説明

シリンダブロックおよびその加工方法

【課題】低フリクションを実現することができるのはもちろんのこと、既存の設備を利用してボアの加工形状を容易に得ることができるシリンダブロックおよびその加工方法を提供する。
【解決手段】ボア111の内面111Aの断面は、シリンダヘッド220の未締結状態において、略真円形状をなして中心軸線に関して対称な形状をなしている。シリンダヘッド220の締結時にくびれ状に変形するボア111のくびれ予定部112Aは、未締結状態において、ボア111の最小径部分113Aと比較して径方向外側に予め拡張されている。これにより、締結後のくびれ予定部112A(締結後の最小径部分112B)の径を、径方向外側に予め拡張していない場合と比較して大きく設定することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリンダボアを有するシリンダブロックおよびその加工方法に係り、特に、シリンダボア内を摺動するピストンとの干渉を抑制することができるボアの形状改良に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関のシリンダブロックには、油膜を介して相対的にピストンに摺動するシリンダボア(以下、ボア)が形成され、シリンダブロックにはシリンダヘッドがボルト締結される。図1は、4気筒エンジンに用いられるシリンダブロック210の具体例の概略構成を表す平面図、図2は、シリンダブロック210にシリンダヘッド220が締結された状態を表す側断面図である。なお、図1には、ボア211およびボルト用孔212のみ図示している。本願では、軸線方向に垂直な断面を断面と表記し、軸線方向に平行な断面を側断面(軸線方向断面)と表記する。
【0003】
シリンダブロック210は、たとえばAl材からなり、シリンダブロック210の上面に4個のボア211が形成され、10個のボルト用孔212が形成されている。ボルト230が、シリンダヘッド220のボルト用孔221を通じてシリンダブロック210のボルト用孔212に締結されることにより、シリンダブロック210の上面にシリンダヘッド220が固定される。シリンダブロック210とシリンダヘッド220との間にはガスケット240が設けられている。
【0004】
ボア211とボルト用孔212との間にはウォータジャケット251が形成されている。ボア211は、たとえば鋳鉄からなるスリーブ252により構成され、スリーブ252の内面にはホーニング加工によりハッチ形状が形成され、その内面が摺動面となる。なお、ボア211は、スリーブ252を設ける代わりに、シリンダブロック210に形成された孔部の内面により構成してもよい。
【0005】
ボア211の内周面211Aは、ボーリング加工およびホーニング加工を行うことにより、図3(A)に示すように、側断面が直線状をなして断面が略真円形状をなす円筒形状に形成される。しかしながら、シリンダブロック210の上面にシリンダヘッド220をボルト締結すると、図3(B)に示すように、ボア211の内面211Aに変形が生じて内面211Bとなる。具体的には、ボア211の内周面211Aの上端部213が拡径し、中間部214が縮径してくびれが生じる。このため、ボア211にピストンを摺動させた場合、中間部214でのフリクションが大きくなってしまう。
【0006】
そこで、低フリクションを実現するために、シリンダヘッド220の締結時のボア211の円筒度向上を図ることが考えられる。たとえばシリンダヘッド220の締結時の変形を見込んだ上でボア211の断面を非真円形状に加工することが提案されている(たとえば特許文献1)。特許文献1の技術では、シリンダブロックのシリンダヘッド未締結状態でのボアの断面を非真円形状に二次成形している。この場合、二次成形後の加工形状は、二次成形後のシリンダブロックへのシリンダヘッド締結時に非真円形状のボアが変形して略真円形状に近づくように設計されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許4193086号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1の技術では、ボアの加工形状の断面は、非真円形状としており、実際にシリンダブロックへのシリンダヘッド締結時に上記加工形状のボアが変形して略真円形状に近づくようにするためには、ボアの加工形状の側断面は複雑な凹凸形状をなす必要があると考えられる。このため、切削工具によるボーリング加工が容易でない上に、ホーニング加工によりボアの内面にハッチ形状を形成することが困難となり、その結果、既存の設備を利用することができない。
