説明

サーミスタの製造方法

【課題】 得られるサーミスタ間で初期室温抵抗値のばらつきを十分に低減できるサーミスタの製造方法を提供すること。
【解決手段】 本発明のサーミスタの製造方法は、一対の金属箔12,13上にそれぞれ、樹脂及び導電性粒子を含有するペーストを塗布して樹脂組成物層14,15を形成し、一対の積層体16,17を得る工程と、一対の積層体16,17を、樹脂組成物層14,15を向かい合わせた状態で貼り合わせて貼り合せ体18を得る工程、貼り合せ体18を熱処理し、一対の金属箔12,13の間にサーミスタ素体1を得る工程、熱処理後の貼り合せ体から、一対の電極2,3間にサーミスタ素体1が配置されるサーミスタ10を得る工程を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サーミスタの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリマー層及びこれに分散した導電性粒子で構成される材料をサーミスタ素体として用いたサーミスタは、一般に、有機質サーミスタ等と称されるものであり、特に、温度上昇とともに抵抗値が急激に増大するPTC(Positive Temperature Coefficient:正の温度係数)特性を有するものは、有機質正特性サーミスタと称される場合がある。このようなサーミスタは、過電流・加熱保護素子、自己制御型発熱体、温度センサー等のデバイスに用いられる。
【0003】
有機質サーミスタとしては、例えば、熱硬化性樹脂であるエポキシ樹脂に導電性粒子を分散させた材料をサーミスタ素体として用いたものが提案されており(特許文献1)、同文献には、一方の電極上に、エポキシ樹脂及び導電性粒子を含有するペーストを塗布し、他方の電極を上記ペーストに貼り合わせた後、ペースト中のエポキシ樹脂を熱硬化させて一対の電極間にサーミスタ素体が配置されたサーミスタを得る方法が開示されている。
【特許文献1】国際公開第2004/086421号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、有機質サーミスタは、同一の製造条件の下で、室温抵抗値が一定であることが望まれる。
【0005】
しかしながら、上記従来の方法では、得られる有機質サーミスタ間で初期室温抵抗値のばらつきが大きかった。そのため、初期室温抵抗値のばらつきを低減することが求められていた。
【0006】
そこで、本発明は、得られるサーミスタ間で初期室温抵抗値のばらつきを十分に低減できるサーミスタの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討した結果、以下の発明により上記課題を解決し得ることを見出した。
【0008】
即ち本発明のサーミスタの製造方法は、第1金属箔上に、樹脂及び導電性粒子を含有する第1ペーストを塗布して第1樹脂組成物層を形成して第1積層体を得る第1塗布工程と、第2金属箔上に、樹脂及び導電性粒子を含有する第2ペーストを塗布して第2樹脂組成物層を形成して第2積層体を得る第2塗布工程と、第1積層体及び第2積層体を、第1樹脂組成物層及び第2樹脂組成物層を向かい合わせた状態で貼り合わせて貼り合せ体を得る貼合せ工程と、貼り合せ体を熱処理し、第1金属箔及び第2金属箔の間にサーミスタ素体を得る熱処理工程と、熱処理工程後の前記貼り合せ体から、第1電極と第2電極との間にサーミスタ素体が配置されたサーミスタを得る工程とを含むことを特徴とする。
【0009】
この製造方法によれば、得られるサーミスタ間で初期室温抵抗値のばらつきを十分に低減することができる。この理由は明らかではないが、ペーストの塗布後、導電性粒子の沈降により、金属箔の塗布面と導電性粒子とのコンタクトが向上すること、及び、従来のように一対の金属箔の片面にのみペーストを塗布する片面塗布では一方の電極を形成するときに金属箔とサーミスタ素体との間に空気が取り込まれてしまい、その空気が外部に放出されずサーミスタの完成後も残ってしまう可能性があるが、本発明の製造方法では、金属箔とサーミスタ素体との間に空気が取り込まれず、サーミスタの完成後も残らないことが原因ではないかと考えれられる。
