説明

シリンダブロックの加工用治具および加工方法

【課題】ボルト締結時にダミーヘッドが変形した場合でも、ビード部によるボアの周縁部への面圧を均一に加えることができるシリンダブロックの加工用治具および加工方法を提供する。
【解決手段】シリンダブロック200の上面へのダミーヘッド100の本体110の載置時、シム部140は、ボルト用孔112よりも外周側に配置され、シリンダブロック200の上面に当接する。ビード部130はボア201の周縁部に配置されている。この場合、たとえばビード部130とシリンダブロック100の上面との間には所定間隔の隙間Gが形成される。ダミーヘッド100をボルト締結すると、シム部140を支点としてボルト軸力によるモーメントを本体110におけるボルト120同士の間の部分に加えることができる。その部分をボア201に向かって凸状に撓ませることができ、ビード部130はボア201の周縁部に当接することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリンダブロックのボアの加工時にシリンダヘッドに取付けられるシリンダブロックの加工用治具および加工方法に係り、特に、加工用治具とシリンダブロックとの間にガスケットを介在させない技術の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関のシリンダブロックには、油膜を介して相対的にピストンに摺動するシリンダボア(以下、ボア)が複数形成され、シリンダブロックの一面(取付面)には、ガスケットを介してシリンダヘッド(以下、実ヘッド)がボルト締結される。ボルト締結後のボアは、エンジン使用時のピストンとの摺動抵抗を抑制するために、断面が略真円形状をなす円筒形状を有することが要求されている。なお、本願では、軸線方向に垂直な断面を断面と表記し、軸線方向に平行な断面を側断面と表記する。
【0003】
ところが、シリンダブロックのボアを断面略真円形状に加工した後、シリンダブロックの取付面に実ヘッドを取り付けた場合、その締結力によりボアの形状が変形してしまう。そこで、加工用治具としてダミーヘッドを取付面にボルト締結した状態でボアの加工を行う技術が提案されている。
【0004】
具体的には、ボアの加工時、ダミーヘッドを取付面にボルト締結し、その締結力により、実ヘッドをボルト締結した場合と同様な変形をボアに生じさせる。ダミーヘッドにはボアに連通する加工用孔部が形成されているから、その孔部を通じて、変形したボアにボーリング加工やホーニング加工を行うことにより、ボアを断面略真円形状に形成することができる。ボアの加工後、ダミーヘッドを取り外し、実ヘッドをボルト締結した場合、ダミーヘッドの場合と同様な締結力が加えられるから、ボアの変形を抑制することができる。
【0005】
このようなダミーヘッドを用いた加工方法では、シリンダブロックの取付面にダミーヘッドを取り付ける場合、実ヘッドの場合と同様にガスケットを介在させると、ガスケットは使用を重ねる毎に潰れて劣化し、新品への交換を頻繁に行う必要が生じるため、コストの増大を招く。
【0006】
そこで、ダミーヘッドとシリンダブロックとの間にガスケットを介在させない手法が開発されている。ガスケットは、ボルト軸力による荷重をボアの周縁部に均等に加える機能を有しているので、ガスケットを介在させない手法では、その機能を実現するために、ボアの周縁部に向かって突出するビード部をダミーヘッドに設けている。ダミーヘッドの締結時、ビード部によりボアの周縁部にボルト軸力による荷重が加えられる。
【0007】
ビード部を用いる技術では、ビード部に高さ等のばらつきがある場合、ボアの周縁部への面圧を均等にすることができないため、各種技術が提案されている。たとえば特許文献1では、ビード部の径方向にくびれ部を設け、そのくびれ部の変形によってボアの周縁部への面圧を調整している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2008−95547号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、ビード部を用いる技術では、ボルト締結時にダミーヘッドが変形した場合、ダミーヘッドからビード部に加わる荷重が不均一となるため、ビード部によるボアの周縁部への面圧が不均一となる。
【0010】