【0009】
したがって、本発明は、低フリクションを実現することができるのはもちろんのこと、既存の設備を利用してボアの加工形状を容易に得ることができるシリンダブロックおよびその加工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本出願人は、上記課題を解決するために、たとえばPCT/JP2011/061424に開示されているように、シリンダヘッド締結時のボアの変形を補償するようなボアの加工形状(内面の断面が略真円形状をなして中心軸線に関して対称な形状)およびその加工形状の設定手法を提案するとともに、そのようなボアの加工形状をホーニング加工により得ることを提案している。PCT/JP2011/061424では、ボアの軸線方向断面形状として、たとえばその一端部から他端部までの断面がテーパ形状に延在する略円錐台形状を提案したが、本発明者は、ボアの加工形状について鋭意検討を重ねた結果、たとえばさらに加工が容易となる形状に関する知見が得られ、本発明の完成に至った。
【0011】
本発明のシリンダブロックは、一面にボアが形成されるとともに、シリンダヘッドが締結されるシリンダブロックであって、シリンダヘッドの未締結状態におけるボアの断面が略真円形状をなし、その略真円形状の径が中心軸線に沿って変化しており、ボアは、シリンダブロックへのシリンダヘッドの締結時にくびれ形状に変形するくびれ予定部を有し、くびれ予定部は、未締結状態のボアの最小径部分と比較して、径方向外側に拡張されていることを特徴とする。
【0012】
本発明のシリンダブロックでは、ボアの内面の断面が略真円形状をなして中心軸線に関して対称な形状をなしているから、本出願人提案のPCT/JP2011/061424と同様、ボアの加工形状をボーリング加工やホーニング加工により容易に得ることができるとともに、ホーニング加工によりハッチ形状を形成することが容易となる。その結果、既存の設備を利用することができる。
【0013】
ここで、ボアの加工形状では、シリンダヘッドの締結時にくびれ予定部が縮径してくびれ形状に変形するから、シリンダヘッドの締結後に最小径部分となる。しかしながら、本発明のシリンダブロックでは、シリンダヘッドの締結時にくびれ形状に変形するボアのくびれ予定部は、未締結状態において、ボアの最小径部分と比較して径方向外側に予め拡張されている。これにより、締結後のくびれ予定部(締結後の最小径部分)の径を、径方向外側に予め拡張していない場合と比較して大きく設定することができる。したがって、シリンダブロックの種類等の条件に応じて、くびれ予定部の径を適宜決定することにより、締結後のくびれ予定部(締結後の最小径部分)とボア内を摺動するピストンとの干渉を抑制することができる。その結果、低フリクションを実現することができる。
【0014】
ホーニング加工では、ボアの断面の径を変化させて内面をテーパ形状に形成する手法は、ボアの断面の径を一定として内面をストレート形状に形成する手法と比較して、ヘッドの回転運動の制御が困難である。しかしながら、本発明のシリンダブロックでは、たとえばボアの内面の一部のみをテーパ形状となるように加工することができるから、ボアの加工形状をさらに容易に得ることができる。
【0015】
本発明のシリンダブロックは、たとえば次のような本発明のシリンダブロックの加工方法により得ることができる。本発明のシリンダブロックの加工方法は、一面にボアが形成され、シリンダヘッドが締結されるとともに、ボアがシリンダヘッドの締結時にくびれ形状に変形するくびれ予定部を有するシリンダブロックの加工方法であって、ボアの断面が略真円形状をなすとともに、その略真円形状の径が中心軸線に沿って変化するようにしてボアを加工し、ボアの加工前に、シリンダブロックへのシリンダヘッドの締結時のデータ取得用ボアの変形量を中心軸線に沿って取得し、データ取得用ボアにおいてくびれ形状に変形した部分の中心軸線方向位置を把握し、ボアの加工時に、データ取得用ボアにおけるくびれ形状に変形した部分の中心軸線方向位置に対応する位置およびその近傍位置の少なくとも一方にテーパ部を形成することにより、ボアのくびれ予定部を、未締結状態のボアの最小径部分と比較して、径方向外側に拡張させることを特徴とする。
【0016】
