説明

シアノ基含有含フッ素エラストマーの製造方法

【課題】重合系における酸の発生を抑制することができ、シアノ基含有モノマーにおけるシアノ基の副反応を抑制することができる含フッ素エラストマーの製造方法を提供する。
【解決手段】含フッ素オレフィンモノマーを含むモノマー混合物とシアノ基含有モノマーとを乳化重合して含フッ素エラストマーを製造するに際し、重合系のpHが3〜6の条件下にて乳化重合を行うことを特徴とするシアノ基含有含フッ素エラストマーの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重合系のpHを調整することを特徴とするシアノ基含有含フッ素エラストマーの製造方法、および該製造方法により得られるシアノ基含有含フッ素エラストマーに関する。
【背景技術】
【0002】
含フッ素エラストマーは、その卓越した耐熱性、耐薬品性、耐溶剤性、耐燃料油性などから、自動車工業、半導体工業、化学工業などの分野において、O−リング、ホース、ステムシール、シャフトシール、ダイヤフラム等の形状に成形されて広く使用されている。
【0003】
含フッ素エラストマーにおいて、シアノ基を含有する含フッ素エラストマーは、シアノ基を架橋点として、ビスアミノフェノールによりオキサゾール環を形成させるオキサゾール架橋、ビスジアミノフェニル化合物によりイミダゾール環を形成させるイミダゾール架橋(たとえば、特許文献1参照)、ビスアミノチオフェノールによりチアゾール環を形成させるチアゾール架橋(たとえば、特許文献2参照)により、高い耐熱性を有する成型品を得られるという点で好ましい。
【0004】
【特許文献1】特開昭59−109546号公報
【特許文献2】国際公開第00/29479号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、前記シアノ基を含有する含フッ素エラストマーは、重合過程でシアノ基の副反応により、ゲル化が発生するため、高粘度化してしまい、このようにして得られる含フッ素エラストマーを用いて成形品を製造する際の加工性の点で改善の余地があることがわかった。
【0006】
本発明は、シアノ基含有モノマーにおけるシアノ基の副反応を抑制することができる含フッ素エラストマーの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、含フッ素オレフィンモノマーを含むモノマー混合物とシアノ基含有モノマーとを乳化重合して含フッ素エラストマーを製造するに際し、重合系のpHが3〜6の条件下にて乳化重合を行うことを特徴とするシアノ基含有含フッ素エラストマーの製造方法に関する。
【0008】
シアノ基含有モノマーが、
式(1):
CY12=CY3(O)m(R1n−CN (1)
(式中、Y1〜Y3は、同じかまたは異なり、いずれも水素原子、ハロゲン原子、−CH3または−CF3;R1は2価の有機基;nは0または1;mは、nが0である場合は0、nが1である場合は0または1である)
で示されることが好ましい。
【0009】
含フッ素オレフィンモノマーを含むモノマー混合物が、含フッ素オレフィンモノマーとしてフッ化ビニリデン、ヘキサフルオロプロピレン、テトラフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレンおよびパーフルオロアルキルビニルエーテルよりなる群から選ばれる少なくとも2種の含フッ素オレフィンモノマーを含む混合物であることが好ましい。
【0010】
また、含フッ素オレフィンモノマーを含むモノマー混合物が、フッ化ビニリデンと、ヘキサフルオロプロピレン、テトラフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレンおよびパーフルオロアルキルビニルエーテルよりなる群から選ばれる少なくとも1種の含フッ素オレフィンモノマーを含む混合物であることがさらに好ましい。
【0011】
また、本発明は、前記の製造方法により得られるシアノ基含有含フッ素エラストマーにも関する。
【0012】
このシアノ基含有含フッ素エラストマーは、ゲル分含有量が0〜10重量%でムーニー粘度(ML1+10(121℃))が20〜100であることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明の製造方法によると、重合系のpHを調整することにより、酸の発生を抑制することができ、シアノ基含有モノマーにおけるシアノ基の副反応を抑制することができる。そのため、得られるシアノ基含有含フッ素エラストマーはゲル化を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明は、含フッ素オレフィンモノマーを含むモノマー混合物とシアノ基含有モノマーとを乳化重合してシアノ基含有含フッ素エラストマーを製造するに際し、重合系のpHが3〜6の条件下にて乳化重合を行うことを特徴とする。
【0015】
本発明で製造されるシアノ基含有含フッ素エラストマーとしては、フッ素ゴム、熱可塑性フッ素ゴムなどがあげられるが、そのなかでもフッ素ゴムが好ましい。
【0016】
また、本発明で製造されるシアノ基含有含フッ素エラストマーのシアノ基以外の含フッ素エラストマー部分としては、パーフルオロ系含フッ素エラストマーおよび非パーフルオロ系含フッ素エラストマーがあげられるが、ゲル化抑制の効果が特に良好な点から、非パーフルオロ系含フッ素エラストマーが好ましい。
