説明

シリンジ用部材、該シリンジ用部材を用いた医療用シリンジ、及び該シリンジ用部材の製造方法

【課題】シリンジ用ガスケットに摺動性被膜を形成する場合において、高い摺動性を備えたシリンジ用部材を提供することを目的とする。
【解決手段】摺動領域を有する弾性成形体の少なくとも該摺動領域がシリコーンオイルを含有する処理液で表面処理されており、前記シリコーンオイルが、側鎖にアミノ基を有する両末端水酸基封鎖変性シリコーンオイルであるシリンジ用部材である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療用シリンジの部材として好ましく用いられる摺動性に優れた部材等及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
医療現場において、予め、薬液をシリンジに充填して密閉した状態で取り引きされるプレフィルドシリンジが知られている。このようなプレフィルドシリンジは、医療従事者の作業工程を削減して作業効率を高めたり、容器からの移し替えによる医療過誤の発生を防ぐことを目的として、近年広く用いられている。このようなプレフィルドシリンジは、筒先にキャップ部材が嵌め込まれて封止されたシリンジ用外筒に薬液を充填し、シリンジ用外筒内にガスケットを備えたプランジャを挿入することにより薬液が密閉保存される。
【0003】
プレフィルドシリンジの使用時においては、医療従事者がシリンジ用外筒の筒先に嵌められたキャップを取り外す。そして、シリンジ用外筒内に挿入されたプランジャをシリンジポンプにより極低速条件下で移動させて薬液を吐出させるようにして用いられる。具体的には、例えば、1mL/時間で吐出させるような場合、直径約24mmのシリンジにおいては、プランジャの移動速度は約2mm/時間程度になる。このような場合においては、薬液を安定して吐出させるために、ガスケットに高い摺動性が求められる。
【0004】
従来、医療用シリンジにおいては、ガスケットの摺動性を高める技術として、シリンジ用外筒の内壁やガスケットにシリコーンオイル等の潤滑剤を塗布する方法が広く用いられている。例えば、下記特許文献1は、ガスケット本体の外表面に反応型シリコーンオイルを塗布し、水蒸気下で加熱することにより摺動性に優れた被複層を形成することが開示されている。
【0005】
また、下記特許文献2は、シリコーン濃度が1〜30重量%の、シリコーンエマルジョンおよび/または水溶性シリコーンを含有するシリコーン水溶液で表面処理された熱可塑性エラストマー成形品を開示する。そして、このような熱可塑性エラストマー成形品は、熱可塑性エラストマー成形品の一般物性を大きく損なうことなく、作業環境性に優れ、滑り性、摺動摩耗性を改良させた医療用チューブなどの熱可塑性エラストマー成形品を提供できることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】実用新案登録3134991号公報
【特許文献2】特開2006−161020号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1及び特許文献2に開示されたような表面処理をプレフィルドシリンジに用いられるガスケットの表面に施しても、未だ、薬液を完全に安定して吐出できる程度には高い摺動性を備えたプレフィルドシリンジ用ガスケットは得られなかった。
【0008】
また、プレフィルドシリンジの製造工程においては、次のような問題があった。プレフィルドシリンジのシリンジ用外筒の筒先を封止するキャップには薬液の密閉性が求められるために、ガスケットに用いられるのと同様の弾性体が用いられている。このような弾性体は通常滑り性が低い。シリンジ用外筒の内壁には通常、潤滑剤が塗布されているために、ガスケットを備えたプランジャをシリンジ用外筒に挿入することは比較的容易である。一方、シリンジ用外筒の筒先には潤滑剤は塗布されない。従って、潤滑剤が塗布されていないシリンジ用外筒の筒先にプレフィルドシリンジの製造工程においてキャップを嵌める場合、筒先の滑り性が低いために嵌め込むのが困難であり、生産性の低下の原因となっているだけでなく、キャップがシリンジ用外筒にしっかりと嵌め込まれなかった場合には、意図せずに比較的簡単に外れてしまうという問題もあった。
