説明

シリンダジャケットおよびその製造法

本発明は、次の処理工程:円筒状の前製品を最大0.8質量%の炭素含量およびフェライトまたはフェライト/パーライト組織を有する鋼材料から製造し;この円筒状の前製品の内部外被面の縁部層の炭素含量を、粒子境界に堆積される炭化物の形で炭化により増加させ;縁部層中で炭化物からなる網状構造を有するパーライト組織が形成されるように、円筒状の前製品を徐々に冷却し:この円筒状の前製品をシリンダジャケットに加工して完成させることを含む、シリンダジャケットの製造法に関する。更に、本発明は、前記方法により製造可能なシリンダジャケットに関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリンダジャケットの製造法およびこの種のシリンダジャケットに関する。
【0002】
内燃機関用のシリンダジャケットは、現在、一般に黒鉛ラメラを有する鋳鉄材料から製造される。このために使用される、黒鉛ラメラを有する鋳鉄は、組織成分のパーライトと黒鉛とからなり、しばしば燐0.1〜1.2%で合金化され、この材料の耐摩耗性が上昇される。シリンダジャケットでの摩耗は、エンジンの駆動中に一面でピストンリングによって、他面、ピストンシャフトによって引き起こされ、これら双方は、シリンダジャケットの内部外被面(または走行面)と共に複合作用する。燐の合金化によって、材料中では、鉄、炭素および燐からなりかつステダイトと呼ばれる相が生じる。この相は、材料組織中で網状に鋳鉄の単電池の周囲に分布し、高い硬度を示す。他の選択可能な方法によれば、鋳鉄に炭化物形成を強く促進する元素、例えばニオブまたは硼素を合金化することができる。その結果、ステダイトと比較可能な網状構造を形成する炭化物が形成する。ところで、鋳鉄中に含有されているパーライトは、共に高い摩耗抵抗および侵蝕抵抗に貢献し、それというのも、パーライト中には、炭化物がラメラ構造で含有されているからである。
【0003】
現在のエンジン、殊に現在のディーゼルエンジンには、黒鉛ラメラを有する鋳鉄材料からなるシリンダジャケットだけが条件付きで適している。殊に、現在のディーゼルエンジン中に要求される点火圧力は、高強度材料への転換を必要とする。この高強度材料には、鋼も含まれる。これに関連して、良好な耐摩耗性および耐侵蝕性を達成させるために、鋳鉄材料から公知の組織を、シリンダジャケットに使用される鋼中の網状構造で炭化物を有するパーライトから実現させることが望まれている。しかし、これは、不可能である。それというのも、このために0.8質量%を上廻る炭素含量を有する鋼が必要とされるからである。この種の鋼は、高い硬度および強度のために変形するのが極めて困難であり、付加的な処理だけで溶接することが可能であり、高い工具摩耗下でのみ切削加工が可能である。即ち、この種の鋼の使用は、排除されている。それというのも、それには認めることができない高い費用が関連するからである。
【0004】
従って、本発明は、現在のエンジンの要求に適合され、殊に高い耐摩耗性および耐侵蝕性を示すシリンダジャケットの製造法ならびにこのように製造されたシリンダジャケットを提供するという課題を基礎とする。
【0005】
解決策は、請求項1の特徴を有する方法ならびにこの方法により製造されたシリンダジャケットにある。本発明によれば、最初に円筒状の前製品を、最大0.8質量%の炭素含量およびフェライトまたはフェライト/パーライト組織を有する鋼材料から製造し、次にこの円筒状の前製品の内部外被面の縁部層の炭素含量を、粒子境界に堆積される炭化物の形で炭化により増加させ、引続き縁部層中で炭化物からなる網状構造を有するパーライト組織が形成されるように、円筒状の前製品を徐々に冷却し、最終的にこの円筒状の前製品をシリンダジャケットに加工して完成させることが設けられている。
【0006】
本発明によるシリンダジャケットは、殊に最大0.8質量%の炭素含量およびフェライトまたはフェライト/パーライト組織を有する鋼材料を示し、この場合少なくともシリンダジャケットの内部外被面は、炭化物からなる網状構造を有するパーライト組織を有する。
【0007】
本発明による方法によれば、シリンダジャケットは、最大0.8質量%の炭素含量を有する鋼から簡単に有効かつ安価に製造されることができる。それにも拘わらず、本発明によるシリンダジャケットは、内部外被面に沿って、即ち該シリンダジャケットの走行面の範囲内で炭化物からなる網状構造を有するパーライト組織を有する。この組織構造は、内部外被面に顕著な耐摩耗性および耐侵蝕性を付与する。即ち、僅か費用でシリンダジャケットを鋼材料から製造し、僅かな工具摩耗で切削加工することを可能にし、それにも拘わらず、このシリンダジャケットは、その走行面の範囲内で、黒鉛ラメラを有する鋳鉄の組織構造に類似しかつこれまで専ら、極めて硬質で堅固な、即ち経済的には加工することができなかった鋼を用いて達成することができた組織構造を有する。更に、炭化の際に材料組織の持続強度が改善され、このことは、本発明によるシリンダジャケットの寿命にプラスに作用する。
【0008】
有利な実施態様は、従属請求項に記載されている。
【0009】
特に、0.1質量%〜0.6質量%の炭素含量を有する鋼材料が使用される。この種の鋼材料は、その比較的低い炭素含量のために特に簡単に変形することができるまたは切削加工することができる。最大0.25質量%の炭素含量を有する鋼材料は、特に好ましいことが証明された。
【0010】