【0017】
含フッ素オレフィンモノマーを含むモノマー混合物(以下、「含フッ素オレフィンモノマー混合物」ということもある)としては、フッ化ビニリデン(VdF)、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)、テトラフルオロエチレン(TFE)、クロロトリフルオロエチレン(CTFE)およびパーフルオロアルキルビニルエーテル(PAVE)よりなる群から選ばれる少なくとも2種以上を含むモノマー混合物である。
【0018】
より具体的には、比較的安価で、重合性が良く、得られる化合物の耐熱性、耐寒性、耐薬品性に優れる点から、VdFを必須モノマーとして含むことがより好ましい。
【0019】
他の併用し得るモノマーとしては、上記のTFE、HFP、PAVE、CTFEなどのパーハロオレフィンのほか、フルオロアルキルビニルエーテル、トリフルオロエチレン、トリフルオロプロピレン、テトラフルオロプロピレン、ペンタフルオロプロピレン、トリフルオロブテン、テトラフルオロイソブテン、フッ化ビニル等の非パーフルオロ含フッ素オレフィン単量体;エチレン(Et)、プロピレン(Pr)、アルキルビニルエーテル等の非フッ素単量体;ヨウ素含有フッ素化ビニルエーテル等の1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0020】
前記PAVEは、式(13):
CF2=CFO(CF2CFY2O)p−(CF2CF2CF2O)q−Rf1 (13)
(式中Y2は、フッ素原子または−CF3を表し、Rf1は、炭素数1〜5のパーフルオロアルキル基を表す。pは、0〜5の整数を表し、qは、0〜5の整数を表す。)
で表されるものを1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。一般式(13)で示されるものの中でも、パーフルオロ(メチルビニルエーテル)、パーフルオロ(プロピルビニルエーテル)が好ましく、特にパーフルオロ(メチルビニルエーテル)が好ましい。
【0021】
具体的な含フッ素オレフィンモノマー混合物としては、得られる含フッ素エラストマーの架橋剤、特にアミノフェノール系架橋剤、ビスアミノフェノール系架橋剤、ビスジアミノフェニル系の架橋剤との相溶性が良好な点から、VdF/HFP、VdF/HFP/TFE、VdF/CTFE、VdF/CTFE/TFE、VdF/PAVE、VdF/TFE/PAVE、VdF/HFP/PAVE、VdF/HFP/TFE/PAVEが好ましく、特に、VdF/HFPおよびVdF/HFP/TFEが好ましい。
【0022】
VdF/HFPのエラストマー性共重合体としては、VdF/HFPの組成が、45〜85/55〜15モル%であることが好ましく、より好ましくは、50〜80/50〜20モル%であり、さらに好ましくは、60〜80/40〜20モル%である。
【0023】
VdF/HFP/TFEのエラストマー性共重合体としては、VdF/HFP/TFEの組成が、40〜80/10〜35/10〜25モル%のものが好ましい。
【0024】
VdF/PAVEのエラストマー性共重合体としては、VdF/PAVEの組成が、65〜90/10〜35モル%のものが好ましい。
【0025】
VdF/TFE/PAVEのエラストマー性共重合体としては、VdF/TFE/PAVEの組成が、40〜80/3〜40/15〜35モル%のものが好ましい。
【0026】
VdF/HFP/PAVEのエラストマー性共重合体としては、VdF/HFP/PAVEの組成が、65〜90/3〜25/3〜25モル%のものが好ましい。
【0027】
VdF/HFP/TFE/PAVEのエラストマー性共重合としては、VdF/HFP/TFE/PAVEの組成が、40〜90/0〜25/0〜40/3〜35のものが好ましく、40〜80/3〜25/3〜40/3〜25モル%のものがより好ましい。
【0028】
また、得られるシアノ基含有含フッ素エラストマーの耐寒性等が良好な点から、含フッ素オレフィンモノマー混合物としては、TFE/VdF/PAVE、CTFE/VdF/PAVEの組合せが好ましい。
【0029】
各モノマーの使用量はこれらの目的とする共重合体をエラストマー性にする組成になるように適宜選定すればよい。
【0030】
本発明の製造方法においては、前記含フッ素オレフィンモノマー混合物に加えて、さらにシアノ基含有モノマーが共重合に供される。
【0031】
シアノ基含有モノマーは、全モノマー中に、架橋反応性、得られる架橋物の耐熱性が良好な点から、好ましくは0.1モル%以上、より好ましくは0.3モル%以上であり、また、得られる架橋物の高伸長時の強度が良好な点から、好ましくは5モル%以下、より好ましくは2モル%以下である。
【0032】
シアノ基含有モノマーとしては、得られる架橋物の圧縮永久歪みが良好な点から、官能基としてシアノ基(−CN基)に加えてエチレン性不飽和結合をもつものが好ましい。
【0033】
シアノ基含有モノマーとしては、鎖状および環状のいずれの化合物も用いることができる。重合性が良好な点から、単量体は鎖状化合物であることが好ましい。
【0034】
