説明

シリコン単結晶製造装置、シリコン単結晶の製造方法及び誘導加熱コイルの加工方法

【課題】冷却水路の酸化を抑制可能なFZ(浮遊帯域溶融)法によるシリコン単結晶製造装置、シリコン単結晶の製造方法及び誘導加熱コイルの加工方法を提供する。
【解決手段】FZ法によるシリコン単結晶の成長を行う反応炉と、反応炉内に収容され、シリコン単結晶の原料となる原料シリコン素材を保持する原料保持具と、反応炉内に収容され、原料シリコン素材を部分的に加熱して溶融帯を形成し、溶融帯を凝固させてシリコン単結晶の成長を行う誘導加熱コイル4と、を備え、誘導加熱コイル4は、誘導加熱コイル4を冷却する冷却水が流通し、冷却水による酸化を防止する被膜45が形成された冷却水路44を誘導加熱コイル4の内部に有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、FZ(Floating Zone:浮遊帯域溶融)法によりシリコン単結晶を製造するシリコン単結晶製造装置、シリコン単結晶の製造方法及び誘導加熱コイルの加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、FZ法によりシリコン単結晶を製造するシリコン単結晶製造装置は、シリコン単結晶の成長を行う反応炉と、シリコン単結晶の原料となる原料シリコン素材を保持する原料保持具と、原料シリコン素材を部分的に加熱して溶融帯を形成し溶融帯を凝固させてシリコン単結晶の成長を行う誘導加熱コイルと、シリコン単結晶を保持する単結晶保持具と、を備えている。
【0003】
誘導加熱コイルは、銅又は銀を主体として形成され、原料シリコン素材の外周を囲むリング形状の部材である(例えば、特許文献1参照)。特許文献1に記載のFZ法による単結晶製造装置は、少なくとも、原料シリコン素材及びシリコン単結晶を収容するチャンバと、原料シリコン素材とシリコン単結晶の間に溶融帯を形成するための熱源となる誘導加熱コイルとを有しており、原料シリコン素材、シリコン単結晶及び溶融帯のいずれか一つ以上と誘導加熱コイルとの間の放電を防ぐために、誘導加熱コイルの表面の全部又は一部に絶縁性材料の被膜を形成している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−169060号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このような誘導加熱コイルは、誘導加熱コイルを冷却する冷却水が流通する冷却水路を誘導加熱コイルの内部に有している。冷却水路には、誘導加熱コイルを形成する銅又は銀が露出しているため、単結晶の製造を繰り返し行うと、冷却水により冷却水路が酸化して、冷却水路に汚染物質(例えば、酸化銅)が形成される。冷却水路に汚染物質が形成されると、誘導加熱コイルによる原料シリコン素材の加熱が不安定になり、シリコン単結晶の品質に影響を与えてしまう。そのため、一定頻度で誘導加熱コイルを交換し、冷却水路に形成された汚染物質を取り除くため酸で洗浄する必要があった。特に原料シリコン素材やシリコン単結晶の口径が大きく、加熱量が大きいプロセスほど汚染物質によるシリコン単結晶の品質への影響が顕著であり、誘導加熱コイルを頻繁に交換する必要があった。
【0006】
本発明は、冷却水路の酸化を抑制可能なシリコン単結晶製造装置、シリコン単結晶の製造方法及び誘導加熱コイルの加工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のシリコン単結晶製造装置は、FZ法によるシリコン単結晶の成長を行う反応炉と、前記反応炉内に収容され、前記シリコン単結晶の原料となる原料シリコン素材を保持する原料保持具と、前記反応炉内に収容され、前記原料シリコン素材を部分的に加熱して溶融帯を形成し、該溶融帯を凝固させてシリコン単結晶の成長を行う誘導加熱コイルと、を備え、前記誘導加熱コイルは、該誘導加熱コイルを冷却する冷却水が流通し、前記冷却水による酸化を防止する被膜が形成された冷却水路を前記誘導加熱コイルの内部に有することを特徴とする。
【0008】
また、前記シリコン単結晶製造装置において、前記被膜は、耐熱性及び絶縁性を有することが好ましい。
【0009】
また、前記シリコン単結晶製造装置において、前記被膜は、樹脂材料又は無機材料を主体として形成されることが好ましい。
【0010】
