シランカップリング剤、歯科用コンポジットレジン、及びこのシランカップリング剤を含む歯科用プライマー
【課題】時間の経過による機械的強度の低下がより少ないシランカップリング剤、このシランカップリング剤を用いた歯科用コンポジットレジン及び歯科用プライマーを提供する。
【解決手段】下記の一般式(1)で示されるシランカップリング剤とした。
〔式中、Rは主鎖内にフルオロアルキレン基を有する基であり、Xは有機官能性基であり、Yは加水分解性基であり、Zは炭素数1から4のアルキル基であり、nは0から2の整数である。〕
【解決手段】下記の一般式(1)で示されるシランカップリング剤とした。
〔式中、Rは主鎖内にフルオロアルキレン基を有する基であり、Xは有機官能性基であり、Yは加水分解性基であり、Zは炭素数1から4のアルキル基であり、nは0から2の整数である。〕
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接着剤に用いられるシランカップリング剤に関する。より詳しくは、歯冠修復用材料に用いられるシランカップリング剤、歯科用コンポジットレジン、及びこのシランカップリング剤を含む歯科用プライマーに関する。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂のような合成樹脂は、成形材料として広く用いられている。しかし、これらの合成樹脂は、成形物の用途によっては、単独で使用した場合に十分な寸法安定性や、機械的強度、耐熱性等を示さないことがある。これらの合成樹脂の欠点を改善する方法として、無機充填剤の添加による改質が広く行われている。しかし、ガラス繊維を始めとする無機充填剤は、合成樹脂との接着性が必ずしも十分とは言えず、成形物への使用に際して無機充填剤と合成樹脂との界面における剥離による強度の低下が見られた。
【0003】
これを改善するため、シランカップリング剤による無機充填剤の表面処理が提案されている。シランカップリング剤は、加水分解したシラノールの脱水縮合によりオリゴマーが生成される。そして、そのオリゴマーが無機材料表面の水酸基と水素結合を形成することにより、無機材料と結合する。その後、無機材料を熱による乾燥処理をすることにより、脱水・縮合反応が生じてより強固な化学結合となる。そのため、シランカップリング剤で表面処理された無機充填剤は、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリプロピレン樹脂等の熱可塑性樹脂の強化材料として広く用いられている。
【0004】
これらシランカップリング剤の使用によって、無機充填剤と合成樹脂との接着性は向上し、成形品の機械的強度や耐熱性も向上した。しかし、高温多湿な使用条件では、時間と共に無機充填剤と合成樹脂層間のシランカップリング剤層が加水分解を受け、接着力が失われ、成形物の強度が低下する現象が観察される。このため、耐水性に優れた無機充填剤強化合成樹脂成形物、及びそれに適したシランカップリング剤が求められている。
【0005】
中でも、虫歯や歯の欠損時の治療に使用される歯冠修復用材料に用いるコンポジットレジンは、生物学的に安全な材料であることは言うまでもなく、歯質に近い物性を有していることが好ましい。具体的には、歯質との高い密着性を有していること、歯質に近い機械強度・熱膨張係数を有していること、吸水性が低く、崩壊性や溶解性が低いこと、等が挙げられる。
【0006】
現在では、自然歯との色調の適合性が良好で、圧縮強さ(2500kgf/cm2から3000kgf/cm2)が高く、唾液に不活性な歯科用コンポジットレジンが開発されている(特許文献1、非特許文献1参照)。また、このような歯科用コンポジットレジンの力学物性は、主成分であるシランカップリング剤の特性の影響を受けている。従って、優れた力学物性を有する歯科用コンポジットレジンを提供するためには、優れた機械的強度と、耐加水分解性を有するシランカップリング剤の開発が必要である。現在、シランカップリング剤には、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(以下、3MPSとする)が優れた機械的強度を有するとして、広く用いられている。
【0007】
特許文献1には、シランカップリング剤1質量部に対して、リン酸モノエステル0.001質量部から50質量部添加することにより、従来よりも短い待ち時間で凝固し、かつ、歯質と高い密着性を有する歯科用コンポジットレジンを提供することができる旨が開示されている。
【0008】
更に、非特許文献1では、3MPSの経時的な加水分解を防止するために、ポリフルオロトリメトキシシランと3MPSを混合した歯科用コンポジットレジンが開示されている。この歯科用コンポジットレジンは、3MPSとポリフルオロトリメトキシシランが共縮合反応によりシロキサンネットワークを形成するため、3MPSを単独で使用した場合と比べ、優れた耐水性を有している。
【特許文献1】特開平7−277913号公報
【非特許文献1】山中秀起,日歯保誌,35(5),1288(1992)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、歯科用コンポジットレジンの弱点として、時間の経過による機械的強度の低下や、耐摩耗性の不足等が挙げられる。上記特許文献1,2に開示されている歯科用コンポジットレジンでは、このような点については検討されていない。また、3MPSも時間の経過と共に加水分解が進行しやすく、コンポジットレジンの機械的強度の低下を引き起こす場合がある。
【0010】
更に、非特許文献1に記載の歯科用コンポジットレジンは、常温下では3MPSの加水分解が抑制されているものの、口腔内の環境を考慮した条件(急激な温度変化や湿度変化等)での加水分解までは抑制することができない。
【0011】
以上の課題に鑑み、本発明は、時間の経過による機械的強度の低下がより少ないシランカップリング剤、このシランカップリング剤を用いた歯科用コンポジットレジン及び歯科用プライマーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、シランカップリング剤の主鎖に、フルオロアルキレン基及び芳香族炭化水素基を導入することによって、時間の経過による機械的強度の低下を抑制することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
(1) 下記の一般式(1)で示されるシランカップリング剤。
【化1】
〔式中、Rは主鎖内にフルオロアルキレン基を有する基であり、Xは有機官能性基であり、Yは加水分解性基であり、Zは炭素数1から4のアルキル基であり、nは0から2の整数である。〕
【0014】
(2) 前記Rは、主鎖内に置換基を有していてもよい2価の芳香族炭化水素基を更に有する(1)に記載のシランカップリング剤。
【0015】
(3) 前記Rは、下記の一般式(2)で示される(1)又は(2)に記載のシランカップリング剤。
【化2】
〔式中R1,R3は、それぞれ独立して置換基を有していてもよい2価の芳香族炭化水素基、アルキレン基、オキシアルキレン基、及びこれらが結合した基より選択される基であり、R2は、炭素数1から10のフルオロアルキレン基である。〕
【0016】
(4) 下記の構造式(3)で示される(1)から(3)いずれかに記載のシランカップリング剤。
【化3】
【0017】
(5) (1)から(4)いずれかに記載のシランカップリング剤で改質されたフィラーを含む歯科用コンポジットレジン。
【0018】
(6) (1)から(4)いずれかに記載のシランカップリング剤1質量部に対して、0.001質量部から100質量部の有機リン酸化合物を含む歯科用プライマー。
【0019】
(1)から(4)に記載の発明によれば、シランカップリング剤の主鎖に、フルオロアルキレン基を導入したことによって、シロキサン結合の加水分解を抑制することができるため、シランカップリング剤に高い耐水性を付与することができる。さらに、主鎖に置換基を有してもよい2価の芳香族炭化水素基を導入したことによって、高い耐熱性も付与することができる。また、芳香族炭化水素基は、相互にπーπスタッキングしてより強固な結合となるため、加水分解の抑制にもつながる。その結果、(1)から(4)に記載の発明に係るシランカップリング剤によって、無機充填剤と合成樹脂との接着強度を向上させることができる。
【0020】
更に、(5)及び(6)の発明によれば、シランカップリング剤を歯科用コンポジットレジンや歯科用プライマーに用いたことによって、時間の経過による機械的強度の低下がより少ない歯科用コンポジットレジン及び歯科用プライマーを提供することができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、主鎖にフルオロアルキレン基及び芳香族炭化水素基を導入したことによって、耐水性及び接着強度を向上させることができる。従って、時間の経過による機械的強度の低下がより少ないシランカップリング剤及び、このシランカップリング剤を用いた歯科用コンポジットレジンを提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態について説明する。
【0023】
本発明は、下記の一般式(1)で示されるシランカップリング剤である。
【化4】
〔式中、Rは主鎖内にフルオロアルキレン基を有する基であり、Xは有機官能性基であり、Yは加水分解性基であり、Zは炭素数1から4のアルキル基であり、nは0から2の整数である。〕
【0024】
ここで、Xの「有機官能性基」とは、有機材料と結合する置換基をもつ炭素官能性基をいう。具体的には、ビニル基、エポキシ基、アミノ基、メタクリル基等が挙げられる。中でも、光重合が可能であり、適度な重合速度を有し、かつ、生体安定性がよいことからメタクリル基であることが好ましい。また、Yの「加水分解性基」とは、加水分解性の置換基で無機質と反応する基をいう。具体的には、クロロ基、アルコキシ基、イソシアナート基、アミノ基等が挙げられる。中でも、保存安定性や操作性がよいことからアルコキシ基であることが好ましい。
【0025】
また、Zの「炭素数1から4のアルキル基」とは、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、等が挙げられる。このうちコンパクトで結合密度の高いシラン層の構築が可能になるという観点で、メチル基又はエチル基であることが好ましい。