シアノ基含有モノマーが環状化合物の場合、環状構造としてシクロペンテンおよびその誘導体、ノルボルネンおよびその誘導体、多環ノルボルネンおよびその誘導体、ビニルカルバゾールおよびその誘導体、ならびにこれらの化合物の水素原子の一部または全部をハロゲン原子、特にはフッ素原子や含フッ素アルキル基に置換した構造を有する化合物などを一例としてあげることができる。
【0035】
また、鎖状のシアノ基含有モノマーとしては、特に、つぎの式(14)で示される化合物が好ましい。
CY34=CY5(O)m(R7n−CN (14)
(式中、Y3〜Y5は、同じであっても異なっていてもよく、水素原子、ハロゲン原子、−CH3、または−CF3であり、R7は2価の有機基であり、nは0または1であり、mは、nが0である場合は0、nが1である場合は0または1である)
【0036】
この中でも、重合性がさらに良好な点から、Y3〜Y5が水素原子またはハロゲン原子であるものが好ましく、ハロゲン原子の中でも特にフッ素原子であるものが好ましい。具体的にはCY34=CY5−が、CH2=CH−、CH2=CF−、CFH=CF−、CFH=CH−、CF2=CF−であるものが好ましく、CH2=CH−、CH2=CF−、CF2=CF−であるものがより好ましい。なお、n=0の場合(すなわちmも0)、化合物(14)としては、CH2=CHCN、CF2=CFCNが好ましい。
【0037】
n=1の場合、mは0であっても1であってもよい。n=1でm=0の場合は、CH2=CH−、CH2=CF−、CFH=CF−、CFH=CH−、CF2=CF−が好ましく、CH2=CH−、CH2=CF−、CF2=CF−がより好ましい。n=1でm=1である場合は、CH2=CHO−、CH2=CFO−、CFH=CFO−、CFH=CHO−、CF2=CFO−が好ましく、CH2=CHO−、CH2=CFO−およびCF2=CFO−がより好ましい。
【0038】
7としては、2価の有機基から任意のものを選ぶことができるが、合成や重合の容易性の観点から、炭素数1〜100のエーテル結合を含んでいてもよいアルキレン基が好ましい。炭素数は1〜50、さらには1〜20であることが好ましい。そのようなアルキレン基は、水素原子の一部または全部がハロゲン原子、特にはフッ素原子に置換されていてもよい。炭素数が100をこえると、重合が困難になり、架橋を行っても好ましい特性を得ることができない傾向がある。上記アルキレン基は、直鎖型でも分岐型であってもよい。そのような直鎖型や分岐型のアルキレン基を構成する最小構造単位の一例をつぎに示す。
【0039】
(i)直鎖型の最小構造単位:
−CH2−、−CHF−、−CF2−、−CHCl−、−CFCl−、−CCl2
(ii)分岐型の最小構造単位:
【化1】

【0040】
7で表されるアルキレン基がエーテル基を含有しない場合、R7で表されるアルキレン基は、これらの最小構造単位単独で、または、直鎖型(i)同士、分岐鎖型(ii)同士、もしくはこれらを適宜組み合わせて構成される。また、R7で表されるアルキレン基がエーテル基を含有する場合、R7で表されるアルキレン基は、これらの最小構造単位単独と酸素原子で、または、直鎖型(i)同士、分岐鎖型(ii)同士と酸素原子で、もしくはこれらを適宜組み合わせて構成することができるが、酸素原子同士が結合することはない。なお、R7で表されるアルキレン基は、以上の例示のなかでも、塩基による脱HCl反応が起こらず、より安定なことから、Clを含有しない構成単位から構成されることが好ましい。
【0041】
また、R7としては、−R8−、―(OR8)−、または−(R8O)−(R8は炭素数1〜6のフッ素原子を含んでいてもよいアルキレン基)で示される構造を有することがさらに好ましい。
【0042】
8の好ましい具体例としては、下記の直鎖型または分岐鎖型のものをあげることができる。
【0043】
直鎖型のものとしては、−CH2−、−CHF−、−CF2−、−CH2CH2−、−CF2CH2−、−CF2CF2−、−CH2CF2−、−CH2CH2CH2−、−CH2CH2CF2−、−CH2CF2CH2−、−CH2CF2CF2−、−CF2CH2CH2−、−CF2CF2CH2−、−CF2CH2CF2−、−CF2CF2CF2−、−CH2CF2CH2CF2−、−CH2CF2CF2CF2−、−CH2CH2CF2CF2−、−CH2CH2CH2CH2−、−CH2CF2CH2CF2CH2−、−CH2CF2CF2CF2CH2−、−CH2CF2CF2CH2CH2−、−CH2CH2CF2CF2CH2−、−CH2CF2CH2CF2CH2−、−CH2CF2CH2CF2CH2CH2−、−CH2CH2CF2CF2CH2CH2−、−CH2CF2CH2CF2CH2CH2−などが例示でき、分岐鎖型のものとしては、
【化2】

などをあげることができる。
【0044】
以上に説明したシアノ基含有モノマー、特にシアノ基含有含フッ素モノマーとして好ましい化合物を以下に示すが、これらに限定されるものではない。
CH2=CH−(CF2n−CN (15)
(式中、nは2〜8の整数)
CY62=CY6(CF2n−CN (16)
(式中、Y6は水素原子またはフッ素原子、nは1〜8の整数である)
CF2=CFCF2f2−CN (17)
(式中、
【化3】

であり、nは0〜5の整数である)
CF2=CFCF2(OCF(CF3)CF2m
(OCH2CF2CF2nOCH2CF2−CN (18)
