説明

ショックアブソーバ

【課題】シリンダとピストンロッドの減衰力を所望の大きさに設定できるショックアブソーバを提供する。
【解決手段】シリンダ1内に設けたピストン3に第1室7内の液圧作用により開弁して第1室7のオイルを第2室8に流入させる一方向弁としての第1バルブ部と、第2室8内の液圧作用により開弁して第2室8のオイルを第1室7に流入させる一方向弁としての第2バルブ部とをそれぞれ複数のボール弁により構成し、ボール弁は、ボール9、17およびコイルスプリング10、18とを収納する収納孔12、20と、該各ボールにより遮断される作動流体が流通する流路11、19と、をピストン3の軸方向に形成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等の車両に装備される懸架装置を構成するショックアブソーバに係り、シリンダ内のピストンに連結されたピストンロッドと該シリンダとの相対移動時に、該ピストンで区画された該シリンダ内の2室間に満たされた作動流体の流通を制御して衝撃吸収力を得るためのバルブ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車両に設けられた懸架装置(サスペンション)を構成するショックアブソーバは、車両の走行中に生じた懸架装置のスプリングによる周期振動を収束させる機能を有している。
【0003】
一般に、ショックアブソーバは、例えば作動流体が充填されているシリンダ内
のピストンをピストンロッドの一端部に取り付け、例えば該ピストンロッドの他端部を車体側に固定すると共に、前記シリンダを車輪側に固定する。そして、走行中に生じる車体と車輪との相対移動により、前記ピストンロッド(ピストン)と前記シリンダとが相対移動し、その際該ピストンにより区画された該シリンダ内の一方の区室内の作動流体が他方の区室に流通するのを制御(流通開始の圧力、流量)する一方向弁としての第1バルブ部と、逆に該他方の区室内の作動流体を該一方の区室内に流通するのを制御する一方向弁としての第2バルブ部とをそれぞれ前記ピストンに設けている。
【0004】
このような第1バルブ部と第2バルブ部とは同様に構成され、例えば弁体に板バネを用いて構成したものが提案されている。
【0005】
図4はこのような板バネを弁体としたバルブ部を備えたショックアブソーバの断面図、図5はそのバルブ機構を示す拡大断面図である。
【0006】
このショックアブソーバは、オイル等の作動流体で満たされたシリンダ101内をピストンロッド102の一端部に取付けられたピストン103により第1室106と第2室107とにより区画した構成としている。
【0007】
ピストン103には、外周部に厚み方向に沿って複数の第1流路110と第2流路113が中心軸に対して斜めに貫通形成され、第1流路110の孔端面は第2室107側が内径側で第1室106側が外径側に形成され、第2流路113はその逆に形成されている。そして、ピストン103の両面に板バネ108と111をそれぞれ複数枚積層して配置し、さらにその上にバネ押え板104と105をそれぞれ配置し、これらをピストンロッド102の一端部に形成されたねじ部102aに通し、ナット102bで固定して一体化している。
【0008】
板バネ108と板バネ111は、第1流路110と第2流路113の内径側の孔端面を塞ぐが外径側の孔端面まではカバーしておらず、第1流路110の外径側の孔端面は第1室106に直接臨み、第2流路113の外径側の孔端面は第2室に直接臨む。また、第1流路110と第2流路113の内径側の孔端面の周囲は溝部に形成されて弁座をなし、板バネ108により第1流路110を通って第1室106から第2室107へのオイルの流通は許容するがその逆は阻止する一方向弁(逆止弁)として機能する第1バルブ部109と、板バネ111により第2流路113を通って第2室107から第1室106へのオイルの流通は許容するがその逆は阻止する一方向弁(逆止弁)として機能する第2バルブ部112を形成している。すなわち、第1バルブ部109は、ピストン103がシリンダ101内に押し込まれるショックアブソーバの圧縮工程の際に開弁し、第2バルブ部112はピストン103がシリンダ101から引き出されるショックアブソーバの伸工程の際に開弁する。また、板バネ108および板バネ111には、ピストン103との接触面に僅かな段差をつけることにより、予備荷重(プリロード)がかかる構造になっている。加えて、第1室106と第2室107の間に、板バネを介さず液体を流通させるための細い通路であるオリフィス114も設けられている。
