説明

シリコーン重合体の製造方法

【課題】500℃以上の温度で製膜ができ、高透明性で、耐クラック性の特性を有する膜を形成できる新規シリコーン重合体を提供する。
【解決手段】下記一般式


(Aは一価の炭化水素基)で示される構成単位を有するシリコーン重合体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶表示素子や半導体素子等の電子部品の耐熱性材料として有用なシリコーン重合体の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、液晶表示素子や半導体素子等の電子部品に用いられる電子材料としてしては、可視光で透過性が高い高透明性や、素子を製造する際の各種処理工程に耐えられる耐熱性、耐薬品性、クラック耐性などの特性を兼ね備えた樹脂の必要性が高まっている。
【0003】
その中で、微細加工で用いられる材料としてアルカリ溶媒に可溶であるフェノール基を有するシリコーン材料が注目されてきた。このアルカリ可溶性シリコーン材料であるヒドロキシベンジルシルセスキオキサンは例えば2層レジスト法として用いられ、段差基板上に高アスペクト比のパターンを形成することができる(特許文献1)。
【0004】
このフェノール基を有するシリコーン材料の前駆体であるフェノール基をメチル基やエチル基などのアルキル基で保護したアルコキシ基を含有するシリコーン重合体の合成例は、原料にクロロシランを用いて水で単純に加水分解して合成しており、クロロシランが水と反応して発生する塩酸を触媒にして、酸性条件で加水分解している例が、多い。しかしクロロシランを酸性条件で合成したシリコーン重合体は末端にシラノールが多く残る材料となり、例えばフェノール基を有するシリコーン重合体を合成する脱アルキル反応では、シラノール基が多く残っていると脱アルキル化反応が進行しないため、一旦末端シラノール基を保護した後脱アルキル反応を行わなければならないという欠点がある(特許文献1〜5)。
【0005】
一方、例えば半導体の導電部として使用されている配線は、近年の高機能化、高密度化により流れる電流が大きくなっており高い熱を発生させる。よってその工程で使用される絶縁膜はより耐熱性のものが求められ、500℃以上で膜形成が可能な高耐熱性材料が求められている。その中で、シルセスキオキサン骨格を有するシリコーン樹脂は、特に耐熱性が優れており、これらの特性を利用して広く利用されてきた。
【0006】
このシリコーン樹脂で形成した耐熱膜は、膜表面の平坦性が重要であり、加熱による膜形成後の膜表面にクラックが入らない膜が求められている。例えば、LSI製造の多層配線工程において、加熱により形成した膜にクラックが入っている場合は、その上に膜形成した場合、新たに形成した膜が均一にならずにムラのある膜が形成してしまう可能性がある。そのように形成した膜に露光した場合、不均一な膜界面付近で光の乱反射や散乱が生じ、均一なパターン形成そのものができない。このように膜表面にクラックが入ると光学特性、機械特性などの膜特性に影響を与える場合が多いため、通常クラックが入らない膜が求められている。
【0007】
例えば、一般的なフェニル基やメチル基で合成したシリコーン組成物を溶媒に溶解させ400℃に加熱して硬化させた硬化膜についてクラック耐性を評価しているが、400℃での硬化でクラック限界が生じており、500℃以上の高温での使用するプロセスでの適応は難しい。(特許文献6)
以上のことから、500℃以上の温度で製膜ができ、透明性が高く、得られた膜にクラックが入らないシリコーン材料が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平9−87391号公報
【特許文献2】特開平8−334900号公報
【特許文献3】特開平8−334901号公報
【特許文献4】特開平9−274319号公報
【特許文献5】特開2002−338690号公報
【特許文献6】特開2007−238848公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】

本発明は、高透明性で、耐クラック性の特性を有する膜を形成できる新規シリコーン重合体を提供することを目的としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、下記一般式
【0011】
【化1】

【0012】
(式中、A、Xは一価の炭化水素基、Bは二価の炭化水素基を示す。nは1または2を示す)
で示されるケイ素化合物を塩基性触媒存在下、加水分解し、さらに縮重合反応して下記一般式
【0013】
【化2】

