説明

シリアルプリンタ

【課題】 加速中印字後のキャリアの減速をスムーズに行うことのできるシリアルプリンタを提供する。
【解決手段】 加速中に印字が終了した場合は、目標の定常速度まで加速を行い、定常速度に到達後に減速を開始し、常にキャリアの速度が一定の状態から減速を始めるので、減速時にキャリアの動作が乱れることがなく、安定した減速が行えることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はシリアルプリンタに関し、特に加速の最中にも印字可能に構成されたシリアルプリンタのキャリア駆動方法に係る。
【背景技術】
【0002】
キャリアを印字用紙に沿って移動しながら、キャリアに搭載されたヘッドを駆動することにより印字を行うシリアルプリンタの中で、現在代表的なものとして、印字ヘッドからインクを印字用紙に噴出して印字を行うインクジェット方式のシリアルプリンタが広く知られている。
【0003】
図3は、インクジェット方式のシリアルプリンタの構成を示す概略図である。キャリア1は、ガイドシャフト2、ガイドレール4によって、シャーシ3に保持されたLFローラー5及びプラテン6に対向して往復移動できるように支持されている。印字ヘッド7はキャリア1に搭載されていて、ベルト9を介して伝達されるキャリアモータ8によりガイドシャフト2に沿って往復移動する。
【0004】
印字用紙は、プリンタ内部で、LFローラー5とピンチローラー11及び、排紙ローラー12で保持されていて、LFローラー5が回転すると、摩擦力によってLFローラー5の軸線に対して垂直方向に搬送される。
【0005】
印字に際しては、キャリア1は停止状態から、加速された後に一定の速度で移動をする。この状態のときに、プリンタ内部に送られてくる印字データに従って、印字ヘッド7を駆動してインクを噴出する。そして、印字ヘッド7の一行分の駆動が終了後、キャリア1は減速されて停止する。印字ヘッド7の駆動が終了した後、LFローラ5が所定の量だけ回転することにより印字用紙10が搬送され、新たに印字を行うべきエリアが印字ヘッド7と対向する位置に移動する。この動作の繰り返しにより1ページの印字が終了すると、印字用紙はプリンタの外部に排出され、印字動作が完了する。
【0006】
図4はキャリアの駆動機構の概略図である。ガイドシャフト2はシャーシ3に固定されていて、キャリア1が往復運動をする際にガイドとなる。
【0007】
ベルト9はシャーシ3に固定されたキャリアモータ8に連結されるとともにキャリア1に固定されていて、キャリアモータ8の回転を往復運動に変換してキャリア1を移動させる役目をもつ。エンコーダスケール40には一定のピッチでバーがつけられていて、所定の張力をもってシャーシ3に保持されている。
【0008】
キャリア1にはエンコーダセンサ45が取り付けられており、キャリア1が動作したときに、エンコーダスケール40のバーをスキャンすることによって、キャリア1の位置を正確に取得することができる。エンコーダセンサ45の方式としては光学式や磁気式が用いられる。また、キャリア1の走査時には、エンコーダスケール40のバーの連続的な検出の時間間隔からキャリッジ1の速度を算出することができる。
【0009】
キャリア1の駆動に際しては、まず加速を行うことが必要であるが、これに必要な加速度は、加速を行うために決められたキャリア1の移動量と、目標の定常速度からもとめられる。最初に所定の電力でキャリアモータ8を起動してキャリア1を動かすと、この移動中にエンコーダセンサ45によって位置情報と時間情報が得られ、その結果速度情報を得ることができる。一旦速度情報が得られるようになった後は、所定の加速度になるようにキャリアモータ8への電力を加減する。この制御を繰り返すことにより、キャリア1を所定の移動量で所定の定常速度まで加速することができる。加速終了後は、続けて得られる速度情報に従って、定常速度が保持できるようにキャリアモータ8に電力をかけ、所定の移動量を移動した後、加速の際と同様な手段によって、所定の移動量で減速を行い、最終的にキャリア1は停止する。
【0010】
印字を行う時には、通常はキャリア1を定常速度まで加速させて定常速度になった状態で、エンコーダセンサ45から得られる位置情報と、時間情報に従って、設定されたタイミングで印字ヘッド7を駆動して、インクを印字用紙に向けて噴出する。
【0011】
