説明

シリコーン樹脂組成物およびその利用

【課題】工法や設計を変更することなく、ブリードの発生を抑制することができるシリコーン樹脂組成物を提供する。
【解決手段】本発明に係るシリコーン樹脂組成物は、可動部を有した微小電気機器システムチップを基板に接着させるためのシリコーン樹脂組成物であって、分子中に少なくとも1つのビニル基を有するオルガノポリシロキサンと、分子中に少なくとも1つのH−Si結合を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンと、白金化合物とを含有する一液付加型シリコーン樹脂と、多孔質フィラーとを含有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可動部を有した微小電気機器システムチップを基板に接着させるためのシリコーン樹脂組成物およびその利用に関する。
【背景技術】
【0002】
微小電気機器システム(Micro Electro Mechanical System、以下「MEMS」と略す)モジュールにおいて、基板とMEMSチップとは接着剤(以下、「ダイボンド」と称する)を用いて接着される。このようなダイボンド用樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂等が通常用いられる。
【0003】
MEMSチップは、振動等の外力の影響を受け易く、その結果としてMEMSチップのノイズが大きくなり、SN比(感度−ノイズ比)が低下する。それゆえ、MEMSチップのSN比を向上させるためには、ダイボンドには、リフロー時に物性が変化しない耐熱信頼性に加えて、外力が加わったときにMEMSチップに加えられる応力を緩和する性質(応力緩和性)が求められる。
【0004】
エポキシ樹脂はその硬化物が剛直であり、外力の低応力化が不十分である。一方、シリコーン樹脂は、その硬化物が柔軟であり、MEMSチップにおける応力の緩和性に優れている。
【0005】
シリコーン樹脂には、縮合型と付加型がある。縮合型は硬化の際に副生成物が発生し、MEMSチップへの悪影響が考えられる。また、副生成物を発生しない付加型には一液性と二液性があるが、二液性では二液混合直後から硬化反応が進むため増粘し、生産性低下を招く。以上の理由より、ダイボンドとしては、一液付加型シリコーン樹脂が多く使用されている。
【0006】
しかし、一液付加型シリコーン樹脂では、液状成分(シリコーンオイル)の滲み出し(以下、「ブリード」と称する)が生じる。このブリードがMEMSチップの可動部まで到達すると、ブリードによって可動部が固着し、その結果、MEMSモジュールに不具合が生じる虞がある。
【0007】
ブリードの発生による不具合を解消するために、特許文献1では、半導体装置の製造方法において、加熱硬化性シリコーン系ダイボンド材を加熱して硬化させた後、半導体素子に付着した低分子量シロキサン成分(ブリード)を溶剤を用いて洗浄するか、または低分子量シロキサン成分をプラズマ処理によって除去することが提案されている。
【0008】
また、特許文献2では、アクリル官能性基含有オルガノポリシロキサンの高エネルギー線照射によるフリーラジカル反応、およびアルケニル基含有オルガノポリシロキサンとケイ素原子結合水素原子含有オルガノポリシロキサンとのヒドロシリレーション反応により硬化するシリコーン組成物について開示されている。特許文献2では、まず、シリコーン組成物に、高エネルギー線を照射することにより、アクリル官能性基のフリーラジカル反応を生起せしめ、さらにヒドロシリレーション反応によりシリコーン組成物を硬化させることによって、硬化途上のシリコーン組成物からの低分子量シリコーンオイルの滲み出しを抑制している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2007−258317号公報(2007年10月4日公開)
【特許文献2】特開平9−286971号公報(1997年11月4日公開)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献1に記載された方法では、ブリードを洗浄して除去する工程をさらに設ける必要があり、生産効率が低下する。また、ブリードの成分を除去する際に用いる溶剤を用いて洗浄するか、プラズマ処理を行うことによってブリードの成分を除去する。それゆえ、逆汚染やブリード量のばらつきによる残渣の虞がある。
【0011】
また、特許文献2に記載されたシリコーン組成物では、フリーラジカル反応を起こさせるために、シリコーン組成物に光増感剤をさらに添加する必要がある。また、フリーラジカル反応とヒドロシリレーション反応との二段階の硬化反応を起こさせる必要がある。それゆえ、生産効率が低下する。また、紫外線等の高エネルギー線が遮断される部分では、フリーラジカル反応が十分に進行しない虞がある。
【0012】
本発明は上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、工法や設計を変更することなく、ブリードの発生を抑制することができるシリコーン樹脂組成物およびその利用を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の課題を解決するために、本発明に係るシリコーン樹脂組成物は、可動部を有した微小電気機器システムチップを基板に接着させるためのシリコーン樹脂組成物であって、分子中に少なくとも1つのビニル基を有するオルガノポリシロキサンと、分子中に少なくとも1つのH−Si結合を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンと、白金化合物とを含有する一液付加型シリコーン樹脂と、多孔質フィラーとを含有することを特徴としている。
【0014】
本発明に係るシリコーン樹脂組成物は、多孔質フィラーを含むことによって、ブリードの発生が抑制されている。従って、このようなシリコーン樹脂組成物を、ダイボンドとして半導体装置の接着部分に用いることによって、ブリードの発生に起因する半導体装置の不具合の発生を抑えることができる。シリコーン樹脂組成物におけるブリードの発生を抑制するために、「シリコーン樹脂組成物に多孔質フィラーを含有させる」という発想は従来全く知られておらず、本発明者らによって独自に見出された新規な技術的思想である。
【0015】
また、本発明者等は、顕微FT−IR(顕微フーリエ変換赤外分光光度計)を用いてブリード部の成分を分析し、ブリード部にはSi(CHまたはSi(CH、およびSi−O−Siの割合が多く、シリコーン樹脂組成物の主剤に含まれるビニル基(SiCH=CH)の割合が少ないことを明らかにした。この結果から、ブリード部は、シリコーンオイルの滲み出しによるものと考えられた。本発明に係るシリコーン樹脂組成物では、多孔質フィラーがシリコーンオイルを吸収することによって、シリコーン樹脂組成物からのシリコーンオイルの滲み出しが抑制されているものと考えられる。
【0016】