【0026】
また、Rの「フルオロアルキレン基」は、炭素数1から10の直鎖状のアルキレン鎖であることが好ましく、炭素数が4から8の直鎖状であることがより好ましい。具体的には、−CF2−、−CHF−、−(CF2)4−、−(CF2)6−、−(CF2)8−、−CClF−、−C2F4−、−CF2CF2−、−CClFCF2−、−(CF3)2C−、−CF2CF2CF2−、−(CHF2)2C−、−(CF3)(CHF2)C−、−(CF3)2CCF2CF2−、−(CF3)2C(CF2CF2)2−、等が挙げられる。中でも材料の表面を改質した際に、単位面積当たりの分子数を増大させることができる直鎖構造を有し、適度な撥水性及び撥油性を有しており、かつ、有機物への相溶性を有しているという理由で−(CF2)4−、−(CF2)6−、−(CF2)8−であることが好ましい。
【0027】
またRは、主鎖内に置換基を有していてもよい2価の芳香族炭化水素基を更に有することが好ましい。ここで、「置換基を有していてもよい2価の芳香族炭化水素基」は、多くとも3個、好ましくは1個の置換基を有していてもよい。芳香族炭化水素基としては、炭素数6から20、好ましくは炭素数6から10を有するものであり、このような芳香族炭化水素環を形成する環の例としては、ベンゼン環、ナフタレン環等が挙げられる。中でもベンゼン環を有するであることが好ましい。具体的には下記のような構造式を有するものが好ましい。
【化5】
[式中、R4及びR5はそれぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、メチル基、エチル基、−CF3、−C2F5を示す。]
【0028】
またRは、下記の一般式(2)で示される基であることがより好ましい。
【化6】
〔式中R1,R3は、それぞれ独立して置換基を有していてもよい2価の芳香族炭化水素基、アルキレン基、オキシアルキレン基、及びこれらが結合した基より選択される基であり、R2は、炭素数1から10のフルオロアルキレン基である。〕
【0029】
ここで、R1,R3の「置換基を有していてもよい2価の芳香族炭化水素基」は、上記と同様にフェニレン基であることがより好ましい。また、「置換基を有していてもよいアルキレン基」のアルキレン基としては、メチレン、エチレン、プロピレン、iso−プロピレン、n−ブチレン、iso−ブチレン、sec−ブチレン、tert−ブチレン、ペンチレン、iso−ペンチレン、sec−ペンチレン、ヘキシレン、ヘプチレン、オクチレン、2−エチルヘキシレン等の炭素数1から10のアルキレン基が挙げられる。中でも分子の直線性の維持という観点から、炭素数1から4のアルキレン基を用いることが好ましい。
【0030】
また、アルキレン基の置換基としては、特に制限されず、炭化水素基、ヘテロ原子含有炭化水素基など、その目的および用途に対応する置換基を適宜用いることができる。
【0031】
また、「置換基を有していてもよいオキシアルキレン基」のアルキレン基及び置換基も、上記のアルキレン基及び置換基と同様の基を用いることが好ましい。
【0032】
具体的には、下記のような構造を有するシランカップリング剤であることが好ましい。
【化7】
【0033】
上記の構造は、ベンゼン環の相互作用(π−πスタッキング)を有するため、主鎖の平面性が高く、分子の直線性も高い。中でも適度な撥水性及び撥油性を有しており、有機物への相溶性を有していることから下記の構造を有することが好ましい。
【化8】
【0034】
<シランカップリング剤の製造方法>
本発明に係るシランカップリング剤は、例えば下記のような合成スキームで製造する。
【化9】
【0035】
また、下記のような合成スキームによっても製造することができる。
【化10】
【0036】
上記の合成スキームに用いられる溶媒は、非プロトン性であれば特に制限はないが、極性溶媒であることが好ましい。非プロトン性の極性溶媒としては、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン(THF)、1,3−ジメトキシエタン、1,4−ジオキサン等のエーテル類;N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N−ジメチルアセトアミド、ヘキサメチルリン酸トリアミド(HMPT)等のアミド類;ジクロロメタン、ジメチルスルホキシド(DMSO)、アセトニトリル等が挙げられる。これらの溶媒は、単独あるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0037】
また、上記の合成スキームに用いられる水素化ナトリウム以外にも水素化カリウム、水素化カルシウムのような金属水素化物を用いることが可能である。
【0038】
このようにして製造されるシランカップリング剤は、例えば、ガラスやシリコンウエハ、有機樹脂、各種金属の表面に、水酸基を有する無機物質基板に、核酸や蛋白質、抗体などの生体関連有機分子を固定化するのに用いることができる。
【0039】
また、複合材料の改質剤としても使用できる。即ち、表面改質剤としてフィラーの疎水化、及び分散性の向上、その他有機樹脂の改質等に用いることができる。また、材料の物理強度や耐水性、接着性の向上のために用いることができる。
【0040】
<歯科用コンポジットレジンの製造方法>
本発明に係るシランカップリング剤を用いて歯科用コンポジットレジンを製造する方法を説明する。「歯科用コンポジットレジン」とは、本発明に係るシランカップリング剤と有機リン酸化合物に、さらにラジカル重合可能なモノマーとフィラーと重合開始剤が加えられたものをいう。
【0041】
ラジカル重合可能なモノマーとしては、(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリルアミド、ビニルエステル等が挙げられる。フィラーとしては石英、硅石、ガラス、ジルコニア、アルミナ、炭酸カルシウムなどの無機フィラー、アエロジル(登録商標)を樹脂と混ぜて固めてから粉砕した有機・無機複合フィラー、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、ポリアミド、ポリイミド、ポリ塩化ビニル、ポリスチレンなどの有機フィラー等が挙げられる。有機リン酸化合物としては、例えばリン酸モノエステルが挙げられる。また、重合開始剤としては、アゾビスイソブチロニトリルのほか、BPO−アミン系、スルフィン酸塩−BPO−アミン系などのレドックス系重合開始剤やα−ジケトン、α−ジケトン−スルフィン酸塩、ベンゾインエ−テルなどの光重合開始剤が挙げられる。
【0042】
具体的な製造方法としてはまず、上記のフィラーの表面を、本発明に係るシランカップリング剤を用いて処理する。具体的には、溶剤へフィラー及びシランカップリング剤を分散させた後に、溶剤を除去する方法や、フィラーをブレンダーで撹拌しながら、シランカップリング剤をスプレー添加して加熱処理する方法等が挙げられる。
【0043】
上記の方法に用いられる溶剤としては、ヘキサン、ヘプタン、デカン、ベンゼン、トルエン、エチルベンゼン、キシレン、メシチレン、ジエチルベンゼン、シクロヘキサン、クロロホルム、ジクロロエタン、トリクロロエタン、四塩化炭素等が挙げられる。
【0044】
次いで、表面処理されたフィラーに、ラジカル重合可能なモノマー、重合開始剤を一括して混合してペースト状にする。必要に応じて重合禁止剤、顔料、紫外線吸収剤等を、適宜添加して歯科用コンポジットレジンを得る。
【0045】
なお、この歯科用コンポジットレジンにおける、表面処理されたフィラーの添加量は、ラジカル重合可能なモノマー100質量部に対して100質量部から200質量部であり、120質量部から150質量部であることがより好ましい。更に、重合開始剤の添加量は、ラジカル重合可能なモノマー100質量部に対して0.1質量部から20質量部であり、1質量部から10質量部であることがより好ましい。
【0046】
<歯科用プライマーの製造方法>
本発明に係るシランカップリング剤を、歯科用プライマーとして用いる方法を説明する。「歯科用プライマー」とは、歯の象牙質またはエナメル質の表面処理のために用いる処理剤をいう。具体的には、シランカップリング剤、有機リン酸化合物を、水や揮発性有機溶剤に溶解させたものをいい、水や揮発性有機溶剤を添加しているという点で歯科用コンポジットレジンと異なる。また、上記のラジカル重合可能なモノマーを添加してもよい。
【0047】
有機リン酸化合物としては、例えばリン酸モノエステルが挙げられる。
【0048】
この歯科用プライマーに用いられる揮発性有機溶剤としては、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、アセトン、酢酸エチル、イソプロピルエーテル、等常圧における沸点が150℃以下の揮発性有機溶剤が挙げられる。シランカップリング剤の添加量は、上記の揮発性有機溶剤100質量部に対して、2質量部であることが好ましい。また、有機リン酸化合物の添加量は、シランカップリング剤100質量部に対して0.05質量部から150質量部であることが好ましく、0.1質量部から100質量部であることがより好ましい。
【実施例】
【0049】
<合成例1>
[3−(6’メタクロイルオキシ−2’,2’,3’,3’,4’,4’,5’,5’−オクタフルオロヘキシルオキシ)プロピルトリメトキシシラン(以下、M4FPSとする)の合成]
下記の合成スキームに従って3−(6’メタクロイルオキシ−2’,2’,3’,3’,4’,4’,5’,5’−オクタフルオロヘキシルオキシ)プロピルトリメトキシシラン(3−(6’methacroyloxy−2’,2’,3’,3’,4’,4’,5’,5’−octafluorohexyloxy)propyltrimethoxysilane)の合成を行った。
【化11】
【0050】
まず、中間体である6−allyloxy−2,2,3,3,4,4,5,5−octafluoro−1−hexanol(以下、H4FA6とする)の合成を行った。
【0051】
窒素雰囲気の下、50mlナスフラスコ(A)に、水素化ナトリウム1.33g(55.4mmol)を採取した。また、300mlナスフラスコ(B)に2,2,3,3,4,4,5,5−octafluoro−1,6−hexanediolを14.4g(55.0mmol)と、テトラヒドロフラン200mlの混合溶液を採取した。窒素雰囲気下、L字形ガラスチューブを経由して、ナスフラスコ(A)中の水素化ナトリウム1.33gを、ナスフラスコ(B)に少量ずつ加えた。これを76℃で20時間加熱還流し、上記ジオールの片末端をナトリウムアルコキシドにした。
