説明

シリコーンゲルシートの製造方法

【課題】表面だけではなく製品全体の機械的強度を高めると共に、ゲル特有の弾性力を保持し、打抜きや裁断加工を行うことにより得られる製品の断面からシリコーンゲルのはみ出しのない薄肉のシリコーンゲルシートを簡易な方法で安価に製造できる製造方法を提供する。
【解決手段】オルガノポリシロキサンを主成分とする付加反応硬化タイプのシリコーンゲル材料と、オルガノポリシロキサンを主成分とする付加反応硬化タイプのシリコーンゴム材料とを配合して配合原料とし、コーティング装置により配合原料をシート状の基材上に塗布し、JIS K2207に規定される針入度が20〜200であるシリコーンゲルシートを形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、衝撃吸収性、耐熱性、耐候性に優れたシリコーンゲル材料を用いて薄肉のシート状に形成したシール材、緩衝材等に使用されるシリコーンゲルシートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シリコーンゲル材料は、衝撃吸収性、耐熱性、耐候性に優れているため、様々な形状に加工されてパソコン、ゲーム機、携帯電話等の電子機器や、自動車やロボット等に搭載される電子部品等に、緩衝材、シール材、絶縁材等として好適に使用されている。また、シリコーンゲル材料特有の吸着性能を生かして、繰り返し貼り付けが可能で、剥離が容易で且つ被貼り付け面に糊が残らない特性を持つ素材として、広告媒体の素材としても好適に使用されている。しかし、このようなシリコーンゲル材料は、ゲル材料特有の粘着性を有すると共に、機械的強度が弱いため、ゲル材料の加工性及びゲル材料を用いた加工製品の組み付け性等の点で製品の取り扱いが難しいという問題を持っている。そのために、適度な強度を有するシート状のシリコーンゲルシートについて、加工性、組み付け性等が良好で簡易な製造方法が求められている。
【0003】
このようなシリコーンゲル材料の問題に対して、例えば特許文献1には、シリコーンゴムシート上にシリコーンゲル材料を塗布して一体成形する方法について記載されている。しかし、この成形方法によれば、シリコーンゴムシートを成形する工程と、その上にシリコーンゲル材料を塗布する工程の2工程が必要になるため、製造が複雑になり製造時間も長くなる。そのため、シリコーンゲルシートの製造コストが高価になるという問題がある。
【特許文献1】特開平2−196453号公報
【0004】
また、例えば特許文献2には、剥離性のある基材に一分子中にケイ素結合水素原子および/またはアルケニル基を少なくとも3個有するオルガノシロキサンを薄膜状に塗布し、その基材の上に付加反応硬化型シリコーン組成物をシート状に硬化させ、表面だけにシリコーンゴム層を形成し、中身はシリコーンゲルのままであるという特徴を有するシートを成形する方法が記載されている。しかし、この方法により成形されたシリコーンゲルシートは、その表面がシリコーンゴム状で中身がゲル状となっているため、このシリコーンゲルシートを所定の形状に打ち抜いたり裁断加工する際に、その切断面からゲル状のシリコーンがはみ出るという問題がある。
【特許文献2】特開平9−207275号公報
【0005】
さらに、例えば特許文献3には、シリコーンゲルシートを成形する際に、配合原料に充填剤を投入して原料を塗布した後、静置して充填剤の沈降効果により片側表面層に充填剤を局在させる方法が記載されている。しかし、この成形方法によれば、充填剤をシート表面に沈殿させるために放置時間が必要になり、そのために成形時間が長くなり、製造コストが高価になるという問題がある。
【特許文献3】特開2000−26733号公報
【0006】
また、例えば特許文献4には、シリコーンゲルシートを形成した後、その表面に紫外線等の活性線の照射により架橋して表面層等を硬化させる方法について記載されている。しかし、この成形方法によれば、シリコーンゲルシートを成形する工程と、その上に紫外線を照射する工程の2工程が必要になるため、製造が複雑になり製造時間が長くなる。また、紫外線を照射するための照射装置も必要になる。そのため、シリコーンゲルシートの製造コストが高価になるという問題がある。
【特許文献4】特開2005−161780号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記問題を解決しようとするもので、表面だけをゴム化して表面強度を強くするものではなく、製品全体の機械的強度を高めると共に、ゲル特有の弾性力を保持し、打抜きや裁断加工を行うことにより得られる製品の断面からシリコーンゲルのはみ出しのない薄肉のシリコーンゲルシートを簡易な方法で安価に製造できる製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の構成上の特徴は、オルガノポリシロキサンを主成分とする付加反応硬化タイプのシリコーンゲル材料と、オルガノポリシロキサンを主成分とする付加反応硬化タイプのシリコーンゴム材料とを配合して配合原料とし、コーティング装置により配合原料をシート状の基材上に塗布し、JIS K2207に規定される針入度が20〜200であるシリコーンゲルシートを形成することにある。なお、シリコーンゲル材料については0.1〜99.9重量部、シリコーンゴム材料については、0.1〜99.9重量部の範囲で、両者合わせて100重量部とすればよいが、好ましくは、シリコーンゲル材料については50〜99重量部、シリコーンゴム材料については、1〜50重量部の範囲であり、さらに好ましくはシリコーンゲル材料については70〜99重量部、シリコーンゴム材料については、1〜30重量部の範囲である。
