説明

シリコーンゴムの製造方法

【課題】高温かつ短時間でシリコーンゴム組成物の架橋が可能で、かつ硬化剤として有機過酸化物を用いた場合に、架橋時に有機過酸化物の酸素阻害による表面架橋阻害の心配がなく、高温によるシリコーンの表面酸化劣化を考慮する必要がない、簡便なシリコーンゴムの製造方法を提供する。
【解決手段】(A)一分子中に少なくとも2個の珪素原子と結合するアルケニル基を含有するオルガノポリシロキサン、
(B)硬化剤:上記(A)成分を硬化しうる量
を含むシリコーンゴム組成物を、常圧雰囲気下にて120℃以上600℃以下の過熱水蒸気を用いて熱気架橋することを特徴とするシリコーンゴムの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコーンゴムの製造方法に関するものであり、更に詳しくは、常圧熱気架橋の熱源として120〜600℃の過熱水蒸気を用いてシリコーンゴム組成物の架橋、成型を行うシリコーンゴムの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
シリコーンゴムは、優れた耐候性、電気特性、低圧縮永久歪み性、耐熱性、耐寒性等の特性を有しているため、電気機器、自動車、建築、医療、食品をはじめとして様々な分野で広く使用されている。例えば、リモートコントローラ、タイプライター、ワードプロセッサ、コンピュータ末端、楽器等のゴム接点として使用されるラバーコンタクト;建築用ガスケット;複写機用ロール、現像ロール、転写ロール、帯電ロール、給紙ロール等の各種ロール;オーディオ装置等の防振ゴム;コンピュータに使用されるコンパクトディスク用パッキンなどの用途が挙げられる。
【0003】
現在、シリコーンゴムの需要は益々高まっており、優れた特性を有するシリコーンゴムの開発が望まれている。これらのシリコーンゴムは、一般的には高重合度のポリオルガノシロキサンと補強性充填材とを含有する組成物の形で使用に供される。この組成物は、例えば、ドウミキサー、二本ロール等の混合装置を用いて、原料ポリマーに補強性充填材や各種分散材を混合することにより調製されている。
【0004】
上記シリコーンゴム組成物の成型方法としては、架橋剤が添加混合されたゴム組成物を100〜250℃に熱せられた鉄板の間に数秒〜60分程度圧縮(プレス)して成型物を得る「プレス成形」、100〜500℃の雰囲気に設定された熱風乾燥器や加熱炉中に数秒〜30分程度保持させて常圧熱風架橋する「HAV成型(HotAirVulcanization)」、スチーム圧を4〜10kg/cm2程度に設定した加圧釜の中に数分〜60分程度保持して架橋を行う「スチーム架橋」等が挙げられる。
【0005】
シリコーンゴムの成型方法としては、短時間に効率的に熱エネルギーを加えられる方法かつ成型作業性が簡便な方法が望ましく、また加熱時にシリコーンゴムがより劣化(酸化)し難い方法が望ましい。プレス架橋は成型時の熱によって酸化しにくいが、プレス金型を使用するバッチ的成型方法であり、多量の製品を得にくく、HAV成型は成型時間を短縮するために加熱温度を高温とする必要があり、シリコーン表面の酸化(シリカ化)を誘発しやすい。また、スチーム架橋については高温を得るために高圧なスチームが必要であり、例えば200℃の釜内温度を得るためには16kg/cm2の圧力が必要で、簡易な成型方法とはいえない。
【0006】
なお、本発明に関連する公知文献としては、下記のものがある。
【非特許文献1】シリコーンハンドブック(伊藤邦雄編、日刊工業新聞社)p296 9.2.5 シリコーンゴムの成形
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、高温かつ短時間でシリコーンゴム組成物の架橋が可能で、かつ硬化剤として有機過酸化物を用いた場合に、架橋時に有機過酸化物の酸素阻害による表面架橋阻害の心配がなく、高温によるシリコーンの表面酸化劣化を考慮する必要がない、簡便なシリコーンゴムの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記目的を達成するために、加熱方法に関して種々検討した結果、シリコーンゴム組成物を架橋させる際に、過熱水蒸気を用いることにより短時間に架橋させることが可能であり、また前記方法により架橋されたシリコーンゴムは圧縮永久歪が低く、かつ耐熱性にも優れることを知見し、本発明をなすに至ったものである。
