説明

シリコン単結晶の製造方法

【課題】酸素濃度の径方向面内分布が均一であるシリコン単結晶の製造方法を提供する。
【解決手段】坩堝2に収容されたシリコン融液Mからシリコン単結晶SIを引き上げながら成長させて製造するシリコン単結晶の製造方法において、シリコン単結晶SIの径方向に磁場9を印加する磁場印加ステップを備え、シリコン融液Mの液面に対する磁場9の中心Aの高さ位置Bを、シリコン単結晶SI中の酸素濃度の径方向面内分布が均一になる位置とする。具体的には、シリコン融液の液面に対する磁場9の中心高さ位置Bを、液面上方0〜80mmの範囲とすることが望ましく、液面上方60〜80mmの範囲とすることがより望ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸素濃度の径方向面内分布が均一であるシリコン単結晶を製造できるシリコン単結晶の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シリコン単結晶は、坩堝に収容された多結晶シリコン原料をヒータで加熱してシリコン融液とし、チョクラルスキー法(以下、「CZ法」と略記する。)によりシリコン融液から引き上げながら成長させることにより製造される。シリコン基板は、上記の方法で製造されたシリコン単結晶をスライス(切断)することにより製造される。近年、半導体回路の高集積化による素子の微細化に伴い、その基板となるシリコン単結晶に対する品質要求が高まってきている。
【0003】
従来からシリコン融液の対流を抑制することができ均一なシリコン単結晶が得られる方法として、磁場中引き上げ法(以下、「MCZ法」と略記する。)が知られている(例えば、特許文献1を参照)。
【特許文献1】特開昭64−24090号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1の技術は、シリコン単結晶の引き上げ速度を低下させることなく、シリコン単結晶中の酸素濃度を増加させることを目的とするものであり、酸素濃度の径方向面内分布が均一であるシリコン単結晶を製造できるものではなかった。
このため、シリコン単結晶の酸素濃度の径方向面内分布におけるばらつきを小さくすることが要求されていた。特に、シリコン単結晶の径方向面内における外周に近い領域で酸素濃度が少なくなる現象が発生することがあり、問題となっていた。この問題を解決するため、従来から、シリコン単結晶を製造する際に必要な外形寸法よりも大きい外形寸法の単結晶を成長させ、成長後に外周部分を削って酸素濃度が所定濃度よりも少なくなっている部分をとり除く方法が行われている。しかしながら、単結晶の成長後に外周部分を削る場合、無駄になる減量が多いことや、削る手間がかかるという不都合があった。
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、酸素濃度の径方向面内分布が均一であるシリコン単結晶を製造できるシリコン単結晶の製造方法を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明のシリコン単結晶の製造方法は、坩堝に収容されたシリコン融液からシリコン単結晶を引き上げながら成長させて製造するシリコン単結晶の製造方法において、前記シリコン単結晶の径方向に磁場を印加する磁場印加ステップを備え、前記シリコン融液の液面に対する前記磁場の中心高さ位置を、前記シリコン単結晶中の酸素濃度の径方向面内分布が均一になる位置としたことを特徴とする。
本発明によれば、シリコン融液の液面に対する前記磁場の中心高さ位置を、シリコン単結晶中の酸素濃度の径方向面内分布が均一になる位置としているので、酸素濃度の径方向面内分布が均一であるシリコン単結晶を製造できる。
【0007】
また、上記のシリコン単結晶の製造方法においては、前記シリコン融液の液面に対する前記磁場の中心高さ位置を、液面上方0〜80mmの範囲とすることができる。
このような製造方法とすることで、酸素濃度の径方向面内分布が均一であるシリコン単結晶を容易に製造できる。
【0008】
また、上記のシリコン単結晶の製造方法においては、前記シリコン融液の液面に対する前記磁場の中心高さ位置を、液面上方60〜80mmの範囲とすることができる。