(式中、mは0〜5の整数であり、nは0〜5の整数である)
CF2=CFCF2(OCH2CF2CF2m
(OCF(CF3)CF2nOCF(CF3)−CN (19)
(式中、mは0〜5の整数であり、nは0〜5の整数である)
CF2=CF(OCF2CF(CF3))mO(CF2n−CN (20)
(式中、mは0〜5の整数であり、nは1〜8の整数である)
CF2=CF(OCF2CF(CF3))m−CN (21)
(式中、mは1〜5の整数である)
CF2=CFOCF2(CF(CF3)OCF2nCF(−CN)CF3 (22)
(式中、nは1〜4の整数である)
CF2=CFO(CF2nOCF(CF3)−CN (23)
(式中、nは2〜5の整数である)
CF2=CFO(CF2n−(C64)−CN (24)
(式中、nは1〜6の整数である)
CF2=CF(OCF2CF(CF3))nOCF2CF(CF3)−CN (25)
(式中、nは1〜2の整数である)
CH2=CFCF2O(CF(CF3)CF2O)nCF(CF3)−CN (26)
(式中、nは0〜5の整数である)
CF2=CFO(CF2CF(CF3)O)m(CF2n−CN (27)
(式中、mは0〜5の整数、nは1〜3の整数である)
CH2=CFCF2OCF(CF3)OCF(CF3)−CN (28)
CH2=CFCF2OCH2CF2−CN (29)
CF2=CFO(CF2CF(CF3)O)mCF2CF(CF3)−CN (30)
(式中、mは0以上の整数である)
CF2=CFOCF(CF3)CF2O(CF2n−CN (31)
(式中、nは1以上の整数である)
CF2=CFOCF2OCF2CF(CF3)OCF2−CN (32)
CF2=CF−(CF2C(CF3)F)n−CN (33)
(式中、nは、1〜5の整数である)
CF2=CFO−(CFY7n−CN (34)
(式中、Y7はFまたは−CF3であり、nは1〜10の整数である)
CF2=CFO−(CF2CFY8O)m−(CF2n−CN (35)
(式中、Y8はFまたは−CF3であり、mは1〜10の整数であり、nは1〜3の整数である)
CH2=CFCF2O−(CF(CF3)CF2O)n−CF(CF3)−CN (36)
(式中、nは0〜10の整数である)
CF2=CFCF2O−(CF(CF3)CF2O)n−CF(CF3)−CN (37)
(式中、nは1〜10の整数である)
【0045】
一般式(15)〜(37)で示される化合物では、得られるシアノ基含有含フッ素エラストマーにおいてシアノ基が架橋部位となり、架橋剤と架橋反応が進行する。
【0046】
特に好ましいシアノ基含有モノマーとしては、共重合性が良好な点からシアノ基含有含フッ素モノマー、特に式(14)においてn=m=1でR7としてエーテル結合を含む含フッ素アルキレン基、特にパーフルオロアルキレン基である化合物が好ましい。さらに具体的には、式(35)が好ましい。
【0047】
なお、前記シアノ基含有モノマーに加え、ヨウ素含有モノマー、臭素含有モノマーを用いると、上記の架橋反応に加えて、ヨウ素原子や臭素原子を架橋点とするパーオキサイド架橋を進行させることもできる。
【0048】
得られるシアノ基含有含フッ素エラストマーにおいては、シアノ基を側鎖に0.1〜5モル%含有することが好ましく、0.3〜2モル%含有することがより好ましい。0.1モル%未満であると、架橋に長時間を要するうえ、架橋剤との架橋反応で得られる化合物に充分な機械的強度、耐熱性、耐薬品性を与えられなくなる傾向があり、5モル%をこえると架橋物が硬く柔軟性がなくなる傾向がある。
【0049】
本発明の製造方法においては、シアノ基含有含フッ素エラストマーを製造するに際し、重合系のpHが3〜6の条件下にて乳化重合を行う。
【0050】
含フッ素オレフィンモノマーを含むモノマー混合物とシアノ基含有モノマーとを従来の重合条件で乳化重合すると、重合中に含フッ素オレフィンモノマー由来の酸が発生する。そのため、得られるシアノ基含有含フッ素エラストマーのシアノ基が酸の存在により副反応を起こし、エラストマーをゲル化させる原因となる。本発明は、重合系のpHを調整することにより、こうした副反応を抑制することができ、その結果、ゲル化を抑制することができる。
【0051】
重合系のpHは、ゲル化の抑制作用が良好であるという点から3以上であり、3.5以上が好ましく、4以上がより好ましい。また、重合系のpHは、シアノ基が分解しないという観点から6以下であり、5.5以下が好ましく、5以下がより好ましい。
【0052】
前記のpHを前記の条件下にする方法としては、重合系にpH調整剤を加える方法があげられる。
【0053】
pH調整剤の具体例としては、リン酸塩、炭酸塩、ホウ酸塩などの緩衝能を有する電解質物質、あるいはフッ化ナトリウム、フッ化カリウム、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、活性炭、ポーラスシリカ、フッ化アンモニウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化アンモニウムがあげられる。これらの中で、pH調整の容易性が好ましいという観点から、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化アンモニウムが好ましい。
