説明

シリコーン系ハードコート付き樹脂基板用洗浄剤およびシリコーン系ハードコート付き樹脂基板の洗浄方法

【課題】シリコーン系ハードコート付き樹脂基板に付着した水垢を、そのシリコーン系ハードコートを損傷することなく除去する洗浄剤を提供する。
【解決手段】界面活性剤と、酸性フッ化アンモニウムと、水とを含有し、上記酸性フッ化アンモニウムの含有量が、全体量の0.5〜3.0質量%である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコーン系ハードコート付き樹脂基板用洗浄剤およびシリコーン系ハードコート付き樹脂基板の洗浄方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、無機ガラス板の代替として、透明な樹脂基板の需要が高まっている。とりわけ芳香族ポリカーボネート系の樹脂基板は、耐破壊性、耐破砕性、難燃性、透明性、軽量性、易加工性等に優れるため、例えば、車両用窓材としての使用が有望視されている。
しかし、このような樹脂基板は、無機ガラス板と比較して、耐擦傷性および耐候性の点で問題があった。
そこで、耐擦傷性および耐候性を向上させる目的で、種々のハードコート(特にシリコーン系ハードコート)を樹脂基板の表面に形成したものが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−290942号公報
【特許文献2】特開2005−8828号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、シリコーン系ハードコートを樹脂基板の表面に形成したもの(以下、「シリコーン系ハードコート付き樹脂基板」という。)においては、当初はシリコーン系ハードコートの撥水機能が発揮されているため水垢等の汚れが付着することは少ない。しかし、1〜2年間の屋外使用により、その撥水機能が低下して水垢等の汚れが付着しやすくなる。付着した水垢等の汚れは、樹脂基板の美観を損なわせるし、また、透明な樹脂基板の透視性を低下させて視界の確保を困難にして安全面の問題を生じさせる。
【0005】
このような水垢を除去するために、従来の洗浄剤を使用することが考えられる。従来の洗浄剤としては、例えば、ガラス洗浄剤、中性洗剤、研磨剤入り洗浄剤が挙げられる。
また、特許文献1には、「窒素含有量が特定量であるポリエーテルアミン化合物(A)と、水溶性のポリエーテル系溶剤(B)とを含有することを特徴とする硬質表面洗浄剤組成物」が記載され、ノニオン系界面活性剤をさらに含んでもよいことが記載されている。硬質表面とは、金属、プラスチック、ガラス、陶磁器、コンクリート等である。
さらに、特許文献2には、キレート剤を含有する車両用水垢除去用湿布剤が記載されている。
【0006】
しかし、ガラス洗浄剤であるアルカリ系洗浄剤は、シリコーン系ハードコートを溶解する。また、別のガラス洗浄剤であるアミン系洗浄剤は、芳香族ポリカーボネート系の樹脂基板自身を侵食する。そのため、いずれのガラス洗浄剤も、シリコーン系ハードコート付き樹脂基板に使用することはできない。
また、中性洗剤では、有機物系汚れは比較的よく洗浄できるものの、水垢はまったく除去できない。
また、研磨剤入り洗浄剤では、研磨剤により水垢を削りとることによって表面を清浄化するが、シリコーン系ハードコートは概して研磨剤よりも柔らかいため、シリコーン系ハードコートまでも削りとられてしまい、シリコーン系ハードコート付き樹脂基板の耐擦傷性、撥水性、耐久性、耐候性等が低下してしまう。
さらに、特許文献1,2には、スレート板、鋼板等の車両本体に使用される基材に付着した水垢を除去することが記載されているが、シリコーン系ハードコート付き樹脂基板についての記載はない。
【0007】
