説明

シリンダブロックの冷却構造

【課題】蓄熱材が体積変化を繰り返しても損傷を確実に防止することができる容器を備えたシリンダブロックの冷却構造を提供する。
【解決手段】温度によって相変化した際に体積が変化する潜熱型の蓄熱材Xをスペーサ3の内部に封入し、このスペーサをウォータジャケット内に収容する。そして、スペーサを、外周面側が外方に開放する断面略ハット状のアルミニウム合金よりなる剛体部分31と、その外方に開口する剛体部分31を外方から覆う合成ゴム製の弾性体32とによって断面袋状に成形している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリンダブロックのシリンダ壁の周囲をウォータジャケットにより冷却するようにした冷却構造に関し、特に、ウォータジャケット内に収容される容器の内部での蓄熱材の体積変化による容器の破損を防止する対策に係わる。
【背景技術】
【0002】
一般に、内燃機関の始動時に、内燃機関の内部温度、特にシリンダ壁温や燃焼室温度が低くなっていると、ピストンの運動に対するフリクションロスが増大する上、排気組成が悪くなる。
【0003】
そのため、従来より、シリンダブロックのシリンダ壁をその周囲から取り囲むような収容室を設け、この収容室内に潜熱型の蓄熱材を収容し、内燃機関の運転により発生する熱を蓄熱材に蓄えておき、その蓄熱材に蓄えた熱を次の内燃機関の始動時に放熱させて、シリンダブロックをシリンダ壁の周囲から暖機するようにしたものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
ところで、シリンダブロックのシリンダ壁の周囲にはウォータジャケットが設けられているため、上述の如き蓄熱材を収容するための収容室がシリンダブロックのシリンダ壁の周囲に別途に設けられていると、ウォータジャケットの設置部位が制約を受け、ウォータジャケット内の冷却水によるシリンダの冷却性能が悪化するおそれがある。
【0005】
かかる点から、潜熱型の蓄熱材を封入した容器をウォータジャケット内に収容し、冷却水によるシリンダ壁の冷却性能と、内燃機関の始動時におけるシリンダブロックの暖機性能とを両立できるようにしたものも提案されている。
【特許文献1】特開平11−182393号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、前記提案のものでは、潜熱型の蓄熱材を封入した容器自体が合成樹脂などのハードケースにより成形されているため、内部の蓄熱材が体積変化を繰り返すうちに容器が損傷するおそれがある。
【0007】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、蓄熱材が体積変化を繰り返しても損傷を確実に防止することができる容器を備えたシリンダブロックの冷却構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成するため、本発明では、シリンダブロックの冷却構造として、温度によって相変化した際に体積が変化する潜熱型の蓄熱材を容器の内部に封入している。そして、前記容器を、シリンダブロックのシリンダ壁の周囲を冷却するウォータジャケット内に収容し、前記容器の一部を弾性体により成形している。
【0009】
この特定事項により、容器の一部が弾性体により成形されているので、容器の内部での蓄熱材の体積変化が弾性体の膨縮により円滑に吸収され、蓄熱材の体積変化の繰り返しによる容器の損傷を確実に防止することが可能となる。
【0010】
また、弾性体の容器に対する成形位置として、シリンダブロックのシリンダ壁側とは反対側に位置させている場合には、形状変化し易い容器の一部がシリンダブロックのシリンダ壁側とは反対側に位置する一方、その容器の一部を除くその他の部分(弾性体を除く部分)がシリンダブロックのシリンダ壁側に位置することになり、前記容器の一部を除くその他の部分が形状変形し難いものであるためにその容器の弾性体を除く部分を挟んで蓄熱材とシリンダ壁との距離が安定し、内燃機関の始動時におけるシリンダブロックの暖機性能を安定して発揮することが可能となる。
【0011】
更に、弾性体の熱伝導率を、容器から弾性体を除いた部分よりも低くしている場合には、内燃機関の始動時に放熱される蓄熱材の熱量が、容器の弾性体の部分から放熱し難くなって容器から弾性体を除いた部分から効率よく放熱されることになる。しかも、容器から弾性体を除いた部分がシリンダブロックのシリンダ壁側に位置している場合には、蓄熱材の熱量をシリンダブロックのシリンダ壁により一層効率よく受熱させることが可能となる。