【0054】
さらに、前記pH調整剤とは別に、pH緩衝剤を配合してもよい。pH緩衝剤の具体例としては、リン酸水素二ナトリウム、リン酸水素カリウム、クエン酸カリウム、クエン酸二水素カリウムなどがあげられる。
【0055】
前記の方法において、重合の開始から終了まで前記のpHに維持することが好ましい。
【0056】
本発明の含フッ素オレフィンモノマー混合物とシアノ基含有モノマーとを乳化重合してシアノ基含有含フッ素エラストマーを製造する方法は、重合中のpHを3〜6の範囲に制御すること以外は、常法により製造することができる。重合時の温度、時間などの重合条件としては、モノマーの種類や目的とするエラストマーにより適宜決定すればよい。乳化剤、分子量調整剤などを添加してもよい。分子量調整剤は、初期に一括して添加してもよいし、連続的または分割して添加してもよい。
【0057】
乳化重合に使用される乳化剤としては、広範囲なものが使用可能であるが、重合中におこる乳化剤分子への連鎖移動反応を抑制する観点から、フルオロカーボン鎖または、フルオロポリエーテル鎖を有するカルボン酸の塩類が望ましい。また、反応性乳化剤の使用が望ましい。
【0058】
重合開始剤としては、好ましくはカルボキシル基またはカルボキシル基を生成し得る基(たとえば、酸フルオライド、酸クロライド、CF2OHなどがあげられる。これらはいずれも水の存在下にカルボキシル基を生ずる)をエラストマー末端に存在させ得るものが好ましい。具体例としては、たとえば過硫酸アンモニウム(APS)、過硫酸カリウム(KPS)などがあげられる。
【0059】
分子量調整剤としては、たとえばマロン酸ジメチル、マロン酸ジエチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、コハク酸ジメチルなどのエステル類;イソペンタン、イソプロパノール、アセトン、各種のメルカプタン、四塩化炭素、シクロヘキサン、モノヨードメタン、1−ヨードメタン、1−ヨード−n−プロパン、ヨウ化イソプロピル、ジヨードメタン、1,2−ジヨードエタン、1,3−ジヨード−n−プロパンなどがあげられる。
【0060】
また、一般式(38)〜(46):
I(CF2CF2nI (38)
ICH2CF2CF2(OCF(CF3)CF2mOCF(CF3)−X5 (39)
ICH2CF2CF2(OCH2CF2CF2mOCH2CF2−X5 (40)
I(CF2n5 (41)
I(CH2CF2n5 (42)
ICF2CF2OCF2CF(CF3)OCF2CF2−X5 (43)
ICH2CF2CF2OCH2CF2−X5 (44)
ICF2CF2OCF2CF2−X5 (45)
ICF2CF2O(CF2nOCF2CF2−X5 (46)
(式中、X5は、シアノ基(−CN基)、カルボキシル基(−COOH基)、アルコキシカルボニル基(−COOR9基、R9は炭素数1〜10のフッ素原子を含んでいてもよいアルキル基)、mは0〜5の整数であり、nは1以上の整数である)で示される化合物などを用いることができる。これらの中でも、ヨウ素原子以外の架橋部位を有する点から、一般式(39)〜(46)で示される分子量調整剤が好ましい。また、得られる架橋物の圧縮永久歪みが良好な点からは、一般式(39)〜(46)で示される分子量調整剤のなかでも、X5としてシアノ基(−CN基)を有するものを用いることが好ましい。
【0061】
重合反応混合物から重合生成物を単離する方法としては、金属塩を添加して凝析させる方法が、得られるエラストマーの耐熱性が高くなる点から好ましい。金属塩としては、中性塩が好ましく、たとえば塩化マグネシウム、塩化カルシウム、塩化ナトリウム、硫酸マグネシウム、硫酸バリウムなどがあげられる。
【0062】
また、酸処理や凍結乾燥により凝析する方法も採用でき、これらの方法によれば、工程を簡略化できる。さらに、重合反応混合物を酸処理し、その後凍結乾燥などの手段で重合生成物を単離してもよい。またさらに超音波などによる凝析や機械力による凝析などの方法も採用できる。
【0063】
また、ヨウ素や臭素を含有する架橋性エラストマーを発煙硝酸により酸化してカルボキシル基を導入することもできる。
【0064】
さらに、共重合法以外のシアノ基の導入方法としては、国際公開第00/05959号パンフレットに記載の方法も用いることができる。
【0065】
本発明はまた、本発明の製造方法により得られるシアノ基含有含フッ素エラストマーにも関する。
【0066】
本発明の製造方法において重合中にシアノ基の副反応が抑えられているため、本発明のシアノ基含有含フッ素エラストマーのゲル分含有量は10重量%以下と少ない。エラストマーの加工性が良好であるという点から、ゲル含有量は少ない方が好ましく、5重量%以下がより好ましく、1重量%であることがさらに好ましい。
【0067】
また本発明のシアノ基含有含フッ素エラストマーは、押出形状の維持が容易であり、耐熱性が低下しないという点から、ムーニー粘度(ML1+10(121℃))が5以上であることが好ましく、10以上がより好ましく、20以上がさらに好ましい。また、ムーニー粘度(ML1+10(121℃))の上限は、押出成形時の圧力が高くならず、押出速度が遅くならない点から、100以下が好ましく、90以下がより好ましく、80以下がさらに好ましい。
【0068】
