説明

シリカ被覆金ナノロッド及びその製造方法

【課題】簡便かつ高収率で生産性が高く、不純物としてのシリカ粒塊が少ない非水系溶媒分散型シリカ被覆金ナノロッドを提供する。
【解決手段】CTAB(Cetyltrimethyl ammonium bromide)が吸着された金ナノロッド表面を、ポリアクリル酸を主成分とする高分子で被覆し、次いでシリカで被覆し、さらにその表面を少なくとも1つ以上の長鎖アルキル基を有する加水分解性ケイ素化合物で表面修飾したシリカ被覆金ナノロッド。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はケイ素で被覆された金ナノロッド及びその製造方法に関する。ここにいう「金ナノロッド」とは、棒状の形をした金ナノ粒子で、長軸方向と短軸方向の比(アスペクト比)が2〜20程度のものをいう。長軸方向と短軸方向のプラズモン共鳴周波数が異なり、長軸方向が長波長側、短軸方向が短波長側に観測され、アスペクト比を変えることにより共鳴波長を変えられるという特性を有しており、540nm程度から1100nm程度の近赤外までをカバーすることのできる材料である。
【背景技術】
【0002】
粒子径が数十nm程度の金属微粒子は特定波長において吸収特性を示すことから、広範な分野、例えば、色材分野、情報、通信分野(高密度メモリー、光スイッチング、情報タグ等)、環境分野(SERS等のセンシング技術、光触媒、モニタリング等)、医療分野(ドラッグデリバリーシステムへの応用、テーラーメイド医療等)、エネルギー分野(光電池等)で使用されている。そして、この金属微粒子は、高温で形状が変形するため、高温に耐えうるように、シリカで表面被覆されていることが多い。
【0003】
例えば、特許文献1には、ゲルマニウム、ゲルマニウム−インジウム合金又はゲルマニウム−ガリウム合金等の金属微粒子の表面に、シリカ前駆体(アルコキシシラン、ポリシラザン)の処理によりシリカ被膜を形成する技術が開示され、得られたシリカ被膜ゲルマニウム系微粒子は健康増進効果や治療効果を発揮すると記載されている。
特許文献2には、蒸着法、一般的なゾル−ゲル反応で粒子状又は膜上の金属にシリカ等を被覆を形成する技術が開示され、得られたシリカ被膜金属が蛍光体の蛍光強度の補強に有効であると記載されている。
特許文献3には、金粒子、顔料粒子、テトラアルコキシシラン及び/又はその予備縮合体、アルコール系媒体、分散剤からなる着色コーティング液組成物において、テトラアルコキシシランおよびその予備縮合体は熱時縮合反応によりゾル状態を経由してゲル状態のシリカに変化し、このシリカが金粒子も表面を被覆する技術が開示され、そして、この着色コーティング液組成物は透明で美麗な均一コート層を形成することができると記載されている。
特許文献4には、一般的なゾル−ゲル反応で表面にシリカ層が形成されたシリカ被覆金属微粒子と、溶剤と、バインダーとを含む透明導電膜形成用塗料が開示され、この塗料を用いて形成された透明導電膜は透明性、導電性、帯電防止性、電磁波遮蔽性に優れると記載されている。
特許文献5には、金微粒子の水分散液または水と有機溶媒混合分散液に界面活性剤/アルカリ条件下で酸性珪酸液またはシリカゾルを反応させ、金微粒子をシリカ被覆する技術が開示され、シリカ被覆金微粒子は鮮明で透明感のある赤色を維持することができ、耐熱性に優れた赤色顔料として有用であると記載されている。
特許文献6には、金属微粒子にシランカップリング剤の処理により表面修飾した後、珪酸アルカリ溶液または珪酸アルコキシド溶液でシリカ被膜を形成する技術が開示され、このシリカ被膜金属微粒子が電磁波遮蔽性等に優れた透明導電膜として有用であると記載されている。
特許文献7には、誘電体微粒子を加水分解性ケイ素化合物(加水分解性基が2以上)のゾル−ゲル反応でシリカ被覆する技術が開示され、このシリカ被覆誘電体微粒子は耐電圧特性の良好な誘電体層を形成することができると記載されている。
【0004】
しかしながら、これら特許文献1〜7には、金属微粒子へのシリカ被覆技術は開示されているが、金ナノロッドのシリカ被覆技術は開示されていない。
【0005】
ところで、金ナノ微粒子である金ナノロッドは、既述のとおり、局所表面プラズモン共鳴による高い吸収特性を示し、その特性は金ナノロッドのアスペクト比に大きく依存していることから、光学特性を活かしたナノ材料として上記の広範な分野で使用されている。ここで、プラズモンとは、金属中の自由電子が集団的に振動している粒子のことであるが、金属微粒子(ナノメートルオーダーの金属微粒子)ではプラズモンが表面に局在することになるので、局在(表面)プラズモンと呼ばれる。
近年は、金ナノロッドを利用するナノフォトニクス技術(ナノ領域における光制御、周辺環境にたいする高感度なセンシング機能、ナノ空間における光インターフェイス機能等)についての研究が盛んになされている。
【0006】
金ナノロッドは形状的には特に熱力学的に不安定であり、光吸収(J. Phys. Chem. B,103, 1165 (1999))や熱(J. Phys. Chem. B, 102, 9370 (1998))による球形への形状変化が報告されている。光吸収の場合も基本的には光吸収後の電子−格子緩和過程で発生する熱による変形であり、より安定な構造である球状粒子への変形は自然な現象である。
そのため高温下では球形のナノ粒子に熱変形し、金ナノロッドの持つ特異な長波長域の表面プラズモン共鳴も消失し、その特異な光学特性を適用できる技術領域が限定される。その問題点を解決するために金ナノロッドにシリカ被覆する技術が検討されている。
【0007】
金ナノロッドを製造する方法としては、電解法、化学還元法、光還元法が従来知られている。