【0009】
ショックアブソーバに圧縮工程の相対的運動が作用すると、シリンダ101とピストンロッド102の速度差が小さい時には、第1室106と第2室107の圧力差が小さいため、板バネの予備荷重(プリロード)に達しないため、オイルはオリフィス114のみを通過する。シリンダ101とピストンロッド102の相対的な速度差が大きくなり、オイルがオリフィス114を通過した上で、さらに第1室106と第2室107の圧力差が大きくなり、板バネの予備荷重(プリロード)を越えると、板バネ108の先端部が該弁座シート面より離れ、第1流路110が開弁する。そして、図5中矢印1)で示すようにオイルが第1流路を流れる。このため、この第1バルブ部109の弁体の弁開度に応じて第1室106から第2室107に流入するオイルの流通量が制御され、ショックアブソーバの圧縮工程に伴うピストンの相対移動速度、即ち減衰力が制御される。また、ショックアブソーバに伸工程の相対的運動が作用すると、第2室107のオイル圧の上昇により、第2バルブ部112が第1バルブ部と同様の動作を行い、矢印2で示すようにオイルが流れ、ショックアブソーバの伸工程に伴う減衰力が制御される。
【0010】
このような板バネを用いた一方向バルブを備えたショックアブソーバでは、第1、第2のバルブ部109,112を構成する板バネの厚みや枚数、大きさなどを適宜選択することにより、装着した車両に適した減衰力を得ることができる。
【0011】
また、ショックアブソーバの減衰力を制御する一方向バルブとして、ボール弁を用いた構成が提案されている(特許文献1)。
【0012】
この特許文献1に記載のショックアブソーバに設けたボール弁は、ピストンロッドの先端軸部内に形成した一つの流通路内に弁体をなすボールを収容し、コイルスプリングによりこのボールを弁座シート面に押付けた構成としており、該弁座シート面に通じるオイル流入孔をピストンロッドに形成し、前記流通路に通じるオイル吐出孔をピストンロッドに形成している。
【特許文献1】特開平9‐287628号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
ショックアブソーバの減衰力を制御するために設けられた一方向バルブの構成として、上述の弁体として板バネを用いた構成にあっては、第1バルブ部および第2バルブ部をそれぞれ構成する複数の流路の端面にそれぞれ形成された弁座シート面に対し、弁体として共通の板バネが当接するようにしている。
【0014】
基本的に、板バネタイプのバルブは、弁座シート面の高さを内外で変えることにより、予備荷重を調整するが、その高さ差が極めて小さく、かつ性能に大きな影響を与えるため、加工や製作に手間がかかっていた。すなわち、板バネのバルブの場合、開放時の板バネ強度をある程度強いものにしておかないと、バネが永久変形してしまうため、ある程度以上の厚みや曲げ角を制限した板バネが必要とされる。そのため、バネ定数をある程度高く設定しなくてはならないが、それによって、1/100mm程度の弁座シート面のズレがあっただけで予備荷重は大きく変動し、開弁タイミングも大きくずれてしまう。そのため、量産時の性能誤差もある程度広い範囲で見込まなければならない。
【0015】
また、ショックアブソーバの減衰力の制御において、弁開度と相対移動速度との関係は、ピストンの相対移動速度の小さい領域で減衰力を細かく制御でき、複数の流路を一度に開弁せず、開弁するバルブを徐々に増やすようにできれば、第1室と第2室との間を流通するオイルの全体的な圧力制御をより一層細かく制御できるが、板バネのバネ定数および予備荷重は全ての流路に対して一定であるため、個々の弁座シート面に対して開弁のタイミングが同一となり細かな圧力制御ができないのが現状である。
【0016】