【0010】
第1塗布工程及び第2塗布工程においては、樹脂が熱硬化性樹脂であることが好ましい。この場合、初期室温抵抗値のばらつきが特に十分に低減されることに加え、初期室温抵抗値をも十分に低下させることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明のサーミスタの製造方法によれば、得られるサーミスタ間で初期室温抵抗値のばらつきを十分に低減することができ、一定品質のサーミスタを安定して提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下に、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0013】
(サーミスタ)
図1は、本発明によるサーミスタの好適な一実施形態を模式的に示す斜視図である。図1に示すサーミスタ10は、互いに対向するように配置された一対の電極2及び電極3と、電極2及び電極3の間においてそれぞれの電極に密着して設けられ正の抵抗−温度特性を有するサーミスタ素体1と、から構成され、全体として略直方体状をなしている。サーミスタ10には、必要に応じて、電極2に電気的に接続されたリード(図示せず)と、電極3に電気的に接続されたリード(図示せず)とが更に設けられてもよい。このサーミスタ10は、過電流・加熱保護素子、自己制御型発熱体、温度センサ等として好適に用いることができる。
【0014】
電極2及び電極3は、サーミスタの電極として機能する金属材料で形成されている。電極2及び電極3を構成する材料としては、ニッケル、銀、金、銅、アルミニウム等の金属、又はそれらの合金からなることが好ましい。更には、素子の低抵抗化と比較的低コストという点でNiが好ましい。また、その厚さは1〜100μmであることが好ましく、サーミスタの軽量化の点からは、1〜50μmであることがより好ましい。また、リードは、それぞれ電極2及び電極3から外部に電荷を放出又は注入することが可能な電気伝導性を有していれば、その形状や材質について特に限定されない。
【0015】
サーミスタ素体1は、熱硬化性樹脂及びこれに分散している導電性粒子を含有するペーストの硬化物で形成されている。サーミスタ素体1の厚さは、0.2〜1.0mmであることが好ましい。サーミスタ素体1の厚さが1.0mmを超えると、厚さが上記範囲内にある場合に比べて初期室温抵抗値のばらつきが大きくなる傾向にある。また、サーミスタ素体1の厚さが0.2mm未満であると、厚さが上記範囲内にある場合に比べてショートが発生して正常な室温抵抗値が得られなくなる傾向にある。
【0016】
上記熱硬化性樹脂は、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、フラン樹脂、ポリウレタン樹脂等の架橋性の樹脂と、これらの硬化剤とを含有するものである。なお、この硬化剤は、架橋性の樹脂等と反応して硬化物中の架橋構造の一部を構成するものであってもよいし、硬化反応の触媒として作用するものであってもよい。あるいは、触媒として作用するとともに架橋構造の一部を構成するものであってもよい。
【0017】
熱硬化性樹脂としては、硬化前の樹脂の取り扱いが良好であることだけでなく、完成したサーミスタ素体1が耐熱性に優れるという理由から、特に、エポキシ樹脂及びこれの硬化剤を含有するエポキシ樹脂組成物が好ましい。
【0018】
本発明においては、エポキシ樹脂は、複数のエポキシ基を有する単一又は複数種のポリエポキシ化合物からなる樹脂のことを意味する。このポリエポキシ化合物としては、例えば、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールAD、カテコール、レゾルシノール及びテトラメチルビフェニル等の多価フェノールのポリグリシジルエーテル、ビスフェノール化合物のアルキレンオキシド付加物、グリセリン及びポリアルキレングリコール等の多価アルコールのポリグリシジルエーテル、フタル酸及びテレフタル酸等のポリカルボン酸のポリグリシジルエステルが挙げられる。