過熱水蒸気による常圧熱気架橋は、短時間の加熱でシリコーンゴム組成物を架橋することが可能であり、また過熱水蒸気により低酸素雰囲気にて架橋されたシリコーンゴムは、成型物表面の酸化劣化が少ない良好な表面状態を有する。
【0009】
従って、本発明は、下記に示すシリコーンゴムの製造方法を提供する。
〔1〕 (A)一分子中に少なくとも2個の珪素原子と結合するアルケニル基を含有するオルガノポリシロキサン、
(B)硬化剤:上記(A)成分を硬化しうる量
を含むシリコーンゴム組成物を、常圧雰囲気下にて120℃以上600℃以下の過熱水蒸気を用いて熱気架橋することを特徴とするシリコーンゴムの製造方法。
〔2〕 シリコーンゴム組成物が、更に(C)補強性シリカを(A)成分100質量部に対して1〜60質量部含有することを特徴とする〔1〕記載のシリコーンゴムの製造方法。
〔3〕 (C)補強性シリカが、乾式シリカであることを特徴とする〔2〕記載のシリコーンゴムの製造方法。
〔4〕 シリコーンゴム組成物に、更に(D)発泡剤を加え、熱気架橋時にシリコーンゴム組成物を発泡させて発泡シリコーンゴムを得ることを特徴とする〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載のシリコーンゴムの製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明のシリコーンゴムの製造方法は、熱効率に優れ、短時間に架橋が可能であり、しかもシリコーン成型物表面は酸化劣化することがない。また、空気中の酸素阻害のために使用することが不可能であった有機過酸化物を用いた常圧熱気架橋が可能となる製造方法である。
本発明の方法は、特に付加硬化又は有機過酸化物硬化型のホース、電線、スポンジロール、スポンジガスケット等に有効である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の製造方法においては、
(A)一分子中に少なくとも2個の珪素原子と結合するアルケニル基を含有するオルガノポリシロキサン、
(B)硬化剤
を含むシリコーンゴム組成物を用いるものであり、該組成物を常圧雰囲気下にて120℃以上600℃以下の過熱水蒸気を用いて熱気架橋するものである。
【0012】
本発明に用いられるシリコーンゴム組成物の(A)成分は、一分子中に少なくとも2個の珪素原子と結合するアルケニル基を含有するオルガノポリシロキサンであり、好ましくは室温で液状又は生ゴム状のジオルガノポリシロキサンであり、下記平均組成式(1)で示されるものを用いることができる。
【0013】
1aSiO(4-a)/2 (1)
(式中、R1は互いに同一又は異種の炭素数1〜10、好ましくは1〜8の非置換又は置換の一価炭化水素基であり、aは1.5〜2.8、好ましくは1.8〜2.5の範囲の正数である。)
【0014】
ここで、上記R1で示される珪素原子に結合した非置換又は置換の一価炭化水素基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、オクチル基、ノニル基、デシル基等のアルキル基、フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基等のアリール基、ベンジル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基等のアラルキル基、ビニル基、アリル基、プロペニル基、イソプロペニル基、ブテニル基、ヘキセニル基、シクロヘキセニル基、オクテニル基等のアルケニル基や、これらの基の水素原子の一部又は全部をフッ素、臭素、塩素等のハロゲン原子、シアノ基等で置換したもの、例えばクロロメチル基、クロロプロピル基、ブロモエチル基、トリフルオロプロピル基、シアノエチル基等が挙げられるが、全R1の90モル%以上がメチル基であることが好ましい。
【0015】