本発明のシリンダブロックの加工方法は、本発明のシリンダブロックと同様な効果を得ることができる。
【0017】
なお、本発明のシリンダブロックあるいはその加工方法では、ボアの加工形状の内面が、中心軸線に沿って直線状に延在しているストレート部を含まない態様を用いてもよい。また、ボアの加工形状では、たとえば未締結状態において、シリンダヘッドが締結される一面側の径をデータ取得用ボアの一面側の径よりも小さく設定する態様を用いてもよい。この場合、軸線方向断面において、たとえばボアの内面とデータ取得用ボアの内面とを交差させることができ、この場合、それら内面同士の交点を、たとえば締結後のボアの内面とピストンの間のクリアランスを決定する基準点として用い、ボアの内面の交点での径を基準径として用いる態様を用いてもよい。
【発明の効果】
【0018】
本発明のシリンダブロックあるいはその加工方法によれば、低フリクションを実現することができるのはもちろんのこと、既存の設備を利用してボアの加工形状を容易に得ることができる等の効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】4気筒エンジンに用いられるシリンダブロックの具体例の概略構成を表す平面図である。
【図2】シリンダブロックにシリンダヘッドが締結された状態を表す側断面図である。
【図3】従来技術のボアの形状を説明するための図であって、(A)はシリンダヘッド締結前のボアの加工形状、(B)はシリンダヘッド締結後のボアの変形形状を表す側断面図である。
【図4】本発明の一実施形態に係るシリンダブロックのボアの形状の一例を表し、(A)はシリンダヘッド締結前のボアの加工形状、(B)はシリンダヘッド締結後のボアの変形形状を表す側断面図である。
【図5】本発明の一実施形態に係るシリンダブロックのボアの形状の他例を表し、(A)はシリンダヘッド締結前のボアの加工形状、(B)はシリンダヘッド締結後のボアの変形形状を表す側断面図である。
【図6】本発明の一実施形態に係るシリンダブロックのボアの形状の他例を表し、(A)はシリンダヘッド締結前のボアの加工形状、(B)はシリンダヘッド締結後のボアの変形形状を表す側断面図である。
【図7】本発明の一実施形態に係るシリンダブロックのボアの形状の他例を表し、(A)はシリンダヘッド締結前のボアの加工形状、(B)はシリンダヘッド締結後のボアの変形形状を表す側断面図である。
【図8】本発明の一実施形態に係るシリンダブロックのボアの形状の他例を表し、(A)はシリンダヘッド締結前のボアの加工形状、(B)はシリンダヘッド締結後のボアの変形形状を表す側断面図である。
【図9】本発明の一実施形態に係るシリンダブロックのボアの形状の他例を表し、(A)はシリンダヘッド締結前のボアの加工形状、(B)はシリンダヘッド締結後のボアの変形形状を表す側断面図である。
【図10】本発明の一実施形態に係るシリンダブロックのボアの形状の他例を表し、(A)はシリンダヘッド締結前のボアの加工形状、(B)はシリンダヘッド締結後のボアの変形形状を表す側断面図である。
【図11】シリンダヘッドの締結状態におけるデータ取得用ボアの変形形状を表し、ボアの加工形状を決定するためのデータである。
【図12】本発明に係るシリンダブロックの加工方法でのホーニング加工の手法を説明するための図であって、ホーニング加工の状態の一部を表す側断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
(1)ボアの加工形状
以下、本発明の一実施形態について図面を参照して説明する。図4〜10は、本発明に係る一実施形態のシリンダブロック110のボア111の各種形状例を表し、(A)はシリンダヘッド220の締結前のボア111の加工形状、(B)は締結後のボア111の変形形状を表す図である。図4〜10では、(A)中のX方向は、ボア111の上側開口面の水平方向であり、Y方向はボア111の上側開口面におけるX方向に垂直な方向である。Z方向は、ボア111の上側開口面に垂直な方向である。図中の一点鎖線は中心軸線である。
【0021】
本実施形態のシリンダブロック110は、図1,2に示すシリンダブロック210とは、ボアの加工形状が異なり、それ以外は同様な構成であるから、本実施形態では、図1,2と同様な構成要素には同符号を付し、その説明は省略している。
【0022】