前記のような最大0.8質量%の炭素含量を有する鋼材料を機械加工する場合には、削り屑の流れ(Fliessspaene)が発生しうる危険が存在するので、場合によっては、鋼材料に削り屑の破壊(Spanbrechung)を促進する添加剤を添加することは、適切である。この種の添加剤、例えばマンガンおよび/または硫黄および/または鉛は、当業者に自体公知である。
【0011】
円筒状の前製品を特に簡単に製造するために、鋼材料から製造された薄板を湾曲させることができ、継目個所で、例えばレーザー溶接、電子線溶接、誘導溶接または溶融溶接により溶接して管に変えることができる。
【0012】
円筒状の前製品の製造中、殊に変形工程中に、例えば少なくとも1つのフランジおよび/または少なくとも1つの外側輪郭は、変形させることができる。それによって、後方支承して加工する(nachgelagerten)、殊に円筒状の前製品を完成したシリンダジャケットに切削加工する費用は、減少する。
【0013】
炭化は、原則的に当業者に公知の方法により、固体、液体またはガス状の炭化剤を用いて行なわれる。炭化剤は、場合によっては窒素を含有することができ、したがって浸炭窒化法と比較可能なプロセスが生じる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明による方法により製造された、最大0.8質量%の炭素含量を有する鋼材料からなる本発明によるシリンダジャケット10の1つの実施例を縮尺には従わずに示す略図。
【0015】
本発明の実施例を、以下、図面につき詳説する。
【実施例】
【0016】
内部外被面に沿って、即ち走行面に沿って、本発明による方法で炭化物を含有するパーライト組織からなる網状構造を有する縁部層11を製造した。
【符号の説明】
【0017】
10 シリンダジャケット、 11 縁部層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダジャケットの製造法において、次の処理工程:
円筒状の前製品を最大0.8質量%の炭素含量およびフェライトまたはフェライト/パーライト組織を有する鋼材料から製造し;
この円筒状の前製品の少なくとも内部外被面の縁部層の炭素含量を、粒子境界に堆積される炭化物の形で炭化により増加させ;
縁部層中で炭化物からなる網状構造を有するパーライト組織が形成されるように、円筒状の前製品を徐々に冷却し;
この円筒状の前製品をシリンダジャケットに加工して完成させることを含む、シリンダジャケットの製造法。
【請求項2】
0.1質量%〜0.6質量%の炭素含量を有する鋼材料を使用する、請求項1記載の方法。
【請求項3】
最大0.25質量%の炭素含量を有する鋼材料を使用する、請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
削り屑の破壊を促進する添加剤を含有する鋼材料を使用する、請求項1から3までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
添加剤としてマンガンおよび/または硫黄および/または鉛を含有する鋼材料を使用する、請求項4記載の方法。
【請求項6】
円筒状の前製品を製造するために、鋼材料から製造された薄板を湾曲させ、継目個所で溶接して管に変える、請求項1から5までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
継目個所をレーザー溶接、電子線溶接、誘導溶接または溶融溶接により溶接する、請求項6記載の方法。
【請求項8】
円筒状の前製品の製造中に少なくとも1つのフランジおよび/または少なくとも1つの外側輪郭を前変形する、請求項1から7までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
炭化を固体、液体またはガス状の炭化剤を用いて行なう、請求項1から8までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
炭化剤が窒素を含有する、請求項1から9までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
請求項1から10までのいずれか1項に記載の方法により製造可能なシリンダジャケット。
【請求項12】
鋼材料からなるシリンダジャケットにおいて、
鋼材料が最大0.8質量%の炭素含量およびフェライトまたはフェライト/パーライト組織を有し、シリンダジャケットの内部外被面が炭化物からなる網状構造を有するパーライト組織を有することを特徴とする、鋼材料からなるシリンダジャケット。

【図1】
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【公表番号】特表2010−539322(P2010−539322A)
【公表日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−522181(P2010−522181)
【出願日】平成20年8月23日(2008.8.23)
【国際出願番号】PCT/DE2008/001392
【国際公開番号】WO2009/026897
【国際公開日】平成21年3月5日(2009.3.5)
【出願人】(506292974)マーレ インターナショナル ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (186)
【氏名又は名称原語表記】MAHLE International GmbH
【住所又は居所原語表記】Pragstrasse 26−46, D−70376 Stuttgart, Germany
【Fターム(参考)】