また、前記シリコン単結晶製造装置において、前記樹脂材料は、ポリイミド系樹脂、ポリテトラフルオロエチレン、ポリベンゾイミダゾールのうちのいずれか一つを含むことが好ましい。
【0011】
また、前記シリコン単結晶製造装置において、前記無機材料は、各種の窒化膜(例えば窒化珪素、窒化アルミニウム)、各種の酸化膜(例えば酸化珪素、酸化アルミニウム)、又はアモルファスダイヤモンド等のうちのいずれか一つを含むことが好ましい。
【0012】
本発明のシリコン単結晶の製造方法は、前記シリコン単結晶製造装置を用いてFZ法によりシリコン単結晶を製造することを特徴とする。
【0013】
本発明の誘導加熱コイルの加工方法は、FZ法によるシリコン単結晶の成長に用いられ、原料シリコン素材を部分的に加熱溶融して、溶融帯を形成し、該溶融帯を凝固させてシリコン単結晶の成長を行う誘導加熱コイルの加工方法であって、前記誘導加熱コイルの内部に形成され前記誘導加熱コイルを冷却する冷却水が流通する冷却水路を酸洗浄する酸洗浄工程と、耐熱性及び絶縁性を有する材料を含有するコーティング液を前記冷却水路内に充填して、前記冷却水路内に被膜を形成する被膜形成工程と、前記コーティング液を前記冷却水路内から排出した後、前記被膜を乾燥させて、該被膜を定着させる定着工程と、を備えることを特徴とする。
【0014】
本発明の誘導加熱コイルの加工方法は、FZ法によるシリコン単結晶の成長に用いられ、原料シリコン素材を部分的に加熱溶融して、溶融帯を形成し、該溶融帯を凝固させてシリコン単結晶の成長を行う誘導加熱コイルの加工方法であって、前記誘導加熱コイルは、上部コイルと下部コイルとを接合させることにより前記誘導加熱コイルの内部に前記誘導加熱コイルを冷却する冷却水が流通する冷却水路を形成するものであり、前記冷却水路を酸洗浄する酸洗浄工程と、前記冷却水路が露出している状態において、物理気相成長法又は化学気相成長法によって前記冷却水路の表面に被膜を形成する被膜形成工程と、前記上部コイル及び前記下部コイルを接合する接合工程と、を備えることを特徴とする誘導加熱コイルの加工方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、冷却水路の酸化を抑制可能なシリコン単結晶製造装置、シリコン単結晶の製造方法及び誘導加熱コイルの加工方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本実施形態のシリコン単結晶製造装置1を模式的に示す側面図である。
【図2】図2(a)は、誘導加熱コイル4の外形を示す斜視図であり、図2(b)は、誘導加熱コイル4の断面構造を示す図である。
【図3】本発明の誘導加熱コイルの加工方法の一実施形態を示すフローチャートである。
【図4】誘導加熱コイルに形成された汚染物質を電子線マイクロアナライザにより測定した結果を示すグラフである。
【図5】誘導加熱コイルに形成された汚染物質をX線回折により測定した結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明のシリコン単結晶製造装置の一実施形態について図面を参照しながら説明する。図1は、本実施形態のシリコン単結晶製造装置1を模式的に示す側面図である。図1に示すように、シリコン単結晶製造装置1は、反応炉2と、原料保持具3と、誘導加熱コイル4と、種結晶保持具5と、単結晶重量保持具6と、ガスドープ装置7と、制御装置8と、を備える。
【0018】
反応炉2は、原料保持具3、誘導加熱コイル4、種結晶保持具5、単結晶重量保持具6、原料シリコン素材9、シリコン単結晶10、溶融帯11及び種結晶12を収容し、FZ法によるシリコン単結晶の成長を行う。
【0019】
原料保持具3は、反応炉2内に収容され、シリコン単結晶10の原料となる原料シリコン素材9の上端部を保持する部材である。原料保持具3は、その真上に位置する上軸21に装着される。上軸21は、回転可能に構成され、かつ上下方向に移動可能に構成される。
【0020】
誘導加熱コイル4は、反応炉2内に収容されている。誘導加熱コイル4は、原料シリコン素材9を部分的に加熱して溶融帯11を形成し、溶融帯11を凝固させてシリコン単結晶10の成長を行う。誘導加熱コイル4は、銅又は銀を主体として形成され、原料シリコン素材9の外周を囲むリング形状の部材である。「銅又は銀を主体として形成される」とは、例えば、全体が銅又は銀から形成される場合の他、大部分が銅又は銀から形成され、残りの部分が銅又は銀以外の物質で形成される場合も含む。例えば、誘導加熱コイル4のうち、他の部材との連結に用いられる部分や補強すべき部分のみに銅又は銀以外の金属部材等を用いてもよい。