図4〜10に示す全てのボア111では、シリンダヘッド220の未締結状態において、断面が略真円形状をなし、その略真円形状の径が中心軸線に沿って変化している。この場合、ボア111は、たとえば中間部あるいはその近傍部において、シリンダヘッド220の締結時に縮径してくびれ状に変形するくびれ予定部112Aを有している。くびれ予定部112Aは、シリンダヘッド220の未締結状態での最小径部分113Aと比較して、径方向外側に拡張されている。具体的には、くびれ予定部112Aの最大径は、未締結状態での最小径部分113Aの最小径よりも大きく設定されている。くびれ予定部112Aは、たとえば図4〜10の(B)で示すように、シリンダヘッド220の締結時に縮径量(くびれ量)が最大となる部位であって、シリンダヘッド220の締結後に最小径部112Bとなる。
【0023】
なお、図4〜9の(B)では、図示の簡便上、ボア111の変形形状を同様に表しているが、実際は、ボア111の加工形状に応じて変形形状は異なる。また、図4〜10の(B)では、図示の便宜上、ボア111の変形状態や低フリクション効果等を強調するために、ボア111の内面とピストン260の間の隙間が大きくなっている箇所がある。
【0024】
シリンダブロック110の上面にシリンダヘッド220を締結すると、ボア111の内面では、くびれ予定部112Aが、縮径してくびれ状に変形した結果、締結状態において最小径部分112Bとなる。しかしながら、ボア111の加工形状の側断面は、上記形状をなすから、シリンダヘッドの締結後のくびれ予定部112A(締結後の最小径部分112B)の径は、円筒形状をなす図3(A)のボア211の場合と比較して、大きくなる。これにより、締結後のボア111の内面111Bでピストン260を摺動させた場合、最小径部分112Bでのフリクションは低減される。以下、図4〜10に示すボア111の具体的形状について説明する。
【0025】
図4(A)に示すボア111は、上面側から下面側まで拡径するようにして直線状に傾斜するテーパ部を有する。ここで本実施形態では、たとえば上面側の径は、加工形状が円筒形状をなす図3(A)のボア211の径よも小さく設定し、下面側の径は、上記ボア211の径よりも大きく設定することができる。ボア111の内面111Aとボア211の内面211Aとの交点Pは、たとえば締結後の内面111Bとピストン260の間のクリアランスを決定する基準点として用い、内面111Aの交点Pでの径を基準径として用いることができる。このような基準径の決定手法は、以下のボア111の加工形状でも用いてもよい。上面から交点Pまでの距離は、たとえば30mm程度に設定することができる。
【0026】
図4(A)に示すボア111では、くびれ予定部112Aは、たとえば中間部に位置し、未締結状態での最小径部分113Aは、たとえば上端部に位置しており、くびれ予定部112Aは、最小径部分113Aと比較して、径方向外側に拡張されて径が大きく設定されている。なお、たとえば図4(B)に示すように、締結後の内面111B(実線)の径が、内面211A(破線)の径よりも小さく設定されている部分があってもよい。ピストンは、たとえば弾性を有するピストンリングにより構成されているから、内面111Bが若干縮径してピストンリングと接触する虞がある部分があっても、不具合の発生を抑制することができる。
【0027】
図5(A)に示すボア111は、たとえば上面側から順に形成されたテーパ部121およびストレート部122を有する。テーパ部121は、たとえばボア111の上端部から中間部に向かって拡径するようにして直線状に傾斜している。ストレート部122は、たとえばテーパ部121の下端に接続され、ボア111の下端部まで中心軸線に沿って直線状に延在している。ストレート部122の径は、たとえばテーパ部121の下端と同一径に設定されている。
【0028】
この場合、くびれ予定部112Aは、たとえばテーパ部121とストレート部122との境界部に位置し、未締結状態での最小径部分113Aは、たとえばテーパ部121の上端部に位置しており、くびれ予定部112Aは、最小径部分113Aと比較して、径方向外側に拡張されて径が大きく設定されている。このようなボア111では、その内面111Aの一部のみをテーパ部121となるように加工することにより、上記のように低フリクションを実現することができるから、ボア111の加工形状を容易に得ることができる。
【0029】
図6(A)に示すボア111は、たとえば上面側から順に形成されたストレート部131およびテーパ部132を有する。ストレート部131は、たとえばボア111の上端部から中間部に向かって、中心軸線に沿って直線状に延在している。ストレート部131の径は、たとえばテーパ部132の上端と同一径に設定されている。テーパ部132は、たとえばストレート部131の下端に接続され、そこからボア111の下端部に向かって拡径するようにして直線状に傾斜している。