【0009】
本発明は、上述のような問題を解決すべく、シリンジ用ガスケットに摺動性被膜を形成する場合において、高い摺動性を備えたシリンジ用部材に関する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一局面は、摺動領域を有する弾性成形体の少なくとも摺動領域がシリコーンオイルを含有する処理液で表面処理されており、シリコーンオイルが、側鎖にアミノ基を有する両末端水酸基封鎖変性シリコーンオイル(以下単に、変性シリコーンオイルとも呼ぶ)であるシリンジ用部材である。このようなシリンジ用部材をガスケットに用いた場合にはシリンジ用外筒の内壁面との安定した摺動性を確保することができる。また、シリンジの筒先のキャップに用いた場合には、筒先に容易且つ確実に嵌め込むことができる。
【0011】
また、本発明の他の一局面は、シリンジ用外筒とシリンジ用外筒内に摺動可能に挿入されたプランジャとを備え、プランジャの先端にシリンジ用ガスケットが取り付けられており、シリンジ用外筒の筒先部にキャップが嵌められており、ガスケットまたはキャップが上記シリンジ用部材から形成されているものである。上述したシリンジ用部材を用いたガスケットは潤滑剤の存在下でばらつきの少ない優れた摺動性を発揮する。また、上述したシリンジ用部材を用いたキャップは、シリンジ用外筒の筒先に嵌め込むのに十分な摺動性を有し、筒先に確実に嵌め込むことができる。
【0012】
また、本発明の他の一局面は、上記シリンジ用部材を製造する方法であって、弾性成形体の少なくとも摺動領域に変性シリコーンオイルを含有する水性液に一定時間接触させた後水洗する、シリンジ用部材の製造方法である。水洗する工程を備えることにより、高い摺動性を備えたシリンジ用部材の外観に白色の液滴跡が残らなくなる。
【発明の効果】
【0013】
本発明のシリンジ用部材は、シリンジ用外筒の内壁に挿入されるプランジャの先端に取り付けられるガスケットとして用いた場合には、ばらつきの少ない優れた摺動性を発揮する。また、シリンジ用外筒の筒先部に嵌められて、使用時に外されるキャップとして用いた場合には、筒先に容易且つ確実に嵌め込むことができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1は本実施形態のプレフィルドシリンジ25の断面模式図である。
【図2】図2は、本実施形態におけるガスケット1の正面模式図である。
【図3】図3は、本実施形態におけるガスケット1の断面模式図である。
【図4】図4は、本実施形態におけるキャップ2の断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明に係るシリンジ用部材の一実施形態であるガスケット1及びキャップ2を備えた、プレフィルドシリンジ25について図面を参照して詳しく説明する。
【0016】
図1はプレフィルドシリンジ25の断面図である。図1中、1はガスケット、2はキャップ、3はプランジャ、4はシリンジ用外筒、5は外筒4に設けられたフランジ、6は薬液、7は先端が開口した外筒4の筒先部、8は筒先部7に設けられた注射針取付部である。外筒4には薬液6が収容されている。外筒4に摺動可能に挿入されたプランジャ3の先端に取り付けられたガスケット1は、薬液6を外筒4の一端で液密にシールしている。シリンジ用外筒の筒先部7には、取り外し可能なキャップ2が嵌められ、薬液6を液密にシールしている。
【0017】
外筒4は、透明もしくは半透明材料により形成されている。好ましくは、酸素透過性、水蒸気透過性の低い材料により形成されている。外筒4の形成材料の具体例としては、例えば、ポリプロピレン,ポリエチレン,ポリ(4−メチルペンテン−1),環状ポリオレフィン等のポリオレフィン;ポリエチレンテレフタレート,ポリエチレンナフタレート,非晶性ポリアリレート等のポリエステル;ポリスチレン,ポリアミド、ポリカーボネート、ポリ塩化ビニル、アクリル樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体、非晶性ポリエーテルイミド等が挙げられる。これらの中では、ポリプロピレン、ポリ(4−メチルペンテン−1)、環状ポリオレフィン、ポリエチレンナフタレート、及び非晶性ポリエーテルイミドが透明性、蒸気圧殺菌性の点で好ましい。