【0014】
(式中、Aは一価の炭化水素基をBは二価の炭化水素基を示し、nは1または2を示す)
で示される構成単位を有するシリコーン重合体を製造するシリコーン重合体の製造方法である。
【発明の効果】
【0015】
本発明のシリコーン重合体は、シリコンウェハーなどの基板にスピンコートした後、500℃以上で加熱しても基板と密着しており、かつ高い透明性と高いクラック耐性を有し、電子材料の絶縁膜や保護膜などに優れた材料となる。
【0016】
また、本発明のシリコーン共重合体は、可視光領域の波長における透明性が良く、密着性、クラック耐性に優れた材料であり、液晶表示素子や半導体素子等の電子部品や焼成後も高クラック耐性を有していることから、電子デバイスや太陽電池などの高耐熱性材料として利用できる。
【0017】
また、本発明のシリコーン共重合体は電子分野に限らず、塗料や接着剤等、幅広い分野に応用できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】実施例1の化合物のIRチャートを示す。
【図2】比較例1の化合物のIRチャートを示す。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明は、下記一般式
【0020】
【化3】

【0021】
(式中、A、Xは一価の炭化水素基、Bは二価の炭化水素基を示す。nは1または2を示す)
で示されるケイ素化合物を塩基性触媒存在下、加水分解し、さらに縮重合反応して下記一般式
【0022】
【化4】

【0023】
(式中、Aは一価の炭化水素基をBは二価の炭化水素基を示し、nは1または2を示す)
で示される構成単位を有するシリコーン重合体の製造方法である。
【0024】
本発明において、シリコーン重合体の下記構造
【0025】
【化5】

【0026】
は、シルセスキオキサン骨格を示し、各ケイ素原子が3個の酸素原子に結合し、各酸素原子が2個のケイ素原子に結合していることを示す。シルセスキオキサン骨格は、例えば、下記一般式
【0027】
【化6】

【0028】
に示す構造式で示すことができる。
【0029】
本発明は、下記一般式
【0030】
【化7】

【0031】
(式中、A、Xは一価の炭化水素基、Bは二価の炭化水素基を示す。nは1または2を示す)
で示されるケイ素化合物を塩基性触媒存在下、加水分解し、さらに縮重合反応する。
【0032】
ここで、Aは一価の炭化水素基を示し、好ましい炭化水素基としては、炭素数1〜20の直鎖状炭化水素基、分岐状炭化水素基、環状炭化水素基である。直鎖状の炭化水素基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基、n−ペンチル基などが挙げられる。分岐状炭化水素基としては、イソプロピル基、イソブチル基などの炭化水素基が挙げられる。環状炭化水素基として、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基などの環状炭化水素基が挙げられ、またノルボルナン骨格を有するような架橋型炭化水素基でも良い。これら炭化水素基の中で、メチル基、エチル基、プロピル基等の炭素数1〜5の炭化水素基がより好ましく、原料入手の容易さからメチル基がさらに好ましい。
【0033】
また、Bは二価の炭化水素基を示し、好ましい炭化水素基としては、炭素数1〜20の直鎖状炭化水素基、分岐状炭化水素基、環状炭化水素基であり、炭素数1〜20の直鎖状炭化水素基としては、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ペンチレン基などの炭化水素基が挙げられる。分岐状炭化水素基としては、イソプロピレン基、イソブチレン基などの炭化水素基が好ましい。環状炭化水素基として、シクロペンチレン基、シクロヘキシレン基、シクロペンタレン基などの環状炭化水素基が好ましく、またノルボルナン骨格を有するような架橋型炭化水素基も好ましい。これら炭化水素基の中で、メチレン基、エチレン基、プロピレン基等の炭素数1〜5のアルキレン基がより好ましく、原料入手の容易さからメチレン基、エチレン基がさらに好ましい。
【0034】
また、Xは一価の炭化水素基を示す。好ましい炭化水素基は炭素数1〜5の炭化水素基で、直鎖状炭化水素基ではメチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基、分枝状炭化水素基としてはiso−プロピル基、iso-ブチル基、sec-ブチル基が好ましい。さらに原料入手の容易さから、メチル基、エチル基がより好ましい。
【0035】
nはフェニル基に結合したアルコキシ基の数を示し、nは1または2を示す。nが1の場合は、オルト位、メタ位、パラ位どれに結合しても良いが、原料の合成の容易さから考えるとパラ位に結合したものが好ましい。nが2の場合はアルコキシ基がフェニル基に2つ結合していることを示すが、オルト位、メタ位、パラ位どれに結合していても良い。
【0036】
特に下記一般式
【0037】
【化8】

【0038】
(式中、A、Xは一価の炭化水素基、Bは二価の炭化水素基を示す。nは1または2を示す)
の中では、下記式
【0039】
【化9】

【0040】
(式中、Xは一価の炭化水素基を示す)
は、分子量が小さく蒸留精製が可能で純度も高いものが得られることから、より好ましい
また、好ましくは、下記一般式
【0041】
【化10】