具体的には、図8(A)に示すように、ダミーヘッド10をシリンダブロック20の上面(取付面)に載置すると、ビード部11はシリンダブロック20の上面に接触する。次いで、図8(B)に示すように、ボルト12をボア21の周囲のボルト用孔22に固定することにより、ダミーヘッド10をボルト締結する。
【0011】
この場合、ボア21上に位置するダミーヘッド10の中央部分が、シリンダブロック20の取付面に向かう方向とは反対側に向かって凸状に歪む。このため、隣接するボア21同士の軸間部分(図9の破線Pで囲まれる部分)においてビード部11による面圧が低くなってしまう。この場合、ダミーヘッド10の本体自体が変形するため、特許文献1の技術の凹部による面圧調整機能では対応できない。なお、図8(A),(B)は、図9のX方向に見た側断面図であって、ボア21、ボルト12、ビード部11の位置関係を表すために、それらを便宜的に同一側断面上で図示している。
【0012】
したがって、本発明は、ボルト締結時にダミーヘッドが変形した場合でも、ビード部によるボアの周縁部への面圧を均一に加えることができるシリンダブロックの加工用治具および加工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明のシリンダブロックの加工用治具は、シリンダブロックのボアの加工時に、シリンダブロックの一面に取り付けられる加工用治具であって、本体と、一面への本体の取付時にボアの周囲のボルト用孔に固定されるボルトと、一面への本体の取付時にボアの周縁部に配置される第1突出部と、一面への本体の取付時にボルト用孔よりも外周側に配置される第2突出部とを備えたことを特徴とする。
【0014】
本発明のシリンダブロックの加工用治具では、シリンダブロックの一面への本体の載置時、第1突出部はボアの周縁部に配置され、第2突出部は、ボルト用孔よりも外周側に配置される。ボルト用孔にボルトを固定することにより加工用治具の締結を行う場合、第1突出部および第2突出部の厚みを適宜設定することにより、加工用治具について各種ボルト締結形態を得ることができる。
【0015】
シリンダブロックの一面への本体の載置時、たとえば第2突出部がシリンダブロックの一面に当接するとともに、第1突出部とボアの周縁部との間には所定間隔の隙間が形成されている形態(第1形態)では、ボルト締結を行うと、第2突出部を支点としてボルト軸力によるモーメントを、本体におけるボルト同士の間の部分に加えることができるから、その部分をボアに向かって凸状に撓ませることができるとともに、第1突出部はボアの周縁部に当接することができる。したがって、第2突出部を支点として、第1突出部を介してボアの周縁部にボルト軸力によるモーメントを加えることができる。
【0016】
また、シリンダブロックの一面への本体の載置時、たとえば第1突出部がボアの周縁部に当接するとともに、第2突出部とシリンダブロックの一面との間には所定間隔の隙間が形成されている形態(第2形態)では、ボルト締結を行うと、本体におけるボルト同士の間の部分がボアに向かう方向とは反対側に凸状に歪むが、このとき本体におけるボルトよりも外周側の部分がシリンダブロックの一面に接近し、第2突出部はシリンダブロックの一面に当接することができる。したがって、第2突出部を設けない場合と比較して、本体の歪みを抑制することができる。
【0017】
さらに、シリンダブロックの一面への本体の載置時、たとえば第1突出部および第2突出部がともに、シリンダブロックの一面に当接する形態(第3形態)では、ボルト締結を行うと、第1形態と第2形態の中間の特性を得ることができる。
【0018】
したがって、ボアの周縁部に荷重を均等に与えることができる。特にボアが複数配列されている場合には、隣接するボア同士の軸間部分に荷重を効果的に加えることができる。その結果、シリンダブロックの一面への加工用治具のボルト締結時、実ヘッド締結時の変形状態に対応する変形状態を得ることができる。また、第1突出部および第2突出部の少なくとも一方の厚みを調整することにより、ボアの周縁部への面圧を調整することができるので、その面圧値の最適化を図ることができる。その結果、実ヘッド締結時の変形状態に対応する変形状態をより良く得ることができる。
【0019】
本発明のシリンダブロックの加工用治具は種々の構成を用いることができる。たとえばシリンダブロックの機種に応じて、第1突出部および第2突出部の少なくとも一方の厚みを変更することが可能な態様を用いることができる。この態様では、シリンダブロックの機種に応じて、ボアの周縁部への面圧値の最適化を図ることができる。また、第1突出部および第2突出部の少なくとも一方は、本体に対して別体として構成されている態様を用いることができる。
