説明

シリコン単結晶の製造方法及びシリコン単結晶製造装置

【課題】揮発性ドーパントを用いたシリコン単結晶の製造において、酸化物が空気エゼクターに堆積することによる排気ラインの排気能力低下を防止することが可能なシリコン単結晶の製造方法及びシリコン単結晶製造装置を提供する。
【解決手段】シリコン単結晶の製造中に炉内のガスを排気するための排気ライン11として、並列に接続された2以上の空気エゼクター12a、12bと、空気エゼクター12a、12bの前後に設置された切り換えバルブ16a、16b、17a、17bと、切り換えバルブ16a、16b、17a、17bの開閉を制御するためのシーケンサー21と、空気エゼクター12a、12bの後段に接続された水封ポンプ13とを設け、炉内のガスの排気中に、シーケンサー21によって切り換えバルブ16a、16b、17a、17bの開閉をそれぞれ制御することによりシリコン単結晶の製造中に空気エゼクター12a、12bの切り換えを行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコン単結晶の製造中に水封ポンプにより炉内のガスの排気を行うシリコン単結晶の製造方法及びシリコン単結晶製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ディスクリート半導体デバイスなどに使用されるシリコンウェーハとして、N型の電気的特性を有し、アンチモン(Sb)、赤燐(P)、砒素(As)などの揮発性のドーパントが高濃度にドープされた20mΩcm以下の低抵抗のシリコンウェーハの需要が高まっている。このような、揮発性ドーパントをドープするシリコン単結晶の製造は、例えば特許文献1に開示されている。
【0003】
このような揮発性ドーパントを使用する単結晶製造の排気ラインには、通常水封ポンプが用いられる。特に赤燐をドーパントとして使用する操業は、引火の危険性を伴うため排気には油回転ポンプ、ドライポンプは不向きであり、引火の危険性を回避するために水封ポンプが用いられる。
【0004】
図6は、シリコン単結晶製造装置の排気ラインに水封ポンプを用いた場合の概略図である。
図6に示すように、炉61に接続される水封ポンプ64は、他の種類の真空ポンプよりも排気能力(真空度)が劣るため、空気エゼクター63を付加して真空度を向上させている。例えばArガスを流しながら、水封ポンプ64と空気エゼクター63の組み合わせにより炉61内のガスを排気して減圧操業を行っている。また、炉内圧の制御はコンダクタンスバルブ62により行っている。
【0005】
図7に空気エゼクターの説明図を示す。空気エゼクターは、ポンプにより吸引されているガスが空気エゼクター内を通る際に、管の絞られた部分をガスが通過する際にガス流速が増して圧力が低下し、この圧力損失によって、絞られた部分に接続された他の管から空気が吸い込まれる構造となっている。このような構造により、水封ポンプの排気能力を向上させるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−280211号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、揮発性ドーパントを使用する操業で排出される酸化物が、空気エゼクター内部に付着し、特にドープ剤の追加や操業時間が長くなると、酸化物が堆積していき、空気エゼクターとしての排気能力が低下する。そして、排気能力が低下すると急激に炉内圧が上昇して目標操業圧力に炉内圧制御が出来なくなり、安定した品質の結晶が得られなくなるといった問題が発生する。
