説明

シラノール基を有するパーフルオロアルキルシルセスキオキサン誘導体およびその製造方法

【課題】表面改質剤や界面活性剤などに適用可能な新規なシルセスキオキサン化合物を提供する。
【解決手段】式(1)で表されるシルセスキオキサン誘導体を提供する。
【化1】


式(1)において、Rfはそれぞれ任意の少なくとも一個の水素がフッ素に置き換えられた炭素数1〜30のアルキルの群から独立して選択される基である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、構造の規定された新規なシルセスキオキサン化合物に関する。さらに詳しくは、反応性活性基を有し、この反応活性基を利用して、熱可塑性樹脂の改質剤や層間絶縁膜、封止材料、難燃材等として有用な各種シルセスキオキサン化合物を誘導し得る、新規なシルセスキオキサン誘導体およびその製造方法に関する。なお本発明においては、3官能の加水分解性ケイ素化合物を加水分解し縮合させることにより得られる化合物の総称として、シルセスキオキサンを用いる。また以下の説明においては、シルセスキオキサンを記号PSQで示すことがある。
【背景技術】
【0002】
PSQに関してはこれまで数多くの研究が行われてきた。例えば、非特許文献1に記載されているBaneyらによる総説によれば、ラダー構造、完全縮合型構造、および不完全縮合型構造のほか、一定の構造を示さない不定形構造などの構造を有するPSQの存在が確認されている。完全縮合型構造とは、複数の環状構造からなり、閉じた空間を形成する構造であり、不完全縮合型構造は、完全縮合型構造の少なくとも1箇所以上が塞がれておらず、空間が閉じていない構造を示す。
【0003】
非特許文献2によれば、Feher等は、シクロペンチルトリクロロシランまたはシクロヘキシルトリクロロシランをアセトン中で加水分解することにより、不完全縮合型構造のPSQを得ている。
【0004】
また、非特許文献3によれば、Shchegolikhina等は、フェニルトリブトキシシランをブタノール中で等モルの水酸化ナトリウムと等モルの水を用いて加水分解することにより、末端がSi−O−Naとなった環状四量体のPSQを合成している。しかし、Shchegolikhina等の方法を用いて、完全縮合型構造または不完全縮合型構造を有するPSQを合成した例は報告されていない。
【0005】
また、完全縮合型構造または不完全縮合型構造を有するPSQのうち、容易に合成されて単離されている化合物の種類は限定されている。その中で市販されているものの数はさらに限定されている(例えば、非特許文献4参照)。従って、完全縮合型構造または不完全縮合型構造を有するPSQ誘導体を、広い用途において効果的に活用するためには、新規な置換基もしくは官能基を有するPSQ誘導体が提供されることが望まれていた。また、従来と比べてさらに短時間かつ低コストで製造できることも重要であった。
【0006】
本発明者等は、3官能の加水分解性基を有するシラン化合物を加水分解することにより得られる不定形構造を有するPSQを、有機溶媒中で1価のアルカリ金属水酸化物と反応させることにより、もしくは3官能の加水分解性基を有するシラン化合物を、有機溶剤、アルカリ金属水酸化物の存在下、加水分解、重縮合することにより、不完全縮合型構造を有する新規なPSQを短時間、且つ選択的に製造できることを見出した。(例えば、特許文献1参照)
【0007】
しかしながら、特許文献1にはシラノール基を官能基として骨格に有するPSQは開示されていない。そのため、シラノール基を有するPSQ(例えば、特許文献2参照)とアルコキシシランとを、アルカリ金属の水酸化物またはアンモニウムヒドロキシドを触媒として反応させ、反応性官能基を有するPSQ誘導体を得るといった方法に、新規なPSQを用いることは出来なかった。また、シラノール基を有するPSQ同士を脱水縮合させる
方法(例えば、特許文献3参照)を用いて、表面改質効果を有する新規なPSQの高分子量体を得ることも出来なかった。
【0008】
パーフルオロアルキル基を置換基に有するPSQは、PSQの用途をさらに広げるために以前から望まれていた。しかしながら市販されている不完全縮合型構造を有するPSQの中で、パーフルオロアルキル基を置換基に有するPSQは今まで存在していなかった。
【非特許文献1】Chem. Rev. 95, 1409(1995)
【非特許文献2】Organometallics, 10, 2526(1991)
【非特許文献3】Organometallics, 19, 1077(2000)
【非特許文献4】POSS CHEMICAL CATALOG, Hybrid Plastics (Feb. 2001)
【特許文献1】国際公開第02/094839号パンフレット
【特許文献2】米国特許出願公開第2003/0055193号明細書
【特許文献3】特開2000−281904号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
パーフルオロアルキル基を有するPSQは他の置換基では得られない表面改質剤としての利用が可能であり、さらに官能基にシラノール体を有することで両親媒性となり、界面活性剤としての機能も得られることが予想される。また、パーフルオロアルキル基を有するPSQの集合体もしくは金属アルコキサイドとの縮合により高分子量体を形成させることで表面自由エネルギーの大幅な改善が期待され、従来にない基板・コーティング材料を提供することが可能であるため、シラノール基を有するパーフルオロアルキルシルセスキオキサン誘導体が強く要望されていた。
本発明が解決しようとする課題は、パーフルオロアルキル基を置換基に持ち、さらに官能基としてシラノール基を骨格に有するPSQを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは鋭意研究を重ねた結果、特許文献1で示した、3官能の加水分解性基を有するシラン化合物を、有機溶剤、アルカリ金属水酸化物の存在下、加水分解、重縮合して得られる不完全縮合型構造PSQから、式(1)で示されるシルセスキオキサン誘導体を得る方法によれば、シラノール基を有するパーフルオロアルキルシルセスキオキサン誘導体を短時間、且つ選択的に製造できることを見出した。
また、本発明者らは、式(1)で示されるシルセスキオキサン誘導体は、特許文献2で開示されている、シラノール基を有するPSQとアルコキシシランとを、アルカリ金属の水酸化物またはアンモニウムヒドロキシドを触媒として反応させ、反応性官能基を有するPSQ誘導体を得るといった方法に使用可能であり、さらに、該シルセスキオキサン誘導体を用いて重縮合すれば、その高分子量体を得ることが可能であることを見出し、本発明を完成させた。
【0011】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
[1]式(1)で表されるシルセスキオキサン誘導体。
【化1】

