シランカップリング剤の成膜方法及びインクジェットヘッドの製造方法
【課題】簡易な成膜装置によって、被成膜基材の表面に、シランカップリング剤の被膜を均一且つ強固に形成することができ、また、一の成膜サイクル終了から次の成膜サイクル開始までに要するリセット時間が短く、連続処理を好適に行うことができるシランカップリング剤の成膜方法、及び、これを用いるインクジェットヘッドの製造方法を提供する。
【解決手段】チャンバー301の内部にシランカップリング剤ガスを導入し、チャンバー301の内壁301aにシランカップリング剤を吸着させる第1の工程と、チャンバー301内に被成膜基材125を導入し、チャンバー301にシランカップリング剤ガスを導入することなくチャンバー301内に被成膜基材125を放置し、内壁301aから脱離したシランカップリング剤を被成膜基材125の表面に成膜する第2の工程とを有する。
【解決手段】チャンバー301の内部にシランカップリング剤ガスを導入し、チャンバー301の内壁301aにシランカップリング剤を吸着させる第1の工程と、チャンバー301内に被成膜基材125を導入し、チャンバー301にシランカップリング剤ガスを導入することなくチャンバー301内に被成膜基材125を放置し、内壁301aから脱離したシランカップリング剤を被成膜基材125の表面に成膜する第2の工程とを有する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シランカップリング剤及びインクジェットヘッドの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シランカップリング剤は、ケイ素に、加水分解基や有機官能基が結合した化合物であり、その被膜を基材に成膜すると、有機官能基の特性によって基材表面に接着性、機械的強度、耐水性などを付与することができるため、様々な分野で表面改質剤として多用されている。例えば、インクジェットヘッドにおいては、金属よりなるノズル基板のキャビティー基板との接合面に、シランカップリング剤の被膜を形成することで接合性を付与し、両基板を強固に接合することが行われている。
【0003】
このシランカップリング剤の成膜方法としては、従来より、シランカップリング剤の溶液に被成膜基材を浸漬する浸漬法が知られている。しかし、浸漬法では、溶液の表面張力や毛細管現象があるため、特に、被成膜基材が微細構造を有する場合、均一に被膜を成膜するのが難しい。
【0004】
そこで、表面張力や毛細管現象の影響を回避するため、シランカップリング剤を蒸気として、被成膜基材の表面に被着させる気相成膜法を用いることが提案されている(例えば、特許文献1、2参照。)。
【0005】
このうち、特許文献1の方法では、デシケータの底部に、液状のシランカップリング剤を溜めておき、このシランカップリング剤の上方に被成膜基材を保持した状態で、シランカップリング剤を100℃程度に加熱する。これにより、シランカップリング剤が蒸気化し、この蒸気が被成膜基材の表面に被着することでシランカップリング剤の被膜が形成される。
しかし、この方法では、一の成膜サイクルを行った後、次の成膜サイクルを行う前に、加熱したデシケータを常温まで冷却しなければならず、この冷却過程に時間がかかる。このため、量産等における連続処理には適用し難い。
【0006】
また、特許文献2に記載された方法では、チャンバー内を、被成膜基材を搬入した後、真空雰囲気とし、該チャンバー内に蒸気化したシランカップリング剤を導入することで、被成膜基材の表面にシランカップリング剤の被膜を形成する。
【0007】
しかし、この方法では、真空度の高い成膜雰囲気が必要となることや、原料ガスの圧力を精密に調整しなくてはならないことから、成膜装置が高価になってしまう。
また、被成膜基材を加熱しない状態で成膜を行うため、成膜された被膜は、金属基板の表面に存在する結合サイトとの化学結合が少なく、強度が不十分である。このため、例えば基板同士の接着界面等を構成する被膜としては不適当である。
さらに、ガス導入管から送出されたガスを、そのまま被成膜基材に被着させるため、ガス導入管から近い領域では膜厚が厚くなり、遠い領域では膜厚が薄くなるというように、被膜の膜厚が不均一となる。このため、目的とする表面改質が十分になされないという問題もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平10−70114号公報
【特許文献2】特開2006−231134号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで、本発明は、上記した問題を解決するためになされたもので、簡易な構成の成膜装置によって、被成膜基材の表面に、シランカップリング剤の被膜を均一且つ強固に形成することができ、また、一の成膜サイクル終了から次の成膜サイクル開始までに要するリセット時間が短く、連続処理を好適に行うことができるシランカップリング剤の成膜方法、及び、これを用いるインクジェットヘッドの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のシランカップリング剤の成膜方法は、チャンバーの内部にシランカップリング剤のガスを導入し、前記チャンバーの内壁に前記シランカップリング剤を吸着させる第1の工程と、前記シランカップリング剤のガスの導入を停止し、前記チャンバーの内部に基板を導入し、前記チャンバーにシランカップリング剤のガスを導入することなく前記チャンバーの内部に前記基板を放置し、前記チャンバーの内壁から脱離したシランカップリング剤を前記基板の表面に成膜する第2の工程と、を有する。
【0011】
このため、本発明のシランカップリング剤の成膜方法によれば、高度な真空雰囲気や、精密なガス圧調整が不要となり、シランカップリング剤の被膜を、簡易な成膜装置を用い、簡単な操作で形成することができる。
【0012】
また、シランカップリング剤を、チャンバーの内壁に一旦吸着させた後、これを脱離させることによって基板の表面に供給するので、ガス導入管から送出されるシランカップリング剤を直接基板の表面に供給するのに比べて、基板の表面に偏りなくシランカップリング剤が供給される。このため、基板の表面に、シランカップリング剤被膜を均一な膜厚で形成することが可能となる。
【0013】
本発明のシランカップリング剤の成膜方法においては、前記第1の工程及び前記第2の工程において、前記チャンバーの温度を、シランカップリング剤の液化温度以上に保持することが好ましい。
【0014】
このような構成とすることにより、チャンバー内に導入したシランカップリング剤ガスの液化が抑えられるとともに、チャンバー内に搬送した基板を、チャンバーからの熱伝導によって昇温させることができる。これにより、基板の表面に、シランカップリング剤を均一に吸着させることができるとともに、吸着したシランカップリング剤と基板との間に、十分に化学結合を生じさせることができる。その結果、基板の表面に、シランカップリング剤被膜を均一な膜厚で強固に形成することが可能となる。
また、一の成膜サイクルが終了した後、チャンバーを放冷することなく、次の成膜サイクルを開始することができ、連続処理を効率良く行うことが可能となる。
【0015】
本発明のシランカップリング剤の成膜方法においては、前記第2の工程において、前記チャンバーの内部に導入された前記基板は、前記チャンバーの内部で常温付近から徐々に昇温することが好ましい。
【0016】
このような構成とすることにより、基板の表面に、シランカップリング剤を十分に吸着させることができ、所望の膜厚のシランカップリング剤被膜を容易に得ることが可能となる。
【0017】
本発明のシランカップリング剤の成膜方法においては、前記第2の工程において、前記チャンバーの温度を上昇させ、前記チャンバーの内壁からのシランカップリング剤の脱離を促進させることが好ましい。
【0018】
このような構成とすることにより、シランカップリング剤の成膜レートが高くなり、シランカップリング剤被膜を効率良く形成することが可能となる。
【0019】
本発明のシランカップリング剤の成膜方法においては、前記第2の工程において、前記基板の温度を前記チャンバーの温度とは独立に制御することが好ましい。
【0020】
このような構成とすることにより、チャンバーの温度に関わらず、基板の昇温速度を自由に制御することができ、所望の膜厚のシランカップリング剤被膜を容易に得ることが可能となる。
【0021】
本発明のシランカップリング剤の成膜方法においては、前記チャンバーの内壁の材質は、ステンレス鋼、アルミニウム、アルミニウム合金の少なくともいずれかであることが好ましい。
【0022】
このような構成とすることにより、チャンバーを、耐食性に優れたものとすることができる。特に、ステンレス鋼を用いた場合には、チャンバーの耐食性をより改善することができ、アルミニウム及びアルミニウム合金を用いた場合には、チャンバーからのガス放出が抑えられ、純度の高いシランカップリン剤被膜を得ることが可能となる。
【0023】
本発明のシランカップリング剤の成膜方法においては、前記チャンバーの内壁には、極性を付与する処理、多孔質化処理、鏡面化仕上げの少なくともいずれかの表面処理が施されていることが好ましい。
【0024】
このような構成とすることにより、シランカップリング剤の成膜レートを容易に所望の範囲とすることができる。
【0025】
本発明のシランカップリング剤の成膜方法においては、前記チャンバーの内壁には、多数のフィンが設けられていることが好ましい。
【0026】
このような構成とすることにより、チャンバーの内壁の表面積が大きくなり、内壁に吸着するシランカップリング剤の吸着量が増大する。このため、シランカップリング剤の成膜レートを、より高めることが可能となる。
【0027】
本発明のインクジェットヘッドの製造方法は、液滴を吐出するための複数のノズル孔を有するノズル基板と、前記ノズル基板の前記複数のノズルそれぞれに連通して液滴を収容する複数の圧力室を有するキャビティー基板と、前記圧力室に液滴を飛翔させる圧力変化を与える圧力発生手段とを有するインクジェットヘッドの製造方法であって、前記シランカップリング剤の成膜方法を用いて、前記ノズル基板及び前記キャビティー基板の少なくともいずれかの接合面にシランカップリング剤の被膜を成膜する工程と、前記ノズル基板と前記キャビティー基板とを、前記シランカップリング剤の被膜を介して接合する工程と、を有する。
【0028】
このため、本発明のインクジェットヘッドの製造方法によれば、ノズル基板及びキャビティー基板の少なくともいずれかの接合面に、シランカップリング剤の被膜を、均一な膜厚で強固に形成することができ、各基板を強固に接合することができる。これにより、耐環境性に優れたインクジェットヘッドを製造することが可能となる。
【0029】
また、このインクジェットヘッドの製造方法では、シランカップリング剤の被膜を、簡易な成膜装置によって効率良く成膜することができるため、インクジェットヘッドの製造効率の向上に貢献することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明のインクジェットヘッドの製造方法によって製造されるインクジェットヘッドの一例を示す分解斜視図。
【図2】図1のインクジェットヘッドの概略縦断面図。
【図3】図1のノズル基板の膜構成を説明するための拡大図。
【図4】ノズル基板の製造方法を示す製造工程の断面図。
【図5】図4に続くノズル基板の製造工程の断面図。
【図6】図5に続くノズル基板の製造工程の断面図。
【図7】図6に続くインクジェットヘッドの製造工程の断面図。
【図8】図7に続くインクジェットヘッドの製造工程の断面図。
【図9】実施形態1に係るシランカップリング剤の成膜方法で用いる成膜装置の模式図。
【図10】真空ビルドアップ試験の測定結果を示す特性図。
【図11】実施形態3に係るシランカップリング剤の成膜方法で用いる成膜装置の模式図。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明のシランカップリング剤の成膜方法及びインクジェットヘッドの製造方法について、図に示す実施形態に基づいて説明する。
【0032】
<<インクジェットヘッドの構成>>
まず、本発明のシランカップリング剤の成膜方法及びインクジェットヘッドの製造方法によって製造されるインクジェットヘッドの構成について説明する。
ここでは、インクジェットヘッドの一例として、静電駆動式のインクジェットヘッドについて図1又は図2を参照して説明する。なお、アクチュエータ(圧力発生手段)は静電駆動方式に限られたものではなく、その他の圧電素子は発熱素子等を利用する方式であってもよい。
【0033】
図1は、インクジェットヘッドの概略構成を分解して示す分解斜視図であり、一部を断面で表してある。図2は、図1の右半分の概略構成を示すインクジェットヘッドの断面図である。なお、図1及び図2では、通常使用される状態とは上下逆に示されている。
【0034】
このインクジェットヘッド10は、図1及び図2に示すように、複数のノズル孔11が所定のピッチで設けられたノズル基板1と、各ノズル孔11に対して独立にインク供給路が設けられたキャビティー基板2と、キャビティー基板2の振動板22に対峙して個別電極31が配設された電極基板3とを貼り合わせることにより構成されている。
【0035】
ノズル基板1は、多層基板構造を有し、シリコン基板で構成されている。インク滴を吐出するためのノズル孔11は、インク吐出方向の先端側から後側方向に行くに従って開口断面が段階的に大きくなるn段(nは2以上の自然数)の多段構造を有している。この例では、開口径が異なる2つの円筒状のノズル孔から形成された2段の多段構造を例示しており、以下、吐出方向の先端側から順に第1ノズル部11a、第2ノズル部11bという。
【0036】
図3は、図1のノズル基板の膜構成を説明するための拡大図である。
ノズル基板1の第1層基板1aにおいて第1ノズル部11aの内壁を含む表面全体には、耐インク保護膜103,104が形成されている。吐出面の耐インク保護膜104は例えばCVD(Chemical Vapor Deposition)で成膜されたSiO2膜で構成されており、このSiO2膜はこの上に成膜される撥液膜105の下地ともなっている。また、第1層基板1aにおいて第2層基板1bとの接合面と、第1ノズル部11aの内壁とに形成された耐インク保護膜103は、例えば熱酸化により形成されたSiO2膜により構成されている。