【0009】
本発明によれば、シリコーンゲルシートの表面だけをゴム化して表面強度を強くするものではなく、ゲル特有の弾性力を保持しつつ、製品の機械的強度が高められるものであるため、シリコーンゲルシートの打抜きや裁断加工を行う際に、その切断面からシリコーンゲルがはみ出すことがない。併せて、本発明においては、JIS K2207に規定される針入度が20〜200であるゲル特有の弾性力を保持した薄肉のシリコーンゲルシートを安価に形成することができる。
【0010】
本発明において、配合原料に、さらに触媒を加えることができる。触媒は、硬化促進作用のあるものであり、例えば白金触媒、過酸化物系触媒、亜鉛系触媒等がある。これにより、シリコーンゲルシートの硬化速度を速めることができ、その製造コストを低減することができる。
【0011】
本発明において、基材の塗布面に、予めプライマーを塗布しておくことができる。これにより、シリコーンゲルシートを基材に一体に形成することができ、その強度が確保される。
【0012】
本発明において、基材の塗布面に、予めプラズマ処理を行っておくことができる。これにより、シリコーンゲルシートを基材に一体に形成することができ、その強度が確保される。
【0013】
また、本発明において、基材を、シリコーンゲルシートが容易に剥離できる材質とすることができる。このような基材としては、予め離型処理を施したポリエチレンテレフタレートフィルム(PETフィルム)、ポリプロピレンフィルムなどがある。離型処理に使用する材料は主にシリコーン系の離型剤がある。これにより、シリコーンゲルシートを基材から剥離して単体として形成することができる。
【0014】
また、本発明において、シリコーンゲルシートのシリコーン材側に保護シートを貼り合わせて巻き取るようにすることができる。これにより、シリコーンゲルシートの取り扱いが容易になる。
【0015】
また、本発明において、配合原料に、さらに充填剤を加えることができる。充填剤としては、例えば、水酸化アルミニウム、酸化鉄、炭酸カルシウム、セラミック、ガラス繊維、炭素繊維、炭素材料等の無機質充填剤、及びこれらの充填剤をオルガノアルコキシシラン化合物、オルガノクロロシラン化合物、オルガノシラザン化合物、低分子量シロキサン化合物等の有機ケイ素化合物で表面処理したものなどが挙げられる。このように、充填剤を加えることにより、シリコーンゲルシートの熱伝導率、電気抵抗値等をコントロールできるようになる。なお、本発明においては、配合原料に充填剤を処方した際に、充填剤の沈降効果によって片側表面に充填剤を局在させることによりシリコーンゲルシートの表面強度を確保するものではないので、短い成形時間で製品の均一性のよいシートが形成される。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、オルガノポリシロキサンを主成分とする付加反応硬化タイプのシリコーンゲル材料と、オルガノポリシロキサンを主成分とする付加反応硬化タイプのシリコーンゴム材料とを所定割合で配合し、コーティング装置によって配合原料をシート状の基材上に塗布して硬化させることにより、シート全体の強度が高められると共に、ゲル特有の弾性力を保持した薄肉のシリコーンゲルシートを簡易にかつ安価に形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態について説明する。シリコーンゲルシートの原料は、オルガノポリシロキサンを主成分とする付加反応硬化タイプのシリコーンゲル材料を0.1〜99.9重量部と、オルガノポリシロキサンを主成分とする付加反応硬化タイプのシリコーンゴム材料を0.1〜99.9重量部とを配合して100重量部とし、さらに必要に応じてこれに硬化促進作用のある触媒を加えて配合原料としたものである。
【0018】
基材としては、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリプロピレンフィルム、紙、布等のフレキシブルな薄肉シート状の材料が用いられ、通常はロールに巻き付けられたものが用いられる。基材には、コーティング装置によってプライマーが塗布される。プライマーとしては、シリコーン系の接着剤が用いられる。プライマーが塗布された基材に、シリコーンゲル材料、シリコーンゴム材料及び触媒を配合した上記配合原料が、コーティング装置により連続的に塗布される。製品の厚みは、実用上1〜5000μmであるのが好ましい。なお、コーティング装置としては、コンマコーター、リバースコーター、ドクターナイフコーター、エアーナイフコーター、バーコーター、ダイコーター等が用いられる。なお、基材にプラーマーを塗布する代わりに、基材に予めプラズマ処理を行っておいてもよく、これによっても、シリコーンゲルシートを基材に一体に形成することができる。