【0020】
本発明のシリンダブロックの加工方法は、本発明のシリンダブロックの加工用治具を用いたシリンダブロックの加工方法である。すなわち、本発明のシリンダブロックの加工方法は、ボアを有するシリンダブロックの一面に、本発明のシリンダブロックの加工用治具を取り付け、ボアを変形させた状態でそのボアの加工を行うことを特徴とする。本発明のシリンダブロックの加工方法は、本発明のシリンダブロックの加工用治具と同様な効果を得ることができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明のシリンダブロックの加工用治具あるいは加工方法によれば、ボアの周縁部に荷重を均等に与えることができるから、シリンダブロックの一面への加工用治具のボルト締結時、実ヘッド締結時の変形状態に対応する変形状態を得ることができる等の効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の第1実施形態に係るダミーヘッドがシリンダブロックに配置された状態を表し、(A)はボルト締結前の状態を表す側断面図、(B)はボルト締結後の状態を表す側断面図である。
【図2】本発明の第2実施形態に係るダミーヘッドがシリンダブロックに配置された状態を表し、(A)はボルト締結前の状態を表す側断面図、(B)はボルト締結後の状態を表す側断面図である。
【図3】図1のダミーヘッドの具体例の下面の概略構成を表す平面図である。
【図4】図1のシリンダブロックの具体例の上面の概略構成を表す平面図である。
【図5】ビート部およびシム部を用いた本発明例のダミーヘッドの締結状態でのボアの上面からの距離と変形量との関係を表すグラフであり、(A)はX方向の変形量を表すグラフ、(B)はY方向の変形量を表すグラフである。
【図6】比較例1の実ヘッドの締結状態でのボアの上面からの距離と変形量との関係を表すグラフであり、(A)はX方向の変形量を表すグラフ、(B)はY方向の変形量を表すグラフである。
【図7】ビート部のみを用いた比較例2のダミーヘッドの締結状態でのボアの上面からの距離と変形量との関係を表すグラフであり、(A)はX方向の変形量を表すグラフ、(B)はY方向の変形量を表すグラフである。
【図8】従来技術のダミーヘッドがシリンダブロックに配置された状態を表し、(A)はボルト締結前の状態を表す側断面図、(B)はボルト締結後の状態を表す側断面図である。
【図9】従来のダミーヘッドの締結状態での問題点を説明するための図であり、シリンダブロックの上面を表す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
(1)第1実施形態
以下、本発明の第1実施形態について図面を参照して説明する。図1は、本発明の第1実施形態に係るシリンダブロック200にダミーヘッド100が配置された状態を表し、(A)はボルト締結前の状態を表す側断面図、(B)はボルト締結後の状態を表す側断面図である。図3は、図1のダミーヘッド100の具体例の下面の概略構成を表す平面図である。図4は、図1のシリンダブロック200の具体例の上面の概略構成を表す平面図である。なお、図1(A),(B)は、図3のX方向に見た側断面図であって、図1(A),(B)では、ボア201、ボルト120、ビード部130、シム部140の位置関係を表すために、便宜的に同一側断面上で図示している。
【0024】
ダミーヘッド100は、たとえば4気筒エンジンのシリンダブロック200に適用される。シリンダブロック200の上面(取付面)には、たとえば4個のボア201が形成され、ボア201の周囲には、たとえば10個のボルト用孔202が形成されている。ボア201とボルト用孔202との間には、たとえばウォータジャケット203(図1のみに図示)が形成されている。ボア201は、たとえば鋳鉄からなるスリーブ204により構成され、スリーブ204の内面がピストンとの摺動面となる。なお、ボア201は、スリーブ204の代わりに、シリンダブロック200に形成された孔部の内面により構成してもよい。
【0025】
ダミーヘッド100は、たとえば本体110、ボルト120、ビード部130(第1突出部)、および、シム部140(第2突出部)を備えている。本体110は、たとえば板状をなしており、シリンダブロック200の上面に取り付けられる。