このような製造方法とすることで、シリコン単結晶の径方向面内における外周に近い領域で酸素濃度が少なくなる現象の発生を抑止することができ、酸素濃度の径方向面内分布が外周に近い領域まで均一であるシリコン単結晶を製造できる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、シリコン融液の液面に対する前記磁場の中心高さ位置を、シリコン単結晶中の酸素濃度の径方向面内分布が均一になる位置としているので、酸素濃度の径方向面内分布が均一であるシリコン単結晶を製造できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、図面を参照して本発明の一実施形態によるシリコン単結晶の製造方法について詳細に説明する。図1は、本発明の第1実施形態によるシリコン単結晶の製造方法において使用するシリコン単結晶製造装置の概略断面図である。図1において、符号2は石英で形成された坩堝であり、坩堝2の両側には一対の磁気コイル1、1が所定の間隔を空けて対向配置されている。また、坩堝2は、坩堝2から所定の間隔をあけて坩堝2と磁気コイル1、1との間に配置された筒状のヒータ(図示略)により包囲されている。
【0011】
坩堝2には、坩堝2に投入された高純度のシリコン多結晶体をヒータで加熱・融解して得られたシリコン融液Mが収容されている。シリコン単結晶SIは、下面がシリコン融液Mの液面に接するように、引上げワイヤー(図示略)により坩堝2の回転中心に向って垂下されている。
坩堝2は不図示の坩堝駆動手段に接続され、坩堝2が水平面内で回転し得るとともに、シリコン融液Mの液面変化に対応して上下方向に移動可能となっている。また、磁気コイル1、1は不図示の磁気コイル駆動手段により上下方向に移動可能とされ、シリコン融液Mの液面変化に対応して磁場の中心高さ位置Aを変化させることができるようになっている。
【0012】
このようなシリコン単結晶製造装置を用いてシリコン単結晶SIを製造するには、まずヒータで坩堝2内に収容された多結晶シリコン原料を加熱してシリコン融液Mとし、シリコン融液Mの温度を所定の温度に設定する。次いで、磁気コイル1、1からシリコン単結晶の径方向に磁場9を印加し、先端に種結晶が取り付けられた引上げワイヤーを下方へ引き下げてシリコン融液M表面に種結晶の下端を接触させてから上方への引き上げを開始する。
【0013】
このとき、シリコン融液Mの液面に対する磁場9の中心A高さ位置Bを、シリコン単結晶中の酸素濃度の径方向面内分布が均一になる位置とする。具体的には、シリコン融液の液面に対する前記磁場の中心高さ位置Bを、液面上方0〜80mmの範囲とすることが望ましく、液面上方60〜80mmの範囲とすることがより望ましい。前記磁場の中心高さ位置Bを0mm未満(つまり液面に対して下方)とすると、得られたシリコン単結晶中の酸素濃度の径方向面内分布におけるばらつきが大きくなるため望ましくない。また、前記磁場の中心高さ位置Bが液面上方80mmを越えると、シリコン融液の対流を抑制する効果が十分に得られなくなるおそれが生じるため望ましくない。さらに、前記磁場の中心高さ位置Bを液面上方60〜80mmの範囲とした場合、シリコン単結晶の径方向面内における外周に近い領域で酸素濃度が少なくなる現象の発生を抑止することができる。
【0014】
また、磁気コイル1、1の中心における磁束密度は、2000〜4000ガウスとすることができ、2500〜3500ガウスとすることが望ましい。磁気コイル1、1の中心における磁束密度が4000ガウスを越えると、シリコン単結晶の径方向面内における外周に近い領域で酸素濃度が少なくなる現象が顕著になるため望ましくない。また、磁気コイル1、1の中心における磁束密度が2000ガウス未満であると、シリコン融液の対流を抑制する効果が十分に得られなくなるおそれが生じるため望ましくない。
なお、磁気コイル1、1の半径、磁気コイル1、1と坩堝2との距離、磁気コイル1、1相互間の距離、坩堝2の回転数、引き上げ速度などの製造条件は、適宜選択することができ、特に限定されない。
【0015】
「実施例」
(実験例1)
シリコン単結晶SIの直径Dを300mm、磁場9の中心Aの高さ位置をシリコン融液Mの液面の上方80mmとし、磁気コイル1、1の中心における磁束密度を3000ガウスとし、坩堝2を0.1〜20[min−1]程度の回転速度で回転させるとともに、引き上げるシリコン単結晶SIを1〜25[min−1]程度の回転速度で逆回転させ、シリコン単結晶SIの引き上げ速度0.35〜0.75[mm/min]でシリコン融液Mを固化させることにより長さ1600mmのシリコン単結晶製造を製造し、得られたシリコン単結晶をシリコン単結晶の種結晶側から長さ200mmの位置でスライスしてシリコンウェーハを得た。
【0016】
(実験例2)
磁場9の中心Aの高さ位置Bをシリコン融液Mの液面の上方60mmとしたこと以外は実験例1と同様にしてシリコン単結晶を製造し、得られたシリコン単結晶を実験例1と同様にしてスライスしてシリコンウェーハを得た。
(実験例3)
磁場9の中心Aの高さ位置Bをシリコン融液Mの液面とした(0mm)こと以外は実験例1と同様にしてシリコン単結晶を製造し、得られたシリコン単結晶を実験例1と同様にしてスライスしてシリコンウェーハを得た。