【0037】
また、第2層基板1aにおいて第1層基板1aとの接合面と第2ノズル11bの内壁とには親液膜123が形成されている。この親液膜123は例えば熱酸化により形成されたSiO2膜により構成されており、耐インク保護膜としても機能する。そして、第2層基板1bの第1層基板1aとの接合面と反対側の面は、キャビティー基板2との接合性を高めるためのプライマー層124が形成されている。このプライマー層124は、後述する本発明のシランカップリング剤の成膜方法によって形成されており、均一な膜厚を有し、第2層基板1a表面に強固に形成されている。このため、プライマー層124は、第2層基板1aのキャビティー基板に対する接合強度を大きく高めることができる。なお、プライマー層124は第2層基板1bにおいてキャビティー基板2との接合面に形成されていれば十分であるが、製造工程上、第2ノズル部11bの内壁にも形成されている。
【0038】
キャビティー基板2はシリコン基板から作製されている。このシリコン基板にウェットエッチングを施すことにより、インク流路の圧力室21となる凹部25、オリフィス23となる凹部26、及びリザーバー24となる凹部27から形成される。凹部25は前記ノズル孔11に対応する位置に独立に複数形成される。したがって、図2に示すようにノズル基板1とキャビティー基板2を接合した際、各凹部25が圧力室21を構成し、それぞれノズル孔11に連通しており、またインク供給口である前記オリフィス23ともそれぞれ連通している。そして、圧力室21(凹部25)の底壁が振動板22となっている。
【0039】
凹部26は、細溝状のオリフィス23を構成し、この凹部26を介して凹部25(圧力室21)と凹部27(リザーバー24)とが連通している。
凹部27は、インク等の液状材料を貯留するためのものであり、各圧力室21に共通のリザーバー(共通インク室)24を構成する。そして、リザーバー24(凹部27)はそれぞれオリフィス23を介して全ての圧力室21に連通しており、圧力室21、リザーバー24及びオリフィス23によりインク流路が形成されている。なお、オリフィス23(凹部26)はノズル基板1の裏面(キャビティー基板2との接合側の面)に設けることもできる。また、リザーバー24の底部には後述する電極基板3に設けたインク供給孔33に連通するインク供給孔28が設けられている。このインク供給孔33及びインク供給孔28を通じて図示しないインクカートリッジからインクが供給されるようになっている。
【0040】
また、キャビティー基板2の全面又は少なくとも電極基板3との対向面には熱酸化やプラズマCVD(Chemical Vapor Deposition)によりSiO2やTEOS(Tetraethylorthosilicate Tetraethoxysilane:テトラエトキシシラン、珪酸エチル)膜等からなる絶縁膜2aが膜厚0.1μmで施されている。この絶縁膜2aは、インクジェットヘッド10を駆動させた時に絶縁破壊や短絡を防止する目的で設けられる。
【0041】
電極基板3は、例えば厚さ約1mmのガラス基板から作製される。中でも、キャビティー基板2のシリコン基板と熱膨張係数の近い硼珪酸系の耐熱硬質ガラスを用いるのが適している。これは、電極基板3とキャビティー基板2を陽極接合する際、両基板の熱膨張係数が近いため、電極基板3とキャビティー基板2との間に生じる応力を低減することができ、その結果剥離等の問題を生じることなく電極基板3とキャビティー基板2を強固に接合することができるからである。
【0042】
電極基板3には、キャビティー基板2の各振動板22に対向する面の位置にそれぞれ凹部32が設けられている。凹部32は、エッチングにより深さ約0.3μmで形成されている。そして、各凹部32内には、一般に、ITO(Indium Tin Oxide)からなる個別電極31が、例えば0.1μmの厚さでスパッタにより形成される。したがって、振動板22と個別電極31との間に形成されるギャップ(空隙)は、この凹部32の深さ、個別電極31及び振動板22を覆う絶縁膜2aの厚さにより決まることになる。このギャップはインクジェットヘッドの吐出特性に大きく影響するため、高精度に形成される。
【0043】
個別電極31は、リード部31aと、フレキシブル配線基板(図示せず)に接続される端子部31bとを有する。端子部31bは、図2に示すように、配線のためにキャビティー基板2の末端部が開口された電極取り出し部30内に露出している。振動板22と個別電極31との間に形成される電極間ギャップの開放端部はエポキシ等の樹脂による封止材34で封止される。これにより、湿気や塵埃等が電極間ギャップへ侵入するのを防止することができ、インクジェットヘッド10の信頼性を高く保持することができる。そして、ICドライバ等の駆動制御回路35が各個別電極31の端子部31bとキャビティー基板2上に設けられた共通電極29と前記フレキシブル配線基板(図示せず)を介して接続されている。
【0044】
次に、以上のように構成されたインクジェットヘッド10の動作を説明する。
駆動制御回路35は例えば24kHzで発振し、キャビティー基板2の共通電極端子29と個別電極31の間にパルス電圧を印加して個別電極31に電荷供給を行う。個別電極31に電極を供給して正に帯電させると、振動板22は負に帯電し、振動板22と個別電極31との間に静電気力が発生する。この静電気力の吸引作用により振動板22が個別電極31側に引き寄せられて撓み、圧力室21の容積が拡大する。これによりリザーバー24の内部に溜まっていたインク滴がオリフィス23を通じて圧力室21に流れ込む。次に、個別電極31への電圧の印加を停止すると、静電吸引力が消滅して振動板22が復元し、圧力室21の容積が急激に収縮する。これにより、圧力室21内の圧力が急激に上昇し、この圧力室21に連通しているノズル孔11からインク滴が吐出される。
【0045】
<<シランカップリング剤の成膜方法及びインクジェットヘッドの製造方法>>
次に、本発明に係るシランカップリング剤の成膜方法及びインクジェットヘッドの製造方法を、図1及び図2に示すインクジェットヘッドを製造する場合を例にして説明する。
<実施形態1>
まず、本発明のシランカップリング剤の成膜方法を、インクジェットヘッドの製造方法に適用した実施形態1について説明する。
図4〜図8は、実施形態1に係るインクジェットヘッドの製造方法を説明するための図、図9は、実施形態1に係るシランカップリング剤の成膜方法で用いる成膜装置を示す模式図である。
【0046】
[A]支持基板付き第2層基板の作製工程
図1及び図2に示すインクジェットヘッド10を作製するには、まず、支持基板付き第2層基板125を以下のようにして作製する。
(A1)すなわち、図4(A)に示すように、第2層基板1bとなるシリコン基板120の表面にレジスト121を塗布し、フォトリソグラフィによりレジスト121をパターニングし、第2ノズル部11bに対応する部分に開口121aを形成する。
そして、ICPドライエッチング装置によりレジスト121の開口121aを介して、垂直に異方性ドライエッチングし、第2ノズル部11bとなる凹部122を形成する。この凹部122の形成には、C4F8とSF6とを交互に使用したエッチングを行う。
【0047】
(A2)続いて、レジストパターンを硫酸洗浄などにより剥離した後、シリコン基板120を熱酸化炉に投入し、図4(B)に示すように、シリコン基板120の表面全体に親液膜123を形成する。親液膜123としては、例えば膜厚0.1μmの熱酸化膜(SiO2膜)を形成する。
【0048】
(A3)図4(C)に示すように、シリコン基板120の凹部122形成側の面120aに、両面接着シート50を介してガラス等の透明材料よりなる支持基板110を貼り付ける。
(A4)次に、図4(D)に示すように、シリコン基板120の凹部122形成側の面120aと反対側の表面120b側からグラインダー(図示せず)で研削加工を行い、所望の板厚近傍まで薄板化する。これにより、第2ノズル部11bとなる凹部122の底面が削除され第2ノズル部11bが形成される。薄板後、さらに、ポリッシャー、CMP装置によってシリコン基板120の表面を研磨し、所定の板厚にする。
【0049】
以上の工程により、支持基板付き第2層基板125を得る。
[B]シランカップリング剤被膜の形成工程
前記工程[A]で作製された支持基板付き第2層基板125では、支持基板110側と反対側の面が、キャビティー基板2と接合される接合面120bを構成する。図4(E)に示すように、この工程では、接合面120bに、本発明のシランカップリング剤の成膜方法を用いてシランカップリング剤被膜(プライマー層124)を形成する。以下、このシランカップリング剤の成膜方法について説明する。
【0050】
本発明のシランカップリング剤の成膜方法は、チャンバーの内部にシランカップリング剤のガスを導入し、前記チャンバーの内壁に前記シランカップリング剤を吸着させる第1の工程(B1)と、前記シランカップリング剤のガスの導入を停止し、前記チャンバーの内部に基板を導入し、前記チャンバーにシランカップリング剤のガスを導入することなく前記チャンバーの内部に前記基板を放置し、前記チャンバーの内壁から脱離したシランカップリング剤を前記基板の表面に成膜する第2の工程(B2)とを有している。
【0051】
まず、各工程で用いる成膜装置の一例について説明する。
図9(A)に示すように、この成膜装置300は、図示しない基板搬入口を有するチャンバー301と、チャンバー301内に、原料ガスを供給するガス供給手段302と、チャンバー301内のガスを排気する真空ポンプ303とを有している。
【0052】
チャンバー301は、外部と成膜空間とを仕切る容器であり、気密性を有するとともに、内部が高真空状態とされるため耐圧性を有するものとされる。また、チャンバー301は加熱手段を備えており、この加熱手段によって、チャンバー301内が加熱され、所定の温度に制御されるようになっている。
【0053】
チャンバー301は、耐食性に優れる金属材料等によって構成されている。そのような金属材料としては、具体的にはSUS201、SUS202、SUS301、SUS302、SUS303、SUS304、SUS305、SUS316等のステンレス鋼、アルミニウム及びアルミニウム合金等の金属材料が挙げられる。このうち、特に、ステンレス鋼は耐食性に優れており、また、アルミニウム及びアルミニウム合金は、軽量であるとともに放出ガスが少ないという利点を有する。
【0054】
チャンバー301の内壁301aには、工程(B1)でシランカップリング剤を吸着させるため、シランカップリング剤ガスに対する吸着性を制御する表面処理が施されているのが好ましい。これにより、工程(B2)でチャンバー301の内壁301aから脱離したシランカップリング剤を被成膜基材125の表面に成膜する際、その成膜レートを容易に所望の範囲とすることができる。
【0055】
そのような表面処理としては、例えば、内壁301aに極性を付与する処理、内壁301aを多孔質化する処理、内壁301aを鏡面化する処理(鏡面仕上げ)等が挙げられる。
チャンバー301の内壁301aに極性を付与する処理を行うと、シランカップリング剤が水素結合する結合サイトが増えるため、チャンバー301の内壁301aに吸着するシランカップリング剤の吸着量が増大する。その結果、シランカップリング剤の成膜工程(B2)で、大きな成膜レートを得ることができる。極性を付与する処理としては、例えば酸素プラズマ処理等の酸化処理等が挙げられる。
【0056】
また、チャンバー301の内壁301aに多孔質化処理を行うと、その表面積が大きくなるため、チャンバー301の内壁301aに吸着するシランカップリング剤の吸着量が増大する。その結果、シランカップリング剤の成膜工程(B2)で、大きな成膜レートを得ることができる。多孔質化処理としては、例えばチャンバー301がアルミニウム又はアルミニウム合金によって構成されている場合には、アルマイト処理(陽極酸化処理)等を用いることができる。
【0057】
一方、チャンバー301の内壁301aに鏡面仕上げを行うと、その表面積が小さくなるため、チャンバー301の内壁301aに吸着するシランカップリング剤の吸着量が小さくなる。これにより、シランカップリング剤の成膜工程(B2)で、比較的膜厚の薄いシランカップリング剤被膜、例えばシランカップリング剤の単分子膜を容易に得ることができる。
ここで、以上の表面処理は、いずれかを単独で行ってもよく、複数の表面処理を組み合わせて行うようにしても良い。
【0058】
ガス供給手段302は、ガス導入管304を介してチャンバー301の下方に接続されている。ガス供給手段302は、シランカップリング剤の貯留タンクや加熱手段等を有し、シランカップリング剤を加熱して気化し、そのガスをガス導入管304に送出する。ガス導入管304に送出されたシランカップリング剤のガスは、ガス導入管304を通過してチャンバー301内に供給される。また、ガス導入管304の途中には第1バルブ305が設けられており、この第1バルブ305の開閉操作によって、チャンバー301内へのガス供給の開始及び停止の切り替えや、ガス流量の制御が行われるようになっている。
【0059】
真空ポンプ303は、排気管306を介してチャンバー301の下方に接続されている。真空ポンプ303は、チャンバー301内のガスを所定の流量で排気し、チャンバー301内を減圧状態にしたり、不要なガスを除去したりする。排気管306の途中には第2バルブ307が設けられており、この第2バルブ307の開閉操作によって、ガス排気の開始及び停止の切り替えや、ガス排気量の制御を行われるようになっている。
【0060】
本実施形態では、以上のような成膜装置300を用いてシランカップリング剤被膜を形成する。以下、本実施形態に係るシランカップリング剤の成膜方法を、工程順に説明する。
(B1)チャンバー内壁へのシランカップリング剤吸着工程(第1の工程)
まず、成膜装置300のチャンバー301の内壁301aに、シランカップリング剤を吸着させる。
【0061】