そこで、本発明は、シリコーン系ハードコート付き樹脂基板に付着した水垢を、そのシリコーン系ハードコートを損傷することなく除去する洗浄剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、界面活性剤に0.5〜3.0質量%の酸性フッ化アンモニウムを配合した洗浄剤とすることで、シリコーン系ハードコート付き樹脂基板に付着した水垢を、そのシリコーン系ハードコートを損傷することなく除去できることを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、以下の(1)〜(5)を提供する。
【0009】
(1)界面活性剤と、酸性フッ化アンモニウムと、水とを含有し、上記酸性フッ化アンモニウムの含有量が、全体量の0.5〜3.0質量%である、シリコーン系ハードコート付き樹脂基板用洗浄剤。
【0010】
(2)pHが、3.5〜5.2である、上記(1)に記載のシリコーン系ハードコート付き樹脂基板用洗浄剤。
【0011】
(3)上記界面活性剤が、アニオン系界面活性剤である、上記(1)または(2)に記載のシリコーン系ハードコート付き樹脂基板用洗浄剤。
【0012】
(4)上記シリコーン系ハードコート付き樹脂基板が、ポリカーボネート板である樹脂基板の表面に、M単位、D単位、T単位およびQ単位の個数の合計数に対するT単位数の個数の割合が50〜100%であるオルガノポリシロキサンを含有するハードコート剤組成物の硬化物であるシリコーン系ハードコートを有するシリコーン系ハードコート付き樹脂基板である、上記(1)〜(3)のいずれかに記載のシリコーン系ハードコート付き樹脂基板用洗浄剤。
【0013】
(5)界面活性剤と、酸性フッ化アンモニウムと、水とを含有し、上記酸性フッ化アンモニウムの含有量が、全体量の0.5〜3.0質量%である洗浄剤を用いる、シリコーン系ハードコート付き樹脂基板の洗浄方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、シリコーン系ハードコート付き樹脂基板に付着した水垢を、そのシリコーン系ハードコートを損傷することなく除去することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
<シリコーン系ハードコート付き樹脂基板用洗浄剤>
本発明のシリコーン系ハードコート付き樹脂基板用洗浄剤(以下「本発明の洗浄剤」ともいう。)は、界面活性剤と、酸性フッ化アンモニウムと、水とを含有し、上記酸性フッ化アンモニウムの含有量が、全体量の0.5〜3.0質量%である。
以下、本発明の洗浄剤に含有される各成分について説明する。
【0016】
(界面活性剤)
本発明の洗浄剤に含有される界面活性剤としては、アニオン系界面活性剤、ノニオン系界面活性剤、両性イオン系界面活性剤等が挙げられ、1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0017】
アニオン系界面活性剤としては、具体的には、例えば、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、アリールアルキルポリエーテルスルホン酸ナトリウム、3,3−ジスルホンジフェニル尿素−4,4−ジアゾ−ビス−アミノ−8−ナフトール−6−スルホン酸ナトリウム、オルト−カルボキシベンゼン−アゾ−ジメチルアニリン、2,2,5,5−テトラメチル−トリフェニルメタン−4,4−ジアゾ−ビス−β−ナフトール−6−スルホン酸ナトリウムなどのスルホン酸塩;ドデシル硫酸ナトリウム、テトラデシル硫酸ナトリウム、ペンタデシル硫酸ナトリウム、オクチル硫酸ナトリウムなどの硫酸エステル塩;オレイン酸ナトリウム、ラウリン酸ナトリウム、カプリン酸ナトリウム、カプリル酸ナトリウム、カプロン酸ナトリウム、ステアリン酸カリウム、オレイン酸カルシウムなどの脂肪酸塩;等が挙げられる。
【0018】
ノニオン系界面活性剤としては、具体的には、例えば、ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイドとポリエチレンオキサイドとの組み合わせ、ポリエチレングリコールと高級脂肪酸とのエステル、アルキルフェノールポリエチレンオキサイド、高級脂肪酸とポリエチレングリコールとのエステル、高級脂肪酸とポリプロピレンオキサイドとのエステル、ソルビタンエステル等が挙げられる。
【0019】
