説明

シリンダブロックのめっき処理装置およびシリンダブロックのめっき処理方法

【課題】電流が集中するシリンダボアの開口端部における花咲きを抑制するとともに、均一なめっき層を形成可能なシリンダブロックのめっき処理装置およびシリンダブロックのめっき処理方法を提案する。
【解決手段】めっき処理装置1は、シリンダボア102を形成する円筒形状のシリンダ内周面103を有するシリンダブロック101を載置自在な載置台3と、シリンダボア102内に配置されシリンダ内周面103との間に環状の処理液流路4を形成する筒状電極6と、シリンダボア102の一方側の開口縁に当接されシリンダ内周面103に比べて小径な開口を有し処理液流路4の断面積を絞る環状のシール部材21と、シリンダボア102の他方側にめっき処理液11を送給し処理液流路4の他方側から一方側に向けてめっき処理液11を流動させる処理液循環装置12と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリンダブロックのシリンダ内周面をめっき処理するシリンダブロックのめっき処理装置およびシリンダブロックのめっき処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シリンダボア内に配置される電極を備え、電極とシリンダとの間にめっき処理液を流動させてシリンダ内周面にめっき処理を施すシリンダブロックのめっき処理装置およびシリンダブロックのめっき処理方法が知られている。
【0003】
シリンダブロックのめっき処理装置は、電極とシリンダとの間を流動するめっき処理液がシリンダボアの外部へ漏洩するのを防止するため、シリンダボアの開口端をシールするシール部材を備える(例えば、特許文献1から2参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平7−188990号公報
【特許文献2】特開2000−96289号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
シリンダ内周と略同径な開口を有するシール部材を用いてシリンダボアの開口端を液密にし、シリンダ内周面にめっき処理を施した場合、シール部材に当接されたシリンダボアの開口端部に電流が集中し、めっき層が局部的に肥大化する、いわゆる「花咲き」と呼ばれるめっき不良が生じる。
【0006】
そこで、特許文献1に記載のめっき処理方法は、シリンダボアの開口端とシール部材との間にシリンダ内周面と略同径の開口を有する導電部材を挟み込み、シリンダブロックとともに導電部材に通電することで、シリンダボアの開口端部に集中をする電流を分散させて花咲きの発生を抑制する。しかし、このめっき処理方法は、めっき処理を施す都度、導電部材を交換する必要があり、生産性が低下するという問題がある。
【0007】
また、特許文献2に記載のめっき処理装置は、シリンダ内周面よりも小径な開口を有するシール部材を用いてシリンダボアの開口端を液密にし、シリンダ内周面にめっき処理を施す。このとき、特許文献2に記載のめっき処理装置は、中空な筒状電極の外周面からシリンダボアの内周面に向かって放射状にめっき処理液を流動させてシリンダ内周面にめっき処理を施す。このような構成を備えた特許文献2に記載のめっき処理装置は、電流が集中するシリンダボアの開口端部において周方向にめっき処理液の流速の不均一に起因するめっき層の不均一を生じる。
【0008】
そこで、本発明は、電流が集中するシリンダボアの開口端部における花咲きを抑制するとともに、均一なめっき層を形成可能なシリンダブロックのめっき処理装置およびシリンダブロックのめっき処理方法を提案する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記の課題を解決するため本発明に係るめっき処理装置は、シリンダボアを形成する円筒形状のシリンダ内周面を有するシリンダブロックを載置自在な載置台と、前記シリンダボア内に配置され前記シリンダ内周面との間に環状の処理液流路を形成する電極と、前記シリンダボアの一方側の開口縁に当接され前記シリンダ内周面に比べて小径な開口を有し前記処理液流路の断面積を絞る環状のシール部材と、前記シリンダボアの他方側にめっき処理液を送給し前記処理液流路の他方側から一方側に向けてめっき処理液を流動させるめっき処理液供給装置と、を備えたことを特徴とする。
【0010】