(B1−1)具体的には、加熱手段を作動させることにより、チャンバー301内を設定温度まで加熱する。また、第2バルブ307を開いた状態で真空ポンプ303を作動させることにより、チャンバー301内のガスを排気する。そして、チャンバー301内が設定値まで減圧となったところで、第2バルブ307を閉じ、真空ポンプ303による排気を停止する。
【0062】
チャンバー301内の温度は、80〜180℃であるのが好ましい。内壁301aへのシランカップリング剤の吸着は発熱反応であるため、チャンバー301内の温度が高くなる程、吸着量は小さくなる。このため、チャンバー301内の温度が180℃を超えると、十分な吸着量が得られない。一方、チャンバー301内の温度が80℃未満になると、シランカップリング剤が液化し、内壁301aにシランカップリング剤を均一に吸着させるのが困難になる。本実施形態では、加熱手段により、工程(B1)〜工程(B2)に亘ってチャンバー301内の温度が140℃程度(シランカップリング剤の液化温度以上の温度)に保たれるように制御する。
【0063】
(B1−2)続いて、第1バルブ305を開いた状態でガス供給手段302からシランカップリング剤ガスを送出させ、チャンバー301内にシランカップリング剤ガスを導入する。そして、チャンバー301内でのシランカップリング剤ガスの分圧が設定値に達しところで、第1バルブ305を閉じ、シランカップリング剤ガスの導入を停止する。この状態でしばらく放置する。この放置の間に、チャンバー301内に導入されたシランカップリング剤ガスは、チャンバー301の内壁301aや配管の外周面等と接触し、その少なくとも一部が接触面との分子間力や水素結合等によってチャンバー301の内壁301a等に吸着する。
【0064】
チャンバー内に導入するシランカップリング剤としては、例えば、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、3−(N−フェニル)アミノプロピルトリメトキシシラン等のアミノシラン等が挙げられる。
【0065】
チャンバー301内に導入するシランカップリング剤ガスの分圧は、チャンバー301内の温度におけるシランカップリング剤の飽和蒸気圧以下の圧力であることが必要である。シランカップリング剤ガスの分圧が飽和蒸気圧より高くなると、チャンバー301内でシランカップリング剤が液化し、内壁301aにシランカップリング剤を均一に吸着させることが困難になる。具体的には、シランカップリング剤ガスの分圧は、その飽和蒸気圧に対して概ね10%〜50%であるのが好ましく、チャンバー301内の温度が前記範囲である場合には、500〜2000Pa程度が適当である。これにより、チャンバー301内でのシランカップリング剤ガスの液化を抑制して、内壁301aに、シランカップリング剤を十分に吸着させることができる。
【0066】
(B1−3)次に、第2バルブ307を開き、チャンバー301内に、シランカップリング剤が設定した分圧で残存するように、チャンバー301内のシランカップリング剤ガスの一部を真空ポンプ303によって排気する。その後、第2バルブ307を閉じ、真空ポンプ303による排気を停止する。
【0067】
ここで、チャンバー301内に残存させるシランカップリング剤ガスの分圧は、目的とする成膜レートや膜厚によっても異なるが、数Pa〜数十Paであるのが好ましい。シランカップリング剤ガスの分圧が前記範囲より小さい場合には、後工程(B2)で行うシランカップリング剤の成膜に際し、十分な成膜レート及び膜厚が得られない可能性がある。また、シランカップリング剤ガスの分圧が前記範囲より大きい場合には、後工程(B2)において、シランカップリング剤被膜の膜厚を精密に制御するのが困難になる。
【0068】
チャンバー301内に残存するシランカップリング剤ガスの分圧(内壁301aにおける吸着量)は、真空ポンプ203による排気速度や排気時間、チャンバー301内の温度によって制御することができる。そして、シランカップリング剤を前記分圧範囲で残存させるためには、排気時間は1〜30分であるのが好ましく、1〜10分であるのがより好ましい。
【0069】
なお、チャンバー301内に残存するシランカップリング剤ガスの分圧は、例えば真空ビルドアップ試験を用いて測定することができる。
参考のため、図10に、真空ビルドアップ試験による残存シランカップリング剤ガスの分圧測定結果の一例を示す。図10において、測定曲線1はチャンバー301内にシランカップリング剤ガスを導入した後、1分間排気した場合、測定曲線2はチャンバー301内にシランカップリング剤ガスを導入した後、70分間排気した場合の各真空ビルドアップ試験の結果である。また、図10には、比較として、チャンバー301内にシランカップリング剤ガスを導入せずに真空ビルドアップ試験を行った結果も併せて示している。測定条件は以下の通りである。
【0070】
測定条件
チャンバーの容積 :20L
チャンバー内の温度 :120℃
チャンバー内に導入したシランカップリング剤:アミノプロピルトリメトキシシラン(信越化学社製 商品名KBM−903)
チャンバー内に導入したシランカップリング剤ガスの分圧:2000Pa
シランカップリング剤ガス導入から排気までの放置時間:10分間
【0071】
図10において、比較曲線は、チャンバー301のリークに基づくものであり、各測定曲線の最大値から比較曲線の最大値を差し引いた値が、チャンバー301内に残存するシランカップリング剤ガスの分圧に略対応する。
まず、真空ポンプ303によって1分間排気した場合の測定曲線1の最大値は、比較曲線の最大値よりも100Pa大きな値となっている。このことから、チャンバー301内にシランカップリング剤を導入した後、1分間排気した場合には、チャンバー301内にシランカップリング剤ガスが100Paの分圧で残存するものと推定することができる。
一方、真空ポンプ303によって70分間排気した場合の測定曲線は、比較曲線とほぼ重なっている。このことから、チャンバー301内にシランカップリング剤を導入した後、70分間排気すると、チャンバー301内のシランカップリング剤ガスは殆ど除去されるものと推定される。
【0072】
(B2)シランカップリング剤の成膜工程
次に、チャンバー301の内部に支持基板付き第2層基板(被成膜基材)125を搬入し、内壁301aから脱離したシランカップリング剤を該基板125の表面(接合面)120bに成膜することによってシランカップリング剤被膜(プライマー層)124を形成する。
【0073】
(B2−1)具体的には、まず、チャンバー301内を大気圧雰囲気とする。そして、チャンバー301の基板搬入口を開放し、図9(B)に示すように、被成膜基材125が載置されたカセット126をチャンバー301内に搬入する。その後、チャンバー301の基板搬入口を閉じ、被成膜基材125の温度が80〜100℃になるまで、当該基材125をチャンバー310内で放置する。
放置している間、被成膜基材125は、チャンバー301からの熱伝導によって常温付近から徐々に温度上昇する。それと同時に、その表面120bに、内壁301aから脱離したシランカップリング剤ガスが接触する。
【0074】
ここで、被成膜基材125は、チャンバー301内に搬入された直後は略常温であるため、その表面120bに接触したシランカップリング剤ガスは、被成膜基材125の表面120bに露出する水酸基等との水素結合を介して吸着する(以下、この過程を「吸着過程」と言う。)。
【0075】
そして、被成膜基材125が、チャンバー301からの熱伝導によって高温(80〜100℃)になると、吸着は発熱反応であるため、吸着してくるシランカップリング剤分子の数は極端に減る。その一方、被成膜基材125の表面120bに吸着しているシランカップリング剤のシラノール基と被成膜基材125表面120bの水酸基との化学結合は増加する(以下、この過程を「化学結合過程」と言う。)。その結果、被成膜基材125の表面120bに、シランカップリング剤被膜124が均一な膜厚で強固に形成される。
【0076】
被成膜基材125を放置している間のチャンバー301内の温度は、本実施形態では前記工程(B1)と同じ温度(140℃程度)に維持するが、前記工程(B1)での温度から変化させるようにしても良い。これにより、内壁301aからのシランカップリング剤の脱離速度が変化し、シランカップリング剤の成膜レートや膜厚を制御することができる。例えば、チャンバー301内の温度を前記工程(B1)よりも高く設定することにより、内壁301aからのシランカップリング剤の脱離が促進され、シランカップリング剤の成膜レートを高めることができる。
【0077】
また、チャンバー301内の温度は、被成膜基材125の昇温速度にも影響する。このため、チャンバー301内の温度を変えることによって被成膜基材125の昇温速度が制御され、これによって、第2層基板に成膜されるシランカップリング剤被膜124の膜厚を制御することができる。
【0078】
すなわち、前述のように、内壁301aから脱離したシランカップリング剤は、被成膜基材125の表面120bに、吸着過程及び化学結合過程を経て成膜される。
【0079】
ここで、例えばチャンバー301内の温度を比較的低く設定した場合には、被成膜基材125の昇温速度は遅くなる。その場合、吸着過程が比較的長くなるため、この過程で、被成膜基材125の表面120bにシランカップリング剤が厚く吸着する。そして、被成膜基材125が高温(80〜100℃)になると、吸着してくるシランカップリング剤は減少するが、吸着過程で既にシランカップリング剤が厚く吸着しているため、これらのシランカップリング剤と被成膜基材125との間で化学結合が増加し、シランカップリング剤被膜124が比較的厚く形成される。
【0080】
一方、チャンバー301内の温度を比較的高く設定した場合には、被成膜機材125の昇温速度は速くなる。その場合、被成膜基材125の表面120bにシランカップリング剤が十分厚く吸着する前に、被成膜基材125が高温となり、吸着してくるシランカップリング剤が減少する。このため、被処理基材125の表面120bに形成されるシランカップリング剤被膜124の膜厚は、比較的薄いものとなる。
【0081】
このように、このシランカップリング剤の成膜方法では、被成膜基材125を放置している間のチャンバー301内の温度に依存して、成膜レートや成膜されるシランカップリング剤被膜の膜厚が変化する。このため、その温度特性に基づいてチャンバー301内の温度を設定することにより、成膜されるシランカップリング剤被膜の膜厚を精密に制御することが可能となる。
但し、チャンバー301内の温度を低く設定し過ぎると、内壁301aからシランカップリング剤が脱離し難くなったり、被成膜基材125が十分に昇温せず、被成膜基材125とシランカップリング剤との化学結合が不十分となったりする。このため、チャンバー301内の温度を設定する際には、これらの点も考慮する必要がある。
【0082】
なお、被成膜基材125を放置している間のチャンバー301内の圧力は、特に限定されず、大気圧雰囲気、減圧雰囲気のいずれでも良い。
また、チャンバー301内での被処理基材125の放置時間は、チャンバー内301の温度によっても異なるが、チャンバー内の温度が前述の適正範囲(80〜180℃)の場合には30分〜1時間程度が適当である。これにより、チャンバー内301で、被成膜基材125を確実に化学結合が増加する温度(80〜100℃)とすることができる。
【0083】
(B2−2)以上のようにして被成膜基材125の表面120bにシランカップリング剤被膜(プライマー層)124を成膜した後、チャンバー201内の基板搬入口を開放し、被成膜基材125が載置されたカセット126をチャンバー201内から搬出する。その後、基板搬入口を閉じ、第2バルブを開いた状態で真空ポンプを作動させることによって、チャンバー301内に残存するシランカップリング剤ガスを排気する。
そして、次に成膜すべき被成膜基材125がある場合には、本工程の後、工程(B1−1)〜工程(B2−2)を繰り返す。ここで、工程(B1−1)も、チャンバー301内をシランカップリング剤の液化温度以上に保持して行うため、本工程終了後、チャンバー301を放冷することなく、続けて工程(B1−1)を開始する。
【0084】
以上のように、このシランカップリング剤の成膜方法は、高度な真空雰囲気や、精密なガス圧調整が不要であり、シランカップリング剤の被膜を、簡易な成膜装置300を用いて簡単な操作で形成することができる。
【0085】
また、シランカップリング剤を、チャンバー301の内壁301aに一旦吸着させた後、これを脱離させることによって被成膜基材125の表面に供給するので、ガス導入管204から送出されるシランカップリング剤を直接被成膜基材の表面に供給するのに比べて、被成膜基材125表面に偏りなくシランカップリング剤が供給される。このため、被成膜基材125の表面120bに、シランカップリング剤被膜124を均一な膜厚で形成することが可能となる。
【0086】
また、一連の工程を、チャンバー301内をシランカップリング剤の液化温度以上に保持して行うため、チャンバー301内に導入したシランカップリング剤ガスの液化が抑えられるとともに、チャンバー301内に搬送された被成膜基材125を、チャンバー301からの熱伝導によって昇温させることができる。これにより、被処理基板125の表面に、シランカップリング剤を均一に吸着させることができるとともに、吸着したシランカップリング剤と被処理基材125の表面との間に、十分に化学結合を生じさせることができる。その結果、シランカップリング剤被膜124を、均一な膜厚で強固に形成することが可能となる。
【0087】
[C]支持基板剥離工程
以上のようにしてプライマー層(シランカップリング剤被膜)124を形成した後、図4(F)に示すように、支持基板付き第2層基板125に、支持基板110側からUV光を照射し、両面接着シート50の自己剥離層51を発泡させて支持基板110をシリコン基板120の表面102aから剥離する。
以上により、第2層基板1bが作製される。
【0088】
[D]第1層基板の作製工程
続いて、第1層基板1bを作製する。
(D1)図5(G)に示すように、第1層基板1aとなるシリコン基板100に、前記工程(A1)と同様にしてフォトリソグラフィ技術とドライエッチング技術を用いて第1ノズル11aとなる凹部102を形成する。