両性イオン系界面活性剤としては、例えば、アニオン部としてカルボン酸塩、リン酸塩、リン酸エステル塩を有し、カチオン部としてアミン塩、第四級アンモニウム塩を有するもの等が挙げられ、具体的には、ベタイン型、グリシン型等の両性イオン系界面活性剤等が挙げられる。
【0020】
これらのうち、耐硬水性に優れ、泡立ち性が良好であるという理由から、アニオン系界面活性剤を用いることが好ましく、中でも、硫酸エステル塩、スルホン酸エステル塩がより好ましい。
【0021】
(酸性フッ化アンモニウム)
本発明の洗浄剤に含有される酸性フッ化アンモニウム(NHF・HF)の含有量は、本発明の洗浄剤の全体量の0.5〜3.0質量%であり、0.5〜1.0質量%であることが好ましい。この含有量が0.5質量%未満であると水垢を除去できず、また、この含有量が多すぎるとシリコーン系ハードコートを溶解してしまうからである。すなわち、上記酸性フッ化アンモニウムの含有量がこの範囲内であれば、シリコーン系ハードコート付き樹脂基板に付着した水垢だけを効果的に除去することができる。
【0022】
ここで、従来の「無機ガラス板に付着した水垢」について説明する。無機ガラス板の主成分は、ケイ砂(SiO)、ソーダ灰(NaO)、石灰(CaO)である。このような無機ガラス板の表面に水分が長期間付着すると、ソーダ灰を加水分解して、アルカリ液(NaOH)として無機ガラス板の表面に残る。この状態で、乾燥と湿潤とを繰り返したり、大気中の炭酸ガス(CO)、硫黄酸化物(SO)、窒素酸化物(NO)による化学作用が生じたりすると、化学反応により炭酸ナトリウム(NaCO)が生成する。これらの生成物質(NaOH、NaCO)は、徐々に、無機ガラス板の表面に化学変化を起こす。また、大気中のカルシウムイオン、マグネシウムイオンと反応し、炭酸塩を生成する。これが「無機ガラス板に付着した水垢」であり、主成分は炭酸ナトリウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウムに代表される炭酸塩である。
【0023】
これに対し、「シリコーン系ハードコート付き樹脂基板に付着した水垢」は、各種分析によれば、アルミニウム、鉄、マンガン等に由来する無機微粒子と有機成分とを含むものである。
【0024】
「シリコーン系ハードコート付き樹脂基板に付着した水垢」の生成メカニズムについて説明する。シリコーン系ハードコート付き樹脂基板に付着した水垢は、シリコーン系ハードコート付き樹脂基板が新しいうちには、形成されている被膜が撥水性に優れているため、その撥水機能によって付着することも少ない。しかしながら、シリコーン系ハードコートの撥水機能が無機ガラス板表面よりも高いために、付着する水分の汚染度によっては、水分中の不揮発成分がそのまま被膜表面に残存し、水の流れ跡にそって水滴様に水垢が付着してしまうことがある。さらに1〜2年間屋外で曝露されると、被膜の撥水機能が部分的に低下するため、大気中の埃や油など有機成分に由来する汚れが付着しやすくなる。また、降雨後に被膜表面についた雨などの水分が蒸発すると、蒸発する過程で埃や汚れ成分、あるいは大気中の無機微粒子が濃縮されるため、有機成分がバインダーとなって無機微粒子を強固に取り込むと推測される。これが「シリコーン系ハードコート付き樹脂基板に付着した水垢」である。
【0025】
このように、「シリコーン系ハードコート付き樹脂基板に付着した水垢」は、同じ「水垢」と記載されていても、「無機ガラス板に付着した水垢」とは大きく相違する。
本発明の洗浄剤によれば、有機物汚れと無機物汚れとの両方の除去が可能であるため、「シリコーン系ハードコート付き樹脂基板に付着した水垢」に対して極めて効果的な洗浄力を示したものと考えられる。
【0026】
(水)
本発明の洗浄剤には、例えば溶媒として、イオン交換水等の水が含有される。上記界面活性剤と上記水との質量比(界面活性剤/水)が1/1〜1/5であることが好ましく、1/2〜1/4であることがより好ましい。場合により水とともにアルコールを用いてもよい。
【0027】
(添加剤)