非特許文献1には、カチオン性界面活性剤を含む水溶液を定電流電解し、陽極の金板などから金クラスターを溶脱させて金ナノロッドを生成する電解法が記載されている。
非特許文献2には、化学還元法(非特許文献2)は、NaBH4によって塩化金酸を還元して金ナノ粒子を生成させ、この金ナノ粒子を「種粒子」とし溶液中で成長させることによって金ナノロッドを得る化学還元法が記載されている。
非特許文献3には、電解法とほぼ同じ溶液に塩化金酸を添加し、紫外線照射により塩化金酸を還元する光還元法が記載されている。
特許文献8には、金属塩溶液に還元剤を添加し、この還元剤を含む金属塩溶液に光照射し、光照射した上記金属塩溶液を分取し、分取した上記金属塩溶液を光照射しない上記還元剤含有金属塩溶液に混合した後、この混合溶液を暗所に静置して金属ナノロッドを成長させる金属ナノロッドの製造が開示され、これのよれば金属ナノロッドを効率よく製造することができると記載されている。
特許文献9には、還元能を有するアミン類と、還元能を有さないアンモニウム塩とを含有する水溶液を用い、該アンモニウム塩の存在下で上記アミン類によって金属イオンを還元してロッド状の金属微粒子の製造する技術が開示され、この製造方法によれば、金属ナノロッドを簡易にかつ大量に製造することができると記載されている。
【0008】
しかしながら、これら非特許文献1〜3及び特許文献8、9には、金ナノロッドのシリカ被覆技術は開示されていない。また、上記の金ナノロッド合成の従来技術例で示した合成法では、金ナノロッドはCTAB(Cetyltrimethyl ammonium bromide)で保護された水分散液として得られるが、この分散液にアルコールを添加すると瞬時に金ナノロッドは凝集し、上記公知技術で開示されているアルコールを用いる通常のゾル−ゲル法では金ナノロッド表面上へシリカ被膜を形成することはできない。
【0009】
もっとも非特許文献4には、CTAB(Cetyltrimethyl ammonium bromide)で保護された金ナノロッド水分散液を、(1)PSS(Poly(styrene sulphonate))被覆した後に遠心分離で回収し、(2)PAH(Poly(allylamine hydrochloride))被覆した後に遠心分離で回収し、(3)PVP(Poly(vinylpyrrolidone))被覆した後に遠心分離で回収をし、(4)TEOS(Tetraethylorthosilicate)のゾル−ゲル法でシリカ被覆し、(5)OTMS(Octadecyltrimethyl ammonium bromide)でシリカ表面を修飾して、非水系溶媒分散型シリカ被覆金ナノロッドを得る方法が記載されている。
【0010】
【特許文献1】特許第3906137号公報
【特許文献2】特表2005−524084号公報
【特許文献3】特開2002−161237号公報
【特許文献4】特開2002−138222号公報
【特許文献5】特開2003−342496号公報
【特許文献6】特開2004−179139号公報
【特許文献7】特開2007−145675号公報
【特許文献8】特開2005−097718号公報
【特許文献9】特開2006−118036号公報
【非特許文献1】J.Phys,Chem.B,101,6661(1997)
【非特許文献2】J.Phys,Chem.B,105,4065(2001)
【非特許文献3】J.Am.Chem.Soc.,124,14316(2002)
【非特許文献4】Chem.Mater.,Vol.18 No.10(2006)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記のように、金属微粒子のシリカ被覆技術は多々開示されているが、その技術を転用しただけでは金ナノロッドにシリカ被覆することはできない。また、非特許文献4にはシリカ被覆金ナノロッドが記載されているが、この技術では、(a)合成工程(下処理工程(PSS、PAH、PVP3層)が3工程、シリカ被覆工程、次いで表面処理工程の都合5工程)が長いこと、及び遠心分離の回収率が低いことからシリカ被覆金ナノロッド合成の総収率が極めて低い。(b)下処理工程の金ナノロッド最外殻表面はPVP層であり、TEOS及びその縮合物との相互作用は物理吸着しているに過ぎない。従ってTEOSの縮合反応が金ナノロッドの表面で起こる以外に、反応液中でもTEOS間で縮合反応が生じてシリカ粒塊を形成し、コンタミの原因となっている。さらに表面処理工程で使用されるOTMSも三次元架橋構造の形成能があるため、シリカ被覆膜の表面処理以外に同様に反応液中でもシリカ粒塊を形成し、やはりコンタミの原因となっている、等の問題点がある。
このように現在までのところ、簡便かつ高収率で生産性が高く、不純物としてのシリカ粒塊が少ない非水系溶媒分散型シリカ被覆金ナノロッド及びその合成法に関する技術は未だ開示されていないのが実情である。
【0012】
本発明の目的は、かかる状況に鑑みて、被覆膜強度及び熱安定性が高く、工業的用途として扱い易い非水系溶媒分散型シリカ被覆金ナノロッドを提供することである。本発明の他の目的は、簡便かつ高収率で生産性が高く、不純物としてのシリカ粒塊が少ない非水系溶媒分散型シリカ被覆金ナノロッド及びその合成法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは鋭意検討した結果、公知の合成法で得られる金ナノロッドを、特定の高分子により被覆後、次いでシリカを被覆し、さらに特定の表面処理剤で処理することにより、上記課題が解決されることを見出し本発明に至った。即ち、本発明はつぎのとおりのものである。
【0014】