【0019】
コーティング装置により基材上に配合原料を塗布した後、100〜300℃で5分程度加熱して硬化させることにより、シリコーンゲルシートが形成される。加熱温度の範囲としてはさらに好ましくは120〜250℃である。ただし、硬化時間は長くなるが、配合原料を加熱することなく自然放置することによっても硬化させることが可能である。このように形成されたシリコーンゲルシートのシリコーン材側の表面に保護シートを貼り合わせることにより、シリコーンゲルシートが保護されて、その取り扱いが簡易にされる。保護シートの材料としては、基材の材質と同様、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリプロピレンフィルム、紙、布等のフレキシブルな薄肉シート状の材料である。
【0020】
以上のように、本実施形態においては、オルガノポリシロキサンを主成分とする付加反応硬化タイプのシリコーンゲル材料と、オルガノポリシロキサンを主成分とする付加反応硬化タイプのシリコーンゴム材料と、触媒とを所定割合で配合し、コーティング装置によりシート状の基材上に塗布し、加熱することにより、簡易にかつ短時間にJIS K2207に規定される針入度が20〜200である薄肉のシリコーンゲルシートを安価に形成することができる。その結果、本実施形態においては、シリコーンゲルシートの表面だけをゴム化して表面強度を強くするものではなく、シート全体の機械的強度が高められると共に、ゲル特有の弾性力を保持したものとなっており、打抜きや裁断加工を行うことにより得られる製品の断面からシリコーンゲルのはみ出すことがない。また、配合原料に充填剤を加えていないので、成形時間が短く、製品の均一性の良いシートが形成される。さらに、本実施形態の製造方法では、紫外線照射のような特別の装置も不要であり、製造工程が簡易に構成されるため、製造コストがさらに安価にされる。
【0021】
なお、本実施形態においては、配合原料を基材に接着させて一体としたシリコーンゲルシートとしているが、これに限らずシリコーンゲルシートを基材から剥離して単体とすることも可能である。例えば、使用される周辺部位において表裏の両面から形状に追従させたいような場合には、シリコーンゲルシート単体で使用される。この場合、基材として、予め離型処理を施したポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリプロピレンフィルムなどの基材、フッ素樹脂フィルム、フッ素加工を施した紙などを用いてシリコーンゲルシートが形成される。
【0022】
なお、本実施形態においては、配合原料に充填剤が含まれていないが、必要に応じて、水酸化アルミニウム、酸化鉄、炭酸カルシウム、セラミック、ガラス繊維、炭素繊維、炭素材料等の無機質充填剤、及びこれらの充填剤をオルガノアルコキシシラン化合物、オルガノクロロシラン化合物、オルガノシラザン化合物、低分子量シロキサン化合物等の有機ケイ素化合物で表面処理したものを加えることができる。このように、充填剤を加えることにより、シリコーンゲルシートの熱伝導率、電気抵抗値等をコントロールできるようになる。また、配合原料に充填剤を処方した際に、充填剤の沈降効果によって片側表面に充填剤を局在させることによりシリコーンゲルシートの表面強度を確保するものではないので、短い成形時間で製品の均一性のよいシートが形成される。
【0023】
なお、本実施形態においては、配合原料に触媒が含まれているが、必要に応じてこれを省くことができる。また、触媒に代えて配合原料に充填剤を加えることができる。なお、本実施形態においては、シリコーンゲルシートのシリコーン材側の表面に保護シートを貼り合わせてシリコーンゲルシートを保護しているが、必要に応じて保護シートを省くこともできる。
【0024】
つぎに、実施例について説明する。
図1は、ポリエチレンテレフタレートフィルム(基材)上に接着されたシリコーンゲルシートを形成する工程を概略的に示したものである。シリコーンゲル材料としてCY52−276(東レ・ダウコーニング株式会社製)を94重量部と、シリコーンゴム材料としてLR6200(株式会社旭化成ワッカーシリコーン社製)を6重量部と、白金触媒0.5重量部とを混合して、配合原料を調整する。この配合原料11を、コーティング装置12に供給する。ロール13に巻き付けられて連続的に供給される予めプライマーが塗布されたポリエチレンテレフタレートフィルム14(厚さ50μm)がコーティング装置11に供給され、フィルム14表面に配合原料11が塗布され全体の厚みが300μmにされる。配合原料11の塗布されたフィルム14は、150℃の乾燥炉15を5分間で通すことにより硬化する。これにより、片面はポリエチレンテレフタレートフィルムと一体化し、反対面は表面強度を保持しつつ、ゲル特有のクッション性を有するシリコーンゲルシート16が得られる。さらに、シリコーンゲルシートのシリコーン材側に保護シートである保護フィルム17を貼り合わせた状態18で連続的にロール19に巻き取られる。