本発明は斯かる観点に鑑みなされたもので、ピストン内の個々の通路の開弁タイミング及び開弁抗力を任意に複数設定することが可能になることにより、細かな流量制御を可能とし、かつ量産時における個体差を減らすことにより、安定した高い性能のショックアブソーバを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明の目的を実現するショックアブソーバの第1の構成は、請求項1に記載のように、作動流体で満たされたシリンダと、ピストンロッドに固定され、前記シリンダ内を第1室と第2室に区画しながら移動するピストンと、前記第1室内の液圧作用により開弁して該第1室の作動流体を前記第2室に流入させる一方向弁としての第1バルブ部と、前記第2室内の液圧作用により開弁して該第2室の作動流体を前記第1室に流入させる一方向弁としての第2バルブ部と、を有するショックアブソーバにおいて、前記第1バルブ部と前記第2バルブ部の少なくともいずれか一方又は双方を複数の独立した独立開閉弁により構成し、前記独立開閉弁は、流路を遮断するバルブ(弁)と、前記バルブを閉弁方向に付勢する弾性体と、それらを収納する収納孔と、独立開閉弁により遮断される作動流体が流通する流路と、を前記ピストンの軸方向に形成したことを特徴とする。
【0018】
本発明の目的を実現するショックアブソーバの第2の構成は、請求項2に記載のように、上記の構成において、前記独立開閉弁は、前記弾性体に付勢された前記バルブが当接する弁座シート面を有する弁座を前記ピストンの端面に設け、該弁座を該ピストンと一体的に前記ピストンロッドの一端部にナットを用いた締結体により締結したことを特徴とする。
【0019】
本発明の目的を実現するショックアブソーバの第3の構成は、請求項3に記載のように、上記したいずれかの構成において、前記複数の弾性体は、同一のバネ定数あるいは複数の異なるバネ定数であることを特徴とする。
【0020】
本発明の目的を実現するショックアブソーバの第4の構成は、請求項4に記載のように、上記したいずれかの構成において、前記弾性体により前記バルブを付勢する予備荷重を、各弾性体毎に設定できることを特徴とする。
【0021】
本発明の目的を実現するショックアブソーバの第5の構成は、請求項5に記載のように、上記したいずれかの構成において、前記第1バルブ部と第2バルブ部のいずれか一方又は双方を構成する前記複数の独立開閉弁を、同一円周上に配置したことを特徴とする。
【0022】
本発明の目的を実現するショックアブソーバの第6の構成は、請求項6に記載のように、前記第1バルブ部と第2バルブ部のいずれか一方又は双方は、前記独立開閉弁と板バネ弁が前記ピストンの軸方向に直列に配置されて構成され、または、前記一方又は双方のバルブ部は前記独立開閉弁と前記板バネ弁とが並列して構成されたことを特徴とする。
【0023】
本発明の目的を実現するショックアブソーバの第7の構成は、請求項7に記載のように前記弾性体にコイルスプリングを用いたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、第1バルブ部と第2バルブ部の一方又は双方を複数のバルブで構成しているので、各バルブの開弁タイミングおよび開弁抗力を個々に設定することが可能となる。このため、第1室と第2室との間を移動する作動流体の流量を細かく制御してシリンダとピストンロッドとの相対的移動速度を調整でき、ショックアブソーバの減衰力を所望の強さに設定することが可能となる。
【0025】
また、既存の板バネのタイプより、開弁時の予備荷重(プリロード)の設定が正確にできる。そのため、量産時におけるプリロードの個体差を減らすことにより、安定した性能を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明を図面に示す実施例に基づいて説明する。なお、本実施例は自動車等の車両に装備される懸架装置を構成するショックアブソーバを例にしているが、懸架装置用に限定されるものではない。
【0027】
図1〜図3は本発明の実施例を示し、図1はショックアブソーバの縦断面図、図2は図1に示すピストン周辺の部分拡大図、図3は図2のL−L矢視図である。
【0028】
本実施例のショックアブソーバは、作動流体としてのオイルで満たされたシリンダ1内にピストン3を配置し、ピストンロッド2の一端部にこのピストン3を固定している。そして、例えばシリンダ1の奥側を車輪側に連結し、ピストンロッド2の他端側を車体側に連結するようにしてこのショックアブソーバは取付けられる。
