説明

シアノピリジンを製造するための方法とそれに適した触媒

本発明は、メチルピリジンから、それらのアンモニアおよび酸素;ならびに、バナジウムおよびリン以外にさらなる遷移金属を含有するそのために適した触媒でのそれらの変換によるシアノピリジンを製造するための方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シアノピリジンを製造するための方法;および、バナジウムおよびリンを含有するそれに適した触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
メチルピリジンからアンモニアおよび酸素との反応によってシアノピリジンを製造するための幾つかの方法が公知である。これらは、反応条件;および、特に触媒によって特徴づけられる。これらの方法のうち、非常に良好な空時収率;および、同時に、高い選択率を有するもののみが商業的な規模での使用に意味を有する。
【0003】
このような要件は、一般的な組成式:
SbaVbTicX1dX2eOr
で表される触媒システムにより満たされることがEP 0 726 092 B1から公知である。これら触媒は、しかし、極めて複雑であり、製造するのが高価である。
【0004】
式(NH4)2(VO)3(P2O7)2または(VO)2P2O7で表される触媒は、芳香族化合物のアンモキシデーションに使用することのできるVPO触媒の類に属することがDE 198 04 839 A1からおよびDD 241 903 A1から公知である。これらの触媒は、90%より大の変換率を達成するためには、440℃より高い比較的高温反応温度を必要とする。
【発明の開示】
【0005】
本発明の目的は、440℃までの反応器温度で(高い変換レベルで)非常に良好な空時収率と選択率とを導き、かつ、簡単で製造のために再生可能であるVPO触媒を使用しつつ、メチルピリジンとアンモニアおよび酸素との触媒反応を通してシアノピリジンを製造するための方法を開発することである。
【0006】
この目的は、一般式:
[V1PaXb(Y)cOd]e[Z]f
[式中a=0.1〜2.5;
b=0〜3.0、特に0.001〜3.0;
c=0.1〜10;
d=その他の元素の原子価に依存する;
e=5〜100(重量%)
f=95〜0(重量%)、特に、95〜5であるが、ただし、bおよびfは、同時に0ではない;
X=Cr、Mo、W、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、ZnまたはNb;
Y=環式窒素化合物;
Z=SiO2、Al2O3、ZrO2またはTiO2あるいはそれらの混合物]
で表されるVPO触媒によって満たされ、
このVPO触媒は、五酸化バナジウム(V2O5)と80〜85%リン酸とを有機媒体中還流条件で反応させ;形成させ、それを80℃〜140℃で乾燥させ;続いて、それを、好ましくは、1.5〜4時間、300℃〜600℃で、さらに好ましくは、350℃〜480℃で焼成した触媒前駆体を濾去し;かくして、100〜300℃、特に160〜250℃の温度で、0.1〜10時間、特に0.5〜3時間、続いて、それを冷却することによって得られるバナジウムホスフェート上を、0〜80℃、特に15〜45℃の温度で、環式窒素化合物の蒸気で飽和された不活性ガス、例えば、アルゴン、ヘリウムまたは窒素からなるガスを流して製造することができる。
【0007】
流速は、好ましくは、5〜20リットル/時間となるのがよい。
室温まで冷却した後、触媒は、主として、カチオンとして結合した有機環式窒素化合物0.1〜5重量%、特に0.5〜3重量%を含有する。
【0008】
有機環式窒素化合物は、好ましくは、6員環、例えば、ピリジン、キノリン、ピリダジン、ピリミジン、ピラジン;および、特に、ピコリン(3-メチルピリジン)である。
有機媒体は、概して、芳香族アルコールと脂肪族アルコールとの体積比2:1〜1:3、特に、1:1〜1:2からなる混合物からなる。ベンジルアルコールと、例えば、各々が1〜3個のC原子を含有する、メチル基が好ましい、1〜3個のアルキル置換基を有するベンジルアルコールが環式アルコールとして適している。分岐鎖を有してもよいC2-C8アルコール、特にn-ブタノールが脂肪族アルコールとして使用される。
【0009】
この混合物にて、V2O5とリン酸とは、反応開始時に、モルV:P比1:0.1〜1:2.5、特に1:0.7〜1:1.5で存在する。