【0025】
つぎに、本発明のシリコーンゲルシートについて、引張強度及び針入度の測定を行った結果を説明する。試験品としては、上記実施例の試験品に加えて、シリコーンゲル材料(東レ・ダウコーニング株式会社製 CY52−276)を、下記表1に示すように、98,90,70,50重量部と、シリコーンゴム材料(株式会社旭化成ワッカーシリコーン社製 LR7665)を2,10,30,50重量部とした試験品1〜5の5種類とした。また、参考品1,2として、CY52−276を100,0重量部と、LR7665を0,100重量部の2種類を用意した。引張強度測定試験片の形状は、JIS K6251ダンベル3号に基づくものであり、針入度測定用試験片の形状は、50φ×30mmである。
【0026】
引張強度の試験方法は,JIS K6251に準拠し、針入度の試験方法は、JIS K 2207に準拠する方法で実施された。試験結果を下記表1に示す。
【0027】
【表1】

【0028】
表1に示すように、試験品1〜5は、JIS K2207に規定される針入度が20〜200とゲル特有の適正な弾力性を保持し、引張強度が0.0030〜0.60MPaという適正な機械的強度を有していることが明らかになった。これに対して、シリコーンゲル材料のみの参考品1は試験品に比べて引張強度が低く、シリコーンゴム材料のみの参考品2は試験品に比べて針入度が低く弾力性に欠ける結果であった。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明は、オルガノポリシロキサンを主成分とする付加反応硬化タイプのシリコーンゲル材料と、オルガノポリシロキサンを主成分とする付加反応硬化タイプのシリコーンゴム材料とを所定割合で配合し、コーティング装置によりシート状の基材上に塗布して硬化させることにより、シート全体の機械的強度が高められると共に、ゲル特有の弾性力を保持した薄肉のシリコーンゲルシートを簡易にかつ安価に形成することができるので、有用である。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の一実施例であるシリコーンゲルシートの製造工程を概略的に示す説明図である。
【符号の説明】
【0031】
11…配合原料、12…コーティング装置、14…ポリエチレンテレフタレートフィルム、15…乾燥炉、16…シリコーンゲルシート、17…保護フィルム。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
オルガノポリシロキサンを主成分とする付加反応硬化タイプのシリコーンゲル材料と、オルガノポリシロキサンを主成分とする付加反応硬化タイプのシリコーンゴム材料とを配合して配合原料とし、コーティング装置により該配合原料をシート状の基材上に塗布し、JIS K2207に規定される針入度が20〜200であるシリコーンゲルシートを形成することを特徴とするシリコーンゲルシートの製造方法。
【請求項2】
前記配合原料に、さらに触媒を加えることを特徴とする請求項1に記載のシリコーンゲルシートの製造方法。
【請求項3】
前記基材の塗布面に、予めプライマーを塗布しておくことを特徴とする請求項1又は2に記載のシリコーンゲルシートの製造方法。
【請求項4】
前記基材の塗布面に、予めプラズマ処理を行っておくことを特徴とする請求項1又は2に記載のシリコーンゲルシートの製造方法。
【請求項5】
前記基材を、前記シリコーンゲルシートが容易に剥離できる材質とすることを特徴とする請求項1又は2に記載のシリコーンゲルシートの製造方法。
【請求項6】
前記シリコーンゲルシートのシリコーン材側に保護シートを貼り合わせて巻き取るようにすることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のシリコーンゲルシートの製造方法。
【請求項7】
前記配合原料に、さらに充填剤を加えることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載のシリコーンゲルシートの製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2008−291232(P2008−291232A)
【公開日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−110156(P2008−110156)
【出願日】平成20年4月21日(2008.4.21)
【出願人】(507133326)株式会社 三水商工 (2)
【Fターム(参考)】