【発明の効果】
【0012】
以上、要するに、容器の一部を弾性体により成形することで、容器の内部での蓄熱材の体積変化を弾性体の膨縮により円滑に吸収し、蓄熱材の体積変化の繰り返しによる容器の損傷を確実に防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための最良の形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0014】
図1は、本実施形態に係る冷却構造を備えた直列4気筒エンジンの各シリンダ11,11,…の周辺部を示すシリンダブロック1の平面図であって、シリンダ列とウォータジャケット2の配置状態とを示している(シリンダブロック1の外縁形状については省略している)。ここでは、図1において左端に位置する気筒を第1番気筒♯1とし、その右側に位置する気筒を第2番気筒♯2、更に、その右側に位置する気筒を第3番気筒♯3、そして、右端に位置する気筒を第4番気筒♯4として説明する。また、図1における下側を吸気側とし、上側を排気側として説明する。なお、気筒番号や吸排気の形態はこれに限るものではない。
【0015】
本実施形態に係る直列4気筒エンジンのシリンダブロック1は、アルミニウム合金製であって、直列状態で配置された4個のシリンダ11,11,…が一体成形されてなる。そして、図2に示すように、各シリンダ11,11,…の内面つまりシリンダ壁12,12,…には、シリンダライナ14がそれぞれ鋳込まれている。
【0016】
また、図1に示すように、本実施形態に係るシリンダブロック1は、オープンデッキ型に構成されている。つまり、シリンダブロック1の頂面(シリンダヘッド側)にウォータジャケット2が開放されていると共に、このウォータジャケット2が、前記各シリンダ11,11,…の略全周囲を囲むようにシリンダブロック1の外壁と各シリンダ壁12,12,…との間に形成されている。
【0017】
ウォータジャケット2には、ラジエータからの冷却水が導入される冷却水入口通路21がシリンダ列方向の一端側(図1における左端側)、つまり、第1番気筒♯1の近傍に形成されている。そして、ウォータジャケット2における冷却水の主な流れとしては、この冷却水入口通路21から導入された冷却水が各シリンダ11,11,…の配列方向に沿ってシリンダブロック1の片側(図1における下側である吸気側)を第1番気筒♯1から第4番気筒♯4に向かって流れ、この第4番気筒♯4の外周囲に沿って流れ方向が反転した後、再び、各シリンダ11,11,…の配列方向に沿ってシリンダブロック1の他方の片側(図1における上側である排気側)を第1番気筒♯1に向かって流れるようになっている。そして、この第1番気筒♯1の周囲に戻った冷却水は、この第1番気筒♯1の近傍に形成された出口18,19からシリンダヘッド15(図2に表れる)に向かって導出されることになる。シリンダブロック1とシリンダヘッド15との間にはガスケット16(図2に表れる)が介在されており、前記出口18,19は、このガスケット16及びシリンダヘッド15にそれぞれ形成されていて、シリンダブロック1からシリンダヘッド15に向かって冷却水の導入が可能となっている。
【0018】
次に、前記ウォータジャケット2の内部に装着される容器としてのウォータジャケットスペーサ3(以下、単にスペーサと呼ぶ)について説明する。
【0019】
このスペーサ3は、ウォータジャケット2の全周囲に亘って嵌め込まれるように環状を呈しており、その略上下方向の高さ寸法がウォータジャケット2の略上下方向の高さ寸法に対して若干小さく設定されている。このスペーサ3は、断面袋状に成形され、その袋の厚さがウォータジャケット2の厚さ方向の寸法と略一致している。そして、スペーサ3の内部には、例えば酢酸ナトリウム・3水和物(CH3COONa・3H2O)からなる潜熱型の蓄熱材X(作動流体)が封入されている。
【0020】
このスペーサ3内に封入される蓄熱材Xは、融点(58゜C)を越える温度状態から融点以下の温度状態に冷却しても液相から固相に相変化を起こさず、マイナス20゜C〜マイナス30゜C程度まで潜熱を蓄えたまま過冷却状態となる特性を有している。また、スペーサ3には、蓄熱材Xの相変化を促すように稼動する発核装置4(後述する)が配設されている。そして、シリンダブロック1(エンジン)の温度が低下し、蓄熱材Xが過冷却状態にあるときに、エンジンの始動時に発する振動により発核装置4が稼動すると、蓄熱材Xの固相への相変化が促され、速やかに潜熱が放出されるようになっている。また、蓄熱材Xは、固相への相変化により潜熱の放出を終えてシリンダブロック1からの熱を受け、融点を越える温度状態から液相へ相変化して潜熱を蓄え、高温になるに従い体積が増加するようになっている。この場合、蓄熱材Xは、温間時(融点を越える温度状態)に液相となって体積が増加する一方、冷間時(過冷却状態から融点までの温度状態)に固相となって体積が減少する上、液相状態にあるときにシリンダブロック1からの熱を受けて高温になるに従い体積が増加するようになっている。