【0018】
プランジャ3は、軸方向に延びるプランジャ本体部3aと、先端部に設けられた雄ネジ部3bと、プランジャ本体部3aの後端に設けられた押圧用の円盤部3cとを備えている。雄ネジ部3bは、ガスケット1に備えられる雌ネジ状のプランジャ取付部と螺合するために設けられている。
【0019】
図2は、ガスケット1の正面模式図、図3は、ガスケット1の断面模式図を示す。図2に示すように、ガスケット1は、ほぼ同一外径に延びる環状外壁1aと、環状外壁1aの外周に沿って、先端側に設けられた環状リブ1bと、後端側に設けられた後端側環状リブ1cとを備えた弾性材料の成形体である。環状リブ1b,1cはそれぞれ、外筒4の内径よりも若干大きく作製されており、外筒4内で圧縮変形することにより、内壁と密着状態を維持して当接する。プレフィルドシリンジ25においては、外筒4の内壁面とガスケット1に設けられた環状リブ1b,1cが当接することにより外筒4内の薬液6を液密にシールしている。なお、環状リブの数は2つに限定されず、1つでも、3つ以上であってもよい。
【0020】
図3に示すように、ガスケット1は底面から凹部として設けられたプランジャ取付部1dを備えている。プランジャ取付部1dは、環状外壁1aの内側であってガスケット1の後端底面から先端部付近まで延びる略円柱状の凹部として形成されており、凹部側面には雌ネジが設けられている。
【0021】
図4は、キャップ2の断面模式図を示す。
【0022】
キャップ2は、プレフィルドシリンジの製造工程において、図1に示すように外筒4の開口した筒先部7に嵌められる弾性材料のキャップ状成形体である。筒先部7に嵌められたキャップ2は、外筒4に収容された薬液6が使用前に筒先部7から漏液することを防ぐために筒先部7の外径よりも若干小さい内径を有し、弾性により広げられながら嵌め込まれて薬液6を液密にシールする。また、プレフィルドシリンジの使用時においては、医療従事者が外筒4からキャップ2を外し、その先端の注射針取付部8に図略の注射針を取り付けて用いられる。なお、通常、筒先部7の表面には、意図せずに外れることを防止するために潤滑剤は塗布されていない。
【0023】
ガスケット1及びキャップ2の製造方法について詳しく説明する。
ガスケット1及びキャップ2は、成形体本体の表面を、例えば、側鎖にアミノ基を有する両末端水酸基封鎖変性シリコーンオイルを含む水性液で表面処理して得られる、弾性材料の成形体である。
【0024】
弾性材料の具体例としては、例えば、天然ゴム,イソプレンゴム,ブチルゴム,ハロゲン化ブチルゴム,クロロプレンゴム,ニトリル−ブタジエンゴム,スチレン−ブタジエンゴム,ブタジエンゴム,シリコーンゴム等の各種ゴム材料;スチレン系エラストマー,水添スチレン系エラストマー,ポリ塩化ビニル系エラストマー,オレフィン系エラストマー,ポリエステル系エラストマー,ポリアミド系エラストマー,ポリウレタン系エラストマー等の各種エラストマー材料が挙げられる。また、これらの弾性材料には、摺動性や機械的特性を調整するために、必要に応じて、流動パラフィン,プロセスオイル等のオイルや、タルク,マイカ等の無機フィラー等が配合されてもよい。これらの弾性材料は単独で用いても、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0025】
ガスケットまたはキャップの成形体本体の成形方法は特に限定されず、例えば、従来から知られたゴム成形体の成形方法や、熱可塑性エラストマーの成形方法が用いられる。また、得られた成形体は、必要に応じて加硫処理または架橋処理のために熱処理される。
【0026】
ガスケットまたはキャップのための成形体本体は、側鎖にアミノ基を有する両末端水酸基封鎖変性シリコーンオイルを含む水性液で処理される。側鎖にアミノ基を有する両末端水酸基封鎖変性シリコーンオイルは、溶液中で縮合を起きないためにも、環境の面からも有機溶剤などを使用しない水性液で処理されることが好ましい。成形体本体を水性液で処理する方法としては、成形体本体の摺動領域に対して、水性液を所定の時間接触させた後、乾燥する方法が挙げられる。