【0029】
シリンダ1内は、ピストン3によりシリンダ1の奥側を第1室7、シリンダ1の開口側を第2室8とする2室に区画され、このピストン3にはシリンダ1とピストンロッド2とが相対的に移動する際に、第1室7と第2室8との間でのオイルの流通を制御する第1バルブ部V1と第2バルブ部V2とを一体的に設けている。
【0030】
本実施例において、第1バルブ部V1と第2バルブ部V2を、一方向弁として機能する複数のボール弁でそれぞれ構成している。第1バルブ部V1はシリンダ1とピストンロッド2との相対移動でショックアブソーバの全長が縮む方向に外力が加わった際に、ピストン3により加圧された第1室7内のオイルを第2室8に流通させ、第2バルブ部V2は、シリンダ1とピストンロッド2との相対移動でショックアブソーバの全長が伸びる方向に外力が加わった際に、ピストン3により加圧された第2室8内のオイルを第1室7に流通させる。
【0031】
本実施例において、第1バルブ部V1は複数の第1ボール弁で構成し、同様に第2バルブ部V2は複数の第2ボール弁で構成しており、これらバルブとしての第1ボール弁と第2ボール弁との構成を図2および図3に基づいて説明する。
【0032】
ピストン3には、中心から半径r1の円周上に、第1ボール弁を構成する第1ボール9を軸(ピストン)方向移動自在に収納する第1収納孔12が複数形成され、該半径r1よりも大きな半径r2の円周上に第2ボール弁を構成する第2ボール17を軸方向移動自在に収納する第2収納孔20が複数形成されている。
【0033】
また、各第1収納孔12から少し径方向外方に離れた位置にオイルが流通するための第1流路11が貫通形成され、同様に、第2収納孔20から少し径方向外方に離れた位置にオイルが流通するための第2流路19が貫通形成されている。
【0034】
第1室7側に面するピストン3の一端面3aには、第1流路11と第1収納孔12との間でオイルの流通が図られる凹形状の第1逃げ部15が平面視略円弧状に形成され、第2室8側に面するピストン3の他端面3bには、第2流路19と第1収納孔20との間でオイルの流通が図られる凹形状の第2逃げ部23が平面視略円弧状に形成されている。
【0035】
また、各ボール収納孔12、20の逃げ部15、23付近は、ピストン3の径方向外方が各ボール9、17の径よりも大きくなるように溝が形成されている。この溝は、後述するように各ボールが各シート面14、22に当接している状態において、ボールがコイルスプリングと接している位置よりもピストン3の軸方向中心側(第1収納孔12は第2室8側へ、第2収納孔20は第1室7側へ)の位置まで形成されている。
【0036】
ピストン3の一端面3a側には、第2収納孔20までの径方向外方位置をカバーする円盤状に形成された第1弁座4が配置され、ピストン3の他端面3b側には、第2流路19および第1逃げ部23までの径方向外方位置をカバーする円盤状に形成された第2弁座5が配置されている。
【0037】
第1弁座4よりも径方向外方に位置する第2流路19はピストン3の一端面3a側における開口端が第1室7に臨み、各第2収納孔20はピストン3の一端面3a側において閉塞され、有底の第2収納孔20を形成する。また、第1弁座4には、各第1収納孔12に正対して第1流入孔13がそれぞれ形成され、第1弁座4の内側(ピストン3の一端面3aと対向する側)には、この第1流入孔13の内周縁に第1弁座シート面14を形成している。そして、第1収納孔12に収納されている第1ボール9が第1弁座シート面14に当接することで、第1流入孔13と第1逃げ部15との流通を遮断している。
【0038】
第1収納孔12はピストン3の他端面3b側において第2弁座5により閉塞されて有底の第1収納孔12を形成しており、各第1収納孔12に配置された第1コイルスプリング10のバネ力により第1ボール9を第1弁座シート面14に当接させて一方向弁である第1ボール弁を構成している。
【0039】
また、第2弁座5には、各第2収納孔20に正対して第2流入孔21がそれぞれ形成され、第2弁座5の内側(ピストン3の他端面3bと対向する側)には、この第2流入孔21の内周縁に第2弁座シート面22を形成している。そして、第2収納孔20に収納されている第2ボール17が第2弁座シート面22に当接することで、第2流入孔21と第2逃げ部23との流通を遮断している。