(実験例4)
磁場9の中心Aの高さ位置Bをシリコン融液Mの液面の下方130mmとしたこと以外は実験例1と同様にしてシリコン単結晶を製造し、得られたシリコン単結晶を実験例1と同様にしてスライスしてシリコンウェーハを得た。
【0017】
実験例1〜実験例4で得られたシリコンウェーハの酸素濃度を調べることにより、シリコン単結晶の種結晶側から長さ200mmの位置でのシリコン単結晶中の酸素濃度の径方向面内分布を調べた。その結果を図2〜図5に示す。図2〜図5は、シリコンウェーハの中心からの距離と酸素濃度との関係を図2に示したグラフであり、図2には実験例2、図3には実験例1、図4には実験例4、図5には実験例3の結果を示した。なお、図2〜図5において、縦軸の1目盛は、1×1017atoms/cm3である。
図4に示すように、磁場9の中心Aの高さ位置Bをシリコン融液Mの液面の下方130mmとした実験例4では、酸素濃度の径方向面内分布におけるばらつきが大きく、径方向面内における外周に近い領域で急激に酸素濃度が少なくなっている。
これに対し、図5に示すように、磁場9の中心Aの高さ位置Bをシリコン融液Mの液面とした実験例3では、径方向面内における外周に近い中心から130mmよりも外側の領域を除き、酸素濃度の径方向面内分布におけるばらつきが0.6×1017atoms/cm3(6%)程度であり、図4に示す実験例4と比較して小さくなっている。ここで、6%とは、(酸素濃度Max値 - Min値)/(Max値) で算出した割合である。
また、図3に示す磁場9の中心Aの高さ位置Bをシリコン融液Mの液面の上方80mmとした実験例1や、図2に示す上方60mmとした実験例2では、酸素濃度の径方向面内分布におけるばらつきが面内全域に渡って0.3×1017atoms/cm3(3%)程度であり、実験例3や実験例4と比較して小さくなっている。ここで、3%も、同様に(酸素濃度Max値 - Min値)/(Max値) で算出した割合である。しかも、実験例1や実験例2では、実験例3や実験例4と比較して、径方向面内における外周に近い領域で酸素濃度が少なくなる現象が抑止されることが確認できた。
また、磁束密度は3000Gに限らず2500〜3500Gの範囲内では同様の結果を得ることができた。
【0018】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記の内容に限られず、本発明の範囲内で自由に変更可能である。例えば、本発明は製造するシリコン単結晶SIの径(直径)の大きさに制限はなく、任意の直径を有するシリコン単結晶を製造する場合に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】図1は、本発明の第1実施形態によるシリコン単結晶の製造方法において使用するシリコン単結晶製造装置の概略断面図である。
【図2】図2は、シリコンウェーハの中心からの距離と酸素濃度との関係を示したグラフである。
【図3】図3は、シリコンウェーハの中心からの距離と酸素濃度との関係を示したグラフである。
【図4】図4は、シリコンウェーハの中心からの距離と酸素濃度との関係を示したグラフである。
【図5】図5は、シリコンウェーハの中心からの距離と酸素濃度との関係を示したグラフである。
【符号の説明】
【0020】
1、1:磁気コイル、2:坩堝、9:磁場、M:シリコン融液、SI:シリコン単結晶、A:磁場の中心


【特許請求の範囲】
【請求項1】
坩堝に収容されたシリコン融液からシリコン単結晶を引き上げながら成長させて製造するシリコン単結晶の製造方法において、
前記シリコン単結晶の径方向に磁場を印加する磁場印加ステップを備え、
前記シリコン融液の液面に対する前記磁場の中心高さ位置を、前記シリコン単結晶中の酸素濃度の径方向面内分布が均一になる位置としたことを特徴とするシリコン単結晶の製造方法。
【請求項2】
前記シリコン融液の液面に対する前記磁場の中心高さ位置を、液面上方0〜80mmの範囲としたことを特徴とする請求項1に記載のシリコン単結晶の製造方法。
【請求項3】
前記シリコン融液の液面に対する前記磁場の中心高さ位置を、液面上方60〜80mmの範囲としたことを特徴とする請求項1に記載のシリコン単結晶の製造方法。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2007−204312(P2007−204312A)
【公開日】平成19年8月16日(2007.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−24696(P2006−24696)
【出願日】平成18年2月1日(2006.2.1)
【出願人】(302006854)株式会社SUMCO (1,197)
【Fターム(参考)】