説明

シリコン単結晶インゴットの製造方法及び製造装置並びにシリコン単結晶インゴット

【課題】チョクラルスキー法によりシリコン単結晶インゴットを製造する場合に、ピンホールの少ないシリコン単結晶インゴットを安定して製造する方法及び製造装置を提供する。
【解決手段】ルツボ軸に振動を与える加振機18を具備したシリコン単結晶インゴットの製造装置10において、石英ルツボ14中の多結晶シリコンを融解してシリコン融液21とする工程とシリコン融液に種結晶を接触させた後引き上げることによってシリコン単結晶インゴット13を育成する工程との間に、石英ルツボ14を支持するルツボ軸16に振動を与える工程を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チョクラルスキー法(Czochralski Method、CZ法)によるシリコン単結晶インゴットの製造方法及び製造装置に関するものであり、より詳しくは、シリコン単結晶インゴット育成時に導入されるピンホールと呼ばれる空洞が少ないシリコン単結晶インゴットの製造方法及び製造装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体素子の製造に用いられるシリコン単結晶インゴットの製造では、石英ルツボ内のシリコン融液から単結晶を成長させつつ引き上げるチョクラルスキー法(CZ法)が広く実施されている。チョクラルスキー法では不活性ガス雰囲気下で石英ルツボ内に多結晶シリコンを充填し、抵抗加熱等によるヒーターによって石英ルツボ内の多結晶シリコンを加熱融解し、融解したシリコン融液に種結晶を接触させ、石英ルツボを回転させつつ、種結晶を回転させながら引き上げることによりシリコン単結晶インゴットを育成するものである。
【0003】
近年、製造されるシリコン単結晶インゴットの大型化に伴い、充填する多結晶シリコンの重量が大きくなることにより、シリコン融液中に含まれる気泡がシリコン融液表面より除去されにくくなり、結晶育成中にこの気泡が結晶内に取り込まれて製品シリコン単結晶インゴットに空洞、すなわち、いわゆるピンホール(ボイド、Air pocketとも呼ばれる)という不良を形成する場合が多くなってきた。このようなシリコン単結晶インゴットから製造されたシリコン単結晶ウェーハを用いて半導体素子を製造する場合には、シリコン単結晶ウェーハに微小な面積ではあるがシリコンのない領域があり、この領域には素子がまったく作製できないという問題が生じる。
【0004】
非特許文献1には、チョクラルスキー法による結晶成長におけるピンホール形成は、シリコン融液に溶け込んでいた気体の成分が液体から固体への相転位(結晶成長)に伴い過飽和となり析出することによるものであることが示されており、また、ピンホール形成を抑制するためには結晶成長速度の適正化が必要であることが示されている。また、シリコン融液から気体を取り除く方法としては、特許文献1には、多結晶シリコンの融解時の炉内圧力を5〜60mbarとすることよりシリコン融液中に含まれる気体を減少させる方法が示されており、この方法によってピンホール不良率の低減に効果のあることが示されている。さらに、特許文献2には、シリコン単結晶インゴット育成中においても炉内圧力を95mbar以下という減圧状態とする方法が開示されており、この方法によってピンホール不良率の低減に効果があることが示されている。さらに、特許文献3には、炉内に流す雰囲気ガスとしてArガスを低流量にすることが開示されており、この方法によってもピンホール不良の低減に効果のあることが示されている。
しかし、上記のような技術ではピンホール不良は5%程度までしか改善できず、工業的には、鏡面研磨した製品ウェーハの最終検査において、面検や異物検査装置によるピンホールの測定が不可欠であった。
【0005】
一方、非特許文献2には、シリコン融液中の気泡の起源について、多結晶シリコンを融解する段階で雰囲気から取り込まれる気体の他に、シリコン融液を保持する石英ルツボに含まれる気泡があることが示されている。これによると、石英ルツボの構造は表面付近が透明層であるが、高温でも変形しないように強度を高めるためにバルクには気泡を形成されていることが示されている。石英はシリコン融液との反応により溶解するので、表面が溶解されて開口した石英中の気泡がシリコン融液に放出されシリコン融液を経由して育成されるシリコン単結晶に取り込まれることが示されている。
【0006】
以上のように、シリコン単結晶インゴット中のピンホール不良については、従来成長条件の適正化等によって改善する手法が種々示されているが、ピンホール不良の発生率を1%を大きく下回るような極めて低い水準に抑えることはできなかった。
【0007】
【特許文献1】特開平5−9097号公報