本発明のシアノ基含有含フッ素エラストマーは、架橋可能な含フッ素エラストマー組成物として有用である。組成物の他の成分としては、必要に応じて含フッ素エラストマー組成物に配合される通常の添加物、たとえば架橋助剤、架橋促進剤、充填材、加工助剤、可塑剤、着色剤、安定剤、接着助剤などを配合することができる。
【0069】
架橋助剤としては、シアノ基を架橋点とする架橋系、たとえばトリアジン架橋系に用いる架橋助剤が好ましく使用できる。そうした架橋助剤としては、たとえばテトラフェニルスズ、アリルフェニルスズ、酸化銀、酸化亜鉛、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化スズなどが例示できる。
【0070】
また、公知のエラストマーの架橋方法、たとえば、ポリアミン架橋やポリオール架橋、パーオキサイド架橋の配合にビス(アミノフェノール)AFなどを添加して併用架橋することもできる。
【0071】
本発明のシアノ基含有含フッ素エラストマーは、さまざまな分野の各種成形品として有用であり、そのなかでもホース材料、特に輸送機(自動車等)の高温環境に曝されるエンジン周りのホース材料として有用である。たとえば、ターボチャージャーホース、インタークーラーなどがあげられる。
【0072】
自動車用途以外の用途として、好ましい分野は、半導体製造装置、液晶パネル製造装置、プラズマパネル製造装置、プラズマアドレス液晶パネル、フィールドエミッションディスプレイパネル、太陽電池基板等の半導体関連分野、航空機分野、ロケット分野、船舶分野、プラント等の化学品分野、医薬品等の薬品分野、現像機等の写真分野、印刷機械等の印刷分野、塗装設備等の塗装分野、食品プラント機器分野、原子力プラント機器分野、鉄板加工設備等の鉄鋼分野、一般工業分野、燃料電池分野、電子部品分野などをあげることができる。
【0073】
また、架橋性組成物を架橋して得られる架橋含フッ素エラストマー層と、非フッ素エラストマー組成物をから形成される非フッ素エラストマー層とが積層されたゴム積層体としてもよい。この積層体は、耐熱性、耐油性、耐寒性を兼ね備える積層体として、ホースとして有用である。
【実施例】
【0074】
つぎに本発明を実施例をあげて説明するが、本発明はかかる実施例のみに限定されるものではない。
【0075】
評価法
<組成分析>
19F−NMR(Bruker製AC300P型)により測定する。
<赤外分光分析>
赤外分光分析器(Perkin Elmer製1760型)を用いて測定する。
<ムーニー粘度>
ASTM−D1646およびJIS K6300に準拠して測定する。
測定機器:ALPHA TECHNOLOGIES社製 MV2000E型
ローター回転数:2rpm
測定温度:121℃
<ゲル含有量>
エラストマー約0.3gをアセトン30gに浸漬し一晩静置後、吸引ろ過によってアセトンとベースポリマーの溶解部分を取り除き、不溶部分(ゲル部分)を取り出す。このゲル部分を60℃で2時間真空乾燥してアセトンを蒸発させ、ゲル部分の重量を測る。エラストマー全体の重量に対するゲル部分の重量割合をゲル含有量とする。
<圧縮永久歪み>
JIS K6301に準拠し、O−リング(AS−568A−214)の260℃、70時間後の圧縮永久歪みを測定する。
【0076】
実施例1(シアノ基含有含フッ素エラストマー1の合成)
着火源をもたない内容積6リットルのステンレススチール製オートクレーブに、純水を3.0リットルおよび乳化剤として、C511COONH4を6.0gおよびCH2=CFCF2OCF(CF3)CF2OCF(CF3)COONH4を0.15g、リン酸水素二ナトリウム3.5g、水酸化ナトリウム0.6gを仕込み、系内を窒素ガスで充分に置換し脱気したのち、600rpmで撹拌しながら、80℃に昇温し、VdF、TFE、HFPの混合ガス(VdF/TFE/HFP=19/11/70モル比)を、内圧が1.52MPa・Gになるように仕込んだ。ついで、1.8g/2mlの過硫酸アンモニウム(APS)水溶液、CF2=CFOCF2CF(CF3)OCF2CF2CN(CNVE)を1.8g窒素圧で圧入して反応を開始した(重合系内のpH=5.0)。
【0077】
重合の進行により内圧が1.48MPa・Gまで降下した時点で、マロン酸ジエチル0.2gを窒素圧にて圧入した。ついで圧力が1.52MPa・Gになるように、VdF、TFE、HFPの混合ガス(VdF/TFE/HFP=50/20/30モル比)を圧入した。以後、反応の進行にともないVdF、TFE、HFPの混合ガスを圧入し、1.48〜1.52MPa・Gの間で、昇圧、降圧を繰り返すと共に、CNVEを30g窒素圧で圧入した。この間のpHは、水酸化ナトリウム1.2gを加えることで4.2〜5.1の間に維持した。
【0078】
重合反応の開始から10時間後、VdF、TFE、HFPの合計仕込み量が1000gになった時点(pH=5.1)で、オートクレーブを冷却し、未反応モノマーを放出して固形分濃度25.5質量%の水性分散体3984gを得た。水性分散体のpHは5.1であった。
【0079】
この水性分散体のうち2000gを、硫酸マグネシウム水溶液2000g中に、撹拌しながらゆっくりと添加した。添加後1分間撹拌した後、凝析物を濾別し、この後水洗、濾別の操作をさらに3回繰り返し、メタノールで洗浄したのち、室温で48時間真空乾燥させ、499gのエラストマーを得た。