また、R1のうち少なくとも2個はアルケニル基(炭素数2〜8のものが好ましく、更に好ましくは2〜6であり、特に好ましくはビニル基である。)であることが必要である。なお、アルケニル基の含有量は、オルガノポリシロキサン中1.0×10-6〜5.0×10-3mol/g、特に5.0×10-6〜1.0×10-3mol/gとすることが好ましい。アルケニル基の量が1.0×10-6mol/gより少ないと、架橋が不十分で、ゲル状になってしまう場合があり、また5.0×10-3mol/gより多いと、架橋密度が高くなりすぎて、脆いゴムとなってしまうおそれがある。
【0016】
このアルケニル基は、分子鎖末端の珪素原子に結合していても、分子鎖途中(即ち、分子鎖非末端)の珪素原子に結合していても、両者に結合していてもよい。分子量については、室温で液状又は生ゴム状であり、重合度が50〜50,000が好ましく、より好ましくは80〜20,000の範囲である。
【0017】
また、このオルガノポリシロキサンの構造は、基本的には主鎖が、例えば、ジメチルシロキサン単位、ジフェニルシロキサン単位、メチルフェニルシロキサン単位、メチルトリフルオロプロピルシロキサン単位、ビニルメチルシロキサン単位等のジオルガノシロキサン単位(R12SiO2/2)の繰り返しからなり、分子鎖両末端が、例えば、トリメチルシロキシ基、ビニルジメチルシロキシ基、ジビニルメチルシロキシ基、トリビニルシロキシ基、ビニルジフェニルシロキシ基、ビニルメチルフェニルシロキシ基、フェニルジメチルシロキシ基、ジフェニルメチルシロキシ基等のトリオルガノシロキシ基(R13SiO1/2)で封鎖された直鎖状構造を有するが、部分的には分岐状の構造、環状構造などであってもよい。
【0018】
(B)成分の硬化剤は、既知の付加反応による硬化剤又は有機過酸化物硬化剤である。
この場合、付加反応硬化剤は、(B−1)オルガノハイドロジェンポリシロキサンと(B−2)付加反応触媒との組み合わせである。
【0019】
オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B−1)は、(A)成分のアルケニル基含有オルガノポリシロキサンとのヒドロシリル化付加反応により、組成物を硬化させる架橋剤として作用するものであり、下記平均組成式(2)
2bcSiO(4-b-c)/2 (2)
(式中、R2は炭素数1〜10の置換又は非置換の一価炭化水素基である。またbは0.7〜2.1、特に0.8〜2.0、cは0.001〜1.0で、かつb+cは0.8〜3.0、特に1.0〜2.5を満足する正数である。)
で示され、一分子中に少なくとも2個、好ましくは3個以上(通常、3〜200個程度)、より好ましくは3〜100個、特に3〜50個の珪素原子結合水素原子(SiH基)を有するものが好適に使用される。
【0020】
この珪素原子結合水素原子は、分子鎖末端の珪素原子に結合したものであっても、分子鎖途中(分子鎖非末端)の珪素原子に結合したものであっても、これらの両方に結合したものであってもよい。
【0021】
ここで、R2としては、式(1)中のRlと同様の基を挙げることができるが、好ましくはアルケニル基等の脂肪族不飽和結合を有さないものがよい。
【0022】
上記オルガノハイドロジェンポリシロキサンとしては、トリス(ジメチルハイドロジェンシロキシ)メチルシラン、トリス(ジメチルハイドロジェンシロキシ)フェニルシラン、1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン、1,3,5,7−テトラメチルシクロテトラシロキサン、メチルハイドロジェンシクロポリシロキサン、メチルハイドロジェンシロキサン・ジメチルシロキサン環状共重合体、両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンポリシロキサン、両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体、両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン、両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体、両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンシロキサン・ジフェニルシロキサン共重合体、両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンシロキサン・ジフェニルシロキサン・ジメチルシロキサン共重合体、(CH32HSiO1/2単位とSiO4/2単位とからなる共重合体、(CH32HSiO1/2単位とSiO4/2単位と(C65)SiO3/2単位とからなる共重合体などやこれらの例示化合物において、メチル基の一部又は全部をエチル基、プロピル基等の他のアルキル基、フェニル基等のアリール基、3,3,3−トリフルオロプロピル基等のハロゲン置換アルキル基などで置換したもの等が挙げられる。