【0040】
また、各第2収納孔20に配置された第2コイルスプリング18のバネ力により第2ボール17を第2弁座シート面22に当接させて一方向弁である第2ボール弁を構成している。
【0041】
第2弁座5には、各第1流路11を通過するオイルが第2室8へ流出するための流出孔16を各第1流路11に正対して形成している。
【0042】
上述した第1ボール弁と第2ボール弁を構成する第1弁座4をピストン3の一端面3a側にあてがった状態で各収納孔12、20にボール9、17およびコイルスプリング10、18を収納し、その上から第2弁座5を押し当て、中心に設けている挿通孔にピストンロッド2の一端部のねじ部を挿通し、ナット6をこのねじ部に締付けることにより、ピストン3と第1弁座4と第2弁座5とが一体的に固定され、複数の第1ボール弁で構成される第1バルブ部V1と、複数の第2ボール弁で構成される第2バルブ部V2と、をピストン3に一体に構成したピストンバルブが提供される。
【0043】
また、ピストン3には、第1弁座4および第2弁座5に封鎖されず、各弁を通過せずに第1室7と第2室8を液体が流通するための細い通路である、オリフィス24が形成されている。
【0044】
なお、第1バルブ部V1と第2バルブ部V2のいずれか一方のみを上述したボール弁で構成し、いずれか他方を他のバルブ、例えば図5で示した板バネを用いた構成としても良い。
【0045】
また、本実施例の各ボール弁と板バネを軸方向に並べて二つのバルブ機構を直列したピストンバルブにしてもよいし、ボール弁と板バネによる弁をピストン3の径方向に並べて各バルブ部にボール弁と板バネによる弁とが並列したピストンバルブにしてもよい。
【0046】
上記した第1バルブ部V1と第2バルブ部V2との動作を以下説明する。
【0047】
まず、ショックアブソーバの全長を短くする方向にシリンダ1とピストンロッド2とに外力が加わると、ピストン3に対してシリンダ1の奥側に向かう力が作用し、第1室7内の液圧が高くなる。
【0048】
外力によってピストン3がシリンダ1の奥側に向かう際において、シリンダ1とピストン3の速度差が小さい時には、第1室7と第2室8の圧力差が小さく、オイルが第1ボール9を押す力が第1コイルスプリング10の予備荷重(プリロード)に達しないため、オイルはオリフィス24のみを通過する。オイルがオリフィス24を通過している状態で、シリンダ1とピストンロッド2の速度差が大きくなり、さらに第1室7と第2室8の圧力差が大きくなると、
第1バルブ部V1の第1ボール弁は、第1流入孔13を通して第1ボール9が第1室7の液圧P1を受ける。この場合、第1ボール9は第1弁座シート面14に第1コイルスプリング10のバネ力で押付けられているため、第1流入孔13と第1逃げ部15とは連通されていないが、第1室7の液圧P1が第1コイルスプリング10のバネ力により第1ボール9にかかっている予備荷重を超えると、第1ボール9が第1弁座シート面14から離れ、開弁が開始される。そうすると、第1流入孔13と第1逃げ部15とが連通し、第1室7内のオイルが第1流入孔13から第1逃げ部15に入り込み、さらに第1流路11から流出孔16を経て第2室8に矢印Aで示すように流入する。
【0049】
これに対し、第2バルブ部V2の第2ボール17は第1室7内からの液圧、およびコイルスプリング18のバネ力による予備荷重で第2ボール17が第2弁座シート面22に押付けられて逆止弁として機能する。第1室7からの液圧は、第2流路19及び第2逃げ部23を通って、第2ボール収納孔20の第2室側に設けられた溝部により、第2ボール17を第2シート面22に押し付ける方向に作用するため、コイルスプリング18のバネ力と合わさって逆止弁として機能する。
【0050】