【0027】
側鎖にアミノ基を有する両末端水酸基封鎖変性シリコーンオイルの具体例としては、例えば、下記一般式(1):
【0028】
【化1】

(式中、mは5〜100、R1は、少なくとも一方が、−C3H6NH2,−C3H6NHC2H4NH2,−C3H6NHC2H4NHC2H4NH2,−CH2CH(CH3)CH2NHC2H4NH2,−C3H6N(CH2CH(OH)CH2OH)C2H4NH(CH2CH(OH)CH2OH)からなる群から選ばれる少なくとも1種であり、他方は水素原子または他の炭化水素基であってもよい)、
に示すような化合物が挙げられる。
【0029】
変性シリコーンオイルを含む水性液は、所定の濃度で変性シリコーンオイルを含むエマルジョンまたは溶液の状態で用いられる。水性液中の変性シリコーンオイルの濃度は特に限定されないが、具体的には、例えば、0.0002〜0.5質量%、さらには0.01〜0.3質量%であることが好ましい。水性液中の変性シリコーンオイルの濃度が低すぎる場合には、摺動性改善効果が不充分になる傾向があり、高すぎる場合には摺動性改善効果のさらなる向上が小さく、経済的に不利益になる傾向がある。
【0030】
水性液としては、特に変性シリコーンオイルのエマルジョンが安定性に優れていることから好ましい。変性シリコーンオイルをエマルジョン化するための界面活性剤の種類は特に限定されないが、その具体例としては、例えば、アルキル硫酸塩,アルキルベンゼンスルホン酸塩,アルキルリン酸塩などのアニオン系界面活性剤;ポリオキシアルキレンアルキルエーテル,ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル,ポリオキシエチレン脂肪酸エステル,ソルビタン脂肪酸エステルなどのノニオン系界面活性剤;第4級アンモニウム塩,アルキルアミン酢酸塩などのカチオン系界面活性剤;アルキルベタイン,アルキルイミダゾリンなどの両性界面活性剤等が挙げられる。
【0031】
このようなエマルジョンは、濃度20〜80質量%程度のシリコーンオイルエマルジョンの市販品として入手可能である。本実施形態で用いられる水性液は、このようなシリコーンオイルエマルジョンを水で希釈して、例えば、変性シリコーンオイル濃度0.0002〜0.5質量%程度に希釈して用いることが好ましい。
【0032】
水性液は、さらに、その他の添加剤成分を含んでもよい。このような添加剤の具体例としては、形成される被膜と基材との密着性を向上させるための低分子量シラン化合物、シランカップリング剤、チタネート系カップリング剤、アルミネート系カップリング剤などのカップリング剤、摺動性や脈動を改善させうる成分であるフッ素樹脂パウダー,シリコーンゴムパウダー,シリコーンレジンパウダーや、タルク,クレーのような無機フィラー等が挙げられる。これらの中では、特に、オクタメチルシクロテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサンのような低分子シロキサン化合物を変性シリコーンオイル100質量部に対して0.5〜20質量部含む場合には溶液安定性(分散性)の点から好ましい。
【0033】
水性液の液性は特に限定されないが、溶液安定性(分散性)を向上させて均一な被膜を形成させるためにpH4.5〜7.5の範囲、さらにはpH4.5〜7.0の範囲に調整することが好ましい。pHの調整は、例えば酢酸,蟻酸等のpH調整剤を溶液またはエマルジョンに溶解させることにより行われる。
【0034】
成形体本体を水性液に接触させる方法としては、水性液に成形体本体を浸漬させる方法や、成形体本体の所定の摺動領域のみにスプレー塗布により水性液を接触させる方法等が挙げられる。なお、表面処理は必ずしも全表面に施す必要はなく、少なくとも、摺動領域に施されていればよい。接触時間は特に限定されないが、具体的には、例えば、5分間〜6時間、さらには10分間〜1時間程度であることが好ましい。浸漬時間が長すぎる場合には、摺動性改善効果のさらなる向上が小さく経済的に不利益になり、浸漬時間が短すぎる場合には、摺動性の改良効果が不充分になる傾向がある。