【0019】
エポキシ樹脂と組み合わせて用いる硬化剤としては、酸無水物、脂肪族ポリアミン、芳香族ポリアミン、ポリアミド、ポリフェノール、ポリメルカプタン、第三アミン及びルイス酸錯体等が挙げられる。これらの中でも、酸無水物が好ましい。酸無水物を用いると、脂肪族ポリアミン等のアミン系の硬化剤を用いる場合よりも、サーミスタの初期の室温抵抗値を低くしたり、抵抗変化率を大きくしたりすることができる傾向にある。
【0020】
酸無水物としては、ドデセニル無水コハク酸、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、ポリアジピン酸無水物、ポリアゼライン酸無水物、ポリセバシン酸無水物、ポリ(エチルオクタデカン二酸)無水物、ポリ(フェニルヘキサデカン二酸)無水物、エチレングリコールビスアンヒドロトリメリテート、グリセロールトリスアンヒドロトリメリテート等が挙げられる。
【0021】
酸無水物の好適な他の具体例としては、上記の他、2,4−ジエチルグルタル酸無水物、ヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、無水フタル酸、無水コハク酸、無水トリメット酸、無水ピロメリット酸、無水メチルナジック酸、無水マレイン酸、無水ベンゾフェノンテトラカルボン酸、エンドメチレンテトラヒドロ無水フタル酸、メチルエンドメチレンテトラヒドロ無水フタル酸、メチルブテニルテトラヒドロ無水フタル酸、メチルシクロヘキセンジカルボン酸無水物アルキルスチレン−無水マレイン酸共重合体、エチレングリコールビストリメリテート、クロレンド酸無水物及びテトラブロム無水フタル酸等が挙げられる。
【0022】
エポキシ樹脂組成物においては、以上のような酸無水物を、単独で又は複数組み合わせて用いることができる。
【0023】
熱硬化性樹脂中の硬化剤の含有割合は、架橋性化合物や硬化剤の種類等に応じて適宜決定すればよい。例えば、エポキシ樹脂に硬化剤として酸無水物を組み合わせる場合、エポキシ樹脂中のエポキシ基に対して当量比で、0.5〜1.5、より好ましくは0.8〜1.2となるような含有割合で硬化剤を含有させることがより好ましい。硬化剤の当量比がエポキシ基に対して0.5未満、あるいは1.5を超えると、未反応のエポキシ基及び酸無水物基が増加することにより、サーミスタ素体の機械的強度が低下したり、サーミスタの抵抗変化率が低下したりする傾向にある。
【0024】
熱硬化性樹脂がエポキシ樹脂及びこれの硬化剤を含有するエポキシ樹脂組成物である場
合、エポキシ樹脂及び硬化剤の全体の平均分子量は300〜1000であることが好ましく、300〜650であることがより好ましい。これにより、硬化物が適度な可とう性を有するものとなって、熱履歴に対する耐久性がさらに改善される。
【0025】
熱硬化性樹脂中には、反応性希釈剤、可塑剤等の添加剤を含有させてもよい。反応性希釈剤としては、特にエポキシ樹脂と組み合わせる場合、モノエポキシ化合物が好ましい。モノエポキシ化合物としては、n−ブチルグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル、2−エチルヘキシルグリシジルエーテル、スチレンオキサイド、フェニルグリシジルエーテル、クレジルグリシジルエーテル、p−sec−ブチルフェニルグリシジルエーテル、グリシジルメタクリレート、3級カルボン酸グリシジルエステル等が挙げられる。また、可塑剤としては、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール等の多価アルコールが好ましい。
【0026】
熱硬化性樹脂には、更に他の成分、例えば、熱可塑性樹脂や、ワックス、油脂、脂肪酸、高級アルコール等の低分子有機化合物等を、必要に応じてさらに加えてもよい。熱可塑性樹脂は熱硬化性樹脂中に溶解させてもよいし、粒子状の状態で分散させてもよい。
