説明

シリコン酸化物除去装置及びシリコン単結晶製造装置の不活性ガス回収設備

【課題】シリコン単結晶製造装置から排出される不活性ガス中のシリコン酸化物の除去効果を低コストで向上でき、このシリコン酸化物が効果的に除去された不活性ガスを再利用可能とするシリコン酸化物除去装置及びシリコン単結晶製造装置の不活性ガス回収設備を提供する。
【解決手段】シリコン単結晶製造装置20から排出される不活性ガス中のシリコン酸化物を除去するシリコン酸化物除去装置1であって、少なくとも、前記シリコン単結晶製造装置20から排出される不活性ガスを強アルカリ溶液8に接触させる手段と、該強アルカリ溶液8に接触させた不活性ガスを中和させる手段5とを具備するシリコン酸化物除去装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体用及び太陽電池用等のシリコン単結晶を製造するチョクラルスキー法(CZ法)によるシリコン単結晶製造装置から排出される不活性ガス成分中のシリコン酸化物除去及び不活性ガス回収設備に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体用及び太陽電池用等のシリコン単結晶をCZ法によって棒状単結晶として得る方法が広く用いられている。図5に従来から一般的に用いられているシリコン単結晶製造装置の概略図を示す。図5に示すように、シリコン単結晶製造装置20は、一般的にシリコン融液21が収容された昇降動可能なルツボ22、23と、該ルツボ22、23を取り囲むように配置されたヒータ24が単結晶25を育成するメインチャンバ26内に配置されており、該メインチャンバ26の上部には育成した単結晶25を収容し取り出すためのプルチャンバ27が連設されている。
【0003】
また、炉内に発生した酸化物を炉外に排出する等を目的とし、プルチャンバ27上部に設けられたガス導入口28からアルゴンガス等の不活性ガスが導入され、黒鉛製の整流筒30によって単結晶25の近傍まで整流されて、ガス流出口29から排出される。そして、シリコン融液21に種結晶31を接触させて単結晶25を育成する。
【0004】
また、炉内圧を大気圧近傍にした雰囲気で引上げを行う常圧引上げ法と、炉内を低真空領域(10−500hPa)にして減圧雰囲気下で単結晶の引上げを行う減圧法とがあり、減圧法が主流となっている。
このようなシリコン単結晶の製造の際、シリコン単結晶製造装置20から排出される不活性ガス中には、装置内で発生するシリコン酸化物や、CO、CO、O、N、及びH等の不純物ガスが含まれる。
【0005】
近年、シリコン単結晶の生産規模が拡大するに伴って不活性ガスの使用量も増大し、シリコン単結晶製造装置から排出される不活性ガスを回収して再利用することがコスト削減のための重要な課題となっており、そのためには排出された不活性ガス中に含まれる上記したシリコン酸化物や不純物ガスを除去し、精製する必要がある。
【0006】
従来、このような不活性ガスの回収のための設備として、シリコン単結晶製造装置に油回転式真空ポンプ、ガスの精製装置等が接続されたものが一般的であった。しかし、真空ポンプに油を使用しているためシリコン単結晶製造装置から排出される高温に加熱された不活性ガス中にオイルミストが含まれてしまい、このオイルミストの分離回収が難しく、また大気中に放出されると環境汚染となるなどの問題があった。この対策として水封式真空ポンプも利用されてきたが、水封式真空ポンプは大量の水が必要となると共に、多量の電力も消費し、コスト高となってしまう。
【0007】
そこで、このような2つの湿式タイプのポンプに対してコストの削減が可能な乾式タイプの所謂ドライポンプが一般的となってきた。例えば、このようなドライポンプの後段に湿式のバブリング缶、電気集塵機及び精製装置等が設けられた不活性ガス回収装置が開示されている(特許文献1参照)。
また、単結晶製造炉から排出されたシリコン酸化物などの粉塵が含まれた排ガスをベンチュリースクラバーに導入して粉塵を除去する方法が知られている(特許文献2参照)。
【0008】