また、本発明に係るめっき処理方法は、シリンダボアを形成する円筒状のシリンダ内周面を有するシリンダブロックを載置台に載置し、前記シリンダボア内に電極を配置し前記シリンダ内周面と前記電極との間に環状の処理液流路を形成し、前記シリンダ内周面に比べて小径な開口を有するシール部材を前記シリンダボアの一方側の開口縁に当接して前記処理液流路の一方側の端部の断面積を絞り、前記処理液流路の他方側から一方側に向けてめっき処理液を流し、前記電極と前記シリンダブロックとの間に電位差を加え前記シリンダ内周面にめっき処理を施すことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、電流が集中するシリンダボアの開口端部における花咲きを抑制するとともに、均一なめっき層を形成可能なシリンダブロックのめっき処理装置およびシリンダブロックのめっき処理方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施形態に係るシリンダブロックのめっき処理装置を示した断面図。
【図2】本発明の実施形態に係るシリンダブロックのめっき処理装置を示した断面図。
【図3】本発明の実施形態に係るシリンダブロックのめっき処理装置のシール治具および電極を示した断面図。
【図4】本発明の実施形態に係るシリンダブロックのめっき処理装置の導電板側のシール状態を示した断面図。
【図5】本発明の実施形態に係るシリンダブロックのめっき処理装置の導電板側のシール状態を示した断面図。
【図6】本発明の実施形態に係るシリンダブロックのめっき処理装置の導電板側のシール状態の他の例を示した断面図。
【図7】本発明の実施形態に係るシリンダブロックのめっき処理装置の導電板側のシール状態の他の例を示した断面図。
【図8】本発明の実施形態に係るシリンダブロックのめっき処理方法を示したフローチャート。
【図9】本発明の実施形態に係るシリンダブロックのめっき処理装置およびめっき処理方法におけるシール部材近傍のめっき処理液の流れの状態を示した概略図。
【図10】本発明の実施形態に係るシリンダブロックのめっき処理装置およびめっき処理方法におけるシール部材近傍のめっき処理液の流れの状態を示した概略図。
【図11】本発明の実施形態に係るシリンダブロックのめっき処理装置およびめっき処理方法におけるシール部材近傍のめっき処理液の流れの状態を示した概略図。
【図12】本発明の実施形態に係るシリンダブロックのめっき処理装置およびめっき処理方法におけるシール部材近傍のめっき処理液の流れの状態を示した概略図。
【図13】本発明の実施形態に係るシリンダブロックのめっき処理装置およびめっき処理方法におけるめっき処理条件およびこれに対応するめっき処理結果を示した表。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明に係るシリンダブロックのめっき処理装置およびシリンダブロックのめっき処理方法の実施の形態について、図1から図13を参照して説明する。
【0014】
図1および図2は、本発明の実施形態に係るシリンダブロックのめっき処理装置を示した断面図である。なお、図1は、シリンダブロック101のめっき処理装置1(以下、単に「めっき処理装置1」と呼ぶ。)のめっき処理最中の状態を示す図であり、図2は、めっき処理装置1の準備最中の状態を示す図である。
【0015】
図1および図2に示すように、めっき処理装置1は、シリンダブロック101を載置自在な載置台3と、シリンダボア102内に配置されシリンダ内周面103との間に環状の処理液流路4を形成する筒状電極6(電極)と、筒状電極6の自由端部に設けられたシール治具7と、載置台3とともにシリンダブロック101を挟み込んで保持する上治具8と、シール治具7の駆動源としての作動流体を供給するエアジョイント9と、処理液流路4にめっき処理液11を供給する処理液循環装置12(めっき処理液供給装置)と、シリンダブロック101と筒状電極6との間に電位差を発生させる電源装置13と、を備える。
【0016】
めっき処理装置1は、シリンダ内周面103と筒状電極外周面6aとの隙間で形成された処理液流路4に、めっき処理液11を流通させつつシリンダブロック101と筒状電極6との間に電位差を生じさせ、シリンダ内周面103にめっき層を形成する。
【0017】
シリンダブロック101は、例えばアルミニウム合金を素材とする鋳物製であり、並列多気筒エンジン等の内燃機関(図示省略)を構成する部材の一部である。シリンダブロック101は、中空なシリンダボア102を形成する円筒形状のシリンダ内周面103と、シリンダヘッド(図示省略)との合わせ面105と、クランクケース(図示省略)との合わせ面106と、を有する。シリンダブロック101は、めっき処理装置1によってシリンダ内周面103にめっき処理される。