促進剤として活性なさらなる遷移金属酸化物または混合酸化物を含む触媒を生じさせるためには、これら遷移金属Xの塩の水性またはアルコール溶液が製造される。これらは、好ましくは、固体から熱処理することによって除去されるアニオン、例えば、炭酸塩、硝酸塩、蓚酸塩または酢酸塩である。任意に、乾燥した触媒前駆体が、これらの溶液に含浸され、過剰の溶液は、分離される。
【0010】
含浸された触媒前駆体は、ついで、80〜140℃に、6〜24時間乾燥され、場合によっては、焼成前に形成される。
支持体材料は、含浸または非含浸粉末と混合するのが有益であり、粉末は、概して、SiO2、TiO2、Al2O3またはZrO2あるいはそれらの混合物である。
【0011】
粉末は、所望される量、概して、量比20:1〜1:20で、支持成分と緊密に混合され、慣用的なミルで粉砕される。
得られる混合物は、続いて、300℃〜600℃、好ましくは、350〜480℃の温度で、48時間まで焼成される。このためには、組成1:0.1〜1:10で窒素/酸素混合物を使用するのが有益である。
【0012】
いずれにしろ、有機環式窒素化合物の触媒への導入は、焼成後、実際の触媒変換の開始前に行われる。触媒を製造するための方法も、同様に、本発明の主題である。
触媒は、不均質触媒ガス相反応を行うのに適した全ての反応器にて使用することができる。かくして、例えば、連続固体床反応器、攪拌容器、固定床反応器、移動床反応器またはスラリー相反応器を使用することができる。
【0013】
触媒は、好ましくは、メチルピリジン、例えば、3-メチルピリジン、アンモニアおよび酸素の440℃まで、特に400℃までの温度での触媒変換によって、シアノピリジン、例えば、3-シアノピリジンを製造するための方法にて使用される。
【0014】
EP 0 059 414 B1、EP 0 070 395 B1およびEP 0 726 092 A1に記載されている方法は、例えば、3-シアノピリジンのための製造方法に属する。
EP 0 059 414 B1に従えば、3-メチルピリジンのアンモニアおよび酸素との3-シアノピリジンへの変換は、通常、ガス相で行われる。反応条件の選択については、広範な範囲が存在する。変換は、原則的に、圧力を印加しないかまたは約3barまでの低い過剰の圧力、約320〜460℃の温度、好ましくは、340〜440℃の温度で行われる。要求される酸素は、有益には、空気として供給するのがよいが、水蒸気もまたガスに混合することができる。3-メチルピリジンのアンモニア、酸素または空気に対する;および、場合によっては、水蒸気に対する量比は、広範囲に選択することができる。概して、3-メチルピリジンの各モルについて、約2〜10モル、好ましくは、3〜8モルのアンモニア、約10〜40モル、好ましくは、25〜35モルの空気;および、ほぼ0〜10モル、好ましくは、0〜8モルの水蒸気を使用するのが適当である。触媒の比体積各リットルおよび時間当たりについては、ほぼ1〜3モルの3-メチルピリジンを反応器に供給するのに適当である。
【0015】
実施例にて、%は、特に断らない限り、重量パーセンテージを意味する。
以下の用語を以下の実施例にて使用する:
変換率=(変換した炭化水素のモル数/使用した炭化水素のモル数)100%;
収率=(生成した生成物のモル数/使用した炭化水素のモル数)100%;
GHSV=ガス時空速度=(供給したガスの体積/時間×触媒の比体積)[1/hl=1/h];
選択率=(収率/変換率)100
【実施例】
【0016】
実施例
触媒の製造
実施例1(触媒A,比較実施例)
Inorg.Chem.23(1984) 1308の記載に従い、オキソバナジウム(IV)-ハイドロジェンホスフェートの1/2水和物VOHPO4-0.5H2Oを水性媒体中で製造した。この触媒前駆体を120℃で24時間乾燥させて、窒素/酸素混合物中450℃で3時間焼成することによってオキソバナジウムジホスフェート(VO)2P2O7に変換した。
【0017】
実施例2(触媒B)
オキソバナジウムジホスフェートは、110mlのn-ブタノールと73mlのベンジルアルコールとに懸濁させた0.1mol(18.2g)のV2O5混合物を3時間還流しつつ攪拌することによって有機溶剤中で製造することができる。続いて、攪拌を室温で一晩継続し、その後、85リン酸を化学量論的に適切な量加え、還流しつつ、さらに2時間攪拌を再度行い、形成される触媒前駆体を室温で濾去し、エタノールで数回洗浄し、最終的に、120℃で24時間乾燥する。窒素/酸素混合物中450℃で焼成3時間後、実施例1におけるように、オキソバナジウムジホスフェート(VO)2P2O7が得られる。