図5はこのキャリア駆動と印字ヘッド駆動の模式図である。キャリア1の移動中にエンコーダセンサ45により、印字位置のひとつ手前に相当するエンコーダスケール40上のバーB0を検出し、そのT0秒後に印字位置に相当する、その次のバーB1を検出したとする。このバーB1とその次のバーB2間での印字ヘッド7の駆動タイミングは、T0を所定のドット間隔に従って等分割することにより決定する。例えば、バーの間隔が1/300インチで、ドット間隔を1/600インチで印字を行いたい場合は、バーB1とバーB2に2つのドットを配置すればいいので、図のようにバーB1を検出した直後と、T0/2秒後に印字ヘッド7を駆動すればよい。この制御の繰り返しにより、理論上は等間隔でインクドットを印字用紙に配置することが可能である。
【0012】
ところで、このような構成からなるプリンタで、プリンタの高速化とコンパクト化を両立させるために、加速および減速中にも印字を行うものがある。
【0013】
図6はこのタイプのキャリア駆動と印字ヘッド駆動の模式図である。図中のSaはキャリアの加速範囲であるが、印字が途中で始まるために、Scの範囲では加速中印字を行う。同様に、図中のSbはキャリアの減速範囲であるが、減速が始まった後も印字続けられるので、Sdの範囲では加速中印字を行うことになる。
【0014】
加速中にキャリア1を移動しているときに、エンコーダセンサ45により印字位置のひとつ手前に相当するエンコーダスケール40上のバーB0を検出し、そのT0秒後に印字位置に相当する、その次のバーB1を検出したとする。このバーB1とその次のバーB2間での印字ヘッド7の駆動タイミングは、前述の定常速度で印字を行う場合と同様に、T0を所定のドット間隔に従って等分割することにより決定する。例えば、バーの間隔が1/300インチで、ドット間隔を1/600インチで印字を行いたい場合は、図のようにバーB1を検出した直後と、T0/2秒後に印字ヘッド7を駆動すればよい。このときにはまだ加速中なので、T0とT1では間隔が異なるため、理想の印字ヘッド駆動タイミングからは若干のずれは生じるが、バーの分割距離が非常に細かければ、ずれも小さくなっていくので、実際に印字を行ったときに気になるほどの位置ずれにはならない。Sdにおける減速中の印字も同様の制御により行なわれる。
【0015】
この従来のプリンタにおいて、印字すべき領域が極端に狭く、加速中の印字だけで済んでしまうような場合は、キャリア1の速度が目標となる定常速度Vcに達する前に減速を始めてしまうことになる。
【0016】
図7はこの場合のキャリア駆動と印字ヘッド駆動の模式図である。図中キャリア1の加速範囲Sa’における加速度は図6中の加速範囲Saにおける加速度と同じである。ここで図6のときと同様に、バーB1の位置から同じ印字ヘッド駆動手段で印字を開始する。
【0017】
ところが、印字範囲が狭いために、印字終了位置にキャリアが移動しても、まだ目標の定常速度Vcに到達していない。ここで図6中の減速範囲Sbにおける減速度と同じ減速度をもって、減速範囲Sb’内で減速を行い、キャリア1を停止させる。
【0018】
ところが、キャリア1の減速度は、キャリア1が定常速度で移動している状態からスムーズに減速するように設定するのが一般的であり、加速途中で同じ減速度で減速を行ったときには、減速を開始したときのキャリア1の実際の速度が不定であるために、減速の制御がスムーズに行えず、減速が終わって停止すべきところで停止しきれていないケースや、急激に停止してしまうケースがある。この場合、キャリア1とガイドシャフト5の間でガタつきから生じる音が発生したり、キャリア1の停止位置が安定しなくなるという問題が発生する。
【特許文献1】特開2000−103134号公報
【特許文献2】特開2004−188761号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
以上述べたように、従来の加速中に印字を行うようなシリアルプリンタにおいては、キャリア1の加速中に印字が終了してしまうような場合、その後のキャリア1の減速がスムーズに行えないという欠点があった。
【0020】
本発明は、上記従来の欠点を解消するために、印字幅が狭くて加速中に印字が終了してしまう場合でも、減速がスムーズに行えるようなシリアルプリンタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明では、キャリア1の加速中に印字を行い、印字が終わったときにまだキャリア1が加速中の場合は、そのまま目標の定常速度まで加速を続けて、定常速度に達した後で減速を行うことにより、上記の課題を解決する。