【特許文献2】特開2000−169287号公報
【特許文献3】特開2000−159596号公報
【非特許文献1】宮沢信太郎編、「メルト成長のダイナミクス」、共立出版発行
【非特許文献2】大石修治等、日本結晶成長学会誌、vol.26、NO.3(1999)、pp.147〜152
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明はこのような問題に鑑みてなされたもので、チョクラルスキー法によりシリコン単結晶インゴットを製造する場合に、ピンホールの少ないシリコン単結晶インゴットを安定して製造する方法及び製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記課題を解決するためになされたもので、少なくとも、石英ルツボ内の多結晶シリコンを融解してシリコン融液とする工程と、該シリコン融液に種結晶を接触させた後引き上げることによってシリコン単結晶インゴットを育成する工程とを有するチョクラルスキー法によるシリコン単結晶インゴットの製造方法であって、前記石英ルツボ中の多結晶シリコンを融解してシリコン融液とする工程と前記シリコン融液に種結晶を接触させた後引き上げることによってシリコン単結晶インゴットを育成する工程との間に、前記石英ルツボを支持するルツボ軸に振動を与える工程を有することを特徴とするシリコン単結晶インゴットの製造方法を提供する(請求項1)。
【0010】
このように、石英ルツボ中の多結晶シリコンを融解してシリコン融液とする工程とシリコン融液に種結晶を接触させた後引き上げることによってシリコン単結晶インゴットを育成する工程との間に、石英ルツボを支持するルツボ軸に振動を与える工程を有するシリコン単結晶インゴットの製造方法であれば、単結晶引き上げ開始前に石英ルツボの内壁の表面に付着した気泡を減少させることができ、単結晶引き上げ中にシリコン単結晶インゴットに取り込まれる気泡を減少させることができる。これにより、製造されたシリコン単結晶インゴットのピンホール不良率を低減することができる。
【0011】
この場合、前記ルツボ軸に与える振動の加振力は、1.66×10−5kgf以上とすることが好ましい(請求項2)。
【0012】
このように、ルツボ軸に与える振動の加振力が1.66×10−5kgf以上であれば、石英ルツボの内壁の表面に付着した気泡を十分に取り除くことができる。
【0013】
また、前記ルツボ軸に振動を与える時間は、1分以上60分以下とすることが好ましい(請求項3)。
【0014】
このように、ルツボ軸に振動を与える時間が1分以上60分以下であれば、工程時間を必要以上に長くすることなく、シリコン融液に取りこまれた気泡を十分に取り除くことができる。
【0015】
また、前記ルツボ軸に与える振動の周波数は、10Hz以上であることが好ましい(請求項4)。
【0016】
このように、前記ルツボ軸に与える振動の周波数が10Hz以上であれば、ルツボ軸に振動を与える時間が短時間であっても効率的にルツボ軸に振動を与えて気泡を取り除くことができる。
【0017】
また、前記石英ルツボ中の多結晶シリコンを融解してシリコン融液とする工程の炉内圧力を、5〜60mbarとすることが好ましい(請求項5)。
【0018】
このように、石英ルツボ中の多結晶シリコンを融解してシリコン融液とする工程の炉内圧力を5〜60mbarとすれば、シリコン融液中に取り込まれる気泡を減少させることができる。
【0019】
また、本発明は、少なくとも、チャンバーと、該チャンバー内に配置された石英ルツボと、該石英ルツボを回転上下動自在に支持するルツボ軸と、前記石英ルツボ内の多結晶シリコンを加熱するヒーターとを備えた、チョクラルスキー法によるシリコン単結晶インゴットの製造装置であって、少なくとも、前記ルツボ軸に振動を与える加振機を具備することを特徴とするシリコン単結晶インゴットの製造装置を提供する(請求項6)。
【0020】
このように、チョクラルスキー法によるシリコン単結晶インゴットの製造装置であって、少なくとも、前記ルツボ軸に振動を与える加振機を具備するシリコン単結晶インゴットの製造装置であれば、石英ルツボの内壁の表面に付着した気泡を確実に減少させることができ、単結晶育成中にシリコン単結晶インゴットに取り込まれる気泡を減少させることができ、その結果、製造されたシリコン単結晶インゴットのピンホール不良率を低減することができるシリコン単結晶インゴットの製造装置となる。
【0021】
また、本発明は、直径が300mm以上のシリコン単結晶インゴットであって、該シリコン単結晶インゴットから切り出されたシリコン単結晶ウェーハのピンホール不良率が0.1%以下であることを特徴とするシリコン単結晶インゴットを提供する(請求項7)。
【0022】