【0023】
このオルガノハイドロジェンポリシロキサンの分子構造は、直鎖状、環状、分岐状、三次元網状構造のいずれであってもよいが、一分子中の珪素原子の数(又は重合度)は2〜1,000、好ましくは3〜500、より好ましくは3〜300、特に好ましくは4〜150程度のものを使用することができる。
【0024】
このオルガノハイドロジェンポリシロキサンの配合量は、(A)成分のオルガノポリシロキサン100質量部に対して0.1〜50質量部とすることが好ましく、より好ましくは0.1〜30質量部、更に好ましくは0.3〜30質量部、特に好ましくは0.3〜20質量部である。
また、このオルガノハイドロジェンポリシロキサンは、(A)成分中の珪素原子に結合したアルケニル基に対する(B−1)成分中の珪素原子に結合した水素原子(即ち、SiH基)のモル比〔(B−1)成分中のSiH基/(A)成分中のアルケニル基〕が、0.5〜5モル/モル、好ましくは0.8〜4モル/モル、より好ましくは1〜3モル/モルとなる量で配合することもできる。
【0025】
付加反応触媒(B−2)は、(A)成分中の珪素原子に結合したアルケニル基と上記オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B−1)のSiH基とのヒドロシリル化付加反応を促進するための触媒であり、この付加反応触媒としては、白金黒、塩化第2白金、塩化白金酸、塩化白金酸と一価アルコールとの反応物、塩化白金酸とオレフィン類との錯体、白金ビスアセトアセテート等の白金系触媒、パラジウム系触媒、ロジウム系触媒などの白金族金属触媒が挙げられる。
なお、この付加反応触媒の配合量は触媒量とすることができるが、通常、白金族金属として(A)及び(B−1)成分の合計質量に対して0.5〜1,000ppm、特に1〜500ppm程度配合することが好ましい。
【0026】
一方、有機過酸化物硬化剤(B−3)としては、従来公知のものを使用することができる。例えば、ベンゾイルパーオキサイド、2,4−ジクロロベンゾイルパーオキサイド、p−メチルベンゾイルパーオキサイド、o−メチルベンゾイルパーオキサイド、2,4−ジクミルパーオキサイド、2,5−ジメチル−ビス(2,5−t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、ジ−t−ブチルパーオキサイド、t−ブチルパーベンゾエート、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシカルボキシ)ヘキサン等が挙げられるが、特にこれらに限定されるものではない。
なお、有機過酸化物の添加量は触媒量であり、硬化速度に応じて適宜選択すればよいが、通常は(A)成分100質量部に対して0.1〜10質量部、好ましくは0.2〜2質量部の範囲とすることができる。
【0027】
また、本発明においては、上記付加架橋と有機過酸化物架橋とを併用してもよい。なお、液状オルガノポリシロキサン組成物の硬化には、付加架橋が推奨される。
【0028】
本発明のシリコーンゴム組成物には、更に(C)補強性シリカ微粉末が添加されていることが望ましい。補強性シリカ微粉末は、機械的強度の優れたシリコーンゴムスポンジを得るために必要とされるものであるが、この目的のためには、BET法による比表面積が50m2/g以上であることが好ましく、より好ましくは100〜400m2/gである。比表面積が50m2/g未満であると補強性が十分でなく、ゴム強度が低下してしまう場合がある。
【0029】
シリカ微粉末としては、煙霧質シリカ(乾式シリカ)、沈殿シリカ(湿式シリカ)が例示され、特に煙霧質シリカ(乾式シリカ)が好ましい。また、これらの表面をオルガノポリシロキサン、オルガノポリシラザン、クロロシラン、アルコキシシラン等で疎水化処理してもよい。これらのシリカは単独でも2種以上併用してもよい。
