説明

シリカ成形体

【課題】流動層反応の触媒として、優れた形状、流動性及び強度を有する、ゼオライト、シリカ及びリンを含有するシリカ成形体及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】ゼオライト、シリカ及びリンを含有し、下記式(I):
ゼオライト/シリカ/リン=1/A/B (I)
(式中、Aはゼオライト重量に対するシリカの重量比、Bはゼオライトとシリカの合計重量に対するリン元素の重量比を示し、0<A≦10、0<B≦0.05である。)
で表される組成を有するシリカ成形体であって、
前記ゼオライトは、SiO/Alモル比が15〜1000、平均粒子径が0.05〜10μmの非凝集型のゼオライトである、シリカ成形体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流動層反応の触媒として使用される、ゼオライト、シリカ及びリンを含有するシリカ成形体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
流動層反応においては、通常、触媒を充填した反応器の下部から反応ガスを供給し、そのガス流れによって反応器内で触媒粒子が流動し、触媒粒子と反応ガスとが接触することで反応が進行する。ここで、流動層反応に用いられる触媒としては、化学的な性能のみならず、粒子の形状、大きさ、分布、流動性、強度等の、流動層反応に好適な物理的特性を備えていることが求められる。
流動層反応プロセスにおいて良好な流動状態を実現するには、触媒粒子が好適な性状を有することが必要であり、例えば、流動ハンドブック(日本粉体工業技術教会 培風館1999年)p.16には、「気泡と触媒を含むエマルジョン相との物質移動が十分早いことが反応率・選択率の向上に望ましい。このためには気泡が小さいことが望ましく、粒子が細かく表面が滑らかですべりやすいことがよいとされる。一般に、粒子の嵩密度が0.6〜1.0g・m−3と軽く、平均直径も60〜80μmのものがよいといわれている。」と記載されている。また、触媒の流動に伴い、触媒粒子間、触媒粒子と反応器、触媒粒子と反応ガスとの衝突や接触による触媒粒子の摩耗や破砕が発生すると、触媒粒子の流動性低下や破砕粒子の飛散が発生するため、流動層反応触媒の性状としては、摩耗や破砕に耐えうるのに充分な機械的強度も求められる。
【0003】
すなわち、流動層反応に用いる触媒としては、流動性に優れた形状、粒径分布等を有し、かつ、触媒粒子間、触媒粒子と反応器、触媒粒子と反応ガス、との衝突や接触に耐え得る機械的強度(耐摩耗性)を有することが必要である。こうした特性を付与するため、金属、複合酸化物、ゼオライト等の触媒活性成分をアルミナやシリカ等の担体成分やバインダーとともに成形し、その成形体を焼成する方法が知られている。例えば、特許文献1には、ゼオライトとリン酸アルミニウム含有結合剤とマトリックスからなるゼオライト含有触媒が記載されている。また、特許文献2には、リン酸塩含有水溶液で処理した変性ゼオライトとマトリックスからなるゼオライト含有触媒が記載されている。
【0004】
【特許文献1】特開平4−354541号公報
【特許文献2】特開平5−64743号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1においては、ゼオライト(ZSM−5)/シリカスラリーとリン酸アルミニウム結合剤からは耐摩耗性の低い、柔らかい触媒しか得られず、また、特許文献2においては、リン酸塩変性ゼオライトとカオリンクレー、シリカ、アルミナを組み合わせて調製された触媒はいずれも、流動層反応に供するには、耐摩耗性が不充分であるという問題がある。
【0006】
上記事情に鑑み、本発明は、流動層反応の触媒として、優れた形状、流動性及び強度を有する、ゼオライト、シリカ及びリンを特定の組成比で含有するシリカ成形体及びその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、ゼオライト、シリカ及びリンを含有するシリカ成形体であって、ゼオライト、シリカ及びリンの組成が特定の範囲に設定され、かつ、ゼオライトとして特定の物性を有するものを含むシリカ成形体が、流動層反応用の触媒として、優れた形状、流動性及び強度を有することを見いだし、本発明を完成させた。
【0008】
即ち、本発明は以下の通りである。
[1]
ゼオライト、シリカ及びリンを含有し、下記式(I):
ゼオライト/シリカ/リン=1/A/B (I)
(式中、Aはゼオライト重量に対するシリカの重量比、Bはゼオライトとシリカの合計重量に対するリン元素の重量比を示し、0<A≦10、0<B≦0.05である。)
で表される組成を有するシリカ成形体であって、
前記ゼオライトは、SiO/Alモル比が15〜1000、平均粒子径が0.05〜10μmの非凝集型のゼオライトである、シリカ成形体。
[2]
下記式(II)で表される摩耗損失が3重量%以下である、上記[1]記載のシリカ成形体:
摩耗損失(重量%)=D/(E−C)×100 (II)
(式中、Cは0〜5時間に摩耗逃散したシリカ成形体の重量(g)、Dは5〜20時間に摩耗逃散したシリカ成形体の重量(g)、Eは試験に供したシリカ成形体の重量(g)を示す。)。
[3]
安息角が20〜30°である、上記[1]又は[2]記載のシリカ成形体。
[4]
嵩密度が0.8〜1.2g/cmである、上記[1]〜[3]のいずれか記載のシリカ成形体。
[5]
以下の各工程:
(i)ゼオライト、シリカゾル及びリン化合物を混合して、原料混合物を調製する工程、
(ii)前記原料混合物を噴霧乾燥して乾燥粉体を得る工程、
を含む、シリカ成形体の製造方法であって、
前記ゼオライトは、SiO/Alモル比が15〜1000、平均粒子径が0.05〜10μmの非凝集型のゼオライトであり、
前記シリカゾルに含まれるシリカ一次粒子の平均粒子径が3〜50nmである、
シリカ成形体の製造方法。
[6]
(iii)前記乾燥粉体を焼成する工程をさらに含む、上記[5]記載のシリカ成形体の製造方法。
[7]
前記リン化合物が水溶性リン化合物である、上記[5]又は[6]記載のシリカ成形体の製造方法。
[8]
前記水溶性リン化合物がリン酸である、上記[7]記載のシリカ成形体の製造方法。
[9]
上記[1]〜[4]のいずれか記載のシリカ成形体を流動層反応触媒として用いるプロピレンの製造方法であって、