(D2)続いて、シリコン基板100を熱酸化炉に投入し、図5(H)に示すように、シリコン基板100の表面全体に例えば膜厚0.1μmの熱酸化膜(SiO2膜)103を形成する。
【0089】
(D3)図5(I)に示すように、シリコン基板100の凹部102形成側の面100aに、両面接着シート50を介してガラス等の透明材料よりなる支持基板110を貼り付ける。
(D4)次に、図5(J)に示すように、シリコン基板100の凹部102形成側の面100aと反対側の表面100b側から研削加工及び表面研磨を行い、所望の板厚近傍まで薄板化する。これにより、第1ノズル部11aとなる凹部102の底面が削除され第1ノズル部11aが形成される。
【0090】
(D5)次に、図5(K)に示すように、シリコン基板100の表面100b(以下、吐出面100bという)に、耐インク保護膜104を形成する。この耐インク保護膜104は、次の工程(D6)で形成される撥液膜105の下地膜ともなるもので酸化系金属膜で構成される。ここでは、例えばSiO2膜で構成され、スパッタ装置で成膜される。なお、酸化物系金属膜の成膜は、自己剥離層51が劣化しない温度(100℃程度)以下で実施できればよく、スパッタリング法に限るものではない。酸化物系金属膜としては、他にた例えば、酸化ハフニウム膜、酸化タンタル、酸化チタン、酸化インジウム錫、酸化ジルコニウムも使用できる。自己剥離層51に影響しない温度で成膜することができ、シリコン基板100への密着性を確保することができれば、成膜方法はスパッタ等に限らずCVD等の手法でもよい。
【0091】
(D6)次に、図6(L)に示すように、シリコン基板100の吐出面100bに撥液処理を施す。具体的には、フッ素原子を含むケイ素化合物を主成分とする撥液性を持った材料を蒸着やディッピングで成膜し、吐出面100bに撥液膜105を形成する。このとき、第1ノズル部11aの内壁にも撥液膜105が形成される。
(D7)次に、図6(M)に示すように、支持基板110側からUV光を照射し、両面接着シート50の自己剥離層51を発泡させて支持基板110をシリコン基板100の表面100aから剥離する。
以上により、第1層基板1aが作製される。
【0092】
(D8)そして最後に、図6(N)に示すように、図6(M)の第1層基板1aと図5(G)の第2層基板1bとを表面活性接合により接合する。すなわち、第1層基板1aと熱酸化膜103と、第2層基板1bの熱酸化膜(親液膜)123のそれぞれの表面に、アルゴンの高速電子ビームを照射し、表面を活性化させて加圧接合を行う。接合は圧力10−6Pa程度の真空中で行う。
以上によりノズル基板1が作製される。
【0093】
[E]キャビティー基板2及び電極基板3の製造方法
ここでは、電極基板3にシリコン基板200を接合した後、そのシリコン基板200からキャビティー基板2を製造する方法について図7、図8を参照して簡単に説明する。
【0094】
電極基板3は以下のようにして製造される。
(E1)まず、硼珪酸ガラス等からなる板厚約1mmのガラス基板202に、例えば金・クロムのエッチングマスクを使用してフッ酸によってエッチングすることにより凹部32を形成する。なお、この凹部32は個別電極31の形状より少し大きめの溝状のものであり、個別電極31ごとに複数形成される。
そして、凹部32の内部に、例えばスパッタによりITO(Indium Tin Oxide)からなる個別電極31を形成する。
その後、ドリル等によってインク供給孔33を形成することにより、電極基板3が作製される。
【0095】
(E2)次に、厚さが例えば525μmのシリコン基板200の両面を鏡面研磨した後に、シリコン基板200の片面にプラズマCVDによって厚さ0.1μmのSiO2膜(絶縁膜)2aを形成する。なお、シリコン基板200を形成する前に、エッチングストップ技術を利用し振動板22の厚みを高精度に形成するためのボロンドープ層を形成するようにしてもよい。エッチングストップとは、エッチング面から発生する気泡が停止した状態と定義し、実際のウェットエッチングにおいては、気泡の発生の停止をもってエッチングがストップしたものと判断する。
【0096】
(E3)そして、このシリコン基板200と、図7(A)のように作製された電極基板3とを、例えば360℃に加熱し、シリコン基板200に陽極を、電極基板3に陰極を接続して800V程度の電圧を印加して陽極接合により接合する。
(E4)シリコン基板200と電極基板3とを陽極接合した後に、水酸化カリウム水溶液等で接合状態のシリコン基板200をエッチングすることにより、シリコン基板200の厚さを例えば140μmになるまで薄板化する。
【0097】
(E5)次に、シリコン基板200の上面(電極基板3が接合されている面と反対側の面)全面にプラズマCVDによって例えば厚さ1.5μmのTEOS膜201を形成する。
そして、このTEOS膜201に、圧力室21となる凹部25およびリザーバー24となる凹部27を形成するためのレジストをパターニングし、これらの部分のTEOS膜201をエッチング除去する。
その後、シリコン基板200を水酸化カリウム水溶液等でエッチングすることにより、圧力室21となる凹部25およびリザーバー24となる凹部27を形成する。このとき、配線のための電極取り出し部30となる部分もエッチングして薄板化しておく。なお、図8(E)のウェットエッチング工程では、例えば初めに35重量%の水酸化カリウム水溶液を使用し、その後3重量%の水酸化カリウム水溶液を使用することができる。これにより、振動板22の面荒れを抑制することができる。
【0098】
(E6)シリコン基板200のエッチングが終了した後に、フッ酸水溶液でエッチングすることによりシリコン基板200の上面に形成されているTEOS膜201を除去する。
(E7)次に、シリコン基板200の圧力室21となる凹部25等が形成された面に、プラズマCVDによりSiO2膜(絶縁膜)2aを例えば厚さ0.1μmで形成する。
(E8)その後、RIE(Reactive Ion Etching)等によって電極取り出し部30を開放する。また、電極基板3のインク供給孔33からレーザ加工を施してシリコン基板200のリザーバー24となる凹部27の底部を貫通させ、インク供給孔28を形成する。また、振動板22と個別電極31との間のギャップの開放端部をエポキシ樹脂等の封止材34(図2参照)を充填することにより封止する。また、図1、図2に示すように共通電極29がスパッタによりシリコン基板200上面(ノズル基板1との接合面)の端部に形成される。
【0099】
以上により、電極基板3に接合した状態のシリコン基板200からキャビティー基板2が作製される。
そして最後に、上述のように作製されたノズル基板1の第2層基板1bに形成されたプライマー層124の表面に、接着剤を供給し、第2層基板1bとキャビティー基板2とを接着剤を介して接合する。
以上により、図1及び図2に示したインクジェットヘッド10の本体部が作製される。
【0100】
このように、本実施形態のインクジェットヘッドの製造方法によれば、ノズル基板1の第2層基板1bの表面に、プライマー層124を、均一な膜厚で強固に形成することができるため、ノズル基板1とキャビティー基板2とを強固に接合することができる。これにより、耐環境性に優れたインクジェットヘッドを製造することが可能となる。
【0101】
また、このインクジェットヘッドの製造方法では、プライマー層124を、簡易な成膜装置300によって効率良く成膜することができるため、インクジェットヘッドの製造効率の向上に貢献することができる。
【0102】
<実施形態2>
次に、実施形態2に係るシランカップリング剤の成膜方法及びインクジェットヘッドの製造方法について説明する。
なお、実施形態2においては、前記実施形態1との相違点を中心に説明し、同様の事項については、その説明を省略する。
【0103】
実施形態2のインクジェットヘッドの製造方法は、シランカップリング剤の成膜方法で用いる成膜装置300が、被成膜基材125を加熱する加熱手段を備え、被成膜基材125の温度をチャンバー301の温度とは独立に制御するように構成されている以外は、前記実施形態1と同様である。
【0104】
この実施形態2においても、前記実施形態1と同様の作用・効果が得られる。
また、実施形態2のインクジェットヘッドの製造方法では、特に、シランカップリング剤の成膜方法で用いる成膜装置300が、被成膜基材125を加熱する加熱手段を備え、被成膜基材125の温度をチャンバー301の温度とは独立に制御するように構成されていることにより、チャンバー301の温度に関わらず、被成膜基材125の昇温速度を自由に制御することができる。このため、所望の膜厚のシランカップリング剤被膜124を容易に得ることが可能となる。
【0105】
<実施形態3>
次に、実施形態3に係るシランカップリング剤の成膜方法及びインクジェットヘッドの製造方法について説明する。
図11は、実施形態3に係るシランカップリング剤の成膜方法で用いる成膜装置を示す模式図である。
なお、実施形態3においては、前記実施形態1との相違点を中心に説明し、同様の事項については、その説明を省略する。
【0106】
実施形態3のインクジェットヘッドの製造方法は、シランカップリング剤の成膜方法で用いる成膜装置300が、その内壁301aに多数のフィン308を備える以外は、前記実施形態1と同様の構成とされている。
ここで、多数のフィン308は、チャンバー301の左右の内壁301aに、それぞれ同じ枚数で取り付けられ、その主面が底面に対して略平行とるように上下方向に並列して配されている。
各フィン308の構成材料としては、チャンバー301と同様の金属材料を用いることができる。また、各フィン308には、工程(B1)でシランカップリング剤を吸着させるため、シランカップリング剤ガスに対する吸着性を制御する表面処理が施されているのが好ましい。そのような表面処理としては、例えば、前述のチャンバー301の内壁301aに施す表面処理と同様のものを挙げることができる。
【0107】
この実施形態3においても、前記実施形態11と同様の作用・効果が得られる。
また、実施形態3のインクジェットヘッドの製造方法では、特に、シランカップリング剤の成膜方法で用いる成膜装置300が、その内壁301aに多数のフィン308を備えることにより、内壁301aの表面積が大きくなり、内壁301aに吸着するシランカップリング剤の吸着量が増大する。このため、シランカップリング剤の成膜工程で、より大きな成膜レートを得ることが可能となる。
【0108】
以上、本発明のシランカップリング剤の成膜方法及びインクジェットヘッドの製造方法を、図示の実施形態について説明したが、本発明はこれらに限定されるものではない。
例えば、各実施形態では、シランカップリング剤被膜124を、ノズル基板1(第2層基板1b)のキャビティー基板2との接合面120bに形成しているが、キャビティー基板2の第2層基板1bとの接合面に形成してもよく、双方の接合面に形成しても構わない。
また、各実施形態では、ノズル基板1、キャビティー基板2及び電極基板3を備えた3層構造のインクジェットヘッドを製造する場合を例にしているが、本発明の成膜方法及び製造方法によって製造されるインクジェットヘッドはこれに限るものではなく、ノズル基板、リザーバー基板、キャビティー基板及び電極基板を備えた4層構造のインクジェットヘッドであっても構わない。
【符号の説明】
【0109】
125…被成膜基材(基板)、301…チャンバー、301a…内壁、308…フィン
【技術分野】
【0001】
本発明は、シランカップリング剤及びインクジェットヘッドの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シランカップリング剤は、ケイ素に、加水分解基や有機官能基が結合した化合物であり、その被膜を基材に成膜すると、有機官能基の特性によって基材表面に接着性、機械的強度、耐水性などを付与することができるため、様々な分野で表面改質剤として多用されている。例えば、インクジェットヘッドにおいては、金属よりなるノズル基板のキャビティー基板との接合面に、シランカップリング剤の被膜を形成することで接合性を付与し、両基板を強固に接合することが行われている。
【0003】
このシランカップリング剤の成膜方法としては、従来より、シランカップリング剤の溶液に被成膜基材を浸漬する浸漬法が知られている。しかし、浸漬法では、溶液の表面張力や毛細管現象があるため、特に、被成膜基材が微細構造を有する場合、均一に被膜を成膜するのが難しい。
【0004】
そこで、表面張力や毛細管現象の影響を回避するため、シランカップリング剤を蒸気として、被成膜基材の表面に被着させる気相成膜法を用いることが提案されている(例えば、特許文献1、2参照。)。
【0005】
このうち、特許文献1の方法では、デシケータの底部に、液状のシランカップリング剤を溜めておき、このシランカップリング剤の上方に被成膜基材を保持した状態で、シランカップリング剤を100℃程度に加熱する。これにより、シランカップリング剤が蒸気化し、この蒸気が被成膜基材の表面に被着することでシランカップリング剤の被膜が形成される。
しかし、この方法では、一の成膜サイクルを行った後、次の成膜サイクルを行う前に、加熱したデシケータを常温まで冷却しなければならず、この冷却過程に時間がかかる。このため、量産等における連続処理には適用し難い。
【0006】
また、特許文献2に記載された方法では、チャンバー内を、被成膜基材を搬入した後、真空雰囲気とし、該チャンバー内に蒸気化したシランカップリング剤を導入することで、被成膜基材の表面にシランカップリング剤の被膜を形成する。
【0007】
しかし、この方法では、真空度の高い成膜雰囲気が必要となることや、原料ガスの圧力を精密に調整しなくてはならないことから、成膜装置が高価になってしまう。
また、被成膜基材を加熱しない状態で成膜を行うため、成膜された被膜は、金属基板の表面に存在する結合サイトとの化学結合が少なく、強度が不十分である。このため、例えば基板同士の接着界面等を構成する被膜としては不適当である。
さらに、ガス導入管から送出されたガスを、そのまま被成膜基材に被着させるため、ガス導入管から近い領域では膜厚が厚くなり、遠い領域では膜厚が薄くなるというように、被膜の膜厚が不均一となる。このため、目的とする表面改質が十分になされないという問題もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平10−70114号公報