【0052】
その後氷冷下で、滴下ロートよりアリルブロミド6.90g(57.0mmol)を滴下し、70℃で20時間加熱した。過剰の未反応アリルアミドと、溶媒のテトラヒドロフランを除去した後、50mlのヘキサンを加え、未反応水素化ナトリウムと、生じた臭化ナトリウムをろ別して除去した。ヘキサンを減圧留去し、無色液体のH4FAを得た。このH4FAの沸点は、58℃/7Paから60℃/7Paであり、収率は80.8%であった。また、同定は、FT−IR、GC−MS、1H−NMRを用いた。その結果を図1から図3に示す。
【0053】
次いで、このH4FAから1−allyloxy−6−methacryloyloxy−2,2,3,3,4,4,5,5−octafluorohexane(以下、M4FAとする)の合成を行った。
【0054】
窒素雰囲気の下、300mlナスフラスコに、水素化ナトリウム1.55g(64.6mmol)と、テトラヒドロフラン100mlを採取し、氷冷下で、滴下ロートよりH4FA13.4g(44.4mmol)をゆっくり滴下した。その後、反応系の沸点で、20時間攪拌した。このようにして、H4FAのヒドロキシ基をナトリウムに変えた後、系を氷冷し、メタクリル酸クロリド6.80g(65.0mmol)を滴下した。
【0055】
その後、反応系の沸点で、20時間攪拌した。過剰の未反応メタクリル酸クロリドと溶媒のテトラヒドロフランを減圧留去、ヘキサンを加え、過剰の未反応水素化ナトリウムと生じた塩化ナトリウムをろ別除去し、減圧にて分別留去し、無色液体のM4FAを得た。このM4FAの沸点は、71℃/11Paから72℃/11Paであり、収率は35.2%であった。また、同定は、上記と同様にFT−IR、GC−MS、1H−NMRを用いた。その結果を図4から図6に示す。
【0056】
次いで、このM4FAから最終生成物であるM4FPSを合成した。
【0057】
窒素雰囲気の下、100mlナスフラスコに、M4FA7.16g(19.3mmol)と、触媒の0.1M塩化白金酸/テトラヒドロフラン溶液0.3mlと、重合禁止剤である2,2’−メチレンビス(6−tert−ブチル−p−クレゾール)1mg、トリフェニルホスフィンスルフィド1mgを加え、室温で1時間攪拌した。その後、氷冷下トリメトキシシラン2.44g(20.0mmol)を2時間かけてゆっくり滴下し、さらに室温で17時間攪拌し反応させた。過剰の未反応トリメトキシシランを減圧留去し、ヘキサン10mlを加え、生じた白金をろ別除去した。減圧にて分別留去し、無色液体のM4FPSを得た。このM4FPSの沸点は、131℃/10Paから135℃/10Paであり、収率は25.1%であった。また、同定は、上記と同様にFT−IR、GC−MS、1H−NMRを用いた。その結果を図7から図9に示す。
【0058】
<合成例2>
[3−(4’−(4’’−(4’’’−メタクリロイルオキシメチルフェニル)パーフルオロブチル)ベンジルオキシ)プロピルトリメトキシシラン(以下、MBFBSとする)の合成]
下記の合成スキームに従って3−(4’−(4’’−(4’’’−メタクリロイルオキシメチルフェニル)パーフルオロブチル)ベンジルオキシ)プロピルトリメトキシシラン(3−(4’−(4’’−(4’’’−methacryloyloxymethylphenyl)perfluorobutyl)benzyloxy)propyltrimethoxysilane)の合成を行った。
【化12】
【0059】
まず、中間体である1,4−bis(4’−ethoxycarbonylphenyl)perfluorobutane(以下、EtBFBEtとする)の合成を行った。
【0060】
窒素雰囲気に保ったドライボックス中で、50mlナスフラスコに、銅粉を5.96g(93.8mmol)と、溶媒としてジメチルスルホキシド(DMSO)を約10ml採取した。ドライボックスからこのナスフラスコを取り出し、窒素雰囲気の下、4−ヨード安息香酸エチル6.72g(24.3mmol)を、シリンジを用いて更に加えた。ここへペルフルオロブチル−1,4−ジヨージド4.81g(10.2mmol)を滴下ロートを用いてゆっくり滴下した。これを120℃で、24時間加熱攪拌した後、過剰の未反応銅粉をろ別除去した。ろ液に沈殿が生じなくなるまで水をゆっくり加え、その後沈殿を減圧にてろ別除去した。ろ液に塩化メチレンを加えて有機相を抽出した後に、塩化メチレンを減圧留去し、黄色の固体物質を得た。この固体物質をさらにメタノールにより洗浄し白色固体(EtBFBEt)を得た。このときの収率は、50.0%であった。また、同定は、FT−IR、GC−MS、1H−NMRを用いた。このときの1H−NMRを図10に示す。
【0061】
次いで、この中間体EtBFBEtから、1,4−bis(4’−hydroxymethylphenyl)perfluorobutane(以下、HBFBHとする)を合成した。
【0062】
窒素雰囲気に保ったドライボックス中で、50mlナスフラスコに、リチウムアルミニウムハイドライド(LiAlH4)0.96g(25.5mmol)を採取した。ドライボックスからこのナスフラスコを取り出し、窒素雰囲気下、溶媒のテトラヒドロフランを約10ml入れ懸濁させた。さらにEtBFBEt2.49g(5.1mmol)のTHF(10ml)溶液を氷冷下で滴下ロートより徐々に加え、その後室温に戻して4時間攪拌した。氷冷した10%の水を含むテトラヒドロフランを徐々に滴下し、過剰のリチウムアルミニウムハイドライドを分解した後、生じた塩をろ別除去した。このろ液にエーテルを加えて有機相を抽出した後、エーテルを減圧留去し、黄色の固体物質を得た。この固体物質をクロロホルムによりさらに洗浄し、白色固体(HBFBH)を得た。このときの収率は、92.0%であった。また、同定は、FT−IR、GC−MS、1H−NMRを用いた。このときの1H−NMRを図11に示す。
【0063】
次いで、この中間体HBFBHから、1−(4’−hydroxymethylphenyl)−4−(4’’−(2−propenoxymethylphenyl)perfluorobutane(以下、HBFBAとする)の合成を行った。
【0064】
窒素雰囲気の下、50mlナスフラスコ(A)に、水素化ナトリウム0.19g(7.92mmol)を採取した。次に、窒素雰囲気の下で、別の50mlナスフラスコ(B)にHBFBH3.28g(7.92mmol)を採取し、溶媒としてテトラヒドロフラン15mlを加えた。これを40℃の湯浴上で、L字形ガラスチューブを経由して、ナスフラスコ(B)に、ナスフラスコ(A)から水素化ナトリウム0.19gを少量ずつ加えた。これを76℃で2時間加熱還流して、室温に戻し滴下ロートを装備した後、アリルブロミド0.98g(8.10mmol)を氷冷下で滴下し、76℃で16時間さらに加熱還流した。冷水を徐々に滴下し、過剰の水素化ナトリウムを分解して、エーテルを加えて有機層を抽出した後、エーテルを減圧除去して黄色固体を得た。これを、酢酸エチル:ヘキサン=2:1の展開液を用いてシリカゲルカラム(ワコーゲルC−300、直径60mm、長さ450mm)を用いて、カラム分離し、白色固体(HBFBA)を得た。このときの収率は66.0%であった。また、同定は、FT−IR、GC−MS、1H−NMRを用いた。このときの1H−NMRを図12に示す。
【0065】
次いで、このHBFBAから、1−(4’−methacryloyloxymethylphenyl)−4−(4’’−(2−propenoxymethylphenyl)perfluorobutane(以下、MBFBAとする)の合成を行った。
【0066】
窒素雰囲気下、50mlナスフラスコに、水素化ナトリウム0.16g(6.81mmol)を採取した。次に溶媒としてテトラヒドロフラン15mlを加え、10mlのテトラヒドロフランに溶解させたHBFBA2.38g(5.24mmol)を氷冷下で徐々に滴下し、76℃で2時間加熱還流した。これを室温に戻した後、メタクリル酸クロリド0.91g(8.70mmol)を氷冷下で滴下し、さらに76℃で16時間加熱還流した。生成した塩を窒素雰囲気下でろ別除去した。
【0067】
また、重合禁止剤として2,2’−メチレンビス(6−tert−ブチル−p−クレゾール)0.5mg、及びトリフェニルホスフィンスルフィド0.5mgを加え、減圧留去して、黄色の粘性液体を得た。これを酢酸エチル:ヘキサン=2:1の展開液を用いてシリカゲルカラム(ワコーゲルC−300、直径60mm、長さ450mm)を用いて、カラム分離をおこない、無色の液体(MBFBA)を得た。このときの収率は81.0%であった。また、同定は、FT−IR、GC−MS、1H−NMRを用いた。このときの1H−NMRを図13に示す。
【0068】
次いで、このHBFBAから最終生成物であるMBFBSを合成した。
【0069】
窒素雰囲気下,50mlナスフラスコにMBFBA1.03g(1.97mmol)、触媒として0.1M塩化白金酸/テトラヒドロフラン溶液0.1mlを加え、1時間攪拌した後、氷冷下でトリメトキシシラン0.32g(2.62mmol)を徐々に滴下した。これを室温で2.5時間攪拌した。過剰の未反応のトリメトキシシランを減圧留去した後、減圧蒸留して無色の液体を得た。このMBFBSの沸点は、186℃/0.1Paから190℃/0.1Paであり、収率は15.0%であった。また、同定は、FT−IR、GC−MS、1H−NMRを用いた。このときの1H−NMRを図14に示す。
【0070】
<合成例3>
[3−(8’メタクロイルオキシ−2’,2’,3’,3’,4’,4’,5’,5’,6’,6’,7’,7’−ドデカフルオロオクチルオキシ)プロピルトリメチオキシシラン(以下、M6FPSとする)の合成]
合成例1に記載の方法と同様の方法で、3−(8’メタクロイルオキシ−2’,2’,3’,3’,4’,4’,5’,5’,6’,6’,7’,7’−ドデカフルオロオクチルオキシ)プロピルトリメチオキシシラン(3−(8’methacroyloxy−2’,2’,3’,3’,4’,4’,5’,5’,6’,6’,7’,7’−dodecafluorooctyloxy)propyltrimethoxysirane)の合成を行った。