本発明の洗浄剤は、公知の添加剤を必要に応じて含有できる。このような添加剤としては、例えば、界面活性剤の洗浄力を高めるビルダー(洗浄助剤)、酸化防止剤、増粘剤、蛍光剤、香料、着色剤等が挙げられる。
【0028】
(pH)
本発明の洗浄剤のpHは、例えば、上記酸性フッ化アンモニウムの含有量によって調整され、3.5〜5.2であることが好ましく、4.0〜5.0であることがより好ましい。pHがこの範囲であれば、シリコーン系ハードコート付き樹脂基板に付着した水垢をより効果的に除去することができる。
なお、pHの測定方法は、JIS Z 8802−1984に準拠している。
【0029】
本発明の洗浄剤の製造方法は、特に限定されない。市販のまたは合成したアニオン系界面活性剤、ノニオン系界面活性剤、両性イオン系界面活性剤を有する水溶液または一部アルコールを含む水溶液に、酸性フッ化アンモニウムを所定量混合して製造することができる。すなわち、洗浄剤として使用する際に、洗浄剤全体量に対して酸性フッ化アンモニウムの含有量が0.5〜3.0質量%となるように溶媒と酸性フッ化アンモニウムとの含有量を調整すればよい。したがって、洗浄剤として、界面活性剤と酸性フッ化アンモニウムとを含有し、使用時に溶媒である水やアルコールを適量添加するものも本発明に含まれる。もちろん使用する際の濃度より濃いもので水やアルコールで薄めて使用できるような濃縮液も本発明に含まれる。
【0030】
<シリコーン系ハードコート付き樹脂基板>
次に、本発明の洗浄剤が使用されるシリコーン系ハードコート付き樹脂基板について説明する。
上記シリコーン系ハードコート付き樹脂基板は、後述するハードコート剤組成物を後述する樹脂基板の表面に塗布して塗膜を形成し、この塗膜に含まれる硬化性のオルガノポリシロキサンを硬化させてシリコーン系ハードコートとすることによって得られる。
【0031】
(樹脂基板)
樹脂基板の色調は、無色透明または着色透明であることが好ましい。また、樹脂基板の厚さ、形状は、特に限定されず、平板であってもよいし、湾曲していてもよい。
樹脂基板の材料となる樹脂としては、例えば、ビスフェノールA型ポリカーボネート樹脂などのポリカーボネート樹脂、ポリスチレン樹脂、(メタ)アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアリレート樹脂、ウレタン樹脂、チオウレタン樹脂、ハロゲン化ビスフェノールAとエチレングリコールとの重縮合物、アクリルウレタン樹脂、ハロゲン化アリール基含有アクリル樹脂等が挙げられ、中でも、耐衝撃性および難燃性に優れるという理由から、ビスフェノールA型ポリカーボネート樹脂が好ましい。
【0032】
(シリコーン系ハードコート)
シリコーン系ハードコートは、オルガノポリシロキサンを含有するハードコート剤組成物から得られる。得られるシリコーン系ハードコートの膜厚は、特に限定されない。また、ハードコート剤組成物に含有されるオルガノポリシロキサンは、硬化性のオルガノポリシロキサンであれば、特に制限なく用いることができる。
【0033】
〔オルガノポリシロキサン〕
一般に、オルガノポリシロキサンは、Q単位(ケイ素原子が酸素と結合する手(以下、結合手)を4つ有する)、T単位(ケイ素原子が1個の有機基および3個の結合手を有する)、D単位(ケイ素原子が2個の有機基および2個の結合手を有する)、M単位(ケイ素原子が3個の有機基および1個の結合手を有する)、と呼ばれる含ケイ素結合単位で構成される。
このうち、硬化性のオルガノポリシロキサンは主としてT単位またはQ単位から構成されるオリゴマー状のポリマーであり、T単位のみから構成されるポリマー、Q単位のみから構成されるポリマー、T単位とQ単位とから構成されるポリマーがある。またそれらポリマーはさらに少量のM単位やD単位を含むこともある。
本発明の洗浄剤が適用できるハードコート付き樹脂基板の被膜の構成成分は、T単位を主体に構成される硬化性のオルガノポリシロキサンである。以下、特に言及しない限り、硬化性のオルガノポリシロキサンを単にオルガノポリシロキサンという。