しかし、このような従来の装置及び方法を用いて不活性ガス中のシリコン酸化物の除去を行っても、シリコン酸化物が数μmオーダーの微粉末であるため、その集塵効果は必ずしも十分ではなく、メインテナンス性も低く、運転コストも高額になっていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第2853757号
【特許文献2】特公平6−24962号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は前述のような問題に鑑みてなされたもので、シリコン単結晶製造装置から排出される不活性ガス中のシリコン酸化物の除去効果を低コストで向上でき、このシリコン酸化物が効果的に除去された不活性ガスを再利用可能とするシリコン酸化物除去装置及びこれを用いたシリコン単結晶製造装置の不活性ガス回収設備を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、本発明によれば、シリコン単結晶製造装置から排出される不活性ガス中のシリコン酸化物を除去するシリコン酸化物除去装置であって、少なくとも、前記シリコン単結晶製造装置から排出される不活性ガスを強アルカリ溶液に接触させる手段と、該強アルカリ溶液に接触させた不活性ガスを中和させる手段とを具備することを特徴とするシリコン酸化物除去装置が提供される。
【0012】
このように、少なくとも、前記シリコン単結晶製造装置から排出される不活性ガスを強アルカリ溶液に接触させる手段と、該強アルカリ溶液に接触させた不活性ガスを中和させる手段とを具備すれば、シリコン単結晶製造装置から排出される不活性ガス中のシリコン酸化物を効果的に分離してその除去効果を低コストで向上できるものとなり、シリコン酸化物が効果的に除去された不活性ガスを再利用可能となる。またこのような微粉末のシリコン酸化物を強アルカリと反応させて中和するシリコン酸化物除去装置であればメインテナンス性も高く、運転コストも低コストに抑えることができるものとなる。
【0013】
このとき、前記シリコン単結晶製造装置から排出される不活性ガスを強アルカリ溶液に接触させる手段は、スクラバー、エゼクター、ミキサー、及びナッシュポンプのいずれか、又はこれら2つ以上を組み合わせたものであることが好ましい。
このように、前記シリコン単結晶製造装置から排出される不活性ガスを強アルカリ溶液に接触させる手段が、スクラバー、エゼクター、ミキサー、及びナッシュポンプのいずれか、又はこれら2つ以上を組み合わせたものであれば、強アルカリ溶液とシリコン酸化物とを効率的に接触させてシリコン酸化物の溶解を促進し、その除去効果をより効果的に向上できるものとなる。
【0014】
このとき、前記強アルカリ溶液に接触させた不活性ガスを中和させる手段を、水洗スクラバー又は酸スクラバーとすることができる。
このように、前記強アルカリ溶液に接触させた不活性ガスを中和させる手段を、水洗スクラバー又は酸スクラバーとすれば、簡単な設備で強アルカリ溶液に接触させた不活性ガスを中和させることができる。
【0015】
またこのとき、前記シリコン単結晶製造装置から排出される不活性ガスに接触させる前記強アルカリ溶液を加熱する機構を有することが好ましい。
このように、前記シリコン単結晶製造装置から排出される不活性ガスに接触させる前記強アルカリ溶液を加熱する機構を有するものであれば、不活性ガスに接触させる強アルカリ溶液を加熱することでシリコン酸化物の除去効果を向上できるものとなる。
【0016】
またこのとき、前記強アルカリ溶液は苛性ソーダ溶液であることが好ましい。
このように、前記強アルカリ溶液が苛性ソーダ溶液であれば、安価な苛性ソーダ溶液を用いて低コストで実施することができる。
【0017】
また、本発明によれば、シリコン単結晶製造装置から排出される不活性ガスを回収して精製し、該精製した不活性ガスを前記シリコン単結晶製造装置に供給するシリコン単結晶製造装置の不活性ガス回収設備であって、少なくとも、前記不活性ガスを精製する前に、該不活性ガス中のシリコン酸化物を除去する本発明のシリコン酸化物除去装置を具備するものであることを特徴とするシリコン単結晶製造装置の不活性ガス回収設備が提供される。
【0018】
