説明

シュウ酸類の電気化学的酸化反応用触媒

【課題】シュウ酸センサ、燃料電池のアノード触媒、排水有機物電解処理装置等における使用に適した、シュウ酸、その塩類などのシュウ酸類の電気化学的酸化反応に有効な新規な触媒を提供する。
【解決手段】下記化学式:


で表されるロジウムフタロシアニン化合物を有効成分とするシュウ酸類の電気化学的酸化反応用触媒。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シュウ酸類の電気化学的酸化反応用触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
シュウ酸またはその塩類の定量は臨床化学の分野において重要である。例えば、血中または尿中のシュウ酸の定量は尿路結石の診断あるいは先天性代謝異常の判定等に利用可能であり、糞便中のシュウ酸の定量は消化器系の異常機能を診断するための分析法として利用可能である。また、シュウ酸は有毒であるために食品衛生法においては、食品中の許容量が定められている。このため、規定量を超えたシュウ酸を含有する有害食品の検出のためにシュウ酸の簡易な定量法の確立が望まれている。またシュウ酸は水に対する溶解度が低いので、ビールなどにおいて原料由来のシュウ酸が析出沈殿してビールの商品価値を低下させることがあり、その防止策を立てるためにもシュウ酸の定量の重要性が認められてきている。
【0003】
このような背景から様々なシュウ酸の定量法が開発されている。例えば、シュウ酸又はその塩類に第2鉄イオン溶液を反応させ、得られた溶液について特定波長の光の吸光度を測定する方法(特許文献1参照)、金属銀の表面に特定の方法でシュウ酸銀皮膜を析出させて得られたシュウ酸イオン選択性電極をシュウ酸イオンセンサとして用いる方法(特許文献2参照)等が報告されている。しかしながら、これらの方法は、測定法或いは電極の調製法が煩雑であり、簡便な電気化学センサの開発が求められている。
【0004】
また、電気化学的反応によって廃水処理を行う方法が注目されているが、シュウ酸は電気化学的酸化反応に対しては難分解性であり、通常の電気化学的廃水処理法では、シュウ酸が蓄積するという問題点がある。シュウ酸などの排水中の難分解性有機物の電気化学的分解法としては、該有機化合物を含有する水溶液に、塩化物、硫酸マンガン等の電解質塩を添加して電気分解する方法が報告されている(特許文献3参照)。しかしながら、この方法は、新たに電解質を加えるために廃水処理法としては望ましくなく、活用する電力も依然大きいという問題点がある。このため、この分野においても、電気化学的に分解しにくいシュウ酸を電極酸化できる触媒の開発が求められている。
【0005】
シュウ酸の電気化学的酸化用触媒としては、金属ポルフィリンを有効成分とする触媒が知られている(特許文献4参照)。この触媒を用いることにより、シュウ酸を低い過電圧で効率良く酸化させることが可能となるが、センサにおける選択性の向上、電気化学的廃水処理における当入電力の低下などの観点から、より優れた性能を有するシュウ酸の電気化学的酸化反応用触媒が望まれている。
【特許文献1】特開昭54-155093号公報
【特許文献2】特公平3-267395号公報
【特許文献3】特公平5-261374号公報
【特許文献4】特開2007-75734号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記した様な従来技術の現状に鑑みてなされたものであり、その主な目的は、シュウ酸センサ、燃料電池のアノード触媒、排水有機物電解処理装置等における使用に適した、シュウ酸、その塩類などのシュウ酸類の電気化学的酸化反応に有効な新規な触媒を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記した目的を達成すべく鋭意研究を重ねてきた。その結果、特定のロジウムフタロシアニン化合物が、従来知られているシュウ酸類の電気化学的酸化用触媒と比較して、非常に高い触媒活性を有し、これまでにない低い過電圧で効率よくシュウ酸又はその塩類を電気化学的に酸化できることを見出し、ここに本発明を完成するに至った。
