説明

サーマルプロテクタ

【課題】
近年、電子機器や電気機器の小型化、高性能化に伴い、サーマルプロテクタの小型化が望まれている。このような状況の中で、これら電子機器の高機能化のために、使用時の電流は増加傾向にある。そこで、過電流が流れた場合のサーマルプロテクタの応答時間を短縮することが期待される一方で、機器の高機能化に伴い通常使用時の電流値は増加する傾向にあり、サーマルプロテクタを作動させずに使用できる最大許容電流値の拡大要求が生まれている。
【解決手段】
そこで、サーマルプロテクタの可動片の電気抵抗を部分的に高めると同時に、さらに、その他の部分の電気抵抗を部分的に低めるか又は全体的に低下させることにより、小型ながら相反する反応時間の短縮と電流の大容量化の両立を可能とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイメタルを用いたサーマルプロテクタに関すものである。
【背景技術】
【0002】
従来、バイメタル製の熱応動部材(熱応動素子)を用いたサーマルプロテクタは、自動車、家電製品等のモータの過電流や異常過熱の発生に際して、回路への電流を遮断して、回路の保全および機器の安全性を維持する保護部品として用いられている。
【0003】
近年、電子機器や電気機器の小型化、高性能化に伴い、サーマルプロテクタの小型化が望まれている。例えば、小型化が要求される用途としては、携帯電話、ノート型パソコン等に用いられる2次電池用あるいは自動車の制御機器用モータ、小型精密モータ等の電子機器用サーマルプロテクタがある。このような状況の中で、これら電子機器の高機能化のために、使用時の電流は増加傾向にある。特に、デジタルカメラや携帯電話では、高度の信号処理や画面の表示が必要なために、使用電流の増加要求が強い。
【0004】
そこで、サーマルプロテクタの作動時間の短縮ということがサーマルプロテクタの製造上の重要課題であった。過電流が流れた場合のサーマルプロテクタの応答時間を短縮することが期待される一方で、機器の高機能化に伴い通常使用時の電流値は増加する傾向にあり、サーマルプロテクタを作動させずに使用できる最大許容電流値の拡大要求は生まれている。この目的を達成するためには、サーマルプロテクタの低抵抗設計が必要になる。
【0005】
逆に、サーマルプロテクタの応答速度を向上させる為に、バイメタルディスク近傍の電気的抵抗を抵抗部品の追加などにより増加させることも可能であり、サーマルプロテクタの熱応動部材近傍の電気抵抗を、プロテクタの電気抵抗の50%以上と規定している発明も存在している。しかし、このようにすると、サーマルプロテクタの最大許容電流が減少し、電子機器の作動に必要な電流が十分確保できないという問題があり、これまで、この課題に対する解決策が示されていない。
【0006】
【特許文献1】特開平5−174809号公報
【特許文献2】特開平9−120766号公報
【特許文献3】特開平11-86703号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、近年の電気機器の小型化、高性能化やモバイル化にともない、サーマルプロテクタにおいても日常の使用環境温度として最大温度70℃〜80℃で使用しても、複雑な電気機器の作動に必要な電流が十分確保できることが必要とされ、この点では作動電流の大容量化を達成する必要である。
【0008】
また使用環境温度として−40℃から−50℃の極寒の地において、過電流が流れた場合でも、素早く電流を遮断する反応時間の短縮化という特性が要求されている。作動電流を大きくするためには、サーマルプロテクタの可動片の電気抵抗を低下させ、最大許容電流を低下させる必要があるが、逆に、サーマルプロテクタを短時間で作動させるためには、サーマルプロテクタの可動片の電気抵抗を増加させる必要がある。
【0009】