尚、多孔質フィラーに対して水や有機物を吸着させることは公知であるが、多孔質フィラーに対してシリコーンオイルを吸着させることは、本発明者らによって独自に見出された。シリコーン樹脂は無機物および有機物との相溶性が低いことが知られている。このため、一般的にはシリコーン樹脂の側鎖または末端に官能基変性をして相溶性を確保している。しかし、シリコーンオイルは変性をしていない、または変性していても官能基数が少ないため、相溶性が低い。このため、多孔質フィラーによって、シリコーンオイルを吸着させることは発想し難い。また、一般的にシリコーンオイルは相溶性が低く、多孔質フィラーとなじみ難いため、シリコーン樹脂組成物に多孔質フィラーを含有させた場合に、多孔質フィラーの細孔にシリコーンオイルが入り込みにくく、硬化時に細孔内の空気が膨張し、発泡した状態になる可能性が予想される。それゆえ、シリコーン樹脂組成物に多孔質フィラーを含有させることによって、ブリードの発生を抑制できることは通常予想し得ない。
【0017】
本発明に係るシリコーン樹脂組成物では、上記多孔質フィラーは、比表面積が300m/g以上であることが好ましい。
【0018】
上記構成によれば、シリコーン樹脂組成物におけるブリードの発生を、効率よく抑制することができる。
【0019】
上記多孔質フィラーは、活性炭、ゲルシリカおよびゼオライトからなる群より選択される1種以上であることを特徴とする請求項1に記載のシリコーン樹脂組成物。
【0020】
多孔質フィラーとして上記の化合物を含有させることによって、シリコーン樹脂組成物におけるブリードの発生を、効率よく抑制することができる。
【0021】
本発明に係るシリコーン樹脂組成物では、上記多孔質フィラーは、ゼオライトであることが好ましい。
【0022】
多孔質フィラーとしてゼオライトを含有させることによって、シリコーン樹脂組成物におけるブリードの発生を、より効率よく抑制することができる。
【0023】
本発明に係るシリコーン樹脂組成物では、上記ゼオライトに含まれるAlに対するSiの元素組成比が3.6〜5.5であることが好ましい。
【0024】
ゼオライトの化学組成として、ゼオライトに含まれるAlに対するSiの元素組成比は、ゼオライトの疎水性を表している。Alに対するSiの元素組成比が上記範囲内であるゼオライトを、シリコーン樹脂組成物に含有させることによって、シリコーン樹脂組成物におけるブリードの発生を、より効率よく抑制することができる。
【0025】
本発明に係るシリコーン樹脂組成物では、上記ゼオライトは、付加反応前のシリコーン樹脂組成物の全重量に対して3〜20重量%含まれることが好ましい。
【0026】
ゼオライトを、上記範囲内でシリコーン樹脂組成物に含有させることによって、シリコーン樹脂組成物におけるブリードの発生を、より効率よく抑制することができる。
【0027】
本発明に係る微小電気機器システムモジュールは、本発明に係るシリコーン樹脂組成物を介して、可動部を有した微小電気機器システムチップと基板とが接着されていることを特徴としている。
【0028】
本発明に係るシリコーン樹脂組成物は、ブリードの発生が抑制されている。従って、このようなシリコーン樹脂組成物を、微小電気機器システムモジュールにおける微小電気機器システムチップと基板との接着部分に用いることによって、ブリードの発生に起因する微小電気機器システムモジュールの不具合の発生を抑えることができる。
【0029】
本発明に係る微小電気機器システムモジュールの製造方法は、上述した微小電気機器システムモジュールの製造方法であって、本発明に係るシリコーン樹脂組成物を、可動部を有した微小電気機器システムチップおよび/または基板に塗布する塗布工程と、塗布した上記シリコーン樹脂組成物を加熱することによって硬化させ、上記可動部を有した微小電気機器システムチップと上記基板とを接着する接着工程とを含むことを特徴としている。
【0030】
本発明に係るシリコーン樹脂組成物は、ブリードの発生が抑制されている。従って、このようなシリコーン樹脂組成物を、微小電気機器システムモジュールにおける微小電気機器システムチップと基板との接着部分に用いることによって、ブリードの発生に起因する微小電気機器システムモジュールの不具合の発生を抑えることができる。
【発明の効果】
【0031】
本発明に係るシリコーン樹脂組成物は、分子中に少なくとも1つのビニル基を有するオルガノポリシロキサンと、分子中に少なくとも1つのH−Si結合を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンと、白金化合物とを含有する一液付加型シリコーン樹脂と、多孔質フィラーとを含有する。
【0032】
本発明に係るシリコーン樹脂組成物は、ブリードの発生が抑制されている。従って、このようなシリコーン樹脂組成物を、微小電気機器システムモジュールにおける微小電気機器システムチップと基板との接着部分に、ダイボンドとして用いることによって、ブリードの発生に起因する微小電気機器システムモジュールの不具合の発生を抑えることができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】ブリードの評価方法を概略的に説明する図である。図1の(a)は基板上に塗布したシリコーン樹脂組成物を側面から見た図であり、(b)は基板上に塗布したシリコーン樹脂組成物を上から見た図である。
【図2】可動部を有した微小電気機器システムチップの一実施形態を示す断面図である。
【図3】本発明の第1の実施形態を示し、ディスペンスによって本発明のシリコーン樹脂組成物を塗布する方法を概略的に示す図である。
【図4】本発明の第2の実施形態を示し、ディスペンスによって本発明のシリコーン樹脂組成物を塗布する方法を概略的に示す図である。
【図5】本発明の第3の実施形態を示し、転写によって本発明のシリコーン樹脂組成物を塗布する方法を概略的に示す図である。
【図6】本発明の第4の実施形態を示し、転写によって本発明のシリコーン樹脂組成物を塗布する方法を概略的に示す図である。
【図7】本発明の実施形態であるMEMSモジュールの構成を模式的に示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。ただし、本発明はこれに限定されるものではなく、記述した範囲内で種々の変形を加えた態様で実施できるものである。また、本明細書中に記載された学術文献および特許文献の全てが、本明細書中において参考として援用される。なお、本明細書において特記しない限り、数値範囲を示す「A〜B」は、「A以上、B以下」であることを示す。
【0035】
〔1.シリコーン樹脂組成物〕
本発明に係るシリコーン樹脂組成物(以下、「本発明のシリコーン樹脂組成物」ともいう)は、可動部を有した微小電気機器システムチップを基板に接着させるためのシリコーン樹脂組成物である。ここで、上記「微小電気機器システムチップ」とは、微小電気機器システム(MEMS)技術を用いて製作された微小構造体を含むチップを指している。また、上記「可動部を有した微小電気機器システムチップ」とは、振動、圧力、加速度等による機械的変位を検出する微小電気機器システムチップを意図している。
【0036】