【0030】
このシリカ微粉末の添加量は、(A)成分のオルガノポリシロキサン100質量部に対して1〜60質量部、好ましくは5〜50質量部、特に好ましくは10〜40質量部であることが望ましい。1質量部未満では少なすぎて十分な補強効果が得られない場合があり、60質量部より多くすると加工性が悪くなる場合があり、また、得られるシリコーンゴムの物理特性が低下することがある。
【0031】
本発明においては、シリコーンゴム組成物に、更に(D)発泡剤を配合させてシリコーンゴム発泡体を得ることもできる。
(D)成分の発泡剤として、具体的には、重炭酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、重炭酸アンモニウム、炭酸アンモニウム、亜硝酸アンモニウム等の無機発泡剤;N,N’−ジメチル−N,N’−ジニトロソテレフタルアミド、N,N’−ジニトロソペンタメチレンテトラミン等のニトロソ化合物;アゾジカルボンアミド、アゾビスイソブチロニトリル、アゾシクロヘキシルニトリル、アゾジアミノベンゼン、2,2’−アゾビス−2−メチルブチロニトリル、2,2’−アゾビス−2,4−ジメチルバレロニトリル、1,1’−アゾビス(1−アセトキシ−1−フェニルエタン)、バリウムアゾジカルボキシレート等の有機アゾ化合物;ベンゼンスルホニルヒドラジド、トルエンスルホニルヒドラジド、p,p’−オキシビス(ベンゼンスルホニルヒドラジド)、ジフェニルスルホン−3,3’−ジスルホニルヒドラジド、4,4’−オキシビス(ベンゼンスルホニルヒドラジド)、パラトルエンスルホニルヒドラジン等のスルホニルヒドラジド化合物;カルシウムアジド、4,4−ジフェニルジスルホニルアジド、p−トルエンスルホルニルアジド等のアジド化合物などの有機発泡剤が挙げられる。これらの中では、有機発泡剤が好ましく、特に有機アゾ化合物が好ましい。
【0032】
(D)成分の配合量は、組成物を発泡させうる量であり、(A)成分100質量部に対して好ましくは0.1〜20質量部、特に好ましくは0.2〜10質量部である。(D)成分を配合する際、配合量が少なすぎるとゴムがスポンジ状にならない場合があり、多すぎるとガス抜けや破裂してしまう場合がある。
【0033】
本発明には、導電性材料を添加して導電性シリコーンゴム組成物とすることは任意である。導電性材料の種類、配合量は制限されないが、導電性カーボンブラック、導電性亜鉛華、金属粉などが使用でき、また導電性材料は1種又は2種以上を併用してもよい。カーボンブラックとしては、通常、導電性ゴム組成物に常用されているものが使用し得、例えばアセチレンブラック、コンダクティブファーネスブラック(CF)、スーパーコンダクティブファーネスブラック(SCF)、エクストラコンダクティブファーネスブラック(XCF)、コンダクティブチャンネルブラック(CC)、1,500〜3,000℃程度の高温で熱処理されたファーネスブラックやチャンネルブラック等を挙げることができる。具体的には、アセチレンブラックとしてはデンカブラック(電気化学社製)、シャウニガンアセチレンブラック(シャウニガンケミカル社製)等が、コンダクティブファーネスブラックとしてはコンチネックスCF(コンチネンタルカーボン社製)、バルカンC(キャボット社製)等が、スーパーコンダクティブファーネスブラックとしては、コンチネックスSCF(コンチネンタルカーボン社製)、バルカンSC(キャボット社製)等が、エクストラコンダクティブファーネスブラックとしては、旭HS−500(旭カーボン社製)、バルカンXC−72(キャボット社製)等が、コンダクティブチャンネルブラックとしてはコウラックスL(デグッサ社製)等が例示され、また、ファーネスブラックの一種であるケッチェンブラックEC及びケッチェンブラックEC−600JD(ケッチェンブラックインターナショナル社製)を用いることもできる。ファーネスブラックは不純物、特に硫黄や硫黄化合物の量が硫黄元素の濃度で6,000ppm以下、より好ましくは3,000ppm以下が望ましい。なお、これらのうちでは、アセチレンブラックは不純物含有率が少ない上、発達した2次ストラクチャー構造を有することから導電性に優れており、本発明において特に好適に用いられる。