【0021】
そして、図3および図4に示すように、前記スペーサ3の内部には、蓄熱材Xの相変化を促すように稼動する発核装置4が収容されている。この発核装置4は、蓄熱材収容容器14内に設けられた金属よりなる円柱形状のシャフト部材41と、このシャフト部材41の両端に取り付けられたストッパ部材42a,42bと、このストッパ部材42a,42b間においてシャフト部材41の外周面上に空隙を存してシャフト部材41の軸線m方向に移動可能に支持された円筒形状のカラー部材43と、このカラー部材43をシャフト部材41上においてストッパ部材42a,42b間の略中央に位置させるように均衡状態に付勢する付勢スプリング44a,44bと、前記シャフト部材41との間の空隙を埋めるようにカラー部材43の内周面の一側端(図3および図4では上端)および他側端(図3および図4では下端)にそれぞれ取り付けられ、内燃機関1の始動時に発する振動により付勢スプリング44a,44bによる均衡状態を解除させてシャフト部材41上を前記カラー部材43が移動する際にシャフト部材41の外周面に対し密接状態で摺動して扱く円環形状の金属製扱き部材45,45とを備えている。この各金属製扱き部材45は、シャフト部材41の外周面に対し鋭角な頂点を接触させるように円錐形状に形成されている。
【0022】
前記一方の付勢スプリング44a(図3および図4では上側のもの)は、一方のストッパ部材42a(図3および図4では上側のもの)とカラー部材43の一側端面(図3および図4では上端面)との間に縮装されている。一方、他方の付勢スプリング44b(図3および図4では下側のもの)は、他方のストッパ部材42b(図3および図4では下側のもの)とカラー部材43の他側端(図3および図4では下端面)との間に縮装されている。
【0023】
また、図4に示すように、前記カラー部材43は、内燃機関1の始動時に発する振動により付勢スプリング44a,44bによる均衡状態を解除させてシャフト部材41上を摺動する際に金属製扱き部材45,45がシャフト部材41の外周面を扱いて新生面を過冷却状態の蓄熱材Xに直に接触させることによって、蓄熱材Xを発核させるように発核装置4を稼動させている。この発核装置4の稼動により、蓄熱材Xの固相への相変化が促され、速やかに潜熱がシリンダブロック11に対し放出されるようになっている。この場合、発核装置4は、内燃機関1の始動時に発する振動により付勢スプリング44a,44bによる均衡状態が解除されてカラー部材43がシャフト部材41の軸線m方向に移動し易い向きとなるように、シャフト部材41の軸線mを略上下方向に延ばして取り付けられている。
【0024】
そして、前記スペーサ3は、外周面側が外方に開放する断面略ハット状のアルミニウム合金よりなる剛体部分31と、その外方に開口する剛体部分31を外方から覆う合成ゴム製の弾性体32とによって断面袋状に成形されている。また、スペーサ3の内周面側に位置する剛体部分31の底部は、ウォータジャケット2の内周面(シリンダ壁12)に接触している一方、外周面側に位置する弾性体32は、ウォータジャケット2の内周面側とは反対側に位置するウォータジャケット2の外周面(シリンダブロック1の外壁側面)に隙間Sを存して対向している。この場合、合成ゴムよりなる弾性体32の熱伝導率は、アルミニウム合金よりなる剛体部分31よりも低くなっている。
【0025】
また、図3に示すように、スペーサ3の弾性体32は、冷間時に体積が減少する蓄熱材Xの体積変化に応じて収縮し、ウォータジャケット2の外周面に対し隙間Sを存して離間するようになっている一方、図4に示すように、温間時に体積が増加する蓄熱材Xの体積変化に応じて隙間Sをなくすように膨張し、ウォータジャケット2の外周面に対し接触するようになっている。そして、ウォータジャケット2の高さ寸法に対して高さ寸法が若干小さく設定されたスペーサ3は、ウォータジャケット2の内部に挿入された状態で前記ガスケット16及びシリンダヘッド15がシリンダブロック1に組み付けられると、ウォータジャケット2の底部にスペーサ3の下端が当接した状態で保持されてそのスペーサ3の上方に冷却水経路20が確保されることになり、シリンダヘッド15の燃焼室側の冷却が円滑に行えるようになっている。