【0022】
すなわち本発明は、印字ヘッドを保持するキャリアと、該キャリアをモータを駆動源として印字用紙に沿って往復動作させる手段と、前記キャリアの動作方向と垂直方向に該印字用紙を移動させる手段と、前記キャリアの所定の移動量で前記キャリアモータを加速する制御手段を有し、前記キャリアの加速中にも印字が行えるよう構成されたシリアルプリンタにおいて、前記キャリアの1スキャン内の印字が終了したときに前記キャリアが加速中である場合には、定常速度中に印字を行う際のキャリア移動速度に達するまで加速を行い、該キャリア移動速度に達した後で前記キャリアの減速を行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0023】
キャリアの加減速中印字を行うようなプリンタにおいて、印字範囲が狭くて加速中に印字が終了してしまうような場合、印字終了後もキャリアの加速を続けて、所定の定常速度に達した後で減速を開始することにより、安定感のある減速制御が可能となり、減速制御終了後にキャリアが停止しなかったり、急激に停止してガタつきによって異音が発生するのを防ぐことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、図面を参照して本発明を具体的に説明する。
【実施例1】
【0025】
図1は本実施例の狭い印字範囲に加速中に印字を行う場合のキャリア駆動と印字ヘッド駆動の模式図である。
【0026】
図の印字範囲に印字を行うにあたっては、まず従来と同様に、キャリア1の移動中にエンコーダセンサ45により、印字位置のひとつ手前に相当するエンコーダスケール上のバーB0を検出し、そのT0秒後に印字位置に相当する、その次のバーB1を検出する。このバーB1とその次のバーB2間での印字ヘッド7の駆動タイミングは、T0を所定のドット間隔に従って等分割することにより決定する。例えば、バーの間隔が1/300インチで、ドット間隔を1/600インチで印字を行いたい場合は、バーB1とバーB2に2つのドットを配置すればいいので、図のようにバーB1を検出した直後と、T0/2秒後に印字ヘッド7を駆動すればよい。この制御の繰り返しにより、図中の印字範囲内でほぼ等間隔でインクドットを配置することができ印字が行える。
【0027】
このとき、印字終了時にはキャリア1の移動速度は目標の定常速度に達していないが、ここですぐ減速を始めてしまわずに、同じ加速度で加速を続け、定常速度まで達した後に減速を始める。このようにすれば、必ず一定の速度からの減速となるので、減速が常にスムーズに行えて、減速制御が終了した後もキャリア1が停止していなかったり、急激に減速したりすることで、異音が発生するなどの問題は起きることがない。
【0028】
キャリア1の往復運動を利用して、両方向印字を行うような場合は、図2のように、往方向で印字終了から定常速度に達するまでに必要とした移動距離分だけ、復方向印字を行うためのキャリアの加速の開始位置をずらす。そして、往方向で加速が終了するキャリア位置で減速を開始して、減速中に所定の位置に印字を行えば、往復印字で印字位置を合わせることができる。
【0029】
このような制御を行うことにより、狭い印字範囲内で加速中印字を行うような場合でも、従来のような問題が起きるのを避けることが出来る。
【実施例2】
【0030】
キャリア1の駆動源として、パルスモータを用いて、パルスのカウントによる位置検出手段によって印字を行う方式のプリンタがあるが、実施例2として、このような構成の場合のキャリア駆動制御について説明する。
【0031】
図8は実施例のプリンタの概略を示す斜視図である。キャリア1は、ガイドシャフト2、ガイドレール4によって、シャーシ3に保持されたLFローラー5及びプラテン6に対向して往復移動できるように支持されている。印字ヘッド7はキャリア1に搭載されていて、ベルト9を介して伝達されるキャリアモータ8によりガイドシャフト2に沿って往復移動する。
【0032】
キャリアモータ8はステップモータであり、1ステップ分の動作で移動するキャリア移動量はあらかじめ設定されており、かつ一定であるので、1ステップの動作を行う時間を管理することにより、キャリア1の速度を制御すると同時に、加速開始位置からの駆動ステップ数をカウントすることにより、キャリア1の位置を知ることができる。
【0033】