上記「可動部を有した微小電気機器システムチップ」の構成の一例を、図2に示す断面図に基づき説明する。尚、本明細書においては、特に断りがない限り、「微小電気機器システムチップ」または「MEMSチップ」は、「可動部を有した微小電気機器システムチップ」を意図している。図2は、可動部を有した微小電気機器システムチップ11の一実施形態を示す断面図である。図2に示すように、一実施形態において、MEMSチップ11は、中央部に空洞部12を有するチップ基板13の上面に、可動部として、振動電極板14を配置し、振動電極板14の上方を固定電極板15で覆った構成となっている。固定電極板15には複数個の音響孔16(アコースティックホール)が上下に貫通している。また、空洞部12の周囲では、チップ基板13の上面と振動電極板14の下面との間にベントホール17を設けており、ベントホール17によって振動電極板14および固定電極板15の間の空間(以下、「エアギャップ18」という)と空洞部12とを連通させている。
【0037】
MEMSチップ11に向けて音響振動19が空気伝搬してくると、音響振動19は音響孔16を通過してエアギャップ18内に広がり、振動電極板14を振動させる。振動電極板14が振動すると、振動電極板14と固定電極板15との間の電極間距離が変化するので、振動電極板14と固定電極板15との間の静電容量の変化を検出することで音響振動19(空気振動)を電気信号に変換して出力することができる。振動電極板14とチップ基板13との間のベントホール17は、振動電極板14の上面側と下面側を連通させ、エアギャップ18と空洞部12の間の圧力差を除去し、MEMSチップ11の測定精度を向上させるために設けられている。また、ベントホール17を設けることで、振動電極板14のチップ基板13への固定部位の面積を小さくできるので、振動電極板14を柔軟にすることができ、センサ感度を向上させることができる。
【0038】
「可動部を有した微小電気機器システムチップ」の構成の一例を示したが、「可動部を有した微小電気機器システムチップ」は、MEMS技術を用いて製作され且つ可動部を有した微小構造体を含むチップであれば、上述した構成に限定されない。例えば、加速度センサー(例えば、特開2000−121662号公報)、圧力センサー(例えば、特許第2643906号)等を構成する、振動、圧力、加速度等による機械的変位を検出する微小電気機器システムチップも、上記「可動部を有した微小電気機器システムチップ」に含まれる。
【0039】
本発明に係るシリコーン樹脂組成物は、分子中に少なくとも1つのビニル基を有するオルガノポリシロキサンと、分子中に少なくとも1つのH−Si結合を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンと、白金化合物とを含有する一液付加型シリコーン樹脂と、多孔質フィラーとを含有する。
【0040】
本発明に係るシリコーン樹脂組成物は、多孔質フィラーをさらに含むことによって、ブリードの発生が抑制される。尚、上記「ブリード発生が抑制される」とは、シリコーン樹脂組成物の成分として多孔質フィラーを含まない以外は同一の組成を有するシリコーン樹脂組成物と、本発明に係るシリコーン樹脂組成物とを比較して、本発明に係るシリコーン樹脂組成物におけるブリードの発生が抑制されることを意図している。ブリードの発生が抑制されたことは、例えば、以下に説明するブリード評価方法によって評価することができる。
【0041】
<ブリード評価方法>
ブリード評価方法の一例を図1に基づいて説明する。図1は、ブリードの評価方法を概略的に説明する図である。図1の(a)は基板3上に塗布したシリコーン樹脂組成物を側面から見た図であり、(b)は基板3上に塗布したシリコーン樹脂組成物を上から見た図である。図1において、斜線で示された部分はブリード2を表している。
【0042】
具体的には、一定量のシリコーン樹脂組成物を基材上に塗布し、常温で1時間放置した後に、150℃で1時間、硬化させた後に、発生するブリードの長さを測定することによってブリードを評価することができる。基板としては、例えば、リン酸銅に金メッキ処理を施したものを用いることができる。基板上に塗布されるシリコーン樹脂組成物の量は特に限定されないが、ブリードの長さを比較する試料間で同じ量になるように塗布される。
【0043】
基板へのシリコーン樹脂組成物の塗布方法は特に限定されないが、例えば、ディスペンサにより塗布することができる。具体的には、まず、マイクロメータのマイクロヘッドのツマミを回して、ディスペンサのピストンを押し下げ、液を押し出すことによりディスペンサの針先端に液滴を作製する。次いで、電荷結合素子カメラ(CCDカメラ)で確認しながら、約0.51μl(画面上0.7mmの大きさ)の大きさの液滴を作製する。最後に、基板を手動で液滴に近接させ、液滴が基板に接触して約1秒後に基板を針から離すことによってシリコーン樹脂組成物を塗布する。
【0044】
かかるブリード評価方法では、多孔質フィラーを含まないことを除いて、評価対象シリコーン樹脂組成物(本発明に係るシリコーン樹脂組成物)と同一の組成を有するシリコーン樹脂組成物をコントロールとし、このコントロールのシリコーン樹脂組成物において発生するブリードの長さを100%としたときの、評価対象シリコーン樹脂組成物において発生するブリードの長さの割合を、「ブリード量」として求めることによってブリードの評価を行う。
【0045】
ここで、上記「ブリードの長さ」とは、図1の(b)に示すように、基板上に塗布したシリコーン樹脂組成物を上から見たときに、ブリード2の半径上における、シリコーン樹脂組成物の硬化部1とブリード2との境界(樹脂端部)から、ブリード2の先端までの長さを指している。つまり、図1の(a)および(b)における記号「A」で表した部分の長さを、「ブリードの長さ」とする。上記「ブリードの長さ」は、図1に示した「A」の長さを、例えば、測定顕微鏡を用いて測定することによって求めることができる。
【0046】
本発明に係るシリコーン樹脂組成物では、上述したブリード評価方法によって評価したときの上記「ブリード量」が、80%以上、100%未満であることが好ましく、60%以上、80%未満であることがより好ましく、60%未満であることが最も好ましい。上記ブリード量が80%以上、100%未満であれば、シリコーン樹脂組成物のロット間のばらつきによる影響がない。ブリード量が60%以上、80%未満であれば、シリコーン樹脂組成物の塗布条件の管理幅を広くできる。また、ブリード量が60%未満であれば、半導体装置の製造工程全体の管理幅を広くできる。
【0047】
MEMSモジュールの製造工程では、一般的に、基板に熱硬化型のダイボンドが塗布され、MEMSチップが積層された後、常温で1時間程度放置され、その後150℃で1時間、ダイボンドが硬化される。それゆえ、本明細書では、一般的なMEMSモジュールの製造工程において、熱硬化型シリコーン樹脂組成物(ダイボンド)が曝される温度条件を反映させたブリード評価方法を説明する。しかし、ブリード評価方法としては、多孔質フィラーを含むシリコーン樹脂組成物において発生するブリードの長さ(または体積)と、多孔質フィラーを含まないコントロールのシリコーン樹脂組成物において発生するブリードの長さ(または体積)と、を比較することができる限り、上述した条件に限定されない。つまり、本発明に係るシリコーン樹脂組成物の硬化条件は、シリコーン樹脂組成物に含まれる、一液付加型シリコーン樹脂の性質に応じて適宜設定されるため、ブリードの評価方法におけるシリコーン樹脂組成物の硬化条件も、これに併せて適宜設定することができる。
