説明

シランカップリング剤を含む印刷回路基板

【課題】 高温印刷回路基板(PCB)のような印刷回路基板のためのシランカップリング剤、シランカップリング剤の合成のためのプロセス、及びそのようなカップリング剤を有するPCBを提供すること。
【解決手段】 シランカップリング剤は、次式
【化1】


で定義され、式中、少なくとも1つのR’はアリルであり、その他は水素、アルキル、シクロアルキル、アリール、ヘテロアリール、非芳香族複素環式環、又はアリルであり、Rは、アルキル、シクロアルキル、アリール、ヘテロアリール、非芳香族複素環式環、又はアリルである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はシランカップリング剤に向けられ、より具体的には、高温印刷回路基板のような印刷回路基板のためのシランカップリング剤に向けられる。
【背景技術】
【0002】
カップリング剤の背後にある基本的な概念は、2つの異種の表面を接合することにある。印刷回路基板(PCB)の場合には、被膜、例えばエポキシベースの樹脂のようなワニスを、基板、例えばガラス布に接合して積層体又は積層構造体を定めるために、シランカップリング剤が用いられることが多い。シランカップリング剤は、典型的には、被膜に結合するための有機官能基と、基板の表面に結合する加水分解性基とから成る。特に、ケイ素上のアルコキシ基は、水の添加又は無機表面上の残留水のいずれかによって、加水分解されてシラノールとなる。その後、シラノールは、無機表面上のヒドロキシル基と反応してオキサン結合(Si−O−Si)を形成し、水を脱離する。
【0003】
PCBが遭遇する1つの問題は、導電性アノード・フィラメント(CAF:conductive anodic filament)であり、これは、回路のアノードから発生し、多くは分離したファイバ−エポキシ界面に沿って、カソードに向かって表面下で「成長」する銅の腐食の副生成物である。PCBの場合、アノード/カソード対は典型的にはめっきされたスルーホールである。CAFは、PCBの破局的な不良をもたらすことがあり、これは、場合によっては発火を引き起こしかねない。ワニスと基板との間の結合がCAFの重要な因子であることが理解される。したがって、シランカップリング剤は積層体における重要な考慮事項である。
【0004】
エポキシベースの積層体の特定の事例の場合、多数の基準に基づいて望ましい性能を示すことが見いだされている有機官能基は、ビニルベンジルアミノエチルアミノプロピル、そしてまたベンジルアミノエチルアミノプロピルである。この有機官能基を含むシランカップリング剤は、アミノ基の第2級窒素を通じて、周知のFR4エポキシ樹脂のような従来のエポキシベース樹脂のエポキシド官能基に共有結合すると考えられる。多くのシランカップリング剤が存在しているが、エポキシベース樹脂のカップリング用の工業的な主力製品は、ビニルベンジルアミノエチルアミノプロピル−トリメトキシシラン(Dow Corning製のZ−6032として市販)であった。
【0005】
PCB産業が従来のFR4エポキシ樹脂から(無鉛化への要求、及びスズ−銀−銅合金に付随する高いはんだ付け温度に起因して)他に移行していくにつれて、元々はこれらのエポキシ用に開発されたシランカップリング剤は追いつかなくなくなってきている。すなわち、ビニルベンジルアミノエチルアミノプロピルトリメトキシシランは、ガラス布基板を積層ワニスにカップリング又は結合するためにいまだに利用されている。しかしながら、現行のワニスはもはやFR4エポキシを含まず、むしろビスマレイミドトリアジン(BT)樹脂又はポリフェニレンオキシド/トリアリル−イソシアヌレート(PPO/TAIC)相互侵入網目であることが多い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許第4,774,282号明細書
【特許文献2】米国特許第5,260,399号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、産業界には現行の樹脂系のために設計されたシランカップリング剤への要求が存在する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の実施形態によれば、印刷回路基板のためのシランカップリング剤が提供され、これは、次式
【化1】

によって定義され、式中、少なくとも1つのR’はアリルであり、その他は水素、アルキル、シクロアルキル、アリール、ヘテロアリール、非芳香族複素環式環、又はアリルであり、Rは、アルキル、シクロアルキル、アリール、ヘテロアリール、非芳香族複素環式環、又はアリルである。一例において、シランカップリング剤は、
【化2】

である。
【0009】
他の実施形態において、シランカップリング剤を合成するためのプロセスが提供される。このプロセスは、熱及び触媒の存在下で、HSi(OR
【化3】