【0021】
種結晶保持具5は、種結晶12、及び種結晶12上に形成されるシリコン単結晶10を保持して固定する部材である。種結晶保持具5は、その直下に位置する下軸22に装着される。下軸22は、回転可能に構成され、かつ上下方向に移動可能に構成される。
単結晶重量保持具6は、成長したシリコン単結晶10における下部テーパ部10aを保持する部材である。単結晶重量保持具6は、シリコン単結晶10の重量の大部分を受け止め、種結晶12にシリコン単結晶10の重量がほとんど掛からないようにしている。
【0022】
ガスドープ装置7は、ガスボンベ71と、流量制御バルブ72と、ドープガスノズル73と、を備える。
制御装置8は、CPU(Central Processing Unit)、記憶装置(いずれも図示せず)等を備え、流量制御バルブ72を制御することによりガスボンベ71から供給されるドーパントガスの流量の制御を行う。
【0023】
ガスボンベ71には、ドーパントガスが高圧状態で収容される。
流量制御バルブ72は、制御装置8の制御に従ってバルブの開閉を行う。
ドープガスノズル73は、誘導加熱コイル4の近傍に配置され、流量制御バルブ72により流量が制御されたドーパントガスを溶融帯11へ供給する。ドープガスノズル73により溶融帯11へドーパントガスが供給されることにより、不純物は、溶融帯11、つまりシリコン単結晶10に取り込まれる。
【0024】
このようなシリコン単結晶製造装置1は、誘導加熱コイル4により原料シリコン素材9の下端部を加熱して溶融帯11を形成する。そして、シリコン単結晶製造装置1は、溶融帯11を種結晶12に融着させた後に、原料シリコン素材9及びシリコン単結晶10を回転させると共に上軸21及び下軸22の軸線方向に下降させることにより、溶融帯11からシリコン単結晶10を成長させる。
【0025】
図2(a)は、誘導加熱コイル4の外形を示す斜視図であり、図2(b)は、誘導加熱コイル4の断面構造を示す図である。図2に示すように、誘導加熱コイル4は、本体40と、スリット41と、誘導加熱コイル4に電流を供給する電源端子42及び43と、を備える。
【0026】
図2に示すように、本体40は、略円盤状の外形を有する。本体40は、その内部に、冷却水路44を有している。冷却水路44は、本体40の外周に沿って湾曲しており、略C形状(ほぼ環状であるが、切れ目を有しており、完全な環状ではない形状)を有する。冷却水路44には、誘導加熱コイル4を冷却する冷却水が流通する。
【0027】
スリット41は、本体40に、誘導加熱コイル4の外周側から内周側に亘って径方向に形成されている。
電源端子42及び43は、スリット41を基準として左右対称に形成され、誘導加熱コイル4へ電流を供給する。また、誘導加熱コイル4の本体40は、誘導加熱コイル4の外部から冷却水路44に冷却水を導入するための入口部と、冷却水路44から冷却水を誘導加熱コイル4の外部へ排出するための出口部(いずれも図示せず)と、を備える。
【0028】
スリット41は、電源端子42と電源端子43との間に形成される。また、スリット41は、略C形状の冷却水路44における切れ目を形成する。
【0029】
図2(b)に示すように、冷却水路44の内面には、被膜45が形成されている。被膜45は、冷却水による酸化を防止するために設けられる。
被膜45は、耐熱性及び絶縁性を有することが好ましく、樹脂材料又は無機材料を主体として形成されることがより好ましい。ここで、「樹脂材料又は無機材料を主体として形成される」とは、例えば、被膜45の全体が樹脂材料又は無機材料から形成される場合の他、被膜45の大部分が樹脂材料又は無機材料から形成され、被膜45に微量の他の材料を含有する場合も含む。例えば、被膜45の大部分が樹脂材料で形成され、被膜45が微量の添加剤等を含有してもよい。また、誘導加熱コイル4は、100℃以上に加熱されるため、100℃以上の耐熱性を有することがより好ましい。
【0030】
被膜45が樹脂材料を主体として形成される場合には、被膜45は、ポリイミド系樹脂、ポリテトラフルオロエチレン、ポリベンゾイミダゾールのうちのいずれか一つを含むことが好ましい。