【0034】
上記導電性材料の添加量は、導電性シリコーンゴム組成物のゴムが導電となる抵抗値、即ち体積抵抗率が1014Ω・m以下となる量であればよいが、上述した(A)成分100質量部に対して1〜50質量部、特に5〜20質量部とすることが好ましい。添加量が1質量部未満では所望の導電性を得ることができない場合があり、50質量部を超えると物理的混合が難しくなったり、機械的強度が低下したりする可能性があり、目的とするゴム弾性を得られないことがある。
【0035】
本発明のシリコーンゴム組成物は、上記成分に加えて、必要に応じ充填剤、増量剤としての非補強性シリカである溶融シリカ、焼成シリカ、ゾル−ゲル法の球状シリカ、結晶シリカ(石英粉)、ケイソウ土等のシリカ微粒子、炭酸カルシウム、クレイ、ケイソウ土、二酸化チタンのような補強、準補強性の充填剤、補強剤となるシリコーン系のレジン、窒素含有化合物やアセチレン化合物、リン化合物、ニトリル化合物、カルボキシレート、錫化合物、水銀化合物、硫黄化合物等のヒドロシリル化反応制御剤、酸化鉄、酸化セリウムのような耐熱剤、ジメチルシリコーンオイル等の内部離型剤、接着性付与剤、チクソ性付与剤等を本発明の効果を損なわない範囲で任意に配合することができる。また、酸化鉄、酸化セリウム、オクチル酸鉄等の耐熱性向上剤、接着性や成形加工性を向上させるための各種カーボンファンクショナルシラン、難燃性を付与させる窒素化合物、ハロゲン化合物を添加混合してもよい。重合度が100以下の低分子量シロキサン、シラノール基含有シラン、アルコキシ基含有シラン等を分散助剤として添加してもよい。
【0036】
これら熱伝導性無機粉体の混合方法は、プラネタリーミキサーやニーダーなどの機器を用いて(A),(B)成分と常温で混合してもよいし、あるいは100〜200℃の高温で混合してもよい。
熱処理を行う場合、例えば(A),(B)成分及び微粉状シリカ系充填剤等を予め混合してベースコンパウンドを調製しておき、これに各種添加剤、カーボンブラック粉などを同様に混練機で混合して調製してもよく、更には硬化剤を添加、混合してもよい。
【0037】
本発明では上記シリコーンゴム組成物の加熱方法として、常圧過熱水蒸気による加熱によって硬化、発泡させることを特徴とする。
常圧過熱水蒸気(以下、過熱水蒸気と称する)とは、100℃で蒸発した飽和水蒸気を常圧のまま更に高温度に加熱した無色透明のH2Oガスのことである。従来、100℃以上の水蒸気といえば密閉容器中の高圧水蒸気のことを指すが、雰囲気温度を上げるためには圧力を高める必要があり、例えば200℃の釜内温度を得るためには16kg/cm2の圧力が必要であり、装置が大型なものが必要であった。これに対して、この過熱水蒸気は大気圧(常圧)で加熱対象物に熱を加えることが可能であり、加熱温度は任意に100〜800℃に加熱することが可能であり、装置も簡易的でコンベアによる連続加熱やチューブ等の押出し連続加熱ラインをつくることができる。
【0038】
過熱水蒸気の熱伝達能力は高く、シリコーンゴムの連続加熱方法として広く用いられているHAV成型が温風による対流伝熱が主な加熱源であるのに対し、過熱水蒸気では対流伝熱の他に凝集水による凝集伝熱及び輻射伝熱能力(熱放射性気体)と3つの加熱原理で加熱が可能であるため熱効率に優れる。
【0039】
過熱水蒸気の発生機構は特に限定されるものではないが、通常、100℃の飽和水蒸気を発生させる機構と、更に100℃以上の温度へ加熱を行うスーパーヒーターにての組み合わせで過熱水蒸気を発生させる。スーパーヒーターとは100℃の飽和水蒸気を更に温度を上げるヒーターのことであり、オイルバーナーやガスバーナーにて間接加熱する間接加熱法と電熱ヒーターや誘導加熱による抵抗発熱体に直接水蒸気を送り込んで加熱する電気加熱方式等のヒーター構造が代表例として挙げられる。
【0040】
このような過熱水蒸気による熱風架橋は、加熱雰囲気に気体酸素が存在しないため酸化による材料の劣化がない。また、架橋剤に有機過酸化物を使用した場合には、有機過酸化物の分解によって発生したラジカルが酸素によって失われてしまう、いわゆる酸素阻害による架橋阻害因子が排除されるため、従来架橋不能で使用できない有機過酸化物による常圧熱風架橋も可能である。また、加熱効率の高さより、同一温度ではHAV加熱に比べ短時間硬化が可能である。更に、有機過酸化物の分解物等の可燃性ガスが発生した場合でも気体酸素が存在しないため加熱炉内の爆発等のおそれがない。