【0008】
即ち、本発明は、下記のシュウ酸類の電気化学的酸化反応用触媒及びその用途を提供するものである。
1. 下記化学式:
【0009】
【化1】

【0010】
(式中、R〜R16は、同一又は異なって、それぞれ、水素原子、アルキル基、アルコキシル基、ハロゲン原子又はスルホン酸基を示すか、或いは、RとR、RとR、R10とR11、R14とR15の各組み合わせの少なくとも一組は互いに結合して、これらの各基が結合する炭素原子と共に、置換基を有することのある芳香族環を形成してもよい。)で表されるロジウムフタロシアニン化合物を有効成分とするシュウ酸類の電気化学的酸化反応用触媒。
2. 上記ロジウムフタロシアニン化合物が導電性担体に担持されたものである上記項1に記載のシュウ酸類の電気化学的酸化反応用触媒。
3. 導電性担体がカーボンブラックである上記項2に記載の触媒。
4. 上記項1〜3のいずれかに記載の触媒を検出部における酸化用触媒成分として含むシュウ酸類の検出用センサ。
5. 上記項1〜3のいずれかに記載の触媒をアノード触媒として含む、シュウ酸類を燃料とする固体高分子形燃料電池用アノード極。
6. 上記項1〜3のいずれかに記載の触媒、及びアノード触媒物質を含むエチレングリコールを燃料とする固体高分子形燃料電池用アノード極。
7. 電解槽、作用極、対極および電源装置を含む電解処理装置であって、上記項1〜3のいずれかに記載の触媒を作用極におけるシュウ酸類の酸化用触媒として含むことを特徴とする、水溶液中のシュウ酸類の電解処理装置。
【0011】
以下、本発明のシュウ酸類の電気化学的酸化反応用触媒について具体的に説明する。
(1)本発明触媒
本発明のシュウ酸類の電気化学的酸化反応用触媒は、下記化学式:
【0012】
【化2】

【0013】
で表されるロジウムフタロシアニン化合物を有効成分とするものである。
【0014】
上記化学式において、R〜R16は、同一又は異なって、それぞれ、水素原子、アル
キル基、アルコキシル基、ハロゲン原子又はスルホン酸基を示す。更に、これらの内で、RとR、RとR、R10とR11、R14とR15の各組み合わせの少なくとも一組は互いに結合して、これらの各基が結合する炭素原子と共に、置換基を有することのある芳香族環を形成してもよい。
【0015】
これらの内で、アルキル基としては、メチル、エチル、イソプロピル、n−プロピル、t−ブチル、sec−ブチル、n−ブチル、イソブチル、n−ペンチルなどの炭素数1〜5程度の直鎖状又は分岐鎖状の低級アルキル基が好ましい。アルコキシル基としては、例えば、メトキシ、エトキシ、n−プロポキシ、イソプロポキシ、n−ブトキシ、tert−ブトキシ、n−ペンチルオキシ、n−ヘキシルオキシ基等の炭素数1〜6の直鎖又は分枝鎖状アルコキシル基が好ましい。また、ハロゲン原子としては、フッ素、塩素、臭素などが好ましい。
【0016】
上記化学式で表されるロジウムフタロシアニン化合物の内で、例えば、R〜R16が全て水素原子である化合物は、シュウ酸類の電気化学的酸化反応に対して高い活性を有するものである。
【0017】
また、RとR、RとR、R10とR11、R14とR15の各組み合わせが互いに結合して、これらの各基が結合する炭素原子と共に、置換基を有することのある芳香族環を形成した化合物として、下記化学式
【0018】
【化3】

【0019】
で表される化合物を例示できる。上記化学式において、R17〜R32は、同一又は異なって、それぞれ、水素原子、アルキル基、アルコキシル基、ハロゲン原子又はスルホン酸基を示す。これらの各基の具体例は、R〜R16と同様である。
【0020】
本発明の触媒における有効成分である上記化学式で表されるロジウムフタロシアニン化合物は、シュウ酸、シュウ酸カリウム、シュウ酸ナトリウム、シュウ酸カルシウム等の水溶性シュウ酸塩等のシュウ酸類の電気化学的酸化反応用の触媒として、優れた活性を有するものである。
【0021】
シュウ酸の電気化学的酸化反応は、下記反応式:
COOH-COOH → 2 H+ + 2 CO2+ 2 e-