【0030】
この場合、くびれ予定部112Aは、ストレート部131とテーパ部132との境界部よりも下面側に位置し、テーパ部132の中間部あるいはその近傍部に位置している。未締結状態での最小径部分113Aはストレート部131に位置しており、くびれ予定部112Aは、最小径部分113Aと比較して、径方向外側に拡張されて径が大きく設定されている。このようなボア111では、図5(A)に示すボア111と同様な効果を得ることができるのはもちろんのこと、ストレート部131とテーパ部132との境界部がくびれ予定部112Aよりも上面側に位置しているから、シリンダヘッド220締結時に縮径量が大きくなる部分を予め径方向外側に拡張させておくことができる。その結果、低フリクションを効果的に実現することができる。
【0031】
図7(A)に示すボア111は、たとえば上面側から順に形成されたストレート部141、テーパ部142、および、ストレート部143を有する。ストレート部141は、たとえばボア111の上端部から中間部に向かって、中心軸線に沿って直線状に延在している。ストレート部143は、たとえばボア111の中間部から下端部に向かって、中心軸線に沿って直線状に延在している。テーパ部142は、ストレート部141,143の間に形成され、ストレート部141の下端からストレート部143の上端まで拡径するようにして直線状に傾斜している。ストレート部141の径は、たとえばテーパ部142の上端と同一径に設定され、ストレート部143の径は、たとえばテーパ部142の下端と同一径に設定されている。これにより、ストレート部141の径は、ストレート部143の径よりも小さく設定されている。
【0032】
この場合、くびれ予定部112Aは、テーパ部142の下端部に位置し、未締結状態での最小径部分113Aはストレート部141に位置しており、くびれ予定部112Aは、最小径部分113Aと比較して、径方向外側に拡張されて径が大きく設定されている。このようなボア111では、図5(A)に示すボア111と同様な効果を得ることができるのはもちろんのこと、くびれ予定部112Aの近傍部のみをテーパ部142にし、それ以外の部分をストレート部141,143にすることができるから、ボア111の加工形状をより容易に得ることができる。
【0033】
図8(A)に示すボア111は、たとえば上面側から順に形成されたテーパ部151およびテーパ部152を有する。テーパ部151は、たとえばボア111の上端部から中間部に向かって拡径するようにして直線状に傾斜している。テーパ部152は、たとえばテーパ部151の下端に接続され、そこからボア111の下端部に向かって縮径するようにして直線状に傾斜している。なお、テーパ部151の上端部の径は、たとえば図8(A)に示すようにテーパ部152の下端部の径よりも小さく設定されているが、テーパ部152の下端部の径よりも大きく設定されていてもよい。
【0034】
この場合、くびれ予定部112Aは、テーパ部151,152の境界部に位置し、未締結状態での最小径部分113Aはテーパ部151の上端部に位置しており、くびれ予定部112Aは、最小径部分113Aと比較して、径方向外側に拡張されて径が大きく設定されている。この場合、たとえばボア111の上端部および下端部の少なくとも一方にストレート部を設けてもよい。このようなボア111では、くびれ予定部112Aおよびその近傍部を径方向外側に最も拡張することができるから、低フリクションを効果的に実現することができる。
【0035】
図9(A)に示すボア111は、たとえばボア111の上端部から下端部まで縮径するようにして直線状に傾斜するテーパ部を有する。この場合、くびれ予定部112Aは、たとえばボア111の中間部に位置し、未締結状態での最小径部分113Aは、ボア111の下端部に位置しており、くびれ予定部112Aは、最小径部分113Aと比較して、径方向外側に拡張されて径が大きく設定されている。
【0036】
この場合、図5(A)〜7(A)と同様に、ストレート部を設けてもよい。すなわち、図5(A)〜7(A)に示すボア111の上下方向を逆にしたものを用いてもよい。具体的には、図10(A)に示すボア111は、たとえば上面側から順に形成されたストレート部161およびテーパ部162を有する。ストレート部161は、たとえばボア111の上端部から中間部に向かって、中心軸線に沿って直線状に延在している。テーパ部162は、たとえばストレート部161の下端に接続され、そこからボア111の下端部に向かって縮径するようにして直線状に傾斜している。