【0048】
以下に、本発明に係るシリコーン樹脂組成物について詳細に説明する。尚、本明細書では、本発明に係るシリコーン樹脂組成物における多孔質フィラー以外の成分を、「一液付加型シリコーン樹脂」と称する。尚、本明細書において、「一液付加型シリコーン樹脂」とは、主剤と架橋剤と硬化触媒とを必須成分として、加熱によって付加反応を起こして硬化するシリコーン樹脂が意図される。
【0049】
(1)一液付加型シリコーン樹脂
「一液付加型シリコーン樹脂」は、具体的には、主剤としてのオルガノポリシロキサンと、架橋剤としてのオルガノハイドロジェンポリシロキサンと、硬化触媒としての白金化合物とを含む。
【0050】
上記オルガノポリシロキサンは、分子の末端に、ケイ素原子に結合したビニル基(SiCH=CH)を有している限り特に限定されない。このようなオルガノポリシロキサンは、例えば、下記化学式(1)で表される。
【0051】
CH=CH-Si(R)-(SiO(R))-O-Si(R)-R ・・・(1)
上記化学式(1)において、Rは、例えばビニル基、アリル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基、ヘプテニル基、アルキル基(メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基など)、アリール基(フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基など)、アラルキル基(ベンジル基、フェネチル基など)、ハロゲン化アルキル基(クロロメチル基、3−クロロプロピル基、3,3,3−トリフロロプロピル基など)等が挙げられる。
【0052】
は、ビニル基、アリル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基、ヘプテニル基、アルキル基(メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基など)、アリール基(フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基など)、アラルキル基(ベンジル基、フェネチル基など)、ハロゲン化アルキル基(クロロメチル基、3−クロロプロピル基、3,3,3−トリフロロプロピル基など)等が挙げられ、特に、ビニル基であることが好ましい。
【0053】
一液付加型シリコーン樹脂に含まれるオルガノポリシロキサンの具体的な例としては、例えば、メチルビニルシロキサン共重合体、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルビニルポリシロキサン、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン・メチルフェニルシロキサン共重合体、分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン、分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖メチルビニルポリシロキサン、分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン共重合体、分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン・メチルフェニルシロキサン共重合体、分子鎖両末端トリビニルシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン等が挙げられる。これらのオルガノポリシロキサンは、1種類を単独で含んでいてもよく、2種類以上を併用して含んでいてもよい。
【0054】
上記オルガノハイドロジェンポリシロキサンは、分子内に1つ以上のH−Si結合を有している限り特に限定されない。このようなオルガノハイドロジェンポリシロキサンは、例えば、下記化学式(2)で表される。
【0055】
H-Si-(R)-(SiO)-O-Si(R)-R ・・・(2)
上記化学式(2)において、R3、にはともに、水素原子、ビニル基、アリル基、アリル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基、ヘプテニル基、アルキル基(メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基など)、アリール基(フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基など)、アラルキル基(ベンジル基、フェネチル基など)、ハロゲン化アルキル基(クロロメチル基、3−クロロプロピル基、3,3,3−トリフロロプロピル基など)等が挙げられ、好ましくは水素原子、メチル基等の炭素原子数1〜3の低級アルキル基、フェニル基、3,3,3−トリフルオロプロピル基である。
【0056】
一液付加型シリコーン樹脂に含まれるオルガノハイドロジェンポリシロキサンの具体的な例としては、例えば、メチルハイドロジェンシクロポリシロキサン、メチルハイドロジェンシロキサン・ジメチルシロキサン環状共重合体、トリス(ジメチルハイドロジェンシロキシ)メチルシラン、トリス(ジメチルハイドロジェンシロキシ)フェニルシラン等のシロキサンオリゴマー(分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンポリシロキサン、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体、分子鎖両末端シラノール基封鎖メチルハイドロジェンポリシロキサン、分子鎖両末端シラノール基封鎖ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体、分子鎖両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン、分子鎖両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンポリシロキサン)、分子鎖両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体等が挙げられる。これらのオルガノハイドロジェンポリシロキサンは、1種類を単独で含んでいてもよく、2種類以上を併用して含んでいてもよい。
【0057】
オルガノハイドロジェンポリシロキサンとオルガノポリシロキサンとの付加反応が適切に行われるように、ビニル基を有するオルガノポリシロキサン中のアルケニル基1モルに対して、オルガノハイドロジェンポリシロキサン中のH−Si結合が、好ましくは0.25〜4.0モル、さらに好ましくは0.3〜3.0モルとなるような量で配合される。
【0058】