【0035】
水性液の温度としては20〜80℃、さらには30〜50℃程度の範囲であることが好ましい。水性液の温度が低すぎる場合には、成形品本体の表面に変性シリコーンオイルが充分に付着せず、また、充分に付着させるためには時間が掛かりすぎる傾向があり、また、高すぎる場合には水性液の安定性が低下して、水性液の表面に被膜が析出したり、エマルジョンが壊れたりする傾向がある。
【0036】
所定の時間水性液に浸漬または接触された成形品本体は、水洗されることが好ましい。このように水性液で処理された成形体本体を水洗して表面に付着しなかった水性液を洗い流すことにより、処理された成形品本体の表面にシミが残らなくなる。なお、このような水洗を施さずに、乾燥した場合には、白色の液滴跡が、シミとして残ってしまう傾向がある。そして、このように、水洗した後、乾燥する。乾燥条件は、特に限定されないが、成型品本体の熱劣化を防ぐ観点から120℃以下の温度で乾燥することが好ましく、例えば、水洗後の成形品本体に高圧のエアを吹き付けることにより風乾でも良い。このような表面処理により、弾性成形体本体の表面に摺動性に優れた被膜が形成されたシリンジ用部材が得られる。
【0037】
本実施形態のガスケット1およびキャップ2のような弾性部材は、例えば、医療用のプレフィルドシリンジや使い捨てシリンジの摺動部に用いられる弾性部材として好ましく用いられる。
【0038】
例えば、プレフィルドシリンジ25は次のようにして製造される。はじめに、キャップ2が、シリンジ用外筒4の先端部の先端が開口した筒先部にはめ込まれる。そして、先端がキャップ2で封止された外筒4の内部に薬液6を充填する。そして、減圧雰囲気下でガスケット1を外筒4の開口部に配置し、その後、常圧状態にすることによりガスケット1を外筒4の内壁面に当接するように挿入する。そして、ガスケット1にプランジャ3を装着することにより、薬液6が収納されたプレフィルドシリンジ25が得られる。
【0039】
このようなプレフィルドシリンジ25は、ガスケット1の表面に摺動性に優れた被膜が形成されているために摺動性のばらつきが少なく、シリンジポンプを用いて極低速条件でプランジャを移動させて薬液を吐出させるような場合において、プランジャが摩擦抵抗により移動しなくなりシリンジポンプが停止するといったようなトラブルを抑制することができる。また、外筒の筒先部に嵌められて、使用時に外されるキャップは、筒先に適切に嵌め込まれるので簡単に脱落することがない。
【実施例】
【0040】
本発明を実施例によりさらに具体的に説明する。なお、本発明の範囲は実施例に何ら限定されるものではない。
【0041】
[実施例1]
クロロブチルゴムを主成分とするブチルゴム組成物を用いて、図2及び図3に示すような形状のガスケット本体、及び、図4に示すような形状のキャップ本体を作製した。具体的には、ガスケット形状またはキャップ形状の金型内でブチルゴム組成物をプレス成形し、加硫した。得られたガスケットの成形品本体の形状は、環状外壁の外径19.6mm、環状外壁の高さ10.5mm、環状外壁上端からガスケット先端までの高さ3.5mm、先端側リブ及び後端側環状リブの外径20.5mm、先端側環状リブ中央から後端側環状リブ中央までの長さ7mmであった。また、得られたキャップの形状は、外径10mm、高さ14mmの円柱状であって、内径4mm、高さ8mmの有底円柱形状であった。
【0042】
そして、ノニオン系界面活性剤を含む、水酸基末端ジメチル(アミノエチルアミノプロピル)メチルシロキサンのエマルジョン(変性シリコーンオイル濃度40質量%の信越化学工業(株)製のX52−2265)をイオン交換水で希釈し、さらに、表1に記載の配合組成に従って低分子量シラン化合物(オクタメチルシクロテトラシロキサン、東レ・ダウコーニング(株)製のSH244)及び酢酸を混合することにより変性シリコーンオイル濃度0.05質量%の水性液を調製した。得られた水性液のpHは5.0であった。
【0043】