【0008】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであって、揮発性ドーパントを用いたシリコン単結晶の製造において、酸化物が空気エゼクターに堆積することによる排気ラインの排気能力低下を防止することで、高品質のシリコン単結晶を歩留まり良く製造することができるシリコン単結晶の製造方法及びシリコン単結晶製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明は、CZ法により揮発性ドーパントをドープしたシリコン単結晶を製造する方法であって、前記シリコン単結晶の製造中に炉内のガスを排気するための排気ラインとして、並列に接続された2以上の空気エゼクターと、該空気エゼクタ−の前後に設置された切り換えバルブと、該切り換えバルブの開閉を制御するためのシーケンサーと、前記空気エゼクターの後段に接続された水封ポンプとを設け、前記炉内のガスの排気中に、前記シーケンサーによって前記切り換えバルブの開閉をそれぞれ制御することにより前記シリコン単結晶の製造中に前記空気エゼクターの切り換えを行うことを特徴とするシリコン単結晶の製造方法を提供する。
【0010】
このように、並列に接続された2以上の空気エゼクターを設けることで、単結晶製造中に排気しながら、簡易に空気エゼクターの切り換えを行うことができ、空気エゼクター内に酸化物が堆積することによる排気能力の低下を効果的に防止できる。また、空気エゼクターの前後に設置された切り換えバルブを設け、シーケンサーにより切り換えバルブの開閉をそれぞれ制御することで、確実に順番通りに切り換えバルブの開閉を行って、空気エゼクターに空気を導入して排気しながらでも、空気や水封水の逆流を防止して空気エゼクターを切り換えることができる。また、水封ポンプで排気することで、揮発性ドーパントを使用する単結晶製造でも安全に排気できる。
以上のような、本発明のシリコン単結晶の製造方法であれば、簡易な方法で、空気エゼクターの排気能力を安定させて炉内圧制御不良を防止しながら、揮発性ドーパントをドープした所望の抵抗率のシリコン単結晶を歩留まり良く製造することができる。
【0011】
このとき、前記ドープする揮発性ドーパントを、赤燐とすることが好ましい。
このように、特に空気エゼクター内部に付着しやすい酸化物が排出され、引火性の赤燐をドープする単結晶製造の際に、本発明のシリコン単結晶の製造方法を用いることが好適である。
【0012】
このとき、前記空気エゼクターの切り換えを、操業開始後30時間以内に行うことが好ましい。
このような操業開始後30時間以内に空気エゼクターの切り換えを行うことで、空気エゼクター内部が詰まって排気能力が落ちる前に切り換えを行うことができ、簡易かつ確実に炉内圧制御不良を防止できる。
【0013】
このとき、前記空気エゼクターの切り換えを、前記炉内圧を検知して、該検知した炉内圧が設定圧力を超えた場合に前記シーケンサーによって自動で前記切り換えバルブの開閉をそれぞれ制御することにより前記空気エゼクターの切り換えを行うことが好ましい。
このように、炉内圧を検知して、検知した炉内圧が設定圧力を超えた場合に、空気エゼクターの切り換えを自動で行うことで、炉内圧の検知により空気エゼクターの詰まりによる排気能力低下を容易に感知して、操業に影響の無いように空気エゼクターの切り換えを効率的に行うことができる。
【0014】
このとき、前記設定圧力を、前記炉内の目標操業圧力より3hPa大きい圧力とすることが好ましい。
このように、設定圧力を、炉内の目標操業圧力より3hPa大きい圧力とすることで、空気エゼクターの切り換え中の炉内圧変動があったとしても、炉内圧の総変動が結晶品質に影響の無い範囲で空気エゼクターの切り換えを行うことができる。
【0015】
このとき、前記切り換えバルブの開閉を、一つの前記切り換えバルブにつき2秒以内に行うことが好ましい。
このように、切り換えバルブの開閉を、一つの切り換えバルブにつき2秒以内に行うことで、空気エゼクターの切り換え中の炉内圧変動を許容範囲内に抑え、空気が炉内に逆流することも確実に防止できる。
【0016】
本発明は、CZ法により揮発性ドーパントをドープしたシリコン単結晶を製造する装置であって、炉内のガスを排気するための排気ラインとして、並列に接続された2以上の空気エゼクターと、該空気エゼクタ−の前後に設置された切り換えバルブと、該切り換えバルブの開閉を制御するためのシーケンサーと、前記空気エゼクターの後段に接続された水封ポンプとが設けられ、前記炉内のガスの排気中に、前記シーケンサーによって前記切り換えバルブの開閉をそれぞれ制御することにより前記空気エゼクターの切り換えを行うことができるものであることを特徴とするシリコン単結晶製造装置を提供する。