【0037】
この場合、くびれ予定部112Aは、たとえばボア111の中間部に位置し、未締結状態での最小径部分113Aは、テーパ部162の下端部に位置しており、くびれ予定部112Aは、最小径部分113Aと比較して、径方向外側に拡張されて径が大きく設定されている。
【0038】
(2)ボアの加工形状の決定手法
ボア111の加工形状の決定手法についておもに図11を参照して説明する。図11は、シリンダヘッドの締結状態におけるデータ取得用ボアの変形形状のデータを表し、ボア111の加工形状を決定するためのデータである。図11中のL方向は、図3(A)のX方向およびY方向に平行な方向であり、図11中の変形量を示す軸をL軸としている。図11中のZ方向の原点はボアの上側開口面の位置であり、ボアの上側開口面からの距離を示す軸をZ軸としている。
【0039】
ボア111の加工形状の決定手法では、ボア111の加工前に、シリンダヘッド220の締結時のデータ取得用ボアの変形量を中心軸線に沿って取得し、データ取得用ボアにおいてくびれ状に変形した部分のZ方向位置(中心軸線方向位置)を把握する。
【0040】
具体的には、データ取得用ボアの変形量の取得では、まず、データ取得用シリンダブロックの上面に、データ取得用ボアを加工する。データ取得用ボアの加工形状は、たとえば円筒形状をなしており、その内面の側断面は直線状をなす。なお、以下では、データ取得用ボアとして、図3(A)に示すボア211を用い、ボア211と同一符号を用いる。
【0041】
次いで、シリンダブロック210の上面にシリンダヘッド220を締結し、シリンダヘッド220の締結時のデータ取得用ボア211の変形形状を取得する。具体的には、データ取得用ボア211の上側開口面から下側に向かって所定間隔で、データ取得用ボアの変形形状のX方向の径の変化量、Y方向の径の変化量を測定する。次いで、変形形状のX方向およびY方向の径の変化量の平均値を代表径として算出する。これにより、たとえば図11に示すように、データ取得用ボア211の変形形状のデータが得られる。次いで、データ取得用ボア211においてくびれ状に変形した部分のZ方向位置を把握する。なお、代表径の算出の仕方は、これに限定されるものではなく、必要に応じて、その他適切な手法を用いることができる。たとえば代表径として、実測値(変形形状のX方向あるいはY方向の径の変化量)を用いてもよい。その他に、たとえばY方向の径の変化量が大きく、X方向の径の変化量が小さいとき、代表径としてY方向の径の変化量を用いることが好適である。
【0042】
次いで、ボア111の加工時に、データ取得用ボア211におけるくびれ形状に変形した部分のZ方向位置に対応する位置およびその近傍位置の少なくとも一方にテーパ部を形成する。この場合、テーパ部の形状決定では、たとえばPCT/JP2011/061424に示されている本出願人提案の手法(データ取得用ボア211の変形形状の近似形状を利用する手法)を用いることができる。
【0043】
これにより、ボア111のくびれ予定部112Aを、未締結状態のボア111の最小径部分113Aと比較して、径方向外側に拡張させることができる。このようにしてボア111の加工形状を得ることができる。なお、ボア111の加工形状は、シリンダヘッド220の締結によるボア111の内面の変形に加えて、エンジン運転時のボア111の内面の熱変形も考慮して、設定してもよい。また、ボア111の加工形状では、くびれ予定部の径112Aの径と、シリンダヘッド220の締結時に径方向外側に最大に変形する部分(上端部)の径との差をテーパ量と定義し、そのテーパ量を利用してボア111の加工形状の管理を行うことが好適である。この場合、テーパ量は、シリンダブロック110の種類等の各種条件に応じて決定され、その数値はたとえば50μm程度に設定することができる。
【0044】
(3)ボアの加工方法
ボア111の加工方法について説明する。たとえばシリンダブロック110のボア111の内面にボーリング加工により荒加工を行う。この場合、ボア111が円筒形をなすように加工する。続いて、ボア111の内周面にホーニング加工を行うことにより仕上げ加工を行う。
【0045】