請求項1に記載の発明は、CTAB(Cetyltrimethyl ammonium bromide)が吸着された金ナノロッド表面を、分子量が25000以上のポリアクリル酸を主成分とする高分子で被覆し、次いでシリカで被覆し、さらにその表面を少なくとも1つ以上の長鎖アルキル基を有する加水分解性ケイ素化合物で表面修飾したことを特徴とするシリカ被覆金ナノロッドである。
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のシリカ被覆金ナノロッドにおいて、前記ポリアクリル酸を主成分とする高分子被覆膜表面と共有結合を介して前記シリカ被覆膜が形成されていることを特徴とする。
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載のシリカ被覆金ナノロッドにおいて、前記長鎖アルキル基を有する加水分解性ケイ素化合物の長鎖アルキル基が炭素数10以上のアルキル基であることを特徴とする。
請求項4に記載の発明は、請求項1〜3のいずれかに記載のシリカ被覆金ナノロッドにおいて、前記長鎖アルキル基を有する加水分解性ケイ素化合物の加水分解性基の個数が2以下であることを特徴とする。
【0015】
請求項5に記載の発明は、CTAB(Cetyltrimethyl ammonium bromide)で保護された金ナノロッド水分散液を、(1)分子量が25000以上のポリアクリル酸を主成分とする高分子水溶液に添加して該保護された金ナノロッドをポリアクリル酸を主成分とする高分子で被覆する工程、(2)該ポリアクリル酸を主成分とする高分子で被覆された金ナノロッド分散液を、加水分解性ケイ素化合物又はそのオリゴマーのアルコール溶液に混合し、該加水分解性ケイ素化合物の加水分解・重縮合反応で該ポリアクリル酸を主成分とする高分子で被覆された金ナノロッドにシリカ被覆する工程、(3)少なくとも1つ以上の長鎖アルキル基を有する加水分解性ケイ素化合物で、該ポリアクリル酸を主成分とする高分子及びシリカで被覆された金ナノロッドの該シリカ被膜を表面修飾する工程、からなることを特徴とするシリカ被覆金ナノロッドの製造方法である。
請求項6に記載の発明は、請求項5に記載のシリカ被覆金ナノロッドの製造方法において、前記加水分解性ケイ素化合物が、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン又はテトライソプロポキシシランであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、(i)熱的な安定性が高いため高温下の技術領域でも使用でき、(ii)シリカ被覆膜が共有結合を介して形成されているため被膜強度が高く、(iii)工業用途として扱いやすい非水溶媒分散型の、シリカ被覆金ナノロッドが得られた。
また、合成工程(下処理工程(PA層)+シリカ被覆工程+表面処理の3工程)が短いため総収率が高く、コンタミとなるシリカ粒塊が少ない、非水系溶媒分散型シリカ被覆金ナノロッドの合成が可能となった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下に本発明をさらに詳細に説明する。
【0018】
先ず、シリカ被覆金ナノロッドについて説明する。
本発明のシリカ被覆金ナノロッドは、公知の合成法で作られるCTAB(Cetyltrimethyl ammonium bromide)が吸着した金ナノロッド表面を、分子量が25000以上のポリアクリル酸を主成分とする高分子、次いでシリカで被覆し、さらにその表面を少なくとも1つ以上の長鎖アルキル基を有する加水分解性ケイ素化合物で表面修飾した(非水系溶媒分散型)シリカ被覆金ナノロッドである。
【0019】
CTAB(Cetyltrimethyl ammonium bromide)で保護された金ナノロッドは水中では正に帯電し、水溶液中で負の電荷を持つポリアクリル酸イオンと静電的に物理吸着し、被覆過程が進行する。そのためポリアクリル酸被覆層の厚さは、合成した状態のCTABで保護された金ナノロッドのゼータ電位や使用するポリアクリル酸のイオン数でほぼ一義的に決定されるため、限定的ではない。
【0020】
ポリアクリル酸はカルボキシル基を多数有しているため、カルボキシル基は水中でイオン化し、ポリマー部は負に帯電し、正に帯電したCTABで保護された金ナノロッドと静電的に物理吸着し、被覆過程が進行する。さらに、ポリアクリル酸はカルボキシル基を多数持つために非常に親水性が高く、次のシリカ被覆工程の反応溶媒であるアルコールにも可溶となり、シリカ被覆反応が均一系で効率良く進行する。
ポリアクリル酸の分子量としては、25000以上が好ましく、それ以下ではポリアクリル酸で被覆した金ナノロッドの分散安定性が低く水中で凝集し易くなる。凝集すると金ナノロッドに特有の長波長域のプラズモン共鳴吸収が消失する。また、ポリアクリル酸の分子量の上限は特に制限されない。
【0021】
上記の分散安定性を向上させるために、CTABで保護された金ナノロッドとの分散安定性の高い高分子を混合することができる。混合する高分子例としては、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カチオン化セルロース、天然由来のデンプン、ゼラチン、メチルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリアクリルアミド、ポリエチレンオキシド、ポリスチレンスルホン酸、ポリビニルスルホン酸、ポリビニルピロリドン等が挙げられる。
【0022】
この様にして得たポリアクリル酸を主成分とする高分子で被覆した金ナノロッド表面には多数のカルボン酸基が存在している状態になっている。
【0023】
シリカ層被覆は加水分解性ケイ素化合物から形成され、加水分解性ケイ素化合物は、下記の一般式(1)
SiR(A)4−n (1)
で表される。ここで、nは整数である。
【0024】