【0071】
まず、中間体である8−allyloxy−2,2,3,3,4,4,5,5,6,6,7,7−dodecafluoro−1−octanol(以下H6FAとする)の合成を行った。
【0072】
窒素雰囲気下、50mlナスフラスコ(A)に、水素化ナトリウム1.73g(72.1mmol)を採取し、また、300mlナスフラスコ(B)に2,2,3,3,4,4,5,5,6,6,7,7−dodecafluoro−1,8−octanediol25.3g(70.0mmol)/テトラヒドロフラン80ml溶液を採取した。窒素雰囲気の下、L字形ガラスチューブを経由して、ナスフラスコ(A)中の水素化ナトリウム1.73gをナスフラスコ(B)に少量ずつ加えた。これを76℃で20時間加熱還流し、上記ジオールの片末端を、ナトリウムアルコキシドにした。その後氷冷下で、滴下ロートよりアリルブロミド9.07g(75.0mmol)を滴下して、70℃で40時間加熱した。過剰の未反応アリルアミド及び溶媒のテトラヒドロフランを留去させた後、30mlのヘキサンを加え、未反応の水素化ナトリウムと、生じた臭化ナトリウムを、ろ別除去した。更にヘキサンを減圧留去して、無色液体のH6FAを得た。
【0073】
このH6FAの沸点は、70℃/9Paから72℃/9Paであり、収率は33.3%であった。また、同定は、FT−IR、GC−MS、1H−NMRを用いた。その結果を図15から図17に示す。
【0074】
次いで、この中間体H6FAから、1−allyloxy−8−methacryloyloxy−2,2,3,3,4,4,5,5,6,6,7,7−dodecafluorooctane(以下、M6FAとする)の合成を行った。
【0075】
窒素雰囲気の下、300mlナスフラスコに水素化ナトリウム0.68g(28.3mmol)と、テトラヒドロフラン80mlを採取し、氷冷下で、滴下ロートよりH6FA5.24g(13.0mmol)をゆっくり滴下した。その後、反応系の沸点で、20時間攪拌した。このようにして、H6FAのヒドロキシ基をNaに変えた後、系を氷冷して、メタクリル酸クロリド3.25g(31.1mmol)を滴下した。その後、反応系の沸点で、20時間攪拌した。過剰の未反応メタクリル酸クロリドと溶媒のテトラヒドロフランを減圧留去して、無色液体のM6FAを得た。
【0076】
このM6FAの沸点は、76/15Paから79℃/15Paであり、収率は18.1%であった。また、同定は、FT−IR、GC−MS、1H−NMRを用いた。その結果を図18から図20に示す。
【0077】
次いで、このM6FAから最終生成物であるM6FPSを合成した。窒素雰囲気の下、100mlナスフラスコに、M6FA3.74g(7.96mmol)と、触媒の0.1Mの塩化白金酸/THF溶液0.3ml、重合禁止剤の2,2−メチレンビス(6−tert−ブチル−p−クレゾール)及びトリフェニルホスフィンスルフィドのそれぞれ1mgを加え、室温で1時間攪拌した。その後、氷冷下でトリメトキシシラン1.07g(8.76mmol)を2時間かけてゆっくり滴下し、さらに室温で17時間攪拌して、反応させた。過剰の未反応トリメトキシシランを減圧留去し、ヘキサン10mlを加え生じた白金をろ別除去した。更に、減圧にて分別留去し、無色液体のM6FPを得た。
【0078】
このM6FPSの沸点は、115℃/18Paから120℃/18Paであり、収率は8.5%であった。また、同定は、FT−IR、GC−MS、1H−NMRを用いた。その結果を図21から図23に示す。
【0079】
<実施例1>
[引張接着強度の検討]
上記の合成例1,2で合成したM4FBS及びMBFBSの引張接着強度の検討を行った。上記のシランカップリング剤以外に、3−MPS及びp−MBSを用いた。なお、3−MPS及びp−MBSの構造式は以下の通りである。
【化13】
【0080】
上記のシランカップリング剤(M4FPS、MBFBS、3−MPS及びp−MBS)を、50mmol/lエタノール溶液に調製し、処理直前に酢酸を約15質量%添加して作成した溶液を処理溶液とした。
【0081】
被着体には平板ガラス(15mm×15mm)を使用した。なお、ガラスは表面の汚れを除去するために、1Nの水酸化ナトリウム水溶液と、1Nの塩酸を用いて洗浄し、乾燥させた。その後ステンレス接着子の接着表面を規定するために、直径5mmの円形の穴が空いたシールを貼った。
【0082】
この平板ガラスの接着規定箇所に上記のシランカップリング剤の調製液を塗布して、平板ガラスの表面を処理した。
【0083】
次いで、予め秤量した市販のコンポジットレジン(商品名クリアフィルFII 株式会社トクヤマ製)をよく練って接着子の被接着面に盛り、平板ガラスの接着規定箇所、即ち、シランカップリング剤で処理した箇所に接着するように、垂直に押し付けたものをそれぞれ順に、試料1から4とした。即ち、シランカップリング剤にM4FPSを用いたものを試料1とし、MBFBS(図中のMB4FBSと同一である)を用いたものを試料2とし、3−MPSを用いたものを試料3とし、p−MBSを用いたものを試料4とした。
【0084】
これらの試料は、室温で30分放置した後に、37℃の蒸留水中に1日間保管した群、7日間保管した群、4℃と60℃の恒温槽に各40秒間ずつ浸漬させることを1サイクルとしたサーマルストレスを、5000サイクル与えた群とに分けた。
【0085】
保管後は、試験装置AGS−500Aによりクロスヘッドスピード1.0mm/minで引張接着強度を測定した。なお、各処理及び保管群につき7個の験体を測定し、最大値と最小値を除いた5個の測定結果を用いた。引張接着強度はその平均値とした。
【0086】
図24にその結果を示す。試料2は、水中に1日浸漬させた後、サーマルストレス後ともに、試料3に比べ高い強度を示した。また、試料2はサーマルストレス後にも他の3つの試料と比べ、高い強度を示し、接着強度の値はおよそ10MPaであった。更に、試料2は、フルオロアルキレン基のみを有する試料1と比べても高い接着強度を示した。
【図面の簡単な説明】
【0087】
【図1】本発明に係るシランカップリング剤M4FPSの中間体H4FAのマススペクトルを示した図である。
【図2】本発明に係るシランカップリング剤M4FPSの中間体H4FAの1H−NMRを示した図である。
【図3】本発明に係るシランカップリング剤M4FPSの中間体H4FAのFT−IRスペクトルを示した図である。
【図4】本発明に係るシランカップリング剤M4FPSの中間体M4FAのマススペクトルを示した図である。
【図5】本発明に係るシランカップリング剤M4FPSの中間体M4FAの1H−NMRを示した図である。
【図6】本発明に係るシランカップリング剤M4FPSの中間体M4FAのFT−IRスペクトルを示した図である。
【図7】本発明に係るシランカップリング剤M4FPSのマススペクトルを示した図である。
【図8】本発明に係るシランカップリング剤M4FPSの1H−NMRを示した図である。
【図9】本発明に係るシランカップリング剤M4FPSのFT−IRスペクトルを示した図である。
【図10】本発明に係るシランカップリング剤MBFBSの中間体EtBFBEtの1H−NMRを示した図である。
【図11】本発明に係るシランカップリング剤MBFBSの中間体HBFBHの1H−NMRを示した図である。
【図12】本発明に係るシランカップリング剤MBFBSの中間体HBFBAの1H−NMRを示した図である。
【図13】本発明に係るシランカップリング剤MBFBSの中間体MBFBAの1H−NMRを示した図である。
【図14】本発明に係るシランカップリング剤MBFBSの1H−NMRを示した図である。
【図15】本発明に係るシランカップリング剤M6FPSの中間体H6FAのマススペクトルを示した図である。
【図16】本発明に係るシランカップリング剤M6FPSの中間体H6FAの1H−NMRを示した図である。
【図17】本発明に係るシランカップリング剤M6FPSの中間体H6FAのFT−IRスペクトルを示した図である。
【図18】本発明に係るシランカップリング剤M6FPSの中間体M6FAのマススペクトルを示した図である。
【図19】本発明に係るシランカップリング剤M6FPSの中間体M6FAの1H−NMRを示した図である。
【図20】本発明に係るシランカップリング剤M6FPSの中間体M6FAのFT−IRスペクトルを示した図である。
【図21】本発明に係るシランカップリング剤M6FPSのマススペクトルを示した図である。
【図22】本発明に係るシランカップリング剤M6FPSのFT−IRスペクトルを示した図である。
【図23】本発明に係るシランカップリング剤M6FPSの1H−NMRを示した図である。
【図24】実施例における引張試験の結果を示した図である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、接着剤に用いられるシランカップリング剤に関する。より詳しくは、歯冠修復用材料に用いられるシランカップリング剤、歯科用コンポジットレジン、及びこのシランカップリング剤を含む歯科用プライマーに関する。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂のような合成樹脂は、成形材料として広く用いられている。しかし、これらの合成樹脂は、成形物の用途によっては、単独で使用した場合に十分な寸法安定性や、機械的強度、耐熱性等を示さないことがある。これらの合成樹脂の欠点を改善する方法として、無機充填剤の添加による改質が広く行われている。しかし、ガラス繊維を始めとする無機充填剤は、合成樹脂との接着性が必ずしも十分とは言えず、成形物への使用に際して無機充填剤と合成樹脂との界面における剥離による強度の低下が見られた。
【0003】
これを改善するため、シランカップリング剤による無機充填剤の表面処理が提案されている。シランカップリング剤は、加水分解したシラノールの脱水縮合によりオリゴマーが生成される。そして、そのオリゴマーが無機材料表面の水酸基と水素結合を形成することにより、無機材料と結合する。その後、無機材料を熱による乾燥処理をすることにより、脱水・縮合反応が生じてより強固な化学結合となる。そのため、シランカップリング剤で表面処理された無機充填剤は、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリプロピレン樹脂等の熱可塑性樹脂の強化材料として広く用いられている。