とを式Iのシランカップリング剤が合成されるように反応させることを含み、式中、少なくとも2つのR基はアリルであり、残りのR基は、水素、アルキル、シクロアルキル、アリール、ヘテロアリール、非芳香族複素環式環、又はアリルであり、Rは上記定義と同様である。一例において、得られるシランカップリング剤は、ジアリルプロピルイソシアヌレート−トリメトキシシランである。
【0010】
さらに他の実施形態において、ガラス布のような基板と、基板上にポリフェニレンオキシド/トリアリルイソシアヌレート樹脂のようなワニス被膜とを含む、印刷回路基板が提供される。印刷回路基板は、ワニス被膜を基板にカップリングするようにワニス被膜と基板との間に位置するシランカップリング剤をさらに含む。シランカップリング剤は上述のように式Iで定義される。
【0011】
さらに他の実施形態において、シランカップリング剤をガラス布のような基板に塗布することを含む、印刷回路基板の製造方法が提供される。次に、ポリフェニレンオキシド/トリアリル−イソシアヌレート樹脂のようなワニス被膜を、シランカップリング剤がワニス被膜と基板との間に位置するようにシランカップリング剤の上に塗布する。次いで、基板、カップリング剤、及びワニス被膜を、印刷回路基板を定めるように、硬化条件、例えば減圧下加熱に供する。シランカップリング剤は、上述のように式Iで定義される。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の実施形態によれば、印刷回路基板(PCB)、例えば高温PCBのための、シランカップリング剤が提供される。シランカップリング剤は、次式
【化4】

によって定義され、式中、少なくとも1つのR’はアリルであり、その他は水素、アルキル、シクロアルキル、アリール、ヘテロアリール、非芳香族複素環式環、又はアリルであり、Rは、アルキル、シクロアルキル、アリール、ヘテロアリール、非芳香族複素環式環、又はアリルである。一例において、各R’はアリルである。他の例において、Rはアルキル基である。さらに他の例において、各R’はアリルであり、Rは、1個から18個の炭素原子を有するアルキル基を表す。他の例において、少なくとも1つのRはメチル基である。さらに他の例において、シランカップリング剤は、
【化5】

である。
【0013】
式Iのシランカップリング剤は、有機官能基としてアリルイソシアヌレート・リガンドを組み入れており、ポリフェニレンオキシド(PPO)/トリアリルイソシアヌレート(TAIC)樹脂のような現行の樹脂と相互作用するように設計されている。特に、シランカップリング剤のアリル基は、ワニスが硬化するにつれてTAICのアリル基と共反応して、基板のガラス繊維に強固に結合した架橋樹脂を形成することができる。ここではポリフェニレンオキシド(PPO)/トリアリルイソシアヌレート(TAIC)樹脂がこのシランカップリング剤を介してガラス繊維基板とカップリングするのに適したものとして特定されているが、いずれのエチレン性不飽和モノマーもワニスとして用いることができることが意図される。そのため、TAIC(又はそのジアリル類似体)、ビニル又はメタクリル末端PPOに加えて、ビスフェノールのいずれかのジアリルエーテル(その内容がそのまま引用によりここに明示的に組み入れられる特許文献1に記載のような)、又はアリル修飾アリールシアネートエステル(例えば、1−アリル−2−シアナトベンゼン)などを用いることができる。
【0014】
そして、シランカップリング剤は一般に当該分野で公知の方法によって合成することができるが、式Iのシランカップリング剤の合成のために提案する反応機構の概略を示す模式図を以下に示す。
【化6】