これらの2つの特性は、サーマルプロテクタの設計上相反する要求となっており、サーマルプロテクタの設計において、その両立が設計上の問題となる。例えば、特許文献3に記載されたサーマルプロテクタは、反応時間の短縮の為、フィルム状抵抗体を追加することにより、抵抗値を局所的に増加させることはできるものの、部品点数の増加によるコストアップなどの問題を抱えていると同時に不動作電流(通常使用時の電流)を低めてしまうため、電流の大容量化を達成することが困難である。
【0010】
そこで、本発明はサーマルプロテクタの反応時間の短縮と電流の大容量化に際して、従来の問題点を克服するサーマルプロテクタを見出したもので、サーマルプロテクタの可動片の電気抵抗を部分的に高めると同時に、さらに、その他の部分の電気抵抗を部分的に低めるか又は全体的に低下させることにより、小型ながら相反する特性の両立を可能としたサーマルプロテクタの提供を目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
図1及び図2には、従来型の最も典型的なサーマルプロテクタの2つの例を示す。図1は、ケース本体11、上側ケース10とから構成されるケース1に、可動接点3と可動端子30aを備える可動片30の一方に固定され、固定接点2と固定端子20aを有する固定片20がケース本体の他方に、ケース本体11と上側ケース10により固定されている。また、可動片30は、可動端子30aの側から固定接点2の側に伸びて、固定接点2と可動接点3が接触離反する構造になっている。
【0012】
図1のサーマルプロテクタと図2のサーマルプロテクタは、可動片30の接触離反機構の差異により区別される。図1における可動片30の接触離反は、ケース本体11の中央に儲けた突起上に載置したバイメタル4の反転作用により行なうことができ、可動片30の接触離反が可動片30自体によるのではなく、その近傍の突起上に載置されたバイメタル4によるところに特徴がある。これに対し、図2では可動片30とは別体のバイメタルを有さず、可動片30自身がバイメタルで構成され、可動片30自身が反転することにより、可動片30の接触離反を行なうことができるものである。
【0013】
本発明の図1あるいは図2に示す構造を有するサーマルプロテクタは、サーマルプロテクタの熱応動部材近傍あるいは可動片30の反転中心を含む可動片中央部近傍の電気抵抗を局部的に高めて、サーマルプロテクタの応答速度を高めるものである。さらに、図1のサーマルプロテクタにおいては、前記電気抵抗を高めると同時に、可動片30の熱応動部材近傍以外の部分の電気抵抗を低めることにより、可動片30の低抵抗化を実現したものである。また、図2のサーマルプロテクタにおいては、前記電気抵抗を高めると同時に、反転中心を含む可動片30中央部近傍以外の部分の少なくとも一部分の電気抵抗を低めることにより、可動片30の低抵抗化を実現したものである。尚、可動片30の電気抵抗を高める部分は、図1に示すサーマルプロテクタが熱応動部材4を有する場合と図2に示す可動片30自身が熱応動部材4で可動片30以外に熱応動部材4を有しない場合の両者ともに、可動片30の反転中心に設計される場合が多く、両者ともに可動片30の電気抵抗を低める部分にはそれ程差を生じない。しかし、サーマルプロテクタの設計によっては、熱応動部材の設置位置や可動片30の反転中心が中央からずれて設計される場合もあり、この場合には、電気抵抗を低める部分としての熱応動部材近傍以外の部分(図1)や可動片の反転中心を含む可動片中央部近傍以外の部分(図2)が可動片の固定端又は可動片の可動端に偏ることがある。
【0014】
請求項1に記載の発明は、樹脂製ケース内の一方に固定接点を有する固定片と、他方に可動接点を有する可動片とを備え、固定接点側に伸びた可動片の可動接点が固定接点と接触離反するように配置し、固定接点と可動接点とを接触離反させる機構としての熱応動部材を可動片の近傍に配置したサーマルプロテクタにおいて、前記可動片の熱応動部材近傍の電気抵抗を高める手段を備え、且つ前記可動片の熱応動部材近傍以外の少なくとも一部は電気抵抗を下げる手段を備えることを特徴とするサーマルプロテクタである。
【0015】