式(1)において、Rfはそれぞれ任意の少なくとも1個の水素がフッ素に置き換えられた炭素数1〜30のアルキルの群から独立して選択される基である。
[2]式(1)において、Rfがそれぞれ−C24−Rf’で表される基であり、Rf’は炭素数1〜28のパーフルオロアルキルの群から独立して選択される基である、[1]のシルセスキオキサン誘導体。
[3]式(1)において、Rfがそれぞれ−C24−Rf’で表される基であり、Rf’は炭素数1〜28のパーフルオロアルキルの群から選択される同一の基である、[1]のシルセスキオキサン誘導体。
[4]式(2)で表されるシルセスキオキサン誘導体を用いる、[1]のシルセスキオキサン誘導体の製造方法。
【化2】

式(2)において、Rfはそれぞれ任意の少なくとも1個の水素がフッ素に置き換えられた炭素数1〜30のアルキルの群から独立して選択される基であり、Mは1価のアルカリ金属である。
[5][1]〜[3]の何れかのシルセスキオキサン誘導体を縮合して得られる重合体。[6][1]〜[3]の何れかのシルセスキオキサン誘導体と、式(3)で表される金属アルコキサイドおよび/または式(4)で表されるアルコキシシランとの加水分解縮合で得られる重合体。
M’(OR)m (3)
(RO)nSiR’4-n (4)
式(3)および(4)において、mは1〜5の整数であり;nは1〜4の整数であり;M’は1〜5価の金属であり;
RおよびR’は水素、炭素数1〜45のアルキルの群、置換もしくは非置換のアリールの群、および置換もしくは非置換のアリールアルキルの群から独立して選択される基であり;ここに、炭素数1〜45のアルキルにおいて、任意の水素はフッ素で置き換えられてもよく、任意の−CH2−は−O−、−CH=CH−、シクロアルキレン、またはシクロアルケニレンで置き換えられてもよく、置換もしくは非置換のアリールアルキルにおけるアルキレンにおいて、任意の水素はフッ素で置き換えられてもよく、任意の−CH2−は−O−、−CH=CH−またはシクロアルキレンで置き換えられてもよい。
[7][1]〜[3]の何れかのシルセスキオキサン誘導体と式(5)で示されるシラノール基を有するシルセスキオキサン誘導体との脱水縮合で得られる重合体。
【化3】