で表されるものであり、上記したロジウムフタロシアニン化合物の存在下にシュウ酸類を電気化学的に酸化することによって、低い過電圧で効率よくシュウ酸類を酸化することが可能となる。
【0022】
上記したロジウムフタロシアニン化合物は、例えば、目的とするロジウムフタロシアニン化合物の配位子となる化合物とロジウム化合物を溶媒中に溶解し、加熱することによって製造することができる。ロジウム化合物としては、例えば、一価のロジウム金属が含まれるロジウム錯体を用いることができる。溶媒としては、上記した配位子となる化合物とロジウム化合物を溶解できる溶媒を用いればよく、例えば、ジメチルホルムアミドなどを用いることができる。加熱温度については、例えば、使用する溶媒の還流温度とすればよい。
【0023】
上記したロジウムフタロシアニン化合物は、導電性担体に担持させることにより、シュウ酸類の電気化学的酸化反応に対して高い触媒活性を有するものとすることができる。
【0024】
導電性担体としては、特に限定はなく、例えば、従来から固体高分子形燃料電池用の触媒担体として用いられている各種の担体を用いることができる。この様な担体の具体例としては、カーボンブラック、活性炭、黒鉛等の炭素質材料を挙げることができる。これらの内で、カーボンブラックは、導電性に優れ、比表面積も大きいために、導電性担体として特に好ましい物質である。
【0025】
導電性担体の形状などについては特に限定はないが、例えば、平均粒径が0.1〜100μm程度、好ましくは1〜10μm程度のものを用いることができる。また、カーボンブラックを用いる場合には、例えば、BET法による比表面積が100〜800m/g程度の範囲内にあるものが好ましく、200〜300 m/g程度の範囲内にあるもの
がより好ましい。この様なカーボンブラックの具体例としては、Vulcan XC-72R(Cabot社製)の商標名で市販されているものを用いることができる。
【0026】
導電性担体に担持させる方法としては、例えば、溶解乾燥法、気相法などの公知の方法を適用できる。
【0027】
例えば、溶解乾燥法では、該ロジウムフタロシアニン化合物を有機溶媒に溶解させ、この溶液に導電性担体を加えて、例えば、数時間撹拌して、該担体にロジウムフタロシアニン化合物を吸着させた後、有機溶媒を乾燥させればよい。また、有機溶媒中にロジウムフタロシアニン化合物が多量に含まれる場合には、平衡に達するまでロジウムフタロシアニン化合物を導電性担体に吸着させた後、濾過することによって、導電性担体に吸着していないロジウムフタロシアニン化合物を除去して、該担体と相互作用しているロジウムフタロシアニン化合物のみを該担体の表面に残すことができる。
【0028】
この方法では、有機溶媒としては、ロジウムフタロシアニン化合物を溶解できるものであれば、特に限定なく使用できる。例えば、ジクロロメタン、クロロホルム等の塩素系炭化水素を好適に用いることができる。
【0029】
濾過によって得られた分散物を、さらに有機溶媒を用いて洗浄液が透明になるまで洗浄すれば、導電性担体との相互作用の弱いロジウムフタロシアニン化合物を洗い流すことができ、導電性担体に強固に吸着しているロジウムフタロシアニン化合物のみを含む高活性な触媒を得ることができる。
【0030】
気相法で担持させる場合には、例えば、プラズマ蒸着法、CVD法、加熱蒸着法などを公知の方法を採用できる。
【0031】
導電性担体上に担持させるロジウムフタロシアニン化合物の量については、特に限定はないが、例えば、導電性担体1gに対して、ロジウムフタロシアニン化合物を10μmol〜150μmol程度担持させることが好ましく、20μmol〜50μmol程度担持させることがより好ましい。
【0032】
上記したロジウムフタロシアニン化合物を有効成分とする本発明のシュウ酸類の電気化学的酸化反応用触媒は、該触媒にシュウ酸類が接触した状態において、所定の電位とすることによって、シュウ酸類を選択性よく電気化学的に酸化させることができる。この場合の具体的な電位については、使用するロジウムフタロシアニン化合物の種類や溶液の状態によって異なるので一概に規定できないが、例えば、0.1M H2SO4水溶液中で25℃で測定した電位(AgCl/KCl(飽和)電極基準)として、0.3 V〜0.8 V程度とすることが好ましく、0.4 V〜0.6 V程度とすることがより好ましい。