請求項2に記載の発明は、樹脂製ケース内の一方に固定接点を有する固定片と、他方に可動接点を有する可動片とを備え、固定接点と可動接点とを接触離反させる機構として熱応動部材からなる可動片が作用するサーマルプロテクタにおいて、前記可動片の反転中心を含む可動片中央部近傍は局部的に電気抵抗を高める手段を備え、且つ前記可動片の可動接点近傍又は可動片固定端近傍等その他の部分の電気抵抗を下げる手段を備えることを特徴とするサーマルプロテクタである。
【0016】
請求項3に記載の発明は、請求項1に記載の可動片の熱応動部材近傍あるいは請求項2に記載の可動片の反転中心を含む可動片中央部近傍の電気抵抗を高める手段として、可動片に高抵抗材料を用いるか高抵抗材料をクラッドすることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のサーマルプロテクタである。
【0017】
請求項4に記載の発明は、 請求項1に記載の可動片の熱応動部材近傍あるいは請求項2に記載の可動片の反転中心を含む可動片中央部近傍の電気抵抗を高める手段として、可動片の熱応動部材近傍の断面積を減少させることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のサーマルプロテクタである。
【0018】
請求項5に記載の発明は、請求項1に記載の可動片の熱応動部材近傍あるいは請求項2に記載の可動片の反転中心を含む可動片中央部近傍の電気抵抗を高める手段として、可動片の熱応動部材近傍あるいは可動片の反転中心を含む可動片中央部近傍を薄肉化するか、そこにスリット、穴を形成するか、もしくはそこに可動片中央部の板幅を幅狭化するか、又はそこに可動片中央部に板幅の狭窄部を設けることを特徴とするサーマルプロテクタである。
【0019】
請求項6に記載の発明は、前記可動片の熱応動部材近傍以外あるいは可動片の反転中心を含む可動片中央部近傍以外の部分の電気抵抗を下げる手段として、前記部分に低抵抗材を用いることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のサーマルプロテクタである。
【0020】
請求項7に記載の発明は、前記可動片の熱応動部材近傍あるいは可動片の反転中心を含む可動片中央部近傍以外の部分の電気抵抗を下げる手段として、表面めっき、ロウ付け、溶接等の方法で低抵抗材を接合することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のサーマルプロテクタである。
【0021】
請求項8に記載の発明は、前記可動片の熱応動部材近傍以外あるいは可動片の反転中心を含む可動片中央部近傍以外の部分の電気抵抗を下げる手段として、可動片を折り曲げて重ねるか、折り曲げた部分に低抵抗材を挿入するか、インレイにより導体打ち込みをしたことを特徴とする請求項1又は請求項2にサーマルプロテクタである。
【0022】
請求項9に記載の発明は、前記可動片の熱応動部材近傍以外あるいは可動片の反転中心を含む可動片中央部近傍以外の部分の電気抵抗を下げる手段として、請求項1から請求項8のいずれかに記載の手段の他、さらに可動接点と固定接点の低抵抗化を計ることを特徴とするサーマルプロテクタである。
【0023】
請求項10に記載の発明は、請求項1から請求項9のいずれかに記載の電気抵抗を高める手段と低める手段を有するサーマルプロテクタにおいて、電気抵抗を高める手段による電気抵抗増加より、低める手段による電気抵抗低下を大きくし、全体としてサーマルプロテクタの電気抵抗を低めたことを特徴とするサーマルプロテクタである。
【0024】
請求項11に記載の発明は、前記可動片の熱応動部材近傍あるいは可動片の反転中心を含む可動片中央部近傍は電気抵抗を高める手段を有し、且つ前記可動片の熱応動部材近傍又は可動片の反転中心を含む可動片中央部近傍以外の部分は電気抵抗を下げる手段を有することによるサーマルプロテクタの最大許容電流を大きくできると同時に、サーマルプロテクタの反転までの時間を短かくすることを特徴とするサーマルプロテクタである。
【0025】