一般的に高耐候性のシリコーン系ハードコート付き樹脂基板の被膜を構成するオルガノポリシロキサンにおけるM単位、D単位、T単位およびQ単位の合計数に対するT単位数の割合は、耐候性およびクラックの観点から、50〜100%であることが好ましく、70〜100%であることより好ましく、90〜100%であることがさらに好ましい。本発明の洗浄剤は、オルガノポリシロキサンにおけるM単位、D単位、T単位およびQ単位の合計数に対するT単位数が上記の割合をもつオルガノポリシロキサンからなるシリコーン系ハードコート付き樹脂基板に顕著な洗浄効果をもたらす。M単位、D単位、T単位、Q単位の数の割合は、29Si−NMRによるピーク面積比の値から計算できる。
【0034】
〔ハードコート剤組成物〕
ハードコート剤組成物は、オルガノポリシロキサンのほかに、耐擦傷性向上のため、コロイダルシリカを含有していてもよい。なお、コロイダルシリカとは、シリカ微粒子が水または有機溶媒中に分散されたものをいう。
ハードコート剤組成物は、さらに、各種添加剤、硬化触媒等を含んでいてもよく、樹脂基板の黄変を抑制するために、紫外線吸収剤を含むことが好ましい。
ハードコート剤組成物は、例えば、オルガノポリシロキサンおよび任意成分がアルコール等の溶媒中に溶解、分散した形態で調製される。
【0035】
(プライマー層)
上記シリコーン系ハードコート付き樹脂基板は、樹脂基板とシリコーン系ハードコートとの間に、両者の密着性を向上させるプライマー層を有していてもよい。プライマー層の膜厚は、0.1〜10μmであることが好ましく、2〜5μmであることがより好ましい。
プライマー層としては、特に限定されないが、アクリル系ポリマー、紫外線吸収剤、および溶媒を含むプライマー組成物を樹脂基板に塗布し乾燥させることによって形成される層であることが好ましい。
アクリル系ポリマーとしては、アルキル基の炭素数が6以下の(メタ)アクリル酸アルキルエステルのホモポリマー、これらモノマー同士のコポリマー等が挙げられる。その質量平均分子量は、密着性の観点から、20000以上であることが好ましい。
紫外線吸収剤としては、ハードコート剤組成物に含まれる紫外線吸収剤と同様のものを用いることができる。
溶媒としては、アクリル系ポリマーを安定に溶解することが可能であれば特に限定されない。
【0036】
シリコーン系ハードコート付き樹脂基板に付着した水垢を本発明の洗浄剤によって除去する方法は、特に限定されず、従来公知の方法を採用することができる。
例えば、スポンジ等によって、本発明の洗浄剤をシリコーン系ハードコート付き樹脂基板の表面に塗布し、こすり洗いを行い、その後水洗する方法等が挙げられる。また、必要に応じて、ポリッシャー等の研磨機械を使用することもできる。さらに、本発明の洗浄剤を液体吸収基材に含浸させたものをシリコーン系ハードコート付き樹脂基板の表面に湿布し、その後除去、水洗する方法を使用することもできる。
【実施例】
【0037】
<洗浄剤>
(実施例1)
50mLのポリプロピレン容器に、ドデシル硫酸ナトリウム(純正化学社製)15g、イオン交換水35g、および、酸性フッ化アンモニウム(純正化学社製。以下同じ。)0.5gを加えよく撹拌して、実施例1の洗浄剤を得た。得られた洗浄剤は、均一な乳白色溶液であり、その酸性フッ化アンモニウム含有量は0.99質量%であり、そのpHは4.5であった。
【0038】
(実施例2)
50mLのポリプロピレン容器に、家庭用洗剤である「チャーミーVクイック」(ライオン社製、中性−弱酸性、30質量%界面活性剤配合品。以下同じ。)50g、および、酸性フッ化アンモニウム0.5gを加えよく撹拌して、実施例2の洗浄剤を得た。得られた洗浄剤は、均一な乳白色溶液であり、その酸性フッ化アンモニウム含有量は0.99質量%であり、そのpHは4.5であった。
【0039】
(実施例3)
50mLのポリプロピレン容器に、家庭用洗剤である「ファミリーフレッシュ」(花王社製、中性−弱酸性、22質量%界面活性剤配合品。以下同じ。)10g、および、酸性フッ化アンモニウム0.1gを加えよく撹拌して、実施例3の洗浄剤を得た。得られた洗浄剤は、均一な乳白色溶液であり、その酸性フッ化アンモニウム含有量は0.99質量%であり、そのpHは4.5であった。