このように、直径が300mm以上のシリコン単結晶インゴットであって、該シリコン単結晶インゴットから切り出されたシリコン単結晶ウェーハのピンホール不良率が0.1%以下であるシリコン単結晶インゴットであれば、ウェーハにした段階でピンホール不良が少なく、歩留りよく半導体素子を作製することができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明に従うシリコン単結晶インゴットの製造方法によれば、シリコン単結晶インゴットに取り込まれる気泡を少なくすることができるので、ピンホール不良の少ない高品質のシリコン単結晶インゴットを安定して効率的に製造することができる。また、このようにして製造されたピンホール不良の少ないシリコン単結晶インゴットを用いることで高品質シリコン単結晶ウェーハを製造することができる。
また、本発明に従うシリコン単結晶インゴットの製造装置であれば、シリコン単結晶インゴットに取り込まれる気泡を少なくすることができるので、ピンホール不良の少ない高品質のシリコン単結晶インゴットを安定して効率よく製造できる製造装置とすることができる。
また、本発明に従うシリコン単結晶インゴットであれば、ウェーハにした段階でピンホール不良が少なく、歩留りよく半導体素子を作製することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明についてさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
前述のように、製造されるシリコン単結晶インゴットの大型化に伴い、使用する石英ルツボも大口径化し、シリコン融液中に含まれる気泡が除去されにくくなり、結晶育成に伴いこの気泡が図3に示すように結晶中に取り込まれて製品シリコン単結晶インゴットにピンホール不良を形成する場合が多くなってきた。特に、シリコン単結晶インゴット自体の口径が大きくなることによって気泡がますます取り込まれやすくなっている。この問題を解決するために、炉内圧力を低くしたり、ガスフローを制御する方法が提案されているが、抜本的な対策とはならず、ピンホール不良の発生率を極めて低い水準に抑えることはできないという問題があった。
【0025】
そこで、本発明者らがピンホール不良率が一定の水準以下に減少しない原因について鋭意調査、研究を行ったところ、多結晶シリコンを融解した後に石英ルツボの内壁に発生した気泡が付着し、この気泡が石英ルツボの内壁の表面から離れにくいことを見出した。また、製品シリコン単結晶インゴットにおいて発生するピンホールは、直径3mm以上のものはほとんど存在しないことから、一定の大きさ以上の大きさを有する気泡は、浮力によって石英ルツボの内壁の表面から離れてシリコン融液表面から放出されると考えられることを見出した。そして、本発明者らは、このような大きさの気泡が有する浮力以上の加振力を石英ルツボに与えることにより、このような浮力を有しない気泡も石英ルツボの内壁の表面から引き離し、シリコン融液表面から取り除くことができることに想到し、本発明を完成させた。
【0026】
以下では、本発明の実施の形態について図面を用いて説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
図1は、本発明に係るチョクラルスキー法によるシリコン単結晶インゴットの製造装置の一例を示す概略図である。
【0027】
このシリコン単結晶インゴットの製造装置10は、少なくとも、チャンバー11と、チャンバー11中に設けられた石英ルツボ14と、石英ルツボ14を支持する黒鉛ルツボ19と、石英ルツボ14の周囲に配置されたヒーター15と、石英ルツボ14を支持するルツボ軸16及びその移動手段17とルツボ軸回転用モーター31と、ルツボ軸上下動用モーター32と、ルツボ軸16に振動を加える加振機18と、シリコンの種結晶22を保持するシードチャック23と、シードチャック23を引き上げる引き上げワイヤー12と、引き上げワイヤー12を回転または巻き取る機構(図示せず)とを備えて構成される。
【0028】
シリコン単結晶インゴットの製造はチャンバー11の内部において、Ar等の不活性ガス雰囲気下で圧力を調節して行われる。石英ルツボ14はルツボ軸16及びルツボ移動手段17を介して、ルツボ軸回転用モーター31と、ルツボ軸上下動用モーター32によって回転上下動自在に駆動される。
また、石英ルツボ14には原料となる多結晶シリコンが充填される。この多結晶シリコンはヒーター15によって融解され、シリコン融液21となる。その後、ルツボ軸16は加振機18によってルツボ移動手段17を介して振動を与えられ、石英ルツボ14の内壁の表面に付着した気泡が取り除かれる。その後、種結晶22をシリコン融液21に接触させ、シリコン単結晶インゴット13が引き上げられる。