シリカ成形体と、エチレンを含有する炭化水素原料とを接触させる工程を含む、製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、優れた形状、流動性及び強度を有するシリカ成形体を提供することができる。本発明のシリカ成形体は、流動層反応用の触媒としての好適な物性を有しているため、流動層反応によりエチレン含有炭化水素原料からプロピレンを製造する際の触媒として用いることで、プロピレンを高転化率で収率良くかつ安定に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明を実施するための最良の形態(以下、本実施の形態)について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0011】
なお、本明細書中で「シリカ」とは、シリカ成形体の製造に用いられるシリカゾルに含まれるシリカを指し、特に断りのない場合を除き、ゼオライトを構成するシリカを意味しない。
【0012】
[シリカ成形体]
本実施の形態のシリカ成形体は、ゼオライト、シリカ及びリンを含有し、下記式(I):
ゼオライト/シリカ/リン=1/A/B (I)
(式中、Aはゼオライト重量に対するシリカの重量比、Bはゼオライトとシリカの合計重量に対するリン元素の重量比を示し、0<A≦10、0<B≦0.05である。)
で表される組成を有するシリカ成形体であって、前記ゼオライトは、SiO/Alモル比が15〜1000、平均粒子径が0.05〜10μmの非凝集型のゼオライトである。
【0013】
シリカ成形体の組成を表す上記式(I)において、ゼオライト重量に対するシリカの重量比を示すAは、0<A≦10であり、好ましくは0.1≦A≦10、より好ましくは0.5≦A≦5である。Aが10を超えるとシリカ成形体の形状が不良となり、流動性が低下する傾向にある。また、シリカ成形体を流動層反応用の触媒として用いる場合、Aが10を超えると、充分な量のゼオライトがシリカ成形体中に含まれないため反応性が低下する傾向にある。
【0014】
また、ゼオライトとシリカの合計重量に対するリン元素の重量比を示すBは、0<B≦0.05であり、好ましくは0.001≦B≦0.05、より好ましくは0.005≦B≦0.04である。Bが0であると(リン元素が含まれないと)、シリカ成形体の強度が不充分となる傾向にあり、0.05を超えるとシリカ成形体の形状が不良となり、流動性が低下する傾向にある。
【0015】
本実施の形態のシリカ成形体に含まれるゼオライトは、SiO/Alモル比が15〜1000、平均粒子径が0.05〜10μmの非凝集型のゼオライトである。
【0016】
通常、ゼオライトは、水熱合成時に微細な一次粒子同士が凝集し、数μm〜20μm程度の二次粒子を形成する。非凝集型のゼオライトとは、こうした凝集型のゼオライトに粉砕、衝撃、せん断等の機械的分散処理やアルカリ性溶液による溶解等の化学的処理等を施して凝集を解き、平均粒子径0.05〜10μmの範囲に脱凝集されたゼオライト、又は、平均粒子径0.05〜10μmの範囲で得られたゼオライトのことを言う。
【0017】
本実施の形態において「非凝集型」とは、ゼオライト一次粒子100個の電子顕微鏡(SEM)像のうち、他の一次粒子と部分的に結合しているゼオライト一次粒子の割合が50%以下であることを意味する。
【0018】
シリカ成形体に含まれるゼオライトの平均粒子径は、0.05〜10μm、好ましくは0.5〜5μm、より好ましくは0.5〜4μmである。ゼオライトの平均粒子径が10μmを超えると、シリカ成形体の摩耗損失が大きくなる傾向があり、0.05μm未満であるとゼオライトの結晶性が低下し、流動層反応用の触媒として用いた際の反応性が低下する傾向にある。
【0019】
ここで、ゼオライトの平均粒子径は、レーザー式粒度分布測定装置で測定した値を意味する。
【0020】
また、シリカ成形体に含まれるゼオライトは、SiO/Alモル比が好ましくは15〜1000であり、より好ましくは25〜1000であり、さらに好ましくは25〜300である。SiO/Alモル比が15よりも小さいと、シリカ成形体とエチレンを含有する炭化水素原料とを接触させてプロピレンを製造する際に、プロピレンの選択性が低下する傾向にあり、1000を超えると、ゼオライトの疎水性が高まりシリカゾルとの親和性が低下するため、シリカ成形体の摩耗損失が大きくなる傾向にある。
【0021】
ここで、ゼオライトのSiO/Alモル比は、例えば、ゼオライトをアルカリ水溶液、或いは、フッ酸水溶液に完全に溶解し、得られた溶液をプラズマ発光分光分析法等により分析することにより求めることができる。
【0022】
ゼオライトの具体例としては、例えば、酸素10員環を有するゼオライト、酸素12員環を有するゼオライト、シリコアルミノリン酸塩モレキュラーシーブ等が挙げられる。
【0023】
酸素10員環を有するゼオライトとは、その結晶構造中に酸素10員環を有するゼオライトであり、ゼオライト細孔径の範囲が、A型ゼオライトに代表される小細孔径ゼオライトの細孔径と、モルデナイトやX型やY型ゼオライトに代表される大細孔径ゼオライトの細孔径の中間にあるゼオライトを指す。酸素10員環を有するゼオライトの例としては、ZSM−5や、ZSM−5に類似の構造を有する、ZSM−8、ZSM−11、ZSM−12、ZSM−18、ZSM−23、ZSM−35、ZSM−39等のいわゆるペンタシル型ゼオライトが挙げられる。中でも、耐熱性が高く、形状選択性や強い固体酸性により特徴的な触媒活性を有するZSM−5が好ましい。
【0024】
酸素12員環を有するゼオライトとは、その結晶構造中に酸素12員環を有するゼオライトであり、その例としては、ベータ、ホージャサイト、モルデナイト、X型ゼオライト、Y型ゼオライト、L型ゼオライト、グメリナイト、AlPO4−5、AlPO4−31などが挙げられ、中でも、適度な酸強度を有するベータが好ましい。
【0025】
シリコアルミノリン酸塩モレキュラーシーブとは、アルミノリン酸塩モレキュラーシーブ中のアルミニウム及びリンの一部をシリコンで置き換えたゼオライトである。シルコアルミノリン酸塩モレキュラーシーブの例としては、SAPO−5、SAPO−34、SAPO−35等が挙げられる。
【0026】