式(5)においてRは式(3)におけるRと同じ意味を有する。
【発明の効果】
【0012】
本発明のパーフルオロアルキル基を有するシルセスキオキサン誘導体は、他の置換基では得られない表面改質剤としての利用が可能であり、さらに官能基にシラノール体を有することで両親媒性となり、界面活性剤としての機能も得られることが予想できる。また、該シルセスキオキサン誘導体を用いて金属アルコキサイドもしくは国際公開第2005/000857号パンフレットで我々が開示した樹脂との相溶性が高いシラノール体と重縮合すれば、非常に特異的な高分子量体を得ることが可能であり、高分子量体を形成させることで表面自由エネルギーの大幅な改善効果が期待され、従来にない基板・コーティング材料を提供することが可能である。
また、本発明のシルセスキオキサン誘導体の製造方法によれば、式(1)で示されるシルセスキオキサン誘導体を短時間且つ選択的に製造することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下の説明では、式(1)で示されるシルセスキオキサン誘導体を化合物(1)と表記することがある。式(2)で示される化合物を化合物(2)と表記することがある。他の式で示される化合物についても同様の表現法で表記することがある。
【0014】
本発明のPSQ誘導体は、式(1)で示される。
【化4】

式(1)において、Rfのそれぞれは任意の少なくとも1個の水素がフッ素に置き換えられた炭素数1〜30のアルキル群から独立して選択される基である。すべてのRfが同一の基であることが好ましいが、7個のRfが異なる2種類以上の基で構成されていてもよい。
本発明中のアルキルは、直鎖の基であっても分岐された基であってもよい。また、本発明で用いる「任意の」は、位置のみならず個数も任意であることを示す。
【0015】
Rfの好ましい例は-C2H4-Rf'式で表されるもので、Rf'は炭素数1〜28のパーフルオロアルキルである。
-C2H4-Rf'式で表される置換基の例は、3,3,3−トリフルオロプロピル、3,3,4,4,4−ペンタフルオロブチル、3,3,4,4,5,5,5−ヘプタフルオロペンチル、3,3,4,4,5,5,6,6,6−ノナフルオロヘキシル、3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,7−ヘンデカフルオロヘプチル、トリデカフルオロ−1,1,2,2−テトラヒドロオクチル、ヘプタデカフルオロ−1,1,2,2−テトラヒドロデシル、パーフルオロ−1,1,2,2−テトラヒドロドデシル、パーフルオロ−1,1,2,2−テトラヒドロデシルなどである。
【0016】
次に化合物(1)の製造方法について説明する。化合物(1)は、化合物(2)を用いることによって容易に製造することができる。化合物(2)は、3官能の加水分解性基を有するケイ素化合物を、アルカリ金属水酸化物の存在下、含酸素有機溶剤中で加水分解し重縮合させることにより、容易にしかも収率よく製造することができる。式(2)において、Rfは式(1)における場合と同様に定義される。
【化5】