【0042】
(式中、A、Xは一価の炭化水素基、Bは二価の炭化水素基を示す。nは1または2を示す)
と下記一般式
【0043】
【化11】

【0044】
(式中、RとX’は炭化水素基を示す)
のケイ素化合物の混合物を加水分解し、さらに縮重合反応を行うと、下記一般式の
【0045】
【化12】

【0046】
(式中、Aは一価の炭化水素基、Bは二価の炭化水素基を示す。nは1または2を示す)
の構造の他に、下記一般式
【0047】
【化13】

【0048】
(式中、Rは炭化水素基を示す)
の構造を含むシリコーン共重合体を製造することができる。この場合、Rに様々な特性を有する置換基を導入することによる特性効果が期待でき、さらに好ましいシリコーン重合体を製造することができる。
【0049】
式中、Rは炭化水素基を示す。好ましい炭化水素基は、炭素数1〜20の直鎖状炭化水素基、分岐状炭化水素基、環状炭化水素基、芳香族炭化水素基である。
【0050】
炭素数1〜20の直鎖状炭化水素基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基、n−ペンチル基などの炭化水素基が挙げられる。分岐状炭化水素基としては、イソプロピル基、イソブチル基などの炭化水素基が好ましい。環状炭化水素基として、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基などの環状炭化水素基が好ましく、またノルボルナン骨格を有するような架橋型炭化水素基も好ましい。これら炭化水素基の中で、メチル基、エチル基、プロピル基等の炭素数1〜5の炭化水素基は、シリコーン共重合体全体のシリコン含有率を向上させるため、シリコーン樹脂の耐熱性が向上することからより好ましく、原料入手の容易さからメチル基がさらに好ましい。
【0051】
また、芳香族炭化水素基としては、フェニル基、ベンジル基、フェネチル基、フェニルプロピル基、ジフェニルメチル基、シンナミル基、スチリル基、トリチル基などのベンゼン環と炭化水素基とを有した置換基、トルイル基、クメニル基、メシル基、キシリル基などのベンゼン環に置換基が結合した芳香族炭化水素基も好ましい。4−メチルフェニルエチル基、4−メチルフェニルプロピル基、2,4−ジメチルフェニルエチル基等、ベンゼン環に置換基が結合していても良い。芳香族炭化水素基は、樹脂の耐熱性を向上させることができるため、より好ましい。フェニル基、トルイル基、クメニル基、メシル基、キシリル基等の芳香族炭化水素基が特に好ましく、一般的に入手が容易なフェニル基がさらに好ましい。
【0052】
下記一般式
【0053】
【化14】

【0054】
(式中、A、Xは一価の炭化水素基、Bは二価の炭化水素基を示す。nは1または2を示す)
と下記一般式
【0055】
【化15】

【0056】
(式中、RとX’は炭化水素基を示す)
のケイ素化合物のみで加水分解、縮重合した場合、下記一般式
【0057】
【化16】

【0058】
(式中、Aは一価の炭化水素基、Bは二価の炭化水素基を示す。Rは炭化水素基を示し、nは1または2を示す。aとbは原料の仕込みモル組成比を示し、1≦a、b≦99、a+b=100を示す)
で表されるシリコーン共重合体が製造できる。ここでaは耐熱性を示すユニットを示し、aは50モル%以上が好ましく、70モル%以上がさらに好ましい。
【0059】
本発明は、
【0060】
【化17】