第1ボール弁が開弁するタイミングは第1コイルスプリング10のバネ定数k1(単位N/mm)と、あらかじめ圧縮されている長さ(mm)の掛け算による力(単位N)、いわゆる予備荷重(プリロード)に依存し、予備荷重が小さい場合には、ショックアブソーバが縮方向に外力を受けるとシリンダ1とピストンロッド2との縮方向への相対移動速度が遅い状態で開弁する。また、バネ定数k1が小さいと弁開度も大きくなり、第1室7から第2室8へ流入するオイルの流量が多くなるので、開弁後のシリンダ1とピストンロッド2との縮方向への相対移動による減衰力が弱くなる。これに対し、ショックアブソーバが縮方向に例えば上記の場合と同じ条件で外力を受けた場合であって、予備荷重が上記の場合より大きい場合には、予備荷重が小さい場合よりも開弁するタイミングが遅くなり、シリンダ1とピストンロッド2との縮方向への相対移動速度が一定の速度に達した状態になるまで開弁を遅くできる。また、このときバネ定数k1が大きいと、弁開度も小さいため、第1室7から第2室8へ流入するオイルの流量が少なくなるので、シリンダ1とピストンロッド2との縮方向への相対移動による減衰力を強くすることが可能である。
【0051】
つまり、予備荷重を変更することにより、ピストンスピードの低速領域での減衰力を調整することが可能であり、バネ定数k1を変更する(バネ定数の異なるバネに変更する)ことにより、ピストンスピードの高速領域での減衰力を調整することが可能となる。
【0052】
一方、第1バルブ部Aを構成する第1ボール弁は複数設けられているため、第1室7から第2室8へ流入するオイルの流量は、開弁している第1ボール弁の個数によっても変化する。したがって、第1ボール弁の第1コイルスプリング10のバネ定数及び予備荷重を一つに統一せず、バネ定数の異なるコイルスプリングを用いたり、予備荷重をそれぞれ異なる値にすることにより、開弁のタイミングを異ならせることができ、ショックアブソーバの相対移動速度毎に減衰力をきめ細かく制御することが可能となる。
【0053】
この場合、ピストンスピードの遅い領域では、第1室7から第2室8へ流入するオイルは、オリフィス24を通過する。ピストンスピードが早くなり、第1室7と第2室8の圧力差が第1バルブ部V1の第1コイルスプリング10の予備荷重を上回ると、第1バルブ部が開放され、第1流路にオイルが流れるようになり、流路が増える。すると、シリンダーに対するピストンロッドの速度毎での抗力が減る。但しここで、流路がひとつ(速度毎での抗力がひとつ)の場合、シリンダーに対するピストンロッドの抗力は、シリンダーとピストンとの相対速度の2乗に比例して増えるため、ピストンスピードが増えるに従い流路を増やしていかなければショックアブソーバの減衰力が高くなりすぎて硬くなりすぎ、実用的な減衰力が得られない。このとき、たとえば、流路を一つのまま流路の容積を10%増やすより、新たにその10%分の流路を別に作ったほうが、圧力(減衰力)に対する影響が大きく、実用的な範囲での減衰力の調整が行いやすくなる。
【0054】
これより、例えばバネ定数に差を有する2種類の第1コイルスプリング10を用意し、半数の第1ボール弁にバネ定数の小さい方の第1コイルスプリング10を配置し、残りの第1ボール弁にバネ定数の大きな方の第1コイルスプリングを配置して、それぞれのプリロードを異なるものにしておけば、最初に半数の第1ボール弁のみが開弁するため、全数の第1ボール弁が同時に開弁する場合よりも、最初に開弁する半数の弁が開弁しても抗力減少を小さくでき、その後引き続いて設定した予備荷重に応じて残りの第1ボール弁が開弁するので、開弁のタイミングを複数段階に分けることができる。全数のボール弁が同時に開弁する場合には、開弁した段階で一気にオイルが流れ出して抗力が急激に減少してしまうが、上記のようにバネ定数や予備荷重を異なるようにすることにより、減衰力の特性を滑らかなものにできる。
【0055】
異なるバネ定数の第1コイルスプリング10を第1ボール弁に設ける組合せとしては、全ての第1ボール弁に設ける第1コイルスプリング10のバネ定数を異ならせ、順次に開弁させる場合なども例示できる。
【0056】
自動車用の懸架装置として車体重量を支える懸架バネと共にショックアブソーバのシリンダ1とピストンロッド2が外力により縮方向に相対移動してゆくと、ショックアブソーバ内のオイルがピストンを通過する抵抗によって減衰力が発生し、外力が前記懸架バネとショックアブソーバの抗力により吸収され、上記相対移動速度が減速し、速度がゼロに達すると、第1室7と第2室8の液圧の差がなくなり、第1コイルスプリング10のバネ力によって第1ボール9が第1弁座シート面14に当接し閉弁状態になり、オイルの流れは停止する。そして、前記懸架バネに蓄勢されたバネ力を外力として、ショックアブソーバの全長が長くなる方向にシリンダ1とピストンロッドが相対的に移動する伸び工程が開始される。