【0031】
また、被膜45が無機材料を主体として形成される場合には、被膜45は、各種の窒化膜(例えば窒化珪素、窒化アルミニウム)、各種の酸化膜(例えば酸化珪素、酸化アルミニウム)、又はアモルファスダイヤモンド等のうちのいずれか一つを含むことが好ましい。
【0032】
次に、本実施形態の誘導加熱コイルの加工方法について、図3を参照しながら説明する。図3は、本発明の誘導加熱コイルの加工方法の一実施形態を示すフローチャートである。図3に示すように、本実施形態の誘導加熱コイルの加工方法は、酸洗浄工程S1と、被膜形成工程S2と、定着工程S3と、を備える。
【0033】
(S1)酸洗浄工程
まず、誘導加熱コイル4の入口部から塩酸を導入して、冷却水路44内の酸洗浄を行い、洗浄後の塩酸を出口部から排出する。次に、誘導加熱コイル4の入口部から硝酸を導入して、冷却水路44内の酸洗浄を行い、洗浄後の硝酸を出口部から排出する。最後に、残った酸を除去するために、純水を導入してリンスを行う。これにより、誘導加熱コイル4に被膜45を形成する前に、冷却水路44内に付着した汚染(酸化膜や誘導加熱コイル製作時の切削油等)を除去することができる。
【0034】
(S2)被膜形成工程
酸洗浄工程S1を経た後、入口部から耐熱性及び絶縁性を有する材料を含有するコーティング液を冷却水路44内に充填形成する。そして、一定期間後に、冷却水路44内に充填されたコーティング液を出口部から排出する。冷却水路44の内面に膜状に残留したコーティング液は、被膜45を形成する。
【0035】
(S3)定着工程
コーティング液を冷却水路44内から排出した後、被膜45を乾燥させて、被膜45を冷却水路44に定着させる。被膜45を乾燥させる際には、誘導加熱コイル4を高温で熱して被膜45を乾燥させることにより定着させてもよく、あるいは、被膜45を常温で乾燥させて定着させてもよい。また、被膜を形成する手法としては、コーティング液を用いた被膜の形成に限定されるものではなく、他の適切な手法を選択することもできる。例えば、誘導加熱コイル4の製造工程において、上部コイルと下部コイルとを接合させることにより誘導加熱コイル4の内部に誘導加熱コイル4を冷却する冷却水が流通する冷却水路44を形成するものであり、誘導加熱コイル4の冷却水路44が露出している状態において、例えばPVD(物理気相成長)法、CVD(化学気相成長)法等によって冷却水路44の表面に被膜を形成する。その後、上部コイル及び下部コイルを接合(例えば、溶接)して、誘導加熱コイル4を製造してもよい。
【0036】
以上説明したように本実施形態のシリコン単結晶製造装置1、シリコン単結晶の製造方法及び誘導加熱コイルの加工方法によれば、例えば以下の効果が奏される。
本実施形態のシリコン単結晶製造装置1は、FZ法によるシリコン単結晶の成長を行う反応炉2と、反応炉2内に収容され、シリコン単結晶10の原料となる原料シリコン素材9を保持する原料保持具3と、反応炉2内に収容され、原料シリコン素材9を部分的に加熱して溶融帯11を形成し、溶融帯11を凝固させてシリコン単結晶10の成長を行う誘導加熱コイル4と、を備え、誘導加熱コイル4は、誘導加熱コイル4を冷却する冷却水が流通し、冷却水による酸化を防止する被膜45が形成された冷却水路44を誘導加熱コイル4の内部に有する。
【0037】
そのため、本実施形態のシリコン単結晶製造装置1によれば、冷却水により冷却水路44が酸化して、冷却水路44に汚染物質が形成されることが抑制されるため、誘導加熱コイル4による原料シリコン素材9の加熱が安定化し、シリコン単結晶10の品質の安定化を図ることができる。また、冷却水路44に汚染物質が形成されることを抑制できるため、誘導加熱コイル4の交換頻度を低減させることができ、シリコン単結晶を製造する工程全体の作業時間(サイクルタイム)を短縮することができる。
【0038】
また、従来の誘導加熱コイルでは、誘導加熱コイル4を交換するたびに冷却水路44に形成された汚染物質を除去するための酸洗浄工程(例えば、塩酸洗浄、硝酸洗浄等)を行う必要があった。これに対して、本実施形態のシリコン単結晶製造装置1によれば、冷却水路44に形成された被膜45により冷却水路44に汚染物質が形成されることが抑制されるため、上述した酸洗浄工程を省くことができ、サイクルタイムを短縮することができる。
【0039】