【0061】
(式中、A、Xは一価の炭化水素基、Bは二価の炭化水素基を示す。nは1または2を示す)
で示されるケイ素化合物を塩基性触媒存在下、加水分解する。塩基性触媒を使用すると、硬化膜の末端シラノール基が少ない。
【0062】
クロロシランモノマーを原料に使用して水と加水分解反応した場合や、アルコキシシランも用いた場合でも、塩酸や硫酸、硝酸などの無機酸やシュウ酸、クエン酸などのカルボン酸を触媒に用いた酸性条件では、得られたシリコーン重合体には末端シラノール基が多く、500℃以上で製膜したとき、末端シラノールが縮合して膜に亀裂が生じ硬化膜として使用できない。
【0063】
塩基性触媒は、無機塩基性触媒、第四級アンモニウム塩、アミン類が好ましい。無機塩基性触媒としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等が挙げられる。第4級アンモニウム塩としては、テトラブチルアンモニウムフルオライド、ベンジルトリブチルアンモニウムクロライド、ベンジルトリエチルアンモニウムクロライド、ベンジルトリメチルアンモニウムクロライド、テトラn−ブチルアンモニウムクロライド、テトラエチルアンモニウムクロライド、テトラメチルアンモニウムクロライド、ベンジルトリn−ブチルアンモニウムブロマイド、ベンジルトリエチルアンモニウムブロマイド、ベンジルトリメチルアンモニウムブロマイド、n−オクチルトリメチルアンモニウムブロマイド、ヘキシルトリメチルアンモニウムブロマイド、テトラブチルアンモニウムブロマイド、テトラエチルアンモニウムブロマイド、テトラデシルトリメチルアンモニウムブロマイド、テトラメチルアンモニウムブロマイド、テトラn−プロピルアンモニウムブロマイド、テトラブチルアンモニウムアイオダイド、テトラエチルアンモニウムアイオダイド、テトラメチルアンモニウムアイオダイド、テトラn−プロピルアンモニウムアイオダイド、トリメチルフェニルアンモニウムアイオダイド、ベンジルトリメチルアンモニウムヒドロキシト゛、フェニルトリメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラプロピルアンモニウムヒドロキシド、テトラブチルアンモニウムヒドロゲンスルフェート、テトラブチルアンモニウムテトラフルオロボレート、テトラメチルアンモニウムチオシアネート、テトラメチルアンモニウムp−トルエンスルフォネートなどが挙げられる。アミン類としては、トリメチルアミン、トリエチルアミン、ピリジン、N,N−ジメチルアミノピリジンなどが挙げられる。
【0064】
この中で、分子量制御などを考慮すると、第4級アンモニウム塩が好ましく、その中でもベンジルトリブチルアンモニウムクロライド、ベンジルトリメチルアンモニウムクロライド、テトラn−ブチルアンモニウムクロライド、テトラメチルアンモニウムクロライド、ベンジルトリn−ブチルアンモニウムブロマイド、ベンジルトリメチルアンモニウムブロマイド、ヘキシルトリメチルアンモニウムブロマイド、テトラブチルアンモニウムブロマイド、テトラデシルトリメチルアンモニウムブロマイド、テトラメチルアンモニウムブロマイド、ベンジルトリメチルアンモニウムヒドロキシト゛、フェニルトリメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラプロピルアンモニウムヒドロキシド、テトラブチルアンモニウムヒドロゲンスルフェート、テトラブチルアンモニウムテトラフルオロボレート、テトラメチルアンモニウムチオシアネート、テトラメチルアンモニウムp−トルエンスルフォネートが特に好ましい。さらに、強い塩基でモノマーの加水分解速度を制御可能なテトラメチルアンモニウムヒドロキシドが一番好ましい。
【0065】
塩基性触媒の使用量は原料モノマーのモル数に対して0.001〜1.0当量が好ましく、0.01〜0.5当量がさらに好ましい。
【0066】
加水分解反応、重縮合反応の反応温度は、0〜100℃が好ましく、触媒を使用することにより反応が容易に進行することから、20〜50℃がより好ましい。
【0067】
加水分解反応、重縮合反応では、有機溶媒を使用することが好ましく、有機溶媒としては、トルエン、キシレン等の非プロトン性溶媒、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン系溶媒、メタノール、エタノール、2−プロパノール等のアルコール溶媒、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル溶媒、等の溶媒を使用することができる。溶媒コストや得られた共重合体の精製方法を考慮すると、トルエン、メチルイソブチルケトン、2−プロパノールが特に好ましい。
【0068】
また、得られたシロキサン樹脂は、例えば、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、乳酸エチルなどの高沸点溶媒に溶解させて、シリコンウェハーやガラス基板に塗布することができる。プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、乳酸エチルなどの高沸点溶媒は、加水分解反応、重縮合反応の反応溶媒として使用することができる。
【0069】
また、非プロトン性溶媒を加水分解反応、重縮合反応の反応溶媒として使用する場合は、加水分解反応を促進させる目的で、水に可溶なアルコール溶媒を加えて加水分解反応させることが望ましい。
【0070】
加水分解反応、重縮合反応の反応終了後は、非極性溶媒を添加して反応生成物と水とを分離して、有機溶媒に溶解した反応生成物を回収し、水で洗浄後に溶媒を留去することにより目的の生成物を得ることができる。
【0071】
このようにして本発明のシリコーン共重合体を合成することができる。
【実施例】
【0072】
以下、実施例を示して本発明を具体的に説明する。
【0073】
以下の実施例において、測定には下記装置を使用し、原料は試薬メーカー(東京化成品、和光純薬品、ナカライテスク品、アズマックス品、信越化学品)から購入した一般的な試薬を用いた。
【0074】
測定装置
NMR測定・・・日本電子製400MHz NMR測定器で測定した。
【0075】
IR測定・・・島津製IR Prestige-21。溶液の場合はKBr板に合成品を少量塗布し、別のKBr板に挟んで赤外を透過させて測定した。
【0076】
GPC測定・・・東ソー製HLC-8220。東ソー製TSK-gel Super3000、TSK-gel Super2000、TSK-gel Super1000を使用し、リファレンスにTSK-gel SuperH-RCを2本使用した。溶媒はTHFを使用し、カラム流量を0.35mL/min、カラム温度は40℃、測定はRIで実施した。分子量分布の基準にはポリスチレン(東ソー製基準サンプル)を使用して分子量分布を算出した。
【0077】
GC測定・・・J&W社製キャピラリーカラムDB−5を用いて、島津製GC-2010シリーズで測定した。
【0078】
合成例1
4−メトキシベンジルトリメトキシシランの合成例
撹拌機、還流冷却器、滴下ろう斗及び温度計を備えた500mL4つ口フラスコに、マグネシウム19.0g(0.784モル)とテトラヒドロフラン300mLを加えヨウ素辺を加えた。そこに少量の4−メトキシベンジルクロライドを滴下し反応を開始させた後、4−メトキシベンジルクロライド合計116.9g(0.746モル)を5〜10℃で滴下してグリニャール試薬を調整した。
【0079】
次に撹拌機、還流冷却器、滴下ろう斗及び温度計を備えた1000mL4つ口フラスコに正珪酸メチル568g(3.73モル)仕込み、70〜80℃の温度で先に調整したグリニャール試薬を2時間かけて滴下した。その後冷却し析出したマグネシウム塩をろ過した後、溶媒を留去し、さらに減圧度5mmHgで128〜135℃の留分を122g(0.495モル)回収した。得られた留分のGC分析結果、GC純度98.8%、NMRとIR分析の結果、4−メトキシベンジルトリメトキシシランであった。
【0080】
得られた化合物のスペクトルデータを下記に示す。
【0081】
赤外線吸収スペクトル(IR)データ
2839,2941cm-1 (-CH3,Ar)、1080cm-1(Si-O)
核磁気共鳴スペクトル(NMR)データ(1H-NMR溶媒:CDCl3
2.15ppm(s、2H、-CH2-)、3.52ppm(s、9H、-OCH3)、3.76ppm(s、3H、CH3-O-)、6.78-6.80ppm(d、J=8.5Hz、2H、Ar-H)、7.07-7.09ppm(d、J=8.5Hz、2H、Ar-H)。
【0082】
実施例1
4−メトキシベンジルシルセスキオキサンの合成
【0083】
【化18】