上記白金化合物は、オルガノポリシロキサンとオルガノハイドロジェンポリシロキサンとの付加反応を促進させるための触媒として働く。かかる白金化合物としては、例えば、白金、パラジウム、ロジウム等の白金族金属;塩化白金酸、アルコール変性塩化白金酸または塩化白金酸と、オレフィン類、ビニルシロキサンまたはアセチレン化合物との配位化合物等の白金化合物;テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム、クロロトリス(トリフェニルホスフィン)ロジウム等の白金族金属化合物等を挙げることができる。これらの白金化合物は、1種類を単独で含んでいてもよく、2種類以上を併用して含んでいてもよい。
【0059】
一液付加型シリコーン樹脂における白金化合物の配合量は、触媒としての有効量であればよく、オルガノポリシロキサンおよびオルガノハイドロジェンポリシロキサンの合計量に対する白金族金属の質量換算で、0.1〜1000ppm、より好ましくは0.1〜500ppmである。白金化合物の配合量が上記範囲内であれば、オルガノポリシロキサンとオルガノハイドロジェンポリシロキサンとの付加反応をより効果的に促進させることができる。
【0060】
上述したオルガノポリシロキサンと、オルガノハイドロジェンポリシロキサンと、白金化合物とを含む一液付加型シリコーン樹脂としては、例えば、市販の一液付加型シリコーン樹脂である東レ・ダウコーニング株式会社製のDA6501、DA6503、7920、EA−6247、EA−6265、EA−6700、DA6523、DA6524、DA6534;モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ製のXE13−B3208、TSE3212、TSE322、TSE3225、TSE3280−G、TSE3261−G、TSE3281−G、TSE3221S、TSE326、TSE3260、TSE3282−G、TSE326M、TSE3253、TSE3251、TSE325、TSE3252、TSE325−B、TSE3250;信越化学工業株式会社製のKE−1830、KE−1884、KE−1820、KE−1825、KE−1831、KE−1883、X−32−1947、KE−1056、KE−1151、KE−1842、X−32−1964、KE−1862、X−32−2020、KE−1867等を挙げることができるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0061】
本発明に係るシリコーン樹脂組成物においては、上記一液付加型シリコーン樹脂に、上述したオルガノポリシロキサン、オルガノハイドロジェンポリシロキサンおよび白金化合物以外の成分が含まれていてもよい。このような成分としては例えば、接着付与成分、補強材、重合禁止剤等を挙げることができる。
【0062】
上記接着付与成分は、接着力を向上させるために一液付加型シリコーン樹脂に添加されてもよい。オルガノポリシロキサンとオルガノハイドロジェンポリシロキサンのみを含むシリコーン樹脂組成物では、被着体によっては十分な接着力が得られない場合がある。このような場合に、一液付加型シリコーン樹脂に接着付与成分を添加することにより、シリコーン樹脂組成物の接着力の要求仕様を満足させることができる。上記接着付与成分は、オルガノポリシロキサン100質量部に対し0.01〜10質量部、特に0.3〜3質量部となるように配合される。
【0063】
接着付与成分の具体的な例としては、例えば、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン等のエポキシ官能性基含有アルコキシシラン;ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリ(メトキシエトキシ)シラン等のアルケニル基含有アルコキシシラン;γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−β(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β(アミノエチル)−γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン等のアミノ基含有アルコキシシラン;γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン等のアクリル基又はメタクリル基含有アルコキシシラン;メルカプトプロピルトリメトキシシラン等のメルカプト基含有アルコキシシラン等のアルコキシシランが挙げられる。これらの接着付与成分は、1種類を単独で含んでいてもよく、2種類以上を併用して含んでいてもよい。
【0064】
上記補強材の配合量は任意であるが、一液付加型シリコーン樹脂の機械的強度を向上させるためには、オルガノポリシロキサン100質量部に対して、1〜100質量部、特に1〜50質量部となるように配合される。
【0065】
補強材の具体的な例としては、例えば、ヒュームドシリカ、沈降シリカ、焼成シリカ、石英粉、珪藻土、炭酸カルシウム等が挙げられる。これらの補強材は、1種類を単独で含んでいてもよく、2種類以上を併用して含んでいてもよい。
【0066】
上記重合禁止剤は、室温での保存安定性を向上させるために一液付加型シリコーン樹脂に添加されてもよい。重合禁止剤の添加によって、経時により室温において白金触媒近傍で付加反応が進み、一液付加型シリコーン樹脂が増粘することを防ぎ、シリコーン樹脂組成物の保存安定性を向上させることができる。上記重合禁止剤の配合量は、有効量であり、通常、オルガノポリシロキサン100質量部に対し0.001〜5質量部、特に0.01〜1質量部となるように配合される。
【0067】
重合禁止剤の具体的な例としては、例えば、アセチレンアルコール系化合物、トリアリルイソシアヌレート系化合物、ビニル基含有ポリシロキサン、アルキルマレエート類、ハイドロパーオキサイド、テトラメチルエチレンジアミン、ベンゾトリアゾールまたはこれらの混合物等が挙げられる。これらの中でも、本発明に係るシリコーン樹脂組成物の硬化性を損なうことなく、特に優れた保存性を与えることができることから、重合禁止剤として、アセチレンアルコール系化合物またはトリアリルイソシアヌレート系化合物を配合するがことが好ましい。これらの重合禁止剤は、1種類を単独で含んでいてもよく、2種類以上を併用して含んでいてもよい。
【0068】
(2)多孔質フィラー
本発明に係るシリコーン樹脂組成物に含まれる多孔質フィラーは、シリコーン樹脂組成物の接着性に影響を及ぼすものではない。「多孔質フィラー」とは、多数の微細な孔を有する物質が意図され、特に限定されるものではない。このような多孔質フィラーとしては、例えば、活性炭;カーボンブラック;珪藻土;粘土質粒子;ゼオライト;Si、Ti、Zn、Sb、Y、La、Zr、Al、In、Sn、Ce、Fe等の各種金属酸化物;リン酸カルシウム(Ca(PO);炭酸カルシウム;Ca10(PO(OH);多孔質シリカ;多孔質アルミナ等を挙げることができる。中でも、活性炭、ゲルシリカおよびゼオライトが好ましく、ゲルシリカおよびゼオライトがより好ましく、ゼオライトが特に好ましい。ゲルシリカやゼオライトは、粒子表面が疎水性であり、且つシリコーンオイルへの馴染みがよいため、ブリードの発生を抑制するために適していると考えられる。
【0069】
多孔質フィラーの特性は、その比表面積、平均粒径、疎水性等によって決定される。
【0070】
<比表面積>