【特許文献2】特開2006−231134号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで、本発明は、上記した問題を解決するためになされたもので、簡易な構成の成膜装置によって、被成膜基材の表面に、シランカップリング剤の被膜を均一且つ強固に形成することができ、また、一の成膜サイクル終了から次の成膜サイクル開始までに要するリセット時間が短く、連続処理を好適に行うことができるシランカップリング剤の成膜方法、及び、これを用いるインクジェットヘッドの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のシランカップリング剤の成膜方法は、チャンバーの内部にシランカップリング剤のガスを導入し、前記チャンバーの内壁に前記シランカップリング剤を吸着させる第1の工程と、前記シランカップリング剤のガスの導入を停止し、前記チャンバーの内部に基板を導入し、前記チャンバーにシランカップリング剤のガスを導入することなく前記チャンバーの内部に前記基板を放置し、前記チャンバーの内壁から脱離したシランカップリング剤を前記基板の表面に成膜する第2の工程と、を有する。
【0011】
このため、本発明のシランカップリング剤の成膜方法によれば、高度な真空雰囲気や、精密なガス圧調整が不要となり、シランカップリング剤の被膜を、簡易な成膜装置を用い、簡単な操作で形成することができる。
【0012】
また、シランカップリング剤を、チャンバーの内壁に一旦吸着させた後、これを脱離させることによって基板の表面に供給するので、ガス導入管から送出されるシランカップリング剤を直接基板の表面に供給するのに比べて、基板の表面に偏りなくシランカップリング剤が供給される。このため、基板の表面に、シランカップリング剤被膜を均一な膜厚で形成することが可能となる。
【0013】
本発明のシランカップリング剤の成膜方法においては、前記第1の工程及び前記第2の工程において、前記チャンバーの温度を、シランカップリング剤の液化温度以上に保持することが好ましい。
【0014】
このような構成とすることにより、チャンバー内に導入したシランカップリング剤ガスの液化が抑えられるとともに、チャンバー内に搬送した基板を、チャンバーからの熱伝導によって昇温させることができる。これにより、基板の表面に、シランカップリング剤を均一に吸着させることができるとともに、吸着したシランカップリング剤と基板との間に、十分に化学結合を生じさせることができる。その結果、基板の表面に、シランカップリング剤被膜を均一な膜厚で強固に形成することが可能となる。
また、一の成膜サイクルが終了した後、チャンバーを放冷することなく、次の成膜サイクルを開始することができ、連続処理を効率良く行うことが可能となる。
【0015】
本発明のシランカップリング剤の成膜方法においては、前記第2の工程において、前記チャンバーの内部に導入された前記基板は、前記チャンバーの内部で常温付近から徐々に昇温することが好ましい。
【0016】
このような構成とすることにより、基板の表面に、シランカップリング剤を十分に吸着させることができ、所望の膜厚のシランカップリング剤被膜を容易に得ることが可能となる。
【0017】
本発明のシランカップリング剤の成膜方法においては、前記第2の工程において、前記チャンバーの温度を上昇させ、前記チャンバーの内壁からのシランカップリング剤の脱離を促進させることが好ましい。
【0018】
このような構成とすることにより、シランカップリング剤の成膜レートが高くなり、シランカップリング剤被膜を効率良く形成することが可能となる。
【0019】
本発明のシランカップリング剤の成膜方法においては、前記第2の工程において、前記基板の温度を前記チャンバーの温度とは独立に制御することが好ましい。
【0020】
このような構成とすることにより、チャンバーの温度に関わらず、基板の昇温速度を自由に制御することができ、所望の膜厚のシランカップリング剤被膜を容易に得ることが可能となる。
【0021】
本発明のシランカップリング剤の成膜方法においては、前記チャンバーの内壁の材質は、ステンレス鋼、アルミニウム、アルミニウム合金の少なくともいずれかであることが好ましい。
【0022】
このような構成とすることにより、チャンバーを、耐食性に優れたものとすることができる。特に、ステンレス鋼を用いた場合には、チャンバーの耐食性をより改善することができ、アルミニウム及びアルミニウム合金を用いた場合には、チャンバーからのガス放出が抑えられ、純度の高いシランカップリン剤被膜を得ることが可能となる。
【0023】
本発明のシランカップリング剤の成膜方法においては、前記チャンバーの内壁には、極性を付与する処理、多孔質化処理、鏡面化仕上げの少なくともいずれかの表面処理が施されていることが好ましい。
【0024】
このような構成とすることにより、シランカップリング剤の成膜レートを容易に所望の範囲とすることができる。
【0025】
本発明のシランカップリング剤の成膜方法においては、前記チャンバーの内壁には、多数のフィンが設けられていることが好ましい。
【0026】
このような構成とすることにより、チャンバーの内壁の表面積が大きくなり、内壁に吸着するシランカップリング剤の吸着量が増大する。このため、シランカップリング剤の成膜レートを、より高めることが可能となる。
【0027】
本発明のインクジェットヘッドの製造方法は、液滴を吐出するための複数のノズル孔を有するノズル基板と、前記ノズル基板の前記複数のノズルそれぞれに連通して液滴を収容する複数の圧力室を有するキャビティー基板と、前記圧力室に液滴を飛翔させる圧力変化を与える圧力発生手段とを有するインクジェットヘッドの製造方法であって、前記シランカップリング剤の成膜方法を用いて、前記ノズル基板及び前記キャビティー基板の少なくともいずれかの接合面にシランカップリング剤の被膜を成膜する工程と、前記ノズル基板と前記キャビティー基板とを、前記シランカップリング剤の被膜を介して接合する工程と、を有する。
【0028】
このため、本発明のインクジェットヘッドの製造方法によれば、ノズル基板及びキャビティー基板の少なくともいずれかの接合面に、シランカップリング剤の被膜を、均一な膜厚で強固に形成することができ、各基板を強固に接合することができる。これにより、耐環境性に優れたインクジェットヘッドを製造することが可能となる。
【0029】
また、このインクジェットヘッドの製造方法では、シランカップリング剤の被膜を、簡易な成膜装置によって効率良く成膜することができるため、インクジェットヘッドの製造効率の向上に貢献することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明のインクジェットヘッドの製造方法によって製造されるインクジェットヘッドの一例を示す分解斜視図。
【図2】図1のインクジェットヘッドの概略縦断面図。
【図3】図1のノズル基板の膜構成を説明するための拡大図。
【図4】ノズル基板の製造方法を示す製造工程の断面図。
【図5】図4に続くノズル基板の製造工程の断面図。
【図6】図5に続くノズル基板の製造工程の断面図。
【図7】図6に続くインクジェットヘッドの製造工程の断面図。
【図8】図7に続くインクジェットヘッドの製造工程の断面図。
【図9】実施形態1に係るシランカップリング剤の成膜方法で用いる成膜装置の模式図。
【図10】真空ビルドアップ試験の測定結果を示す特性図。
【図11】実施形態3に係るシランカップリング剤の成膜方法で用いる成膜装置の模式図。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明のシランカップリング剤の成膜方法及びインクジェットヘッドの製造方法について、図に示す実施形態に基づいて説明する。
【0032】
<<インクジェットヘッドの構成>>
まず、本発明のシランカップリング剤の成膜方法及びインクジェットヘッドの製造方法によって製造されるインクジェットヘッドの構成について説明する。
ここでは、インクジェットヘッドの一例として、静電駆動式のインクジェットヘッドについて図1又は図2を参照して説明する。なお、アクチュエータ(圧力発生手段)は静電駆動方式に限られたものではなく、その他の圧電素子は発熱素子等を利用する方式であってもよい。
【0033】
図1は、インクジェットヘッドの概略構成を分解して示す分解斜視図であり、一部を断面で表してある。図2は、図1の右半分の概略構成を示すインクジェットヘッドの断面図である。なお、図1及び図2では、通常使用される状態とは上下逆に示されている。
【0034】
このインクジェットヘッド10は、図1及び図2に示すように、複数のノズル孔11が所定のピッチで設けられたノズル基板1と、各ノズル孔11に対して独立にインク供給路が設けられたキャビティー基板2と、キャビティー基板2の振動板22に対峙して個別電極31が配設された電極基板3とを貼り合わせることにより構成されている。
【0035】
ノズル基板1は、多層基板構造を有し、シリコン基板で構成されている。インク滴を吐出するためのノズル孔11は、インク吐出方向の先端側から後側方向に行くに従って開口断面が段階的に大きくなるn段(nは2以上の自然数)の多段構造を有している。この例では、開口径が異なる2つの円筒状のノズル孔から形成された2段の多段構造を例示しており、以下、吐出方向の先端側から順に第1ノズル部11a、第2ノズル部11bという。
【0036】
図3は、図1のノズル基板の膜構成を説明するための拡大図である。
ノズル基板1の第1層基板1aにおいて第1ノズル部11aの内壁を含む表面全体には、耐インク保護膜103,104が形成されている。吐出面の耐インク保護膜104は例えばCVD(Chemical Vapor Deposition)で成膜されたSiO2膜で構成されており、このSiO2膜はこの上に成膜される撥液膜105の下地ともなっている。また、第1層基板1aにおいて第2層基板1bとの接合面と、第1ノズル部11aの内壁とに形成された耐インク保護膜103は、例えば熱酸化により形成されたSiO2膜により構成されている。
【0037】
また、第2層基板1aにおいて第1層基板1aとの接合面と第2ノズル11bの内壁とには親液膜123が形成されている。この親液膜123は例えば熱酸化により形成されたSiO2膜により構成されており、耐インク保護膜としても機能する。そして、第2層基板1bの第1層基板1aとの接合面と反対側の面は、キャビティー基板2との接合性を高めるためのプライマー層124が形成されている。このプライマー層124は、後述する本発明のシランカップリング剤の成膜方法によって形成されており、均一な膜厚を有し、第2層基板1a表面に強固に形成されている。このため、プライマー層124は、第2層基板1aのキャビティー基板に対する接合強度を大きく高めることができる。なお、プライマー層124は第2層基板1bにおいてキャビティー基板2との接合面に形成されていれば十分であるが、製造工程上、第2ノズル部11bの内壁にも形成されている。
【0038】
キャビティー基板2はシリコン基板から作製されている。このシリコン基板にウェットエッチングを施すことにより、インク流路の圧力室21となる凹部25、オリフィス23となる凹部26、及びリザーバー24となる凹部27から形成される。凹部25は前記ノズル孔11に対応する位置に独立に複数形成される。したがって、図2に示すようにノズル基板1とキャビティー基板2を接合した際、各凹部25が圧力室21を構成し、それぞれノズル孔11に連通しており、またインク供給口である前記オリフィス23ともそれぞれ連通している。そして、圧力室21(凹部25)の底壁が振動板22となっている。
【0039】
凹部26は、細溝状のオリフィス23を構成し、この凹部26を介して凹部25(圧力室21)と凹部27(リザーバー24)とが連通している。
凹部27は、インク等の液状材料を貯留するためのものであり、各圧力室21に共通のリザーバー(共通インク室)24を構成する。そして、リザーバー24(凹部27)はそれぞれオリフィス23を介して全ての圧力室21に連通しており、圧力室21、リザーバー24及びオリフィス23によりインク流路が形成されている。なお、オリフィス23(凹部26)はノズル基板1の裏面(キャビティー基板2との接合側の面)に設けることもできる。また、リザーバー24の底部には後述する電極基板3に設けたインク供給孔33に連通するインク供給孔28が設けられている。このインク供給孔33及びインク供給孔28を通じて図示しないインクカートリッジからインクが供給されるようになっている。
【0040】
また、キャビティー基板2の全面又は少なくとも電極基板3との対向面には熱酸化やプラズマCVD(Chemical Vapor Deposition)によりSiO2やTEOS(Tetraethylorthosilicate Tetraethoxysilane:テトラエトキシシラン、珪酸エチル)膜等からなる絶縁膜2aが膜厚0.1μmで施されている。この絶縁膜2aは、インクジェットヘッド10を駆動させた時に絶縁破壊や短絡を防止する目的で設けられる。
【0041】
電極基板3は、例えば厚さ約1mmのガラス基板から作製される。中でも、キャビティー基板2のシリコン基板と熱膨張係数の近い硼珪酸系の耐熱硬質ガラスを用いるのが適している。これは、電極基板3とキャビティー基板2を陽極接合する際、両基板の熱膨張係数が近いため、電極基板3とキャビティー基板2との間に生じる応力を低減することができ、その結果剥離等の問題を生じることなく電極基板3とキャビティー基板2を強固に接合することができるからである。
【0042】
電極基板3には、キャビティー基板2の各振動板22に対向する面の位置にそれぞれ凹部32が設けられている。凹部32は、エッチングにより深さ約0.3μmで形成されている。そして、各凹部32内には、一般に、ITO(Indium Tin Oxide)からなる個別電極31が、例えば0.1μmの厚さでスパッタにより形成される。したがって、振動板22と個別電極31との間に形成されるギャップ(空隙)は、この凹部32の深さ、個別電極31及び振動板22を覆う絶縁膜2aの厚さにより決まることになる。このギャップはインクジェットヘッドの吐出特性に大きく影響するため、高精度に形成される。