このように、少なくとも、前記不活性ガスを精製する前に、該不活性ガス中のシリコン酸化物を除去する本発明のシリコン酸化物除去装置を具備するものであれば、シリコン単結晶製造装置から排出される不活性ガス中のシリコン酸化物を低コストで効果的に分離、除去でき、高純度に精製された不活性ガスをシリコン単結晶製造装置に供給して再利用することができるものとなる。またこのような微粉末のシリコン酸化物を強アルカリと反応させて中和するシリコン酸化物除去装置を具備する設備であればメインテナンス性も高く、運転コストも低コストに抑えることができるものである。
【発明の効果】
【0019】
本発明では、シリコン単結晶製造装置から排出される不活性ガス中のシリコン酸化物を除去するシリコン酸化物除去装置において、少なくとも、前記シリコン単結晶製造装置から排出される不活性ガスを強アルカリ溶液に接触させる手段と、該強アルカリ溶液に接触させた不活性ガスを中和させる手段とを具備するので、シリコン単結晶製造装置から排出される不活性ガス中のシリコン酸化物を効果的に分離して、その除去効果を低コストで向上できるものとなり、シリコン酸化物が効果的に除去された不活性ガスを再利用可能となる。またこのような微粉末のシリコン酸化物を強アルカリと反応させて中和するシリコン酸化物除去装置であればメインテナンス性も高く、運転コストも低コストに抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明のシリコン酸化物除去装置及びシリコン単結晶製造装置の不活性ガス回収設備の一例を示す概略図である。
【図2】本発明のシリコン酸化物除去装置で用いることができるエゼクターの一例を示す概略図である。
【図3】本発明のシリコン酸化物除去装置で用いることができるスタティックミキサーの一例を示す概略図である。
【図4】本発明のシリコン酸化物除去装置及びシリコン単結晶製造装置の不活性ガス回収設備の別の一例を示す概略図である。
【図5】一般的に用いられているシリコン単結晶製造装置の一例を示す概略図である。
【図6】本発明のシリコン酸化物除去装置で用いることができるナッシュポンプの一例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明について実施の形態を説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
近年のシリコン単結晶の生産規模の拡大に伴い、ここで用いられるアルゴンガス等の不活性ガスの需要も拡大し、シリコン単結晶製造装置から排出される不活性ガスを効率的に回収して再利用することがコスト削減のため重要な課題となっている。そのためには排出された不活性ガス中に含まれるシリコン酸化物を効果的に除去する必要がある。従来、このような不活性ガス中に含まれるシリコン酸化物を除去するために、例えばフィルターを用いたり、ベンチュリースクラバー等のような集塵装置を用いて不活性ガスを水に通してバブリングすることにより除去していた。
【0022】
しかし、このような従来の装置及び方法を用いて不活性ガス中のシリコン酸化物の除去を行っても、シリコン酸化物が数μmオーダーの微粉末であるため、その集塵効果は必ずしも十分ではなくシリコン酸化物の除去効果の更なる向上が課題となっていた。また、除去したシリコン酸化物が微粉末であるため装置のメインテナンス性が低くなってしまい、そのための運転コストも高くなってしまうという問題もあった。
【0023】
そこで、本発明者等はこのような問題を解決すべく鋭意検討を重ねた。その結果、シリコン酸化物を強アルカリ溶液に接触させて分離させれば、その除去効果を向上できることに想到した。また、特にエゼクター、スタティックミキサーなどの攪拌機構を用いれば、撥水性であり、強アルカリ溶液と混ざりにくい微粉末のシリコン酸化物を強アルカリ溶液に効率的に接触させてシリコン酸化物の溶解を促進し、その除去効果をさらに向上できることを見出し、本発明を完成させた。
【0024】
図1は本発明のシリコン酸化物除去装置及びシリコン単結晶製造装置の不活性ガス回収設備の一例を示した概略図である。