また、ゼオライトとして、ゼオライト骨格を構成するアルミニウム原子の一部がGa、Fe、B、Cr、Ti等の元素で置換されたメタロアルミノシリケートや、ゼオライト骨格を構成するアルミニウム原子が全て上記のような元素で置換されたメタロシリケートを用いることもできる。その場合、メタロアルミノシリケート又はメタロシリケート中における上記の元素の含有量をアルミナのモル数に換算した上で、SiO/Al(シリカ/アルミナ)モル比を算出する。
【0027】
また、本実施の形態のシリカ成形体は、下記式(II)で表される摩耗損失が、好ましくは3重量%以下である。
摩耗損失(重量%)=D/(E−C)×100 (II)
(式中、Cは0〜5時間に摩耗逃散したシリカ成形体の重量(g)、Dは5〜20時間に摩耗逃散したシリカ成形体の重量(g)、Eは試験に供したシリカ成形体の重量(g)を示す。)
【0028】
シリカ成形体の摩耗損失が3重量%以下であると、摩耗や破損の極めて少ない、機械的強度に優れたシリカ成形体となり、流動層反応用の触媒として好適に用いることができる。シリカ成形体の摩耗損失は、より好ましくは2重量%、さらに好ましくは1重量%以下である。
【0029】
本実施の形態のシリカ成形体は、安息角が、好ましくは20〜30°である。安息角が20°未満であると、流動性が過剰となるため、取り扱い性が悪化する傾向にあり、30°を超えると、流動性が低下し粒子間のブリッジングが発生し易くなる傾向にある。
【0030】
嵩密度は、球状粒子の球状度又は流動状態の指標として極めて重要である。本実施の形態のシリカ成形体は、嵩密度が、好ましくは0.8g/cm3〜1.3g/cm、より好ましくは0.8〜1.2g/cm、さらに好ましくは0.8〜0.95g/cmである。この範囲の嵩密度を有するシリカ成形体は、流動層反応における触媒として用いた際に、反応ガス線速が向上し、触媒粒子と反応ガスとの物質移動・熱伝達がより良好となる傾向にある。嵩密度が0.8g/cm未満の場合、歪な形状の粒子や、割れ、欠け、中空の粒子の割合が多くなる傾向にあり、1.3g/cmを超えると、比表面積が低下し触媒としての化学的性能が不充分となる傾向にある。
【0031】
本実施の形態のシリカ成形体には、必要に応じ金属元素を含有させることができる。特に、シリカ成形体を、エチレンを含有する炭化水素原料と接触させてプロピレンを製造する際の流動層反応触媒として用いる場合には、周期律表第IB族に属する金属、即ち、銅、銀、金よりなる群から選ばれる少なくとも1種の金属を含有することが好ましい。より好ましくは銅、銀であり、さらに好ましくは銀である。なお、本明細書において、「周期律表」とは、CRC Handbook of Chemistry and Physics, 75th edition David R. Lideら著、CRC Press Inc.発行(1994−1995年)、1−15頁に記載の周期律表を示すものとする。
【0032】
シリカ成形体が周期律表第IB族に属する金属元素よりなる群から選ばれる少なくとも1種の金属元素を含有するとは、成形体中のゼオライトがIB族金属に対応する陽イオンの状態で含むか、又は、成形体に担持されていることを意味する。ゼオライト又はシリカ成形体にIB族金属元素を含有させる方法としては、IB族金属を含有していないゼオライト又はシリカ成形体を、公知のイオン交換法により処理する方法、例えば、液相イオン交換処理法や含浸担持触媒を高温下で処理することで固相イオン交換処理する方法等が挙げられる。当該イオン交換法によってゼオライト又はシリカ成形体にIB族金属を含有させる場合には、IB族金属の塩を使用する必要がある。IB族金属の塩としては、例えば硝酸銀、酢酸銀、硫酸銀、塩化銅、硫酸銅、硝酸銅、塩化金等が挙げられ、好ましくは、硝酸銀、硝酸銅であり、より好ましくは、硝酸銀である。シリカ成形体中のIB族金属の含有量は、好ましくは0.1〜10重量%であり、より好ましくは0.2〜5重量%である。また、その含有量は公知の方法、例えばX線蛍光分析法等により求めることができる。
【0033】
また、シリカ成形体に含まれるゼオライトのイオン交換サイトの少なくとも一部は、IB族金属カチオン及び/又はプロトンで交換されていることが好ましい。また、IB族金属カチオン及び/又はプロトンで交換されたサイト以外のイオン交換サイトは、アルカリ金属カチオン、アルカリ土類金属カチオン及びその他の金属カチオンで交換されていてもよいが、この場合、これらの金属カチオンはゼオライト酸点を被毒し、反応活性低下を引き起こすおそれがある。
【0034】
シリカ成形体の平均粒子径は、流動層反応プロセスを考慮して、好ましくは10〜200μmであり、より好ましくは20〜100μmであり、さらに好ましくは40〜80μmである。ここで、成形体の平均粒子径は、
レーザー回折・散乱式粒度分析計により測定した値を意味する。また、粒子の形状観察は電子顕微鏡(SEM)により行うことができる。
【0035】
[シリカ成形体の製造方法]
本実施の形態のシリカ成形体の製造方法は、以下の各工程:
(i)ゼオライト、シリカゾル及びリン化合物を混合して、原料混合物を調製する工程、
(ii)前記原料混合物を噴霧乾燥して乾燥粉体を得る工程、
を含む、シリカ成形体の製造方法であって、
前記ゼオライトは、SiO/Alモル比が15〜1000、平均粒子径が0.05〜10μmの非凝集型のゼオライトであり、前記シリカゾルに含まれるシリカ一次粒子の平均粒子径が3〜50nmである。
【0036】
本実施の形態の製造方法においては、原料として平均粒子径が0.05〜10μmの非凝集型のゼオライトと、シリカ一次粒子の平均粒子径が3〜50nmのシリカゾルを用いることで、機械的強度に特に優れたシリカ成形体を得ることができる。これらの原料の組合せにより、原料混合物中のゼオライトとシリカゾルの接触が良好となり、その結果、ゼオライトとシリカの充填状態が均一かつ密になるものと推定される。従って、シリカ成形体の機械的強度の発現には、原料混合物中のゼオライトとシリカゾルの混合状態が重要であり、ゼオライトが非凝集状態のままで混合されることが特に重要である。
【0037】
[工程(i):原料調製工程]
工程(i)は、ゼオライト、シリカゾル及びリン化合物を混合して、原料混合物(原料混合スラリー)を調製する工程である。
【0038】