多孔質フィラーの比表面積は、例えば、従来公知の透過法、気体吸着法(BET法)、浸漬熱法等を用いて測定することができる(例えば、『最新粉体物性図説(第三版)』P.66〜73 発行者:倉田豊、発行所:(有)エヌジーティーの記載を参照)。
【0071】
本発明に係るシリコーン樹脂組成物に含まれる多孔質フィラーとしては、比表面積が300m/g以上であることが好ましい。多孔質フィラーの比表面積が300m/g以上であれば、細孔容積が大きくなり、シリコーンオイルを効率よく吸収することができる。それゆえ、シリコーン樹脂組成物におけるブリードの発生を効率よく抑制することができる。
【0072】
<平均粒径>
多孔質フィラーの平均粒径は、例えば、従来公知のコールターカウンター法、動的光散乱法、レーザー回折法、遠心沈降法、フィールド・フロー・フラクショネーション法(FFF法)等の方法を用いて測定することができる。
【0073】
多孔質フィラーの平均粒径は、10μm以下であることが好ましく、5μm以下であることがより好ましい。多孔質フィラーの比表面積が同じ場合は、平均粒径がより小さい方が、吸油量が大きいため、シリコーン樹脂組成物におけるブリードの発生を効率よく抑制することができる。
<疎水性>
ブリードの発生を抑制するためには、多孔質フィラーの表面が疎水性であることが好ましいが、疎水性が強すぎるとブリードの発生を効率よく抑制することができない。例えば、ゼオライトの表面の疎水性は、Alに対するSiの元素組成比で表すことができる。「Alに対するSiの元素組成比」とは、ゼオライトに含まれるAlに対するSiの元素組成比を指す。上記「Alに対するSiの元素組成比」は、例えば、電子線マイクロアナライザ(Electron Probe Micro Analyzer:EPMA)による元素の定量分析によって求めることができる。具体的には、EPMAを用いた面分析により、一定面積中に観察されるゼオライトに含まれるAlとSiの元素量を測定し、その値から比率を算出することによって求めることができる。多孔質フィラーとしてゼオライトを用いる場合は、上記「Alに対するSiの元素組成比」が、3.6〜5.5であることが好ましい。ゼオライトのAlに対するSiの元素組成比が上記範囲であれば、シリコーン樹脂組成物におけるブリードの発生を効率よく抑制することができる。
【0074】
多孔質フィラーは、付加反応前のシリコーン樹脂組成物の全重量に対して3〜20重量%含まれることが好ましく、5〜15重量%含まれることがより好ましい。付加反応前のシリコーン樹脂組成物の全重量に対して、多孔質フィラーが上記範囲内で含まれることによって、ブリードの発生を効率よく抑制することができる。多孔質フィラーは、1種類を単独で含んでいてもよく、2種類以上を併用して含んでいてもよい。
【0075】
本発明に係るシリコーン樹脂組成物は、下記一般式(3)に記載されるようにビニル基とSi−H結合とが付加反応することにより硬化する。
【0076】
CH=CH-Si(R)-(SiO(R)-O-Si(R)-R+H-Si-(R)-(SiO)-O-Si(R)-R→R-Si(R)-O-(SiO(R)-Si(R)-CH-CH-Si-(R)-(SiO)-O-Si(R)-R・・・(3)
本発明に係るシリコーン樹脂組成物を硬化する条件は、シリコーン樹脂組成物に含まれる一液付加型シリコーン樹脂の組成によって適宜設定され得る。例えば、本発明に係るシリコーン樹脂組成物において、市販の一液付加型シリコーン樹脂であるDA6501(東レ・ダウコーニング株式会社)を用いる場合は、150℃で1時間加熱することによってシリコーン樹脂組成物を硬化させることができる。
【0077】
シリコーン樹脂組成物を硬化させる方法は、上述した条件に限定されず、一液付加型シリコーン樹脂の種類や目的によって、適宜設定することができる。
【0078】
(3)シリコーン樹脂組成物の製造方法
本発明に係るシリコーン樹脂組成物の製造方法について説明する。本発明に係るシリコーン樹脂組成物は、例えば、一液付加型シリコーン樹脂に多孔質フィラーを添加した後に、自転公転ミキサを用いて攪拌混合し、脱泡することによって製造することができる。
【0079】
尚、本発明に係るシリコーン樹脂組成物に含まれる各成分の好ましい配合量については、上述したとおりである。
【0080】
〔2.微小電気機器システムモジュール〕
本発明に係る微小電気機器システムモジュール(MEMSモジュール)は、本発明に係るシリコーン樹脂組成物を介して、可動部を有した微小電気機器システムチップ(MEMSチップ)と基板とが接着されている。上記「可動部を有した微小電気機器システムチップ」については、「1.シリコーン樹脂組成物」の項で説明したとおりであるので、ここでは省略する。上記「基板」としては特に限定されるものではないが、例えば、プリント配線基板等が意図される。尚、本明細書で「基板」とは、MEMSモジュールにおいてMEMSチップが接着される基板を指しており、「1.シリコーン樹脂組成物」の項で説明したMEMSチップが有する「チップ基板」とは区別される。
【0081】
ここで、本発明の一実施形態であるMEMSモジュール30の構成の一例を図7に基づき説明する。図7は、本発明の実施形態であるMEMSモジュール30の構成を示す斜視図である。図7に示すように、MEMSモジュール30は、基板21上に、MEMSチップ31およびASIC(集積回路の意味でApplication Specific Integrated Circuitの略称)32を、ダイボンドを用いて接着させ、基板21の電極パッド33と、MEMSチップ31と、ASIC32とを金線34で結線し、最後に、MEMSチップ31およびASIC32を外部応力から守ることや、ノイズの発生を抑制することを目的として、蓋(Lid)35でパッケージする構成である。
【0082】
本発明に係るMEMSモジュールの構成の一例を示したが、本発明に係るMEMSモジュールは、本発明に係るシリコーン樹脂組成物を介して、可動部を有した微小電気機器システムチップ(MEMSチップ)と基板とが接着されていればよく、上述した構成に限定されない。このようなMEMSモジュールとしては、例えば、MEMSマイクロフォン、ジャイロセンサー、加速度センサー、圧力センサー、インクジェットプリンターヘッド、RF−MEMS(無線機器用高周波MEMS)、バイオセンサー、フローセンサー等を挙げることができる。
【0083】
〔3.微小電気機器システムモジュールの製造方法〕
本発明に係る微小電気機器システムモジュール(MEMSモジュール)の製造方法は、上述したMEMSモジュールの製造方法であって、本発明に係るシリコーン樹脂組成物を、可動部を有した微小電気機器システムチップ(MEMSチップ)および/または基板に塗布する塗布工程と、塗布した上記シリコーン樹脂組成物を加熱することによって硬化させ、上記MEMSモジュールと上記基板とを接着する接着工程とを含む。上記「MEMSモジュール」については、「2.微小電気機器システムモジュール」の項で説明したとおりであるので、ここでは省略する。
【0084】
(1)塗布工程
本発明に係るシリコーン樹脂組成物を、可動部を有したMEMSチップおよび/または基板に塗布する工程である。塗布工程においては、可動部を有したMEMSチップまたは基板のどちらか一方に本発明のシリコーン樹脂組成物を塗布してもよいし、可動部を有したMEMSチップと基板との両方にシリコーン樹脂組成物を塗布してもよい。
