説明

シラスペースト及びその製造方法

【課題】偏った消費形態と消費期限が短いという問題点を解決し、様々な消費者層や顧客からの多種多様な要望・用途に対応でき、かつ良質なタンパク質やカルシウムを多量に含んだ栄養価の高い食品であり、併せて、味、香り、匂い(香り)、堅さ、滑らかさ及び旨みにも優れたシラスペースト及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】シラスを100℃の湯中で40秒間塩茹ですることにより、半生状態のシラスを得、これを重量比で水分値60%になるまで乾燥して半生状態の乾燥シラスを作成し、その後、粉砕手段で2mm以下になるまで粉砕することによりペースト状に製造するシラスペーストの製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シラスを材料にしたシラスペースト及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シラスとは、主にいわしの稚魚(カタクチイワシなどの稚魚)のことを指し、浜で水揚げされたものを塩茹でした後、干して乾燥させたものがいわゆるシラス干と称されて販売されている。シラスには現在までのところそれ以外の態様での商品は存在しておらず、それ故、当然、それ以外の用途もない。
【0003】
前記シラス干の製法は前記のようにシンプルであり、一般に、加工後の水分値、すなわち、水分含有量が重量比で85%前後のものを釜揚シラスと、50〜60%程度のものをシラス干と、25〜35%程度のものをちりめんと、それぞれ称し、水分含有量によって区別している。しかしここではこれらを総称してシラス干と称する。
【0004】
ところで、現在、シラスの主な消費者、すなわち、シラス干の主な消費者は50歳〜70歳か又はそれ以上の世代であり、29歳以下の若者は少ないとされている。またその食べ方に関しても、特に加工することなく、そのまま食べることが多い。何らかの調理を施すとしても大根おろしに掛けたり、炒飯に混ぜたりする程度であり、調理態様も限定され、際だった調理法と云うものもない。
【0005】
更にシラス干は、前記のように、いずれであれ、製品に含まれる水分量が多いため、消費期限が短く、一般的にスーパーストア等の量販店で販売されているパック包装形態のそれで4日間、釜揚シラスに関しては3日間の消費期限となっている。
【0006】
以上のようなシラスを粉砕してペーストにしたシラスペーストは現時点ではまだ市販されてはいない。調査をしてみても、やはりシラスペーストに関する提案はない。関連する従来技術として種々の魚肉ペーストに関する提案があるのみである。
【0007】
特許文献1は、シラスウナギ餌付用飼料及びその製造方法に関し、関連性は薄いが、その中から僅かな関連性のある部分を取り出すと、それは、生のイカ及びオキアミを主成分としペースト状に加工した生原料を真空凍結乾燥した後、低温粉砕することによるシラスウナギ餌付用飼料の製造方法である。
【0008】
シラスウナギの餌付用飼料として、生のペースト飼料では、これを冷凍保管する必要があり、その保管に電力を要する。またこのような冷凍保管を必要とする生のペースト飼料では使用時に良好な摂餌状態を確保するための解凍にも時間が掛かる等の問題がある。特許文献1の発明は、そのような問題を解消すべく、生のペースト飼料を粉末化する技術である。従ってこれはペーストの製法ではなく、またもう一つの製法もシラスウナギ用の飼料の製法であって、人の食品であるペーストの製法ではない。前記のように、シラスウナギの餌付用飼料をペーストに代えてこれを粉末化する技術である。それ故、前記のように関連性は薄い。
【0009】
特許文献2は、ペースト状水産練製品及びその製造方法に関し、これは、魚肉又は魚肉すり身と、魚肉又は魚肉すり身に対して1.5〜5倍の水と、魚肉又は魚肉すり身と水との混合物に対して0.5〜5%の食塩と、魚肉又は魚肉すり身と水との混合物に対して2〜15%のα化澱粉とを主原料としたものを擂潰した後、成形、加熱することによるペースト状水産練製品の製造方法及びこれによって製造したペースト状水産練製品である。
【0010】