図9は加減速印字を行う場合のキャリア1および印字ヘッド7の駆動制御を示す模式図である。キャリア1は停止状態から加速が行なわれ、目標の定常速度Vcに達したあとは所定の移動量だけ一定の速度で移動して、その後減速が行なわれて最終的に停止する。
【0034】
このような構成のもとで、キャリアモータ8が1ステップ動作したときにキャリア1が1/300インチ移動するように設定されたときに、1/600インチ間隔でインクを吐出したい場合は、該当する個所にキャリア1が到達した後、その次のキャリアモータ8の励磁時間T1の1/2の間隔で印字ヘッド7を駆動すればよい。ここでT0、T1、T2、…は、キャリアモータ8の加速を行うための加速テーブルとしてあらかじめ決められている励磁時間である。
【0035】
図10は印字範囲が狭く、加速中に印字が終わってしまう場合のキャリア1および印字ヘッド7の駆動制御を示す模式図である。印字開始に関しては、前述の印字範囲が広い場合と同様であるが、この場合は、印字が終了した後もキャリア1の速度は、目標速度Vcに到達していない。このため、印字終了直後から減速を始めると、従来のようにキャリア1の速度が不定の状態から減速を始めるため、減速がスムーズに行えないという問題が起こる可能性が高い。
【0036】
そこで、図のように、印字終了後もキャリア1の速度がVcになるまで加速を続け、Vcに達した後で減速を開始する。このようにすれば、減速開始のときのキャリア1の移動速度が常に一定であるので、減速が常にスムーズに行えて、減速制御が終了した後もキャリア1が停止していなかったり、急激に減速したりすることで、異音が発生するなどの問題は起きることがない。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明による第1の実施例のキャリアおよび印字ヘッドの駆動を示す模式図である。
【図2】本発明による第1の実施例で復方向に印字を行う場合のキャリアおよび印字ヘッドの駆動を示す模式図である。
【図3】シリアルプリンタの構成を示す概略図である。
【図4】シリアルプリンタのキャリア駆動系の構成を示す概略図である。
【図5】キャリアの定常範囲内で印字を行うプリンタのキャリアおよび印字ヘッドの駆動を示す模式図である。
【図6】従来例、または実施例で、キャリアの加減速範囲および定常範囲に印字を行う場合のキャリアおよび印字ヘッドの駆動を示す模式図である。
【図7】従来例でキャリアの加速範囲内のみに印字を行う場合のキャリアおよび印字ヘッドの駆動を示す模式図である。
【図8】本発明による第2の実施例のシリアルプリンタの構成を示す概略図である。
【図9】本発明による第2の実施例でキャリアの加減速範囲および定常範囲に印字を行う場合のキャリアおよび印字ヘッドの駆動を示す模式図である。
【図10】本発明による第2の実施例でキャリアの加速範囲内のみに印字を行う場合のキャリアおよび印字ヘッドの駆動を示す模式図である。
【符号の説明】
【0038】
1 キャリア
2 ガイドシャフト
3 シャーシ
4 ガイドレール
5 LFローラー
6 プラテン
7 印字ヘッド
8 キャリアモータ
9 ベルト
11 ピンチローラー
12 排紙ローラー
40 エンコーダスケール
45 エンコーダセンサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
印字ヘッドを保持するキャリアと、該キャリアをモータを駆動源として印字用紙に沿って往復動作させる手段と、前記キャリアの動作方向と垂直方向に該印字用紙を移動させる手段と、前記キャリアの所定の移動量で前記キャリアモータを加速する制御手段を有し、前記キャリアの加速中にも印字が行えるよう構成されたシリアルプリンタにおいて、前記キャリアの1スキャン内の印字が終了したときに前記キャリアが加速中である場合には、定常速度中に印字を行う際のキャリア移動速度に達するまで加速を行い、該キャリア移動速度に達した後で前記キャリアの減速を行うことを特徴とするシリアルプリンタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2006−159625(P2006−159625A)
【公開日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−354213(P2004−354213)
【出願日】平成16年12月7日(2004.12.7)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】