【0033】
(2)本発明触媒の用途:
本発明のシュウ酸類の電気化学的酸化反応用触媒は、上記した所定範囲の電位に保持することによって、低い過電圧で効率よくシュウ酸類の電解化学的酸化反応を進行させることができる。この様な性質を利用して以下に示す各種の用途に用いることができる。
【0034】
(i)シュウ酸センサ
導電体上に本発明の触媒を固定した電極を電気化学的にシュウ酸類の濃度を測定するためのシュウ酸センサとして用いることができる。
【0035】
シュウ酸センサの具体的な構造については、本発明の触媒を用いること以外は、一般的な電流測定型(アンペロメトリック)センサと同様の構造とすればよい。例えば、各種金属、炭素(グラッシーカーボン電極など)などの導電体上に、ナフィオン(商標名)等の導電性を有するバインダを用いて本発明の触媒を固定することによって、シュウ酸類の測定用電極とすることができる。この様にして作製された電極を作用電極として用い、対極を用いた二電極系、又は対極と参照極を用いた三電極系において、印加電圧を一定に固定して電流値を測定することによって、シュウ酸類の濃度を測定することができる。この場合、対極、参照極などとしては、一般的な電気化学的測定に用いられているものを利用することができる。
【0036】
測定対象については特に限定はなく、例えば、食品中・血液中・尿中・糞便中等の各種の媒体中に含まれるシュウ酸類を定量することができる。特に、本発明のシュウ酸センサは、水溶液中のシュウ酸類の濃度測定に適したものであり、酸性〜アルカリ性(pH0〜14)の広いpH範囲の水溶液中のシュウ酸類の濃度を測定することができる。
【0037】
具体的な測定方法として、センサに印加する電位を所定の電位に保持することにより、
シュウ酸類の存在量に応じて酸化電流が変化するので、この測定結果に基づいてシュウ酸類の濃度を定量すればよい。印加電圧は、十分なシュウ酸酸化電流が流れ、水や錯体が分解されない電圧とすればよい。具体的な電圧は、pHによって異なるが、例えば、0.1 M H2SO4中では0.3 V〜0.8 V(Ag/AgCl/KCl(飽和)基準)程度とすればよい。測定時の液温は、例えば、10℃〜80℃程度とすればよい。
【0038】
(ii)固体高分子形燃料電池のアノード触媒
本発明の触媒は、シュウ酸、シュウ酸塩等のシュウ酸類を燃料として用いる固体高分子形燃料電池のアノード触媒として用いることができる。
【0039】
アノード触媒として使用する場合には、本発明触媒をアノード触媒物質として用いること以外は、アノード極の構造、及びこのアノード極を用いる固体高分子形燃料電池の構造については、特に限定はなく、公知の燃料電池、例えば、水素を燃料とする燃料電池やダイレクトメタノール形燃料電池と同様とすればよい。即ち、高分子電解質膜、電極触媒、膜−電極接合体、セル構造等については、公知の固体高分子形燃料電池と同様とすればよい。
【0040】
例えば、カソード極の触媒金属としては、従来から知られている種々の金属、金属合金などを使用することができる。具体例としては、白金、パラジウム、イリジウム、ロジウム、ルテニウム、白金−ルテニウムをはじめとする各種金属触媒、またはこれらの触媒微粒子をカーボンなどの担体上に分散させた担持触媒などが挙げられる。
【0041】
高分子電解質膜としては、パーフルオロカーボン系、スチレン−ジビニルベンゼン共重合体系、ポリベンズイミダゾール系をはじめとする各種イオン交換樹脂膜、無機高分子イオン交換膜、有機−無機複合体高分子イオン交換膜等を使用することができる。
【0042】
固体高分子電解質膜と電極触媒との接合体は、公知の方法により作製することができる。例えば、触媒粉末と電解質溶液とを混合して作製した触媒インクを薄膜化させた後、電解質膜上にホットプレスする方法、あるいは直接高分子膜上に塗布・乾燥する方法などが適用される。