【0018】
なお、図1および図2は、シリンダブロック101が有する複数のシリンダボア102のうち1つのシリンダボア102におけるめっき処理装置1を示したものである。めっき処理装置1は、他のシリンダボア102についても同様な構成を並列に備える。
【0019】
めっき処理装置1の載置台3は、装置全体の自重を支える下治具15と、下治具15の上面に着脱自在に配置された厚板状の絶縁部材16と、絶縁部材16の上面に設けられた厚板状の導電板17と、絶縁部材16を貫通する筒状のシール受け台18と、シール受け台18の上部に設けられた環状のシール部材21と、を備える。
【0020】
下治具15は、シリンダ内周面103と略同径な下治具回収孔23を有するとともに、下治具回収孔23内に延在された電極支持台24を備える。電極支持台24は、中空な管である。
【0021】
導電板17は、複数のステンレス製の平板を層状に組み合わせて構成されるとともに、平滑な載置面25を有する。シリンダブロック101は、シリンダボア102のシリンダヘッド側開口縁を除く合わせ面105を載置面25に当接させて載置台3に載置される。導電板17およびシリンダブロック101は、互いに接する載置面25および合わせ面105によって電気的に接続される。また、導電板17は、油圧シリンダ等の昇降装置(図示省略)によってシリンダボア102の中心線に沿って移動可能に構成される。さらに、導電板17は、層状に組み合わされた複数のステンレス製の平板で挟み込むようにしてシール受け台18およびシール部材21を保持する。
【0022】
絶縁部材16は、例えばシリコンゴムで形成された絶縁体である。絶縁部材16は、下治具15と導電板17との間の液密を保つとともに、下治具15とシリンダブロック101との間を電気的に絶縁する。これによって、めっき処理装置1は、処理液流路4を流動するめっき処理液11を介して筒状電極6とシリンダブロック101とを通電させてシリンダ内周面103にめっき層を効率よく形成できる。
【0023】
シール受け台18は、例えばシリコンゴムで形成された絶縁体であり、シリンダボア102のシリンダヘッド側開口縁にシール部材21を位置させる。さらに、シール受け台18の中空部分は、回収孔27を形成する。
【0024】
シール部材21は、例えばシリコンゴムで形成された絶縁体であり、シール受け台18の自由端部に設けられる。また、シール部材21は、シリンダブロック101が導電板17に載置されると、シリンダボア102のシリンダヘッド側開口縁に当接しつつ、合わせ面105とシール受け台18との間に挟み込まれ、シリンダボア102と回収孔27との間の液密を保つ。
【0025】
導電板17、シール受け台18およびシール部材21は、下治具15から一体的に着脱できる。めっき処理装置1は、先ず、導電板17の載置面25にシリンダブロック101を配置し、次いで、シリンダブロック101と導電板17とを一括して絶縁部材16上へ載置することによって載置台3にシリンダブロック101を載置する。
【0026】
筒状電極6は、下治具15の電極支持台24の自由端部に支持され、回収孔27から載置台3の上方に向けて突出される。また、筒状電極6は、電極支持台24を介して電源装置13に電気的に接続される。さらに、筒状電極6は、シリンダブロック101が載置台3に載置されたとき、シリンダボア102内に配置され筒状電極外周面6aとシリンダ内周面103との間に環状の処理液流路4を形成する。さらにまた、筒状電極6は、電極内処理液供給流路29を形成する円筒状の筒状電極内周面6bを有する。
【0027】
シール治具7は、処理液流路4にめっき処理液11を導く際に、シリンダボア102のクランクケース側の開口近傍を塞ぐ。また、シール治具7は、シリンダブロック101が載置台3に載置されたとき、筒状電極6とともにシリンダボア102内に配置される。さらに、シール治具7は、エアジョイント9から供給される空気によって作動し、シリンダボア102のクランクケース側の開口近傍の液密を保つ拡張シール部材31を備える。
【0028】
上治具8は、シリンダブロック101の合わせ面106に当接され、載置台3との間にシリンダブロック101を挟み込んで保持する。また、上治具8は、油圧シリンダ等の昇降装置(図示省略)によって載置台3に接近する方向へ移動可能に構成され、シリンダブロック101の合わせ面106を押さえつける。さらに、上治具8は、エアジョイント9を上治具8の移動方向に沿って摺動自在に保持する筒状のエアジョイント保持部材32と、エアジョイント9を上治具8に移動自在に保持しつつ載置台3の方向へ付勢し、エアジョイント9とシール治具7とを連結するときにエアジョイント9の位置調整を行うコイルスプリング33と、を備える。