【0018】
実施例3(触媒C)
本実施例に従い、支持された触媒の製造を行う:
このためには、(すなわち、最終焼成前の)触媒前駆体の単離の際に、実施例1および2にて記載した合成を終了する。二酸化チタン(anatase)粉末(B.E.T.表面約100m2/g)を、重量比3:1で、実施例1または2に従う触媒前駆体の粉末(VOHPO4・0.5H2O)と混合し、瑪瑙のミル内で緊密に粉砕し、また、続いて、電動ミル内で(5〜10分)粉砕する。その後、触媒組成物をプレスし、破砕し、径約1〜1.25mmを有する篩画分を回収する。この画分を窒素/酸素混合物中、450℃で3時間焼成すると、バナジウムホスフェートを、主として(VO)2P2O7として含有する。
【0019】
実施例4(触媒D)
実施例3に従う触媒は、また、遷移金属序触媒と混合することもできる。このためには、実施例1または2の触媒前駆体は、支持体成分との混合物が生ずる前に活性化される。活性化された触媒前駆体の製造は、鉄の活性化について以下に記載する:
それぞれ、実施例1または2に従い得られる触媒前駆体(VOHPO4・0.5H2O)0.1molに、0.05molの鉄(III)酢酸塩を(エタノールまたは水に溶解させて)含浸させた。その後、溶剤を蒸発させ、残渣を120℃で16時間乾燥させ、続いて、焼成する。
【0020】
実施例5(触媒E)
実施例4にて製造した触媒前駆体を、実施例3にて記載したように、比1:3で二酸化チタン(anatase)粉末と混合し、記載したように、粉砕する。(実施例3におけるように)乾燥および焼成後、バナジウムホスフェートを、主として、(VO)2P2O7として含有する支持されかつ活性化された触媒が得られる。
【0021】
実施例6(触媒F)
粒子寸法範囲1〜1.25mmを有する実施例2のオキソバナジウムホスフェートを反応管に入れ、ガス流10 1/hのアルゴン(室温、3-ピコリンで飽和された)で2時間、10°K/分の間隔で200℃まで加熱した。その後、アルゴン流中、室温まで冷却を行った。処理した触媒は、さらなる成分として、比較IRスペクトルおよび元素分析によって立証することのできる(主として、カチオンとして)3-ピコリンを含有する。試料は、主として、ピコリニウムカチオンとして、約1.5%のピコリンを含有する。
【0022】
実施例7(触媒G)
実施例3の触媒支持体を、実施例6にて記載したように、アルゴン/3-ピコリン流で処理する。処理後、触媒は、主として、ピコリニウムカチオンとして、約2%の3-ピコリンを含有する。
【0023】
実施例8(触媒H)
実施例4の鉄活性化支持触媒は、実施例6に記載したように、アルゴン/3-ピコリン流で処理する。処理後、触媒は、主として、ピコリニウムカチオンとして、約2%の3-ピコリンを含有する。
【0024】
3-シアノピリジンの製造
実施例9〜15
石英固定床反応器に、コランダムと1:1混合の触媒チップ5gを装填した。3-ピコリン;および、場合によっては、水を空気とアンモニアとの反応ガス流にポンプ輸送し、気化させる。使用する反応条件およびガスの蒸気組成物は、表1に示す。サンプリングは、反応開始後10に行う。反応生成物は、ガスクロマトグラフィーにより分析し、定量した。結果は、同様に、表1に示す。非前処理した触媒についての試験9〜13は、反応開始後10分で、ピコリン変換率約50%を生ずるのに対し、試験14〜15にては、前処理に続く、主として、ピコリニウムカチオンを含有する触媒は、反応開始直後に、既に、変換率≧95%に達する。3-シアノピリジンに対する反応の選択率は、各場合に、≧85と高い。
【0025】
触媒Aでの比較実施例
石英固定床反応器に、コランダムと1:1混合の触媒チップ5gを負荷した。3-ピコリン;および、場合によっては、水を空気とアンモニアとの反応ガス流にポンプ輸送し、気化させる。以下のモル比:3-ピコリン:アンモニア:空気:水=1:4.4:28.4:8.5に従い、操作を行った。触媒温度355℃、接触時間1.5s、3-ピコリン変換率35%が測定され、ニコチノニトリルの収率は、選択率84%に相当する29である。
【0026】
触媒は、使用前に、ピコリン含有流でガス化し、試験は、続いて、上記したように行った。