請求項12に記載の発明は、前記可動片の熱応動部材近傍あるいは可動片の反転中心を含む可動片中央部近傍は電気抵抗を高める手段を有し、且つ前記可動片の熱応動部材近傍又は可動片の反転中心を含む可動片中央部近傍以外の部分は電気抵抗を下げる手段を有することにより、可動端子と固定端子の端子間抵抗の増加を少なくするサーマルプロテクタの端子間抵抗増加防止方法である。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、従来型プロテクタでは不可能であった、サーマルプロテクタの通常使用時の電流容量を高め、且つ過電流発生時の反応時間を短縮することが可能となり、近年の電気機器の小型化、高性能化、モバイル化に対応できる高機能のサーマルプロテクタを提供するものであって、本発明のサーマルプロテクタは工業上顕著な効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
図3(a)〜図3(f)は可動片の電気抵抗を高めるための手段として、可動片30の各種形態を示す。第1の実施形態としての図3(a)は、可動片30にスリット形状61を可動片中央部に形成したものである。このようにすることにより、可動片の熱応動部材近傍あるいは可動片の反転中心を含む可動片中央部近傍の電気抵抗を高めることができる。
【0028】
図3(b)は、電気抵抗を高めるための異なる形態として、可動片の中央部に穴62を形成した場合を示す。この場合にも穴を打抜くことにより、可動片の幅を狭くできるので、可動片断面積が低下し、電気抵抗を高めることができる。このように、可動片の中央部に種々の形状のスリットや穴を形成することにより、可動片の有効幅を小さくすることができ、可動片の中央部近傍の抵抗を部分的に高めることが可能になる。もちろん、スリットや穴の形状は、可動片の反転運動を妨げなければ、任意の形状・寸法に設計することができる。
【0029】
電気抵抗を高める第2の実施形態として、打ち抜きによらない他の手段で、可動片の幅を狭めた場合を示す。具体的には、図3(c)は可動片の中央部近傍に幅狭の平行部71を形成した場合を示し、図3(d)は、可動片中央部の左右に可動片の幅が局部的に狭くなっている電流狭窄部72を設けたものである。このように、可動片に幅狭の平行部や電流狭窄部72を設けることにより、可動片の熱応動部材近傍あるいは可動片の反転中心を含む可動片中央部近傍の電気抵抗を局部的に高めることが可能になる。
【0030】
電気抵抗を高める第3の実施形態として、図3(e)は、可動片の熱応動部材近傍あるいは可動片の反転中心を含む可動片中央部近傍に板厚の薄い薄肉部73を設けることにより、可動片中央部の断面積を小さくして、可動片の電気抵抗を高めたものである。電気抵抗を高める第4の実施形態として、図3(f)は、可動片の全体厚さを変えないで、可動片中央部に高抵抗材を挿入し、高抵抗材を通常の材料で挟んだ構造とし、可動片の熱応動部材近傍あるいは可動片の反転中心を含む可動片中央部近傍の電気抵抗を局部的に高めたものである。以上のように、高抵抗材を可動片に挟むことによって、可動片の電気抵抗を局部的に高めることが可能になる。
【0031】
以上、可動片の電気抵抗を高める第1から第4の方法に記載したように、可動片の電気抵抗を局部的に高める方法としては、スリットの形成や可動片の幅狭化、可動片に薄肉部を設けること、さらには一定寸法の可動片外形寸法を変更せずに可動片に高抵抗材を挿入することなどが可能になる。
【0032】
図4には、可動片の電気抵抗を下げるための手段の具体例を示す。図4(a)から図4(e)には、可動片先端近傍や後端近傍の電気抵抗を下げる種々の形態を示す。図4(a)は可動片の端部を折り曲げ、さらに折り曲げ部を圧接したもので、折り曲げて折り曲げ部の断面積を増加させることにより、電気抵抗を低めたものである。このような折り曲げ部を有するもののその他の例として、例えば、図は省くがホチキスの針のような扁平なチャンネル形断面の部材を可動片と別体に設けて、これを押し潰して圧接することにより、可動片と圧接する方法がある。このように可動片との関係で、折り曲げ部を設ける場合には、折り曲げ部が一体の場合と別体の場合の両者が可能で、本発明には、両者を含むものとする。