【0017】
このように、並列に接続された2以上の空気エゼクターが設けられた製造装置であれば、シリコン単結晶製造中に排気しながら、簡易に空気エゼクターの切り換えを行うことができ、空気エゼクター内部に酸化物が堆積することによる排気能力の低下を効果的に防止できる。また、空気エゼクタ−の前後に設置された切り換えバルブと、切り換えバルブの開閉を制御するためのシーケンサーとが設けられたものであることで、確実に順番通りに切り換えバルブの開閉を行い、空気エゼクターに空気を導入して排気しながらでも、空気や水封水の逆流を防止して空気エゼクターを切り換えることができる。また、水封ポンプで排気することで、揮発性ドーパントを使用する単結晶製造でも安全に排気できる。
以上のような、本発明のシリコン単結晶製造装置であれば、空気エゼクターの排気能力を安定させて炉内圧制御不良を防止しながら、揮発性ドーパントをドープした所望の抵抗率のシリコン単結晶を歩留まり良く製造することができる装置となる。
【0018】
前記ドープされる揮発性ドーパントが、赤燐であることが好ましい。
このように、特に空気エゼクター内部に付着しやすい酸化物が排出され、引火性の赤燐をドープする単結晶製造装置に、本発明のシリコン単結晶製造装置を用いることが好適である。
【0019】
前記空気エゼクターの切り換えが、操業開始後30時間以内に行うものであることが好ましい。
このような操業開始後30時間以内に空気エゼクターの切り換えを行うものであれば、酸化物が堆積して空気エゼクターの排気能力が落ちる前に切り換えが行われ、簡易かつ確実に炉内圧制御不良を防止できる装置となる。
【0020】
前記空気エゼクターの切り換えが、前記炉内圧を検知して、該検知した炉内圧が設定圧力を超えた場合に前記シーケンサーによって自動で前記切り換えバルブの開閉をそれぞれ制御することにより前記空気エゼクターの切り換えを行うものであることが好ましい。
このように、炉内圧を検知して、検知した炉内圧が設定圧力を超えた場合に、空気エゼクターの切り換えを自動で行うものであれば、空気エゼクターの詰まりによる排気能力低下を炉内圧検知により容易に感知して、操業に影響が出ないように効率的に空気エゼクターの切り換えができる装置となる。
【0021】
前記設定圧力が、前記炉内の目標操業圧力より3hPa大きい圧力であることが好ましい。
このように、設定圧力が、炉内の目標操業圧力より3hPa大きい圧力であれば、空気エゼクター切り換え中の炉内圧変動を考慮しても結晶品質に影響の無い範囲で空気エゼクターの切り換えを行うことができる。
【0022】
前記切り換えバルブの開閉が、一つの前記切り換えバルブにつき2秒以内に行うものであることが好ましい。
このように、切り換えバルブの開閉が、一つの切り換えバルブにつき2秒以内に行うものであれば、空気エゼクターの切り換え中の炉内圧変動が許容範囲内に抑えられ、かつ空気が炉内に逆流することも確実に防止される。
【発明の効果】
【0023】
以上のような、本発明のシリコン単結晶の製造方法及び製造装置であれば、揮発性ドーパントをドープしたシリコン単結晶を製造する際に、空気エゼクターの排気能力を安定させて炉内圧制御不良を防止しながら、所望の抵抗率の結晶を歩留まり良く製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明のシリコン単結晶製造装置の実施態様の一例を示す概略図である。
【図2】本発明のシリコン単結晶製造装置の空気エゼクターの切り換えの手順を示すフロー図である。
【図3】実施例1、比較例における炉内圧と操業時間の関係を示すグラフである。
【図4】実施例3における炉内圧と切り換え時間の関係を示すグラフである。
【図5】実施例2における炉内圧と切り換え時間の切り換えバルブの開閉時間による関係を示すグラフである。
【図6】従来のシリコン単結晶製造装置の一例を示す概略図である。
【図7】空気エゼクターの構造を説明するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明のシリコン単結晶の製造方法及びシリコン単結晶製造装置について、実施態様の一例として、図を参照しながら詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