この特許文献2のペースト状水産練製品は、弾力性のないペースト状とすることを目的とし、そのためにα化澱粉を混合したものであり、そのような効果は得られたものと思われる。しかしこれはシラスをペーストに加工することに関して特に参考となる要素は存在していない。
【0011】
特許文献3は、すり身組成物に関し、これは、水晒しをしない赤身魚肉と共にペースト状グルテンを含有する赤身魚すりみ組成物である。
【0012】
この特許文献3の赤身魚すりみ組成物は、赤身魚すりみ中にペースト状グルテンを配合したため、赤身魚の肉を水晒しをせずにそのまま用いることが可能となり、その結果得られた赤身魚すりみ組成物は、品質、足の強さ、耐凍性等の諸性質に優れ、エイコサペンタエン酸(EPA)やドコサヘキサエン酸(DHA)等の高級不飽和脂肪酸を含む脂質の酸化が防止され、長期にわたって食味、色、におい等の品質の低下のない赤身魚のすりみ組成物が得られるのだとされる。
【0013】
特許文献4は、魚骨ペーストの製造法及び魚骨ペーストの利用法に関し、前者は、魚類の中骨を、コミトロールで微細化し、さらにマスコロイダーで超微粒子にしてペースト状物にする魚骨ペーストの製造法であり、後者は、魚肉すり身製造時に、すり身原料魚肉に対して上記魚骨ペーストを一部添加する魚骨ペースト添加すり身の製造法であり、さらに魚肉すり身として以上の魚骨ペースト添加すり身を使用する魚肉練製品の製造法である。
【0014】
この特許文献4の魚骨ペーストの製造法及び魚骨ペーストの利用法によれば、コミトロールを使用するため中骨の粉砕時に熱が発生しない。それ故、得られる粉砕物の品質の劣化が生じない。また生の状態の中骨を粉砕できるので、洋上のすり身製造時に残滓として生じる生の中骨をそのまま魚骨ペーストに加工してすり身に添加することが可能になる。またこの中骨ペーストを添加したすり身は、中骨ペーストを添加したにも拘わらず、それが超微細粒子に粉砕されているため、滑らかな良い食感を得ることができる。さらにこの中骨ペースト添加すり身を利用して魚肉練り製品を製造した場合には中骨ペーストが添加されているため物理的にも栄養的にも優れたカルシウム強化食品を得ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開平07−274845号公報
【特許文献2】特許第2841076号公報
【特許文献3】特許第2607565号公報
【特許文献4】特許第2908871号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
前記のように、魚肉をペーストにする食品の例として、EPAやDHA等の高級不飽和脂肪酸を含む赤身魚すりみ組成物(特許文献3)や魚骨ペースト添加魚肉すり身(特許文献4)が提案されており、前者は、栄養価の高い赤身魚をEPAやDHAの酸化を防止しながらすり身化しており、また後者は食感を良好に保持しながらカルシウムを添加したすり身であり、いずれも栄養価の高い優れたものであると思われるが、直ちにシラスペーストに適用できるものではない。
【0017】
本発明では、シラス、すなわち、現時点では、シラス干に関して、前記のような偏った消費形態と消費期限が短いという問題点を解決し、様々な消費者層や顧客からの多種多様な要望・用途に対応でき、かつ良質なタンパク質やカルシウムを多量に含んだ栄養価の高い食品であり、併せて、味、匂い(香り)、堅さ、滑らかさ及び旨みにも優れたシラスペースト及びその製造方法を提供することを解決の課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明の1は、半生状態に塩茹でしたシラスを重量比で水分値25〜85%に乾燥してなる乾燥シラスを粉砕して作成したシラスペーストである。
【0019】
本発明の2は、半生状態に塩茹でしたシラスを重量比で水分値50〜60%に乾燥してなる乾燥シラスを粉砕して作成したシラスペーストである。
【0020】
本発明の3は、本発明の1又は2のシラスペーストにおいて、
前記半生状態の塩茹でを、塩分を含む沸騰状態の熱湯に生シラスを投入して40〜90秒後に引き上げることで行ったものである。
【0021】
本発明の4は、生シラスを半生状態に塩茹でし、これを重量比で水分値25〜85%になるまで乾燥して乾燥シラスを作成し、その後、粉砕手段で粉砕することによりペーストを製造するシラスペーストの製造方法である。
【0022】