【0027】
導電性粒子は、電気伝導性を有する粒子であれば特に限定されず、例えば、カーボンブラック、グラファイト、各形状の金属粒子若しくはセラミック系導電性粒子を用いることができる。金属粒子の金属材料としては、銅、アルミニウム、ニッケル、タングステン、モリブデン、銀、亜鉛、コバルト、及び銅紛にニッケルめっきを施したもの等が挙げられる。セラミック系導電性粒子の材料としては、TiC及びWC等が挙げられる。これら導電性粒子は、1種類を単独で又は2種類以上を組み合わせて用いることができる。
【0028】
導電性粒子としては、特に、金属粒子が好ましい。導電性粒子として金属粒子を用いると、サーミスタの抵抗変化率を十分に大きく維持しつつ、室温抵抗値をより低下させることができ、例えば、本発明のサーミスタを過電流保護素子として用いる場合に好適である。さらに、金属粒子の中でも、酸化され難い等、化学的安定性の観点から、ニッケル粒子が特に好ましい。
【0029】
導電性粒子の形状は特に限定されず、球状、フレーク状、繊維状及び棒状等が挙げられるが、粒子の表面にスパイク状の突起を有するものが好ましい。スパイク状の突起を有する導電性粒子を用いることにより、隣接する粒子間におけるトンネル電流が流れやすくなるため、サーミスタの抵抗変化率を十分に確保したまま、室温抵抗値をより低くすることができる。また、真球状の粒子に比べて、粒子同士の中心間距離を大きくすることができるため、さらに大きな抵抗変化率を得ることができる。さらに、繊維状の粒子を用いた場合に比べて、サーミスタの室温抵抗値のばらつきを低減することができる。
【0030】
スパイク状の突起を有する導電性粒子は、一次粒子が個別に分散した粉体であってもよいが、10〜1000個程度の一次粒子が鎖状に連なりフィラメント状の二次粒子を形成しているものが好ましい。また、その材質は金属が好ましく、ニッケルを主成分とするものがより好ましい。さらに、導電性粒子は、比表面積が0.3〜3.0m/gであって、見かけ密度が3.0g/cm以下であることが好ましい。ここで、「比表面積」とは、BET一点法に基づく窒素ガス吸着法により求められる比表面積のことを意味する。
【0031】
また、導電性粒子の一次粒子の平均粒径は、0.1〜7.0μmであることが好ましく、0.5〜5.0μmであることがより好ましい。ここで、一次粒子の平均粒径はフィッシャー・サブシーブ法で測定される値とする。
【0032】
商業的に入手可能なスパイク状の突起を有する導電性粒子としては、例えば、「INC
O Type210」、「INCO Type255」、「INCO Type270」、「INCO Type287」(いずれもINCO社製、商品名)等が挙げられる。
【0033】
サーミスタ素体における導電性粒子の含有割合は、サーミスタ素体全体を基準として5〜90質量%であることが好ましく、60〜80質量%であることがより好ましい。導電性粒子の含有割合が50質量%未満であると、低い室温抵抗値が得られ難くなる傾向にあり、90質量%を超えると、大きな抵抗変化率を得ることが困難になる傾向にある。
【0034】
(サーミスタの製造方法)
次に、サーミスタ10の製造方法の一実施形態について説明する。図2〜図6は、サーミスタ10の一連の製造工程を示す図である。
【0035】
サーミスタ10は、一対の金属箔12,13上にそれぞれ、熱硬化性樹脂及び導電性粒子を含有するペーストを塗布して樹脂組成物層14,15を形成し、一対の積層体16,17を得る塗布工程と、一対の積層体16,17を、樹脂組成物層14,15同士を向かい合せた状態で貼り合せて貼り合せ体18を得る貼合せ工程と、貼り合せ体18を熱処理し、一対の金属箔12,13の間にサーミスタ素体1を得る熱処理工程と、熱処理後の貼り合せ体18を所定形状及び大きさに裁断してサーミスタ10を得る裁断工程とを含む製造方法によって、得ることができる。すなわち、本実施形態の製造方法では、第1ペースト及び第2ペーストが共通のペーストで構成され、第1樹脂組成物層及び第2樹脂組成物層が共通の樹脂組成物で構成されている。また積層体16が第1積層体に対応し、積層体17が第2積層体に対応している。