図1は、本発明のシリコン単結晶製造装置の実施態様の一例を示す概略図である。図2は、本発明のシリコン単結晶製造装置の空気エゼクターの切り換えの手順を示すフロー図である。
【0026】
図1に示す本発明のシリコン単結晶製造装置19は、炉10内のガスを排気するための排気ライン11として、並列に接続された2以上の空気エゼクター12a、12bと、空気エゼクター12a、12bの前後に設置された切り換えバルブ16a、16b、17a、17bと、切り換えバルブ16a、16b、17a、17bの開閉を制御するためのシーケンサー21と、空気エゼクター12a、12bの後段に接続された水封ポンプ13とが設けられ、炉10内のガスの排気中に、シーケンサー21によって切り換えバルブ16a、16b、17a、17bの開閉をそれぞれ制御することにより空気エゼクター12aと空気エゼクター12bとの切り換えを行うことができるものである。
【0027】
このように、並列に接続された2以上の空気エゼクター12a、12bが設けられた製造装置であれば、シリコン単結晶製造中に排気しながら、簡易に空気エゼクター12aから空気エゼクター12bへの切り換えを行うことができ、空気エゼクター内部に酸化物が堆積することによる排気能力の低下を効果的に防止できる。また、空気エゼクターの前後に設置された切り換えバルブと、切り換えバルブの開閉を制御するためのシーケンサー21とが設けられたものであることで、確実に順番通りに切り換えバルブ16a、16b、17a、17bの開閉を行い、空気エゼクターに空気を導入して排気しながらでも、空気や水封水の逆流を防止して空気エゼクターを例えば、空気エゼクター12aから空気エゼクター12bに切り換えることができる。また、水封ポンプ13で排気することで、揮発性ドーパントを使用する単結晶製造でも安全に排気できる。
【0028】
このような空気エゼクター12a、12bは、例えば図1に示すような、空気導入バルブ15a、15bを開けて空気を導入しながら排気を行うものであるが、水封ポンプ13の排気能力を向上させる機能の他にも、水封ポンプ13が停止した場合の炉10内への水封水の逆流防止の機能も兼ね備えている。従って、上記のような機能を損なわないように安全に空気エゼクター12a、12bの切り換えを行うために、空気導入バルブ15a、15bを開けて空気導入を継続しながら切り換えを行う必要がある。このため本発明のような装置であれば、空気エゼクター12a、12bの前後に切り換えバルブ16a、16b、17a、17bを設けて、さらにシーケンサー21でその開閉を行うことで、空気が炉10内に逆流することを確実に防止できる。
【0029】
このような、本発明のシリコン単結晶製造装置19には、例えば、炉内圧を制御するためのコンダクタンスバルブ14や、水封ポンプ13の前に逆流防止バルブ18を設けることができる。また、切り換えバルブ16a、16b、17a、17bの開閉により空気エゼクター12a、12bの切り換えを行うシーケンサー21に指示を出すための切り換えスイッチ20も設けることができる。
なお、空気エゼクターは並列に接続すれば2つに限られず、3つ以上接続することもできる。
【0030】
次に、本発明のシリコン単結晶の製造方法を、例えば、図1に示すような本発明のシリコン単結晶製造装置を用いて実施する場合について説明する。
本発明のシリコン単結晶の製造方法では、CZ(チョクラルスキー)法により揮発性ドーパントを投入したシリコン融液からシリコン単結晶を引き上げる。
【0031】
例えば、炉10内にある直径45cm(18インチ)のルツボに、多結晶原料を40〜80kgチャージして、溶融条件としては炉内の目標操業圧力5〜300hPa、ガス流量10〜300l/min、電力100〜150kWで多結晶原料を溶融することができる。
【0032】
そして、この溶融中にドーパントを投入するが、本発明でドープする揮発性ドーパントとしては、特に限定されず、例えば、ヒ素、アンチモンを用いることができるが、赤燐を用いることが好ましい。