【0026】
本体110には、加工用孔部111およびボルト用孔112が形成されている。加工用孔部111は、その断面がボア201に対応する形状をなし、シリンダブロック200の上面への本体110の取付時、ボア201に連通する。ボア201の加工時、ボーリング加工機やホーニング加工機は、加工用孔部111を介して、ボア201の内部に挿入される。ボルト用孔112は、本体110の取付時、シリンダブロック200のボルト用孔202に連通する。ボルト120は、ボルト用孔112を通じて、ボルト用孔202に締め付けられる。
【0027】
ビード部130は、たとえば図1および図3に示すように、本体110の加工用孔部111の下面側周縁部から突出するようにして形成されている。ビード部130は、本体110の取付時、シリンダブロック200のボア201の周縁部に配置される。なお、ビード部130は本体110に対して別体として構成されていてもよい。
【0028】
シム部140は、たとえば図1および図3に示すように、本体110の下面におけるボルト用孔112よりも外周側から突出するようにして形成されている。シム部140は、本体10の取付時、図1に示すようにシリンダブロック200のボルト用孔202よりも外周側に配置される。なお、シム部140は、本体110とは別体として構成されていてもよい、
【0029】
図3に示す例では、シム部140は、たとえばY方向では互いに対向するボルト用孔112の外側に配置されるとともに、たとえばX方向では左端側のボルト用孔112を結ぶY方向の直線よりも外側に配置され、右端側のボルト用孔112を結ぶY方向の直線よりも外側に配置されている。なお、図3では、シム部140をX,Y方向において対向するように配置しているが、いずれか一方の方向のみに対向するように配置してもよい。シム部140の位置は適宜設定してもよい。
【0030】
ビード部130およびシム部140の厚みは、シリンダブロック200の上面へのダミーヘッド100の載置時(ボルト締結前)、次のように所定間隔の隙間Gが形成されるように設定されている。たとえば図1(A)に示すように、シム部140がシリンダブロック200の上面に当接しているとき、ビード部130とシリンダブロック200のボア201の周縁部との間に所定間隔の隙間Gが形成される。
【0031】
図1(A)に示すボルト締結前では、ビード部130が当接するボア201の周縁部と本体110の下面の部分との間の第1間隔と、シム部140が当接するシリンダブロック200の上面の部分と本体110の下面の部分との第2間隔とが等しいので、シム部140の厚みはビード部130の厚みよりも厚く設定されている。第1間隔と第2間隔が等しくない場合、所定間隔の隙間Gが形成されるようにビード部130およびシム部140の厚みを適宜設定する。
【0032】
シリンダブロックの加工方法について図面を参照して説明する。まず、図1(A)に示すように、ダミーヘッド100をシリンダブロック200の上面に載置する。この場合、シム部140は、シリンダブロック200の上面に当接するとともに、ビード部30とボア201の周縁部との間には、所定間隔の隙間Gが形成される。
【0033】
次いで、ボルト用孔112を通じて、図1(B)に示すように、ボルト120をボルト用孔202に締め付けることにより、ダミーヘッド100をシリンダブロック200に締結する。
【0034】
この場合、ボルト用孔112よりも外周側に配置されたシム部140は、シリンダブロック200の上面に当接するとともに、加工用孔部111の周縁部に配置されたビード部130とボア201の周縁部との間には所定間隔の隙間Gが形成されているから、シム部140を支点としてボルト軸力によるモーメントを本体110におけるボルト120同士の間の部分に加えることができるから、その部分をボア201に向かって凸状に撓ませることができるとともに、ビード部130はボア201の周縁部に当接することができる。
【0035】
したがって、シム部140を支点として、ビード部130を介してボア201の周縁部にボルト軸力によるモーメントを加えることができるから、ボア201の周縁部に荷重を均等に与えることができる。特にボア201が複数配列されている場合には、隣接するボア201同士の軸間部分に荷重を効果的に加えることができる。
【0036】