【0017】
式(2)において、Rfは式(1)におけるRfと同一であり、Mは1価のアルカリ金属原子である。アルカリ金属原子の例は、リチウム、カリウム、ナトリウム、セシウムなどであり、その中ではナトリウムが好ましい。
【0018】
化合物(2)から化合物(1)を合成する方法は、化合物(2)を酸と反応させることにより合成することができる。化合物(2)と酸との反応には、必要に応じ有機溶剤を用いることできる。化合物(2)を有機溶剤と混合し、この混合物に酸を滴下することにより反応を進行させる方法を用いることができる。
【0019】
この反応に用いられる前記の有機溶剤としては、反応の進行を阻害するものでなければ特に制限はない。例えば、ヘキサンやヘプタンなどの脂肪族炭化水素類、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサンなどのエーテル類、塩化メチレン、四塩化炭素などのハロゲン化炭化水素類などであり、好ましくはテトラヒドロフランである。
【0020】
溶剤に混合するときの化合物(2)の好ましい割合は、溶剤の重量に基づいて0.05〜50重量%である。50%以下であれば、副成塩の濃度を低くすることができ、反応を進行させるのに有利である。また、0.05重量%以上であれば容積効率がよくコスト上好ましい。そして、より好ましい割合は、1〜10重量%である。
【0021】
この反応に用いられる酸はプロトン供与体(ブレンステッド酸)であり、化合物(2)と反応し、化合物(1)を得ることのできる化合物であれば特に制限はない。例えば、シ
アン酸、イソシアン酸、チオシアン酸、イソチオシアン酸、硝酸、亜硝酸、硫酸、亜硫酸、炭酸、塩酸、臭素酸、リン酸、ホウ酸、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、ステアリン酸、シュウ酸、シュウ酸水素、マロン酸、コハク酸、アジピン酸、アクリル酸、メタクリル酸、オレイン酸、マレイン酸、クロロギ酸、クロロ酢酸、トリフルオロ酢酸、シクロヘキサンカルボン酸、ピバル酸、安息香酸、トルイル酸、ナフトエ酸、フタル酸、ケイ皮酸、ニコチン酸、チオフェンカルボン酸、S−チオ酢酸、ジチオ酢酸、S−チオ安息香酸、ジチオ安息香酸、チオ炭酸、トリチオ炭酸、キサントゲン酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、フェニルホスホン酸、ジフェニルホスフィン酸を例示することができるが、好ましくは有機酸であり、より好ましくはカルボン酸であり、さらに最も好ましくは酢酸である。
【0022】
これらの酸を使用する場合の使用割合は、化合物(2)に対して4倍モル以上使用すれば反応を完結することが出来る。該使用割合が個の範囲であれば、好ましくない副反応を引き起こす可能性が小さく、後処理工程で用いる中和剤の量が少量で済み効率的である。さらに該使用割合は化合物に対して4倍モル以上10倍モル以下であることが好ましい。
【0023】
反応温度は室温でもよく、反応を促進させるために必要に応じて加熱してもよい。または、反応による発熱または好ましくない反応等を制御する目的で、必要に応じて冷却してもよい。
【0024】
また、反応時間は0.5〜8時間である。しかしながら一般的に反応時間は原料の反応性の他、原料濃度、反応温度、装置の形状(攪拌効率)、生成物または副生成物の形状などの影響を受けるので、この反応時間の範囲は本発明を限定することを意味しない。
【0025】
次に、化合物(2)の製造方法について説明する。化合物(2)は、化合物(2')を1価のアルカリ金属水酸化物および水の存在下で加水分解し、縮合させることによって得られる。
【化6】