第2の試験にて、操作は、以下のモル比:3-ピコリン:アンモニア:空気:水=1:4.6:29.4:8.9で行った。触媒温度362℃と接触時間1.5sで、3-ピコリン変換率43%が測定された。ニコチノニトリルの収率は、35%で、これは、選択率82%に相当する。
【0027】
【表1】

【0028】
実施例16〜22
反応生成物を6時間後に測定した以外は、実施例9〜15にて記載した方法を継続した。同一反応条件下で、その時、以下の結果が、得られた。
【0029】
【表2】

【0030】
非前処理した触媒についてのピコリン変換率は、既に、10%まで上昇したことが分かる。前処理した触媒は、さらに、出発時と同等の性能を示す。実施例16〜19の使用した触媒は、さて、例えば、赤外分光法によって決定しうるように、格子に組み込まれた3-ピコリンの明らかな比率を示す。
【0031】
前述の考察は、本発明の単なる例としての実施態様を開示説明する。当業者であれば、このような考察から、また、添付の図面および特許請求の範囲の請求項から、請求項に記載した本発明の精神および範囲から逸脱することなく、その中で、種々の修正、変更および変形をなすことができることを理解されよう。
【0032】
本明細書で挙げる全ての参考文献は、完全に記載されている場合、参考とすることによって組み込む。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式:
[V1PaXb(Y)cOd]e[Z]f
[式中a=0.1〜2.5;
b=0〜3.0、特に0.001〜3.0;
c=0.1〜10;
d=その他の元素の原子価に依存する;
e=5〜100(重量%)
f=95〜0(重量%)、特に、95〜5であるが、ただし、bおよびfは、同時に0ではない;
X=Cr、Mo、W、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、ZnまたはNb;
Y=環式窒素化合物;
Z=SiO2、Al2O3、ZrO2またはTiO2あるいはそれらの混合物]
で表されるVPO触媒であり、以下の工程:
a) 有機媒体中還流条件下V2O5と濃リン酸とを変換させ;
b) 形成される触媒前駆体を分離し、かつ、任意に、
c) 80〜140℃で乾燥させ;
d) 任意に乾燥させた触媒前駆体を金属Xの水性またはアルコール溶液に含浸させ、ここで、Xは、上記引用した意味を有し;
e) 過剰の溶液を分離し;
f) 含浸させた材料を乾燥および焼成し;かつ、
g) 場合によっては、得られる触媒を形成する;
を実行する方法に従い製造されるVPO触媒。
【請求項2】
触媒が、SiO2、Al2O3、ZrO2またはTiO2あるいはそれらの混合物を支持体として含有することを特徴とする、請求項1に記載のVPO触媒。
【請求項3】
触媒が、有機環式窒素化合物0.01〜5重量%を含有することを特徴とする、請求項1に記載のVPO触媒。
【請求項4】
触媒が、ピリジン、キノリン、ピリダジン、ピリミジンおよびピラジンからなる群より選択される化合物を窒素化合物として含有することを特徴とする、請求項3に記載のVPO触媒。
【請求項5】
触媒が、窒素化合物として3-メチルピリジンを含有することを特徴とする、請求項3に記載のVPO触媒。
【請求項6】
3-メチルピリジンとアンモニアおよび酸素との440℃までの温度での変換によって3-シアノピリジンを製造するための、請求項1〜5に記載の触媒の使用方法。

【公表番号】特表2007−501119(P2007−501119A)
【公表日】平成19年1月25日(2007.1.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−522661(P2006−522661)
【出願日】平成16年7月30日(2004.7.30)
【国際出願番号】PCT/US2004/024939
【国際公開番号】WO2005/016505
【国際公開日】平成17年2月24日(2005.2.24)
【出願人】(398005087)ヴァーテラス・スペシャリティーズ・インコーポレーテッド (3)
【氏名又は名称原語表記】Reilly Industries,Inc.
【住所又は居所原語表記】300 N. Meridian Street,Suite 1500,Indianapolis,Indiana 46204,United States of America
【Fターム(参考)】