【0029】
エアジョイント9は、拡張シール部材31を作動させるための作動流体としての空気をシール治具7に供給する作動流体供給路34を備える。また、エアジョイント9は、上治具8がシリンダブロック101の合わせ面106を押さえつける動作にともなってシール治具7に連結され、作動流体を供給可能な状態になる。
【0030】
処理液循環装置12は、めっき処理液11を蓄えるタンク36と、タンク36から載置台3にめっき処理液11を案内する供給路37と、供給路37に設けられたポンプ38と、載置台3からタンク36にめっき処理液11を回収する回収路39と、回収路39に設けられた流量計41と、を備える。また、処理液循環装置12は、流量計41の測定値からフィードバック制御によってポンプ38の運転出力を調整し、めっき処理液11の流速を制御する。具体的には、処理液循環装置12は、処理液流路4におけるめっき処理液11の平均流速が約40cm/秒から約160cm/秒になるようポンプ38の運転出力を調整する。また、処理液循環装置12は、さらに好ましくは、処理液流路4におけるめっき処理液11の平均流速が約70cm/秒から約130cm/秒になるようポンプ38の運転出力を調整する。
【0031】
電源装置13は、電極支持台24および導電板17にそれぞれ電気的に接続され、シリンダブロック101と筒状電極6との間に電位差を生じさせる。また、電源装置13は、シリンダ内周面103をめっき処理するとき、筒状電極6を陽極に、シリンダブロック101を陰極になるよう電気を流す。
【0032】
このような構成によって、めっき処理装置1は、タンク36から処理液循環装置12の供給路37、電極支持台24の管内、電極内処理液供給流路29を順次に経て処理液流路4にめっき処理液11を送給し、処理液流路4からシール受け台18の回収孔27と筒状電極6との間に形成された隙間、下治具15の下治具回収孔23と電極支持台24との間に形成された隙間、処理液循環装置12の回収路39を順次に経てタンク36にめっき処理液11を回収する。
【0033】
図3は、本発明の実施形態に係るシリンダブロックのめっき処理装置のシール治具および電極を示した断面図である。
【0034】
図3に示すように、めっき処理装置1のシール治具7は、筒状電極6の自由端部に取り付けられる。
【0035】
シール治具7は、シリンダボア102内に挿入可能な収納状態とシリンダ内周面103のクランクケース側の開口端を液密にシール可能な拡張状態とに伸縮可能な拡張シール部材31と、拡張シール部材31を挟み込んで保持するシール下板42およびシールベース43と、シール下板42およびシールベース43を筒状電極6の自由端部に固定するボルト44と、を備える。
【0036】
拡張シール部材31は、伸縮自在な材料(例えばシリコンゴムやフッ素ゴムなどの弾性部材)を用い、浮き輪形状に形成される。拡張シール部材31の内周側部分は、開口31aを有するとともに、開口31a近傍の両側に形成された係合突起46を備える。拡張シール部材31の外周側部分は、シリンダ内周面103に接触可能なシール面31bである。拡張シール部材31の外径寸法は、その内部に作動流体が供給されない状態(収縮状態)においてシリンダ内周面103の内径寸法よりも若干小さな値に設定される。
【0037】
シール下板42は、円板状に形成された下円板部47と、シールベース43側へ突出させて下円板部47の中央に一体に形成された下膨出部48と、筒状電極6側へ突出させて下円板部47の中央に一体に形成された円錐台状膨出部49と、を備える。また、シール下板42は、絶縁体を用いて形成され、金属を用いて形成されたシールベース43を筒状電極6に対して絶縁する。
【0038】
下円板部47は、下膨出部48との境界部分にリング形状に凹没された係合溝52を有する。
【0039】
円錐台状膨出部49は、筒状電極6の自由端部が嵌め込まれた凹部53を有する。
【0040】
シールベース43は、円板状に形成された上円板部55と、上円板部55の中央に一体に形成された上膨出部56と、を備える。
【0041】
上円板部55は、シール下板42の下膨出部48が嵌合された凹部58と、凹部58の外縁にリング形状に凹没された係合溝59と、を有する。
【0042】