本発明の5は、本発明の4のシラスペーストの製造方法において、
前記半生状態の塩茹でを、塩分を含む沸騰状態の熱湯に生シラスを投入して40〜90秒後に引き上げることで行ったものである。
【0023】
本発明の6は、本発明の1又は2のシラスペーストにおいて、
前記乾燥シラスの粉砕物に食物繊維を添加してなるシラスペーストである。
【0024】
本発明の7は、本発明の4又は5のシラスペーストの製造方法において、
前記乾燥シラスの粉砕後にその粉砕物に食物繊維を添加混合することとしたものである。
【0025】
本発明の8は、本発明の1、2又は3のシラスペーストにおいて、
前記乾燥シラスの一部はそのままの状態で、残部は強火で煎った上で、両者を粉砕混合してなるシラスペーストである。
【0026】
本発明の9は、本発明の4又は5のシラスペーストの製造方法において、
前記乾燥シラスを、その一部はそのままの状態で、残部は強火で煎った上で、両者を混合し、かつ粉砕することとしたものである。
【発明の効果】
【0027】
本発明の1のシラスペーストによれば、これを冷凍保管しても特に不都合ではなく、それ故に長期保存が可能となり、消費期限が短いという問題点を解決し得る。またペースト化したため種々の食品に添加して使用することが容易に又は可能になり、それ故に種々の態様の料理や食品に使用可能になり、偏った消費形態を解消することができる。更に、味、香り、匂い(香り)、硬さ、滑らかさ及び旨みにも優れたものでもある。このように味や滑らかさ等に優れ、かつ、前記のように、多様な料理や食品に使用できる結果、様々な消費者層や顧客の嗜好に合わせることが可能になり、需要層を拡大することができることになる。
【0028】
またペースト化することで、シラスの有する全ての栄養素を逃すことなくその中に封じ込めることができるので、良質なタンパク質やカルシウムを多量に含んだ栄養価の高い食品とすることができる。
【0029】
更に、本発明の1のシラスペーストは、半生状態の乾燥シラスを加工して作成したものであるため、完全に熱を通したそれより、消化が良く、子供や高齢者にも食べやすいものとなる。また完全に熱を通したそれ又は熱を通していないそれよりもより滑らかなペーストとなる。加えて、味、香り、旨み、匂い(香り)、等においても極めて優れたものとなり、更にまた生シラスで作成したペーストより日持ちの良いものともなる。
【0030】
本発明の2のシラスペーストによれば、本発明の1のシラスペーストと同様の効果を有するが、更に水分状態が適切であり、より品質の高いものとなる。
【0031】
本発明の3のシラスペーストによれば、シラスペーストがより適切な半生状態の乾燥シラスから作成したものとなるため、半生による効果をより適切に得ることができる。
【0032】
本発明の4のシラスペーストの製造方法によれば、適切な水分割合の半生シラスによるシラスペーストを容易にかつ確実に作成することができる。
【0033】
本発明の5のシラスペーストの製造方法によれば、細胞の壊れていない適切な半生のシラスを作成することが可能であり、それ故、栄養分を湯中に逃がすことなく、より高品質のシラスペーストを製造することができる。これは、特に、シラスのような魚体の小さな魚をペーストにする場合には十分に意味のあることである。
【0034】
本発明の6のシラスペーストによれば、必要な食物繊維を摂取しやすくなる。
【0035】
本発明の7のシラスペーストの製造方法によれば、シラスペーストに必要な食物繊維を適切なタイミングで添加混合することができる。
【0036】
本発明の8のシラスペーストによれば、香ばしいシラスペーストを得ることができる。
【0037】
本発明の9のシラスペーストの製造方法によれば、香ばしいシラスペーストを容易に作成することができる。
【発明を実施するための形態】
【0038】
本発明を実施するための形態を、実施例に基づいて、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0039】
<実施例1>
(1)塩茹で工程