上記一般式(1)において、Rは置換されていてもよい炭化水素基を表し、炭素数6以下の置換されていてもよい炭化水素基が好ましい。炭化水素基としては、アルキル基及びアルケニル基が好ましい。アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、及びヘキシル基等が挙げられ、メチル基及びエチル基が特に好ましい。
【0025】
また上記一般式(1)において、Aは加水分解性基を表す。加水分解基とは、加水分解反応を受けて、シラノール基を生成する基であり、ケイ素原子に直結する酸素原子や窒素原子を有する有機基、ハロゲン原子、アミノ基等が好ましく、具体的にはアルコキシ基、アシロキシ基、ハロゲン原子、及びイソシアネート基等が挙げられる。これらのうち、アルコキシ基及びハロゲン原子が好ましく、アルコキシ基が特に好ましい。アルコキシ基としては、炭素数1〜4のアルコキシ基が好ましい。該アルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、n−プロピルオキシ基、n−ブチルオキシ基等が挙げられ、メトキシ基又はエトキシ基が好ましい。ハロゲン原子としては、塩素原子が好ましい。また、上記一般式において、Aが複数ある場合、同一の基であっても異なる基であってもよいが、加水分解反応が進行する速度が均一であり、加水分解反応の制御が容易であることから、同一の基であることが好ましい。
【0026】
上記一般式(1)の加水分解性基(A)の加水分解・重縮合反応により、ケイ素酸化物(シリカ)が成長し金ナノロッドが被膜される。
【0027】
三次元的に緻密なシリカ被膜を形成するためには、上記一般式(1)においてnは0〜1の整数であることが好ましい。nが2以上の場合は、安定して三次元的に緻密なシリカ被膜が成長しにくく、低分子量の小さなシリカ被膜や二次元的なシリカ被膜等が形成し易くなる。
【0028】
このような加水分解性ケイ素化合物の具体例としては、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトライソプロポキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルイソプロポキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、γ−クロロプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシランが挙げられるが、炭素数が大きくなると加水分解反応速度が遅くなるため、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトライソプロポキシシランが特に好ましく用いられる。
【0029】
シリカ被覆層の厚さは、均一かつ安定してシリカ被膜を形成するには1〜100nmにあることが好ましい。金ナノロッドがシリカで被覆されていると、製造および使用時に高温の熱履歴を受けても凝集や熱変形が抑制され、変色のない鮮明で透明感のあるプラヅモン共鳴吸収が維持される。シリカ被覆層の厚さが2nm未満の場合は、凝集抑制効果、耐熱性が不充分となり耐環境性に十分な効果が得られず、シリカ被覆層の厚さが50nmを越えると、シリカ被覆層による光の散乱が顕著となり、鮮明で透明感のあるプラズモン共鳴吸収が損なわれ、プラズモン共鳴吸収を応用する技術分野では特に2〜50nmであることが好ましい。
【0030】
本発明の材料構成で注目すべきは、ポリアクリル酸被覆層上にシリカ被覆層が形成されることである。上記ケイ素化合物の加水分解性基は、存在する水又は添加された水と加水分解反応しシラノール基を形成し、このシラノール基が先に述べたようにポリアクリル酸被覆層表面に多数存在するカルボン酸基と縮合反応する。さらにシラノール基同士、又はシラノール基と加水分解性基とが重縮合により、ポリアクリル酸被覆層と共有結合を介して高強度の接着力でシリカ被覆層が形成され、かつカルボン酸基と反応活性が高いため反応液中でのTEOS間の縮合反応により生じるシリカ粒塊が減少し、コンタミが低減される。
【0031】
このシリカ被覆層表面を少なくとも1つ以上の長鎖アルキル基を有する加水分解性ケイ素化合物で表面修飾することにより非水系溶媒に分散可能なシリカ被覆金ナノロッドとなる。
【0032】
少なくとも1つ以上の長鎖アルキル基を有する加水分解性ケイ素化合物は、下記の一般式(2)
SiR4−m(A) (2)
で表され、mは1〜2の整数であることが好ましい。Aは前記一般式(1)と同様の加水分解性基を表し、mが大きい程、反応液中での加水分解性ケイ素化合物間の縮合反応による三次元的に大きなネットワークのシリカ粒塊の生成し易い。mを2以下とすることで、三次元的に大きなネットワークのシリカ粒塊の生成量を抑えられ、アルコール可溶なケイ素化合物や低分子量の小さなシリカ粒塊が主として形成されるため、コンタミが低減される。
【0033】
上記一般式(2)において、Rはアルキル基を表し、非水系溶剤への分散性の観点から炭素数は10以上が好ましい。炭素数が10未満の場合、上記長鎖アルキル基を有する加水分解性ケイ素化合物で表面修飾したシリカ被覆金ナノロッドは、非水系溶剤中で凝集し、そのプラズモン吸収特性は消失する。
【0034】
アルキル基としては、デシル基、ドデシル基、テトラデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、及びオクタデシル基等が挙げられ、ヘキサデシル基及びオクタデシル基が時に好ましい。
が複数ある場合、同一の基であっても異なる基であってよい。
【0035】