【0004】
これらシランカップリング剤の使用によって、無機充填剤と合成樹脂との接着性は向上し、成形品の機械的強度や耐熱性も向上した。しかし、高温多湿な使用条件では、時間と共に無機充填剤と合成樹脂層間のシランカップリング剤層が加水分解を受け、接着力が失われ、成形物の強度が低下する現象が観察される。このため、耐水性に優れた無機充填剤強化合成樹脂成形物、及びそれに適したシランカップリング剤が求められている。
【0005】
中でも、虫歯や歯の欠損時の治療に使用される歯冠修復用材料に用いるコンポジットレジンは、生物学的に安全な材料であることは言うまでもなく、歯質に近い物性を有していることが好ましい。具体的には、歯質との高い密着性を有していること、歯質に近い機械強度・熱膨張係数を有していること、吸水性が低く、崩壊性や溶解性が低いこと、等が挙げられる。
【0006】
現在では、自然歯との色調の適合性が良好で、圧縮強さ(2500kgf/cm2から3000kgf/cm2)が高く、唾液に不活性な歯科用コンポジットレジンが開発されている(特許文献1、非特許文献1参照)。また、このような歯科用コンポジットレジンの力学物性は、主成分であるシランカップリング剤の特性の影響を受けている。従って、優れた力学物性を有する歯科用コンポジットレジンを提供するためには、優れた機械的強度と、耐加水分解性を有するシランカップリング剤の開発が必要である。現在、シランカップリング剤には、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(以下、3MPSとする)が優れた機械的強度を有するとして、広く用いられている。
【0007】
特許文献1には、シランカップリング剤1質量部に対して、リン酸モノエステル0.001質量部から50質量部添加することにより、従来よりも短い待ち時間で凝固し、かつ、歯質と高い密着性を有する歯科用コンポジットレジンを提供することができる旨が開示されている。
【0008】
更に、非特許文献1では、3MPSの経時的な加水分解を防止するために、ポリフルオロトリメトキシシランと3MPSを混合した歯科用コンポジットレジンが開示されている。この歯科用コンポジットレジンは、3MPSとポリフルオロトリメトキシシランが共縮合反応によりシロキサンネットワークを形成するため、3MPSを単独で使用した場合と比べ、優れた耐水性を有している。
【特許文献1】特開平7−277913号公報
【非特許文献1】山中秀起,日歯保誌,35(5),1288(1992)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、歯科用コンポジットレジンの弱点として、時間の経過による機械的強度の低下や、耐摩耗性の不足等が挙げられる。上記特許文献1,2に開示されている歯科用コンポジットレジンでは、このような点については検討されていない。また、3MPSも時間の経過と共に加水分解が進行しやすく、コンポジットレジンの機械的強度の低下を引き起こす場合がある。
【0010】
更に、非特許文献1に記載の歯科用コンポジットレジンは、常温下では3MPSの加水分解が抑制されているものの、口腔内の環境を考慮した条件(急激な温度変化や湿度変化等)での加水分解までは抑制することができない。
【0011】
以上の課題に鑑み、本発明は、時間の経過による機械的強度の低下がより少ないシランカップリング剤、このシランカップリング剤を用いた歯科用コンポジットレジン及び歯科用プライマーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、シランカップリング剤の主鎖に、フルオロアルキレン基及び芳香族炭化水素基を導入することによって、時間の経過による機械的強度の低下を抑制することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
(1) 下記の一般式(1)で示されるシランカップリング剤。
【化1】
〔式中、Rは主鎖内にフルオロアルキレン基を有する基であり、Xは有機官能性基であり、Yは加水分解性基であり、Zは炭素数1から4のアルキル基であり、nは0から2の整数である。〕
【0014】
(2) 前記Rは、主鎖内に置換基を有していてもよい2価の芳香族炭化水素基を更に有する(1)に記載のシランカップリング剤。
【0015】
(3) 前記Rは、下記の一般式(2)で示される(1)又は(2)に記載のシランカップリング剤。
【化2】
〔式中R1,R3は、それぞれ独立して置換基を有していてもよい2価の芳香族炭化水素基、アルキレン基、オキシアルキレン基、及びこれらが結合した基より選択される基であり、R2は、炭素数1から10のフルオロアルキレン基である。〕
【0016】
(4) 下記の構造式(3)で示される(1)から(3)いずれかに記載のシランカップリング剤。
【化3】
【0017】
(5) (1)から(4)いずれかに記載のシランカップリング剤で改質されたフィラーを含む歯科用コンポジットレジン。
【0018】
(6) (1)から(4)いずれかに記載のシランカップリング剤1質量部に対して、0.001質量部から100質量部の有機リン酸化合物を含む歯科用プライマー。
【0019】
(1)から(4)に記載の発明によれば、シランカップリング剤の主鎖に、フルオロアルキレン基を導入したことによって、シロキサン結合の加水分解を抑制することができるため、シランカップリング剤に高い耐水性を付与することができる。さらに、主鎖に置換基を有してもよい2価の芳香族炭化水素基を導入したことによって、高い耐熱性も付与することができる。また、芳香族炭化水素基は、相互にπーπスタッキングしてより強固な結合となるため、加水分解の抑制にもつながる。その結果、(1)から(4)に記載の発明に係るシランカップリング剤によって、無機充填剤と合成樹脂との接着強度を向上させることができる。
【0020】
更に、(5)及び(6)の発明によれば、シランカップリング剤を歯科用コンポジットレジンや歯科用プライマーに用いたことによって、時間の経過による機械的強度の低下がより少ない歯科用コンポジットレジン及び歯科用プライマーを提供することができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、主鎖にフルオロアルキレン基及び芳香族炭化水素基を導入したことによって、耐水性及び接着強度を向上させることができる。従って、時間の経過による機械的強度の低下がより少ないシランカップリング剤及び、このシランカップリング剤を用いた歯科用コンポジットレジンを提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態について説明する。
【0023】
本発明は、下記の一般式(1)で示されるシランカップリング剤である。
【化4】
〔式中、Rは主鎖内にフルオロアルキレン基を有する基であり、Xは有機官能性基であり、Yは加水分解性基であり、Zは炭素数1から4のアルキル基であり、nは0から2の整数である。〕
【0024】
ここで、Xの「有機官能性基」とは、有機材料と結合する置換基をもつ炭素官能性基をいう。具体的には、ビニル基、エポキシ基、アミノ基、メタクリル基等が挙げられる。中でも、光重合が可能であり、適度な重合速度を有し、かつ、生体安定性がよいことからメタクリル基であることが好ましい。また、Yの「加水分解性基」とは、加水分解性の置換基で無機質と反応する基をいう。具体的には、クロロ基、アルコキシ基、イソシアナート基、アミノ基等が挙げられる。中でも、保存安定性や操作性がよいことからアルコキシ基であることが好ましい。
【0025】
また、Zの「炭素数1から4のアルキル基」とは、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、等が挙げられる。このうちコンパクトで結合密度の高いシラン層の構築が可能になるという観点で、メチル基又はエチル基であることが好ましい。
【0026】
また、Rの「フルオロアルキレン基」は、炭素数1から10の直鎖状のアルキレン鎖であることが好ましく、炭素数が4から8の直鎖状であることがより好ましい。具体的には、−CF2−、−CHF−、−(CF2)4−、−(CF2)6−、−(CF2)8−、−CClF−、−C2F4−、−CF2CF2−、−CClFCF2−、−(CF3)2C−、−CF2CF2CF2−、−(CHF2)2C−、−(CF3)(CHF2)C−、−(CF3)2CCF2CF2−、−(CF3)2C(CF2CF2)2−、等が挙げられる。中でも材料の表面を改質した際に、単位面積当たりの分子数を増大させることができる直鎖構造を有し、適度な撥水性及び撥油性を有しており、かつ、有機物への相溶性を有しているという理由で−(CF2)4−、−(CF2)6−、−(CF2)8−であることが好ましい。
【0027】
またRは、主鎖内に置換基を有していてもよい2価の芳香族炭化水素基を更に有することが好ましい。ここで、「置換基を有していてもよい2価の芳香族炭化水素基」は、多くとも3個、好ましくは1個の置換基を有していてもよい。芳香族炭化水素基としては、炭素数6から20、好ましくは炭素数6から10を有するものであり、このような芳香族炭化水素環を形成する環の例としては、ベンゼン環、ナフタレン環等が挙げられる。中でもベンゼン環を有するであることが好ましい。具体的には下記のような構造式を有するものが好ましい。
【化5】
[式中、R4及びR5はそれぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、メチル基、エチル基、−CF3、−C2F5を示す。]
【0028】
またRは、下記の一般式(2)で示される基であることがより好ましい。
【化6】
〔式中R1,R3は、それぞれ独立して置換基を有していてもよい2価の芳香族炭化水素基、アルキレン基、オキシアルキレン基、及びこれらが結合した基より選択される基であり、R2は、炭素数1から10のフルオロアルキレン基である。〕
【0029】
ここで、R1,R3の「置換基を有していてもよい2価の芳香族炭化水素基」は、上記と同様にフェニレン基であることがより好ましい。また、「置換基を有していてもよいアルキレン基」のアルキレン基としては、メチレン、エチレン、プロピレン、iso−プロピレン、n−ブチレン、iso−ブチレン、sec−ブチレン、tert−ブチレン、ペンチレン、iso−ペンチレン、sec−ペンチレン、ヘキシレン、ヘプチレン、オクチレン、2−エチルヘキシレン等の炭素数1から10のアルキレン基が挙げられる。中でも分子の直線性の維持という観点から、炭素数1から4のアルキレン基を用いることが好ましい。