第1実施形態では、ボア201の周縁部に荷重を均等に与えることができるから、シリンダブロック200の上面へのダミーヘッド100のボルト締結時、実ヘッド締結時の変形状態に対応する変形状態を得ることができる。また、ビード部130およびシム部140の少なくとも一方の厚みを調整することにより、ボア201の周縁部への面圧を調整することができるので、その面圧値の最適化を図ることができる。その結果、実ヘッド締結時の変形状態に対応する変形状態をより良く得ることができる。特に、シリンダブロック200の機種に応じて、ビード部130およびシム部140の少なくとも一方の厚みを変更することを可能とすることにより、シリンダブロック200の機種に応じて、ボア201の周縁部への面圧値の最適化を図ることができる。
【0037】
(2)第2実施形態
第2実施形態では、ビード部130およびシム部140の厚みの設定および隙間Gの形成箇所が第1実施形態とは異なり、それ以外の構成は、第1実施形態と同様である。第2実施形態では、第1実施形態と同様な構成要素には同符号を付し、その説明を省略する。
【0038】
第2実施形態では、ビード部130およびシム部140の厚みは、シリンダブロック200の上面へのダミーヘッド100の載置時(ボルト締結前)、次のように所定間隔の隙間Gが形成されるように設定されている。たとえば図2(A)に示すように、ビード部130がボア201の周縁部に当接しているとき、シム部140とシリンダブロック200の上面との間に所定間隔の隙間Gが形成されている。
【0039】
図2(A)に示すボルト締結前は、ビード部130が当接するボア201の周縁部と本体110の下面の部分との間の第1間隔と、シム部140が当接するシリンダブロック200の上面の部分と本体110の下面の部分と間の第2間隔とは等しいので、ビード部130の厚みはシム部140の厚みよりも厚く設定されている。第1間隔と第2間隔が等しくない場合、所定間隔の隙間Gが形成されるようにビード部130およびシム部140の厚みを適宜設定する。
【0040】
第2実施形態では、ボルト締結した場合、図2(B)に示すように、本体110におけるボルト120同士の間の部分がボア201に向かう方向とは反対側に凸状に歪む。このとき本体110におけるボルト120よりも外周側の部分が、シリンダブロック200の上面に接近し、シム部140は、シリンダブロック200の上面に当接することができる。
【0041】
したがって、シム部140を設けない場合と比較して、本体110の歪みを抑制することができるから、ボア201の周縁部に荷重を均等に与えることができる。特にボア201が複数配列されている場合には、隣接するボア201同士の軸間部分に荷重を効果的に加えることができる。その結果、第1実施形態と同様な効果を得ることができる。
【0042】
上記実施形態を用いて本発明を説明したが、本発明は上記実施形態に限定されず、種々の変形が可能である。たとえばシリンダブロック200の一面への本体110の載置時(ボルト締結前)、たとえばビード部130がボア201の周縁部に当接するとともに、シム部140がシリンダブロック200の一面に当接する形態を用いてもよい。この形態では、ボルト締結を行うと、第1実施形態と第2実施形態の中間の特性を得ることができる。
【実施例】
【0043】
以下、具体的な実施例を参照して本発明の実施形態をさらに詳細に説明する。実施例では、4気筒エンジンのシリンダブロックに、各種ヘッドをボルト締結したときのボアの変形状態について調べた。
【0044】
実施例では、ボア径87mm、深さ148.5mmのボアを有し、FC(ねずみ鋳鉄)からなるスリーブを有する4気筒エンジンのシリンダブロックを用いた。ビード部およびシム部を用いたダミーヘッドをボルト締結した例を本発明例、ガスケットを介して実ヘッドをボルト締結した例を比較例1、ビード部のみを用いたダミーヘッドをボルト締結した例を比較例2とした。
【0045】
本発明例では、本発明の第1実施形態を用い、ビード部およびシム部を図1,3の形態と同様に設け、シム部の厚みを0.25mm、ビード部の厚みを0.22mm、隙間Gの間隔を0.03mmに設定した。比較例2では、ビード部の厚みを0.22mmに設定した。本発明例,比較例2では、ボルト締結の軸力を5トン、比較例1では、ボルト締結の軸力を7.1トンに設定した。ボルトの締結は、図4,9のボルト用孔の左側から3番目の上側、その下側、ボルト用孔の左側から2番目の下側、その上側、ボルト用孔の左側から4番目の上側、その下側、ボルト用孔の左側から1番目の下側、その上側、ボルト用孔の左側から5番目の上側、その下側の順に行った。