水封ポンプで排気することで、赤燐を用いても安全に操業することができ、また、単結晶製造中には空気エゼクター内部に堆積しやすい酸化物が生じるため、その排出のためにも空気エゼクターの切り換えが可能な本発明の製造方法、製造装置が好適である。
【0033】
そして、このようなシリコン単結晶製造において、溶融段階から、炉10内にArガス等を流しながら、一方で排気ライン11により炉10内のガスを排気して、炉内圧を制御しながら溶融し、その後シリコン単結晶を引き上げる。
赤燐をドープしてシリコン単結晶を引き上げる条件としては、例えば、ガス流量10〜300l/min、炉内の目標操業圧力5〜300hPaで、全長1000〜1100mm(直胴600〜700mm)、直径200mmのシリコン単結晶を引き上げることができる。なお、上記の溶融条件、引き上げ条件は適宜変更可能である。
【0034】
上記のようなガスの排気を、図1の本発明の装置では、まず、切り換えバルブ16b、17bを閉めた状態で、切り換えバルブ16a、17aを全開にして空気エゼクター12aを通るライン(本ライン)で炉10内のガスを排気する。
そして、空気エゼクター12aから空気エゼクター12bへの切り換えとしては、図2に示すように、切り換えスイッチ20を入れて、シーケンサー21により切り換えバルブ17b全開、切り換えバルブ16b全開、切り換えバルブ16a全閉、切り換えバルブ17a全閉の順で開閉を行うことにより、空気エゼクター12bを通るライン(予備ライン)に切り換え終了となる。このような手順で切り換えバルブ16a、16b、17a、17bの開閉を行うことで、空気エゼクター12a、12bに空気を導入しながら、そして排気を行いながらでも空気エゼクター12aから空気エゼクター12bへの切り換えを安全に行うことができる。なお、切り換え中でも、水封水逆流防止のために空気エゼクター12a、12bの空気導入バルブ15a、15bは全開にして空気を導入する。
【0035】
この場合、空気エゼクター12a内部に堆積する酸化物の量は、ドープする揮発性ドーパントの量や操業時間によって異なるため、空気エゼクター12aから空気エゼクター12bへの切り換えは炉内圧が大きく変動する前に適宜行うことが好ましいが、例えば、空気エゼクター12a、12bの切り換えを、操業開始後30時間以内に行うことが好ましい。
このように、操業開始後30時間以内であれば、排気能力が低下する程度まで空気エゼクター内部へ酸化物が堆積する前に切り換えを行うことができ、効率的に炉内圧制御不良を防止できる。この場合の操業開始時点としては、原料の溶融開始時点としたり、単結晶の引き上げ開始時点とすることができるが、揮発性ドーパントの投入時点とすることで、ガス流量等によらず確実に排気能力低下を防止できる。
【0036】
また、空気エゼクター12a、12bの切り換えを、炉内圧を検知して、検知した炉内圧が設定圧力を超えた場合に行うことが好ましい。
このように、炉内圧を検知することで、空気エゼクターの詰まりによる排気能力低下を容易に感知することができ、検知した炉内圧が設定圧力を超えた場合に、空気エゼクターの切り換えを自動で行うものであれば、確実に良好な炉内圧制御を行うことができる。
この設定圧力としては、特に限定されず、炉内の目標操業圧力より3hPa大きい圧力にすることが好ましい。これにより、空気エゼクターの切り換え中に炉内圧の変動が生じたとしても、引き上げる単結晶の品質に影響の無い許容範囲内に抑えることができる。また、目標操業圧力から3hPaの幅があれば、炉内圧が他の原因で目標操業圧力から多少変動したとしても、排気能力が落ちていないのに自動で空気エゼクターが切り換わってしまうようなことも無く、操業性に影響は出ない。
【0037】
このとき、切り換えバルブ16a、16b、17a、17bの開閉を、一つの切り換えバルブにつき2秒以内に行うことが好ましい。
このように一つの切り換えバルブの開閉を2秒以内に行うことで、空気の逆流を効果的に防止できる。また、空気エゼクターの切り換えの総時間が8秒以内となり、切り換え中の炉内圧の変動が2hPa以内となるため、上記のような切り換えを自動で行う設定圧力を炉内の目標操業圧力より3hPa大きい圧力とすることで、炉内圧の総変動を5hPa以内に抑えることができ、切り換えをスムーズに行うことができ、結晶品質や操業性に影響を及ぼすこともない。