また、近年、シリコン単結晶の取得率を向上させるため、原料シリコン素材の大型化が進み、これに伴ってサイクルタイムの増加が進んでいる。本実施形態のシリコン単結晶製造装置1によれば、上述したように誘導加熱コイル4の交換頻度を低減させることができ、かつ酸化銅を除去するための酸洗浄工程を省くことができるため、原料シリコン素材の大型化に伴うサイクルタイムの増加を抑制することができる。
【0040】
また、本実施形態のシリコン単結晶製造装置1を用いてFZ法によりシリコン単結晶10を製造することにより、シリコン単結晶10を好適に得ることができる。
【0041】
また、本実施形態の誘導加熱コイルの加工方法は、誘導加熱コイル4の内部に形成され誘導加熱コイル4を冷却する冷却水が流通する冷却水路44を酸洗浄する酸洗浄工程S1と、耐熱性及び絶縁性を有する材料を含有するコーティング液を冷却水路44内に充填して、冷却水路44内に被膜45を形成する被膜形成工程S2と、コーティング液を冷却水路44内から排出した後、被膜45を乾燥させて、被膜45を定着させる定着工程S3と、を備える。これにより、冷却水路44内に被膜45を好適に形成することが可能となる。
【0042】
以上、本発明のシリコン単結晶製造装置、シリコン単結晶の製造方法及び誘導加熱コイルの加工方法について説明したが、本発明は、前述した実施形態に制限されるものではない。例えば、誘導加熱コイル4は、冷却水が流通する冷却水路44を有してれば、上述した形状以外の形状を有するものであってもよい。
【0043】
[汚染物質の同定]
汚染物質の同定を以下の通りに行った。
誘導加熱コイルに形成された汚染物質の同定を電子線マイクロアナライザ(Electron Probe MicroAnalyser:EPMA)及びX線回折(X−ray diffraction:XRD)を用いて行った。
【0044】
図4は、誘導加熱コイルに形成された汚染物質を電子線マイクロアナライザにより測定した結果を示すグラフである。図4に示すように、丸(●)で示されるピークは銅(Cu)であり、三角(▲)で示されるピークは酸素(O)であり、四角(■)で示されるピークは炭素(C)である。図4に示す電子線マイクロアナライザによる汚染物質の測定結果から、汚染物質の主な構成要素は銅及び酸素であることがわかった。汚染物質のない部位をリファレンスとして測定し比較した結果、誘導加熱コイルの汚染物質が形成された部位は、汚染物質が形成されていない部位よりも酸化が進行した状態であることがわかった。
【0045】
図5は、誘導加熱コイルに形成された汚染物質をX線回折により測定した結果を示すグラフである。図5に示すように、丸(○)で示されるピークは銅(Cu)であり、三角(△)で示されるピークは酸化第二銅(CuO)である。図5に示すX線回折による測定結果において酸化第二銅の2つのピークがみられることから、誘導加熱コイルに形成された汚染物質は、酸化第二銅(CuO)であることが同定された。汚染物質のない部位をリファレンスとして測定した結果においては、誘導加熱コイルの母体材料である銅のピークのみが検出された。従って、汚染部位が酸化第二銅(CuO)であることが更に明確となった。
【実施例】
【0046】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0047】
[実施例]
実施例は、誘導加熱コイル4の冷却水路44に被膜45を形成した例である。
まず、誘導加熱コイル4の入口部から塩酸を導入して、冷却水路44内の酸洗浄を行った。塩酸を冷却水路44から排出した後、誘導加熱コイル44の入口部から硝酸を導入して、冷却水路44内の酸洗浄を行い、洗浄後に硝酸を冷却水路44から排出した。その後同様に純水を導入してリンスを行い、残留している酸を除去した。
【0048】
酸洗浄の後、コーティング液(樹脂系材料)としてポリイミド系樹脂を用い、冷却水路44にコーティング液を充填して、冷却水路44内に被膜45を形成した。そして、一定期間後に、冷却水路44内に充填されたコーティング液を出口部から排出した。
【0049】
コーティング液を冷却水路44内から排出した後、被膜45を常温で乾燥させて、被膜45を冷却水路44に定着させた。
【0050】
冷却水路44に被膜45が形成された誘導加熱コイル4を用いてシリコン単結晶製造装置1によりシリコン単結晶9の成長を行い、直径200mm、長さ700mmの無転位のシリコン単結晶を15本連続して取得することができた。