【0033】
図4(b)は、可動片の先端近傍や後端近傍に折り曲げ部を設け、その折り曲げ部に、低抵抗材80を挿入し、抵抗材を折り曲げ部に挟んだ状態で、両者を圧接したものである。折り曲げ部の形成により、断面積を増加させると共に、低抵抗材の電気抵抗を低下させる効果により、さらに電気抵抗を下げることができる。
【0034】
図4(c)は、可動片の先端近傍や後端近傍に、低抵抗材の接合を機械的接合方法によるのではなく、溶接・ロウ付け等で接合したものである。この溶接・ロウ付け等の方法により、低抵抗材を接合することにより、機械的接合の場合よりも接触抵抗を下げることができる。
【0035】
図4(d)はインレイにより、低抵抗材を可動片の先端近傍や後端近傍に打ち込んだものである。図4(e)は、低抵抗材を可動片の先端近傍や後端近傍のみに部分めっき90を施したものである。可動片の表面に部分めっきを施すことにより、所定部位の電気抵抗を下げることができる。
【0036】
図5は、図3に示す電気抵抗を高める手段と図4に示す電気抵抗を低める手段の組合せの代表例として、電気抵抗を低めるための手段を部分めっきのみに固定して、電気抵抗を高める手段として、図3に示す種々の場合を組合せた場合を示す。図5(a)、図5(b)はそれぞれ可動片中央部にスリット、丸穴を形成し、さらに可動片のそれ以外の部分に部分電気めっきを組合せた場合を示す。図5(c)は、可動片の形状は一定で可動片中央部近傍の電気抵抗を高めるために、可動片に高抵抗材を用い、可動片のそれ以外の部分に低抵抗材を部分めっきした場合を示す。
【0037】
図5(d)は可動片中央部に幅狭な平行部を設けて電気抵抗を高め、それ以外の部分の電気抵抗を低めるために電気めっきを行った場合を示す。図5(e)は、図5(d)同様に、幅狭な平行部を設けた場合を示すが、幅狭な平行部に至る形状が異なっている。図5(f)は可動片中央部挟んでその近傍に、電流狭窄部を設けた場合を示す。このような可動片に幅狭な平行部や電流狭窄部を設けた構成とすることにより、電気抵抗を上げることができる。
【0038】
可動片30は、可動片が熱応動素子を兼ねない場合には、りん青銅、Cu−Ti合金、Cu−Be合金、洋白、Cu−Ni−Si合金などの導電性を有し、且つばね性に長じたものが望ましく、特にPを8mass%含むりん青銅が良く、更に、純Cuや黄銅などの導電性材料も利用できる。
【0039】
本発明の熱応動部材を構成する材料としては、高熱膨張係数部材と低熱膨張係数部材を積層したバイメタル材料や高熱膨張係数部材と低熱膨張係数部材の間に導電材料層を挟んだトリメタル材料を用いる。熱応動部材を低抵抗化するには、バイメタルの代わりに、トリメタルを用い、トリメタルの3種の部材の一つを低抵抗化することにより、熱応動部材の低抵抗化が可能である。
【0040】
この場合には、高熱膨張係数部材としては、Cu又はCu合金、Ni又はNi合金、Ni−Cu合金、Cu−Zn合金、Ni−Mn−Fe合金、Ni−Cr−Fe合金、Ni−Mo−Fe合金、Mn−Ni−Cu合金などを利用できる。更に、低熱膨張係数部材としては、Fe−Ni合金、Fe−Ni−Co合金、Fe−Co−Cr合金などが利用される。これらの高熱膨張係数部材と低熱膨張係数部材を必要に応じて組み合わせることが可能である。
【0041】
可動片自身を低抵抗材にするには、可動片30に純銅、リン青銅、黄銅等を用いることができる。さらに、可動片が熱応動部材である場合には、熱応動部材としての機能を発揮しなければならないために、可動片の材質をトリメタル材とし、バイメタル材に対しCu、Cu-Ni、Cu-Zrなどからなる材料層を追加して設ける場合がある。また、可動片自身に高抵抗材を用いる場合には、SUS304、SUS301、或いは6mass%Al−4mass%V−Ti等を用いることができるし、熱応動部材の高熱膨張係数部材と低熱膨張係数部材の組合せの結果として高抵抗となるように選択することが可能である。例えば、熱応動部材を高抵抗にする組合せとしては、Cu-Ni-MnとNi−Feの組合せやNi-Cr-FeとNi-Feの組合せなどを選定することができる。また、部分めっきに用いる低抵抗材にはAu、Cu、Ag、Sn等を用いることができる。もちろん、部分めっき法による低抵抗化は、可動片自身が熱応動部材からなる場合も、可動片とは別体に熱応動部材が存在する場合でも可能である。