シール下板42およびシールベース43は、係合溝52と係合溝59とに係合突部46を係合させて拡張シール部材31の内周側を拘束する。また、シール下板42およびシールベース43は、上円板部55および下円板部47によって拡張シール部材31を挟み込み、作動流体が流れ込んだ拡張シール部材31の外径寸法が大きくなるように変形するよう拡張シール部材31のシリンダボア102の中心線に沿う方向の拡張を拘束する。
【0043】
また、シール治具7は、シール下板42の下膨出部48の外周に嵌め込まれ拡張シール部材31の内側に挿入されたリング部材64を備える。
【0044】
リング部材64は、その内周面に連続的に開口させた周溝66と、周溝66と拡張シール部材31の内側とを連通させる作動流体噴出孔67と、を有する。作動流体噴出孔67は、リング部材64の周方向複数箇所(例えば3箇所)に開口される。
【0045】
さらに、シール治具7は、シールベース43の上膨出部56を貫通しシール下板42の下膨出部48に至る作動流体導入路68を有する。作動流体導入路68は、エアジョイント9の作動流体供給路34に連結されるとともに、リング部材64の周溝66を介して拡張シール部材31の内部に連通される。
【0046】
筒状電極6の自由端部は、筒状電極6内に形成された電極内処理液供給流路29と処理液流路4とを連通させる複数のスリット孔69を有する。スリット孔69は、処理液循環装置12から供給されためっき処理液11を電極内処理液供給流路29から処理液流路4に流し込む。これによって、めっき処理液11は、クランクケース側からシリンダヘッド側に向かって処理液流路4を流動する。
【0047】
図4および図5は、本発明の実施形態に係るシリンダブロックのめっき処理装置の導電板側のシール状態を示した断面図である。
【0048】
図4および図5に示すように、めっき処理装置1のシール部材21は、シリンダブロック101の合わせ面105に押し潰されて処理液流路4の開放端を形成する。
【0049】
シール部材21は、シリンダ内周面103に比べて小径な開口を有し、処理液流路4の開放端の流路断面積を絞る。具体的には、シール部材21は、シリンダ内周面103を基準に処理液流路4に向かって約0.5mmから約3mm突出する内径を有し、処理液流路4の開放端の流路断面積を絞る。
【0050】
また、図5に示すように、シール部材21は、シリンダボア102側に面取り71が施される。具体的には、シール部材21は、60°以下の面取り角度で面取りされ、さらに好ましくは約10°から約45°の面取り角度で面取りされる。
【0051】
図6および図7は、本発明の実施形態に係るシリンダブロックのめっき処理装置の導電板側のシール状態の他の例を示した断面図である。
【0052】
図6および図7に示すように、めっき処理装置1のシール部材21Aは、シリンダブロック101の合わせ面105とともに、シリンダ内周面103の開口縁のテーパ面の一部においてもめっき層が形成されないよう保護する。
【0053】
次に、めっき処理装置1を用いてシリンダブロック101のシリンダ内周面103をめっき処理する方法について説明する。
【0054】
図8は、本発明の実施形態に係るシリンダブロックのめっき処理方法を示したフローチャートである。
【0055】
図8に示すように、シリンダブロック101のめっき処理方法(以下、単に「めっき処理方法」と呼ぶ。)は、シリンダブロック101を載置台3に載置する工程S1と、シリンダブロック101のシリンダボア102内に筒状電極6を配置し、シリンダ内周面103と筒状電極6との間に処理液流路4を形成する工程S2と、シール部材21をシリンダボア102のシリンダヘッド側開口縁に当接し、載置台3とシリンダブロック101との間の液密を保つとともに、処理液流路4のシリンダヘッド側の端部の流路断面積を絞る工程S3と、処理液流路4のクランクケース側からシリンダヘッド側に向けてめっき処理液11を流す工程S4と、筒状電極6とシリンダブロック101との間に電位差を発生しシリンダ内周面103にめっき処理を施す工程S5と、を有する。
【0056】
先ず、工程S1において、めっき処理方法は、シリンダブロック101の合わせ面105を導電板17に載置する。このとき、シリンダブロック101と導電板17との電気的な接続が成される。このとき、工程S3において、めっき処理方法は、導電板17にシリンダブロック101を載置すると同時にシリンダボア102のシリンダヘッド側開口縁にシール部材21を当接して押し潰し、導電板17とシリンダブロック101との間の液密を保つ。
【0057】