式(2')において、Rfは式(2)における場合と同様に定義され、Aは加水分解性の基である。Aの好ましい例は塩素およびアルコキシである。このアルコキシは加水分解によって分離される基であるから、その炭素数の範囲を限定することにはあまり意味がない。しかしながら、入手しやすいことを考慮すると、アルコキシの好ましい炭素数は1〜4である。
【0026】
化合物(2')の具体例は、3,3,3−トリフルオロプロピルトリメトキシシラン、3,3,3−トリフルオロプロピルトリエトキシシラン、トリデカフルオロ−1,1,2,2−テトラヒドロオクチルトリエトキシシランなどである。
【0027】
1価のアルカリ金属水酸化物の例は、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化セシウムなどである。これらのうち、水酸化ナトリウムおよび水酸化カリウムが好ましい。化合物(2)の製造における、1価のアルカリ金属水酸化物の使用量は、化合物(2')に対するモル比で、0.2〜1.5である。より好ましいモル比は0.3〜0.6である。このモル比の範囲内であれば、環状または直鎖状の低分子量のシロキサ
ン化合物や、高分子量のシロキサン化合物の生成が防止され、構造の規制された化合物(2)が得られ易い。
【0028】
添加する水の量は、化合物(2')に対するモル比で1.0〜1.5である。より好ましいモル比は1.2〜1.4である。このモル比の範囲内であれば、加水分解性基の残存、低分子量のシロキサン化合物の生成、構造が規制されていない高分子量のシロキサン化合物の生成などを防止することができる。なお、水の添加時期については特別な制限はない。あらかじめ他の原料と混合してもよいし、後から添加してもよい。
【0029】
さらに、化合物(2')の加水分解反応は、有機溶剤の存在下で実施することが好ましい。有機溶剤の好ましい例はテトラヒドロフランである。
【0030】
上記のように有機溶剤を使用することは好ましいが、その使用量については特に制限されない。有機溶剤の使用量を決定するための要因は、エネルギー効率や時間効率などの経済的観点、および化合物(2)の有機溶剤に対する溶解性が小さいことによる攪拌効率などである。従って厳密に守るべき使用量範囲はないが、上記の要因を考慮して、化合物(2')に対する容量比で0.3〜50倍を目安とすればよい。より好ましい容量比は5〜40倍であろう。原料として用いる化合物(2')に応じて、上記の製造条件の範囲内で最適な条件を採用することが肝要である。
【0031】
化合物(2)は、有機溶剤を含む反応液を加熱濃縮するに従い析出し始める。析出するまでに要する時間は、使用した有機溶剤および、使用量などの条件によって異なるが、通常は数分〜数十時間である。そして析出した化合物(2)は、濾過により簡便に、溶剤と分離することができる。
【0032】
このようにして得られた化合物(2)は有機溶剤に対する溶解性が低いため、その構造を解析するための分析手法が制限される。従って、構造を分析する際には、結合している1価のアルカリ金属を、トリメチルクロロシランによりトリメチルシリル基に置換することが必要である。このようにして、化合物の溶剤への溶解性を向上させれば、構造解析を行うことができる。
【0033】
上記のRfと加水分解性基とを有する化合物(2')には、市販されているものが多い。市販されていない化合物は、ハロゲン化シランをグリニャール試薬と反応させる等の公知技術により合成することができる。そして、化合物(2)を合成するに際し、化合物(2')を少なくとも2つ用いれば、式(2)中の7個のRfが少なくとも2つの異なる基で構成された化合物(2)が得られる。
【0034】
次に化合物(1)を用いた重合体について説明する。一般にシラノール基を有するPSQは公知技術により重合することができる。
例えば、シラノール基を有するPSQ化合物(1)と、(3)および(4)式で示す金属アルコキサイドもしくはアルコキシシランとは、アルカリ金属の水酸化物またはアンモニウムヒドロキシド等を触媒として反応させることで、反応性活性基を有するPSQ誘導体を得ることが可能である。金属アルコキサイド及びアルコキシシランのいずれか一方と重合させてもよいし、両方と重合させてもよい。
M'(OR)m m=1〜5 (3)
(RO)nSiR'4-n n=1〜4 (4)
式(3), (4)においてRおよびR'は水素、炭素数1〜45のアルキルの群、置換もしくは非置換のアリールの群および置換もしくは非置換のアリールアルキルの群から独立して選択される基である。また、M'は1〜5価の金属原子である。
化合物(3)において好ましい例はアルミニウム(III)エトキサイド、アルミニウム
(III)イソプロポキサイド、マグネシウムエトキサイド、マグネシウムメトキサイド、チタンエトキサイド、チタンメトキサイドである。
また、化合物(4)において好ましい例はテトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシランが挙げられる。
【0035】
末端にシラノール基を有するPSQ同士の重合は、酢酸エチルやアセトン等の溶媒中、トリエチルアミンを代表とする塩基性物質の存在下で、脱水縮合させることで容易に重合体を得ることが可能である。
この脱水縮合は化合物(1)同士で行えるほか、フェニルトリシラノールの様なシラノール化合物を加えることでも重合できる。
また、特に好ましい重合体の例は、化合物(1)と(5)式で表わされるシラノール基を有するシルセスキオキサン誘導体(国際公開第2005/000857号パンフレット)との脱水縮合で得られる重合体である。
【化7】