【0084】
撹拌機、還流冷却器、滴下ろう斗及び温度計を備えた500mL4つ口フラスコに、25%テトラメチルアンモニウムヒドロキシド水溶液2.6gと水9.4gを仕込み、2−プロパノール60mLとトルエン30mLを加えた。そこに4−メトキシベンジルトリメトキシシラン59.2g(0.244モル)のトルエン30mL溶液を滴下ロートに入れ撹拌しながら35〜45℃の温度で滴下した。滴下終了後2時間熟成し、室温に冷却後トルエン90mLと水90mLを加え抽出した。分液ロートに入れ水層を排出後、次に希酢酸水溶液で洗浄し、水層を排出後続けて水で4回洗浄を行った。その後油層を0.5μmのPTFEフィルターでろ過後トルエンを留去して4−メトキシベンジルシルセスキオキサン46.8g得た。
【0085】
得られた共重合体のスペクトルデータを下記に示す。
【0086】
赤外線吸収スペクトル(IR)データ
1038-1296cm-1(Si-O)、2833-3030 cm-1(C-H)、3410 cm-1(Si-OH)
核磁気共鳴スペクトル(NMR)データ(1H-NMR δ(ppm)、溶媒:CDCl3
1.78(bs、2H、-CH2-)、3.68(bs、3H、CH3-O-)、6.72 (bs、4H、Ar-H)
GPC分析データ:Mw=2,320、Mn=2,050、Mw/Mn=1.13(ポリスチレン換算)。
【0087】
実施例2
4−メトキシベンジルシルセスキオキサン・フェニルシルセスキオキサン共重合物の合成
【0088】
【化19】