次に、工程S2において、めっき処理方法は、導電板17、シール受け台18およびシール部材21を昇降装置(図示省略)によってシリンダボア102の中心線に沿ってシリンダブロック101とともに一体的に移動し、絶縁部材16に載置する。これによって、めっき処理方法は、載置台3にシリンダブロック101を載置する。このとき、めっき処理方法は、シリンダブロック101の移動にともなってシリンダボア102内に筒状電極6およびシール治具7を配置する。
【0058】
また、めっき処理方法は、上治具8は昇降装置(図示省略)によって移動し、上治具8と載置台3との間にシリンダブロック101を挟み込んで保持する。このとき、めっき処理方法は、上治具8とともにエアジョイント9を移動しシール治具7に接続する。この後、めっき処理方法は、エアジョイント9からシール治具7に作動流体(空気)を供給し、拡張シール部材31を拡径させてシリンダボア102のクランクケース側の開口近傍の液密を保つ。これによって、めっき処理方法は、筒状電極外周面6aとシリンダ内周面103との間に処理液流路4を形成する。
【0059】
次に、工程S4において、めっき処理方法は、処理液循環装置12のポンプ38を運転し、タンク36、供給路37、電極内処理液供給流路29、処理液流路4および回収路39を順次に経てめっき処理液11を循環する。めっき処理方法は、この循環流によって処理液流路4のクランクケース側からシリンダヘッド側に向けてめっき処理液11を流す。
【0060】
次に、工程S5において、めっき処理方法は、電源装置13によって筒状電極6を陽極に、シリンダブロック101を陰極になるよう電気を流す。
【0061】
図9から図12は、本発明の実施形態に係るシリンダブロックのめっき処理装置およびめっき処理方法におけるシール部材近傍のめっき処理液の流れの状態を示した概略図である。
【0062】
図9から図12に示すように、めっき処理装置1およびめっき処理方法は、処理液流路4にめっき処理液11を流動させて(実線矢)、シリンダ内周面103のシリンダヘッド側の開口端近傍に循環流A(実線矢A)を発生させる。この循環流Aは、処理液流路4のシリンダヘッド側の開口がシール部材21によって絞られているために発生する。この循環流Aによって、当該部分の近傍ではめっき処理液11へのニッケルイオンの供給量が減少し、当該部分におけるめっき処理液11のニッケルイオン濃度が低下する。これによって、電流が集中するシリンダボア102の開口端におけるめっき層の異常成長(花咲き)を抑制できる。
【0063】
図13は、本発明の実施形態に係るシリンダブロックのめっき処理装置およびめっき処理方法におけるめっき処理条件およびこれに対応するめっき処理結果を示した表である。
【0064】
図13に示すように、発明者は、処理液流路4を流動するめっき処理液11の流速と、シール部材21のシリンダ内周面103を基準とした処理液流路4に向かう突出寸法と、シール部材21の面取り71の面取り角度と、をそれぞれ組み合わせためっき処理条件において、めっき処理装置1およびめっき処理方法によるめっき層の形成状況を確認した。
【0065】
具体的には、めっき処理液11の流速を40cm/秒、70cm/秒、100cm/秒、130cm/秒および160cm/秒に設定し、シール部材21の突出寸法を3.0mm、2.5mm、2.0mm、1.5mm、1.0mm、0.5mmおよび0mmに設定し、面取り71の面取り角度を0°、10°、15°、30°、45°、60°および75°に設定し、めっき処理装置1を用いてシリンダブロック101のめっき処理を行った。結果の評価は、めっき層に不均一または花咲きが発生し無かったものを最良と、発生したものを不良と、不均一または花咲きが発生したもののシリンダボア102の品質上、問題のない場合を良と評価した。
【0066】
まず、シール部材21の突出寸法を変化させた場合の結果を説明する。
【0067】
めっき層の析出効率を向上させるため、筒状電極6の外周面とシリンダ内周面103との距離は接触しない程度に近いほうがよい。めっき処理装置1は、筒状電極外周面6aとシリンダ内周面103との距離を約5mmとした。筒状電極外周面6aとシリンダ内周面103との距離以上にシール部材21を処理液流路4へ突出させられないので、シール部材21の突出寸法は約3mm以下とした。
【0068】
シール部材21の突出寸法を0mmとした場合(すなわち、突出してない場合)、めっき処理液11の流速に係わらずめっき層に花咲きが発生する。したがって、シール部材21の突出寸法は、約0.5mmから約3.0mmがよい。なお、シール部材21の突出寸法を約3.0mmとした場合、処理液流路4を絞りすぎてしまい、めっき処理液11の流速が極端に低下する。このため、シール部材21の突出寸法は約0.5mmから約2.5mmがより良い。