そして、40℃まで加温された水性液100mLに3個のガスケット本体及びキャップ本体を30分間浸漬させた。そして、浸漬されたガスケット本体及びキャップ本体を取り出し、さらに水に浸漬させて水洗を3回行った。水洗は各回毎に水を交換して行い、各回の浸漬は1分間行った。そして、水洗後のガスケット本体及びキャップ本体に圧縮空気を当てて水を充分に飛ばして水を除去することにより表面処理されたガスケット及びキャップを得た。そして、得られたガスケットの摺動抵抗を以下の方法により評価した。また、キャップの嵌め易さ及び脱離性を以下の方法により評価した。
【0044】
(ガスケットの摺動抵抗の評価)
長さ93mm、内径19.7mm、先端部の外径4.1mm、先端部の長さ10mmのシリンジ用外筒を有する市販のシリンジ(テルモ(株)製)のプランジャ先端の既成のガスケットを、作製したガスケットに置き換えた。そして、シリンジ用外筒の内壁面にシリコーンオイルSH200 12,500cs(東レ・ダウコーニング株式会社)を塗布した。そして、シリンジ用外筒の所定の標線までプランジャを挿入し、所定の標線から0.5mm/分の押込速度でプランジャを10mm押し込んだときの荷重をストログラフ(V1−C、東洋精機製作所製)により測定し、そのときの最大荷重を摺動抵抗とした。なお、試験は3個行い、その平均値を算出した。
【0045】
(キャップの嵌め込み易さ)
上記シリンジ用外筒の先端部に得られたキャップを無作為に選んだ10人のモニターに取り付け及び取り外してもらい、嵌め易さ及び取外し易さを以下の基準で判定させた。
A:筒先の根元まで嵌め込まれる。
B:筒先の途中で抵抗が著しく大きくなり、筒先の根元まで嵌め込まれない。
【0046】
(キャップの取外し性の評価)
シリンジ用外筒の先端部に得られたキャップを軽く嵌めた後、ストログラフを用い10mm/minの速度で5.6kgfの荷重になるまで嵌め込み、その嵌め込み状況を確認した。その後、ストログラフを用いてプランジャを50mm/minの速度で押し込んで、キャップが筒先から外れる荷重を測定した。なお、試験は3個行い、その平均値を算出した。
結果を表1に示す。
【0047】
【表1】

【0048】
[実施例2]
低分子量シラン化合物を添加しなかった以外は実施例1と同様にして水性液を調製した。得られた水性液のpHは5.1であった。そして、この水性液に浸漬して表面処理した以外は実施例1と同様にして、ガスケット本体及びキャップ本体の表面処理を行ってガスケット及びキャップを得、同様に評価した。結果を表1に示す。
【0049】
[実施例3]
酢酸を添加しなかった以外は実施例1と同様にして水性液を調製した。得られた水性液のpHは7.5であった。そして、この水性液に浸漬して表面処理した以外は実施例1と同様にして、ガスケット本体及びキャップ本体の表面処理を行ってガスケット及びキャップを得、同様に評価した。結果を表1に示す。
【0050】
[実施例4]
水性液による処理において、40℃の水性液に成形品本体を30分間浸漬させた後、圧縮空気で乾燥させる代わりに、20℃の水性液に成形品本体を1分間浸漬させた後、50℃のオーブン中で3時間乾燥させた以外は、実施例1と同様にして、ガスケット本体及びキャップ本体の表面処理を行ってガスケット及びキャップを得、同様に評価した。結果を表1に示す。
【0051】
[比較例1]
水性液に浸漬して表面処理したガスケット及びキャップの代わりに、水性液に浸漬する表面処理を行わずガスケット本体及びキャップ本体をそのまま用いた以外は実施例1と同様にして評価した。結果を表1に示す。
【0052】
[比較例2]
水酸基末端ジメチル(アミノエチルアミノプロピル)メチルシロキサンを含有するエマルジョンの代わりに、ジメチルシリコーンオイルを28質量%含有するシリコーンオイルエマルジョン(信越化学工業(株)のKM−742T)を用いて調製した、シリコーンオイル濃度2質量%の水性液を用いた以外は、実施例4と同様にして、ガスケット本体及びキャップ本体の表面処理を行ってガスケット及びキャップを得、同様に評価した。結果を表1に示す。
【0053】
[比較例3]
シリコーンオイル濃度2質量%の水性液の代わりに、シリコーンオイル濃度9質量%の水性液を用いた以外は、比較例2と同様にして、ガスケット本体及びキャップ本体の表面処理を行ってガスケット及びキャップを得、同様に評価した。結果を表1に示す。