シリカ成形体の製造に用いるゼオライトは、SiO/Alモル比が15〜1000、平均粒子径が0.05〜10μmの非凝集型のゼオライトである。具体的には、上記で列挙したゼオライトが挙げられ、中でも、ZSM−5が好ましい。
【0039】
原料として用いるゼオライトが凝集体を形成している場合には、ジェットミル等を用いて機械的に粉砕して、非凝集型のゼオライトとして用いることができる。粉砕方法は簡便に用いることのできるボールミルよりも、高圧空気や高圧蒸気を超高速ジェット化して粉砕処理を行うジェットミルの方が好ましい。非凝集型のゼオライトの平均粒子径は0.05〜10μm、より好ましくは0.5〜5μm、さらに好ましくは0.5〜4μmであり、SiO/Alモル比は15〜1000であり、より好ましくは25〜1000であり、さらに好ましくは25〜300である。
【0040】
ゼオライトは、ゼオライト粉体、水にゼオライトを分散・懸濁させたスラリー、原料として用いるシリカゾルの一部にゼオライトを分散・懸濁させたスラリー、又は、リン酸化合物の水溶液にゼオライトを分散・懸濁させたスラリーとして用いることができ、好ましくはゼオライト粉体、水にゼオライトを分散・懸濁させたスラリー、又は、原料として用いるシリカゾルの一部にゼオライトを分散・懸濁させたスラリーとして用いる。理由は不明であるが、ゼオライトをリン酸化合物の水溶液に分散・懸濁させた場合、リン酸化合物によるゼオライトの凝集が生じ、それを脱凝集させるのは、ボールミルなどの機械的分散処理では不充分なものとなる傾向がある。
【0041】
シリカ成形体の製造に用いるシリカ原料としては、シリカ一次粒子の平均粒子径が3〜50nmのシリカゾルを用いる。
【0042】
シリカゾル中のシリカ一次粒子の平均粒子径は、シリカ成形体の耐摩耗性や嵩密度に極めて密接に関連する。平均粒子径が3nmから50nmの範囲であれば、ゼオライト粒子との接触面積が増大し、ゼオライト粒子とシリカの充填状態がより均一かつ密となるため、シリカ成形体の耐摩耗性が向上し、嵩密度も大きくなる傾向にある。
【0043】
シリカ一次粒子の平均粒子径は、好ましくは3〜30nm、より好ましくは3〜20nm、さらに好ましくは3〜10nmである。特に好ましくは3〜5nmである。
【0044】
また、平均粒子径が50nm以下の粒子径の異なる数種類のシリカコロイドを混合して、シリカ一次粒子の粒径分布が広いシリカゾルを用いることもできる。
【0045】
シリカゾルは、アンモニウムイオンやナトリウムイオン等で安定化させたアルカリ性シリカゾル又は酸性のシリカゾル、アミンで安定化させたシリカゾル等を用いることができる。好ましくはアンモニウムイオンで安定化させたシリカゾルである。また、シリカゾルは、アルミノシリケート、アルミナ、チタニア、ジルコニア、カオリン、珪藻土等とともに用いることができ、これらは2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0046】
シリカ成形体の製造に用いるリン化合物としては、リン酸、亜リン酸、次亜リン酸、ピロリン酸、ポリリン酸、リン酸一水素アンモニウム、リン酸二水素アンモニウム、リン酸三アンモニウム、過リン酸アンモニウム、次亜リン酸アンモニウム、五酸化リン、ホスフィン類等を用いることができる。好ましくは、リン酸、リン酸一水素アンモニウム、リン酸二水素アンモニウム、リン酸三アンモニウム、ピロリン酸、ポリリン酸等の水溶性のリン化合物であり、より好ましくはリン酸である。これらは単独、混合物、又は水溶液等として用いることができる。
【0047】
シリカ成形体の原料混合物を調製する際のゼオライト、シリカゾル、リン化合物の混合順序としては特に制限されない。シリカ原料であるシリカゾルにゼオライトを添加し、その混合物にリン化合物を加えてもよく、シリカゾルにリン化合物を添加し、その混合物にゼオライトを加えてもよい。またゼオライトは、ゼオライト粉体、水にゼオライトを分散・懸濁させたスラリー、又は、シリカゾルの一部にゼオライトを分散・懸濁させたスラリーとして用いることが好ましい。リン化合物はそのまま用いてもよく、あらかじめ水などに分散させて用いてもよい。
【0048】
また、原料混合物中には、原料混合物のpHを好適に調整するため酸を適宜加えてもよい。この場合、用いることができる酸としては、硫酸、塩酸、硝酸等が挙げられ、好ましくは硝酸である。原料混合物のpHは、好ましくは0.5〜10であり、より好ましくは0.5〜4である。
【0049】
原料混合物中には、固形分としてゼオライトとシリカが含まれる。原料混合物の固形分重量濃度は、好ましくは5〜70重量%、より好ましくは10〜50重量%である。原料混合物には、固形分重量濃度を調整するために、適宜、水を加えてもよい。
【0050】
また、シリカ成形体の形状をより真球状にする目的で、原料混合物の表面張力を調製する界面活性剤を加えてもよい。
【0051】
原料混合物の攪拌時間としては、好ましくは0.5〜50時間、より好ましくは1〜5時間である。攪拌時の混合物の温度としては、好ましくは10〜90°C、より好ましくは15〜70°C、さらに好ましくは15〜40°Cである。必要に応じて加熱することによって、原料混合物の粘度を上げてもよい。
【0052】
[工程(ii):乾燥工程]
工程(ii)は、上記工程(i)で得られた原料混合物を噴霧乾燥して乾燥粉体を得る工程である。原料混合物は調製後、直ちに噴霧乾燥しても、調製後に長時間の混合撹拌を行って噴霧乾燥してもよい。原料混合物の噴霧は、工業的に通常用いられる回転円盤方式、二流体ノズル方式又は高圧ノズル方式等の方法を採用することができるが、特に、回転円盤方式で行うことが好ましい。乾燥熱源は、スチーム、電気ヒーター等によって加熱された空気を用いることが好ましい。乾燥機入口の温度は、好ましくは100〜400°C、より好ましくは150〜300°Cである。乾燥機出口の温度は、好ましくは80〜170°C、より好ましくは90°C〜150°Cである。
【0053】
[工程(iii):焼成工程]
本実施の形態の製造方法においては、より耐摩耗性の高いシリカ成形体を得ることを目的として、必要に応じて、(iii)前記乾燥粉体を焼成する工程をさらに含んでもよい。乾燥粉体の焼成は、マッフル炉、回転炉、トンネル炉、管状炉、流動焼成炉等を用いて行うことができる。焼成温度としては、好ましくは500〜900°C、より好ましくは550〜850°C、さらに好ましくは600〜700°Cである。焼成時間としては、好ましくは0.5〜8時間、より好ましくは1〜5時間である。焼成工程は大気雰囲気下、イナート雰囲気下、又は、真空下等で実施することができる。また、焼成工程は反復して実施してもよい。焼成後、シリカ成形体中の余剰のリン成分は水又は熱水で洗浄することができる。