【0069】
次に、シール部材21の面取り角度を変化させた場合の結果を説明する。
【0070】
シール部材21の面取り角度が75°の場合、シール部材21の突出寸法およびめっき処理液11の流速に係わらず、めっき層の花咲きが発生する。したがって、シール部材21の面取り角度は、約0°(すなわち、面取りがない場合)から約60°が良い。ただし、シール部材21の面取り角度が約0°(面取りなし)の場合、シール部材21の突出寸法が大きく、めっき処理液11の流速が低い組み合わせでは、めっき層の不均一が発生する。これは、めっき処理液11の循環流Aが広範囲に発生することが原因と考えられる。他方、シール部材21の面取り角度が約60°の場合、シール部材21の突出寸法が小さく、めっき処理液11の流速が速い組み合わせでは、めっき層の花咲きが発生しやすい傾向にある。これは、めっき処理液11の循環流Aが発生し難いことが原因と考えられる。以上より、シール部材21の面取り角度は約10°から45°がより良い。
【0071】
次に、めっき処理液11の流速を変化させた場合の結果を説明する。
【0072】
めっき処理液11の流速が約40cm/秒よりも遅い場合、めっき処理液11へのニッケルイオンの供給量が不足し、筒状電極6とシリンダ内周面103との間の電圧が極端に上昇してしまい、シリンダ内周面103が焼けてしまったり、めっき処理液11に含まれたSiC粒子が過剰に析出してしまったりしてめっき層の不良となる。また、めっき処理液11の流速が約160cm/秒よりも速い場合、SiC粒子の析出量が不足したりキャビテーションの発生によってめっき層の不良となったり、めっき処理液11の圧力が高くなりシール部材21やシール治具7によるシール箇所などからめっき処理液11が漏洩したりする問題があるので、めっき処理液11の流速は、約40cm/秒から約160cm/秒がよい。ただし、めっき処理液11の流速が約40cm/秒の場合、シール部材21の突出寸法が大きく、面取り角度が小さい組み合わせでは、ニッケルイオンの供給量が低くなり、めっき層の不均一が生じやすい傾向がある。また、めっき処理液11の流速が約160cm/秒の場合、シール部材21の突出寸法が小さく、面取り角度が大きい組み合わせでは、めっき層の花咲きが発生しやすい傾向にある。これは、めっき処理液11の循環流Aが発生し難いことが原因と考えられる。以上より、めっき処理液11の流速は、約70cm/秒から約130cm/秒がより良い。
【0073】
このように、めっき処理装置1およびめっき処理方法は、シール部材21の突出寸法を約0.5mmから約3.0mm、シール部材21の面取り71の面取り角度を0°(面取りなし)から60°、めっき処理液11の流速を約40cm/秒から約160cm/秒に設定することで、めっき層の花咲きおよび不均一を同時に抑制できる。また、めっき処理装置1およびめっき処理方法は、シール部材21の突出寸法を約0.5mmから約2.5mm、シール部材21の面取り71の面取り角度を10°から45°、めっき処理液11の流速を約70cm/秒から約130cm/秒に設定することで、めっき層の花咲きおよび不均一を同時に確実に抑制できる。
【0074】
したがって、本発明に係るめっき処理装置1およびめっき処理方法によれば、電流が集中するシリンダボア102の開口端部における花咲きを抑制するとともに、均一なめっき層を形成できる。
【符号の説明】
【0075】
101 シリンダブロック
102 シリンダボア
103 シリンダ内周面
105 合わせ面
106 合わせ面
1 めっき処理装置
3 載置台
4 処理液流路
6 筒状電極
6a 筒状電極外周面
6b 筒状電極内周面
7 シール治具
8 上治具
9 エアジョイント
11 めっき処理液
12 処理液循環装置
13 電源装置
15 下治具
16 絶縁部材
17 導電板
18 シール受け台
21 シール部材
23 下治具回収孔
24 電極支持台
25 載置面
27 回収孔
29 電極内処理液供給流路
31 拡張シール部材
31a 開口
31b シール面
32 エアジョイント保持部材
33 コイルスプリング
34 作動流体供給路
36 タンク
37 供給路
38 ポンプ
39 回収路
41 流量計
42 シール下板
43 シールベース
44 ボルト
46 係合突起
47 下円板部
48 下膨出部
49 円錐台状膨出部
52 係合溝
53 凹部
55 上円板部
56 上膨出部
58 凹部
59 係合溝
64 リング部材
66 周溝
67 作動流体噴出孔
68 作動流体導入路
69 スリット孔
71 面取り