【0015】
上記の模式図において、アリルイソシアヌレート・リガンドに関して、少なくとも2つのR基はアリルであり、残りのR基は、水素、アルキル、シクロアルキル、アリール、ヘテロアリール、非芳香族複素環式環、又はアリルであり、Rは、アルキル、シクロアルキル、アリール、ヘテロアリール、非芳香族複素環式環、又はアリルである。一例において、アリルイソシアヌレート・リガンドはTAICであり、すなわち、各Rはアリルであり、水素化ケイ素化合物は水素化トリメトキシケイ素、HSi(OCHであり、すなわちRはメチルであり、その結果、得られるシランカップリング剤はジアリルプロピルイソシアヌレートトリメトキシシランである。他の例において、各Rはアリルである。さらに他の例において、Rはアルキル基である。さらに他の例において、各Rはアリルであり、Rは、1個から18個の炭素原子を有するアルキル基を表す。
【0016】
さらにシランカップリング剤の合成に関して、アリルイソシアヌレート・リガンドは、水素化ケイ素化合物と反応して、二重結合にわたって付加することによってアリルイソシアヌレート・リガンドのアルケン官能基を還元する。この反応は、熱(Δ)と、例えばクロロ白金酸などの遷移金属触媒のような触媒との存在下で生じる。反応条件及び化学量論を適切に選択することにより、反応性がTAICの単独のアリル基に限定されると考えられる。触媒は、反応物の総重量に基づいて3−20重量パーセントの範囲で用いることができる。他の例において、重量パーセントの範囲は、4−8とすることができ、他の例において、重量パーセントは5とすることができる。反応物の温度は、55−120℃の範囲とすることができる。反応の完了は、発熱の測定(示差走査熱量分析による)によって判定することができる。代表的な反応時間は15−20時間の範囲である。反応は、トルエン又は他の適切な溶媒中で行うことができる。反応生成物は、ロータリーエバポレータ又は他の当業者に公知の適切な技術によって溶媒を飛ばすことにより単離することができる。そして、必要であれば、分留を用いてアリルプロピル−イソシアヌレート誘導体を分離することができる。触媒に関して、白金触媒のような遷移金属触媒がこの合成プロセスでの使用に適している。白金触媒の例としては、クロロ白金酸、並びにその内容がそのまま引用によりここに明示的に組み入れられる特許文献2に開示されているようなものが挙げられる。また、Wilkinson触媒、RhCl[(CP]を用いることもできる。Ashby触媒(エタノール中に1.75wtパーセントの白金を含む)もまたこのようなヒドロシリル化反応に用いることができ、同様にLamoreaux触媒(オクタノール中に3.5wt%の白金を含む)、及びKarstedt触媒(Pt{[(CH=CH)MeSi])O}])}])を用いることもできる。そして他の代表的な例としては、RhX(CO)(PR、RhH(CO)[(CP]、IrCl(CO)[(CP]、IrI(CO)[(CP]、IrH(CO)[(CP]、Pt[(CP]トランス−Pt[(CP]Cl、シス−Pt[(CP]12、Pt[(CP](C)、Pt[(CP]、トランス−PtHCl[(CP]、シス−PtHCl[(CP]、Pt(PF、Pd[(CP]C112、Pd[(CP]、Pd[(CP](CHCO、Ni[(CP]、Ni[(CP]Cl、Co[(CP]Cl、及びRu[(CP]Clが挙げられる。
【0017】
得られた式Iのシランカップリング剤は、積層体又は積層PCBを定めるために、ワニス被膜をガラス布などのPCB基板にカップリング又は結合させることができる。特に、得られたシランカップリング剤は、浸漬塗装プロセスのような公知の手段によって基板に塗布することができる。その後、処理されたガラス布などの基板を当該分野で公知の手段によってPPO/TAICワニスのようなワニスで被覆する。その後、積層体を当該分野で公知のような減圧下加熱などの硬化条件に供し、その結果、ガラス布に共有結合した架橋相が得られる。そして、市販のシランの場合のように、トリアルコキシ基の加水分解によりシラノールが生じ、これがガラス表面上のヒドロキシル基と反応して、水を失うとSi−O−Si結合が形成される。その上、トリアルコキシシランが付加しているプロピル基は疎水性なので、樹脂/ガラス界面への水の侵入をさらに妨げ、CAF耐性を向上させる。
【0018】
本発明を1つ又は複数の実施形態の説明によって例証し、かつ実施形態をかなり詳細に説明してきたが、これらは、添付の特許請求の範囲をそのような詳細に制限したり、いかなる意味でも限定したりすることを意図するものではない。さらなる利点及び改変は当業者には容易に明らかとなろう。したがって本発明はそのより広い態様において、特定の詳細、代表的な生成物及び/又は方法並びに図示及び説明された例に限定されない。したがって、本発明の一般的な概念の範囲から逸脱することなく、このような詳細から外れることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
次式
【化1】

によって定義され、式中、少なくとも1つのR’はアリルであり、その他は水素、アルキル、シクロアルキル、アリール、ヘテロアリール、非芳香族複素環式環、又はアリルであり、Rは、アルキル、シクロアルキル、アリール、ヘテロアリール、非芳香族複素環式環、又はアリルである、シランカップリング剤。
【請求項2】
各R’がアリルである、請求項1に記載のシランカップリング剤。
【請求項3】
がアルキル基である、請求項1に記載のシランカップリング剤。
【請求項4】
各R’がアリルであり、Rが1個から18個の炭素原子を有するアルキル基である、請求項1に記載のシランカップリング剤。
【請求項5】
次式
【化2】