図1に示すように、シリコン単結晶製造装置の不活性ガス回収設備10は、シリコン単結晶製造装置20から排出される不活性ガスを回収して精製し、その精製した不活性ガスをシリコン単結晶製造装置20に供給して再利用するものである。また、本発明のシリコン酸化物除去装置1はこのシリコン単結晶製造装置20から排出される不活性ガス中のシリコン酸化物を除去するものである。
【0025】
ここで、本発明で処理する対象である不活性ガスを排出するシリコン単結晶製造装置20について簡単に説明する。
このシリコン単結晶製造装置20は、例えば、図5に示すような一般的に用いられるシリコン単結晶製造装置として構成される。
図5に示すように、シリコン単結晶製造装置20は、シリコン融液21が収容された昇降動可能なルツボ22、23と、該ルツボ22、23を取り囲むように配置された黒鉛ヒータ24が単結晶25を育成するメインチャンバ26内に配置されており、該メインチャンバ26の上部には育成した単結晶25を収容し取り出すためのプルチャンバ27が連設されている。
【0026】
ルツボ22、23は、内側にシリコン融液21を直接収容する石英ルツボ22と、外側に該石英ルツボ22を支持するための黒鉛ルツボ23とから構成されている。
また、炉内に発生したシリコン酸化物を炉外に排出する等を目的とし、プルチャンバ27上部に設けられたガス導入口28からアルゴンガス等の不活性ガスが導入され、黒鉛製の整流筒30によって単結晶25の近傍まで整流されて、ガス流出口29から排出される。そして、シリコン融液21に種結晶31を接触させて単結晶25を育成する。
【0027】
この時、シリコン融液21を収容する石英ルツボ22とシリコン融液21との反応によってシリコン酸化物の微粉末が発生し、また、このシリコン酸化物と黒鉛ヒータ等が反応してCOガスやCOガスが発生すると共に、その他の黒鉛部品等から発生するN、H等の脱ガスが発生する。そのためシリコン単結晶製造装置から排出される不活性ガス中には微粉末のシリコン酸化物及び各種の不純物ガスが含まれている。この不活性ガス中に含まれるシリコン酸化物濃度はおよそ20mg/m程度である。
【0028】
このようなシリコン単結晶製造装置から排出される不活性ガス中のシリコン酸化物を除去する本発明のシリコン酸化物除去装置について以下説明する。
本発明のシリコン酸化物除去装置では強アルカリ溶液として、例えば苛性ソーダ溶液、水酸化カリウム溶液、水酸化リチウム溶液、水酸化ルビジウム溶液、水酸化セシウム溶液等を用いることができる。ここでは苛性ソーダ溶液を用いた場合の例について説明する。
図1に示すように、本発明のシリコン酸化物除去装置1は、強アルカリ溶液(苛性ソーダ溶液)8を貯蔵する貯蔵タンク3、シリコン単結晶製造装置20から排出される不活性ガスを苛性ソーダ溶液8に接触させる手段(接触手段)2、該接触手段2に苛性ソーダ溶液8を供給する循環ポンプ4を有している。
【0029】
そして、貯蔵タンク3内に貯蔵された苛性ソーダ溶液8を循環ポンプ4によって接触手段2へ供給し、その接触手段2によって不活性ガスと苛性ソーダ溶液8とを接触させる。ここで、循環ポンプ4によって苛性ソーダ溶液8を接触手段2へ供給する量は、本発明において特に限定されないが、例えば20L/min程度とすることができる。
【0030】
こうして苛性ソーダ溶液8に接触させた不活性ガス中のシリコン酸化物は以下のように反応して苛性ソーダ溶液8に溶解する。
SiO + 2NaOH → NaSiO + H
ここで、苛性ソーダの溶液濃度は特に限定されないが、例えば10〜50%とすることができる。
【0031】
また、図1に示すように、接触手段2に供給する苛性ソーダ溶液8を加熱する機構7を有することが好ましい。この加熱機構7によって苛性ソーダ溶液8を加熱することでシリコン酸化物の溶解を促進し、その除去効果を高めることができる。特に、温度を50℃以上にすることでシリコン酸化物の除去効果をより効果的に向上できる。
このとき、接触手段2としてスクラバーを用い、スクラバー内で苛性ソーダ溶液に不活性ガスを通過させることによって、排出された不活性ガスと苛性ソーダ溶液とを接触させるようにすることができる。
【0032】