【0030】
また、アルキレン基の置換基としては、特に制限されず、炭化水素基、ヘテロ原子含有炭化水素基など、その目的および用途に対応する置換基を適宜用いることができる。
【0031】
また、「置換基を有していてもよいオキシアルキレン基」のアルキレン基及び置換基も、上記のアルキレン基及び置換基と同様の基を用いることが好ましい。
【0032】
具体的には、下記のような構造を有するシランカップリング剤であることが好ましい。
【化7】
【0033】
上記の構造は、ベンゼン環の相互作用(π−πスタッキング)を有するため、主鎖の平面性が高く、分子の直線性も高い。中でも適度な撥水性及び撥油性を有しており、有機物への相溶性を有していることから下記の構造を有することが好ましい。
【化8】
【0034】
<シランカップリング剤の製造方法>
本発明に係るシランカップリング剤は、例えば下記のような合成スキームで製造する。
【化9】
【0035】
また、下記のような合成スキームによっても製造することができる。
【化10】
【0036】
上記の合成スキームに用いられる溶媒は、非プロトン性であれば特に制限はないが、極性溶媒であることが好ましい。非プロトン性の極性溶媒としては、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン(THF)、1,3−ジメトキシエタン、1,4−ジオキサン等のエーテル類;N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N−ジメチルアセトアミド、ヘキサメチルリン酸トリアミド(HMPT)等のアミド類;ジクロロメタン、ジメチルスルホキシド(DMSO)、アセトニトリル等が挙げられる。これらの溶媒は、単独あるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0037】
また、上記の合成スキームに用いられる水素化ナトリウム以外にも水素化カリウム、水素化カルシウムのような金属水素化物を用いることが可能である。
【0038】
このようにして製造されるシランカップリング剤は、例えば、ガラスやシリコンウエハ、有機樹脂、各種金属の表面に、水酸基を有する無機物質基板に、核酸や蛋白質、抗体などの生体関連有機分子を固定化するのに用いることができる。
【0039】
また、複合材料の改質剤としても使用できる。即ち、表面改質剤としてフィラーの疎水化、及び分散性の向上、その他有機樹脂の改質等に用いることができる。また、材料の物理強度や耐水性、接着性の向上のために用いることができる。
【0040】
<歯科用コンポジットレジンの製造方法>
本発明に係るシランカップリング剤を用いて歯科用コンポジットレジンを製造する方法を説明する。「歯科用コンポジットレジン」とは、本発明に係るシランカップリング剤と有機リン酸化合物に、さらにラジカル重合可能なモノマーとフィラーと重合開始剤が加えられたものをいう。
【0041】
ラジカル重合可能なモノマーとしては、(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリルアミド、ビニルエステル等が挙げられる。フィラーとしては石英、硅石、ガラス、ジルコニア、アルミナ、炭酸カルシウムなどの無機フィラー、アエロジル(登録商標)を樹脂と混ぜて固めてから粉砕した有機・無機複合フィラー、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、ポリアミド、ポリイミド、ポリ塩化ビニル、ポリスチレンなどの有機フィラー等が挙げられる。有機リン酸化合物としては、例えばリン酸モノエステルが挙げられる。また、重合開始剤としては、アゾビスイソブチロニトリルのほか、BPO−アミン系、スルフィン酸塩−BPO−アミン系などのレドックス系重合開始剤やα−ジケトン、α−ジケトン−スルフィン酸塩、ベンゾインエ−テルなどの光重合開始剤が挙げられる。
【0042】
具体的な製造方法としてはまず、上記のフィラーの表面を、本発明に係るシランカップリング剤を用いて処理する。具体的には、溶剤へフィラー及びシランカップリング剤を分散させた後に、溶剤を除去する方法や、フィラーをブレンダーで撹拌しながら、シランカップリング剤をスプレー添加して加熱処理する方法等が挙げられる。
【0043】
上記の方法に用いられる溶剤としては、ヘキサン、ヘプタン、デカン、ベンゼン、トルエン、エチルベンゼン、キシレン、メシチレン、ジエチルベンゼン、シクロヘキサン、クロロホルム、ジクロロエタン、トリクロロエタン、四塩化炭素等が挙げられる。
【0044】
次いで、表面処理されたフィラーに、ラジカル重合可能なモノマー、重合開始剤を一括して混合してペースト状にする。必要に応じて重合禁止剤、顔料、紫外線吸収剤等を、適宜添加して歯科用コンポジットレジンを得る。
【0045】
なお、この歯科用コンポジットレジンにおける、表面処理されたフィラーの添加量は、ラジカル重合可能なモノマー100質量部に対して100質量部から200質量部であり、120質量部から150質量部であることがより好ましい。更に、重合開始剤の添加量は、ラジカル重合可能なモノマー100質量部に対して0.1質量部から20質量部であり、1質量部から10質量部であることがより好ましい。
【0046】
<歯科用プライマーの製造方法>
本発明に係るシランカップリング剤を、歯科用プライマーとして用いる方法を説明する。「歯科用プライマー」とは、歯の象牙質またはエナメル質の表面処理のために用いる処理剤をいう。具体的には、シランカップリング剤、有機リン酸化合物を、水や揮発性有機溶剤に溶解させたものをいい、水や揮発性有機溶剤を添加しているという点で歯科用コンポジットレジンと異なる。また、上記のラジカル重合可能なモノマーを添加してもよい。
【0047】
有機リン酸化合物としては、例えばリン酸モノエステルが挙げられる。
【0048】
この歯科用プライマーに用いられる揮発性有機溶剤としては、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、アセトン、酢酸エチル、イソプロピルエーテル、等常圧における沸点が150℃以下の揮発性有機溶剤が挙げられる。シランカップリング剤の添加量は、上記の揮発性有機溶剤100質量部に対して、2質量部であることが好ましい。また、有機リン酸化合物の添加量は、シランカップリング剤100質量部に対して0.05質量部から150質量部であることが好ましく、0.1質量部から100質量部であることがより好ましい。
【実施例】
【0049】
<合成例1>
[3−(6’メタクロイルオキシ−2’,2’,3’,3’,4’,4’,5’,5’−オクタフルオロヘキシルオキシ)プロピルトリメトキシシラン(以下、M4FPSとする)の合成]
下記の合成スキームに従って3−(6’メタクロイルオキシ−2’,2’,3’,3’,4’,4’,5’,5’−オクタフルオロヘキシルオキシ)プロピルトリメトキシシラン(3−(6’methacroyloxy−2’,2’,3’,3’,4’,4’,5’,5’−octafluorohexyloxy)propyltrimethoxysilane)の合成を行った。
【化11】
【0050】
まず、中間体である6−allyloxy−2,2,3,3,4,4,5,5−octafluoro−1−hexanol(以下、H4FA6とする)の合成を行った。
【0051】
窒素雰囲気の下、50mlナスフラスコ(A)に、水素化ナトリウム1.33g(55.4mmol)を採取した。また、300mlナスフラスコ(B)に2,2,3,3,4,4,5,5−octafluoro−1,6−hexanediolを14.4g(55.0mmol)と、テトラヒドロフラン200mlの混合溶液を採取した。窒素雰囲気下、L字形ガラスチューブを経由して、ナスフラスコ(A)中の水素化ナトリウム1.33gを、ナスフラスコ(B)に少量ずつ加えた。これを76℃で20時間加熱還流し、上記ジオールの片末端をナトリウムアルコキシドにした。
【0052】
その後氷冷下で、滴下ロートよりアリルブロミド6.90g(57.0mmol)を滴下し、70℃で20時間加熱した。過剰の未反応アリルアミドと、溶媒のテトラヒドロフランを除去した後、50mlのヘキサンを加え、未反応水素化ナトリウムと、生じた臭化ナトリウムをろ別して除去した。ヘキサンを減圧留去し、無色液体のH4FAを得た。このH4FAの沸点は、58℃/7Paから60℃/7Paであり、収率は80.8%であった。また、同定は、FT−IR、GC−MS、1H−NMRを用いた。その結果を図1から図3に示す。
【0053】
次いで、このH4FAから1−allyloxy−6−methacryloyloxy−2,2,3,3,4,4,5,5−octafluorohexane(以下、M4FAとする)の合成を行った。
【0054】
窒素雰囲気の下、300mlナスフラスコに、水素化ナトリウム1.55g(64.6mmol)と、テトラヒドロフラン100mlを採取し、氷冷下で、滴下ロートよりH4FA13.4g(44.4mmol)をゆっくり滴下した。その後、反応系の沸点で、20時間攪拌した。このようにして、H4FAのヒドロキシ基をナトリウムに変えた後、系を氷冷し、メタクリル酸クロリド6.80g(65.0mmol)を滴下した。
【0055】
その後、反応系の沸点で、20時間攪拌した。過剰の未反応メタクリル酸クロリドと溶媒のテトラヒドロフランを減圧留去、ヘキサンを加え、過剰の未反応水素化ナトリウムと生じた塩化ナトリウムをろ別除去し、減圧にて分別留去し、無色液体のM4FAを得た。このM4FAの沸点は、71℃/11Paから72℃/11Paであり、収率は35.2%であった。また、同定は、上記と同様にFT−IR、GC−MS、1H−NMRを用いた。その結果を図4から図6に示す。
【0056】
次いで、このM4FAから最終生成物であるM4FPSを合成した。
【0057】