ホーニング加工で使用するホーニング加工機は、たとえば円柱状をなすヘッドの表面に砥石を有し、砥石は、ヘッドの軸線方向に沿って延在する直方体状をなしている。ホーニング加工では、図12に示すように、ボア111の内面において、ホルダ301に支持されるヘッド302を、軸線回りに回転させるとともに軸線方向に往復させると、ボア111の内面が砥石303により研磨される。
【0046】
本実施形態では、たとえばPCT/JP2011/061424に示したように、ボア111の内面での軸線方向位置に応じて回転速度を適宜制御したり、ボア111内面の軸線方向の中心Hに対するヘッド302の往復運動の中心Iの位置を適宜設定したり、それら手法を適宜組み合わせることにより、ボア111の加工形状を得ることができる。この場合、ヘッド302の回転運動の回転数や、砥石303による面圧、回転数の切替位置、総回転数等のパラメータを適宜組み合わせて調整することにより、得られる。砥石による面圧を調整する場合、たとえば砥石の枚数や砥石の断面積を変更する。このような加工方法によって、ボア111の各種加工形状を得ることができる。
【0047】
以上のように本実施形態では、ボア111の内面111Aの断面が略真円形状をなして中心軸線に関して対称な形状をなしているから、既存の設備を利用してボア111の加工形状を容易に形成することができる。
【0048】
ここで、シリンダヘッド220の締結時にくびれ状に変形するボア111のくびれ予定部112Aは、未締結状態において、ボア111の最小径部分113Aと比較して径方向外側に予め拡張されている。これにより、締結後のくびれ予定部112A(締結後の最小径部分112B)の径を、径方向外側に予め拡張していない場合と比較して大きく設定することができる。したがって、シリンダブロック110の種類等の条件に応じて、くびれ予定部112Aの径を適宜決定することにより、締結後のくびれ予定部112A(締結後の最小径部分112B)とボア111内を摺動するピストン260との干渉を抑制することができる。その結果、低フリクションを実現することができる。特に、たとえばボア111の内面111Aの一部のみをテーパ部となるように加工することができるから、ボア111の加工形状をさらに容易に得ることができる。
【符号の説明】
【0049】
110…シリンダブロック、111…ボア、111A…締結前の内面、111B…締結後の内面、112A…くびれ予定部、112B…締結後の最小径部分(締結後のくびれ予定部)、113A…締結前の最小径部分、121,132,142,151,152,162…テーパ部、122,131,141,143,161…ストレート部、220…シリンダヘッド、211…データ取得用ボア、260…ピストン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一面にボアが形成されるとともに、シリンダヘッドが締結されるシリンダブロックにおいて、
前記シリンダヘッドの未締結状態におけるボアの断面が略真円形状をなし、その略真円形状の径が中心軸線に沿って変化しており、
前記ボアは、前記シリンダブロックへのシリンダヘッドの締結時にくびれ形状に変形するくびれ予定部を有し、
前記くびれ予定部は、前記未締結状態の前記ボアの最小径部分と比較して、径方向外側に拡張されていることを特徴とするシリンダブロック。
【請求項2】
一面にボアが形成され、シリンダヘッドが締結されるとともに、前記ボアが前記シリンダヘッドの締結時にくびれ形状に変形するくびれ予定部を有するシリンダブロックの加工方法において、
前記ボアの断面が略真円形状をなすとともに、その略真円形状の径が中心軸線に沿って変化するようにして前記ボアを加工し、
前記ボアの加工前に、シリンダブロックへのシリンダヘッドの締結時のデータ取得用ボアの変形量を中心軸線に沿って取得し、前記データ取得用ボアにおいてくびれ形状に変形した部分の中心軸線方向位置を把握し、
前記ボアの加工時に、前記データ取得用ボアにおけるくびれ形状に変形した部分の中心軸線方向位置に対応する位置およびその近傍位置の少なくとも一方にテーパ部を形成することにより、前記ボアの前記くびれ予定部を、前記未締結状態の前記ボアの最小径部分と比較して、径方向外側に拡張させることを特徴とするシリンダブロックの加工方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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