【0043】
個別電極31は、リード部31aと、フレキシブル配線基板(図示せず)に接続される端子部31bとを有する。端子部31bは、図2に示すように、配線のためにキャビティー基板2の末端部が開口された電極取り出し部30内に露出している。振動板22と個別電極31との間に形成される電極間ギャップの開放端部はエポキシ等の樹脂による封止材34で封止される。これにより、湿気や塵埃等が電極間ギャップへ侵入するのを防止することができ、インクジェットヘッド10の信頼性を高く保持することができる。そして、ICドライバ等の駆動制御回路35が各個別電極31の端子部31bとキャビティー基板2上に設けられた共通電極29と前記フレキシブル配線基板(図示せず)を介して接続されている。
【0044】
次に、以上のように構成されたインクジェットヘッド10の動作を説明する。
駆動制御回路35は例えば24kHzで発振し、キャビティー基板2の共通電極端子29と個別電極31の間にパルス電圧を印加して個別電極31に電荷供給を行う。個別電極31に電極を供給して正に帯電させると、振動板22は負に帯電し、振動板22と個別電極31との間に静電気力が発生する。この静電気力の吸引作用により振動板22が個別電極31側に引き寄せられて撓み、圧力室21の容積が拡大する。これによりリザーバー24の内部に溜まっていたインク滴がオリフィス23を通じて圧力室21に流れ込む。次に、個別電極31への電圧の印加を停止すると、静電吸引力が消滅して振動板22が復元し、圧力室21の容積が急激に収縮する。これにより、圧力室21内の圧力が急激に上昇し、この圧力室21に連通しているノズル孔11からインク滴が吐出される。
【0045】
<<シランカップリング剤の成膜方法及びインクジェットヘッドの製造方法>>
次に、本発明に係るシランカップリング剤の成膜方法及びインクジェットヘッドの製造方法を、図1及び図2に示すインクジェットヘッドを製造する場合を例にして説明する。
<実施形態1>
まず、本発明のシランカップリング剤の成膜方法を、インクジェットヘッドの製造方法に適用した実施形態1について説明する。
図4〜図8は、実施形態1に係るインクジェットヘッドの製造方法を説明するための図、図9は、実施形態1に係るシランカップリング剤の成膜方法で用いる成膜装置を示す模式図である。
【0046】
[A]支持基板付き第2層基板の作製工程
図1及び図2に示すインクジェットヘッド10を作製するには、まず、支持基板付き第2層基板125を以下のようにして作製する。
(A1)すなわち、図4(A)に示すように、第2層基板1bとなるシリコン基板120の表面にレジスト121を塗布し、フォトリソグラフィによりレジスト121をパターニングし、第2ノズル部11bに対応する部分に開口121aを形成する。
そして、ICPドライエッチング装置によりレジスト121の開口121aを介して、垂直に異方性ドライエッチングし、第2ノズル部11bとなる凹部122を形成する。この凹部122の形成には、C4F8とSF6とを交互に使用したエッチングを行う。
【0047】
(A2)続いて、レジストパターンを硫酸洗浄などにより剥離した後、シリコン基板120を熱酸化炉に投入し、図4(B)に示すように、シリコン基板120の表面全体に親液膜123を形成する。親液膜123としては、例えば膜厚0.1μmの熱酸化膜(SiO2膜)を形成する。
【0048】
(A3)図4(C)に示すように、シリコン基板120の凹部122形成側の面120aに、両面接着シート50を介してガラス等の透明材料よりなる支持基板110を貼り付ける。
(A4)次に、図4(D)に示すように、シリコン基板120の凹部122形成側の面120aと反対側の表面120b側からグラインダー(図示せず)で研削加工を行い、所望の板厚近傍まで薄板化する。これにより、第2ノズル部11bとなる凹部122の底面が削除され第2ノズル部11bが形成される。薄板後、さらに、ポリッシャー、CMP装置によってシリコン基板120の表面を研磨し、所定の板厚にする。
【0049】
以上の工程により、支持基板付き第2層基板125を得る。
[B]シランカップリング剤被膜の形成工程
前記工程[A]で作製された支持基板付き第2層基板125では、支持基板110側と反対側の面が、キャビティー基板2と接合される接合面120bを構成する。図4(E)に示すように、この工程では、接合面120bに、本発明のシランカップリング剤の成膜方法を用いてシランカップリング剤被膜(プライマー層124)を形成する。以下、このシランカップリング剤の成膜方法について説明する。
【0050】
本発明のシランカップリング剤の成膜方法は、チャンバーの内部にシランカップリング剤のガスを導入し、前記チャンバーの内壁に前記シランカップリング剤を吸着させる第1の工程(B1)と、前記シランカップリング剤のガスの導入を停止し、前記チャンバーの内部に基板を導入し、前記チャンバーにシランカップリング剤のガスを導入することなく前記チャンバーの内部に前記基板を放置し、前記チャンバーの内壁から脱離したシランカップリング剤を前記基板の表面に成膜する第2の工程(B2)とを有している。
【0051】
まず、各工程で用いる成膜装置の一例について説明する。
図9(A)に示すように、この成膜装置300は、図示しない基板搬入口を有するチャンバー301と、チャンバー301内に、原料ガスを供給するガス供給手段302と、チャンバー301内のガスを排気する真空ポンプ303とを有している。
【0052】
チャンバー301は、外部と成膜空間とを仕切る容器であり、気密性を有するとともに、内部が高真空状態とされるため耐圧性を有するものとされる。また、チャンバー301は加熱手段を備えており、この加熱手段によって、チャンバー301内が加熱され、所定の温度に制御されるようになっている。
【0053】
チャンバー301は、耐食性に優れる金属材料等によって構成されている。そのような金属材料としては、具体的にはSUS201、SUS202、SUS301、SUS302、SUS303、SUS304、SUS305、SUS316等のステンレス鋼、アルミニウム及びアルミニウム合金等の金属材料が挙げられる。このうち、特に、ステンレス鋼は耐食性に優れており、また、アルミニウム及びアルミニウム合金は、軽量であるとともに放出ガスが少ないという利点を有する。
【0054】
チャンバー301の内壁301aには、工程(B1)でシランカップリング剤を吸着させるため、シランカップリング剤ガスに対する吸着性を制御する表面処理が施されているのが好ましい。これにより、工程(B2)でチャンバー301の内壁301aから脱離したシランカップリング剤を被成膜基材125の表面に成膜する際、その成膜レートを容易に所望の範囲とすることができる。
【0055】
そのような表面処理としては、例えば、内壁301aに極性を付与する処理、内壁301aを多孔質化する処理、内壁301aを鏡面化する処理(鏡面仕上げ)等が挙げられる。
チャンバー301の内壁301aに極性を付与する処理を行うと、シランカップリング剤が水素結合する結合サイトが増えるため、チャンバー301の内壁301aに吸着するシランカップリング剤の吸着量が増大する。その結果、シランカップリング剤の成膜工程(B2)で、大きな成膜レートを得ることができる。極性を付与する処理としては、例えば酸素プラズマ処理等の酸化処理等が挙げられる。
【0056】
また、チャンバー301の内壁301aに多孔質化処理を行うと、その表面積が大きくなるため、チャンバー301の内壁301aに吸着するシランカップリング剤の吸着量が増大する。その結果、シランカップリング剤の成膜工程(B2)で、大きな成膜レートを得ることができる。多孔質化処理としては、例えばチャンバー301がアルミニウム又はアルミニウム合金によって構成されている場合には、アルマイト処理(陽極酸化処理)等を用いることができる。
【0057】
一方、チャンバー301の内壁301aに鏡面仕上げを行うと、その表面積が小さくなるため、チャンバー301の内壁301aに吸着するシランカップリング剤の吸着量が小さくなる。これにより、シランカップリング剤の成膜工程(B2)で、比較的膜厚の薄いシランカップリング剤被膜、例えばシランカップリング剤の単分子膜を容易に得ることができる。
ここで、以上の表面処理は、いずれかを単独で行ってもよく、複数の表面処理を組み合わせて行うようにしても良い。
【0058】
ガス供給手段302は、ガス導入管304を介してチャンバー301の下方に接続されている。ガス供給手段302は、シランカップリング剤の貯留タンクや加熱手段等を有し、シランカップリング剤を加熱して気化し、そのガスをガス導入管304に送出する。ガス導入管304に送出されたシランカップリング剤のガスは、ガス導入管304を通過してチャンバー301内に供給される。また、ガス導入管304の途中には第1バルブ305が設けられており、この第1バルブ305の開閉操作によって、チャンバー301内へのガス供給の開始及び停止の切り替えや、ガス流量の制御が行われるようになっている。
【0059】
真空ポンプ303は、排気管306を介してチャンバー301の下方に接続されている。真空ポンプ303は、チャンバー301内のガスを所定の流量で排気し、チャンバー301内を減圧状態にしたり、不要なガスを除去したりする。排気管306の途中には第2バルブ307が設けられており、この第2バルブ307の開閉操作によって、ガス排気の開始及び停止の切り替えや、ガス排気量の制御を行われるようになっている。
【0060】
本実施形態では、以上のような成膜装置300を用いてシランカップリング剤被膜を形成する。以下、本実施形態に係るシランカップリング剤の成膜方法を、工程順に説明する。
(B1)チャンバー内壁へのシランカップリング剤吸着工程(第1の工程)
まず、成膜装置300のチャンバー301の内壁301aに、シランカップリング剤を吸着させる。
【0061】
(B1−1)具体的には、加熱手段を作動させることにより、チャンバー301内を設定温度まで加熱する。また、第2バルブ307を開いた状態で真空ポンプ303を作動させることにより、チャンバー301内のガスを排気する。そして、チャンバー301内が設定値まで減圧となったところで、第2バルブ307を閉じ、真空ポンプ303による排気を停止する。
【0062】
チャンバー301内の温度は、80〜180℃であるのが好ましい。内壁301aへのシランカップリング剤の吸着は発熱反応であるため、チャンバー301内の温度が高くなる程、吸着量は小さくなる。このため、チャンバー301内の温度が180℃を超えると、十分な吸着量が得られない。一方、チャンバー301内の温度が80℃未満になると、シランカップリング剤が液化し、内壁301aにシランカップリング剤を均一に吸着させるのが困難になる。本実施形態では、加熱手段により、工程(B1)〜工程(B2)に亘ってチャンバー301内の温度が140℃程度(シランカップリング剤の液化温度以上の温度)に保たれるように制御する。
【0063】
(B1−2)続いて、第1バルブ305を開いた状態でガス供給手段302からシランカップリング剤ガスを送出させ、チャンバー301内にシランカップリング剤ガスを導入する。そして、チャンバー301内でのシランカップリング剤ガスの分圧が設定値に達しところで、第1バルブ305を閉じ、シランカップリング剤ガスの導入を停止する。この状態でしばらく放置する。この放置の間に、チャンバー301内に導入されたシランカップリング剤ガスは、チャンバー301の内壁301aや配管の外周面等と接触し、その少なくとも一部が接触面との分子間力や水素結合等によってチャンバー301の内壁301a等に吸着する。
【0064】
チャンバー内に導入するシランカップリング剤としては、例えば、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、3−(N−フェニル)アミノプロピルトリメトキシシラン等のアミノシラン等が挙げられる。
【0065】
チャンバー301内に導入するシランカップリング剤ガスの分圧は、チャンバー301内の温度におけるシランカップリング剤の飽和蒸気圧以下の圧力であることが必要である。シランカップリング剤ガスの分圧が飽和蒸気圧より高くなると、チャンバー301内でシランカップリング剤が液化し、内壁301aにシランカップリング剤を均一に吸着させることが困難になる。具体的には、シランカップリング剤ガスの分圧は、その飽和蒸気圧に対して概ね10%〜50%であるのが好ましく、チャンバー301内の温度が前記範囲である場合には、500〜2000Pa程度が適当である。これにより、チャンバー301内でのシランカップリング剤ガスの液化を抑制して、内壁301aに、シランカップリング剤を十分に吸着させることができる。
【0066】
(B1−3)次に、第2バルブ307を開き、チャンバー301内に、シランカップリング剤が設定した分圧で残存するように、チャンバー301内のシランカップリング剤ガスの一部を真空ポンプ303によって排気する。その後、第2バルブ307を閉じ、真空ポンプ303による排気を停止する。
【0067】
ここで、チャンバー301内に残存させるシランカップリング剤ガスの分圧は、目的とする成膜レートや膜厚によっても異なるが、数Pa〜数十Paであるのが好ましい。シランカップリング剤ガスの分圧が前記範囲より小さい場合には、後工程(B2)で行うシランカップリング剤の成膜に際し、十分な成膜レート及び膜厚が得られない可能性がある。また、シランカップリング剤ガスの分圧が前記範囲より大きい場合には、後工程(B2)において、シランカップリング剤被膜の膜厚を精密に制御するのが困難になる。
【0068】
チャンバー301内に残存するシランカップリング剤ガスの分圧(内壁301aにおける吸着量)は、真空ポンプ203による排気速度や排気時間、チャンバー301内の温度によって制御することができる。そして、シランカップリング剤を前記分圧範囲で残存させるためには、排気時間は1〜30分であるのが好ましく、1〜10分であるのがより好ましい。
【0069】
なお、チャンバー301内に残存するシランカップリング剤ガスの分圧は、例えば真空ビルドアップ試験を用いて測定することができる。