【0054】
また、シリカ成形体にIB族金属等の金属元素を担持させる場合には、予めイオン交換等の公知の方法により所望の金属元素を担持させたゼオライトを用いてもよく、上述の原料混合物に所望の金属元素を溶解又は分散させておいてもよい。また、焼成後に所望の金属元素を含有する水溶液と接触させて担持させることもできる。更には、焼成後にシリカ成形体を硝酸、塩酸のような鉱酸の水溶液と接触させて、ゼオライトをイオン交換してもよい。
【0055】
スラリーを噴霧乾燥して造粒する場合、以下のメカニズムにより粉体粒子の破壊や粒子表面の開孔、陥没が生じ、形状が不定で脆弱な粒子となることがある。1)液滴から液体蒸発することで、液滴の収縮が始まり、液滴表面が固化・収縮し、2)次に、液滴内部からの液体蒸発による粉体粒子の内部圧が上昇する結果、粉体粒子の破壊(割れ、欠け)や粒子表面の開孔が生じ、3)その後、常温に温度が下がった時点で、粒子内部圧がなくなる、又は、負圧になることで粉体粒子の表面が陥没する。
【0056】
これに対し本実施の形態の製造方法の場合、詳細は不明であるが、噴霧乾燥する前の原料混合物において、リン化合物がシリカ粒子に対して何らかの触媒作用を及ぼし、1)シラノール基(SiOH)の脱水縮合によるシリカ粒子同士が架橋し、2)噴霧乾燥時にシリカ層が液滴表層に形成され、3)粉体粒子の内部圧上昇に伴う破壊や開孔、内部圧低下、又は、負圧化による陥没が抑制されることで、平滑な表面を有する球状の粉体粒子が得られると推定される。特に、平均粒子径の比較的小さなシリカゾルを用いることで、シリカゾル粒子間の接触面積が大きく、シリカ粒子同士の架橋構造がより強固になると考えられる。また、耐摩耗性の向上に関しては、シリカ粒子同士の架橋構造に加え、上述したように、ゼオライトとシリカがより均一かつ密に乾燥粉体中で充填されていることにも起因する。また焼成によるシリカゾル粒子同士の焼結促進にもリン化合物が作用し、更なる耐摩耗性の向上に寄与していると推定される。
【0057】
[プロピレンの製造方法]
本実施の形態におけるプロピレンの製造方法においては、シリカ成形体を流動層反応触媒として用いて、シリカ成形体とエチレンを含有する炭化水素原料とを接触させる工程を含む。
【0058】
流動層反応は、流動層反応器で実施される。また、エチレンを含有する炭化水素原料は、必ずしも高純度である必要はなく、工業グレードのものを使用することができる。
【0059】
エチレンを含有する炭化水素原料は、エチレンを20重量%以上含有することが好ましく、より好ましくはエチレンを25重量%以上含有する。エチレンを含有する炭化水素原料と共に、1重量%以上の水を反応器に供給することが好ましい。好ましい水/炭化水素原料の比率は、1重量%以上であり、より好ましくは5〜100重量%、さらに好ましくは10〜80重量%である。反応生成物からプロピレンを分離し、残りのエチレンを含む低沸成分及び/又はブテンを含む高沸成分の少なくとも一部を、流動層反応器にリサイクルすることは好ましい形態の一例である。
【0060】
エチレンを含有する炭化水素原料は、エタンの熱分解及び/又は酸化的脱水素反応、又は、バイオマスエタノールの脱水反応により得られたものを使用することができる。この原料は、オレフィン類及びパラフィン類を含んでいてもよい。パラフィン類の例としては、メタン、エタン、プロパン、ブタン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン等を挙げることができる。また、オレフィン類の例としては、プロピレン、ブテン、ペンテン、ヘキセン、ヘプテン、オクテン、ノネン等が挙げられる。上記以外にシクロペンタン、メチルシクロペンタン、シクロヘキサン等のシクロパラフィン、シクロペンテン、メチルシクロペンテン、シクロヘキセン等のシクロオレフィン類、及び/又は、シクロヘキサジエン、ブタジエン、ペンタジエン、シクロペンタジエン等のジエン類やアセチレン、メチルアセチレン等のアセチレン類を含んでいてもよい。さらに、t−ブチルアルコール、メチル−t−ブチルエーテル、ジエチルエーテル、メチルエチルエーテル、ジメチルエーテル、エタノール、メタノール等の含酸素化合物が含まれていてもよい。また、エチレンを含有する炭化水素原料は、水、水素、窒素、二酸化炭素、一酸化炭素等を含んでいてもよい。
【0061】
エタンを水蒸気の存在下で熱分解する、いわゆるエタンのスチームクラッキング法によって生成する反応生成物には、エチレンの他に未反応エタン及びアセチレン等の炭化水素と水、水素、二酸化炭素、一酸化炭素等が含まれるが、この反応生成物は、そのまま原料として用いることができる。
【0062】
バイオマスエタノールは植物資源から得られるエタノールであり、具体的にはサトウキビやトウモロコシ等の発酵により得られるエタノールや廃材、間伐材、稲わら、農作物等の木質資源から得られるエタノール等が挙げられる。
【0063】
反応生成物から蒸留分離等の方法によりプロピレンを分離し、残りのエチレンを含む低沸成分及び/又はブテンを含む高沸成分の少なくとも一部を反応器にリサイクルしてもよい。
【0064】
流動層反応においては、エチレンを含有する炭化水素原料の接触転化反応をエチレンの転化率が45〜85%、好ましくは50〜80%となる範囲で実施する。
【0065】
流動層反応における反応温度は、好ましくは300〜650°C、より好ましくは400〜600°Cの範囲である。反応圧力は、好ましくは0.1〜30気圧、より好ましくは0.5〜10気圧の範囲である。
【0066】
エチレンを含有する炭化水素原料の供給速度は、シリカ成形体中のゼオライト基準の重量時間空間速度(WHSV)で、0.1〜20hr−1、より好ましくは0.5〜10hr−1である。
【0067】
シリカ成形体を触媒として長期間反応に用いると、触媒上に炭素質化合物(コーク)が生成し、触媒活性が低下することがある。その場合、流動層反応器からシリカ成形体触媒の一部を連続的又は断続的に抜出し、酸素を含むガスを用いて付着したコークを燃焼除去させることによってシリカ成形体触媒の再生を行い、再生後のシリカ成形体触媒を反応器に戻すことができる。通常、上記の再生は、空気中又は空気と不活性ガスよりなる混合ガス中、400〜700°Cの条件で実施する。