【0038】
以上のような、本発明のシリコン単結晶の製造方法及び製造装置であれば、揮発性ドーパントをドープしたシリコン単結晶を製造する際に、空気エゼクターの排気能力を安定させて炉内圧制御不良を防止しながら、所望の抵抗率の結晶を歩留まり良く製造することができる。
【実施例】
【0039】
以下、実施例及び比較例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
(実施例1、比較例)
シリコン単結晶の製造を、図1に示すような本発明のシリコン単結晶製造装置(実施例1)と、図6に示すような従来のシリコン単結晶製造装置(比較例)を用いてそれぞれ行った。
シリコン単結晶の製造は、直径45cm(18インチ)のルツボに70kgの多結晶原料をチャージし、赤燐をドープして、ガス流量40l/min(炉内の目標操業圧力40hPa)、ガス流量100l/min(炉内の目標操業圧力70hPa)、ガス流量125l/min(炉内の目標操業圧力120hPa)の3条件で直径200mmのシリコン単結晶をそれぞれ製造した。
【0040】
このとき、実施例1では操業開始後30時間で空気エゼクターの切り換えを図2に示す手順で行った。また、比較例では、空気エゼクターを交換すること無く操業を行った。
実施例1、比較例における操業時間と炉内圧の関係を図3に示す。
【0041】
図3から分かるように、実施例1では70時間操業しても安定して炉内圧を制御でき、比較例では、ガス流量が多いほど短い操業時間で炉内圧制御が困難になり、いずれの条件でも操業開始後30時間を超えると炉内圧制御できなくなった。この比較例の炉内圧制御不良は、いずれも空気エゼクターの詰まりが原因であった。
【0042】
(実施例2)
図1に示すような本発明のシリコン単結晶製造装置を用いて、ガス流量125l/min(炉内の目標操業圧力120hPa)で炉内圧を制御しながら、空気エゼクターの切り換えを行った。このとき、図2に示す手順で切り換えバルブの開閉を行い、一つの切り換えバルブの開閉時間を2秒と、5秒の2条件でそれぞれ行った。このときの切り換え時間と炉内圧の関係を図5に示す。
【0043】
図5(a)に示すように、2秒で切り換えバルブの開閉を行った場合は、空気エゼクター切り換え中の炉内圧変動が1hPa以内に収まって結晶品質に全く影響の無い範囲で切り換えできた。一方、図5(b)に示すように、5秒で切り換えバルブの開閉を行った場合は、空気エゼクター切り換え中の炉内圧変動が3hPa程度と多少大きくなった。
【0044】
(実施例3)
実施例1と同様に、ただし、ガス流量125l/min(炉内の目標操業圧力120hPa)で炉内圧を制御しながらシリコン単結晶の製造を行い、炉内圧を検知して目標操業圧力(120hPa)より3hPa大きい圧力(123hPa)になった時点で空気エゼクターの切り換えを開始した。この切り換え時の切り換えバルブの開閉を一つのバルブにつき2秒(切り換え総時間8秒)で行った。このときの切り換え経過時間と炉内圧の関係を図4に示す。なお、図4において、切り換え時間の軸の0の位置が切り換え開始時点である。
【0045】
図4に示すように、炉内圧の変動は切り換え前の変動も合わせて5hPa以内に収まり、結晶品質に影響は出なかった。
【0046】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は、例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【符号の説明】
【0047】
10…炉、 11…排気ライン、 12a、12b…空気エゼクター、
13…水封ポンプ、 14…コンダクタンスバルブ、
15a、15b…空気導入バルブ、
16a、16b、17a、17b…切り換えバルブ、
18…逆流防止バルブ、 19…シリコン単結晶製造装置、
20…切り換えスイッチ、 21…シーケンサー。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