【0029】
なお、上記図1に示したシリコン単結晶インゴットの製造装置では、ルツボ軸16に振動を与える加振機18をルツボ移動手段17に装着したが、例えばルツボ軸16に装着してもよく、石英ルツボ14を支持するルツボ軸16に振動が伝わるものであれば、装着される位置や手段は特に限定されない。
【0030】
そして、例えば上記図1に示すシリコン単結晶インゴットの製造装置を用いることで、本発明のシリコン単結晶インゴットの製造方法、すなわち、少なくとも、石英ルツボ内の多結晶シリコンを融解してシリコン融液とする工程と、該シリコン融液に種結晶を接触させた後引き上げることによってシリコン単結晶インゴットを育成する工程とを有するチョクラルスキー法によるシリコン単結晶インゴットの製造方法であって、前記石英ルツボ中の多結晶シリコンを融解してシリコン融液とする工程と前記シリコン融液に種結晶を接触させた後引き上げることによってシリコン単結晶インゴットを育成する工程との間に、前記石英ルツボを支持するルツボ軸に振動を与える工程を有することを特徴とするシリコン単結晶インゴットの製造方法を実施することができる。以下に、その一例を示す。
【0031】
まず、石英ルツボ14内に、多結晶シリコンを充填し、その多結晶シリコンをヒーター15によって加熱、融解してシリコン融液21とする。このとき、石英ルツボの内壁に気泡が付着し、シリコン融液内に保持される。融液内に保持される気泡をより少なくするために、多結晶シリコンの融解中のチャンバー11内の圧力を減圧し、特には、5〜60mbarとすることが好ましい。
そして、多結晶シリコン融解後、シリコン単結晶の育成を開始する前に、例えば図1に示したようにルツボ移動手段17に装着された加振機18によってルツボ軸16に振動を与える。ルツボ軸16に与えられた振動は、石英ルツボ14に伝わり、石英ルツボ14の内壁の表面に付着した気泡は、その振動の加振力によって石英ルツボ14の内壁の表面から離れ、シリコン融液21の表面から雰囲気中に放出される。
このようにして気泡が除去されたシリコン融液21に種結晶22を接触させ、通常の方法に従ってシリコン単結晶インゴットを引き上げることによって、たとえ大口径であったとしても、ピンホールの少ないシリコン単結晶インゴットを製造することができる。
【0032】
本発明では、上記のように、ルツボ軸16に振動を与えるが、石英ルツボ14の内壁の表面に付着した気泡を取り除くために必要な加振力の大きさは、以下のようにして求められる。
【0033】
前述のように、従来の方法で製造されたシリコン単結晶インゴットから切り出されたウェーハには、直径3mm以上のピンホールはほとんど存在しなかった。このことから、直径3mm以上の気泡は、浮力によって石英ルツボの内壁の表面から離れてシリコン融液表面から雰囲気中に放出されると考えられる。そして、このような大きさの気泡が有する浮力以上の加振力を石英ルツボに与えれば、このような浮力を有しない気泡も石英ルツボの内壁の表面から離れ、シリコン融液表面から放出されると考えられる。
【0034】
図2にシリコン融液内の気泡の大きさと浮力の関係を示す図を示した。この図からわかるように、直径3mmの気泡の浮力は1.66×10−5kgfである。
このことから、ルツボ軸16に与える振動の加振力を、製品シリコン単結晶インゴットにおいて観察されない直径3mm以上の気泡が有する浮力に相当する1.66×10−5kgf以上とし、1.66×10−5kgf以上10kgf以下の加振力を与えることが好ましい。この振動の加振力は1.66×10−5kgf以上とすれば石英ルツボ14の内壁の表面に付着した直径3mm以下の気泡を引き離す効果があり、10kgfを超えて加振力を与えてもピンホール低減効果はそれ以上大きくなることが期待できないし、逆に単結晶製造装置の機械強度の劣化に影響することが考えられ好ましくない。
【0035】
また、ルツボ軸16に振動を与える時間は1分以上60分以下であることが好ましく、30分以上60分以下であることがさらに好ましい。振動を与える時間が長くなるほど石英ルツボ14の内壁の表面に付着した気泡を引き離す効果は大きくなるが、振動を与える時間が60分以上では石英表面へのダメージが大きくなることに加えて工程時間が長くなり効率的ではない。また、振動を与える時間を1分以上とすることで、石英ルツボ14の内壁の表面に付着した気泡を引き離す効果を大きくすることができる。
【0036】
ルツボ軸16に与える振動の周波数は10Hz以上であることが望ましい。10Hzに満たないと、石英ルツボ14の内壁の表面から気泡を引き離すための振動に必要な時間が長くなり、工程時間が長くなるため、生産性が低くなる。また、この周波数の上限は、加振機の性能等によるが特に限定されず、例えば10kHz以下とすればよい。