【実施例】
【0068】
以下に実施例を示して、本発明をより詳細に説明するが、本発明は以下に記載の実施例によって制限されるものではない。
[測定方法]
物性の測定方法は以下の通りである。
(1)シリカ成形体の組成
シリカ成形体の組成は、蛍光X線定量分析を行って算出した。ケイ素、アルミニウム、リンの各元素の固有X線量から、ケイ素、アルミニウム、リンのモル数を決定し、シリカ成形体の組成を求めた。
ゼオライト重量に対するシリカの重量比を示すA
=(60x−30Fy)/(51y+30Fy)
ゼオライトとシリカの合計重量に対するリン元素の重量比を示すB
=31z/((51y+30Fy)+(60x−30Fy))
(式中、xはシリカ成形体中のケイ素のモル数、yはシリカ成形体中のアルミニウムのモル数、zはシリカ成形体中のリンのモル数、FはゼオライトのSiO/Alモル比である)
(2)シリカ成形体の摩耗損失
シリカ成形体の耐摩耗性の指標である摩耗損失は、噴流式流動装置を用いて測定した。噴流式流動装置は、ガス導入口に0.4mm孔三個を有するオリフィスを設置した内径35mm長さ700mmの粉体上昇部、内径110mm長さ600mmの粉体分離部、微粉末捕集部とからなる。室温で水分2.5gを含むシリカ成形体52.5gを投入後、蒸気圧相当量の水分を含む空気を空塔線速度10cm/秒でガス導入口から流し、測定開始後0〜5時間及び5〜20時間に微粉末捕集部に回収されたシリカ成形体微粉末重量を測定し、下式に従って、摩耗損失を求めた。
摩耗損失(重量%)=D/(E−C)×100
(式中、Dは測定開始後0〜5時間に摩耗逃散したシリカ成形体重量(g)、Eは測定開始後5〜20時間に摩耗逃散したシリカ成形体重量(g)、Cは試験に供したシリカ成形体重量(g)である。)
(3)シリカ成形体の安息角
シリカ成形体の安息角は、PT−D型パウダテスタ(ホソカワミクロン株式会社製)を用いて測定した。具体的には、内径5mmのノズルのある漏斗を水平基板から225mmの位置に漏斗上部、135mmの位置にノズル下部が来るように保持器を用いて設置し、ノズル下部から75mmの位置に粉体捕集台を置いた。振動を与えないように注意しながら漏斗にシリカ成形体を静かに注ぎ、粉体捕集台上に形成された円錐状の粉体層の斜面が水平面となす角を測定した。同様の実験を3回繰り返し、その測定角の平均値を安息角とした。
(4)シリカ成形体の嵩密度
JIS規格Z−2504かさ比重測定器(筒井理化学器械株式会社製)を用い、付属のマニュアルに従い、嵩密度を測定した。
(5)シリカ成形体の形状
シリカ成形体の形状は、電子顕微鏡(SEM、株式会社日立製作所製S−800)で観察した。
(6)ゼオライトの平均粒子径
レーザー回折・散乱式粒度分析計(Microtrac社製MT3000)を用い、付属のマニュアルに従い、ゼオライトの平均粒子径を測定した。
(7)ゼオライトの凝集状態
電子顕微鏡(SEM、株式会社日立製作所製S−800)を用い、得られた視野像からゼオライトの凝集状態を下式により算出し、凝集割合が50%以下のゼオライトを非凝集ゼオライトとした。
凝集割合=他の1次粒子と部分的に結合しているゼオライト粒子の個数/任意のゼオライト粒子100個×100
(8)エチレン転化率及びプロピレン収率
(a)エチレン転化率=
(反応器入口の供給流中のエチレン濃度−反応器出口の供給流中のエチレン濃度)
/反応器入口の供給流中のエチレン濃度×100
(b)プロピレン収率=
反応生成したプロピレン量/反応転化したエチレン量×100
【0069】
(実施例1)
シリカ一次粒子の平均粒子径が5nmであるアンモニウム安定型シリカゾル3333g(シリカ15重量%)にリン酸77g、非凝集ゼオライト(MFI型ZSM−5、SiO/Alモル比=27、平均粒子径2.9μm、ゼオライトの凝集割合10%以下、)500gを添加し、室温大気下で2時間撹拌した。この原料混合物のpHは2.3であった。回転円盤式噴霧乾燥機の熱風入口温度が約180°C、熱風出口温度が約100°Cに維持されるように乾燥空気を導入しながら、得られた原料混合物を供給速度12Kg/hr、回転円盤回転数12000rpmで噴霧乾燥した。得られた乾燥粉体を大気下700°Cで2時間マッフル炉にて静置焼成して、ゼオライト/シリカ/リン=1/A/B(A=1、B=0.024)の組成を有するシリカ成形体を得た。得られたシリカ成形体の摩耗損失、安息角、嵩密度を測定した。測定結果を表1に示す。
また、得られたシリカ成形体を電子顕微鏡(SEM)で観察したところ、平滑な表面を有する球状粒子であり、割れや欠けはほとんど見られなかった。粒子のSEM像を図1に示す。
【0070】
(実施例2)
実施例1で得られたシリカ成形体の水洗浄を以下にように行った。シリカ成形体の濃度が10重量%となるように水を加え、得られたシリカ成形体スラリーを室温大気下で1時間撹拌した。シリカ成形体を濾取し、大気下120°Cで5時間乾燥させ、ゼオライト/シリカ/リン=A/B(A=1、B=0.019)の組成を有するシリカ成形体を得た。得られたシリカ成形体の摩耗損失、安息角、嵩密度を実施例1と同様に測定した。測定結果を表1に示す。
また、得られたシリカ成形体を電子顕微鏡(SEM)で観察したところ、平滑な表面を有する球状粒子であり、割れや欠けはほとんど見られなかった。粒子のSEM像を図2に示す。
【0071】
(実施例3)
シリカゾル3333gに代えて9999g、リン酸77gに代えて228gを用い、得られた乾燥粉体を大気下、850°Cで5時間静置焼成したこと以外は実施例1と同様の方法により、ゼオライト/シリカ/リン=1/A/B(A=3、B=0.036)で示される組成を有するシリカ成形体を得た。得られたシリカ成形体の摩耗損失、安息角、嵩密度を実施例1と同様に測定した。測定結果を表1に示す。
また、得られたシリカ成形体を電子顕微鏡(SEM)で観察したところ、平滑な表面を有する球状粒子であり、割れや欠けはほとんど見られなかった。
【0072】
(実施例4)
リン酸77gに代えて38gを用いたこと以外は、実施例1と同様の方法により、ゼオライト/シリカ/リン=A/B(A=1、B=0.012)で示される組成を有するシリカ成形体を得た。得られたシリカ成形体の摩耗損失、安息角、嵩密度を実施例1と同様に測定した。測定結果を表1に示す。