【0026】
したがって、前記実施形態では、スペーサ3は、外周面側が外方に開放する断面略ハット状のアルミニウム合金よりなる剛体部分31と、その外方に開口する剛体部分31を外方から覆う合成ゴム製の弾性体32とによって断面袋状に成形されているので、スペーサ3内での蓄熱材Xの体積変化が弾性体32の膨縮により円滑に吸収され、蓄熱材Xの体積変化の繰り返しによるスペーサ3の損傷を確実に防止することができる。
【0027】
また、スペーサ3の剛体部分31の底部がウォータジャケット2の内周面(シリンダ壁12)に接触している一方、スペーサ3の弾性体32がウォータジャケット2の外周面(シリンダブロック1の外壁側面)に隙間Sを存して対向しているので、形状変化し易いスペーサ3の弾性体32がシリンダブロック1の外壁側に位置する一方、形状変化し難い剛体部分31の底部がシリンダブロック1のシリンダ壁12側に位置することになり、スペーサ3の剛体部分31を挟んで蓄熱材Xとシリンダ壁12との距離が接触した状態で安定し、エンジンの始動時におけるシリンダブロック1の暖機性能を安定して発揮することができる。
【0028】
更に、合成ゴムよりなる弾性体32の熱伝導率が、アルミニウム合金よりなる剛体部分31よりも低いので、エンジンの始動時に放熱される蓄熱材Xの熱量が、スペーサ3の外周面側(弾性体32側)から放熱し難くなってスペーサ3の剛体部分31から効率よく放熱され、このスペーサ3の内周面側(剛体部分31の底部)がシリンダブロック1のシリンダ壁12に接触していることと相俟って蓄熱材Xの熱量をシリンダブロック1のシリンダ壁12に効率よく受熱させることができる。
【0029】
なお、本発明は、前記実施形態に限定されるものではなく、その他種々の変形例を包含している。例えば、前記実施形態では、自動車用直列4気筒ガソリンエンジンに本発明を適用した場合について説明したが、エンジンとしては自動車用に限らず、その他の用途に使用されるものに対しても本発明は適用可能である。また、気筒数は4気筒に限らず、エンジン形式も直列型に限らず、V型や水平対向型等にも適用可能である。
【0030】
更に、上記実施形態では、スペーサ3の剛体部分32をアルミニウム合金により成形したが、剛体部分がPP(ポリプロピレン)やPA(ポリアミド)などの合成樹脂により成形されていてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の実施形態に係わる冷却構造を用いたエンジンの各シリンダ周辺部を示すシリンダブロックの平面図である。
【図2】図1のA−A線において切断した断面図である。
【図3】稼働前の状態を示す発核装置付近の断面図である。
【図4】稼働状態を示す発核装置付近の断面図である。
【符号の説明】
【0032】
1 シリンダブロック
11 シリンダ
12 シリンダ壁
3 スペーサ(容器)
31 剛体部分(容器の一部を除くその他の部分)
32 弾性体(容器の一部)
X 蓄熱材(作動流体)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
温度によって相変化した際に体積が変化する潜熱型の蓄熱材が容器の内部に封入されており、
前記容器は、シリンダブロックのシリンダ壁の周囲を冷却するウォータジャケット内に収容され、前記容器の一部が弾性体により成形されていることを特徴とするシリンダブロックの冷却構造。
【請求項2】
請求項1に記載のシリンダブロックの冷却構造において、
前記弾性体は、前記シリンダブロックのシリンダ壁側とは反対側に位置することを特徴とするシリンダブロックの冷却構造。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のシリンダブロックの冷却構造において、
前記弾性体の熱伝導率は、前記容器から前記弾性体を除いた部分よりも低いことを特徴とするシリンダブロックの冷却構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−182834(P2007−182834A)
【公開日】平成19年7月19日(2007.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−2422(P2006−2422)
【出願日】平成18年1月10日(2006.1.10)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】