【0042】
尚、特に図示しないが、図5(a)から図5(f)に記載の可動片の中央部以外の部分の電気抵抗を下げる手段としての電気めっきを、図4(a)から図4(d)に示す折曲げ・圧接、折曲げ・挿入、溶接・ロウ付け、インレイのいずれかに置換することができる。
【0043】
可動片先端の接点の電気抵抗を低める手段として、接点に低抵抗材を用いることができる。接点に低抵抗材を用いることにより、可動片の可動接点と固定接点が接触した時の電気抵抗を低下させることができる。接点材料層として、Ag−Ni合金、より好ましくはAg−10mass%Ni合金がよく、更にAg−Cu合金、Ag−Au合金、Ag−C合金、Ag−W合金などが利用できるが、接点の低抵抗化のためには、AuやPtの合金等を用いることが望ましい。
【0044】
従って、本発明の可動片中央部の電気抵抗を高める手段と、本発明に開示の電気抵抗を低める手段の両者を組み合わせることにより、本発明はサーマルプロテクタの反応時間の短縮と電流の大容量化に際して、従来のサーマルプロテクタの問題点を克服して、サーマルプロテクタの可動片の電気抵抗を部分的に高めると同時に、さらに、部分的に低めるか又は全体的に低下させることにより、小型ながら相反する特性の両立を可能としたサーマルプロテクタの提供することができる。その結果、可動端子と固定端子の端子間抵抗の増加を少なくすることができるサーマルプロテクタを提供でき、サーマルプロテクタが作動するまでの最大許容電流を大きくできると同時に、サーマルプロテクタの反転までの時間を短かくするサーマルプロテクタの提供が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】可動片と熱応動部材が別体のサーマルプロテクタ
【図2】可動片が熱応動部材を兼ねるサーマルプロテクタ
【図3】可動片中央部を高抵抗にするための手段
【図4】可動片の先端部を低抵抗にするための手段
【図5】可動片の中央部を高抵抗にする手段とその他の部分を低抵抗にする手段
【符号の説明】
【0046】
1:ケース
2:固定接点
3:可動接点
4:熱応動部材(熱応動素子)
5:突起部
10:上側ケース
11:下側ケース
20:固定片
20a:固定端子
30:可動片
30a:可動端子
61、62:スリット
71:幅狭部
72:電流狭窄部
73:薄肉部
74:高抵抗材
80:低抵抗材
90:表面部分めっき

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂製ケース内の一方に固定接点を有する固定片と、他方に可動接点を有する可動片とを備え、固定接点側に伸びた可動片の可動接点が固定接点と接触離反するように配置し、固定接点と可動接点とを接触離反させる機構としての熱応動部材を可動片の近傍に配置したサーマルプロテクタにおいて、前記可動片の熱応動部材近傍は電気抵抗を高める手段を備え、且つ前記可動片の熱応動部材近傍以外の少なくとも一部は電気抵抗を下げる手段を備えることを特徴とするサーマルプロテクタ。
【請求項2】
樹脂製ケース内の一方に固定接点を有する固定片と、他方に可動接点を有する可動片とを備え、固定接点と可動接点とを接触離反させる機構として熱応動部材からなる可動片が作用するサーマルプロテクタにおいて、前記可動片の反転中心を含む可動片中央部近傍は電気抵抗を高める手段を備え、且つ前記可動片の可動接点近傍又は可動片固定端近傍等その他の部分の電気抵抗を下げる手段を備えることを特徴とするサーマルプロテクタ。
【請求項3】