1つ以上の長鎖アルキル基を有する加水分解性ケイ素化合物としては、デシルジメチルクロロシラン、デシルメチルジクロロシラン、デシルジメチルメトキシシラン、デシルジメチルエトキシシラン、ドデシルジメチルクロロシラン、ドデシルメチルジクロロシラン、ドデシルジメチルメトキシシラン、ドデシルメチルジメトキシシラン、ヘキサデシルジメチルクロロシラン、ヘキサデシルメチルジクロロシラン、ヘキサデシルジメチルメトキシシラン、ヘキサデシルジメチルエトキシシラン、ヘキサデシルジクロロシラン、オクタデシルジメチルクロロシラン、オクタデシルメチルジクロロシラン、オクタデシルジメチルメトキシシラン、オクタデシルジメチルエトキシシランが用いられるが、非水溶媒への分散性やコンタミの原因であるシリカ粒塊ができにくいヘキサデシルジメチルクロロシラン、ヘキサデシルジメチルメトキシシラン、オクタデシルジメチルクロロシラン、オクタデシルジメチルメトキシシランが好ましい。
【0036】
次に、シリカ被覆金ナノロッドの製造方法について述べる。
本発明のシリカ被覆金ナノロッドの製造方法は、CTAB(Cetyltrimethyl ammonium bromide)で保護された金ナノロッド水分散液を、(1)分子量が25000以上のポリアクリル酸を主成分とする高分子水溶液に添加して該保護された金ナノロッドをポリアクリル酸を主成分とする高分子で被覆する工程、(2)該ポリアクリル酸を主成分とする高分子で被覆された金ナノロッド分散液を、加水分解性ケイ素化合物又はそのオリゴマーのアルコール溶液に混合し、該加水分解性ケイ素化合物の加水分解・重縮合反応で該ポリアクリル酸を主成分とする高分子で被覆された金ナノロッドにシリカ被覆する工程、(3)少なくとも1つ以上の長鎖アルキル基を有する加水分解性ケイ素化合物で、該ポリアクリル酸を主成分とする高分子及びシリカで被覆された金ナノロッドの該シリカ被膜を表面修飾する工程、からなることを特徴とするシリカ被覆金ナノロッドの製造方法である。
【0037】
金ナノロッドの合成法は既知の湿式方法(例えば前記の非特許文献1等に記載される方法)を用いる。いずれの方法によっても、金ナノロッドは、CTAB(Cetyltrimethyl ammonium bromide)で保護された水分散液として合成される。
【0038】
次に、上記方法で得られた金ナノロッド水分散液を、必要に応じ遠心分離により余分な水及びCTABを除去した後に、ポリアクリル酸を主成分とする高分子水溶液を添加、撹拌し、CTABで保護された金ナノロッドを、ポリアクリル酸を主成分とする高分子で被覆する(工程1)。CTABで保護された金ナノロッドは水中では正に帯電し、水溶液中で負の電荷を持つポリアクリル酸イオンと静電的に物理吸着し、被覆過程が進行する。
上記分散液を、必要に応じ遠心分離により余分な水及び高分子を除去し、再度所定の濃度でアルコールに分散させ、次工程に進める。
【0039】
次に、上記で得られたポリアクリル酸で被覆した金ナノロッドアルコール分散液に、加水分解性ケイ素化合物又はそのオリゴマーのアルコール溶液、さらには必要に応じ、水、触媒を添加、混合し、加水分解・重縮合反応によりポリアクリル酸で被覆した金ナノロッドをシリカ被覆する(工程2)。
加水分解性ケイ素化合物の加水分解を促進させるため水が添加されても良く、また加水分解・重縮合反応を促進させるため従来技術で知られているアンモニア等でPHを調整することも有効である。
【0040】
加水分解性ケイ素化合物の加水分解・重縮合反応とは、加水分解性ケイ素化合物(一般に金属アルコキシド)を加水分解・重縮合反応により、酸化物を得る方法で、シリコンアルコキシドを例にとって化学反応式で示すと以下のようになる。(Rはアルキル基)
【0041】
【化1】

【0042】
【化2】

【0043】
本発明では、ポリアクリル酸被覆層表面に存在するカルボキシル基と共有結合を介してシリカ被覆層が形成され、シリカ被覆層が再現性よくかつ高強度の接着力で形成される。この間、一般にシリコンアルコキシド重合として知られているように反応系は塩基性に保たれている必要がある。この反応系において、反応速度、濃度分布を制御するために反応媒体の温度制御、撹拌を行ってもよい。
【0044】
金ナノロッド分散液中の金ナノロッドの濃度は0.1〜10重量%、さらには0.2〜5重量%の範囲にあることが好ましい。金ナノロッドの濃度が0.1重量%未満の場合は、シリカ被覆効率が低く、生産効率も低くなり好ましくない。一方、金ナノロッドの濃度が10重量%を越えると分散液の安定性が低下し、加水分解性ケイ素化合物を添加する際に金ナノロッドがゲル化したり、加水分解性ケイ素化合物がゲル化し、均一なシリカ被覆層を形成することができないことがある。
【0045】
上記分散液を、遠心分離により余分な水、アルコール、及び加水分解性ケイ素化合物を除去し、再度所定の濃度でアルコールに分散させ、次工程に進める。
【0046】
次に、上記で得られたシリカで被覆した金ナノロッドアルコール分散液に、少なくとも1つ以上の長鎖アルキル基を有する加水分解性ケイ素化合物又はそのオリゴマーのアルコール溶液、さらには必要に応じ、水、触媒を添加、混合し、金ナノロッドを被覆したシリカ表面を少なくとも1つ以上の長鎖アルキル基を有する加水分解性ケイ素化合物で表面修飾する(工程3)。
【0047】
この工程3における金ナノロッド分散液中の金ナノロッドの濃度も前記同様に0.1〜10重量%、さらには0.2〜5重量%の範囲にあることが好ましい。金ナノロッドの濃度が0.1重量%未満の場合は、表面修飾効率が低く、生産効率も低くなり好ましくない。一方、金ナノロッドの濃度が10重量%を越えると分散液の安定性が低下し、加水分解性ケイ素化合物を添加する際に金ナノロッドがゲル化したり、加水分解性ケイ素化合物がゲル化し、表面修飾層を形成することができないことがある。
【0048】