【0036】
上記製造方法によれば、得られるサーミスタ10間で初期室温抵抗値のばらつきを十分に低減することができ、一定品質のサーミスタ10を安定して得ることができる。この理由は明らかではないが、ペーストの塗布後、導電性粒子の沈降により、金属箔の塗布面と導電性粒子とのコンタクトが向上すること、及び、従来のように一対の金属箔の片面にのみペーストを塗布する片面塗布では一方の電極を形成するときに金属箔とサーミスタ素体との間に空気が取り込まれてしまい、その空気が外部に放出されずサーミスタの完成後も残ってしまう可能性があるが、本発明の製造方法では、金属箔とサーミスタ素体との間に空気が取り込まれず、サーミスタの完成後も残らないことに起因するのではないかと考えれられる。また、ペースト中に含まれる樹脂として熱硬化性樹脂を用いることで、初期室温抵抗値のばらつきが特に十分に低減されることに加え、初期室温抵抗値をも十分に低下させることができる。
【0037】
上記ペーストは、各種撹拌機、分散機、ミル等の装置を用いて、上述した構成成分、即ち熱硬化性樹脂及び導電性粒子を混合することにより得られる。このとき、低粘度化のために、熱硬化性樹脂及び導電性粒子からなる樹脂組成物に対し、アルコールやアセトンに代表されるような各種有機溶剤や、反応性希釈剤等の溶媒を加えてもよい。混合時間は、特に限定されないが、通常、10〜30分間混合することで、各成分を均一に溶解又は分散させることができる。また、混合温度は、特に限定されないが、例えば25〜80℃とすればよい。なお、混合温度が100℃以上であると混合中に樹脂が硬化してしまうおそれがある。混合後の樹脂組成物は、混合中に混入した気泡を除去するため、真空下で脱泡することが好ましい。
【0038】
この樹脂組成物を含有するペーストをそれぞれ金属箔12,13上に塗布して、金属箔12,13の片面に樹脂組成物層14,15が形成された積層体16,17を得る。このとき、樹脂組成物層14,15の厚さは同一であることが、抵抗値のばらつきをより低減する観点からは好ましい。また金属箔12,13の表面は予め粗面化されていることが好ましい。この場合、樹脂組成物層14中の導電性粒子と金属箔12との密着性、及び樹脂組成物層15中の導電性粒子と金属箔13との密着性を十分に確保でき、初期室温抵抗値のばらつきをより低減することができる。
【0039】
続いて、貼合せ工程において、一対の積層体16,17を、各々の樹脂組成物層14,15を向かい合わせた状態で貼り合せて貼り合せ体18を得る。このとき、金属箔12,13と樹脂組成物層14,15とが密着するように全体を加圧することが好ましい。
【0040】
熱処理工程においては、樹脂組成物層14,15を構成している樹脂組成物が十分に硬化するように、貼り合せ体18を所定の温度で所定時間加熱する。このときの加熱の条件は、硬化剤の種類等に応じて、硬化が十分に進行するように適宜設定すればよい。例えば、硬化剤として酸無水物を用いる場合、80〜200℃で、30〜600分加熱することにより、通常、硬化を十分進行させることができる。なお、この熱処理工程は加圧しながら行ってもよく、この場合、上記貼合せ工程と熱処理工程とを同時に又は連続的に行ってもよい。
【0041】
そして、裁断工程において、樹脂組成物が硬化した貼り合せ体18を、打ち抜き等により所望の形状(例えば、3.6mm×9mm)に裁断することにより、サーミスタ10を得ることができる。打ち抜きは、ネコプレス等、サーミスタを得るために通常用いられる方法で行うことができる。
【0042】
さらに、必要に応じて、金属箔からなる電極2及び電極3の表面に、それぞれリードを接合することにより、リードを有するサーミスタを作製できる。
【0043】