材料となる生シラスはできるだけ新鮮なものが好ましい。通常、港で水揚げされた直後の新鮮なそれを用いる。まず水洗いし、砂や金属その他の汚れを洗い落とす。この実施例1では、その後すぐに、その生シラスを湯温を100℃に設定した自動煮釜に投入し、半生状態に塩茹でする。投入時から約40秒後に引き上げることで必要な半生状態の加熱を行う。生シラスは籠状容器に入れて自動煮釜に投入し、投入から上記時間の経過後に引き上げる。この時間の設定は、云うまでもなく、生シラスを半生状態まで茹でる観点で決定したものである。
【0040】
生シラスは、当然、ペースト作成のために粉砕する時点まで半生状態に維持するべきである。以上の塩茹で工程の後、粉砕工程までに加熱によって行われる他の工程、例えば、加熱によって行われる乾燥工程が含まれる場合、或いは加熱によって行われる殺菌処理が含まれる場合は、該塩茹で工程による加熱時間は若干調整する必要がある。この実施例1では、加熱による乾燥工程を含まず、殺菌工程も蒸気を用いるものではあるが、詳細は後述するように、減圧下で70℃の蒸気を用いるものであり、シラスは半生状態を維持しうるため、塩茹で工程での加熱時間は前記のとおりで適切なものとなっている。
【0041】
また前記自動煮釜中の湯の塩分濃度は、この実施例1では、重量比で3%とした。この塩茹で工程では、以上の加熱時間(40秒間)で、タンパク質の損傷を防止しつつ、半生状態まで塩茹でする。
塩分濃度は、シラスの細胞に損傷を生じさせない観点から海水の塩分濃度である3.5%(重量比)程度が適当であるが、この実施例1では、塩分を過剰に含ませない観点から、前記のように、3%(重量比)としたものである。なお、シラスは、後の工程で、粉砕し、ペーストにするものであるが、栄養分を湯中に逃がさない観点から、茹でる際に細胞が壊れないようにすることは極めて重要である。これは、特にシラスのような魚体の小さな魚を材料としてペーストを作成する場合には重要である。
【0042】
(2)乾燥工程
この実施例1では、半生状態に茹でたシラスを複数段に構成した乾燥棚の各棚に5mm以下の厚さで広げて配置し、それらの棚間に20℃程度に調整した風を通過させて乾燥工程を行った。乾燥時間は10分である。こうしてこの実施例1では、半生状態のシラスの水分割合を60%(重量比)程度になるように乾燥させた。
【0043】
なお、乾燥状態は、乾燥時間と通過させる風(空気)の温度とを調整することで、所望のそれにすることができる。この乾燥工程では、水分割合を25〜85%の間で適切に設定して行うべきものであるが、この実施例1では、前記のように、60%に設定した。
【0044】
(3)粉砕工程
乾燥工程を経た乾燥半生シラスについて、その中に混在している虞のある金属類その他の異物を取り除くために、マグネットゲートを通して磁性金属類を除去し、静電選別機を用いてその他の軽い異物を除去する異物の除去処理を行い、更に蒸気を用いた殺菌処理を行い、さらに異物が残っていないかの目視検査を経た上で、粉砕工程を行う。
【0045】
前記蒸気を用いた殺菌処理は、前記乾燥シラスを殺菌室に入れて行う。半生状態の乾燥済みのシラスを、複数段に構成した殺菌棚の各棚に5mm以下の厚さで広げて該殺菌室内に配置し、1kPaの減圧下で、約15分間、それらの棚間に70℃の蒸気を吹き込んで殺菌処理を行う。なお、以上の半生状態のシラスは、この殺菌処理で、良好に殺菌処理が行われるが、加熱は殆ど進まず、半生状態を維持することができる。
【0046】
この粉砕工程は、前記乾燥工程を経、かつ以上の殺菌処理を経た半生状態のシラスを粉砕器に入れて行う。この実施例1では、粉砕機としては、カッティングミキサー(又はプラネタリミキサー)を用いて粉砕した。この実施例1では、種々の態様の調理に利用が可能になるように2mm以下のサイズに粉砕した。こうして半生状態の乾燥シラスをシラスペーストに加工した。
【0047】
<実施例2>
塩茹で工程、乾燥工程及び粉砕工程を順次実施例1と全く同様に行い、乾燥工程の終了後に、その乾燥半生シラスの粉砕物に食物繊維を添加混合する。食物繊維としては、この実施例2では、乾燥椎茸の粉砕物を用いた。またその混合割合は、乾燥半生シラスの粉砕物:食物繊維=5:1(重量比)とした。こうして、半生状態の乾燥シラスを食物繊維添加のシラスペーストに加工した。
【0048】
なお、食物繊維としては、以上の乾燥椎茸に代えて、ヤマイモ又はレンコンの粉砕物を用いることもできる。ヤマイモは椎茸に比べて癖が少ないので、多くの人にとって食べやすいものとなる。食物繊維は、更に以上のヤマイモ等とも異なる他の食材を採用することも可能である。