【0085】
本発明のシリコーン樹脂組成物の塗布方法としては、特に限定されるものではない。例えば、後述するディスペンス、転写等によって本発明のシリコーン樹脂組成物を塗布することができる。
【0086】
<ディスペンス>
「ディスペンス」とは、「ディスペンス」とは、ノズルと反対側からシリンジに圧力をかけて、シリコーン樹脂組成物をノズルまたはニードル先端から流出させながら塗布する方法である。この方法は、ダイボンドの厚みを確保しやすく、応力緩和性を向上できるという利点がある。
【0087】
ディスペンスによって、本発明のシリコーン樹脂組成物を塗布する方法の一例を図3および4に基づいて説明する。図3および図4は、本発明の実施形態を示し、ディスペンスによって本発明のシリコーン樹脂組成物を塗布する方法を概略的に示す図である。図3に示す第1の実施形態においては、基板21に対して、ノズル(またはニードル)23から本発明のシリコーン樹脂組成物(ダイボンド樹脂)22を連続的に流出させながら、ノズル23をダイボンド樹脂塗布位置24に沿って一周走査させ(i)、その後、塗布したダイボンド樹脂22上に、MEMSチップ25を載置させる(ii)。
【0088】
図4に示す第2の実施形態においては、基板21に対して、ノズル(またはニードル)23から一定量のダイボンド樹脂22を、ある移動距離(または時間)ごとに断続的に滴下させることによって、基板21上にドット状にダイボンド樹脂22を塗布しながら、ノズル23をダイボンド樹脂塗布位置24に沿って一周走査させ(i)、その後、塗布したダイボンド樹脂22上に、MEMSチップ25を載置させる(ii)。
【0089】
尚、図3の(i)および図4の(i)において、太い矢印は、ノズル23の移動方向を表している。ノズル23の移動方向はこれに限定されるものではなく矢印と逆の向きにノズル23を移動させてもよい。また、図4の(ii)においては、ダイボンド樹脂塗布位置24に、ダイボンド樹脂22を8回滴下しているが、本発明はこれに限定されない。ダイボンド樹脂22を断続的に滴下させる場合、ダイボンド樹脂22を滴下させる回数、滴下量等は目的に応じて適宜設定され得る。また、ノズル23の形状は、図3および4に示した形状に限定されるものではなく、目的に応じて適宜設定され得る。
【0090】
<転写>
「転写」とは、液体との濡れ性を利用した塗布方法であり、シリコーン樹脂組成物を転写ピンまたはスタンプの底面部に濡れ付着させ、被着体に接触させことによってシリコーン樹脂組成物を被着体上に移動させる塗布方法である。この方法は、少量塗布の際に適しており、ブリードの絶対量を低減することが可能となる。
【0091】
転写によって、本発明のシリコーン樹脂組成物を塗布する方法の一例を図5および6に基づいて説明する。図5および図6は、本発明の実施形態を示し、転写によって本発明のシリコーン樹脂組成物を塗布する方法を概略的に示す図である。図5に示す第3の実施形態においては、ダイボンド樹脂塗布位置24と対応する形状の底面(転写部位)27を有する転写ピン(またはスタンプ)26を、ダイボンド樹脂塗布位置24に接触させ、濡れ現象を利用して移動させることによって、基板21のダイボンド樹脂塗布位置24にダイボンド樹脂22を塗布し(i)、その後、塗布したダイボンド樹脂22上に、MEMSチップ25を載置させる(ii)。
【0092】
図6に示す第4の実施形態においては、転写ピン(またはスタンプ)26を、ダイボンド樹脂塗布位置24に、複数回接触させ、濡れ現象を利用して移動させることによって、基板21のダイボンド樹脂塗布位置24にダイボンド樹脂22をドット状に塗布し(i)、その後、塗布したダイボンド樹脂22上に、MEMSチップ25を載置させる(ii)。
【0093】
尚、図6の(ii)においては、ダイボンド樹脂塗布位置24に、転写ピン26を8回押し付けることによってダイボンド樹脂22を塗布しているが、本発明はこれに限定されない。転写ピン26を複数回押し付けて塗布する場合、転写ピン26を押し付ける回数、転写ピンの底面(転写部位)27の形状等は目的に応じて適宜設定され得る。上述した実施形態では、ダイボンド樹脂塗布位置24がロの字型の形状となっているが、本発明はこれに限定されず、MEMSチップ25の形状等に応じて適宜設定され得る。
【0094】
(2)接着工程
MEMSチップおよび/または基板に塗布した上記シリコーン樹脂組成物を加熱することによって硬化させ、上記MEMSモジュールと上記基板とを接着する工程である。接着工程において、シリコーン樹脂組成物を硬化させるための加熱条件は、シリコーン樹脂組成物に含まれる一液付加型シリコーン樹脂の種類によって適宜設定され得る。例えば、本発明に係るシリコーン樹脂組成物において、一液付加型シリコーン樹脂として、市販の一液付加型シリコーン樹脂であるDA6501(東レ・ダウコーニング株式会社)を用いる場合は、150℃で1時間加熱することによってシリコーン樹脂組成物を硬化させることができる。
【0095】
シリコーン樹脂組成物が硬化したことは、例えば、フーリエ変換赤外分光分析法(FT−IR)によってシリコーン樹脂組成物におけるビニル基の減少度合いを測定することによって確認する、または示差走査熱量測定法(differential scanning calorimetry:DSC)によって反応熱量を測定することによって確認することができる。
【0096】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例】
【0097】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明は実施例によって限定されるものではない。
【0098】
<一液付加型シリコーン樹脂>
本実施例および比較例では、一液付加型シリコーン樹脂として、市販の一液付加型シリコーン樹脂(DA6501,東レ・ダウコーニング株式会社)を用いた。
【0099】
<多孔質フィラー>
本実施例では、多孔質フィラーとして、市販のゲル法シリカ、ゼオライトおよび活性炭を用いた。各多孔質フィラーにおける、BET比表面積、粒径、およびAlに対するSiの元素組成比(Si/Al(元素比))を表1にまとめた。
【0100】
【表1】

【0101】
<シリコーン樹脂組成物の作製>
〔実施例1〜18、比較例〕
実施例1〜18および比較例のシリコーン樹脂組成物は、表2および3に示す一液付加型シリコーン樹脂および多孔質フィラーを合計100重量%となるように混合して作製した。
【0102】
<ブリード評価方法>
リン酸銅に金メッキ処理を施した基板上に、実施例1〜18および比較例のシリコーン樹脂組成物を、ディスペンサにより塗布を行った。具体的には、まず、マイクロメータのマイクロヘッドのツマミを回して、ディスペンサのピストンを押し下げ、液を押し出すことによりディスペンサの針先端に液滴を作製した。次いで、CCDカメラで確認しながら、約0.51μl(画面上0.7mmの大きさ)の大きさの液滴を作製した。最後に、基板を手動で液滴に近接させ、液滴が基板に接触して約1秒後に基板を針から離すことによってシリコーン樹脂組成物を塗布した。塗布したシリコーン樹脂組成物は、常温で1時間放置した後に、150℃で1時間、硬化させた。
