であるサンプリング方法で使用するサンプリング装置の概略図である。
【図2】本発明の好適な実施形態であるサンプリング方法による分析工程を説明するフローチャートである。
【図3】TENAX TAの化学式である。
【図4】本実施形態に係る標準物質注入方法を説明する概略図である。
【図5】従来のサンプリング装置の概略図である。
【図6】従来のサンプリング方法による前処理工程と分析工程を説明するフローチャートである。
【符号の説明】
【0082】
1 サンプリング装置
3m 第1粒子画分捕集用フィルタ
3b 第2粒子画分捕集用フィルタ
5m 第1ガス画分捕集部材
5b 第2ガス画分捕集部材
sg エアロゾル混合ガス
ag 1次希釈後のエアロゾル混合ガス
2ag 2次希釈後のエアロゾル混合ガス
mg 粒子除去後のガス
bg 超微小粒子除去後のガス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒子を含んだエアロゾル混合ガスを希釈し、希釈後のエアロゾル混合ガスからガスを捕集して分析するサンプリング方法において、希釈後のエアロゾル混合ガスを石英フィルタからなる粒子画分捕集用フィルタに通して全粒子を捕集すると共に、粒子除去後の全ガスを吸着剤を有するガス画分捕集部材に通して多環芳香族炭化水素を捕集することを特徴とするサンプリング方法。
【請求項2】
希釈後のエアロゾル混合ガスの一部を分流し、分流したエアロゾル混合ガス中の粒子を分級した後、これを石英フィルタからなる第2粒子画分捕集用フィルタに通して所定粒径以下の超微小粒子を捕集すると共に、超微小粒子除去後のガスを吸着剤を有する第2ガス画分捕集部材に通して多環芳香族炭化水素を捕集する請求項1記載のサンプリング方法。
【請求項3】
前記エアロゾル混合ガスとしてディーゼルエンジンの排気ガスを用いる請求項1または2記載のサンプリング方法。
【請求項4】
粒子を含んだエアロゾル混合ガスを希釈し、希釈後のエアロゾル混合ガスからガスを捕集して分析するサンプリング装置において、希釈後のエアロゾル混合ガスに含まれる全粒子を捕集する石英フィルタからなる粒子画分捕集用フィルタと、粒子除去後のガス中に含まれる多環芳香族炭化水素を捕集する吸着剤を有するガス画分捕集部材とを備えたことを特徴とするサンプリング装置。
【請求項5】
前記エアロゾル混合ガスが流れる混合ガス流路に、前記エアロゾル混合ガスを取り出すための取り出し流路を接続し、その取り出し流路に前記エアロゾル混合ガスを希釈するための希釈手段を設け、その希釈手段と前記粒子画分捕集用フィルタ間の取り出し流路に分岐流路を接続し、その分岐流路の下流側に所定粒径以下の粒子のみを透過可能とする分級装置を設け、その分級装置の下流側に、分流したエアロゾル混合ガスから所定粒径以下の超微小粒子を捕集する石英フィルタからなる第2粒子画分捕集用フィルタと、超微小粒子除去後のガス中に含まれる多環芳香族炭化水素を捕集する吸着剤を有する第2ガス画分捕集部材とを設けた請求項4記載のサンプリング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−249384(P2008−249384A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−88332(P2007−88332)
【出願日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【出願人】(000000170)いすゞ自動車株式会社 (1,721)
【Fターム(参考)】