【0043】
得られた膜−電極接合体の両面をカーボンペーパー、カーボンクロスなどの集電体で挟んでセルに組み込むことによって、燃料電池セルを作製することができる。
【0044】
本発明の触媒をアノード触媒とする燃料電池では、シュウ酸、シュウ酸塩等のシュウ酸類を燃料としてアノードに供給し、カソード側には、空気又は酸素を供給又は自然拡散させればよい。
【0045】
本発明の燃料電池の作動温度は、使用する電解質膜によって異なるが、通常0℃〜100℃ 程度であり、好ましくは10℃〜80℃ 程度である。
【0046】
(iii)エチレングリコール形燃料電池用助触媒
本発明の触媒は、エチレングリコールを燃料として直接供給する固体高分子形燃料電池において、アノード触媒物質と組み合わせて用いることによって、エチレングリコールを燃料とする場合のアノード反応による生成物であるシュウ酸を酸化することができる。これにより、エチレングリコール形燃料電池の反応効率を向上させることができる。
【0047】
アノード極におけるアノード触媒物質としては、例えば、白金等の公知の触媒を用いることができる。本発明のシュウ酸類の電気化学的酸化反応用触媒とアノード触媒物質の割合は、特に限定的ではないが、例えば、前者100重量部に対して、後者50〜500重
量部程度の範囲から適宜決めればよい。エチレングリコールの電気化学的酸化用触媒とアノード触媒物質は、それぞれ、別個の導電性担体に担持させて用いても良く、或いは、同一の担体に担持させても良い。同一の担体に担持させる場合には、例えば、白金等の触媒物質を担持させた担体上に、更に、上記した各種の方法でロジウムフタロシアニン化合物を担持させる方法、ロジウムフタロシアニン化合物を担持させた担体上に、更に、白金などの触媒物質を担持させる方法などを適用できる。
【0048】
アノード極の構造、及びこのアノード極を用いる固体高分子形燃料電池の構造については、特に限定はなく、公知の燃料電池と同様とすればよい。
【0049】
(iv)シュウ酸類の電解処理装置における酸化用触媒
本発明の触媒は、排水などの水溶液中に含まれるシュウ酸類を電気化学的酸化反応によって分解するための電解処理装置における酸化用触媒として使用することができる。この電解処理装置は、酸化用触媒として、本発明の触媒を用いること以外は、通常の各種の電解装置と同様の構造とすることができる。例えば、電解槽、作用極、対極、電源装置などを含む電解装置とすればよい。
【0050】
この様な構造の電解装置において、本発明の触媒は、作用極におけるシュウ酸類の酸化用触媒として用いればよい。作用極では、炭素電極等の導電体を基材として用い、導電性を有するバインダにより本発明の触媒を該基材に固定すればよい。対極については特に限定はなく、通常の電解装置で用いられる各種電極を使用できる。例えば、炭素電極などを用いることができる。電源装置としては、例えば、所定の電位走査が可能な定電圧電源(ポテンシオスタット)などを用いることができる。更に、作用極を所定の電位に設定するために、通常、電解質溶液中に参照電極を設置する。参照電極としても、通常の電解装置において用いられている各種の電極を用いることができる。例えば、銀/塩化銀電極などを用いることができる。
【0051】
この様な構成の電解装置を用いて、上記した条件に従って作用極を所定の電位に保持することによって、難分解性有機物であるシュウ酸類を効率よく分解することができる。
【発明の効果】
【0052】
本発明のシュウ酸類の電気化学的酸化反応用触媒は、シュウ酸類の電気化学的酸化反応に対して非常に高い活性を有する触媒である。よって、本発明の触媒を用いることによって、シュウ酸類を低い過電圧で効率よく酸化させることができる。
【0053】
このため、本発明の触媒は、例えば、シュウ酸センサのシュウ酸検知用触媒、シュウ酸類を燃料とする燃料電池のアノード触媒、エチレングリコールを燃料とする燃料電池のアノード用助触媒、シュウ酸類の電解処理装置における酸化用触媒などの各種の用途に有効に用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0054】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明する。