【0080】
分析の結果、このエラストマーのモノマー単位組成は、19F−NMRによる分析の結果、VdF/TFE/HFP/CNVE(=49.6/18.3/31.2/0.9モル%)であった。また赤外分光分析により測定したところ、ニトリル基の特性吸収が2169cm-1付近に認められた。また、このシアノ基含有含フッ素エラストマー(シアノ基含有含フッ素エラストマー1という)のゲル含有量は0.7質量%、ムーニー粘度(ML1+10(121℃))は67であった。
【0081】
得られたシアノ基含有含フッ素エラストマー1に、架橋剤として、2,2−ビス(3−アミノ−4−ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン(架橋剤OH−AF)と充填材であるサーマルブラック(MT−C、カンカーブ社製)とを重量比100/1.6/20で混合し、オープンロールにて混練して架橋可能な架橋性組成物を調製した。
【0082】
この架橋性組成物を180℃で30分間プレスして架橋を行ったのち、さらに200℃で2時間、260℃で5時間ついで290℃で18時間のオーブン架橋を施し、厚さ2mmの架橋物およびO−リング(AS−568A−214)の被験サンプルを作製した。この架橋物の圧縮永久歪み(260℃×70時間)について測定した。結果を表1に示す。
【0083】
比較例1(シアノ基含有含フッ素エラストマー2の合成)
着火源をもたない内容積6リットルのステンレススチール製オートクレーブに、純水3.0リットルおよび乳化剤として、C511COONH4を6.0gおよびCH2=CFCF2OCF(CF3)CF2OCF(CF3)COONH4を0.15g仕込み、系内を窒素ガスで充分に置換し脱気したのち、600rpmで撹拌しながら、80℃に昇温し、VdF、TFE、HFPの混合ガス(VdF/TFE/HFP=19/11/70モル比)を、内圧が1.52MPa・Gになるように仕込んだ。ついで、1.8g/2mlの過硫酸アンモニウム(APS)水溶液、CF2=CFOCF2CF(CF3)OCF2CF2CN(CNVE)を1.8g窒素圧で圧入して反応を開始した(重合系内のpH=3.5)。
【0084】
重合の進行により内圧が、1.48MPa・Gまで降下した時点で、マロン酸ジエチル0.2gを窒素圧にて圧入した。ついで圧力が1.52MPa・Gになるように、VdF、TFE、HFPの混合ガス(VdF/TFE/HFP=50/20/30モル比)を圧入した。以後、反応の進行にともないVdF、TFE、HFPの混合ガスを圧入し、1.48〜1.52MPa・Gの間で、昇圧、降圧を繰り返すと共に、CNVEを30g窒素圧で圧入した(この間、重合系のpHは2.6にまで低下した)。
【0085】
重合反応の開始から10時間後、VdF、TFE、HFPの合計仕込み量が1000gになった時点(pH=2.6)で、オートクレーブを冷却し、未反応モノマーを放出して固形分濃度25.3質量%の水性分散体4027gを得た。水性分散体のpHは2.6であった。
【0086】
この水性分散体のうち2000gを、硫酸アルミニウム水溶液2000g中に、撹拌しながらゆっくりと添加した。添加後1分間撹拌した後、凝析物を濾別し、この後水洗、濾別の操作をさらに3回繰り返したのち、70℃で48時間真空乾燥させ、500gのエラストマーを得た。
【0087】
分析の結果、このエラストマーのモノマー単位組成は、19F−NMRによる分析の結果、VdF/TFE/HFP/CNVE(=50.8/28.0/20.4/0.8モル%)であった。また赤外分光分析により測定したところ、ニトリル基の特性吸収が2169cm-1付近に認められた。また、このエラストマー(シアノ基含有含フッ素エラストマー2という)のゲル含有量は77質量%、ムーニー粘度(ML1+10(170℃))は、113であった。
【0088】
得られたシアノ基含有含フッ素エラストマー2に、架橋剤として、2,2−ビス(3−アミノ−4−ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン(架橋剤OH−AF)と充填材であるサーマルブラック(MT−C、カンカーブ社製)とを重量比100/1.4/20で混合し、オープンロールにて混練して架橋可能な架橋性組成物を調製した。
【0089】
この架橋性組成物を180℃で30分間プレスして架橋を行なったのち、さらに200℃で2時間、260℃で5時間ついで290℃で18時間のオーブン架橋を施し、厚さ2mmの架橋物およびO−リング(AS−568A−214)の被験サンプルを作製した。この架橋物の圧縮永久歪み(260℃×70時間)について測定した。結果を表1に示す。
【0090】
比較例2(カルボン酸基含有エラストマー3の合成)
着火源をもたない内容積6リットルのステンレススチール製オートクレーブに、純水3.0リットルおよび乳化剤として、C511COONH4を6.0gおよびCH2=CFCF2OCF(CF3)CF2OCF(CF3)COONH4を0.15g仕込み、系内を窒素ガスで充分に置換し脱気したのち、600rpmで撹拌しながら、80℃に昇温し、VdF、TFE、HFPの混合ガス(VdF/TFE/HFP=19/11/70モル比)を内圧が1.52MPa・Gになるように仕込んだ。ついで、4.35mg/mlの濃度の過硫酸アンモニウム(APS)水溶液4mlを窒素圧で圧入して反応を開始した(重合系内のpH=2.0)。