【0049】
<実施例3>
塩茹で工程及び乾燥工程を実施例1と同様に行い、乾燥工程の終了後に、乾燥半生シラスのうちの一部、この実施例3では、全乾燥半生シラスの1/2量を取り出し、これを加熱した鉄板の上で煎った上で、煎らない乾燥半生シラス中に戻した上で両者を均一に混合する。その後、実施例1と全く同様に粉砕工程を行う。こうして半生状態の乾燥シラスと煎ったシラスを混合したシラスペーストを作成した。
【0050】
<比較例1>
(1)塩茹で工程
港で水揚げされた直後の新鮮な生シラスを、水洗いし、砂や金属その他の汚れを洗い落とし、その後すぐに、その生シラスを、塩分濃度を3%(重量比)に、湯温を100℃に、それぞれ調整してある自動煮釜に投入し、3分後に引き上げた。生シラスの魚体に完全に熱を通した。
【0051】
<乾燥工程>
前記のように、完全に熱を通した完全加熱シラスを多段式の遠赤外線自動乾燥機で乾燥させる。ここでは、乾燥のために、文字通り、遠赤外線を使用し、各棚に5mmを越えない厚さに広げた完全加熱シラスに約20分間赤外線を照射して加熱乾燥を行う。この乾燥で、シラスは、重量比で60%の水分割合になった。
【0052】
こうして比較例1のシラス干を作成した。
【0053】
<比較例2>
(1)塩茹で工程
比較例1と全く同様に行う。
【0054】
(2)乾燥工程
比較例1と全く同様に行う。
【0055】
(3)粉砕工程
乾燥工程を経た完全加熱の乾燥シラスについて、実施例1と同様に、異物の除去及び殺菌処理を行い、更に目視検査を経た上で、粉砕工程を行い、2mm以下のサイズに粉砕した。こうして完全加熱の乾燥シラスによる比較例2のシラスペーストを得た。
【0056】
<比較例3>
港で水揚げされた直後の新鮮な生シラスを水洗いし、砂や金属その他の汚れを洗い落とす。その後すぐに、その生シラスを、実施例1と同様に、複数段に構成した乾燥棚の各棚に5mm以下の厚さで広げて配置し、それらの棚間に20℃程度に調整した風を通過させて乾燥工程を行った。乾燥時間は10分である。このように乾燥させた生シラスについて、再度、異物の除去及び殺菌処理を行い、更に目視検査を経た上で、実施例1と同様の方法で粉砕工程を行った。こうして比較例3の生シラスによるシラスペーストを得た。
【0057】
<日持ちテスト>
テスト方法
実施例1〜3及び比較例1〜3のシラスペースト又はシラス干について10℃以下の冷蔵保管をし、それぞれの製造直後(初発)、3日後、5日後のそれを検体とし、各検体5gのうち、比較例1のシラス干はすり潰した上で、それ以外のシラスペーストはそのままの状態で、各々45ccの希釈液で希釈する。得られたそれぞれの検体原液は1ccずつ2個の一般生菌培養皿に分注し、35℃下で48時間培養して細菌のコロニーを形成させ、コロニー数を数えて菌数測定を行い、各々2個の一般生菌培養皿の菌数の平均値を取り、その平均値をその検体のその検査日における一般生菌数とした。
以上は、日本細菌検査株式会社(大阪市淀川区三国本町2丁目13−59)の食品衛生検査器「BACcT」(登録商標)を用いて行ったものである。
【0058】
【表1】

【0059】
<官能検査>
テスト方法
20〜70歳の男女半数ずつの30人に、テスト対象(実施例1〜3で得たシラスペースト及び比較例1のシラス干並びに比較例2、3のシラスペースト)を、それぞれ5gずつ、1〜6の識別番号を付して個別の皿の上に載せ、各人にそれらの6種類のテスト対象を渡し、表2に示す項目に関して、それぞれのテスト対象の5段階評価(1:劣悪・2:劣・3:普通・4:良・5:優)をして貰い、その平均値を算出した。
【0060】
【表2】

【0061】
<考察>
表1の内容を検討する。
以上の実施例1〜3及び比較例2のシラスペーストは、表1に示したように、10℃以下の冷蔵保管で菌数の増加が比較的少ないことが分かる。冷凍保管も不都合ではないから、当然、長期保管も可能である。詳細に見ると、実施例1のシラスペーストは、半生シラスをペースト化したもので、比較例3は生シラスをペースト化したものであるが、後者は、5日後には測定不能なほどに菌数が増加している。その差ははっきりしており、比較例3の生シラスによるシラスペーストは保管の観点からは、採用しがたいものであると判断できる。
【0062】