【0057】
次に、この伸び工程の動作について説明するが、基本的にショックアブソーバの全長を短くする方向にシリンダ1とピストンロッド2とに外力が加わる場合の動作と同様であるため重複する部分についての詳細な説明は省略する。
【0058】
まず、この伸び工程が開始されると、上記した縮み工程とは逆の方向にオイルの流れが発生する。まず、第2室8内の液圧が上昇して第1室7との圧力差が発生するが、シリンダ1とピストンロッド2の速度差が小さい時には、第2室8と第1室7の圧力差が小さく、オリフィス24をオイルが通過することで圧力差は解消されて第2コイルスプリング18の予備荷重(プリロード)に達しないため、バルブは開弁しない。オイルがオリフィス24を通過している状態で、シリンダ1とピストンロッド2の速度差が大きくなり、さらに第2室8と第1室7の圧力差が大きくなると、この第2室8内のオイルが第2バルブ部V2の第2ボール弁を開弁する方向に、液圧が第2流入孔21を通して第2ボール17に作用する。
【0059】
第2ボール17に作用する第2室8の液圧が第2ボール17を第2弁座シート面22に押付けている第2コイルスプリング18の予備荷重を超えると、この第2ボール弁が開弁し、第2室8内のオイルが第2流入孔21から第2逃げ部23を通り、更に第2流路19を経て第1室7へ矢印Bで示すように流入する。その際、第2ボール17がオイルの液圧を制御する作用は第1ボール弁と同様である。
【0060】
そして、予備荷重とバネ定数の設定により開弁の時期と弁開度の違いによる減衰力の調整については第1ボール弁と同様であり、また、第2コイルスプリング18のバネ定数を複数種類用意し、種々の組合せを行うことができることも上述の通りである。
【0061】
もちろん、第1バルブ部V1の全体的な予備荷重およびバネ定数と、第2バルブ部V2の全体的な予備荷重およびバネ定数とを合わせる必要はなく、第1バルブ部V1と第2バルブ部V2とを非対称に設定しても良い。
【0062】
なお、本実施例では、第1ボール弁および第2ボール弁のコイルスプリングを他のバネ定数のもの、あるいは新品のものに交換することも可能であり、例えばナット6を取り外せば第1弁座4が抜き取れるので、第1コイルスプリング10、第2コイルスプリング17を容易に交換することができる。
【0063】
一方、本実施例では、弾性体にコイルスプリングを使用しているため、バルブ全作動(スプリング密着)時に永久変形しない応力でのコイルスプリングの設計をしておけば、バルブの耐久性は高く保持することが可能となる。
【0064】
また、第2収納孔20をピストン3の外周側に配置し、第2流路19をさらにピストン3の径方向外方に設けることにより、第1弁座4を第2弁座5よりも小径とし、第1弁座4にこれらの第2流路19と通じる流出孔を設けなくても済むようにしているが、本発明はこれに限定されるものではなく、各第1収納孔12と第2収納孔20を任意の位置に形成しても良い。
【0065】
また、第1コイルスプリング10の各バネ定数をそれほど高いものにしなければ、各バルブの予備荷重(プリロード)の管理も容易であり、安定した性能のショックアブソーバが提供可能となる。
【0066】
さらに、第1コイルスプリング10と第2コイルスプリング18とは、第1ボール9と第2ボール17に付与する予備荷重を異ならせることにより、上記したバネ定数を異ならせた場合と同様の効果が得られ、例えばコイルスプリングの長さを異ならせることにより異なる予備荷重を得ることができる。
【0067】
また、第1ボール9と第2ボール17を第1弁座シート面14、第2弁座シート面22に付勢する弾性体としてコイルスプリングを例にして説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、各ボールにそれぞれ対応して設けた皿バネ、シリコンゴムなどの弾性体であっても良い。