工程2及び工程3において用いるアルコールは、上記ケイ素化合物又はそのオリゴマーを溶解可能なものであれば特に限定されない。アルコール例としては、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ジアセトンアルコール、フルフリルアルコール、テトラヒドロフルフリルアルコール、エチレングリコール、ヘキシレングリコールなどのアルコール類などが挙げられる。これらの中でも、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、1−ブタノールなどのアルコール類が、金ナノロッドを安定して分散させる点で好ましい。
【0049】
なお、上記のアルコールに、酢酸メチルエステル、酢酸エチルエステルなどのエステル類、ジエチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテルなどのエーテル類、アセトン、メチルエチルケトン、アセチルアセトン、アセト酢酸エステルなどのケトン類;、メチルホルムアミド等のアミド類などを混合して使用してもよい。
【実施例】
【0050】
以下に実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を越えない限り、これら実施例によって制限されるものではない。
【0051】
(金ナノロッドの合成)
0.18M CTAB(Cetyltrimethyl ammonium bromide)水溶液500mlに、撹拌しながらシクロヘキサノン3.0ml、ジイソブチルケトン1.5ml、0.024M塩化金酸水溶液39.0ml、0.01M硝酸銀水溶液15.0mlを順次加え、さらに撹拌しながら0.1Mアスコルビン酸水溶液を塩化金酸の色が消失するまで滴下する。
上記溶液を、低圧水銀灯下で紫外線照射しながらさらに0.1Mスコルビン酸水溶液7mlを滴下し、CTABで保護された金ナノロッド水分散液を得た。
金ナノロッド水分散液の吸収スペクトルを図1に示す。図1より520nm近傍に短軸方向の、750nm近傍に長軸方向のプラズモン吸収を示す金ナノロッド状の特徴が見られる。
【0052】
〔ポリアクリル酸被覆金ナノロッド分散液の調製〕
上記合成法で得た金ナノロッド水分散液を、遠心分離(7000G、60min)及び超純水で再分散、2度繰り返し余分な水及びCTABを除去し、金ナノロッドの長波長域プラズモン吸収の吸光度が1.0(1.0mmの石英セル)となる濃度に超純水で再分散させる。
再分散させた金ナノロッド水分散液を、同量のポリアクリル酸水溶液(*)中に、撹拌しながら滴下し、さらに一昼夜撹拌を続けポリアクリル酸層を被覆した。
得られたポリアクリル酸被覆金ナノロッド水分散液を遠心分離(7000G、60min)により余分な水及びポリアクリル酸を除去し、得られた沈殿物の5倍量の2−プロパノールで再分散させる。
水溶液(*):ポリアクリル酸2.0g、NaCl 0.35g、HO 1000mlからなるポリアクリル酸水溶液
【0053】
〔実施例1〕
上記合成法で得た金ナノロッド水分散液を、遠心分離(7000G、60min)及び超純水で再分散、を2度繰り返し余分な水及びCTABを除去し、金ナノロッドの長波長域プラズモン吸収の吸光度が1.0(1.0mmの石英セル)となる濃度に超純水で再分散させる。
再分散させた金ナノロッド水分散液を、同量のポリアクリル酸(分子量:25000)/ポリビニルピロリドン(分子量:25000)混合水溶液(**)中に、撹拌しながら滴下し、さらに一昼夜撹拌を続けポリアクリル酸/ポリビニルピロリドン層を被覆した。
得られたポリアクリル酸/ポリビニルピロリドン被覆金ナノロッド水分散液を遠心分離(7000G、60min)して余分な水及びポリアクリル酸、ポリビニルピロリドンを除去し、得られた沈殿物の5倍量の2−プロパノールで再分散させる。
このポリアクリル酸/ポリビニルピロリドン被覆金ナノロッド2−プロパノール分散液5.0ml中に、アンモニア溶液(*) 6.0ml を撹拌しながら滴下し、その後、TEOS(Tetraethoxy Silane)溶液(*)1.0ml を撹拌しながら滴下し、さらに3時間撹拌を続けシリカ層を被覆した。
得られたシリカ被覆金ナノロッド2−プロパノール分散液を遠心分離(7000G、45min)して余分な水及びシリカ粒塊等を除去し、金ナノロッドの長波長域プラズモン吸収の吸光度が2.0(1.0mmの石英セル)となる濃度にエタノールで再分散させる。
このシリカ被覆金ナノロッドエタノール分散液3.0ml中に、アンモニア溶液(*)1.0mlを撹拌しながら滴下し、その後、n−オクタデシルジメチルメトキシシラン溶液(*)0.3mlを撹拌しながら滴下し、さらに一昼夜撹拌を続けシリカ層を表面修飾し、非水溶媒分散型シリカ被覆金ナノロッドを得た。
ポリアクリル酸/ポリビニルピロリドン被覆金ナノロッドの分散状態、シリカ被覆金ナノロッドの非水溶媒に対する分散性、シリカ粒塊の有無を表1に、及び得られたシリカ被覆金ナノロッドのTEM写真、トルエン分散液の吸収スペクトルを、それぞれ図2−(a)、図2−(b)、図3に示す。なお、図2−(b)は図2−(a)の一部拡大したものである。
・ポリアクリル酸/ポリビニルピロリドン混合水溶液(**):ポリアクリル酸1.43g、ポリビニルピロリドン0.57g、NaCl 0.35g、HO 1000ml
・アンモニア溶液(*):アンモニア水(33wt%水溶液)の3.84vol% 2−プロパノール溶液
・TEOS溶液(*):0.97vol% 2−プロパノール溶液
・n−オクタデシルジメチルメトキシシラン(C1837Si(Me)(OMe))溶液(*):2.5wt%クロロホルム溶液
【0054】
〔実施例2〕
実施例1のポリアクリル酸/ポリビニルピロリドン混合水溶液(**)の代わりに、ポリアクリル酸(分子量:25000)/ポリスチレンスルホン酸(分子量:70000)混合水溶液(**)を用いた以外は実施例1と同様にして、非水溶媒分散型シリカ被覆金ナノロッドを合成した。