窒素雰囲気の下、100mlナスフラスコに、M4FA7.16g(19.3mmol)と、触媒の0.1M塩化白金酸/テトラヒドロフラン溶液0.3mlと、重合禁止剤である2,2’−メチレンビス(6−tert−ブチル−p−クレゾール)1mg、トリフェニルホスフィンスルフィド1mgを加え、室温で1時間攪拌した。その後、氷冷下トリメトキシシラン2.44g(20.0mmol)を2時間かけてゆっくり滴下し、さらに室温で17時間攪拌し反応させた。過剰の未反応トリメトキシシランを減圧留去し、ヘキサン10mlを加え、生じた白金をろ別除去した。減圧にて分別留去し、無色液体のM4FPSを得た。このM4FPSの沸点は、131℃/10Paから135℃/10Paであり、収率は25.1%であった。また、同定は、上記と同様にFT−IR、GC−MS、1H−NMRを用いた。その結果を図7から図9に示す。
【0058】
<合成例2>
[3−(4’−(4’’−(4’’’−メタクリロイルオキシメチルフェニル)パーフルオロブチル)ベンジルオキシ)プロピルトリメトキシシラン(以下、MBFBSとする)の合成]
下記の合成スキームに従って3−(4’−(4’’−(4’’’−メタクリロイルオキシメチルフェニル)パーフルオロブチル)ベンジルオキシ)プロピルトリメトキシシラン(3−(4’−(4’’−(4’’’−methacryloyloxymethylphenyl)perfluorobutyl)benzyloxy)propyltrimethoxysilane)の合成を行った。
【化12】
【0059】
まず、中間体である1,4−bis(4’−ethoxycarbonylphenyl)perfluorobutane(以下、EtBFBEtとする)の合成を行った。
【0060】
窒素雰囲気に保ったドライボックス中で、50mlナスフラスコに、銅粉を5.96g(93.8mmol)と、溶媒としてジメチルスルホキシド(DMSO)を約10ml採取した。ドライボックスからこのナスフラスコを取り出し、窒素雰囲気の下、4−ヨード安息香酸エチル6.72g(24.3mmol)を、シリンジを用いて更に加えた。ここへペルフルオロブチル−1,4−ジヨージド4.81g(10.2mmol)を滴下ロートを用いてゆっくり滴下した。これを120℃で、24時間加熱攪拌した後、過剰の未反応銅粉をろ別除去した。ろ液に沈殿が生じなくなるまで水をゆっくり加え、その後沈殿を減圧にてろ別除去した。ろ液に塩化メチレンを加えて有機相を抽出した後に、塩化メチレンを減圧留去し、黄色の固体物質を得た。この固体物質をさらにメタノールにより洗浄し白色固体(EtBFBEt)を得た。このときの収率は、50.0%であった。また、同定は、FT−IR、GC−MS、1H−NMRを用いた。このときの1H−NMRを図10に示す。
【0061】
次いで、この中間体EtBFBEtから、1,4−bis(4’−hydroxymethylphenyl)perfluorobutane(以下、HBFBHとする)を合成した。
【0062】
窒素雰囲気に保ったドライボックス中で、50mlナスフラスコに、リチウムアルミニウムハイドライド(LiAlH4)0.96g(25.5mmol)を採取した。ドライボックスからこのナスフラスコを取り出し、窒素雰囲気下、溶媒のテトラヒドロフランを約10ml入れ懸濁させた。さらにEtBFBEt2.49g(5.1mmol)のTHF(10ml)溶液を氷冷下で滴下ロートより徐々に加え、その後室温に戻して4時間攪拌した。氷冷した10%の水を含むテトラヒドロフランを徐々に滴下し、過剰のリチウムアルミニウムハイドライドを分解した後、生じた塩をろ別除去した。このろ液にエーテルを加えて有機相を抽出した後、エーテルを減圧留去し、黄色の固体物質を得た。この固体物質をクロロホルムによりさらに洗浄し、白色固体(HBFBH)を得た。このときの収率は、92.0%であった。また、同定は、FT−IR、GC−MS、1H−NMRを用いた。このときの1H−NMRを図11に示す。
【0063】
次いで、この中間体HBFBHから、1−(4’−hydroxymethylphenyl)−4−(4’’−(2−propenoxymethylphenyl)perfluorobutane(以下、HBFBAとする)の合成を行った。
【0064】
窒素雰囲気の下、50mlナスフラスコ(A)に、水素化ナトリウム0.19g(7.92mmol)を採取した。次に、窒素雰囲気の下で、別の50mlナスフラスコ(B)にHBFBH3.28g(7.92mmol)を採取し、溶媒としてテトラヒドロフラン15mlを加えた。これを40℃の湯浴上で、L字形ガラスチューブを経由して、ナスフラスコ(B)に、ナスフラスコ(A)から水素化ナトリウム0.19gを少量ずつ加えた。これを76℃で2時間加熱還流して、室温に戻し滴下ロートを装備した後、アリルブロミド0.98g(8.10mmol)を氷冷下で滴下し、76℃で16時間さらに加熱還流した。冷水を徐々に滴下し、過剰の水素化ナトリウムを分解して、エーテルを加えて有機層を抽出した後、エーテルを減圧除去して黄色固体を得た。これを、酢酸エチル:ヘキサン=2:1の展開液を用いてシリカゲルカラム(ワコーゲルC−300、直径60mm、長さ450mm)を用いて、カラム分離し、白色固体(HBFBA)を得た。このときの収率は66.0%であった。また、同定は、FT−IR、GC−MS、1H−NMRを用いた。このときの1H−NMRを図12に示す。
【0065】
次いで、このHBFBAから、1−(4’−methacryloyloxymethylphenyl)−4−(4’’−(2−propenoxymethylphenyl)perfluorobutane(以下、MBFBAとする)の合成を行った。
【0066】
窒素雰囲気下、50mlナスフラスコに、水素化ナトリウム0.16g(6.81mmol)を採取した。次に溶媒としてテトラヒドロフラン15mlを加え、10mlのテトラヒドロフランに溶解させたHBFBA2.38g(5.24mmol)を氷冷下で徐々に滴下し、76℃で2時間加熱還流した。これを室温に戻した後、メタクリル酸クロリド0.91g(8.70mmol)を氷冷下で滴下し、さらに76℃で16時間加熱還流した。生成した塩を窒素雰囲気下でろ別除去した。
【0067】
また、重合禁止剤として2,2’−メチレンビス(6−tert−ブチル−p−クレゾール)0.5mg、及びトリフェニルホスフィンスルフィド0.5mgを加え、減圧留去して、黄色の粘性液体を得た。これを酢酸エチル:ヘキサン=2:1の展開液を用いてシリカゲルカラム(ワコーゲルC−300、直径60mm、長さ450mm)を用いて、カラム分離をおこない、無色の液体(MBFBA)を得た。このときの収率は81.0%であった。また、同定は、FT−IR、GC−MS、1H−NMRを用いた。このときの1H−NMRを図13に示す。
【0068】
次いで、このHBFBAから最終生成物であるMBFBSを合成した。
【0069】
窒素雰囲気下,50mlナスフラスコにMBFBA1.03g(1.97mmol)、触媒として0.1M塩化白金酸/テトラヒドロフラン溶液0.1mlを加え、1時間攪拌した後、氷冷下でトリメトキシシラン0.32g(2.62mmol)を徐々に滴下した。これを室温で2.5時間攪拌した。過剰の未反応のトリメトキシシランを減圧留去した後、減圧蒸留して無色の液体を得た。このMBFBSの沸点は、186℃/0.1Paから190℃/0.1Paであり、収率は15.0%であった。また、同定は、FT−IR、GC−MS、1H−NMRを用いた。このときの1H−NMRを図14に示す。
【0070】
<合成例3>
[3−(8’メタクロイルオキシ−2’,2’,3’,3’,4’,4’,5’,5’,6’,6’,7’,7’−ドデカフルオロオクチルオキシ)プロピルトリメチオキシシラン(以下、M6FPSとする)の合成]
合成例1に記載の方法と同様の方法で、3−(8’メタクロイルオキシ−2’,2’,3’,3’,4’,4’,5’,5’,6’,6’,7’,7’−ドデカフルオロオクチルオキシ)プロピルトリメチオキシシラン(3−(8’methacroyloxy−2’,2’,3’,3’,4’,4’,5’,5’,6’,6’,7’,7’−dodecafluorooctyloxy)propyltrimethoxysirane)の合成を行った。
【0071】
まず、中間体である8−allyloxy−2,2,3,3,4,4,5,5,6,6,7,7−dodecafluoro−1−octanol(以下H6FAとする)の合成を行った。
【0072】
窒素雰囲気下、50mlナスフラスコ(A)に、水素化ナトリウム1.73g(72.1mmol)を採取し、また、300mlナスフラスコ(B)に2,2,3,3,4,4,5,5,6,6,7,7−dodecafluoro−1,8−octanediol25.3g(70.0mmol)/テトラヒドロフラン80ml溶液を採取した。窒素雰囲気の下、L字形ガラスチューブを経由して、ナスフラスコ(A)中の水素化ナトリウム1.73gをナスフラスコ(B)に少量ずつ加えた。これを76℃で20時間加熱還流し、上記ジオールの片末端を、ナトリウムアルコキシドにした。その後氷冷下で、滴下ロートよりアリルブロミド9.07g(75.0mmol)を滴下して、70℃で40時間加熱した。過剰の未反応アリルアミド及び溶媒のテトラヒドロフランを留去させた後、30mlのヘキサンを加え、未反応の水素化ナトリウムと、生じた臭化ナトリウムを、ろ別除去した。更にヘキサンを減圧留去して、無色液体のH6FAを得た。
【0073】
このH6FAの沸点は、70℃/9Paから72℃/9Paであり、収率は33.3%であった。また、同定は、FT−IR、GC−MS、1H−NMRを用いた。その結果を図15から図17に示す。
【0074】
次いで、この中間体H6FAから、1−allyloxy−8−methacryloyloxy−2,2,3,3,4,4,5,5,6,6,7,7−dodecafluorooctane(以下、M6FAとする)の合成を行った。
【0075】
窒素雰囲気の下、300mlナスフラスコに水素化ナトリウム0.68g(28.3mmol)と、テトラヒドロフラン80mlを採取し、氷冷下で、滴下ロートよりH6FA5.24g(13.0mmol)をゆっくり滴下した。その後、反応系の沸点で、20時間攪拌した。このようにして、H6FAのヒドロキシ基をNaに変えた後、系を氷冷して、メタクリル酸クロリド3.25g(31.1mmol)を滴下した。その後、反応系の沸点で、20時間攪拌した。過剰の未反応メタクリル酸クロリドと溶媒のテトラヒドロフランを減圧留去して、無色液体のM6FAを得た。
【0076】
このM6FAの沸点は、76/15Paから79℃/15Paであり、収率は18.1%であった。また、同定は、FT−IR、GC−MS、1H−NMRを用いた。その結果を図18から図20に示す。