または、接触手段2としてエゼクターを用いることもできる。図2にエゼクターの概略図を示す。図2に示すように、エゼクター40は、中央内部が絞られたチャンバー41と、その中央内部に吸い込み口42を有している。このチャンバー41の入口から苛性ソーダ溶液が流入し(図2のA参照)、内部で絞られた部分を通過する。この時点で苛性ソーダ溶液の流速が増してミスト状となり圧力が低下し、この圧力損失で吸い込み口42から不活性ガスが吸い込まれミスト状の苛性ソーダと接触する。このように苛性ソーダ溶液をミスト状にすることで、シリコン酸化物との接触と溶解を促進することができる。
このとき、強アルカリ溶液との接触時間を5秒以上とすることにより、シリコン酸化物を確実に除去することができる。
【0033】
または、接触手段2としてミキサーを用いることもできる。ミキサーとしては、例えばスタティックミキサーを用いることができる。
図3にスタティックミキサーの概略図を示す。図3に示すように、スタティックミキサー50はチャンバー51内に不活性ガスと苛性ソーダ溶液とを攪拌するための複数のエレメント52を有している。そして、チャンバー51の入口から苛性ソーダ溶液が流入し(図3のA参照)、ガス流入口53から不活性ガスが流入し、接触した両者をエレメント52によって攪拌する。このようにスタティックミキサー50の攪拌効果によりシリコン酸化物との接触と溶解を促進することができる。
【0034】
さらに、接触手段2としてナッシュポンプを用いることもできる。図6にナッシュポンプの概略図を示す。図6に示すように、ナッシュポンプ60は苛性ソーダ溶液を収容する円筒状のケーシング61、ケーシング61の中心軸と偏心した位置に中心軸を有し、その軸周りに回転可能なインペラー62、排気口63、吸気口64を有している。そして、外周に羽根を有したインペラー62を回転させると、ケーシング61の内筒壁に沿って苛性ソーダ溶液が流れて環流を形成してポンプ内を圧縮し、吸気口64から不活性ガスが流入して苛性ソーダ溶液と接触し、インペラー62の回転によって両者が攪拌され、シリコン酸化物との接触と溶解が促進される。そして、シリコン酸化物が除去された不活性ガスは排気口63より排出される。
【0035】
このように、不活性ガスを強アルカリ溶液に接触させる手段2が、スクラバー、エゼクター、ミキサー、又はナッシュポンプのいずれかであれば、強アルカリ溶液とシリコン酸化物とを効率的に接触させてシリコン酸化物の溶解を促進し、その除去効果をより効果的に向上できるものとなる。
或いは、これら2つ以上を組み合わせることにより、さらに強アルカリ溶液とシリコン酸化物との攪拌効果を高めるようなものとしても良い。例えば、図4に示すように、エゼクター40とスタティックミキサー50を直列接続するように構成することができる。このような構成であれば、強アルカリ溶液とシリコン酸化物との攪拌効果を高めてシリコン酸化物の高捕集率を達成することができる。
【0036】
また、図1、図4に示すように、シリコン酸化物除去装置1は、上述のようにして強アルカリ溶液に接触させた不活性ガスを中和させる手段(中和手段)5を有している。
この中和手段5を、例えば水洗スクラバーとして構成し、強アルカリ溶液に接触させた不活性ガスに水を噴射することによって、不活性ガスを中和し、気液分離することができる。或いは、中和手段5を酸スクラバーとして構成し、同様に酸を噴射することによって、例えばアルカリ性である苛性ソーダ溶液や上記反応によって生成されたNaSiO(ケイ酸ナトリウム)を中和し、気液分離することができる。
【0037】
このように本発明のシリコン酸化物除去装置1は、少なくとも、シリコン単結晶製造装置20から排出される不活性ガスを強アルカリ溶液8に接触させる手段2と、該強アルカリ溶液8に接触させた不活性ガスを中和させる手段5とを具備しているので、単結晶製造装置20から排出される不活性ガス中の従来分離が非常に難しかった微粉末のシリコン酸化物を効果的に分離して、その除去効果を低コストで向上できるものとなる。その結果、シリコン酸化物が効果的に除去された不活性ガスの再利用が可能となる。
【0038】