ポリアクリル酸/ポリビニルピロリドン被覆金ナノロッドの分散状態、シリカ被覆金ナノロッドの非水溶媒に対する分散性、シリカ粒塊の有無を表1に、得られたシリカ被覆金ナノロッドのTEM写真を図4に示す。
・ポリアクリル酸/ポリスチレンスルホン酸混合水溶液(**):ポリアクリル酸1.43g、ポリスチレンスルホン0.57g、NaCl 0.35g、HO 1000ml
【0055】
〔実施例3〕
実施例1のポリアクリル酸水溶液(**)のポリアクリル酸(分子量:25000)の代わりに、ポリアクリル酸(分子量:250000)を用いた以外は実施例1と同様にして、非水溶媒分散型シリカ被覆金ナノロッドを得た。
ポリアクリル酸/ポリビニルピロリドン被覆金ナノロッドの分散状態、シリカ被覆金ナノロッドの非水溶媒に対する分散性を、シリカ粒塊の有無を表1に示す。
【0056】
〔実施例4〜6〕
実施例1のn−オクタデシルトリジメチルメトキシシラン溶液(*)の代わりに、n−オクタデシルメチルジメトキシシラン溶液(*)(実施例4)、n−ヘキサデシルジクロロシラン溶液(*)(実施例5)、n−デシルジメチルメトキシメトキシシラン溶液(*)(実施例6)を用いた以外は実施例1と同様にして、非水溶媒分散型シリカ被覆金ナノロッドを得た。
ポリアクリル酸/ポリビニルピロリドン被覆金ナノロッドの分散状態、シリカ被覆金ナノロッドの非水溶媒に対する分散性、シリカ粒塊の有無を表1に示す。
・n−オクタデシルメチルジメトキシシラン(C1837SiMe(OMe)溶液(*):2.5wt%クロロホルム溶液
・n−ヘキサデシルジクロロシラン(C1633SiH(Cl))溶液(*):2.5wt%クロロホルム溶液
・n−デシルジメチルメトキシシラン(C1021SiMe(OMe))溶液(*):2.5wt%クロロホルム溶液
【0057】
〔比較例1〕
公知技術(Chem. Mater.,Vol.18,No.10,2006)を用いシリカ被覆金ナノロッドを調整した。
上記“金ナノロッドの合成”で得た金ナノロッド水分散液を、遠心分離(7000G、60min)及び超純水で再分散、を2度繰り返し余分な水及びCTABを除去し、金ナノロッドの長波長域プラズモン吸収の吸光度が1.0(1.0mmの石英セル)となる濃度に超純水で再分散させる。
再分散させた金ナノロッド水分散液を、同量のポリスチレンスルホン酸(分子量:7000)水溶液(*)中に、撹拌しながら滴下し、さらに一昼夜撹拌を続けポリスチレンスルホン酸層を被覆した。
得られたポリスチレンスルホン酸被覆金ナノロッド水分散液を遠心分離(7000G、45min)して余分な水及びポリスチレンスルホン酸を除去し、金ナノロッドの長波長域プラズモン吸収の吸光度が1.0(1.0mmの石英セル)となる濃度に超純水で再分散させる。
このポリスチレンスルホン酸被覆金ナノロッド水分散液を、同量のポリアリルアミンハイドロクリライド(分子量:15000)水溶液(*)中に、撹拌しながら滴下し、さらに一昼夜撹拌を続けポリアリルアミンハイドロクリライド層を被覆した。
得られたポリアリルアミンハイドロクリライド被覆金ナノロッド水分散液を遠心分離(7000G、45min)して余分な水及びポリアリルアミンハイドロクリライドを除去し、金ナノロッドの長波長域プラズモン吸収の吸光度が1.0(1.0mmの石英セル)となる濃度に超純水で再分散させる。
このポリアリルアミンハイドロクリライド被覆金ナノロッド水分散液を、同量のポリビニルピロリドン(分子量:25000)水溶液(*)中に、撹拌しながら滴下し、さらに一昼夜撹拌を続けポリビニルピロリドン層を被覆した。
得られたポリビニルピロリドン被覆金ナノロッド水分散液を遠心分離(7000G、60min)して余分な水及びポリビニルピロリドンを除去し、得られた沈殿物の5倍量の2−プロパノールで再分散させる。
このポリビニルピロリドン被覆金ナノロッド2−プロパノール分散液5.0ml中に、アンモニア溶液(*)6.0ml を撹拌しながら滴下し、その後、TEOS(Tetraethoxy
Silane)溶液1.0mlを撹拌しながら滴下し、さらに3時間撹拌を続けシリカ層を被覆した。
得られたシリカ被覆金ナノロッド2−プロパノール分散液を遠心分離(7000G、45min)して余分な水及びシリカ粒塊等を除去し、金ナノロッドの長波長域プラズモン吸収の吸光度が2.0(1.0mmの石英セル)となる濃度にエタノールで再分散させる。
得られたシリカ被覆金ナノロッドエタノール分散液3.0ml中に、アンモニア溶液(*)1.0mlを撹拌しながら滴下し、その後、n−オクタデシルトリトキシシラン溶液(*)0.3mlを撹拌しながら滴下し、さらに一昼夜撹拌を続けシリカ層を表面修飾し、非水溶媒分散型シリカ被覆金ナノロッドを得た。
このシリカ被覆金ナノロッドの非水溶媒に対する分散性、シリカ粒塊の有無を表1に、及び得られたシリカ被覆金ナノロッドのTEM写真を図5に示す。
・ポリスチレンスルホン酸水溶液(*):ポリスチレンスルホン酸2.0g、NaCl 0.35g、HO 1000ml
・ポリアリルアミンハイドロクリライド水溶液(*):ポリアリルアミンハイドロクリライド2.0g、NaCl 0.35g、HO 1000ml
・ポリビニルピロリドン水溶液(*):ポリビニルピロリドン2.0g、NaCl 0.35g、HO 1000ml
・n−オクタデシルトリメトキシシラン(C1837Si(OMe))溶液(*):2.5wt%クロロホルム溶液
【0058】
〔比較例2〕
実施例1のn−オクタデシルジメチルメトキシシラン溶液(*)の代わりに、n−オクタデシルトリメトキシシラン溶液(*)を用いた以外は実施例1と同様にして、非水溶媒分散型シリカ被覆金ナノロッドを得た。