【0040】
(実施例4)
50mLのポリプロピレン容器に、家庭用洗剤である「チャーミーVクイック」50g、および、酸性フッ化アンモニウム0.35gを加えよく撹拌して、実施例4の洗浄剤を得た。得られた洗浄剤は、均一な乳白色溶液であり、その酸性フッ化アンモニウム含有量は0.70質量%であり、そのpHは5.0であった。
【0041】
(実施例5)
50mLのポリプロピレン容器に、家庭用洗剤である「チャーミーVクイック」50g、および、酸性フッ化アンモニウム1.40gを加えよく撹拌して、実施例5の洗浄剤を得た。得られた洗浄剤は、均一な乳白色溶液であり、その酸性フッ化アンモニウム含有量は2.7質量%であり、そのpHは4.0であった。
【0042】
(比較例1)
55%フッ化水素酸(純生化学社製)をイオン交換水で希釈して、1質量%フッ化水素酸を調製し、比較例1の洗浄剤とした。得られた洗浄剤のpHは2.5であった。
【0043】
(比較例2)
50mLのポリプロピレン容器に、「チャーミーVクイック」10gと酸性フッ化アンモニウム0.53gとを加えよく撹拌して、比較例2の洗浄剤を得た。得られた洗浄剤は、均一な乳白色溶液であり、その酸性フッ化アンモニウム含有量は5.0質量%であり、そのpHは3.0であった。
【0044】
(比較例3)
50mLのポリプロピレン容器に、「チャーミーVクイック」10gと、酸性フッ化アンモニウム0.05gと、水道水2gとを加えよく撹拌して、比較例3の洗浄剤を得た。得られた洗浄剤は、均一な乳白色溶液であり、その酸性フッ化アンモニウム含有量は0.41%であり、そのpHは5.5であった。
【0045】
(比較例4〜11)
ガラス用水垢除去剤である「ウロコカット」(洗車の王国社製)を、比較例4の洗浄剤とした。pHは0.5未満であった。
ガラス用水垢研磨剤である「Diaglanzセリウム」(ガーシャイン社製)を、比較例5の洗浄剤とした。
鉄粉除去剤である「アイアンカット」(洗車の王国社製)を、比較例6の洗浄剤とした。
鉄粉等除去専用粘土である「クリンクレイ」(洗車の王国社製)を、比較例7の洗浄剤とした。
「チャーミーVクイック」を、比較例8の洗浄剤とした。pHは6〜7であった。
「ファミリーフレッシュ」を、比較例9の洗浄剤とした。pHは6〜7であった。
台所用クレンザーである「カネヨンS」(カネヨ石鹸社製)を、比較例10の洗浄剤とした。
衛生容器用洗浄剤である「サンポール」(大日本除虫菊社製)を、比較例11の洗浄剤とした。pHは1未満であった。
【0046】
<洗浄試験>
まず、材料がポリカーボネート樹脂であるポリカーボネート板を樹脂基板としたシリコーン系ハードコート付き樹脂基板(以下、「シリコーン系ハードコート付きポリカーボネート板」と呼ぶ。)である厚さ3mmのレキサン(登録商標)マーガードMR5E(SABICイノベーディブプラスチックス社製、シリコーン系ハードコート:膜厚4〜7μm、T単位数の個数の割合100%)を12ヶ月間屋外に置き、水垢を付着させた。
次に、水垢の付着したシリコーン系ハードコート付きポリカーボネート板に、実施例1〜5および比較例1〜6、8〜11の洗浄剤を綿棒で塗布し、軽くこすった。10分放置後水道水で十分に水洗し、その後のシリコーン系ハードコート付きポリカーボネート板に付着した水垢の状態を、目視によって下記4段階で評価した。評価結果を第1表に示す。なお、比較例7は、製品所定の方法で使用した後、水道水で十分に水洗し、上記と同様に目視により評価した。
1:水垢落ちが非常に良好
2:水垢が落ちない
3:シリコーン系ハードコートが溶解する
4:シリコーン系ハードコートに傷がつく
【0047】
【表1】

【0048】
第1表に示す通り、実施例1〜5の洗浄剤によれば、シリコーン系ハードコート付き樹脂基板に付着した水垢を、そのシリコーン系ハードコートを損傷することなく除去できることが分かった。
これに対して、比較例1〜11の洗浄剤は、シリコーン系ハードコート付き樹脂基板に付着した水垢を除去するものとして、満足できるものではないことが分かった。
【0049】
<耐候性試験>