【0089】
(70:30は原料の仕込みモル組成比を示す)。
【0090】
撹拌機、還流冷却器、滴下ろう斗及び温度計を備えた500mL4つ口フラスコに、25%テトラメチルアンモニウムヒドロキシド水溶液2.1gと水7.5gを仕込み、2−プロパノール60mLとトルエン30mLを加えた。そこに4−メトキシベンジルトリメトキシシラン47.4g(0.195モル)とフェニルトリメトキシシラン16.6g(0.084モル)のトルエン30mL溶液を滴下ロートに入れ撹拌しながら35〜45℃の温度で滴下した。滴下終了後2時間熟成し実施例1に記載の抽出方法で精製して、4−メトキシベンジルシルセスキオキサン・フェニルシルセスキオキサン共重合体45.0g得た。
【0091】
得られた共重合体のスペクトルデータを下記に示す。
【0092】
赤外線吸収スペクトル(IR)データ
1026-1132cm-1(Si-O)、2970-3071 cm-1(C-H)、3080-3700 cm-1(Si-OH)
核磁気共鳴スペクトル(NMR)データ(1H-NMR δ(ppm)、溶媒:CDCl3
1.87(bs、1.4H、-CH2-)、3.69(bs、2.1H、CH3-O-)、6.10-7.50(m、5H、Ar-H)
GPC分析データ:Mw=2,800、Mn=2,210、Mw/Mn=1.27(ポリスチレン換算)。
【0093】
実施例3
4−メトキシベンジルシルセスキオキサン・メチルシルセスキオキサン共重合物の合成
【0094】
【化20】

【0095】
(70:30は原料の仕込みモル組成比を示す)
フェニルトリメトキシシランをメチルトリメトキシシラン11.4g(0.084モル)に代えて、実施例3と同様の操作で合成を行い、4−メトキシベンジルシルセスキオキサン・メチルシルセスキオキサン共重合体38.7g得た。
【0096】
得られた共重合体のスペクトルデータを下記に示す。
【0097】
赤外線吸収スペクトル(IR)データ
1026-1132cm-1(Si-O)、2970-3071 cm-1(C-H)、3080-3700 cm-1(Si-OH)
核磁気共鳴スペクトル(NMR)データ(1H-NMR δ(ppm)、溶媒:CDCl3
-0.10(bs、1.8H、CH3-Si)、1.94(bs、1.4H、Ar-CH2-Si)、3.71(bs、2.1H、CH3-O-Ar)、6.72(bs、2.9H、Ar-H)
GPC分析データ:Mw=3,830、Mn=2,250、Mw/Mn=1.70(ポリスチレン換算)。
【0098】
実施例4
4−メトキシベンジルシルセスキオキサン・メチルシルセスキオキサン共重合体の合成
【0099】
【化21】

【0100】
(70:30は原料の仕込みモル組成比を示す)
フェニルトリメトキシシランをn−プロピルトリメトキシシラン13.8g(0.084モル)に代えて、実施例3と同様の操作で合成を行い、4−メトキシベンジルシルセスキオキサン・メチルシルセスキオキサン共重合体40.2g得た。
【0101】
得られた共重合体のスペクトルデータを下記に示す。
【0102】
赤外線吸収スペクトル(IR)データ
1026-1132cm-1(Si-O)、2970-3071 cm-1(C-H)、3080-3700 cm-1(Si-OH)
核磁気共鳴スペクトル(NMR)データ(1H-NMR δ(ppm)、溶媒:CDCl3
0.43(bs、0.6H、-CH2-Si)、0.87(bs、0.9H、CH3-)、1.24(bs、0.6H、-CH2-)、1.86(bs、1.4H、Ar-CH2-Si)、3.75(bs、2.1H、CH3-O-)、6.71(bs、2.9H、Ar-H)
GPC分析データ:Mw=2,770、Mn=1,990、Mw/Mn=1.39(ポリスチレン換算)。
【0103】
実施例5
4−メトキシベンジルシルセスキオキサン・フェニルシルセスキオキサン共重合物の合成
【0104】
【化22】