ポリアクリル酸/ポリビニルピロリドン被覆金ナノロッドの分散状態、シリカ被覆金ナノロッドの非水溶媒に対する分散性、シリカ粒塊の有無を表1に、及び得られたシリカ被覆金ナノロッドのTEM写真を図6に示す。
・n−オクタデシルトリメトキシシラン(C1837Si(OMe))溶液(*):2.5wt%クロロホルム溶液
【0059】
〔比較例3〕
実施例1のn−オクタデシルジメチルメトキシシラン溶液(*)の代わりに、n−ヘキシルジメトキシシラン溶液(*)を用いた以外は実施例7と同様にして、非水溶媒分散型シリカ被覆金ナノロッドを得た。
ポリアクリル酸/ポリビニルピロリドン被覆金ナノロッドの分散状態、シリカ被覆金ナノロッドの非水溶媒に対する分散性、シリカ粒塊の有無を表1に示す。
・n−ヘキシルジメトキシシラン(C13SiH(OMe))溶液(*):2.5wt%クロロホルム溶液
【0060】
〔比較例4〕
実施例1のn−オクタデシルジメチルメトキシシラン溶液(*)の代わりに、n−オクチルメチルジメトキシシラン溶液(*)を用いた以外は実施例1と同様にして、非水溶媒分散型シリカ被覆金ナノロッドを得た。
ポリアクリル酸/ポリビニルピロリドン被覆金ナノロッドの分散状態、シリカ被覆金ナノロッドの非水溶媒に対する分散性、シリカ粒塊の有無を表1に示す。
・n−オクチルメチルジメトキシシラン(C17SiMe(OMe))溶液(*):2.5wt%クロロホルム溶液
【0061】
〔比較例5〕
実施例1のポリアクリル酸水溶液(**)のポリアクリル酸(分子量:25000)の代わりに、ポリアクリル酸(分子量:5000)を用いた以外は実施例1と同様に処理した。
ポリアクリル酸/ポリビニルピロリドン被覆金ナノロッドの分散状態を表1に示す。
【0062】
〔比較例6〕
実施例1のポリアクリル酸水溶液(**)のポリアクリル酸(分子量:25000)の代わりに、ポリアクリル酸(分子量:10000)を用いた以外は実施例1と同様に処理した。
ポリアクリル酸/ポリビニルピロリドン被覆金ナノロッドの分散状態を表1に示す。
【0063】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】実施例の「金ナノロッドの合成」で得られた金ナノロッド水分散液の吸収スペクトルを示す図である。
【図2】(a)は実施例1で得られたシリカ被覆金ナノロッドのTEM写真であり、(b)は(a)の一部を拡大したものである。
【図3】実施例1で得られたシリカ被覆金ナノロッドトルエン分散液の吸収スペクトルを示す図である。
【図4】実施例2で得られたシリカ被覆金ナノロッドのTEM写真である。
【図5】比較例1で得られたシリカ被覆金ナノロッドのTEM写真である。
【図6】比較例2で得られたシリカ被覆金ナノロッドのTEM写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
CTAB(Cetyltrimethyl ammonium bromide)が吸着された金ナノロッド表面を、分子量が25000以上のポリアクリル酸を主成分とする高分子で被覆し、次いでシリカで被覆し、さらにその表面を少なくとも1つ以上の長鎖アルキル基を有する加水分解性ケイ素化合物で表面修飾したことを特徴とするシリカ被覆金ナノロッド。
【請求項2】
前記ポリアクリル酸を主成分とする高分子被覆膜表面と共有結合を介して前記シリカ被覆膜が形成されていることを特徴とする請求項1に記載のシリカ被覆金ナノロッド。
【請求項3】
前記長鎖アルキル基を有する加水分解性ケイ素化合物の長鎖アルキル基が炭素数10以上のアルキル基であることを特徴とする請求項1又は2に記載のシリカ被覆金ナノロッド。
【請求項4】
前記長鎖アルキル基を有する加水分解性ケイ素化合物の加水分解性基の個数が2以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のシリカ被覆金ナノロッド。
【請求項5】
CTAB(Cetyltrimethyl ammonium bromide)で保護された金ナノロッド水分散液を、(1)分子量が25000以上のポリアクリル酸を主成分とする高分子水溶液に添加して該保護された金ナノロッドをポリアクリル酸を主成分とする高分子で被覆する工程、(2)該ポリアクリル酸を主成分とする高分子で被覆された金ナノロッド分散液を、加水分解性ケイ素化合物又はそのオリゴマーのアルコール溶液に混合し、該加水分解性ケイ素化合物の加水分解・重縮合反応で該ポリアクリル酸を主成分とする高分子で被覆された金ナノロッドにシリカ被覆する工程、(3)少なくとも1つ以上の長鎖アルキル基を有する加水分解性ケイ素化合物で、該ポリアクリル酸を主成分とする高分子及びシリカで被覆された金ナノロッドの該シリカ被膜を表面修飾する工程、からなることを特徴とするシリカ被覆金ナノロッドの製造方法。
【請求項6】
前記加水分解性ケイ素化合物が、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン又はテトライソプロポキシシランであることを特徴とする請求項5に記載のシリカ被覆金ナノロッドの製造方法。

【図1】
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【図3】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−53385(P2010−53385A)
【公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−218108(P2008−218108)
【出願日】平成20年8月27日(2008.8.27)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】