本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。例えば上記実施形態では、ペースト中の樹脂として熱硬化性樹脂を用いているが、熱硬化性樹脂に代えて熱可塑性樹脂を用いてもよい。また、金属箔12上に塗布するペースト中の樹脂は熱硬化性樹脂であり、金属箔13上に塗布するペースト中の樹脂は熱可塑性樹脂であってもよく、逆に、金属箔12上に塗布するペースト中の樹脂は熱可塑性樹脂であり、金属箔13上に塗布するペースト中の樹脂は熱硬化性樹脂であってもよい。
【0044】
また上記実施形態では、第1ペースト及び第2ペーストが共通のペーストで構成され、第1樹脂組成物層及び第2樹脂組成物層が共通の樹脂組成物で構成されている。また積層体16が第1積層体に対応し、積層体17が第2積層体に対応しているが、第1ペースト及び第2ペーストは異なる組成のペーストで構成されてもよい。即ち、金属箔12上に塗布されるペーストと金属箔13上に塗布されるペーストとで、樹脂および導電性粒子の少なくとも1つが異なっていてもよい。また金属箔12上に塗布されるペーストと金属箔13上に塗布されるペーストとで、樹脂および導電性粒子は共通であってもよく、その場合、樹脂に対する導電性粒子の含有率が異なっていてもよい。
【0045】
更に上記実施形態の製造方法は、貼り合せ体18を裁断する裁断工程を含んでいるが、金属箔12,13がそのままサーミスタ10の電極2,3となる場合には、裁断工程は不要である。この場合、貼り合せ体18がサーミスタ10となる。
更に上記実施形態では、貼り合せ体18が裁断されてサーミスタ10が得られているが、貼り合せ体18の一部がくり抜かれることによってサーミスタ10が得られてもよい。
【実施例】
【0046】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明についてより具体的に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0047】
(実施例1)
ポリエポキシ化合物(メチルテトラヒドロ無水フタル酸)の混合物からなるエポキシ樹脂(商品名、旭電化社製「EP−4005」)と、エポキシ樹脂(商品名、旭電化社製「EP−4080S」)と、酸無水物からなる硬化剤(商品名、大日本インキ化学工業社製「B570」)と、硬化促進剤である(商品名、味の素社製「PN−40J」)と、導電性粒子であるフィラメント状ニッケルパウダ(商品名「Type255ニッケルパウダ」、INCO社製、平均粒径2.2〜2.8μm、見かけ密度0.5〜0.65g/cm、比表面積0.68m/g)とを混合して、樹脂組成物を調製した。
【0048】
樹脂組成物の調製においては、まず、エポキシ樹脂である「EP−4005」と「EP4080S」との混合比(重量比)が70:30となるよう混合するとともに、これらエポキシ樹脂全体に対して、硬化剤(B570)を53質量%、硬化促進剤(PN−40J)を1質量%添加した混合物を、ホモジナイザ(セルマスター)を用いて攪拌した。そして、この混合物に、導電性粒子を、導電性粒子を含む樹脂組成物全体に対して75質量%となるような量だけ添加してから更に攪拌して、樹脂組成物を得た。
【0049】
上記で得られた樹脂組成物をニッケル箔上に厚さ0.25mmとなるように塗布して樹脂組成物層を形成し、積層体を準備した。そして、同様の構成の積層体をもう一つ準備した。そして、樹脂組成物層が互いに向き合うように積層体を貼り合わせて貼り合せ体を作製し、この貼り合せ体をシート状にプレス成形し、130℃で10時間加熱して硬化を行った。こうして得られた熱処理後の貼り合わせ体を、ネコプレスによって3.6×9.0mmの形状に打ち抜いて、サーミスタを得た。
【0050】
(実施例2)
一方のニッケル箔上に塗布する硬化性樹脂組成物の厚さを0.05mmとし、他方のニッケル箔上に塗布する硬化性樹脂組成物の厚さを0.45mmとしたこと以外は、実施例1と同様にしてサーミスタを得た。
【0051】
(比較例1)