比較例2は完全に熱を通したシラスをシラスペーストに加工したものであるが、これと実施例1の半生シラスからペーストにしたものとは、殆ど差がない。保管の観点に限れば、完全に熱を通したシラスを用いた比較例2も採用可能であることが分かる。
【0063】
比較例1は、完全に熱を通した上で乾燥処理したシラス干であるが、これは、実施例1の半生シラスによるシラスペーストと、菌数の増加の観点では差が殆どない。10℃以下の冷蔵保管の観点に限れば、シラス干も有効である。
【0064】
実施例2のシラスペーストは、椎茸の粉砕物を添加したものであり、半生シラスのペーストのみではなく、添加物が加わったため、菌数の増加の可能性はあるが、テスト結果では実施例1と殆ど差がない。実施例1と同様であると判断できる。
【0065】
実施例3のスラスペーストは、半分を煎ったシラスで作成したものであり、5日後一般生菌数の増加が若干大きいが、実施例1、2と比べて微差であり、また菌数は菌の種類によっては食中毒の虞の生じる100,000個を越えるものでもない。異臭が発生することとなる1,000,000個を越えるものでもない。冷凍保管であれば十分長期の保管も可能であると判断できる。
【0066】
表2の内容を検討する。
実施例1は、半生シラスのみをペーストにしたものであり、比較例2は完全に熱を通したシラスをペーストにしたものである。表2に示したように、外観を除いて実施例1のシラスペーストは非常によい結果を得ている。外観は、ペーストにすることにより、内臓の粉砕物が他の部位の粉砕物と混合して、粉砕していない白い外観を持ったシラスが灰色になってしまうことからそのような若干低い評価を得たものと思われる。もっともこれは、比較例2、3のシラスペーストもペーストにする以上は同様であり、実施例1の問題点とは云えない。
【0067】
実施例1と比較例2のシラスペーストを比較すると、前記のように、実施例1は、普通と判断された外観以外は良い結果を得ており、比較例2は、匂い(香り)と硬さのみで良い結果を得、他は実施例1と比較すると、大分劣る結果となっている。一つ一つ比べると、匂い(香り)の観点では殆ど同様であるが、硬さでは、僅かの差ではあるが、実施例1のシラスペーストがよい結果となっている。やはりシラスを半生状態までにしか加熱しなかったことにより、魚体が固くならず、その結果、粉砕物にも固い粒子が生じることがなかったからであると考えられる。半生の効果である。
【0068】
滑らかさも、実施例1のシラスペーストの方が比較例2より優れている。これも硬さに関するのと同様の理由から実施例1の方が滑らかになったと思われる。これも半生の効果である。味及び旨みに関しても実施例1が比較例2より優れている。これも半生でシラスの本来の味及び旨みが良好に残されているからと理解でき、半生の効果である。比較例2のシラスペーストではシラスを完全に芯まで加熱することにより、シラス本来の味や美味さを若干失っているものと思われる。外観については先に述べたとおりである。
【0069】
実施例1のシラスペーストは、シラスを半生に処理し、これを粉砕してペースト化することにより、完全に芯まで加熱したシラスをペースト化した比較例2のシラスペーストより一段と優れたものとなったことが認められる。
【0070】
実施例1のシラスペーストと比較例3のシラスペーストとを比較すると、硬さの点を除いて圧倒的に実施例1のシラスペーストが良い結果となっている。比較例3のシラスペーストは、生シラスを粉砕してペースト化したものであり、硬さに関しては、加熱によって固くなっていないので、実施例1のシラスペーストと殆ど同様の結果となっている。匂い(香り)に関しては、実施例1と比べて比較例3が大分劣る。全くの生シラスでは生臭くなりやすいというべきである。滑らかさは、生シラスが良い結果を得られそうであるが、結果は逆で、実施例1よりかなり悪い結果となっている。味及び旨みも生シラスを用いた比較例3では、シラスそのものの味又は旨みが得られるはずで、悪くなさそうであるが、結果から見て、全く熱を加えないのではやはり良い味も旨みも得られないということである。比較例3は悪い結果となっている。外観については差は少ないが、やはり実施例1の方が良い結果である。これらの結果から見て、生シラスではやはり、不適当であり、半生シラスをペースト化するのが圧倒的によいことが分かる。
【0071】