の構造のシランカップリング剤。
【請求項6】
基板と、
前記基板上のワニス被膜と、
前記ワニス被膜を前記基板にカップリングするように前記ワニス被膜と前記基板との間に位置するシランカップリング剤であって、次式
【化3】

で定義され、式中、少なくとも1つのR’はアリルであり、その他は水素、アルキル、シクロアルキル、アリール、ヘテロアリール、非芳香族複素環式環、又はアリルであり、Rは、アルキル、シクロアルキル、アリール、ヘテロアリール、非芳香族複素環式環、又はアリルである、シランカップリング剤と
を含む、印刷回路基板。
【請求項7】
各R’がアリルである、請求項6に記載の印刷回路基板。
【請求項8】
がアルキル基を表す、請求項6に記載の印刷回路基板。
【請求項9】
各R’がアリルであり、Rが1個から18個の炭素原子を有するアルキル基を表す、請求項6に記載の印刷回路基板。
【請求項10】
前記シランカップリング剤が、
【化4】

である、請求項6に記載の印刷回路基板。
【請求項11】
前記基板がガラスを含み、前記ワニス被膜がポリフェニレンオキシド/トリアリルイソシアヌレート樹脂である、請求項6に記載の印刷回路基板。
【請求項12】
シランカップリング剤を製造するためのプロセスであって、
熱及び触媒の存在下で、
【化5】

をHSi(ORと反応させるステップであって、式中、少なくとも2つのR基はアリルであり、残りのR基は、水素、アルキル、シクロアルキル、アリール、ヘテロアリール、非芳香族複素環式環、又はアリルであり、Rは、アルキル、シクロアルキル、アリール、ヘテロアリール、非芳香族複素環式環、又はアリルであり、その結果、次式
【化6】

で定義されるシランカップリング剤が合成され、式中、少なくとも1つのR’はアリルであり、その他は水素、アルキル、シクロアルキル、アリール、ヘテロアリール、非芳香族複素環式環、又はアリルであり、Rは上記定義と同様である、ステップ
を含むプロセス。
【請求項13】
トリアリルイソシアヌレートをHSi(ORと反応させて、
【化7】

を与える、請求項12に記載のプロセス。
【請求項14】
前記熱が約55℃から約120℃までである、請求項12に記載のプロセス。
【請求項15】
前記触媒が遷移金属触媒である、請求項12に記載のプロセス。
【請求項16】
各Rがアリルである、請求項12に記載のプロセス。
【請求項17】
がアルキル基である、請求項12に記載のプロセス。
【請求項18】
各Rがアリルであり、Rが1個から18個の炭素原子を有するアルキル基を表す、請求項12に記載のプロセス。
【請求項19】
基板にシランカップリング剤を塗布するステップであって、前記シランカップリング剤が、次式
【化8】

で定義され、式中、少なくとも1つのR’はアリルであり、その他は水素、アルキル、シクロアルキル、アリール、ヘテロアリール、非芳香族複素環式環、又はアリルであり、Rは、アルキル、シクロアルキル、アリール、ヘテロアリール、非芳香族複素環式環、又はアリルである、ステップと、
前記シランカップリング剤の上にワニス被膜を塗布するステップであって、前記シランカップリング剤が前記ワニス被膜と前記基板との間に位置するステップと、
前記基板、シランカップリング剤、及びワニス被膜を、印刷回路基板を定めるように硬化条件に供するステップと
を含む、印刷回路基板を製造する方法。
【請求項20】
各R’がアリルである、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
がアルキル基を表す、請求項19に記載の方法。
【請求項22】
各R’がアリルであり、Rが1個から18個の炭素原子を有するアルキル基を表す、請求項19に記載の方法。
【請求項23】
前記シランカップリング剤が、
【化9】

である、請求項19に記載の方法。
【請求項24】
前記基板がガラスを含み、前記ワニス被膜がポリフェニレンオキシド/トリアリルイソシアヌレート樹脂である、請求項19に記載の方法。

【公表番号】特表2012−518610(P2012−518610A)
【公表日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−550498(P2011−550498)
【出願日】平成22年1月26日(2010.1.26)
【国際出願番号】PCT/EP2010/050866
【国際公開番号】WO2010/097261
【国際公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【出願人】(390009531)インターナショナル・ビジネス・マシーンズ・コーポレーション (4,084)
【氏名又は名称原語表記】INTERNATIONAL BUSINESS MASCHINES CORPORATION
【Fターム(参考)】