【0046】
本発明例、比較例1,2のボルト締結後の状態について、X方向の変形量およびY方向の変形量を測定した。その結果を図5〜7に示す。図5は、本発明例のダミーヘッドの締結状態でのボアの上面からの距離と変形量との関係を表し、図6は、比較例1の実ヘッドの締結状態でのボアの上面からの距離と変形量との関係を表し、図7は、比較例2のダミーヘッドの締結状態でのボアの上面からの距離と変形量との関係を表している。図5〜7では、(A)はX方向の変形量を表すグラフ、(B)はY方向の変形量を表すグラフである。図5〜7でのボアの上面からの距離は、ボアの上面から下面へ向かう方向を正方向としている。図5〜7に示すボアA〜Dは、図4あるいは図9の左側から順に1番目、2番目、3番目、4番目のボアに対応している。
【0047】
図6,7から判るように、シム部を設けなかった比較例2(図7)のダミーヘッドでは、4つのボアについて、X方向およびY方向においてともに、比較例1(図6)の実ヘッドの締結状態との変形量の相違が大きかった。
【0048】
これに対して、図5〜7から判るように、シム部を設けた本発明例(図5)のダミーヘッドでは、X方向およびY方向においてともに、比較例2(図7)のダミーヘッドの場合と比較して、比較例1(図6)の実ヘッドの締結状態との変形量の相違が小さかった。特に、X方向では、比較例1の実ヘッドの締結状態の場合と変形が近似し、Y方向では、比較例1の実ヘッドの締結状態の場合と変形傾向が一致していた。
【0049】
これにより、シム部を設けた場合、シム部を設けない場合と比較して、実ヘッド締結時の変形状態を良好に再現できることを確認した。
【符号の説明】
【0050】
100…ダミーヘッド(加工用治具)、110…本体、112…ボルト用孔、120…ボルト、130…ビード部(第1突出部)、140…シム部(第2突出部)、200…シリンダブロック、201…ボア、202…ボルト用孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダブロックのボアの加工時に、前記シリンダブロックの一面に取り付けられる加工用治具において、
本体と、
前記一面への前記本体の取付時に前記ボアの周囲のボルト用孔に固定されるボルトと、
前記一面への前記本体の取付時に前記ボアの周縁部に配置される第1突出部と、
前記一面への前記本体の取付時に前記ボルト用孔よりも外周側に配置される第2突出部とを備えたことを特徴とするシリンダブロックの加工用治具。
【請求項2】
前記一面への前記本体の載置時、前記第2突出部は前記シリンダブロックの前記一面に当接するとともに、前記第1突出部と前記ボアの周縁部との間には所定間隔の隙間が形成されることを特徴とする請求項1に記載のシリンダブロックの加工用治具。
【請求項3】
前記一面への前記本体の載置時、前記第1突出部は前記ボアの周縁部に当接するとともに、前記第2突出部と前記シリンダブロックの前記一面との間には所定間隔の隙間が形成されることを特徴とする請求項1に記載のシリンダブロックの加工用治具。
【請求項4】
前記シリンダブロックの機種に応じて、前記第1突出部および前記第2突出部の少なくとも一方の厚みを変更することが可能な請求項1〜3のいずれかに記載のシリンダブロックの加工用治具。
【請求項5】
前記第1突出部および前記第2突出部の少なくとも一方は、前記本体に対して別体として構成されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のシリンダブロックの加工用治具。
【請求項6】
ボアを有するシリンダブロックの一面に、請求項1〜5のいずれかに記載の加工用治具を取り付け、前記ボアを変形させた状態でそのボアの加工を行うことを特徴とするシリンダブロックの加工方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−35366(P2012−35366A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−177568(P2010−177568)
【出願日】平成22年8月6日(2010.8.6)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】