【0103】
硬化後のシリコーン樹脂組成物において発生したブリードの長さを測定し、比較例のシリコーン樹脂組成物におけるブリードの長さを100%としたときの、実施例1〜18のシリコーン樹脂組成物におけるブリードの長さの割合をそれぞれ算出した。ブリードの長さの測定方法については、「1.シリコーン樹脂組成物」で説明したとおりであるので、ここでは省略する。
【0104】
結果を表2および3に示す。
【0105】
【表2】

【0106】
【表3】

【0107】
表2および表3において、「ブリード量」は、比較例のシリコーン樹脂組成物において発生するブリードの長さを100%としたときの、実施例のシリコーン樹脂組成物において発生するブリードの長さの割合(%)を表している。また、上記「ブリード量」に応じて、ブリードの抑制効果を「×」、「△」、「○」および「◎」として判定した。「ブリード評価」の判定基準は以下の通りである。
【0108】
×:ブリード量が100%
△:ブリード量が80%以上、100%未満
○:ブリード量が60%以上、80%未満
◎:ブリード量が60%未満
ブリード量が100%であれば、シリコーン樹脂組成物のロット間のばらつきや、MEMSチップの製造工程の条件によって、MEMSチップの可動部までブリードが達する可能性があると考えられた。このため、この場合の「ブリード評価」を「×」とした。ブリード量が80%以上、100%未満であれば、シリコーン樹脂組成物のロット間のばらつきによる影響がない。このため、この場合の「ブリード評価」を「△」とした。ブリード量が60%以上、80%未満であれば、シリコーン樹脂組成物の塗布条件の管理幅を広くできる。このため、この場合の「ブリード評価」を「○」とした。ブリード量が60%未満であれば、MEMSチップの製造工程全体の管理幅を広くできる。このため、この場合の「ブリード評価」を「◎」とした。
【0109】
表2および3に示すように、一液付加型シリコーン樹脂に多孔質フィラーを添加することにより、ブリードの発生を抑制することができることが明らかになった。また、BET比表面積がより大きい多孔質フィラーを添加すると、ブリードの発生を抑制する効果が大きいことが明らかになった。特に、BET比表面積が300m/g以上の多孔質フィラーを添加することによって、ブリードの発生を効果的に抑制することができることが明らかになった。
【0110】
また、BET比表面積がほぼ同じ場合は、平均粒子径が小さい多孔質フィラーを添加する方が、ブリードの発生を抑制する効果が大きいことが明らかになった。これは、平均粒子径が小さい方がシリコーンオイルの吸油量が大きくなるためであると考えられた。
【0111】
また、多孔質フィラーの中でも、特にゼオライトを添加したときのブリードの発生を抑制する効果が大きかった。実施例2〜5の結果から、特に、疎水性を表すAlに対するSiの元素組成比が3.6〜5.5であるゼオライトを添加することで、ブリードの発生を効果的に抑制することができることが明らかになった。
【0112】
さらに、実施例6から10の結果から、ゼオライトは、シリコーン樹脂組成物全重量に対して、3〜20重量%となるように添加することで、ブリードの発生を効果的に抑制することができることが明らかになった。
【産業上の利用可能性】
【0113】
本発明に係るシリコーン樹脂組成物は、ダイボンドとしてMEMSモジュールの製造において好適に用いることができる。本発明に係るシリコーン樹脂組成物は、ブリードの発生が抑制されている。それゆえ、本発明に係るシリコーン樹脂組成物をダイボンドとして用いることによって、ブリードに起因するMEMSモジュールの不具合の発生を抑えることができる。従って、本発明に係るシリコーン樹脂組成物は、可動部を有したMEMSチップと基板とを接着するためにシリコーン樹脂組成物を利用する産業において広範に利用され得る。
【符号の説明】
【0114】
1 硬化部
2 ブリード
3 基板
11 MEMSチップ(微小電気機器システムチップ)
12 空洞部
13 チップ基板
14 振動電極板
15 固定電極板
16 音響孔
17 ベントホール
18 エアギャップ
19 音響振動
21 基板
22 シリコーン樹脂組成物(ダイボンド樹脂)
23 ノズル(ニードル)
24 ダイボンド樹脂塗布位置
25 MEMSチップ(微小電気機器システムチップ)
26 転写ピン(スタンプ)
27 底面(転写部位)
30 MEMSモジュール
31 MEMSチップ(微小電気機器システムチップ)
32 ASIC
33 電極パッド
34 金線
35 蓋(Lid)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
可動部を有した微小電気機器システムチップを基板に接着させるためのシリコーン樹脂組成物であって、分子中に少なくとも1つのビニル基を有するオルガノポリシロキサンと、分子中に少なくとも1つのH−Si結合を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンと、白金化合物とを含有する一液付加型シリコーン樹脂と、多孔質フィラーとを含有することを特徴とするシリコーン樹脂組成物。
【請求項2】
上記多孔質フィラーは、比表面積が300m/g以上であることを特徴とする請求項1に記載のシリコーン樹脂組成物。
【請求項3】
上記多孔質フィラーは、活性炭、ゲルシリカおよびゼオライトからなる群より選択される1種以上であることを特徴とする請求項1に記載のシリコーン樹脂組成物。
【請求項4】
上記多孔質フィラーは、ゼオライトであることを特徴とする請求項1に記載のシリコーン樹脂組成物。
【請求項5】
上記ゼオライトに含まれるAlに対するSiの元素組成比が3.6〜5.5であることを特徴とする請求項3に記載のシリコーン樹脂組成物。
【請求項6】
上記ゼオライトは、付加反応前のシリコーン樹脂組成物の全重量に対して3〜20重量%含まれることを特徴とする請求項3に記載のシリコーン樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1に記載のシリコーン樹脂組成物を介して、可動部を有した微小電気機器システムチップと基板とが接着されていることを特徴とする微小電気機器システムモジュール。
【請求項8】
請求項7に記載の微小電気機器システムモジュールの製造方法であって、
請求項1に記載のシリコーン樹脂組成物を、可動部を有した微小電気機器システムチップおよび/または基板に塗布する塗布工程と、
塗布した上記シリコーン樹脂組成物を加熱することによって硬化させ、上記可動部を有した微小電気機器システムチップと上記基板とを接着する接着工程とを含むことを特徴とする製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−137104(P2011−137104A)
【公開日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−298722(P2009−298722)
【出願日】平成21年12月28日(2009.12.28)
【出願人】(000002945)オムロン株式会社 (3,542)
【Fターム(参考)】