参考のため、図10に、真空ビルドアップ試験による残存シランカップリング剤ガスの分圧測定結果の一例を示す。図10において、測定曲線1はチャンバー301内にシランカップリング剤ガスを導入した後、1分間排気した場合、測定曲線2はチャンバー301内にシランカップリング剤ガスを導入した後、70分間排気した場合の各真空ビルドアップ試験の結果である。また、図10には、比較として、チャンバー301内にシランカップリング剤ガスを導入せずに真空ビルドアップ試験を行った結果も併せて示している。測定条件は以下の通りである。
【0070】
測定条件
チャンバーの容積 :20L
チャンバー内の温度 :120℃
チャンバー内に導入したシランカップリング剤:アミノプロピルトリメトキシシラン(信越化学社製 商品名KBM−903)
チャンバー内に導入したシランカップリング剤ガスの分圧:2000Pa
シランカップリング剤ガス導入から排気までの放置時間:10分間
【0071】
図10において、比較曲線は、チャンバー301のリークに基づくものであり、各測定曲線の最大値から比較曲線の最大値を差し引いた値が、チャンバー301内に残存するシランカップリング剤ガスの分圧に略対応する。
まず、真空ポンプ303によって1分間排気した場合の測定曲線1の最大値は、比較曲線の最大値よりも100Pa大きな値となっている。このことから、チャンバー301内にシランカップリング剤を導入した後、1分間排気した場合には、チャンバー301内にシランカップリング剤ガスが100Paの分圧で残存するものと推定することができる。
一方、真空ポンプ303によって70分間排気した場合の測定曲線は、比較曲線とほぼ重なっている。このことから、チャンバー301内にシランカップリング剤を導入した後、70分間排気すると、チャンバー301内のシランカップリング剤ガスは殆ど除去されるものと推定される。
【0072】
(B2)シランカップリング剤の成膜工程
次に、チャンバー301の内部に支持基板付き第2層基板(被成膜基材)125を搬入し、内壁301aから脱離したシランカップリング剤を該基板125の表面(接合面)120bに成膜することによってシランカップリング剤被膜(プライマー層)124を形成する。
【0073】
(B2−1)具体的には、まず、チャンバー301内を大気圧雰囲気とする。そして、チャンバー301の基板搬入口を開放し、図9(B)に示すように、被成膜基材125が載置されたカセット126をチャンバー301内に搬入する。その後、チャンバー301の基板搬入口を閉じ、被成膜基材125の温度が80〜100℃になるまで、当該基材125をチャンバー310内で放置する。
放置している間、被成膜基材125は、チャンバー301からの熱伝導によって常温付近から徐々に温度上昇する。それと同時に、その表面120bに、内壁301aから脱離したシランカップリング剤ガスが接触する。
【0074】
ここで、被成膜基材125は、チャンバー301内に搬入された直後は略常温であるため、その表面120bに接触したシランカップリング剤ガスは、被成膜基材125の表面120bに露出する水酸基等との水素結合を介して吸着する(以下、この過程を「吸着過程」と言う。)。
【0075】
そして、被成膜基材125が、チャンバー301からの熱伝導によって高温(80〜100℃)になると、吸着は発熱反応であるため、吸着してくるシランカップリング剤分子の数は極端に減る。その一方、被成膜基材125の表面120bに吸着しているシランカップリング剤のシラノール基と被成膜基材125表面120bの水酸基との化学結合は増加する(以下、この過程を「化学結合過程」と言う。)。その結果、被成膜基材125の表面120bに、シランカップリング剤被膜124が均一な膜厚で強固に形成される。
【0076】
被成膜基材125を放置している間のチャンバー301内の温度は、本実施形態では前記工程(B1)と同じ温度(140℃程度)に維持するが、前記工程(B1)での温度から変化させるようにしても良い。これにより、内壁301aからのシランカップリング剤の脱離速度が変化し、シランカップリング剤の成膜レートや膜厚を制御することができる。例えば、チャンバー301内の温度を前記工程(B1)よりも高く設定することにより、内壁301aからのシランカップリング剤の脱離が促進され、シランカップリング剤の成膜レートを高めることができる。
【0077】
また、チャンバー301内の温度は、被成膜基材125の昇温速度にも影響する。このため、チャンバー301内の温度を変えることによって被成膜基材125の昇温速度が制御され、これによって、第2層基板に成膜されるシランカップリング剤被膜124の膜厚を制御することができる。
【0078】
すなわち、前述のように、内壁301aから脱離したシランカップリング剤は、被成膜基材125の表面120bに、吸着過程及び化学結合過程を経て成膜される。
【0079】
ここで、例えばチャンバー301内の温度を比較的低く設定した場合には、被成膜基材125の昇温速度は遅くなる。その場合、吸着過程が比較的長くなるため、この過程で、被成膜基材125の表面120bにシランカップリング剤が厚く吸着する。そして、被成膜基材125が高温(80〜100℃)になると、吸着してくるシランカップリング剤は減少するが、吸着過程で既にシランカップリング剤が厚く吸着しているため、これらのシランカップリング剤と被成膜基材125との間で化学結合が増加し、シランカップリング剤被膜124が比較的厚く形成される。
【0080】
一方、チャンバー301内の温度を比較的高く設定した場合には、被成膜機材125の昇温速度は速くなる。その場合、被成膜基材125の表面120bにシランカップリング剤が十分厚く吸着する前に、被成膜基材125が高温となり、吸着してくるシランカップリング剤が減少する。このため、被処理基材125の表面120bに形成されるシランカップリング剤被膜124の膜厚は、比較的薄いものとなる。
【0081】
このように、このシランカップリング剤の成膜方法では、被成膜基材125を放置している間のチャンバー301内の温度に依存して、成膜レートや成膜されるシランカップリング剤被膜の膜厚が変化する。このため、その温度特性に基づいてチャンバー301内の温度を設定することにより、成膜されるシランカップリング剤被膜の膜厚を精密に制御することが可能となる。
但し、チャンバー301内の温度を低く設定し過ぎると、内壁301aからシランカップリング剤が脱離し難くなったり、被成膜基材125が十分に昇温せず、被成膜基材125とシランカップリング剤との化学結合が不十分となったりする。このため、チャンバー301内の温度を設定する際には、これらの点も考慮する必要がある。
【0082】
なお、被成膜基材125を放置している間のチャンバー301内の圧力は、特に限定されず、大気圧雰囲気、減圧雰囲気のいずれでも良い。
また、チャンバー301内での被処理基材125の放置時間は、チャンバー内301の温度によっても異なるが、チャンバー内の温度が前述の適正範囲(80〜180℃)の場合には30分〜1時間程度が適当である。これにより、チャンバー内301で、被成膜基材125を確実に化学結合が増加する温度(80〜100℃)とすることができる。
【0083】
(B2−2)以上のようにして被成膜基材125の表面120bにシランカップリング剤被膜(プライマー層)124を成膜した後、チャンバー201内の基板搬入口を開放し、被成膜基材125が載置されたカセット126をチャンバー201内から搬出する。その後、基板搬入口を閉じ、第2バルブを開いた状態で真空ポンプを作動させることによって、チャンバー301内に残存するシランカップリング剤ガスを排気する。
そして、次に成膜すべき被成膜基材125がある場合には、本工程の後、工程(B1−1)〜工程(B2−2)を繰り返す。ここで、工程(B1−1)も、チャンバー301内をシランカップリング剤の液化温度以上に保持して行うため、本工程終了後、チャンバー301を放冷することなく、続けて工程(B1−1)を開始する。
【0084】
以上のように、このシランカップリング剤の成膜方法は、高度な真空雰囲気や、精密なガス圧調整が不要であり、シランカップリング剤の被膜を、簡易な成膜装置300を用いて簡単な操作で形成することができる。
【0085】
また、シランカップリング剤を、チャンバー301の内壁301aに一旦吸着させた後、これを脱離させることによって被成膜基材125の表面に供給するので、ガス導入管204から送出されるシランカップリング剤を直接被成膜基材の表面に供給するのに比べて、被成膜基材125表面に偏りなくシランカップリング剤が供給される。このため、被成膜基材125の表面120bに、シランカップリング剤被膜124を均一な膜厚で形成することが可能となる。
【0086】
また、一連の工程を、チャンバー301内をシランカップリング剤の液化温度以上に保持して行うため、チャンバー301内に導入したシランカップリング剤ガスの液化が抑えられるとともに、チャンバー301内に搬送された被成膜基材125を、チャンバー301からの熱伝導によって昇温させることができる。これにより、被処理基板125の表面に、シランカップリング剤を均一に吸着させることができるとともに、吸着したシランカップリング剤と被処理基材125の表面との間に、十分に化学結合を生じさせることができる。その結果、シランカップリング剤被膜124を、均一な膜厚で強固に形成することが可能となる。
【0087】
[C]支持基板剥離工程
以上のようにしてプライマー層(シランカップリング剤被膜)124を形成した後、図4(F)に示すように、支持基板付き第2層基板125に、支持基板110側からUV光を照射し、両面接着シート50の自己剥離層51を発泡させて支持基板110をシリコン基板120の表面102aから剥離する。
以上により、第2層基板1bが作製される。
【0088】
[D]第1層基板の作製工程
続いて、第1層基板1bを作製する。
(D1)図5(G)に示すように、第1層基板1aとなるシリコン基板100に、前記工程(A1)と同様にしてフォトリソグラフィ技術とドライエッチング技術を用いて第1ノズル11aとなる凹部102を形成する。
(D2)続いて、シリコン基板100を熱酸化炉に投入し、図5(H)に示すように、シリコン基板100の表面全体に例えば膜厚0.1μmの熱酸化膜(SiO2膜)103を形成する。
【0089】
(D3)図5(I)に示すように、シリコン基板100の凹部102形成側の面100aに、両面接着シート50を介してガラス等の透明材料よりなる支持基板110を貼り付ける。
(D4)次に、図5(J)に示すように、シリコン基板100の凹部102形成側の面100aと反対側の表面100b側から研削加工及び表面研磨を行い、所望の板厚近傍まで薄板化する。これにより、第1ノズル部11aとなる凹部102の底面が削除され第1ノズル部11aが形成される。
【0090】
(D5)次に、図5(K)に示すように、シリコン基板100の表面100b(以下、吐出面100bという)に、耐インク保護膜104を形成する。この耐インク保護膜104は、次の工程(D6)で形成される撥液膜105の下地膜ともなるもので酸化系金属膜で構成される。ここでは、例えばSiO2膜で構成され、スパッタ装置で成膜される。なお、酸化物系金属膜の成膜は、自己剥離層51が劣化しない温度(100℃程度)以下で実施できればよく、スパッタリング法に限るものではない。酸化物系金属膜としては、他にた例えば、酸化ハフニウム膜、酸化タンタル、酸化チタン、酸化インジウム錫、酸化ジルコニウムも使用できる。自己剥離層51に影響しない温度で成膜することができ、シリコン基板100への密着性を確保することができれば、成膜方法はスパッタ等に限らずCVD等の手法でもよい。
【0091】
(D6)次に、図6(L)に示すように、シリコン基板100の吐出面100bに撥液処理を施す。具体的には、フッ素原子を含むケイ素化合物を主成分とする撥液性を持った材料を蒸着やディッピングで成膜し、吐出面100bに撥液膜105を形成する。このとき、第1ノズル部11aの内壁にも撥液膜105が形成される。
(D7)次に、図6(M)に示すように、支持基板110側からUV光を照射し、両面接着シート50の自己剥離層51を発泡させて支持基板110をシリコン基板100の表面100aから剥離する。
以上により、第1層基板1aが作製される。
【0092】
(D8)そして最後に、図6(N)に示すように、図6(M)の第1層基板1aと図5(G)の第2層基板1bとを表面活性接合により接合する。すなわち、第1層基板1aと熱酸化膜103と、第2層基板1bの熱酸化膜(親液膜)123のそれぞれの表面に、アルゴンの高速電子ビームを照射し、表面を活性化させて加圧接合を行う。接合は圧力10−6Pa程度の真空中で行う。
以上によりノズル基板1が作製される。
【0093】
[E]キャビティー基板2及び電極基板3の製造方法
ここでは、電極基板3にシリコン基板200を接合した後、そのシリコン基板200からキャビティー基板2を製造する方法について図7、図8を参照して簡単に説明する。
【0094】
電極基板3は以下のようにして製造される。
(E1)まず、硼珪酸ガラス等からなる板厚約1mmのガラス基板202に、例えば金・クロムのエッチングマスクを使用してフッ酸によってエッチングすることにより凹部32を形成する。なお、この凹部32は個別電極31の形状より少し大きめの溝状のものであり、個別電極31ごとに複数形成される。
そして、凹部32の内部に、例えばスパッタによりITO(Indium Tin Oxide)からなる個別電極31を形成する。
その後、ドリル等によってインク供給孔33を形成することにより、電極基板3が作製される。
【0095】
(E2)次に、厚さが例えば525μmのシリコン基板200の両面を鏡面研磨した後に、シリコン基板200の片面にプラズマCVDによって厚さ0.1μmのSiO2膜(絶縁膜)2aを形成する。なお、シリコン基板200を形成する前に、エッチングストップ技術を利用し振動板22の厚みを高精度に形成するためのボロンドープ層を形成するようにしてもよい。エッチングストップとは、エッチング面から発生する気泡が停止した状態と定義し、実際のウェットエッチングにおいては、気泡の発生の停止をもってエッチングがストップしたものと判断する。
【0096】
(E3)そして、このシリコン基板200と、図7(A)のように作製された電極基板3とを、例えば360℃に加熱し、シリコン基板200に陽極を、電極基板3に陰極を接続して800V程度の電圧を印加して陽極接合により接合する。