【0051】
[比較例]
比較例は、誘導加熱コイル4の冷却水路44に被膜45を形成していない例である。それ以外の構成及び評価方向は、実施例と同じである。
【0052】
比較例においては、冷却水路44に被膜45が形成されていない誘導加熱コイル4を用いてシリコン単結晶製造装置1によりシリコン単結晶9の成長を行うと、直径200mm、長さ700mmの無転位のシリコン単結晶を2本連続して取得することができた。しかし、冷却水路44に形成された汚染物質を除去せずに、誘導加熱コイル4を再使用してシリコン単結晶の製造を試みたところ、そのシリコン単結晶には、転位が発生し、不良品となった。
【符号の説明】
【0053】
1 シリコン単結晶製造装置
2 反応炉
3 原料素材保持具
4 誘導加熱コイル
5 種結晶保持具
6 単結晶重量保持具
7 ガスドープ装置
8 制御装置
9 原料シリコン素材
10 シリコン単結晶
11 溶融帯
12 種結晶
40 本体
41 スリット
42 電源端子
43 電源端子
44 冷却水路
45 被膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
FZ法によるシリコン単結晶の成長を行う反応炉と、
前記反応炉内に収容され、前記シリコン単結晶の原料となる原料シリコン素材を保持する原料保持具と、
前記反応炉内に収容され、前記原料シリコン素材を部分的に加熱して溶融帯を形成し、該溶融帯を凝固させてシリコン単結晶の成長を行う誘導加熱コイルと、を備え、
前記誘導加熱コイルは、該誘導加熱コイルを冷却する冷却水が流通し、前記冷却水による酸化を防止する被膜が形成された冷却水路を前記誘導加熱コイルの内部に有することを特徴とするシリコン単結晶製造装置。
【請求項2】
前記被膜は、耐熱性及び絶縁性を有することを特徴とする請求項1に記載のシリコン単結晶製造装置。
【請求項3】
前記被膜は、樹脂材料又は無機材料を主体として形成されることを特徴とする請求項1又は2に記載のシリコン単結晶製造装置。
【請求項4】
前記樹脂材料は、ポリイミド系樹脂、ポリテトラフルオロエチレン、ポリベンゾイミダゾールのうちのいずれか一つを含むことを特徴とする請求項3に記載のシリコン単結晶製造装置。
【請求項5】
前記無機材料は、窒化珪素、窒化アルミニウム、酸化珪素、酸化アルミニウム、アモルファスダイヤモンドのうちのいずれか一つを含むことを特徴とする請求項3に記載のシリコン単結晶製造装置。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか一項に記載のシリコン単結晶製造装置を用いてFZ法によりシリコン単結晶を製造することを特徴とするシリコン単結晶の製造方法。
【請求項7】
FZ法によるシリコン単結晶の成長に用いられ、原料シリコン素材を部分的に加熱溶融して、溶融帯を形成し、該溶融帯を凝固させてシリコン単結晶の成長を行う誘導加熱コイルの加工方法であって、
前記誘導加熱コイルの内部に形成され前記誘導加熱コイルを冷却する冷却水が流通する冷却水路を酸洗浄する酸洗浄工程と、
耐熱性及び絶縁性を有する材料を含有するコーティング液を前記冷却水路内に充填して、前記冷却水路内に被膜を形成する被膜形成工程と、
前記コーティング液を前記冷却水路内から排出した後、前記被膜を乾燥させて、該被膜を定着させる定着工程と、を備えることを特徴とする誘導加熱コイルの加工方法。
【請求項8】
FZ法によるシリコン単結晶の成長に用いられ、原料シリコン素材を部分的に加熱溶融して、溶融帯を形成し、該溶融帯を凝固させてシリコン単結晶の成長を行う誘導加熱コイルの加工方法であって、
前記誘導加熱コイルは、上部コイルと下部コイルとを接合させることにより前記誘導加熱コイルの内部に前記誘導加熱コイルを冷却する冷却水が流通する冷却水路を形成するものであり、前記冷却水路を酸洗浄する酸洗浄工程と、
前記冷却水路が露出している状態において、物理気相成長法又は化学気相成長法によって前記冷却水路の表面に被膜を形成する被膜形成工程と、前記上部コイル及び前記下部コイルを接合する接合工程と、を備えることを特徴とする誘導加熱コイルの加工方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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