【0041】
過熱水蒸気による熱風架橋の条件は別に限定されないが、120〜600℃、更に好ましくは150〜450℃で数秒〜1時間の範囲が好ましい。120℃未満ではシリコーンゴムが十分に硬化しない等の不具合が発生する可能性があり、600℃を超える温度では水蒸気が酸素と水素に分解してしまうおそれがある。更に、成型後に2次加硫する場合においては、150〜250℃で1〜30時間の範囲で2次加硫することが好ましい。
更に、加熱炉の構造として過熱水蒸気による加熱機構に加え、通常のHAV成型にて使用されるように加熱炉にセラミックヒーターのようなヒーターを併用した加熱炉を用いてもよい。上記ヒーター併用の加熱炉も過熱水蒸気による熱風架橋同様の条件にて架橋することが可能である。
【0042】
本発明の方法により得られたシリコーンゴムは、ホース、電線、スポンジロール、スポンジガスケット等に有効である。
【実施例】
【0043】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。なお、下記例中の部は質量部を示す。
【0044】
[実施例1]
ジメチルシロキサン単位99.825モル%、メチルビニルシロキサン単位0.15モル%、ジメチルビニルシロキサン単位0.025モル%からなり、平均重合度が約8,000であるオルガノポリシロキサン75部、補強性シリカとしてBET表面積200m2/gの乾式のシリカArosil200(日本エアロジル(株)製)40部、両末端にシラノール基を有し、粘度29cs(23℃)のジメチルポリシロキサン5部をニーダーで配合し、180℃で2時間熱処理を行い、ゴムコンパウンドAを作製した。
得られたゴムコンパウンドA100部に対し、付加架橋硬化剤としてC−25A(白金触媒)/C−25B(オルガノハイドロジェンポリシロキサン)(ともに信越化学工業製)それぞれ0.5部/2.0部を2本ロールで混練後、2本ロールで2mm厚のシートを作製した。これを240℃に加熱した過熱水蒸気炉に入れて加熱硬化させた。成型シートの物性、表面架橋状態を測定した。またゴム中に含まれる発泡を目視で観察した。
【0045】
物性特性測定法、常圧熱気加硫時の発泡性試験方法について下記に示す。
物性特性測定法;
熱風架橋させた2mm厚のゴムシートをJIS K6249に準じて、硬さ(デュロメーターA)、引張り強さ、伸び等の物性を測定した。
【0046】
シート表面状態;
○: シート表面は完全に硬化しておりタック感がないもの
△: シート表面にタック感がかんじられるもの
×: シート表面が0.1mm以上未架橋であり、爪でこするとコンパウンドが剥離するもの
【0047】
架橋ゴムのピンホール試験;
発泡が少ない=1 1cm2の範囲に気泡がみられないもの
発泡中程度=2 1cm2の範囲に気泡が1〜50個観測されるもの
発泡が多い=3 1cm2の範囲に気泡が51個以上観測されるもの
【0048】
[実施例2]
補強性シリカArosil200の代わりに、湿式シリカであるBET表面積200m2/gの湿式シリカ NipsilLP(日本シリカ工業(株)製)40部に変更した以外は実施例1と同様にしてゴムコンパウンドBを作製した。その後ゴムコンパウンドBを実施例1と同様の条件で、2本ロールで2mm厚のシートを作製、熱風架橋し、成型シートの評価を行った。
【0049】
[実施例3]
実施例1の白金系硬化剤の代わりに、有機過酸化物系硬化剤として2,4−ジクミルパーオキサイド0.9部を使用した以外は、実施例1と同様にしてシート作製、熱風架橋を行い、評価を行った。
【0050】
[実施例4]
実施例1の加熱方法である240℃過熱水蒸気炉の代わりに、過熱水蒸気炉にセラミックヒーターを追加し、炉内温度を350℃とした以外は、実施例1と同様にしてシート作製、熱風架橋を行い、評価を行った。
【0051】
[実施例5]
実施例3の加熱方法である240℃過熱水蒸気炉の代わりに、過熱水蒸気炉にセラミックヒーターを追加し、炉内温度を350℃とした以外は、実施例3と同様にしてシート作製、熱風架橋を行い、評価を行った。