(E4)シリコン基板200と電極基板3とを陽極接合した後に、水酸化カリウム水溶液等で接合状態のシリコン基板200をエッチングすることにより、シリコン基板200の厚さを例えば140μmになるまで薄板化する。
【0097】
(E5)次に、シリコン基板200の上面(電極基板3が接合されている面と反対側の面)全面にプラズマCVDによって例えば厚さ1.5μmのTEOS膜201を形成する。
そして、このTEOS膜201に、圧力室21となる凹部25およびリザーバー24となる凹部27を形成するためのレジストをパターニングし、これらの部分のTEOS膜201をエッチング除去する。
その後、シリコン基板200を水酸化カリウム水溶液等でエッチングすることにより、圧力室21となる凹部25およびリザーバー24となる凹部27を形成する。このとき、配線のための電極取り出し部30となる部分もエッチングして薄板化しておく。なお、図8(E)のウェットエッチング工程では、例えば初めに35重量%の水酸化カリウム水溶液を使用し、その後3重量%の水酸化カリウム水溶液を使用することができる。これにより、振動板22の面荒れを抑制することができる。
【0098】
(E6)シリコン基板200のエッチングが終了した後に、フッ酸水溶液でエッチングすることによりシリコン基板200の上面に形成されているTEOS膜201を除去する。
(E7)次に、シリコン基板200の圧力室21となる凹部25等が形成された面に、プラズマCVDによりSiO2膜(絶縁膜)2aを例えば厚さ0.1μmで形成する。
(E8)その後、RIE(Reactive Ion Etching)等によって電極取り出し部30を開放する。また、電極基板3のインク供給孔33からレーザ加工を施してシリコン基板200のリザーバー24となる凹部27の底部を貫通させ、インク供給孔28を形成する。また、振動板22と個別電極31との間のギャップの開放端部をエポキシ樹脂等の封止材34(図2参照)を充填することにより封止する。また、図1、図2に示すように共通電極29がスパッタによりシリコン基板200上面(ノズル基板1との接合面)の端部に形成される。
【0099】
以上により、電極基板3に接合した状態のシリコン基板200からキャビティー基板2が作製される。
そして最後に、上述のように作製されたノズル基板1の第2層基板1bに形成されたプライマー層124の表面に、接着剤を供給し、第2層基板1bとキャビティー基板2とを接着剤を介して接合する。
以上により、図1及び図2に示したインクジェットヘッド10の本体部が作製される。
【0100】
このように、本実施形態のインクジェットヘッドの製造方法によれば、ノズル基板1の第2層基板1bの表面に、プライマー層124を、均一な膜厚で強固に形成することができるため、ノズル基板1とキャビティー基板2とを強固に接合することができる。これにより、耐環境性に優れたインクジェットヘッドを製造することが可能となる。
【0101】
また、このインクジェットヘッドの製造方法では、プライマー層124を、簡易な成膜装置300によって効率良く成膜することができるため、インクジェットヘッドの製造効率の向上に貢献することができる。
【0102】
<実施形態2>
次に、実施形態2に係るシランカップリング剤の成膜方法及びインクジェットヘッドの製造方法について説明する。
なお、実施形態2においては、前記実施形態1との相違点を中心に説明し、同様の事項については、その説明を省略する。
【0103】
実施形態2のインクジェットヘッドの製造方法は、シランカップリング剤の成膜方法で用いる成膜装置300が、被成膜基材125を加熱する加熱手段を備え、被成膜基材125の温度をチャンバー301の温度とは独立に制御するように構成されている以外は、前記実施形態1と同様である。
【0104】
この実施形態2においても、前記実施形態1と同様の作用・効果が得られる。
また、実施形態2のインクジェットヘッドの製造方法では、特に、シランカップリング剤の成膜方法で用いる成膜装置300が、被成膜基材125を加熱する加熱手段を備え、被成膜基材125の温度をチャンバー301の温度とは独立に制御するように構成されていることにより、チャンバー301の温度に関わらず、被成膜基材125の昇温速度を自由に制御することができる。このため、所望の膜厚のシランカップリング剤被膜124を容易に得ることが可能となる。
【0105】
<実施形態3>
次に、実施形態3に係るシランカップリング剤の成膜方法及びインクジェットヘッドの製造方法について説明する。
図11は、実施形態3に係るシランカップリング剤の成膜方法で用いる成膜装置を示す模式図である。
なお、実施形態3においては、前記実施形態1との相違点を中心に説明し、同様の事項については、その説明を省略する。
【0106】
実施形態3のインクジェットヘッドの製造方法は、シランカップリング剤の成膜方法で用いる成膜装置300が、その内壁301aに多数のフィン308を備える以外は、前記実施形態1と同様の構成とされている。
ここで、多数のフィン308は、チャンバー301の左右の内壁301aに、それぞれ同じ枚数で取り付けられ、その主面が底面に対して略平行とるように上下方向に並列して配されている。
各フィン308の構成材料としては、チャンバー301と同様の金属材料を用いることができる。また、各フィン308には、工程(B1)でシランカップリング剤を吸着させるため、シランカップリング剤ガスに対する吸着性を制御する表面処理が施されているのが好ましい。そのような表面処理としては、例えば、前述のチャンバー301の内壁301aに施す表面処理と同様のものを挙げることができる。
【0107】
この実施形態3においても、前記実施形態11と同様の作用・効果が得られる。
また、実施形態3のインクジェットヘッドの製造方法では、特に、シランカップリング剤の成膜方法で用いる成膜装置300が、その内壁301aに多数のフィン308を備えることにより、内壁301aの表面積が大きくなり、内壁301aに吸着するシランカップリング剤の吸着量が増大する。このため、シランカップリング剤の成膜工程で、より大きな成膜レートを得ることが可能となる。
【0108】
以上、本発明のシランカップリング剤の成膜方法及びインクジェットヘッドの製造方法を、図示の実施形態について説明したが、本発明はこれらに限定されるものではない。
例えば、各実施形態では、シランカップリング剤被膜124を、ノズル基板1(第2層基板1b)のキャビティー基板2との接合面120bに形成しているが、キャビティー基板2の第2層基板1bとの接合面に形成してもよく、双方の接合面に形成しても構わない。
また、各実施形態では、ノズル基板1、キャビティー基板2及び電極基板3を備えた3層構造のインクジェットヘッドを製造する場合を例にしているが、本発明の成膜方法及び製造方法によって製造されるインクジェットヘッドはこれに限るものではなく、ノズル基板、リザーバー基板、キャビティー基板及び電極基板を備えた4層構造のインクジェットヘッドであっても構わない。
【符号の説明】
【0109】
125…被成膜基材(基板)、301…チャンバー、301a…内壁、308…フィン
【特許請求の範囲】
【請求項1】
チャンバーの内部にシランカップリング剤のガスを導入し、前記チャンバーの内壁に前記シランカップリング剤を吸着させる第1の工程と、
前記シランカップリング剤のガスの導入を停止し、前記チャンバーの内部に基板を導入し、前記チャンバーにシランカップリング剤のガスを導入することなく前記チャンバーの内部に前記基板を放置し、前記チャンバーの内壁から脱離したシランカップリング剤を前記基板の表面に成膜する第2の工程と、を有するシランカップリング剤の成膜方法。
【請求項2】
前記第1の工程及び前記第2の工程において、前記チャンバーの温度を、シランカップリング剤の液化温度以上に保持することを特徴とする請求項1に記載のシランカップリング剤の成膜方法。
【請求項3】
前記第2の工程において、前記チャンバーの内部に導入された前記基板は、前記チャンバーの内部で常温付近から徐々に昇温することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のシランカップリング剤の成膜方法。
【請求項4】
前記第2の工程において、前記チャンバーの温度を上昇させ、前記チャンバーの内壁からのシランカップリング剤の脱離を促進させることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載のシランカップリング剤の成膜方法。
【請求項5】
前記第2の工程において、前記基板の温度を前記チャンバーの温度とは独立に制御することを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載のシランカップリング剤の成膜方法。
【請求項6】
前記チャンバーの内壁の材質は、ステンレス鋼、アルミニウム、アルミニウム合金の少なくともいずれかであることを特徴とする請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載のシランカップリング剤の成膜方法。
【請求項7】
前記チャンバーの内壁には、極性を付与する処理、多孔質化処理、鏡面化仕上げの少なくともいずれかの表面処理が施されていることを特徴とする請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載のシランカップリング剤の成膜方法。
【請求項8】
前記チャンバーの内壁には、多数のフィンが設けられていることを特徴とする請求項1〜請求項7のいずれか1項に記載のシランカップリング剤の成膜方法。
【請求項9】
液滴を吐出するための複数のノズル孔を有するノズル基板と、前記ノズル基板の前記複数のノズルそれぞれに連通して液滴を収容する複数の圧力室を有するキャビティー基板と、前記圧力室に液滴を飛翔させる圧力変化を与える圧力発生手段とを有するインクジェットヘッドの製造方法であって、
請求項1〜請求項8のいずれか1項に記載のシランカップリング剤の成膜方法を用いて、前記ノズル基板及び前記キャビティー基板の少なくともいずれかの接合面にシランカップリング剤の被膜を成膜する工程と、
前記ノズル基板と前記キャビティー基板とを、前記シランカップリング剤の被膜を介して接合する工程と、を有するインクジェットヘッドの製造方法。
【請求項1】
チャンバーの内部にシランカップリング剤のガスを導入し、前記チャンバーの内壁に前記シランカップリング剤を吸着させる第1の工程と、
前記シランカップリング剤のガスの導入を停止し、前記チャンバーの内部に基板を導入し、前記チャンバーにシランカップリング剤のガスを導入することなく前記チャンバーの内部に前記基板を放置し、前記チャンバーの内壁から脱離したシランカップリング剤を前記基板の表面に成膜する第2の工程と、を有するシランカップリング剤の成膜方法。
【請求項2】
前記第1の工程及び前記第2の工程において、前記チャンバーの温度を、シランカップリング剤の液化温度以上に保持することを特徴とする請求項1に記載のシランカップリング剤の成膜方法。
【請求項3】
前記第2の工程において、前記チャンバーの内部に導入された前記基板は、前記チャンバーの内部で常温付近から徐々に昇温することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のシランカップリング剤の成膜方法。
【請求項4】
前記第2の工程において、前記チャンバーの温度を上昇させ、前記チャンバーの内壁からのシランカップリング剤の脱離を促進させることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載のシランカップリング剤の成膜方法。
【請求項5】
前記第2の工程において、前記基板の温度を前記チャンバーの温度とは独立に制御することを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載のシランカップリング剤の成膜方法。
【請求項6】
前記チャンバーの内壁の材質は、ステンレス鋼、アルミニウム、アルミニウム合金の少なくともいずれかであることを特徴とする請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載のシランカップリング剤の成膜方法。
【請求項7】
前記チャンバーの内壁には、極性を付与する処理、多孔質化処理、鏡面化仕上げの少なくともいずれかの表面処理が施されていることを特徴とする請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載のシランカップリング剤の成膜方法。
【請求項8】
前記チャンバーの内壁には、多数のフィンが設けられていることを特徴とする請求項1〜請求項7のいずれか1項に記載のシランカップリング剤の成膜方法。
【請求項9】
液滴を吐出するための複数のノズル孔を有するノズル基板と、前記ノズル基板の前記複数のノズルそれぞれに連通して液滴を収容する複数の圧力室を有するキャビティー基板と、前記圧力室に液滴を飛翔させる圧力変化を与える圧力発生手段とを有するインクジェットヘッドの製造方法であって、
請求項1〜請求項8のいずれか1項に記載のシランカップリング剤の成膜方法を用いて、前記ノズル基板及び前記キャビティー基板の少なくともいずれかの接合面にシランカップリング剤の被膜を成膜する工程と、
前記ノズル基板と前記キャビティー基板とを、前記シランカップリング剤の被膜を介して接合する工程と、を有するインクジェットヘッドの製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2012−179856(P2012−179856A)
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−45480(P2011−45480)
【出願日】平成23年3月2日(2011.3.2)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年3月2日(2011.3.2)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】
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