【0077】
次いで、このM6FAから最終生成物であるM6FPSを合成した。窒素雰囲気の下、100mlナスフラスコに、M6FA3.74g(7.96mmol)と、触媒の0.1Mの塩化白金酸/THF溶液0.3ml、重合禁止剤の2,2−メチレンビス(6−tert−ブチル−p−クレゾール)及びトリフェニルホスフィンスルフィドのそれぞれ1mgを加え、室温で1時間攪拌した。その後、氷冷下でトリメトキシシラン1.07g(8.76mmol)を2時間かけてゆっくり滴下し、さらに室温で17時間攪拌して、反応させた。過剰の未反応トリメトキシシランを減圧留去し、ヘキサン10mlを加え生じた白金をろ別除去した。更に、減圧にて分別留去し、無色液体のM6FPを得た。
【0078】
このM6FPSの沸点は、115℃/18Paから120℃/18Paであり、収率は8.5%であった。また、同定は、FT−IR、GC−MS、1H−NMRを用いた。その結果を図21から図23に示す。
【0079】
<実施例1>
[引張接着強度の検討]
上記の合成例1,2で合成したM4FBS及びMBFBSの引張接着強度の検討を行った。上記のシランカップリング剤以外に、3−MPS及びp−MBSを用いた。なお、3−MPS及びp−MBSの構造式は以下の通りである。
【化13】
【0080】
上記のシランカップリング剤(M4FPS、MBFBS、3−MPS及びp−MBS)を、50mmol/lエタノール溶液に調製し、処理直前に酢酸を約15質量%添加して作成した溶液を処理溶液とした。
【0081】
被着体には平板ガラス(15mm×15mm)を使用した。なお、ガラスは表面の汚れを除去するために、1Nの水酸化ナトリウム水溶液と、1Nの塩酸を用いて洗浄し、乾燥させた。その後ステンレス接着子の接着表面を規定するために、直径5mmの円形の穴が空いたシールを貼った。
【0082】
この平板ガラスの接着規定箇所に上記のシランカップリング剤の調製液を塗布して、平板ガラスの表面を処理した。
【0083】
次いで、予め秤量した市販のコンポジットレジン(商品名クリアフィルFII 株式会社トクヤマ製)をよく練って接着子の被接着面に盛り、平板ガラスの接着規定箇所、即ち、シランカップリング剤で処理した箇所に接着するように、垂直に押し付けたものをそれぞれ順に、試料1から4とした。即ち、シランカップリング剤にM4FPSを用いたものを試料1とし、MBFBS(図中のMB4FBSと同一である)を用いたものを試料2とし、3−MPSを用いたものを試料3とし、p−MBSを用いたものを試料4とした。
【0084】
これらの試料は、室温で30分放置した後に、37℃の蒸留水中に1日間保管した群、7日間保管した群、4℃と60℃の恒温槽に各40秒間ずつ浸漬させることを1サイクルとしたサーマルストレスを、5000サイクル与えた群とに分けた。
【0085】
保管後は、試験装置AGS−500Aによりクロスヘッドスピード1.0mm/minで引張接着強度を測定した。なお、各処理及び保管群につき7個の験体を測定し、最大値と最小値を除いた5個の測定結果を用いた。引張接着強度はその平均値とした。
【0086】
図24にその結果を示す。試料2は、水中に1日浸漬させた後、サーマルストレス後ともに、試料3に比べ高い強度を示した。また、試料2はサーマルストレス後にも他の3つの試料と比べ、高い強度を示し、接着強度の値はおよそ10MPaであった。更に、試料2は、フルオロアルキレン基のみを有する試料1と比べても高い接着強度を示した。
【図面の簡単な説明】
【0087】
【図1】本発明に係るシランカップリング剤M4FPSの中間体H4FAのマススペクトルを示した図である。
【図2】本発明に係るシランカップリング剤M4FPSの中間体H4FAの1H−NMRを示した図である。
【図3】本発明に係るシランカップリング剤M4FPSの中間体H4FAのFT−IRスペクトルを示した図である。
【図4】本発明に係るシランカップリング剤M4FPSの中間体M4FAのマススペクトルを示した図である。
【図5】本発明に係るシランカップリング剤M4FPSの中間体M4FAの1H−NMRを示した図である。
【図6】本発明に係るシランカップリング剤M4FPSの中間体M4FAのFT−IRスペクトルを示した図である。
【図7】本発明に係るシランカップリング剤M4FPSのマススペクトルを示した図である。
【図8】本発明に係るシランカップリング剤M4FPSの1H−NMRを示した図である。
【図9】本発明に係るシランカップリング剤M4FPSのFT−IRスペクトルを示した図である。
【図10】本発明に係るシランカップリング剤MBFBSの中間体EtBFBEtの1H−NMRを示した図である。
【図11】本発明に係るシランカップリング剤MBFBSの中間体HBFBHの1H−NMRを示した図である。
【図12】本発明に係るシランカップリング剤MBFBSの中間体HBFBAの1H−NMRを示した図である。
【図13】本発明に係るシランカップリング剤MBFBSの中間体MBFBAの1H−NMRを示した図である。
【図14】本発明に係るシランカップリング剤MBFBSの1H−NMRを示した図である。
【図15】本発明に係るシランカップリング剤M6FPSの中間体H6FAのマススペクトルを示した図である。
【図16】本発明に係るシランカップリング剤M6FPSの中間体H6FAの1H−NMRを示した図である。
【図17】本発明に係るシランカップリング剤M6FPSの中間体H6FAのFT−IRスペクトルを示した図である。
【図18】本発明に係るシランカップリング剤M6FPSの中間体M6FAのマススペクトルを示した図である。
【図19】本発明に係るシランカップリング剤M6FPSの中間体M6FAの1H−NMRを示した図である。
【図20】本発明に係るシランカップリング剤M6FPSの中間体M6FAのFT−IRスペクトルを示した図である。
【図21】本発明に係るシランカップリング剤M6FPSのマススペクトルを示した図である。
【図22】本発明に係るシランカップリング剤M6FPSのFT−IRスペクトルを示した図である。
【図23】本発明に係るシランカップリング剤M6FPSの1H−NMRを示した図である。
【図24】実施例における引張試験の結果を示した図である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の一般式(1)で示されるシランカップリング剤。
【化1】
〔式中、Rは主鎖内にフルオロアルキレン基を有する基であり、Xは有機官能性基であり、Yは加水分解性基であり、Zは炭素数1から4のアルキル基であり、nは0から2の整数である。〕
【請求項2】
前記Rは、主鎖内に置換基を有していてもよい2価の芳香族炭化水素基を更に有する請求項1に記載のシランカップリング剤。
【請求項3】
前記Rは、下記の一般式(2)で示される基である請求項1又は2に記載のシランカップリング剤。
【化2】
〔式中R1,R3は、それぞれ独立して置換基を有していてもよい2価の芳香族炭化水素基、アルキレン基、オキシアルキレン基、及びこれらが結合した基より選択される基であり、R2は、炭素数1から10のフルオロアルキレン基である。〕
【請求項4】
下記の構造式(3)で示される請求項1から3いずれかに記載のシランカップリング剤。
【化3】
【請求項5】
請求項1から4いずれかに記載のシランカップリング剤で改質されたフィラーを含む歯科用コンポジットレジン。
【請求項6】
請求項1から4いずれかに記載のシランカップリング剤1質量部に対して、0.001質量部から100質量部の有機リン酸化合物を含む歯科用プライマー。
【請求項1】
下記の一般式(1)で示されるシランカップリング剤。
【化1】
〔式中、Rは主鎖内にフルオロアルキレン基を有する基であり、Xは有機官能性基であり、Yは加水分解性基であり、Zは炭素数1から4のアルキル基であり、nは0から2の整数である。〕
【請求項2】
前記Rは、主鎖内に置換基を有していてもよい2価の芳香族炭化水素基を更に有する請求項1に記載のシランカップリング剤。
【請求項3】
前記Rは、下記の一般式(2)で示される基である請求項1又は2に記載のシランカップリング剤。
【化2】
〔式中R1,R3は、それぞれ独立して置換基を有していてもよい2価の芳香族炭化水素基、アルキレン基、オキシアルキレン基、及びこれらが結合した基より選択される基であり、R2は、炭素数1から10のフルオロアルキレン基である。〕
【請求項4】
下記の構造式(3)で示される請求項1から3いずれかに記載のシランカップリング剤。
【化3】
【請求項5】
請求項1から4いずれかに記載のシランカップリング剤で改質されたフィラーを含む歯科用コンポジットレジン。
【請求項6】
請求項1から4いずれかに記載のシランカップリング剤1質量部に対して、0.001質量部から100質量部の有機リン酸化合物を含む歯科用プライマー。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図2】
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【図10】
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【図14】
【図15】
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【図18】
【図19】
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【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【公開番号】特開2007−238567(P2007−238567A)
【公開日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−66663(P2006−66663)
【出願日】平成18年3月10日(2006.3.10)
【出願人】(803000115)学校法人東京理科大学 (545)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年3月10日(2006.3.10)
【出願人】(803000115)学校法人東京理科大学 (545)
【Fターム(参考)】
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