請求項1に記載の可動片の熱応動部材近傍あるいは請求項2に記載の可動片の反転中心を含む可動片中央部近傍の電気抵抗を高める手段として、可動片に高抵抗材料を用いるか高抵抗材料をクラッドすることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のサーマルプロテクタ。
【請求項4】
請求項1に記載の可動片の熱応動部材近傍あるいは請求項2に記載の可動片の反転中心を含む可動片中央部近傍の電気抵抗を高める手段として、可動片の熱応動部材近傍の断面積を減少させることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のサーマルプロテクタ。
【請求項5】
請求項1に記載の可動片の熱応動部材近傍あるいは請求項2に記載の可動片の反転中心を含む可動片中央部近傍の電気抵抗を高める手段として、可動片の熱応動部材近傍あるいは可動片の反転中心を含む可動片中央部近傍を薄肉化するか、そこにスリット、穴を形成するか、もしくはそこに可動片中央部の板幅を幅狭化するか、又はそこに可動片中央部に板幅の狭窄部を設けることを特徴とするサーマルプロテクタ。
【請求項6】
前記可動片の熱応動部材近傍以外の電気抵抗を下げる手段として、可動片に低抵抗材を用いることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のサーマルプロテクタ。
【請求項7】
前記可動片の熱応動部材近傍以外あるいは可動片の反転中心を含む可動片中央部近傍以外の部分の電気抵抗を下げる手段として、表面めっき、ロウ付け、溶接等の方法で低抵抗材を接合することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のサーマルプロテクタ。
【請求項8】
前記可動片の熱応動部材近傍以外あるいは可動片の反転中心を含む可動片中央部近傍以外の部分の電気抵抗を下げる手段として、可動片を折り曲げて重ねるか、折り曲げた部分に低抵抗材を挿入するか、インレイにより導体打ち込みをしたことを特徴とする請求項1又は請求項2にサーマルプロテクタ。
【請求項9】
前記可動片の熱応動部材近傍以外あるいは可動片の反転中心を含む可動片中央部近傍以外の部分の電気抵抗を下げる手段として、請求項1から請求項8のいずれかに記載の手段の他、さらに可動接点と固定接点の電気抵抗を下げることを特徴とするサーマルプロテクタ。
【請求項10】
請求項1から請求項9のいずれかに記載の電気抵抗を高める手段と低める手段を有するサーマルプロテクタにおいて、電気抵抗を高める手段による電気抵抗増加より、低める手段による電気抵抗低下を大きくし、全体としてサーマルプロテクタの電気抵抗を低めたことを特徴とするサーマルプロテクタ。
【請求項11】
前記可動片の熱応動部材近傍あるいは可動片の反転中心を含む可動片中央部近傍は電気抵抗を高める手段を有し、且つ前記可動片の熱応動部材近傍又は可動片の反転中心を含む可動片中央部近傍以外の部分は電気抵抗を下げる手段を有することによるサーマルプロテクタの最大許容電流を大きくできると同時に、サーマルプロテクタの反転までの時間を短くすることを特徴とするサーマルプロテクタ。
【請求項12】
前記可動片の熱応動部材近傍あるいは可動片の反転中心を含む可動片中央部近傍は電気抵抗を高める手段を有し、且つ前記可動片の熱応動部材近傍又は可動片の反転中心を含む可動片中央部近傍以外の部分は電気抵抗を下げる手段を有することにより、可動端子と固定端子の端子間抵抗の増加を少なくするサーマルプロテクタの端子間抵抗増加防止方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−331693(P2006−331693A)
【公開日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−149953(P2005−149953)
【出願日】平成17年5月23日(2005.5.23)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【出願人】(592181602)古河精密金属工業株式会社 (15)
【Fターム(参考)】