また、第1流入孔13と第2流入孔21を封鎖するバルブとしてボールを例にして説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、各弾性体にそれぞれ対応して設けた傘状のバルブ、円錐状のブロックのバルブなどであっても良い。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】本発明に係るショックアブソーバの実施例を示す断面図。
【図2】図1に示すショックアブソーバのピストン付近の部分拡大図。
【図3】図2のL−L線矢視図。
【図4】従来の板バネ式のバルブを有するショックアブソーバの断面図。
【図5】図4に示すショックアブソーバのピストン付近の部分拡大図。
【符号の説明】
【0069】
1 シリンダ
2 ピストンロッド
3 ピストン
4 第1弁座
5 第2弁座
6 ナット
7 第1室
8 第2室
9 第1ボール
10 第1コイルスプリング
11 第1流路
12 第1収納孔
13 第1流入孔
14 第1弁座シート面
15 第1逃げ部
16 流出孔
17 第2ボール
18 第2スプリング
19 第2流路
20 第2収納孔
21 第2流入孔
22 第2弁座シート面
23 第2逃げ部
24 オリフィス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
作動流体で満たされたシリンダと、ピストンロッドに固定され、前記シリンダ内を第1室と第2室に区画しながら移動するピストンと、前記第1室内の液圧作用により開弁して該第1室の作動流体を前記第2室に流入させる一方向弁としての第1バルブ部と、前記第2室内の液圧作用により開弁して該第2室の作動流体を前記第1室に流入させる一方向弁としての第2バルブ部と、を有するショックアブソーバにおいて、
前記第1バルブ部と前記第2バルブ部の少なくともいずれか一方又は双方を複数の独立した独立開閉弁により構成し、前記独立開閉弁は、流路を遮断するバルブ(弁)と、前記バルブを閉弁方向に付勢する弾性体と、それらを収納する収納孔と、前記独立開閉弁により遮断される作動流体が流通する流路と、を前記ピストンの軸方向に形成したことを特徴とするショックアブソーバ。
【請求項2】
前記独立開閉弁は、前記弾性体に付勢された前記バルブが当接する弁座シート面を有する弁座を前記ピストンの端面に設け、該弁座を該ピストンと一体的に前記ピストンロッドの一端部にナットを用いた締結体により締結したことを特徴とする請求項1に記載のショックアブソーバ。
【請求項3】
前記複数の弾性体は、同一のバネ定数あるいは複数の異なるバネ定数であることを特徴とする請求項1または2に記載のショックアブソーバ。
【請求項4】
前記弾性体により前記バルブを付勢する予備荷重を、各前記弾性体毎に設定できることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載のショックアブソーバ。
【請求項5】
前記第1バルブ部と第2バルブ部のいずれか一方又は双方を構成する前記複数の独立開閉弁は、同一円周上に配置されていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載のショックアブソーバ。
【請求項6】
前記第1バルブ部と第2バルブ部のいずれか一方又は双方は、前記独立開閉弁と板バネ弁が前記ピストンの軸方向に直列に配置されて構成され、または、前記一方又は双方のバルブ部は前記独立開閉弁と前記板バネ弁とが並列して構成されていることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載のショックアブソーバ。
【請求項7】
前記弾性体にコイルスプリングを用いたことを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載のショックアブソーバ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−180236(P2009−180236A)
【公開日】平成21年8月13日(2009.8.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−17174(P2008−17174)
【出願日】平成20年1月29日(2008.1.29)
【出願人】(394016106)株式会社キャロッセ (18)
【Fターム(参考)】