また、得られたシリカ成形体を電子顕微鏡(SEM)で観察したところ、平滑な表面を有する球状粒子であり、割れや欠けはほとんど見られなかった。
【0073】
(実施例5)
実施例1で得られた乾燥粉体を大気下600°Cで5時間静置焼成してシリカ成形体を得た。得られたシリカ成形体の摩耗損失、安息角、嵩密度を実施例1と同様に測定した。測定結果を表1に示す。
また、得られたシリカ成形体を電子顕微鏡(SEM)で観察したところ、球状で、平滑な表面を有する球状粒子であり、割れや欠けはほとんど見られなかった。
【0074】
(実施例6)
実質的にアルミニウムを含まないハイシリカゼオライトである非凝集ゼオライト(MFI型ZSM−5、SiO/Alモル比=1000、平均粒子径3.7μm、ゼオライトの凝集割合40%以下)500gを用いたこと以外は、実施例1と同様の方法により、ゼオライト/シリカ/リン=1/A/B(A=1、B=0.024)で示される組成を有するシリカ成形体を得た。得られたシリカ成形体の摩耗損失、安息角、嵩密度を実施例1と同様に測定した。測定結果を表2に示す。
また、得られたシリカ成形体を電子顕微鏡(SEM)で観察したところ、平滑な表面を有する球状粒子であり、割れや欠けはほとんど見られなかった。図3にSEM像を示す。
【0075】
(実施例7)
リン酸26gを用いたこと以外は、実施例1と同様の方法により、ゼオライト/シリカ/リン=1/A/B(A=1、B=0.008)で示される組成を有するシリカ成形体を得た。得られたシリカ成形体の摩耗損失、安息角、嵩密度を実施例1と同様に測定した。測定結果を表2に示す。
また、得られたシリカ成形体を電子顕微鏡(SEM)で観察したところ、平滑な表面を有する球状粒子であり、割れや欠けはほとんど見られなかった。
【0076】
(実施例8)
非凝集ゼオライト(MFI型ZSM−5、SiO/Alモル比=42、平均粒子径4.7μm、ゼオライトの凝集割合40%以下)500g、シリカ一次粒子の平均粒子径が12nmのアンモニウム安定型シリカゾル1667g(シリカ30重量%)を用い、得られた乾燥粉体を大気下700°Cで5時間静置焼成したこと以外は、実施例1と同様の方法により、ゼオライト/シリカ/リン=1/A/B(A=1、B=0.024)で示される組成を有するシリカ成形体を得た。得られたシリカ成形体の摩耗損失、安息角、嵩密度を実施例1と同様に測定した。測定結果を表2に示す。
【0077】
(実施例9)
シリカ一次粒子の平均粒子径が20nmであり、粒径分布が10〜40nmの広い粒径分布を持つカリウム安定型シリカゾル1667g(シリカ30重量%)を用い、得られた乾燥粉体を大気下700°Cで2時間静置焼成したこと以外は、実施例1と同様の方法により、ゼオライト/シリカ/リン=1/A/B(A=1、B=0.024)で示される組成を有するシリカ成形体を得た。得られたシリカ成形体の摩耗損失、安息角、嵩密度を実施例2と同様に測定した。測定結果を表1に示す。
【0078】
(実施例10)
リン酸16gを用い、得られた乾燥粉体を大気下850°Cで5時間静置焼成したこと以外は、実施例1と同様の方法により、ゼオライト/シリカ/リン=1/A/B(A=1、B=0.005)で示される組成を有するシリカ成形体を得た。得られたシリカ成形体の摩耗損失、安息角、嵩密度を実施例2と同様に測定した。測定結果を表1に示す。
また、得られたシリカ成形体を電子顕微鏡(SEM)で観察したところ、平滑な表面を有する球状粒子であり、割れや欠けはほとんど見られなかった。
【0079】
(実施例11)
非凝集ゼオライト(ベータゼオライト、SiO/Alモル比=40、平均粒子径5μm、ゼオライトの凝集割合40%以下)500gを用い、得られた乾燥粉体を大気下850°Cで5時間静置焼成したこと以外は、実施例1と同様の方法により、ゼオライト/シリカ/リン=1/A/B(A=1、B=0.024)で示される組成を有するシリカ成形体を得た。得られたシリカ成形体の摩耗損失、安息角、嵩密度を実施例1と同様に測定した。測定結果を表3に示す。
また、得られたシリカ成形体を電子顕微鏡(SEM)で観察したところ、平滑な表面を有する球状粒子であり、割れや欠けはほとんど見られなかった。
【0080】
(比較例1)
非凝集ゼオライトに代えて平均粒子径15μmの凝集したゼオライト(MFI型ZSM−5、SiO/Alモル比=27、ゼオライトの凝集割合80%以上)を用い、得られた乾燥粉体を大気下850°Cで5時間静置焼成したこと以外は、実施例1と同様の方法により、ゼオライト/シリカ/リン=1/A/B(A=1、B=0.024)で示される組成を有するシリカ成形体を得た。得られたシリカ成形体の安息角、嵩密度を実施例1と同様に測定した。測定結果を表4に示す。
また、開始後5時間の摩耗損失を下記式から求めたところ、31重量%と大きく、機械的強度に著しく劣ることが明らかになったため、摩耗損失試験は5時間で終了した。
開始後5時間の摩耗損失(重量%)=A/B×100
(式中、Aは0〜5時間後に摩耗逃散したシリカ成形体の重量(g)、Bは試験に供したシリカ成形体の重量(g)である。)
また、得られたシリカ成形体を電子顕微鏡(SEM)で観察したところ、凹凸状の表面でかつ開孔部が存在する粒子で、割れ、欠けが観察された。粒子のSEM像を図4に示す。
【0081】
(比較例2)
リン酸77gを含むリン酸水溶液500gに、比較例1で用いたゼオライト500gを添加し、室温大気下で2時間撹拌後、水を蒸発乾固させ、大気下120°Cで5時間乾燥し、次いで、大気下600°Cで3時間焼成してリン酸含浸ゼオライトを調製した。得られたリン酸含浸ゼオライト500gを、実施例1で用いたシリカゾル3333gに添加し、実施例1と同様の方法により、ゼオライト/シリカ/リン=1/A/B(A=1、B=0.024)で示される組成を有するシリカ成形体を得た。得られたシリカ成形体の摩耗損失、安息角、嵩密度を実施例1と同様に測定した。測定結果を表4に示す。
【0082】
(比較例3)
比較例1で用いたゼオライト500gを、直径2cm及び2.5cmのSUS−304球(合計重量3Kg)の入った容積2900cmのSUS−304製ボールミルを用いて12時間処理したこと以外は、比較例1と同様の方法により、ゼオライト/シリカ/リン=1/A/B(A=1、B=0.024)で示される組成を有するシリカ成形体を得た。なお、ボールミル処理後のゼオライトの凝集割合は70%以上であった。得られたシリカ成形体の安息角、嵩密度を実施例1と同様に測定した。測定結果を表4に示す。