【0055】
製造例1
ロジウムフタロシアニンの製造
下記化学式
【0056】
【化4】

【0057】
で表される市販のフタロシアニンを30 mg採取し、100mLのジメチルホルムアミドに溶解させた。その後、この溶液にテトラカルボニルジ-μ-クロロ二ロジウム(I) ([Rh2Cl2(CO)4])を12.5 mg加え、130℃で5時間、加熱還流を行った。還流後の沈殿物をろ過によって取り除き、濾液の紫外・可視分光スペクトル(UV-visスペクトル)を測定した。図1に紫外・可視分光スペクトルの吸光度曲線を示す。
【0058】
図1において、曲線Aが原料として用いたフタロシアニンに対応し、曲線Bが目的物であるロジウムフタロシアニンに対応する分光曲線である。曲線Bのスペクトルの形状は、既に報告されているロジウムフタロシアニンのスペクトル(Keen et al., J. Inorg. Nucl. Chem. 27 (1965) 1311-1319)と一致した。これにより目的化合物の生成を確認した。目的化合物の生成はESI-MSによっても確認した。この還流後の溶液をロータリーエバポレーターで濃縮した。
【0059】
製造例2
ロジウムフタロシアニンテトラスルホン酸の製造
製造例1で用いたフタロシアニンに代えて、下記式
【0060】
【化5】

【0061】
で表されるフタロシアニンテトラスルホン酸を用い、それ以外は、製造例1と同様にして、ロジウムフタロシアニンテトラスルホン酸を作製した。図2に製造例1と同様にして採取した濾液の紫外・可視分光スペクトルの吸光度曲線を示す。図2において、曲線Aが原料として用いたフタロシアニンテトラスルホン酸に対応し、曲線Bが目的物であるロジウムフタロシアニンテトラスルホン酸に対応する分光曲線である。
【0062】
実施例1
ロジウムフタロシアニン担持カーボン触媒の作製
製造例1で得たロジウムフタロシアニンをジメチルホルムアミドに0.047 mMになるように溶解させた後、この溶液90 mLにカーボンブラック(比表面積250 m/g、商標名:Vulcan XC 72R、Cabot社製)を30 mg加えた。容器を密閉した後、超音波洗浄器に1分掛けることにより分散性をよくした。
【0063】
このカーボンブラックを懸濁させたロジウムフタロシアニン溶液を、マグネティックス
ターラーで30分攪拌したのち、ジメチルホルムアミドをロータリーエバポレーターで除去した。その後、残ったカーボンブラックを回収してロジウムフタロシアニン担持カーボン触媒を得た。
【0064】
触媒活性の評価
上記した方法で得たロジウムフタロシアニン担持カーボン触媒5 mgを0.5 mLの混合溶媒(水:エタノール = 1 : 1)に懸濁させた後、5 μLの5 % Nafion溶液(Aldrich製)を加えた。この懸濁液を5分間超音波洗浄器に掛けることで、よく分散させた後、グラッシーカーボン電極(表面積= 0.071 cm2)の上に2 μLのせて乾燥させた。
【0065】
触媒のシュウ酸酸化活性評価はエー・エル・エス製のポテンショスタット(ALS model 711B)を用いて行った。触媒を塗布したグラッシーカーボン電極を作用電極とし、白金電極を対極、Ag/AgCl/KCl(sat.)電極を参照電極として用いた。電解液としては0.1 M H2SO4を用いた。
【0066】
まず、シュウ酸のない条件でのロジウムフタロシアニンの電気化学的特性を調べるために、測定前に不活性ガス(窒素またはアルゴン)を電解液に10分間吹き込んだ後、サイクリックボルタンメトリー(CV)測定を開始した。測定中は不活性ガスを溶液の上部に連続的に吹き付けることで、酸素の混入を防ぐようにした。ロジウムフタロシアニン担持カーボンのCVを図3の曲線Aとして示す。尚、図3の右図は、低電流分の拡大図である。
【0067】
次に、ロジウムフタロシアニン担持カーボンのシュウ酸酸化触媒能を検討した。シュウ酸を10 mM加えた後、サイクリックボルタンメトリー(CV)測定を開始した。シュウ酸を