【0037】
加振機18として具体的には、例えばitalvibras社製の振動モーターを用いることができる。この振動モーターをルツボ移動手段17にボルトで固定し、所望の加振力となるように予め加振力調整ウェイトを設定しておき、電圧を印加することにより、所望の加振力を所定時間加えることができる。
【0038】
上記のようにしてルツボ軸に振動を与えることによって石英ルツボ14の内壁の表面から気泡を取り除いた後に、シリコン融液21に種結晶22を接触させ、通常の方法に従ってシリコン単結晶インゴットを引き上げれば、直径が300mm以上のような大口径であっても、ピンホールの少ないシリコン単結晶インゴットを製造できる。特には、ピンホール不良率が0.1%以下であるシリコン単結晶インゴットを製造することができ、このようなシリコン単結晶インゴットから通常の方法でシリコン単結晶ウェーハを製造すれば、ピンホール不良率が極めて低い直径300mm以上の大口径シリコン単結晶ウェーハを製造することができる。また、このようなシリコン単結晶ウェーハを用いれば、半導体素子を歩留りよく作製することができる。
【実施例】
【0039】
以下、本発明の実施例及び比較例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
(実施例1)
図1に示すようなシリコン単結晶インゴットの製造装置を用いて、以下のようにシリコン単結晶インゴットを製造した。
直径32インチ(口径800mm)の石英ルツボに多結晶シリコンを360kg充填し、Ar流量を200L/min、チャンバー11内の圧力を50mbarとし、抵抗加熱によるヒーター15に通電し多結晶シリコンを融解した。その後、シリコン融液温度を結晶育成時のヒーターパワーよりも5%高い状態に置き、図1に示したようにルツボ移動手段17に装着したitalvibras社製model=600290の加振機18の加振力が4kgfとなるように予め加振力調整ウェイトを設定し、この加振機によってルツボ軸16に50Hzの周波数で30分間振動を与えた。その後、水平磁場をコイルの中心強度で0.4Tとなるように磁場を印加し、シリコン融液温度を調整し種付けを行った。種結晶22の回転速度を8rpmとし、石英ルツボ14を種結晶22の回転とは逆方向に0.5〜2rpmとして直径300mmのシリコン単結晶インゴットを育成した。
【0040】
こうして同様の方法でくり返して育成した直径300mmのシリコン単結晶インゴットから厚さ1mm程度のシリコン単結晶ウェーハをワイヤーソーにより切り出し、通常のシリコン単結晶ウェーハの鏡面処理工程を経て、表面が化学研磨されたポリッシュウェーハを作製した。作製したポリッシュウェーハをパーティクルカウンターのエリアカウントモードで測定しピンホールが含まれるウェーハを認識した。確認のために暗所による目視及び、SEMによる観察を行った。ピンホール発生率は0.09%(39枚/43350枚)と極めて良好な特性が得られた。
【0041】
(実施例2)
ルツボ軸に振動を与える時間を60分とする以外は、上記実施例1と同様の装置及び条件でシリコン単結晶インゴットの製造をくり返し行った。
得られたシリコン単結晶インゴットから上記実施例1と同様の操作によりポリッシュウェーハを作製した。ウェーハのピンホール不良の調査を上記実施例1と同様に行った結果、ピンホール発生率は0.085%(3枚/3529枚)と極めて良好な特性が維持できた。
【0042】
(実施例3)
ルツボ軸に振動を与える時間を90分とする以外は、上記実施例1と同様の装置及び条件でシリコン単結晶インゴットの製造をくり返し行った。
得られたシリコン単結晶インゴットから上記実施例1と同様の操作によりポリッシュウェーハを作製した。ウェーハのピンホール不良の調査を上記実施例1と同様に行った結果、ピンホール発生率は90分の場合は0.087%(4枚/4600枚)と実施例2とほぼ同等の結果が得られた。
【0043】
(比較例)
まず、実施例1と同様に、直径32インチ(口径800mm)の石英ルツボ14に多結晶シリコンを360kg充填し、Ar流量を200L/min、チャンバー11内の圧力を50mbarとし、抵抗加熱のヒーター15に通電し多結晶シリコンを融解した。その後、ルツボ軸16に振動を与えることを行わない以外は実施例1と同様に、水平磁場をコイルの中心強度で0.4Tとなるように磁場を印加し、シリコン融液温度を調整し種付けを行った。種結晶の回転速度を8rpmとし、石英ルツボ14を種結晶の回転とは逆方向に0.5〜2rpmとして直径300mmのシリコン単結晶インゴットをくり返し育成した。
【0044】