【0091】
重合の進行により内圧が、1.48MPa・Gまで降下した時点で、I(CF2CF22I 0.6gを窒素圧にて圧入した。ついで圧力が1.52MPa・Gになるように、VdF、TFE、HFPの混合ガス(VdF/TFE/HFP=50/20/30モル比)を圧入した。以後、反応の進行にともないVdF、TFE、HFPの混合ガスを圧入し、1.48〜1.52MPa・Gの間で、昇圧、降圧を繰り返すと共に、CF2=CFOCF2CF(CF3)OCF2CF2COOH(CBVE)を11.2g、窒素圧で圧入した(この間、重合系のpHは2.0にまで低下した)。
【0092】
重合反応の開始から8時間後、VdF、TFE、HFPの合計仕込み量が1000gになった時点(pH=1.9)で、オートクレーブを冷却し、未反応モノマーを放出して固形分濃度25.5質量%の水性分散体3922gを得た。
【0093】
この水性分散体のうち2000gを、塩酸水溶液2000g中に、撹拌しながらゆっくりと添加した。添加後1分間撹拌した後、凝析物を濾別し、この後水洗、濾別の操作をさらに3回繰り返したのち、70℃で48時間真空乾燥させ、505gのエラストマーを得た。
【0094】
このエラストマーのモノマー単位組成は、19F−NMRによる分析の結果、VdF/TFE/HFP/CBVE(=52.1/22.5/24.2/1.3モル%)であった。また赤外分光分析により測定したところ、カルボキシル基の特性吸収が1773cm-1付近に、OH基の特性吸収が3538cm-1および3090cm-1付近に認められた。また、このエラストマー(カルボン酸基含有含フッ素エラストマー3という)のゲル含有量は0質量%、ムーニー粘度(ML1+10(121℃))は65であった。
【0095】
得られたカルボン酸基含有含フッ素エラストマー3に、架橋剤として、2,2−ビス(3−アミノ−4−ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン(架橋剤OH−AF)と充填材であるサーマルブラック(MT−C、カンカーブ社製)とを重量比100/2.4/20で混合し、オープンロールにて混練して架橋可能な架橋性組成物を調製した。
【0096】
この架橋性組成物を180℃で30分間プレスして架橋を行なったのち、さらに200℃で2時間、260℃で5時間ついで290℃で18時間のオーブン架橋を施し、厚さ2mmの架橋物およびO−リング(AS−568A−214)の被験サンプルを作製した。この架橋物の圧縮永久歪み(260℃×70時間)について測定した。結果を表1に示す。
【0097】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
含フッ素オレフィンモノマーを含むモノマー混合物とシアノ基含有モノマーとを乳化重合して含フッ素エラストマーを製造するに際し、重合系のpHが3〜6の条件下にて乳化重合を行うことを特徴とするシアノ基含有含フッ素エラストマーの製造方法。
【請求項2】
シアノ基含有モノマーが、
式(1):
CY12=CY3(O)m(R1n−CN (1)
(式中、Y1〜Y3は、同じかまたは異なり、いずれも水素原子、ハロゲン原子、−CH3または−CF3;R1は2価の有機基;nは0または1;mは、nが0である場合は0、nが1である場合は0または1である)
で示される請求項1記載のシアノ基含有含フッ素エラストマーの製造方法。
【請求項3】
含フッ素オレフィンモノマーを含むモノマー混合物が、含フッ素オレフィンモノマーとしてフッ化ビニリデン、ヘキサフルオロプロピレン、テトラフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレンおよびパーフルオロアルキルビニルエーテルよりなる群から選ばれる少なくとも2種の含フッ素オレフィンモノマーを含む混合物である請求項1または2記載のシアノ基含有含フッ素エラストマーの製造方法。
【請求項4】
含フッ素オレフィンモノマーを含むモノマー混合物が、フッ化ビニリデンと、ヘキサフルオロプロピレン、テトラフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレンおよびパーフルオロアルキルビニルエーテルよりなる群から選ばれる少なくとも1種の含フッ素オレフィンモノマーを含む混合物である請求項3記載のシアノ基含有含フッ素エラストマーの製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の製造方法により得られるシアノ基含有含フッ素エラストマー。
【請求項6】
ゲル分含有量が0〜10重量%でムーニー粘度(ML1+10(121℃))が20〜100である請求項5記載のシアノ基含有含フッ素エラストマー。

【公開番号】特開2009−185233(P2009−185233A)
【公開日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−28596(P2008−28596)
【出願日】平成20年2月8日(2008.2.8)
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)
【Fターム(参考)】