【0054】
[比較例4]
水酸基末端ジメチル(アミノエチルアミノプロピル)メチルシロキサンを含有するエマルジョンの代わりに、ポリエーテル変性オルガノポリシロキサンを含有するシリコーンオイル100%液(信越化学工業(株)のKM−244F)を用いて調製した、シリコーンオイル濃度2質量%の水溶液を用いた以外は、実施例4と同様にして、ガスケット本体及びキャップ本体の表面処理を行ってガスケット及びキャップを得、同様に評価した。結果を表1に示す。
【0055】
[比較例5]
シリコーンオイル濃度2質量%の水溶液の代わりに、シリコーンオイル濃度9質量%の水溶液を用いた以外は、比較例4と同様にして、ガスケット本体及びキャップ本体の表面処理を行ってガスケット及びキャップを得、同様に評価した。結果を表1に示す。
【0056】
表1の結果から、実施例1〜4で得られたガスケットは、比較例のガスケットに比べて何れも低い摺動抵抗を示していることがわかる。また、実施例1〜4で得られたキャップは、比較例のキャップに比べて何れも嵌め込み易く、また、嵌め込まれた場合には、容易に外れないことがわかる。
また、オクタメチルシロキサンを含まない実施例2の水性液で処理した場合には、やや摺動性が低下していることがわかる。これは表面の被膜の接着性がやや劣るためであると思われる。また、酢酸でpH調整をしなかった実施例3の水性液で処理した場合にもやや摺動性が低下していることがわかる。これは、溶液の安定性が低くなって、成形体の表面処理の均質性が低下したためであると思われる。
【符号の説明】
【0057】
1 シリンジ用ガスケット
2 キャップ
3 プランジャ
4 シリンジ用外筒
5 フランジ
6 薬液
7 筒先部
8 注射針取付部
25 プレフィルドシリンジ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
摺動領域を有する弾性成形体の少なくとも該摺動領域がシリコーンオイルを含有する処理液で表面処理されており、
前記シリコーンオイルが、側鎖にアミノ基を有する両末端水酸基封鎖変性シリコーンオイルであることを特徴とするシリンジ用部材。
【請求項2】
前記側鎖にアミノ基を有する両末端水酸基封鎖変性シリコーンオイルが、水酸基末端ジメチル(アミノエチルアミノプロピル)メチルシロキサンである請求項1に記載のシリンジ用部材。
【請求項3】
前記処理液がさらに低分子量シラン化合物を含有する請求項1または2に記載のシリンジ用部材。
【請求項4】
前記弾性成形体がハロゲン化ブチルゴムを主成分とする組成物の成形体である請求項1〜3の何れか1項に記載のシリンジ用部材。
【請求項5】
シリンジ用ガスケットである請求項1〜4の何れか1項に記載のシリンジ用部材。
【請求項6】
シリンジ用外筒の筒先部に取り付けられるキャップである請求項1〜4の何れか1項に記載のシリンジ用部材。
【請求項7】
シリンジ用外筒と前記シリンジ用外筒内に摺動可能に挿入されたプランジャとを備え、
前記プランジャの先端にシリンジ用ガスケットが取り付けられており、
前記シリンジ用外筒の筒先部にキャップが嵌められており、
前記シリンジ用ガスケットが請求項5に記載のシリンジ用ガスケットである、及び/又は前記キャップが請求項6に記載のキャップである、ことを特徴とする医療用シリンジ。
【請求項8】
請求項1に記載のシリンジ用部材を製造する方法であって、
前記弾性成形体の少なくとも該摺動領域に、前記シリコーンオイルを含有する水性液に一定時間接触させた後、水洗することを特徴とするシリンジ用部材の製造方法。
【請求項9】
前記水性液の液性がpH4.5〜7.5の範囲である請求項8に記載のシリンジ用部材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−120585(P2012−120585A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−271719(P2010−271719)
【出願日】平成22年12月6日(2010.12.6)
【出願人】(595015890)株式会社ファインラバー研究所 (15)
【Fターム(参考)】