実施例1と比較例1のシラス干とを比較すると、外観の評価のみで比較例1の方が優れた結果となっており、味は同一、それ以外の匂い(香り)、硬さ、滑らかさ及び旨みの点では、実施例1の方が優れた結果となっている。比較例1のシラス干は、文字どおり、シラス干であり、粉砕していないので、内臓が露出せず、白い美しい魚体の外観を保持しているため、比較例1がよい結果を得ている。その他は、味を除けば、以上のように、全て実施例1の方が優れて結果となっているが、これは、先の考察から明らかなように、半生シラスをペースト化した結果であると云うことができる。
【0072】
実施例2と、比較例1、2、3とを比較すると、表2の上では、特に優れていると云うことにはなっていない。そこで官能テストの参加者にヒアリングしてみると、シラスのペーストであるとの意識の下で食したにも拘わらず、椎茸の風味が強く出てしまっているという点に違和感を感じているということのようである。椎茸には若干の癖があるが、特に嫌われる種類のそれではないと考えられるので、意識の持ちよう、若しくは慣れによって全く別異の良好な判断にもなりうると考える。また実施例2のシラスペーストは繊維成分を含むため、これを食した場合に、排便が良好になり、胃腸の働きの弱っている高齢者に適当であると思われる。
【0073】
また実施例3と、比較例1、2、3とを比較すると、匂い(香り)以外では、特によい結果を認めがたいが、その匂いは魅力的であり、そのような嗜好の需要者には歓迎されるはずである。
【0074】
表1及び2の観点以外の観点も含めて検討すると、実施例1〜3のシラスペーストは、このようにペーストにすることにより離乳食、介護食又は種々の栄養補助食品等の様々な料理にそのまま又は添加して使用可能であるため、広い範囲の料理に適用可能であり、各料理に嗜好性を有する様々な年代や男女等の利用に供しうる、すなわち、様々な消費者層や顧客からの多種多様な要望に対応できるようになるものである。
【0075】
またペースト化することで、シラスの有する全ての栄養素を逃すことなくその中に閉じ込めることができるので、良質なタンパク質やカルシウムを多量に含んだ栄養価の高い食品とすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明は食品の製造の分野で有効に利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半生状態に塩茹でしたシラスを重量比で水分値25〜85%に乾燥してなる乾燥シラスを粉砕して作成したシラスペースト。
【請求項2】
半生状態に塩茹でしたシラスを重量比で水分値50〜60%に乾燥してなる乾燥シラスを粉砕して作成したシラスペースト。
【請求項3】
前記半生状態の塩茹でを、塩分を含む沸騰状態の熱湯に生シラスを投入して40〜90秒後に引き上げることで行うものである請求項1又は2のシラスペースト。
【請求項4】
生シラスを半生状態に塩茹でし、これを重量比で水分値25〜85%になるまで乾燥して乾燥シラスを作成し、その後、粉砕手段で粉砕することによりペーストを製造するシラスペーストの製造方法。
【請求項5】
前記半生状態の塩茹でを、塩分を含む沸騰状態の熱湯に生シラスを投入して40〜90秒後に引き上げることで行う請求項4のシラスペーストの製造方法。
【請求項6】
前記乾燥シラスの粉砕物に食物繊維を添加してなる請求項1又は2のシラスペースト。
【請求項7】
前記乾燥シラスの粉砕後にその粉砕物に食物繊維を添加混合することとした請求項4又は5のシラスペーストの製造方法。
【請求項8】
前記乾燥シラスの一部はそのままの状態で、残部は強火で煎った上で、両者を粉砕混合してなる請求項1、2又は3のシラスペースト。
【請求項9】
前記乾燥シラスを、その一部はそのままの状態で、残部は強火で煎った上で、両者を混合し、かつ粉砕することとした請求項4又は5のシラスペーストの製造方法。

【公開番号】特開2012−179046(P2012−179046A)
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−24529(P2012−24529)
【出願日】平成24年2月7日(2012.2.7)
【出願人】(505116987)小松水産株式会社 (1)
【Fターム(参考)】