また、本発明のシリコン酸化物除去装置1では、微粉末のシリコン酸化物を強アルカリ溶液8と反応させた後に中和するものであるので、除去後に微粉末を取り扱う必要がないためメインテナンス性が高く、これにより運転コストも低コストに抑えることができる。
また、上記したように、本発明のシリコン酸化物除去装置1では強アルカリ溶液として、苛性ソーダ溶液以外にも、水酸化カリウム溶液、水酸化リチウム溶液、水酸化ルビジウム溶液、水酸化セシウム溶液等を用いることができるが、特に苛性ソーダ溶液はコストが低いため好ましく用いることができる。
【0039】
次に、本発明のシリコン単結晶製造装置の不活性ガス回収設備について以下説明する。
図1、図4に示すように、本発明のシリコン単結晶製造装置の不活性ガス回収設備10は、上記した本発明のシリコン酸化物除去装置1と、不活性ガス中の不純物ガス等を除去する精製装置6を具備している。
そして、シリコン単結晶製造装置20から排出される不活性ガス中のシリコン酸化物を本発明のシリコン酸化物除去装置1により除去し、その後、精製装置6によって不活性ガス中に含まれる各種の不純物ガス等を除去するものとなっている。
【0040】
ここで、精製装置6は、従来と同様に構成することができ、例えば、触媒反応によって不純物ガスをCO、N、H、O等にまとめて転換して吸着剤によって除去するものとすることができる。或いは、液化蒸留法、膜分離法等の方法による精製装置6とすることもできる。
このように本発明のシリコン単結晶製造装置の不活性ガス回収設備は、本発明のシリコン酸化物除去装置によって、従来分離が非常に難しかった微粉末のシリコン酸化物を効果的に分離して除去でき、高純度に精製された不活性ガスをシリコン単結晶製造装置に供給して再利用することができるものである。
【0041】
また、本発明のシリコン単結晶製造装置の不活性ガス回収設備において、微粉末のシリコン酸化物を強アルカリ溶液と反応させて中和するので、除去後に微粉末を取り扱う必要もないためメインテナンス性が高く、これにより運転コストも低コストに抑えることができる。
【0042】
尚、上記したように、本発明のシリコン酸化物除去装置は不活性ガス中のシリコン酸化物を低コストで効果的に除去できるものなので、処理後の不活性ガスを回収する場合のみならず、固形物・微粉末の処理装置として単独に利用することで高効率集塵装置として利用することも可能である。
【実施例】
【0043】
以下、本発明の実施例及び比較例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0044】
(実施例1)
図1及び図4に示すような本発明のシリコン酸化物除去装置を用いて、シリコン単結晶製造装置から排出されたアルゴンガス中のシリコン酸化物を除去した。アルゴンガスは1μm以上のシリコン酸化物が3.3mg/m含まれたものを用いた。また、強アルカリ溶液として、濃度が25%で、60℃に加熱した苛性ソーダ溶液を用いた。また、不活性ガスを強アルカリ溶液に接触させる手段として、スクラバー、エゼクター、スタティックミキサー、及びエゼクターとスタティックミキサーを直列接続したものを用いそれぞれのシリコン酸化物の除去率を評価した。
【0045】
結果を表1に示す。表1に示すように、接触手段がいずれの場合も後述する比較例と比べ除去率が向上しており、特にエゼクターとスタティックミキサーを直列接続したものではシリコン酸化物を完全に除去することができた。
このように、本発明のシリコン酸化物除去装置は、単結晶製造装置から排出される不活性ガス中のシリコン酸化物の除去効果を向上できることが確認できた。
【0046】
(実施例2)
苛性ソーダ溶液の温度を30℃、50℃、60℃、100℃と変化させ、苛性ソーダ溶液の濃度を10〜50%の範囲で変化させて、実施例1と同様にシリコン酸化物の除去を行い、その除去率を評価した。ここで、不活性ガスを苛性ソーダ溶液に接触させる手段として、エゼクターを用いた。
その結果、苛性ソーダ溶液の濃度によってシリコン酸化物の除去率が変化してることが分かった。その濃度が20〜50%であれば、除去率が十分に向上するため好ましく、特に20〜30%の濃度がより好ましいことが確認できた。