化合物(5)において好ましい例はRがフェニル基で表わされるシルセスキオキサン誘導体である。
【0036】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって制限されない。なお実施例において平均分子量は、テトラヒドロフラン(THF)を溶剤とするゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によって測定し、標準ポリスチレンを用いて作製した校正曲線から算出した値であり未補正である。核磁気共鳴スペクトルは重クロロホルムを溶剤に、テトラメチルシランを内部標準物質として測定した。
【実施例1】
【0037】
<化合物(2−1)の製造>
還流冷却器、温度計、滴下漏斗を取り付けた内容積1リットルの4つ口フラスコに、トリフルオロプロピルトリメトキシシラン(100g)、THF(500ml)、イオン交換水(10.5g)および水酸化ナトリウム(7.9g)を仕込み、マグネチックスターラーで攪拌しながら、室温からTHFが還流する温度までオイルバスにより加熱した。還流開始から5時間撹拌を継続して反応を完結させた。その後、フラスコをオイルバスから引き上げ、室温で1晩静置した後、再度オイルバスにセットし固体が析出するまで常圧下で加熱濃縮した。析出した生成物は孔径0.5μmのメンブランフィルターを備えた加圧濾過器を用いて濾過した。次いで、得られた固形物をTHFで1回洗浄し、減圧乾燥機にて80℃、3時間乾燥を行い、74gの白色粉末状の固形物を得た。
【0038】
<化合物(2−1)の構造確認>
滴下漏斗、還流冷却器、温度計を取り付けた内容積50mlの4つ口フラスコに、上記の白色粉末状の固形物(1.0g)、THF(10g)、およびトリエチルアミン(1.0g)を仕込み、乾燥窒素にてシールした。マグネチックスターラーで撹拌しながら、室
温でクロロトリメチルシラン(3.3g)を約1分間で滴下した。滴下終了後、室温で更に3時間撹拌を継続して反応を完結させた。ついで、純水(10g)を投入して、副成した塩化ナトリウムを溶解し、未反応のクロロトリメチルシランを加水分解した。このようにして得られた反応混合物を分液漏斗に移して有機層と水層とに分離し、得られた有機層にイオン交換水を用いて洗浄液が中性になるまで水洗を繰り返した。この有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥し、ロータリーエバポレーターで減圧濃縮して、0.9gの白色粉末状の固形物を得た。
【0039】
得られた白色粉末状の固形物について、GPC、1H−NMR、29Si−NMR、および13C−NMRにより構造解析を行った。GPCチャートから白色粉末状の固形物は単分散性を示し、その分子量はポリスチレン換算で重量平均分子量1570、純度98重量%であることが確認された。1H−NMRチャートから、トリフルオロプロピル基とトリメチルシリル基が7:3の積分比で存在することが確認された。29Si−NMRチャートから、トリフルオロプロピル基を有しT構造に由来するピークが1:3:3の比で3つ、トリメチルシリル基に由来するピークが12.11ppmに1つ存在することが確認された。13C−NMRチャートでも131〜123ppm、28〜27ppm、6〜5ppmにトリフルオロプロピル基に由来するピークが存在し、1.4ppmにトリメチルシリル基に由来するピークが存在することが確認された。これらの値は、構造解析の対象である白色粉末状の固形物が式(a)の構造を有することを示している。従って、トリメチルシリル化される前の化合物は、式(2−1)の構造であると判断される。
【化8】

【実施例2】
【0040】
<化合物(2−2)の製造>
還流冷却器、温度計、滴下漏斗を取り付けた内容積50mlの4つ口フラスコに、トリデカフルオロ−1,1,2,2−テトラヒドロオクチルトリエトキシシラン(4.9g)、THF(15ml)、水酸化ナトリウム(0.2g)およびイオン交換水(0.2g)を仕込み、マグネチックスターラーで撹拌しながら加熱した。75℃で還流が開始してから5時間撹拌を継続して反応を完結させた。その後、フラスコをオイルバスから引き上げ、室温で1晩静置した後、再度オイルバスにセットし固体が析出するまで定圧下で加熱濃縮した。析出した生成物は孔径0.5μmのメンブランフィルターを備えた加圧濾過器を用いて濾過した。次いで、得られた固形物をテトラヒドロフランで1回洗浄し、減圧乾燥機にて80℃で3時間乾燥して、4.0gの白色粉末状の固形物を得た。
【0041】
<化合物(2−2)の構造確認>
内容積50mlの3つ口フラスコに、上記の粉末状固体(2.6g)、THF(10g)、トリエチルアミン(1.0g)およびトリメチルクロロシラン(3.3g)を仕込み、マグネチックスターラーで攪拌しながら室温で3時間撹拌した。反応終了後、実施例1の化合物(1−1)の構造確認における場合と同様に処理して、1.3gの粉末状固体を得た。
【0042】
得られた粉末状固体を、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により分析した。測定を行った結果、白色粉末状の固形物は単分散であり、その分子量はポリスチレン換算で重量平均分子量3650(未補正)で、純度100%であることが確認された。この結果と実施例1の結果から総合的に判断して、分析の対象である粉末状固体は式(b)で示されるケイ素化合物であると推定された。従って、実施例2で得られた化合物は、式(2−2)で示される構造を有すると示唆された。
【化9】