得られたシリコン単結晶インゴットから上記実施例1と同様の操作によりポリッシュウェーハを作製した。ウェーハのピンホール不良の調査を上記実施例1と同様に行った。ピンホールの発生率は0.82%(338枚/41200枚)であった。また、このような、ピンホールと判定されたウェーハをSEMにより観察した結果、図3に示すように結晶性ピンホールであることを確認した。
【0045】
以上の実施例、比較例の結果を表1に示した。
【0046】
【表1】

【0047】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【0048】
例えば、本発明においては、加振機はルツボ軸に振動を与えることができれば、その装着位置や機構は特に限定されない。また、上記実施例では単結晶育成時に磁場を印加する、いわゆるMCZ法によるシリコン単結晶インゴットの製造を行ったが、磁場を印加しない通常のCZ法によるものであってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明に係るシリコン単結晶インゴットの製造に用いるチョクラルキー法によるシリコン単結晶インゴットの製造装置の一例を示す概略図である。
【図2】シリコン融液中の気泡の大きさと浮力との関係を示す図である。
【図3】比較例のシリコン単結晶インゴットから製造されたシリコン単結晶ウェーハにおいて生じたピンホールのSEMによる観察図である。
【符号の説明】
【0050】
10…シリコン単結晶インゴットの製造装置、 11…チャンバー、
12…引き上げワイヤー、 13…シリコン単結晶インゴット、 14…石英ルツボ、
15…ヒーター、 16…ルツボ軸、 17…ルツボ移動手段、 18…加振機、
19…黒鉛ルツボ、 21…シリコン融液、 22…種結晶、
23…シードチャック、 31…ルツボ回転モーター、 32…ルツボ上下動モーター。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、石英ルツボ内の多結晶シリコンを融解してシリコン融液とする工程と、該シリコン融液に種結晶を接触させた後引き上げることによってシリコン単結晶インゴットを育成する工程とを有するチョクラルスキー法によるシリコン単結晶インゴットの製造方法であって、前記石英ルツボ中の多結晶シリコンを融解してシリコン融液とする工程と前記シリコン融液に種結晶を接触させた後引き上げることによってシリコン単結晶インゴットを育成する工程との間に、前記石英ルツボを支持するルツボ軸に振動を与える工程を有することを特徴とするシリコン単結晶インゴットの製造方法。
【請求項2】
前記ルツボ軸に与える振動の加振力は、1.66×10−5kgf以上とすることを特徴とする請求項1に記載のシリコン単結晶インゴットの製造方法。
【請求項3】
前記ルツボ軸に振動を与える時間は、1分以上60分以下とすることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のシリコン単結晶インゴットの製造方法。
【請求項4】
前記ルツボ軸に与える振動の周波数は、10Hz以上であることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載のシリコン単結晶インゴットの製造方法。
【請求項5】
前記石英ルツボ中の多結晶シリコンを融解してシリコン融液とする工程の炉内圧力を、5〜60mbarとすることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか一項に記載のシリコン単結晶インゴットの製造方法。
【請求項6】
少なくとも、チャンバーと、該チャンバー内に配置された石英ルツボと、該石英ルツボを回転上下動自在に支持するルツボ軸と、前記石英ルツボ内の多結晶シリコンを加熱するヒーターとを備えた、チョクラルスキー法によるシリコン単結晶インゴットの製造装置であって、少なくとも、前記ルツボ軸に振動を与える加振機を具備することを特徴とするシリコン単結晶インゴットの製造装置。
【請求項7】
直径が300mm以上のシリコン単結晶インゴットであって、該シリコン単結晶インゴットから切り出されたシリコン単結晶ウェーハのピンホール不良率が0.1%以下であることを特徴とするシリコン単結晶インゴット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−210803(P2007−210803A)
【公開日】平成19年8月23日(2007.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−29162(P2006−29162)
【出願日】平成18年2月7日(2006.2.7)
【出願人】(000190149)信越半導体株式会社 (867)
【Fターム(参考)】