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダボアを形成する円筒形状のシリンダ内周面を有するシリンダブロックを載置自在な載置台と、
前記シリンダボア内に配置され前記シリンダ内周面との間に環状の処理液流路を形成する電極と、
前記シリンダボアの一方側の開口縁に当接され前記シリンダ内周面に比べて小径な開口を有し前記処理液流路の断面積を絞る環状のシール部材と、
前記シリンダボアの他方側にめっき処理液を送給し前記処理液流路の他方側から一方側に向けてめっき処理液を流動させるめっき処理液供給装置と、を備えたことを特徴とするシリンダブロックのめっき処理装置。
【請求項2】
前記シール部材は、前記シリンダボア側に面取りが施されていることを特徴とする請求項1に記載のシリンダブロックのめっき処理装置。
【請求項3】
前記シール部材は、前記シリンダ内周面から前記処理液流路に向かって約0.5mmから約3mm突出する内径を有することを特徴とする請求項1または2に記載のシリンダブロックのめっき処理装置。
【請求項4】
前記シール部材は、60°以下の面取り角度で面取りされたことを特徴とする請求項2に記載のシリンダブロックのめっき処理装置。
【請求項5】
前記シール部材は、約10°から約45°の面取り角度で面取りされたことを特徴とする請求項2に記載のシリンダブロックのめっき処理装置。
【請求項6】
前記処理液流路における前記めっき処理液の平均流速が約40cm/秒から約160cm/秒であることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載のシリンダブロックのめっき処理装置。
【請求項7】
前記処理液流路における前記めっき処理液の平均流速が約70cm/秒から約130cm/秒であることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載のシリンダブロックのめっき処理装置。
【請求項8】
シリンダボアを形成する円筒状のシリンダ内周面を有するシリンダブロックを載置台に載置し、
前記シリンダボア内に電極を配置し前記シリンダ内周面と前記電極との間に環状の処理液流路を形成し、
前記シリンダ内周面に比べて小径な開口を有するシール部材を前記シリンダボアの一方側の開口縁に当接して前記処理液流路の一方側の端部の断面積を絞り、
前記処理液流路の他方側から一方側に向けてめっき処理液を流し、
前記電極と前記シリンダブロックとの間に電位差を発生し前記シリンダ内周面にめっき処理を施すことを特徴とするシリンダブロックのめっき処理方法。
【請求項9】
前記シール部材は、前記シリンダボア側に面取りが施されていることを特徴とする請求項8に記載のシリンダブロックのめっき処理方法。
【請求項10】
前記シール部材は、前記シリンダ内周面から前記処理液流路に向かって約0.5mmから約3mm突出する内径を有することを特徴とする請求項8または9に記載のシリンダブロックのめっき処理方法。
【請求項11】
前記シール部材は、前記シリンダ内周面から前記処理液流路に向かって約0.5mmから約2.5mm突出する内径を有することを特徴とする請求項8または9に記載のシリンダブロックのめっき処理方法。
【請求項12】
前記シール部材は、60°以下の面取り角度で面取りされたことを特徴とする請求項9に記載のシリンダブロックのめっき処理方法。
【請求項13】
前記シール部材は、約10°から約45°の面取り角度で面取りされたことを特徴とする請求項9に記載のシリンダブロックのめっき処理方法。
【請求項14】
前記処理液流路における前記めっき処理液の平均流速が約40cm/秒から約160cm/秒であることを特徴とする請求項8から13のいずれか1項に記載のシリンダブロックのめっき処理方法。
【請求項15】
前記処理液流路における前記めっき処理液の平均流速が約70cm/秒から約130cm/秒であることを特徴とする請求項8から13のいずれか1項に記載のシリンダブロックのめっき処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2011−122204(P2011−122204A)
【公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−280614(P2009−280614)
【出願日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【出願人】(000002082)スズキ株式会社 (3,196)
【Fターム(参考)】