【0105】
(50:50は原料の仕込みモル組成比を示す)
撹拌機、還流冷却器、滴下ろう斗及び温度計を備えた500mL4つ口フラスコに、25%テトラメチルアンモニウムヒドロキシド水溶液2.1gと水7.5gを仕込み、2−プロパノール60mLとトルエン30mLを加えた。そこに4−メトキシベンジルトリメトキシシラン33.9g(0.140モル)とフェニルトリメトキシシラン27.8g(0.140モル)のトルエン30mL溶液を滴下ロートに入れ撹拌しながら35〜45℃の温度で滴下した。滴下終了後2時間熟成し実施例1に記載の抽出方法で精製して、4−メトキシベンジルシルセスキオキサン・フェニルシルセスキオキサン共重合体43.2g得た。
【0106】
得られた共重合体のスペクトルデータを下記に示す。
【0107】
赤外線吸収スペクトル(IR)データ
1026-1132cm-1(Si-O)、2970-3071 cm-1(C-H)、3080-3700 cm-1(Si-OH)
核磁気共鳴スペクトル(NMR)データ(1H-NMR δ(ppm)、溶媒:CDCl3
1.87(bs、1.4H、-CH2-)、3.69(bs、2.1H、CH3-O-)、6.10-7.50(m、5H、Ar-H)
GPC分析データ:Mw=2,800、Mn=2,210、Mw/Mn=1.27(ポリスチレン換算)。
【0108】
実施例6
4−メトキシベンジルシルセスキオキサン・フェニルシルセスキオキサン共重合物の合成
【0109】
【化23】

【0110】
(70:30は原料の仕込みモル組成比を示す)。
【0111】
撹拌機、還流冷却器、滴下ろう斗及び温度計を備えた500mL4つ口フラスコに、25%テトラメチルアンモニウムヒドロキシド水溶液2.1gと水7.5gを仕込み、2−プロパノール60mLとメチルイソブチルケトン30mLを加えた。そこに4−メトキシベンジルトリメトキシシラン47.4g(0.195モル)とフェニルトリメトキシシラン16.6g(0.084モル)のトルエン30mL溶液を滴下ロートに入れ撹拌しながら35〜45℃の温度で滴下した。滴下終了後2時間熟成し実施例2に記載の抽出方法で精製して、4−メトキシベンジルシルセスキオキサン・フェニルシルセスキオキサン共重合体44.7g得た。
【0112】
得られた共重合体のスペクトルデータを下記に示す。
【0113】
赤外線吸収スペクトル(IR)データ
1026-1132cm-1(Si-O)、2970-3071 cm-1(C-H)、3080-3700 cm-1(Si-OH)
核磁気共鳴スペクトル(NMR)データ(1H-NMR δ(ppm)、溶媒:CDCl3
1.87(bs、1.4H、-CH2-)、3.69(bs、2.1H、CH3-O-)、6.10-7.50(m、5H、Ar-H)
GPC分析データ:Mw=2,850、Mn=2,200、Mw/Mn=1.30(ポリスチレン換算)。
【0114】
比較例1
4−メトキシベンジルシルセスキオキサン重合物の合成
【0115】
【化24】

【0116】
撹拌機、還流冷却器、滴下ろう斗及び温度計を備えた500mL4つ口フラスコに、35%塩酸水溶液3.3gと水120gを仕込み撹拌を開始した。また、4−メトキシベンジルトリメトキシシラン78.5g(0.324モル)のトルエン120mL溶液を15〜20℃で滴下した。その後15〜20℃の温度でそのまま2時間熟成し、トルエンを加えて抽出し、水層を除去後、炭酸水素ナトリウム水溶液、希酢酸水溶液、水で4回洗浄後、油層を濃縮して4−メトキシベンジルシルセスキオキサン縮重合物57.5gを得た。
【0117】
得られた共重合体のスペクトルデータを下記に示す。
【0118】
赤外線吸収スペクトル(IR)データ
1036-1246cm-1(Si-O)、2951-3071 cm-1(C-H)、3165-3603 cm-1(Si-OH)
核磁気共鳴スペクトル(NMR)データ(1H-NMR δ(ppm)、溶媒:CDCl3
1.83(bs、2H、-CH2-)、3.68(bs、3H、CH3-O-)、6.69(bs、4H、Ar-H)
GPC分析データ:Mw=2,530、Mn=1,610、Mw/Mn=1.57(ポリスチレン換算)。 比較例2
フェニルシルセスキオキサン・メチルシルセスキオキサン共重合体の合成
【0119】
【化25】