【実施例3】
【0043】
<化合物(1−1)の合成>
滴下ロート、温度計を備えた300mlの4つ口フラスコに実施例1で得られた化合物(2−1)(5g)、および酢酸ブチル(50g)を仕込み、乾燥窒素にてシールした。反応容器は氷浴中に設置し、マグネチックスターラーで撹拌しながら酢酸(0.5g)を滴下した。滴下終了後、氷浴のまま1時間撹拌を継続し、反応を完結させた。反応容器を室温に戻した後、反応液を純水(100ml)にて洗浄(3回)した。その後、ロータリーエバポレータを用いて溶媒を留去し、そのまま減圧乾燥(50℃、1時間)を行なって、透明な粘ちょう性液体4.3gを得た。
【0044】
このようにして得られた化合物のGPC測定を行った結果、粘ちょう性液体は単分散性を示し、その分子量はポリスチレン換算で重量平均分子量1490、純度100重量%であることが確認された。さらにIRを用いて解析した結果、Si−OHの伸縮に基づく吸収(3400cm-1付近)を確認した。従って、得られた化合物は式(1−1)で示される構造を有することが示唆された。
【化10】



【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1)で表されるシルセスキオキサン誘導体。
【化1】

式(1)において、Rfはそれぞれ任意の少なくとも1個の水素がフッ素に置き換えられた炭素数1〜30のアルキルの群から独立して選択される基である。
【請求項2】
式(1)において、Rfがそれぞれ−C24−Rf’で表される基であり、Rf’は炭素数1〜28のパーフルオロアルキルの群から独立して選択される基である、請求項1に記載のシルセスキオキサン誘導体。
【請求項3】
式(1)において、Rfがそれぞれ−C24−Rf’で表される基であり、Rf’は炭素数1〜28のパーフルオロアルキルの群から選択される同一の基である、請求項1に記載のシルセスキオキサン誘導体。
【請求項4】
式(2)で表されるシルセスキオキサン誘導体を用いる、請求項1記載のシルセスキオキサン誘導体の製造方法。
【化2】

式(2)において、Rfはそれぞれ任意の少なくとも1個の水素がフッ素に置き換えられた炭素数1〜30のアルキルの群から独立して選択される基であり、Mは1価のアルカリ金属である。
【請求項5】
請求項1〜3の何れか1項記載のシルセスキオキサン誘導体を縮合して得られる重合体。
【請求項6】
請求項1〜3の何れか1項記載のシルセスキオキサン誘導体と、式(3)で表される金属アルコキサイドおよび/または式(4)で表されるアルコキシシランとの加水分解縮合で得られる重合体。
M’(OR)m (3)
(RO)nSiR’4-n (4)
式(3)および(4)において、mは1〜5の整数であり;nは1〜4の整数であり;M’は1〜5価の金属であり;
RおよびR’は水素、炭素数1〜45のアルキルの群、置換もしくは非置換のアリールの群、および置換もしくは非置換のアリールアルキルの群から独立して選択される基であり;
ここに、炭素数1〜45のアルキルにおいて、任意の水素はフッ素で置き換えられてもよく、任意の−CH2−は−O−、−CH=CH−、シクロアルキレン、またはシクロアルケニレンで置き換えられてもよく、
置換もしくは非置換のアリールアルキルにおけるアルキレンにおいて、任意の水素はフッ素で置き換えられてもよく、任意の−CH2−は−O−、−CH=CH−またはシクロアルキレンで置き換えられてもよい。
【請求項7】
請求項1〜3の何れか1項記載のシルセスキオキサン誘導体と式(5)で示されるシラノール基を有するシルセスキオキサン誘導体との脱水縮合で得られる重合体。
【化3】

式(5)においてRは、請求項6に記載の式(3)におけるRと同じ意味を有する。

【公開番号】特開2007−31327(P2007−31327A)
【公開日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−215623(P2005−215623)
【出願日】平成17年7月26日(2005.7.26)
【出願人】(000002071)チッソ株式会社 (658)
【Fターム(参考)】