CZ法により揮発性ドーパントをドープしたシリコン単結晶を製造する方法であって、
前記シリコン単結晶の製造中に炉内のガスを排気するための排気ラインとして、並列に接続された2以上の空気エゼクターと、該空気エゼクタ−の前後に設置された切り換えバルブと、該切り換えバルブの開閉を制御するためのシーケンサーと、前記空気エゼクターの後段に接続された水封ポンプとを設け、前記炉内のガスの排気中に、前記シーケンサーによって前記切り換えバルブの開閉をそれぞれ制御することにより前記シリコン単結晶の製造中に前記空気エゼクターの切り換えを行うことを特徴とするシリコン単結晶の製造方法。
【請求項2】
前記ドープする揮発性ドーパントを、赤燐とすることを特徴とする請求項1に記載のシリコン単結晶の製造方法。
【請求項3】
前記空気エゼクターの切り換えを、操業開始後30時間以内に行うことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のシリコン単結晶の製造方法。
【請求項4】
前記空気エゼクターの切り換えを、前記炉内圧を検知して、該検知した炉内圧が設定圧力を超えた場合に前記シーケンサーによって自動で前記切り換えバルブの開閉をそれぞれ制御することにより前記空気エゼクターの切り換えを行うことを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載のシリコン単結晶の製造方法。
【請求項5】
前記設定圧力を、前記炉内の目標操業圧力より3hPa大きい圧力とすることを特徴とする請求項4に記載のシリコン単結晶の製造方法。
【請求項6】
前記切り換えバルブの開閉を、一つの前記切り換えバルブにつき2秒以内に行うことを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれか一項に記載のシリコン単結晶の製造方法。
【請求項7】
CZ法により揮発性ドーパントをドープしたシリコン単結晶を製造する装置であって、
炉内のガスを排気するための排気ラインとして、並列に接続された2以上の空気エゼクターと、該空気エゼクタ−の前後に設置された切り換えバルブと、該切り換えバルブの開閉を制御するためのシーケンサーと、前記空気エゼクターの後段に接続された水封ポンプとが設けられ、前記炉内のガスの排気中に、前記シーケンサーによって前記切り換えバルブの開閉をそれぞれ制御することにより前記空気エゼクターの切り換えを行うことができるものであることを特徴とするシリコン単結晶製造装置。
【請求項8】
前記ドープされる揮発性ドーパントが、赤燐であることを特徴とする請求項7に記載のシリコン単結晶製造装置。
【請求項9】
前記空気エゼクターの切り換えが、操業開始後30時間以内に行うものであることを特徴とする請求項7又は請求項8に記載のシリコン単結晶製造装置。
【請求項10】
前記空気エゼクターの切り換えが、前記炉内圧を検知して、該検知した炉内圧が設定圧力を超えた場合に前記シーケンサーによって自動で前記切り換えバルブの開閉をそれぞれ制御することにより前記空気エゼクターの切り換えを行うものであることを特徴とする請求項7乃至請求項9のいずれか一項に記載のシリコン単結晶製造装置。
【請求項11】
前記設定圧力が、前記炉内の目標操業圧力より3hPa大きい圧力であることを特徴とする請求項10に記載のシリコン単結晶製造装置。
【請求項12】
前記切り換えバルブの開閉が、一つの前記切り換えバルブにつき2秒以内に行うものであることを特徴とする請求項7乃至請求項11のいずれか一項に記載のシリコン単結晶製造装置。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2011−46556(P2011−46556A)
【公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−195203(P2009−195203)
【出願日】平成21年8月26日(2009.8.26)
【出願人】(000190149)信越半導体株式会社 (867)
【Fターム(参考)】