【0120】
(70:30の仕込みモル組成比を示す)
(構造式中の50:50は使用原料のモル比)
撹拌機、還流冷却器、滴下ろう斗及び温度計を備えた500mL4つ口フラスコに、トルエン50.6gと水33.4gを仕込み、35%塩酸を3.13g(0.03モル)を加えた。次にフェニルトリメトキシシラン41.9g(0.211モル)、メチルトリメトキシシラン12.5g(0.091モル)のトルエン25.3gの溶液を15〜20℃で滴下した。滴下終了後、同温度で2時間熟成させた。このときの反応溶液をGCで分析した結果、原料は残っていないことが分かった。次にトルエンと水を加えて抽出し、炭酸水素ナトリウム水溶液で洗浄後に、水で溶液が中性になるまで洗浄した。トルエン油層を回収し、トルエンを除去して、目的の白色固体状の化合物27.2gを得た。
【0121】
得られた共重合体のスペクトルデータを下記に示す。
【0122】
赤外線吸収スペクトル(IR)データ
1028-1132cm-1(Si-O)、2970-3070 cm-1(C-H)、3070-3700 cm-1(Si-OH)
核磁気共鳴スペクトル(NMR)データ(1H-NMR δ(ppm)、溶媒:CDCl3
0.16(bs)、7.00-7.57(m)、7.57-7.90(m)
GPC分析データ:Mw=960、Mw/Mn=1.25(ポリスチレン換算)。
【0123】
<合成材料の評価>
実施例1〜6、及び、比較例1、2のIR測定を実施した。また製造されたシリコーン重合体を、それぞれをプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートに溶解させ、固形分濃度が40重量%になるように調整した溶液を得た。その後、当該溶液をPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)製のフィルタで濾過し、シリコンウエハまたはガラス基板上に、溶媒除去した後の膜厚が2.0μmになるような回転数で30秒間回転塗布した。その後100℃/30秒かけて溶媒除去し、電気炉で750℃/1時間かけて被膜を最終焼成し絶縁被膜とした。
【0124】
[シラノール基の大小判断]
それぞれのIR測定の結果、3500cm-1付近の吸収が大きいものをシラノール多いものとし、吸収が小さいものをシラノール少ないものとした。
【0125】
[加熱硬化膜特性]
上記成膜方法により成膜された被膜に対して、シリコンウェハー上の膜厚を測定し、クラックの有無を確認しクラックが発生したものが×、クラック発生無しのものが○と判定した。
【0126】
<評価結果>
硬化膜の評価結果およびそれに基づく総合評価を下記の表1に示す。
【0127】
【表1】

【0128】
このように、塩基性条件で合成したシリコーン重合体は、IR測定によるシラノールの量は少なく、500℃以上の加熱で形成した硬化膜でクラックの発生がなく、優れた加熱膜を形成することができる。よって、本発明のシリコーン共重合体は、電子材料分野に限らず、塗料や接着剤等、幅広い分野で応用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式
【化1】

(式中、A、Xは一価の炭化水素基、Bは二価の炭化水素基を示す。nは1または2を示す)
で示されるケイ素化合物を塩基性触媒存在下、加水分解し、さらに縮重合反応して下記一般式
【化2】

(式中、Aは一価の炭化水素基、Bは二価の炭化水素基を示し、nは1または2を示す)
で示される構成単位を有するシリコーン重合体を製造するシリコーン重合体の製造方法。
【請求項2】
下記一般式
【化3】

(式中、A、Xは一価の炭化水素基、Bは二価の炭化水素基を示す。nは1または2を示す)
と下記一般式
【化4】

(式中、R、X’は炭化水素基を示す)
のケイ素化合物の混合物を加水分解し、さらに縮重合反応を行う請求項1記載のシリコーン重合体の製造方法。
【請求項3】
下記一般式
【化5】

(式中、A、Xは一価の炭化水素基、Bは二価の炭化水素基を示す。nは1または2を示す)
が、
【化6】

(式中、Xは一価の炭化水素基を示す)
である請求項1または2に記載のシリコーン重合体の製造方法。
【請求項4】
塩基性触媒が4級アンモニウム塩である請求項1から3に記載のシリコーン重合体の製造方法。
【請求項5】
4級アンモニウム塩がテトラメチルアンモニウムヒドロキシドである請求項4に記載のシリコーン重合体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−126892(P2012−126892A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−245308(P2011−245308)
【出願日】平成23年11月9日(2011.11.9)
【出願人】(000187046)東レ・ファインケミカル株式会社 (153)
【Fターム(参考)】