また、苛性ソーダ溶液の温度を高くすることでシリコン酸化物の除去率を向上できることが分かった。その温度が50〜100℃であれば、除去率が十分に向上するため好ましく、特に50〜60℃の温度とすれば、例えば容器や配管等に塩化ビニル製のものを用いてコストを削減することもできるので、除去率とコスト面において好ましいことが分かった。
【0047】
(比較例)
従来の不活性ガスを水に通すことによってバブリングするスクラバーを用いて不活性ガス中のシリコン酸化物を除去し、その除去率を評価した。不活性ガスは実施例1と同様の条件のものを用いた。
その結果を表1に示す。表1に示すように、除去率は30%と実施例1の結果と比較して悪化していることが分かる。
【0048】
【表1】

【0049】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【符号の説明】
【0050】
1…シリコン酸化物除去装置、 2…接触手段、 3…貯蔵タンク、
4…循環ポンプ、 5…中和手段、 6…精製装置、 7…加熱機構、
8…強アルカリ溶液、苛性ソーダ溶液、
10…シリコン単結晶製造装置の不活性ガス回収設備、
20…シリコン単結晶製造装置、 40…エゼクター、 41…エゼクタのチャンバー、
42…吸い込み口、 50…スタティックミキサー、
51…スタティックミキサーのチャンバ-、 52…エレメント、 53…ガス流入口、
60…ナッシュポンプ、 61…ケーシング、 62…インペラー、 63…排気口、
64…吸気口。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコン単結晶製造装置から排出される不活性ガス中のシリコン酸化物を除去するシリコン酸化物除去装置であって、
少なくとも、前記シリコン単結晶製造装置から排出される不活性ガスを強アルカリ溶液に接触させる手段と、該強アルカリ溶液に接触させた不活性ガスを中和させる手段とを具備することを特徴とするシリコン酸化物除去装置。
【請求項2】
前記シリコン単結晶製造装置から排出される不活性ガスを強アルカリ溶液に接触させる手段は、スクラバー、エゼクター、ミキサー、及びナッシュポンプのいずれか、又はこれら2つ以上を組み合わせたものであることを特徴とする請求項1に記載のシリコン酸化物除去装置。
【請求項3】
前記強アルカリ溶液に接触させた不活性ガスを中和させる手段は、水洗スクラバー又は酸スクラバーであることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のシリコン酸化物除去装置。
【請求項4】
前記シリコン単結晶製造装置から排出される不活性ガスに接触させる前記強アルカリ溶液を加熱する機構を有することを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載のシリコン酸化物除去装置。
【請求項5】
前記強アルカリ溶液は、苛性ソーダ溶液であることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載のシリコン酸化物除去装置。
【請求項6】
シリコン単結晶製造装置から排出される不活性ガスを回収して精製し、該精製した不活性ガスを前記シリコン単結晶製造装置に供給するシリコン単結晶製造装置の不活性ガス回収設備であって、少なくとも、前記不活性ガスを精製する前に、該不活性ガス中のシリコン酸化物を除去する請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載のシリコン酸化物除去装置を具備するものであることを特徴とするシリコン単結晶製造装置の不活性ガス回収設備。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−51872(P2011−51872A)
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−235008(P2009−235008)
【出願日】平成21年10月9日(2009.10.9)
【出願人】(000190149)信越半導体株式会社 (867)
【Fターム(参考)】