また、開始後5時間の摩耗損失が30重量%と大きく、機械的強度に著しく劣ることが明らかになったため、摩耗損失試験は5時間で終了した。
【0083】
(比較例4)
平均粒子径4.7μmのゼオライト(SiO/Alモル比42)に代えて15μmの凝集したゼオライト(SiO/Alモル比=27、ゼオライトの凝集割合80%以上)を用いたこと以外は、実施例8と同様の方法により、ゼオライト/シリカ=1/1で示される組成を有するシリカ成形体を得た。得られたシリカ成形体の安息角、嵩密度を実施例1と同様に測定した。測定結果を表4に示す。
また、開始後5時間の摩耗損失が42重量%と大きく、機械的強度に著しく劣ることが明らかになったため、摩耗損失試験は5時間で終了した。
得られたシリカ成形体を電子顕微鏡(SEM)で観察したところ、凹凸状の表面でかつ開孔部が存在する粒子で、割れ、欠けが観察された。粒子のSEM像を図5に示す。
【0084】
[プロピレンの製造]
(実施例12)
実施例1で得られたシリカ成形体25g内径1インチのステンレス製流動層反応器に充填し、エチレン9.9g/hr、水素0.7g/hr、水4.9g/hr、窒素5.3g/minの流量で反応器に流通させ、反応温度550°C、反応圧力0.14MPaの条件で反応を行った。反応生成物の分析は反応器と直結したガスクロマトグラフィー(TCD−FID直列連結)で行った。反応開始後、所定時間における反応結果を表5に示す。
【0085】
【表1】

【0086】
【表2】

【0087】
【表3】

【0088】
【表4】

【0089】
【表5】

【0090】
表1〜表3の結果から明らかなように、本実施の形態のシリカ成形体(実施例1〜11)は、ゼオライト/シリカ/リンの組成が特定範囲に設定されており、かつ、特定の物性を有するゼオライトを含有しているため、摩耗損失が3重量%以下であり、耐摩耗性に優れていた。また、安息角、嵩密度に関しても好適な範囲内であり、流動層反応の触媒として、優れた形状、流動性及び強度を有していた。
また、本実施の形態のシリカ成形体を、流動層反応によりエチレン含有炭化水素原料からプロピレンを製造する際の触媒として用いた場合、エチレン転化率、プロピレン収率が共に良好であり、プロピレンを収率良くかつ安定に製造することが可能であった。
これに対して、比較例1〜4のシリカ成形体は、ゼオライトとして、凝集型のゼオライトを使用しているため、摩耗損失が大きく、耐摩耗性に劣るものであった。また、安息角、嵩密度に関しても、流動層反応の触媒として好適な範囲内にはなかった。
【産業上の利用可能性】
【0091】
本発明のシリカ成形体は、流動層反応用の触媒としての好適な物性を有しているため、流動層反応によりエチレン含有炭化水素原料からプロピレンを製造する際の触媒として用いることで、プロピレンを高転化率で収率良くかつ安定に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0092】
【図1】実施例1のシリカ成形体を、電子顕微鏡(倍率200倍)で観察した画像である。
【図2】実施例2のシリカ成形体を、電子顕微鏡(倍率200倍)で観察した画像である。
【図3】実施例6のシリカ成形体を、電子顕微鏡(倍率200倍)で観察した画像である。
【図4】比較例1のシリカ成形体を、電子顕微鏡(倍率200倍)で観察した画像である。
【図5】比較例3のシリカ成形体を、電子顕微鏡(倍率200倍)で観察した画像である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゼオライト、シリカ及びリンを含有し、下記式(I):
ゼオライト/シリカ/リン=1/A/B (I)
(式中、Aはゼオライト重量に対するシリカの重量比、Bはゼオライトとシリカの合計重量に対するリン元素の重量比を示し、0<A≦10、0<B≦0.05である。)
で表される組成を有するシリカ成形体であって、
前記ゼオライトは、SiO/Alモル比が15〜1000、平均粒子径が0.05〜10μmの非凝集型のゼオライトである、シリカ成形体。
【請求項2】
下記式(II)で表される摩耗損失が3重量%以下である、請求項1記載のシリカ成形体:
摩耗損失(重量%)=D/(E−C)×100 (II)
(式中、Cは0〜5時間に摩耗逃散したシリカ成形体の重量(g)、Dは5〜20時間に摩耗逃散したシリカ成形体の重量(g)、Eは試験に供したシリカ成形体の重量(g)を示す。)。
【請求項3】
安息角が20〜30°である、請求項1又は2記載のシリカ成形体。
【請求項4】
嵩密度が0.8〜1.2g/cmである、請求項1〜3のいずれか1項記載のシリカ成形体。
【請求項5】
以下の各工程:
(i)ゼオライト、シリカゾル及びリン化合物を混合して、原料混合物を調製する工程、
(ii)前記原料混合物を噴霧乾燥して乾燥粉体を得る工程、
を含む、シリカ成形体の製造方法であって、
前記ゼオライトは、SiO/Alモル比が15〜1000、平均粒子径が0.05〜10μmの非凝集型のゼオライトであり、
前記シリカゾルに含まれるシリカ一次粒子の平均粒子径が3〜50nmである、
シリカ成形体の製造方法。
【請求項6】
(iii)前記乾燥粉体を焼成する工程をさらに含む、請求項5記載のシリカ成形体の製造方法。
【請求項7】
前記リン化合物が水溶性リン化合物である、請求項5又は6記載のシリカ成形体の製造方法。
【請求項8】
前記水溶性リン化合物がリン酸である、請求項7記載のシリカ成形体の製造方法。
【請求項9】
請求項1〜4のいずれか1項記載のシリカ成形体を流動層反応触媒として用いるプロピレンの製造方法であって、
シリカ成形体と、エチレンを含有する炭化水素原料とを接触させる工程を含む、製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−221030(P2009−221030A)
【公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−64843(P2008−64843)
【出願日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】