【0052】
[比較例1]
実施例1の加熱方法である240℃過熱水蒸気炉の代わりに、通常の熱風乾燥器にて240℃の温度でHAV成型を行った以外は、実施例1と同様にしてシート作製、評価を行った。
【0053】
[比較例2]
実施例2の加熱方法である240℃過熱水蒸気炉の代わりに、通常の熱風乾燥器にて240℃の温度でHAV成型を行った以外は、実施例2と同様にしてシート作製、評価を行った。
【0054】
[比較例3]
実施例3の加熱方法である240℃過熱水蒸気炉の代わりに、通常の熱風乾燥器にて240℃の温度でHAV成型を行った以外は、実施例3と同様にしてシート作製、評価を行った。
【0055】
[比較例4]
実施例4の加熱方法である350℃過熱水蒸気炉+セラミックヒーター併用加熱の代わりに、通常の熱風乾燥器にて350℃の温度でHAV成型を行った以外は、実施例4と同様にしてシート作製、評価を行った。
【0056】
[比較例5]
実施例5の加熱方法である350℃過熱水蒸気炉+セラミックヒーター併用加熱の代わりに、通常の熱風乾燥器にて350℃の温度でHAV成型を行った以外は、実施例5と同様にしてシート作製、評価を行った。
【0057】
これらの結果を表1,2に示す。
【0058】
【表1】

【0059】
【表2】

【0060】
過熱水蒸気による架橋(実施例)は、シートにエア(発泡)が少なく、またタック感のない良好な表面性が得られていることがわかる。
【0061】
シリコーンスポンジ成型
[実施例6]
実施例1で使用したゴムコンパウンドA100部に対し、有機過酸化物硬化剤として2,4−ジクミルパーオキサイド0.9部、及び発泡剤として有機アゾ系発泡剤1,1’−アゾビス(シクロヘキサン−1−メチルカルボキシレート)1.5部を2本ロールで混練後、2本ロールで5mm厚のシートを作製した。これを240℃に加熱した過熱水蒸気炉に入れ、15分間加熱発泡硬化し、スポンジシートを得た。作製したスポンジシートを下記の方法により硬さ、密度、カッターにて切断した断面のセルの状態及び平均セル径を測定した。
スポンジ硬さ:JIS S 6050規定のアスカーC硬度。
スポンジ密度:JIS K 6249
セルの状態:目視にて観察。
平均セル径:スポンジ切断面にあるセル径の平均値。
表面タック感の有無:スポンジ表面(スキン層)にべとつき感があるかないか。
【0062】
[比較例6]
実施例6の加熱方法である240℃過熱水蒸気炉の代わりに、通常の熱風乾燥器にて240℃の温度でHAV成型を行った以外は、実施例6と同様にシート作製、評価を行った。
これらの結果を表3に記す。
【0063】
【表3】

発泡剤:1,1’−アゾビス(シクロヘキサン−1−メチルカルボキシレート)
過熱水蒸気によるスポンジ発泡(実施例)は、良好なスポンジが得られていることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)一分子中に少なくとも2個の珪素原子と結合するアルケニル基を含有するオルガノポリシロキサン、
(B)硬化剤:上記(A)成分を硬化しうる量
を含むシリコーンゴム組成物を、常圧雰囲気下にて120℃以上600℃以下の過熱水蒸気を用いて熱気架橋することを特徴とするシリコーンゴムの製造方法。
【請求項2】
シリコーンゴム組成物が、更に(C)補強性シリカを(A)成分100質量部に対して1〜60質量部含有することを特徴とする請求項1記載のシリコーンゴムの製造方法。
【請求項3】
(C)補強性シリカが、乾式シリカであることを特徴とする請求項2記載のシリコーンゴムの製造方法。
【請求項4】
シリコーンゴム組成物に更に(D)発泡剤を加え、熱気架橋時にシリコーンゴム組成物を発泡させて発泡シリコーンゴムを得ることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項記載のシリコーンゴムの製造方法。

【公開番号】特開2009−138086(P2009−138086A)
【公開日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−315451(P2007−315451)
【出願日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】