加えた条件では0.23 V (Ag/AgCl/KCl(飽和)基準)付近から酸化電流が上昇しはじめており、シュウ酸の酸化が低い過電圧で進行していることがわかる(図3の曲線B)。さらにシュウ酸を合計で90 mMになるように加えると、酸化電流は上昇し、濃度に応じた応答を示
すことが確認できた(曲線C)。さらに、シュウ酸濃度を0.5Mまで上昇させると、電極表
面積が0.071 cm2しかないにもかかわらず、4mAを越える高い電流値を示した(曲線D)。
【0068】
以上の結果から、ロジウムフタロシアニン担持カーボン触媒は、シュウ酸の電気化学的酸化反応に対して高い活性を有することが明らかである。
【0069】
実施例2
ロジウムフタロシアニンテトラスルホン酸担持カーボン触媒の作製
ロジウムフタロシアニンテトラスルホン酸をジメチルホルムアミドに0.15 mMになるよ
うに溶解させた後、この溶液20 mLにカーボンブラック(比表面積250 m/g、商標名
:Vulcan XC 72R、Cabot社製)を30 mg加えた。容器を密閉した後、超音波洗浄器に1分
掛けることにより分散性をよくした。
【0070】
このカーボンブラックを懸濁させた溶液を、マグネティックスターラーで30分攪拌したのち、ジメチルホルムアミドをロータリーエバポレーターで除去した。その後、残ったカーボンブラックを回収してロジウムフタロシアニンテトラスルホン酸担持カーボン触媒を得た。
【0071】
触媒活性の評価
上記した方法で得たロジウムフタロシアニンテトラスルホン酸担持カーボン触媒5 mgを0.5 mLの混合溶媒(水:エタノール = 1 : 1)に懸濁させた後、5 μLの5 % Nafion溶液(Aldrich製)を加えた。この懸濁液を5分間超音波洗浄器に掛けることで、よく分散させた後、グラッシーカーボン電極(表面積= 0.071 cm2)の上に2 μLのせて乾燥させた。
【0072】
触媒のシュウ酸酸化活性評価はエー・エル・エス製のポテンショスタット(ALS model 711B)を用いて行った。上記触媒を塗布したグラッシーカーボン電極を作用電極とし、白金電極を対極、Ag/AgCl/KCl(sat.)電極を参照電極として用いた。電解液としては0.1 M H2SO4を用いた。
【0073】
まず、シュウ酸のない条件でのロジウムフタロシアニンテトラスルホン酸の電気化学的特性を調べるために、測定前に不活性ガス(窒素またはアルゴン)を電解液に10分間吹き込んだ後、サイクリックボルタンメトリー(CV)測定を開始した。測定中は不活性ガスを溶液の上部に連続的に吹き付けることで、酸素の混入を防ぐようにした。ロジウムフタロシアニンテトラスルホン酸担持カーボンのCVを図4の曲線Aとして示す。尚、図4の右図は、低電流分の拡大図である。
【0074】
次に、ロジウムフタロシアニンテトラスルホン酸のシュウ酸酸化触媒能を検討した。シュウ酸を10 mM加えたあと、サイクリックボルタンメトリー(CV)測定を開始した。シュ
ウ酸を加えた条件では0.33 V (Ag/AgCl/KCl(飽和)基準)付近から酸化電流が上昇しはじめており、シュウ酸の酸化が低い過電圧で進行していることがわかる(図4の曲線B)。さらにシュウ酸を0.5 Mになるように加えると、酸化電流は大きく上昇し、濃度に応じた応
答を示すことが確認できた(曲線C)。
【0075】
以上の結果から、ロジウムフタロシアニンテトラスルホン酸担持カーボン触媒は、シュウ酸の電気化学的酸化反応に対して高い活性を有することが明らかである。
【0076】
実施例3
シュウ酸センサの作製
実施例1と同様の方法でロジウムフタロシアニン担持カーボン触媒を塗布したグラッシーカーボン電極を作製した。この電極をシュウ酸センサ用作用電極として用い、白金電極を対極、Ag/AgCl/KCl(sat.)電極を参照電極として、以下の方法でシュウ酸濃度の測定を
行った。
【0077】
まず、シュウ酸を含まない0.1 MのH2SO4溶液に、上記した作用電極を浸漬し、ビー・エー・エス社製の回転電極装置により3600 rpmで回転させて、Ag/AgCl/KCl(sat.)電極を基