洗浄試験で用いたものと同じシリコーン系ハードコート付きポリカーボネート板を用意した。そして、水垢の付着していないシリコーン系ハードコート付きポリカーボネート板に、実施例2の洗浄剤を綿棒で塗布し、軽くこすり、10分放置後水道水で十分に水洗したものを「洗浄処理サンプル」とした。一方、水垢の付着していないシリコーン系ハードコート付きポリカーボネート板であって洗浄剤による洗浄を行っていないものを「洗浄未処理サンプル」とした。
「洗浄処理サンプル」と「洗浄未処理サンプル」とについて、光源にメタルハライドランプを用いた促進耐候性試験機である「ダイプラ・メタルウェザー KU−R4」(ダイプラ・ウインテス社製)を用い、光の照射、結露、暗黒の3条件を連続で負荷した。
・照射の条件:照度90mW/cm、ブラックパネル温度63℃、相対湿度70%の条件下で4時間光を照射
・結露の条件:光を照射せずに相対湿度98%の条件下でブラックパネル温度を70℃から30℃に自然冷却させて4時間保持
・暗黒の条件:光を照射せずにブラックパネル温度70℃、相対湿度90%の条件下で4時間保持
【0050】
192時間経過後のシリコーン系ハードコートの外観を目視で観察し、異常の有無を判定したところ、両者ともに外観の異常は見られなかった。このことから、本発明の洗浄剤の洗浄によっては、シリコーン系ハードコート付き樹脂基板の耐候性は低下しないことが分かった。
【0051】
(実施例6)
水分散型コロイダルシリカ分散液である「スノーテックス30」(日産化学工業社製、固形分濃度30質量%)25質量部に、蒸留水0.5質量部と酢酸5質量部とを加えて撹拌し、この分散液にメチルトリメトキシシラン32.5質量部を加えた。この混合液を25℃で1時間撹拌して得られた反応液に、エチルポリシリケートである「コルコート40」(コルコート社製)7.5質量部と、硬化触媒としての酢酸ナトリウム0.4質量部とを混合し、イソプロパノール50質量部で希釈して塗工液を調製した。T単位数の個数の割合は91%であった(Q単位数の割合は9%)。この塗工液をアクリル系プライマー付きポリカーボネート板に塗工し、120℃、1時間硬化させて、膜厚3.6μmのシリコーン系ハードコートとし、上記洗浄試験と同様の方法で水垢を付着させ、実施例1の洗浄剤を用いて上記洗浄試験と同様の方法で洗浄試験を行った。評価結果は、「1:水垢落ちが非常に良好」であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
界面活性剤と、酸性フッ化アンモニウムと、水とを含有し、
前記酸性フッ化アンモニウムの含有量が、全体量の0.5〜3.0質量%である、シリコーン系ハードコート付き樹脂基板用洗浄剤。
【請求項2】
pHが、3.5〜5.2である、請求項1に記載のシリコーン系ハードコート付き樹脂基板用洗浄剤。
【請求項3】
前記界面活性剤が、アニオン系界面活性剤である、請求項1または2に記載のシリコーン系ハードコート付き樹脂基板用洗浄剤。
【請求項4】
前記シリコーン系ハードコート付き樹脂基板が、
ポリカーボネート板である樹脂基板の表面に、M単位、D単位、T単位およびQ単位の個数の合計数に対するT単位数の個数の割合が50〜100%であるオルガノポリシロキサンを含有するハードコート剤組成物の硬化物であるシリコーン系ハードコートを有するシリコーン系ハードコート付き樹脂基板である、
請求項1〜3のいずれかに記載のシリコーン系ハードコート付き樹脂基板用洗浄剤。
【請求項5】
界面活性剤と、酸性フッ化アンモニウムと、水とを含有し、
前記酸性フッ化アンモニウムの含有量が、全体量の0.5〜3.0質量%である洗浄剤を用いる、シリコーン系ハードコート付き樹脂基板の洗浄方法。

【公開番号】特開2011−126935(P2011−126935A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−283954(P2009−283954)
【出願日】平成21年12月15日(2009.12.15)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】