一方のニッケル箔上に塗布する硬化性樹脂組成物の厚さを0.50mmとし、他方のニッケル箔上に塗布する硬化性樹脂組成物の厚さを0mmとしたこと以外は、実施例1と同様にしてサーミスタを得た。
【0052】
上記のようにして実施例1,2及び比較例1のサーミスタをそれぞれ25個準備し、これらのサーミスタについて、4端子法で抵抗値を測定して温度―抵抗曲線を得た。得られた温度−抵抗曲線から、サーミスタの初期室温抵抗値を算出した。そして、25個のサーミスタにおいて、初期室温抵抗値の最小値(MIN室温抵抗値)、最大値(MAX室温抵抗値)、最大値と最小値との差、平均初期室温抵抗値、抵抗値ばらつき率を算出した。結果を表1に示す。なお、抵抗値ばらつき率は、平均初期室温抵抗値を差で除した値である。

【表1】



【0053】
表1に示す結果より、実施例1及び実施例2の製造方法によれば、比較例1の製造方法に比べて、抵抗値ばらつき率が格段に小さくなることが分かった。また実施例1及び実施例2の結果より、サーミスタ素体の厚さが同じであれば、一対のニッケル箔上にそれぞれ形成する樹脂組成物層の厚さの割合に関係なく、同様の抵抗値ばらつき率が得られることが確認された。
【0054】
この結果より、本発明の製造方法によれば、得られるサーミスタ間で初期室温抵抗値のばらつきを十分に低減できることが確認された。
【0055】
なお、実施例1及び2によれば、平均室温抵抗値も十分に低減されることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明に係るサーミスタの製造方法により得られるサーミスタの一例を模式的に示す斜視図である。
【図2】本発明のサーミスタの製造方法の一実施形態における一工程を示す図である。
【図3】本発明のサーミスタの製造方法の一実施形態における一工程を示す図である。
【図4】本発明のサーミスタの製造方法の一実施形態における一工程を示す図である。
【図5】本発明のサーミスタの製造方法の一実施形態における一工程を示す図である。
【図6】本発明のサーミスタの製造方法の一実施形態における一工程を示す図である。
【符号の説明】
【0057】
1…サーミスタ素体、2,3…電極、10…サーミスタ、12…金属箔(第1金属箔)、13…金属箔(第2金属箔)、14…樹脂組成物層(第1樹脂組成物層)、15…樹脂組成物層(第2樹脂組成物層)、16…積層体(第1積層体)、17…積層体(第2積層体)、18…貼り合せ体。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1金属箔上に、樹脂及び導電性粒子を含有する第1ペーストを塗布して第1樹脂組成物層を形成して第1積層体を得る第1塗布工程と、
第2金属箔上に、樹脂及び導電性粒子を含有する第2ペーストを塗布して第2樹脂組成物層を形成して第2積層体を得る第2塗布工程と、
前記第1積層体及び前記第2積層体を、前記第1樹脂組成物層及び前記第2樹脂組成物層を向かい合わせた状態で貼り合わせて貼り合せ体を得る貼合せ工程と、
前記貼り合せ体を熱処理し、前記第1金属箔及び前記第2金属箔の間にサーミスタ素体を得る熱処理工程と、
前記熱処理工程後の前記貼り合せ体から、第1電極と第2電極との間に前記サーミスタ素体が配置されたサーミスタを得る工程と、
を含むことを特徴とするサーミスタの製造方法。
【請求項2】
前記第1塗布工程及び前記第2塗布工程において、前記樹脂が熱硬化性樹脂である、請求項1に記載のサーミスタの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−245065(P2006−245065A)
【公開日】平成18年9月14日(2006.9.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−55012(P2005−55012)
【出願日】平成17年2月28日(2005.2.28)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】