準として0.5 Vの電圧を印加して電流値を測定した。
【0078】
次いで、この溶液に対して、シュウ酸を段階的に添加して、シュウ酸濃度を260秒後に10μM、500秒後に100μM、800秒後に290μM、1060秒後に566μM、1500秒後に900μM、1800秒後に2.7mM、2130秒後に5.4mM、2445秒後に9mMとして、電流値を測定した。
【0079】
測定開始後の経過時間と、電流値との関係を図5のグラフに示す。また、図6は、シュウ酸濃度と電流値変化との関係を示すグラフである。図6の右図は、シュウ酸濃度1mMまでの範囲についての測定結果の拡大図である。
【0080】
図6から明らかなように、ロジウムフタロシアニン担持カーボン触媒を塗布したグラッシーカーボン電極を作用電極として一定電圧を印加することによって、シュウ酸濃度に対して電流値が線形の応答を示すことが判る。よって、ロジウムフタロシアニン担持カーボン触媒を用いた電極は、簡易な構造であって、シュウ酸濃度に対して良好な応答性を示すものであり、シュウ酸センサとして有用であることが確認できた。
【図面の簡単な説明】
【0081】
【図1】製造例1で得たロジウムフタロシアニンの紫外・可視分光スペクトル。
【図2】製造例2で得たロジウムフタロシアニンテトラスルホン酸の紫外・可視分光スペクトル。
【図3】ロジウムフタロシアニン担持カーボンについてのサイクリックボルタンメトリーの測定結果を示すグラフ。
【図4】ロジウムフタロシアニンテトラスルホン酸担持カーボンについてのサイクリックボルタンメトリーの測定結果を示すグラフ。
【図5】実施例3で測定した測定開始後の経過時間と電流との関係を示すグラフ。
【図6】実施例3で測定したシュウ酸濃度と電流値との関係を示すグラフ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記化学式:
【化1】

(式中、R〜R16は、同一又は異なって、それぞれ、水素原子、アルキル基、アルコキシル基、ハロゲン原子又はスルホン酸基を示すか、或いは、RとR、RとR、R10とR11、R14とR15の各組み合わせの少なくとも一組は互いに結合して、これらの各基が結合する炭素原子と共に、置換基を有することのある芳香族環を形成してもよい。)で表されるロジウムフタロシアニン化合物を有効成分とするシュウ酸類の電気化学的酸化反応用触媒。
【請求項2】
上記ロジウムフタロシアニン化合物が導電性担体に担持されたものである請求項1に記載のシュウ酸類の電気化学的酸化反応用触媒。
【請求項3】
導電性担体がカーボンブラックである請求項2に記載の触媒。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の触媒を検出部における酸化用触媒成分として含むシュウ酸類の検出用センサ。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれかに記載の触媒をアノード触媒として含む、シュウ酸類を燃料とする固体高分子形燃料電池用アノード極。
【請求項6】
請求項1〜3のいずれかに記載の触媒、及びアノード触媒物質を含むエチレングリコールを燃料とする固体高分子形燃料電池用アノード極。
【請求項7】
電解槽、作用極、対極および電源装置を含む電解処理装置であって、請求項1〜3のいずれかに記載の触媒を作用極におけるシュウ酸類の酸化用触媒として含むことを特徴とする、水溶液中のシュウ酸類の電解処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−125609(P2009−125609A)
【公開日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−299954(P2007−299954)
【出願日】平成19年11月20日(2007.11.20)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】